A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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王道、ベタ……時にそう揶揄される要素は、それだけ愛されている証でもあります。最後の逆転フェイズです。




FINAL COMMANDER

 ──それ見たことか

 

 この手で存在を滅却された陸人を見て、彼の亡骸を前に膝を折る少女達を見て、罪爐の胸には達成感と同時に少しの失望が去来していた。

 結局何かを守ろうとする力は、余計な荷を背負い込むせいで破壊しようとする力には敵わない。その事実が罪爐自らの手で証明された。

 

(だから言ったのだ。我と共にあれば、こんな窮屈な世界と心中することもなかったというのにな)

 

 永い時間の中で、罪爐が唯一本当の意味で同胞となれると認めた少年は、結局人間としての生き方を捨てられずに消えた。せっかく見つけた罪爐の闇でも壊れない頑丈な魂。自ら討ち滅ぼす結果となったのは、少しもったいなく思えた。

 

(これで我は今ある世界を破壊して、新世界に一人君臨することになる、か……分かっていたことだが、つまらん幕引きだな)

 

(自分達の感情から産み出しておきながら、誰も彼もが我が悪だと、誤った存在だとほざく。ならば何故、我は今なお存在しているのだ?)

 

 罪爐の起源は神の不完全性の産物。そして一度世界を壊した後に復活したのは、人類の悪感情を基にした結果だ。常世に産み落とされたことも、こんな悪辣な存在としてある有様も罪爐が望んだわけではない。このように定義づけて産まれたから、このようにしか生きられないから今の罪爐がある。

 

(そちらの都合で産み出して、そちらの都合で悪と断じる……汝等に正悪を定める資格があるというなら、何故我を消さない? 何故誰一人として我に届かない?)

 

 もし他の者が言うように罪爐が悪だと、存在してはならないものであれば……とうに滅ぼされていなければおかしい。"あってはならない邪悪"だというなら尚更だ。

 天罰も人の意思も届かないという事実が、逆説的に罪爐の存在を認めている。少なくとも当人はそのつもりで今日まで邪智暴虐を重ねてきた。

 

(汝なら、我を消してくれるかと思ったのだがな……)

 

 初めて自身を打倒し得ると見込んだ英雄も、結局はこのザマだ。誰も止められないのなら、罪爐は悉くを破壊し尽くすしかない。

 覇道を止めてくれる邪魔者としても、隣に立つ同胞としても、唯一の例外だった陸人を倒した以上もう誰にも止められない。

 

(我が勝ったということは、存在すべきは我だということ……我以外の全てを壊してでも、この世界に生きて良いということだろう?)

 

 陸人にとっての他者の命と同じ。罪爐が全てを壊し、殺し、奪い尽くすのは最早本能。自分自身でも止められなくなった衝動は、邪魔者が消えたことで更に勢いを増していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……リク……リク……あぁ、リク……!」

 

(こんな……こんなのって……!)

 

「…………」

 

 陸人の亡骸を縋るように抱き締める美森。パクパクと口を動かしながらも言葉にならず立ち尽くす友奈。何を考えているのか、どこを見ているのかも分からない無表情で沈黙する園子。

 特に酷いのはこの3人だが、この場にいる全員が心の芯をへし折られていた。陸人がいれば最後には勝てる。そんな無責任で幼稚な安心感が、若き勇者達を支えていたのだ。

 

『みなさん! 顔を上げてください、一度退がって!」

 

「……かーやん?」

 

 一同の耳に、筆頭巫女の叫びが届く。同時に前線組を隠すように煙幕が発生した。

 

「ほう? ここにきて小細工……まだ諦めていない者がいたのか」

 

 宿敵を打倒したことで余裕を取り戻した罪爐は、その露骨な時間稼ぎに乗ってやることにした。ここにきて未だ抵抗の意思を失わない人類に、僅かな期待を抱いたのもあるかもしれない。

 

 

 

 

『私の言葉を聞いてください、まだ手はあります!』

 

 一切の希望的観測が入り込む余地のない、徹底的な終わりを突きつけられた現状で、まだ方法があるというのか。

 

『みなさんには謝罪しなくてはなりませんが……私はこの未来を知っていました。決定的な手を打たなければ避けられない終焉、陸人様の消滅を』

 

「……それは」

 

『はい。私はあの方の最後を承知で黙っていました……許せないとお思いでしょう、それについては落ち着き次第煮るなり焼くなり好きにしていただいて結構。今は私の策に従ってください』

 

「……つまり、今からならやりようがある。そういうことでいいの? かーやん」

 

 多少無神経なほど強気な言葉。分かっていて手を打たなかったということは、手段がなかったことを示している。

 そしてここで告げたということは、ここからなら打開策があるということだ。

 

『その通りです。仔細に教えては時間を浪費する上敵に悟られます……皆さんには時間稼ぎに徹していただきたい、これ以上を説明することはできません……それでもやっていただけますか?』

 

「それは……」

「でも、それしか」

 

 困惑する一同。特に勇者部は意図的に情報を制限されたことで、知らず知らずのうちに肉体を喪失した経験がある。疑心暗鬼になるのは仕方のないことだと言える。

 

「上里さん、ひとつだけ聞かせて」

 

 その時期に最も混乱し、心をかき乱された美森が口を開く。自分の過去の過ちも知らないことへの恐怖心も、今は全てどうでもいい。大切なことはただひとつ。

 

「あなたの策で……リクは帰ってくるの?」

 

『成功確率で言えば確約できる数値ではありません……ですが、求められているのは一般市民も含めた全人類の心の力。言わば世界における陸人様の信頼、人望です……それについて疑う余地がないことは、私よりも皆さんの方がよくご存知かと』

 

「……そう、よく分かりました。あなたの言葉を信じます……リクが信じた人として、同じ想いを持つ者として」

 

『……! ありがとうございます。簡潔に説明を開始します──」

 

 中継を見ている市民も巻き込んだ一大作戦。全ては今までの陸人の行動、それに伴って積み上げられた関係性。ならば、誰より近くで彼を見てきた美森に疑う要素は微塵もない。

 それが恋敵の……陸人を想い、陸人に想われている相手の言葉なら尚のこと信を置ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ作戦会議は終わりか?」

 

「ああ、待たせたな!」

「その余裕が命取りだ!」

 

 白い煙の奥から四方八方に分散して走る影。友奈、美森、園子を除いた勇者部と防人、鋼也と銀で計10人。クウガとダグバを赤子扱いで打倒した怪物を相手に、無謀な時間稼ぎが始まった。

 

「とにかく走って! 罪爐に的を絞らせず、意識を散らせることに専念しなさい!」

 

「無理に攻撃しなくていい! 効かない攻撃よりも一分一秒稼ぐことに全神経を集中!」

 

 乱雑に武器を振り回しながら、接近と撤退を繰り返しては後ろの仲間と位置を交代。これを繰り返して罪爐の攻撃から逃げ続ける、どう見ても足止め以外の何物でもない遅延戦術。

 

「なんだ? ここに及んでまだ悪足掻きか……一分一秒でも破滅を引き伸ばしたいと、哀れなことだな」

 

「なんとでも言え、それでも……!」

 

「お前を止める、それが俺たちの役目だ!」

 

 自身の手の内に堕としていない相手から読み取れるのは表面的な情報や感情に限られる。作戦の詳細を知らされていない勇者達から何も引き出せなかった以上、罪爐は"無駄な抵抗"としか受け取らなかった。

 壁の向こうで何が起きているのか、想像することすら出来ずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「沢野さん、そちらの方は?」

 

「これで……! フフ、ギリギリになったけど、約束通り間に合わせてあげたわ。四国全域の通信、奪還完了よ」

 

「流石です、では参りましょう……

 大社各員、我々が今日まで多くの過ちを犯しながらも恥知らずに存在し続けた理由──存在意義が今問われていると心得なさい!」

 

 ──了解!──

 

 誰とも異なる視点で未来を目撃した超越者、上里かぐや。大社のトップにして先導者である彼女の号令の下に、人類を維持するためにあらゆる手を尽くしてきた大社──"大いなる神の社を守りし者達"が、その集大成を示す。人を信じ、人を救ってくれた神樹と英雄に今こそ報いるために。

 

 

 

「作戦を最終フェイズに移行……作戦名(オペレーション)『Be the one』発動します!」

 

 

 

 

 

 走る。

 市民の避難誘導に当たっていた大社職員が、その補助として各地を回っていた警察官が、救急隊員が、有志の協力者が走る。

 指示があるまで決して見るな、開封後は何があってもその指示に従え。そんな曖昧で一方的な命令に従ってくれた面々が、"仮面ライダーを助けるためだ"の一言で全ての疑念を取り払ってくれた力無き人間達が、逆転への布陣を敷く。

 

「ここで間違いないな⁉︎」

「はい、私の配置はここです!」

「皆さん、こちらに集まってください! 大切な通達が始まります!」

 

 指定ポイントに巫女を配置、更にその周囲に付近の市民を集結させる。クウガの敗北を見て動揺著しい市民の前で、ジャックされたスクリーンの映像が途切れる。絶望的な戦場を映していた画面は、次の瞬間1人の少女を映していた。神聖な巫女服を纏い、迷いなき瞳で前を向く毅然とした少女──上里かぐやを。

 

『今この時を生きる全ての人類に向けてお話しします。私の名前は上里かぐや……大社の総長を務めております。今日は皆さんにお願いがあってこの場を用意させていただきました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「常世に残る死霊の残滓、その全てに同時に繋いでいます。私の名前は上里ひなた。300年前、西暦の戦いを巫女として生き抜いた者です。今日はあの日からこれまでに生きて死んだ皆様にお願いがあってこの場を用意させていただきました」

 

 同じ頃、神域でも同様の演説を行う者がいた。上里ひなた。かぐやと同じ筆頭巫女として自分の時代で辣腕を振るった戦力なき女傑。神樹の力を借りて、未だ常世から離れられずにいる死者の残留思念に語りかける。300年前のバーテックス襲来で散った命。西暦の戦いの最中、またはその後の神世紀に生きて死んだ命。

 前者にとっての陸人は、自分の命こそ間に合わなかったが、無念を晴らしてのちに続く世界を守ってくれた存在。

 後者にとっても、陸人がいたからこそ自分達は生まれ、生きて、死ぬことができた。つまり人生全ての根底を守ってくれた恩人に当たる。

 

「皆さんの力を貸してください。我々全ての祈りをもって、かの英雄を取り戻すのです」

 

 

 

 

 

 

 

ひとつになれ(Be the one)

 生者死者問わず全ての魂の祈りをかき集めることで消滅した陸人の魂を一から作り直すという最終手段。四国各地に巫女を配置することで、人の祈り──思念の通り道を構築。それを辿って常世にある全ての思念を集約、増幅。陸人をよく知る者達の記憶と繋がりを使って"陸人"という魂の形を確定させて、神樹の力も借りて再構成する。

 

『皆さんの邪念なき一心の祈り。それが英雄の呼び水となるのです』

 

 九分九厘失敗する絵空事のような奇跡だが、かぐやは4万通りを超える未来を覗き続けた果てに一度だけ、この試みが成った未来を予見した。つまり成功率は0ではない。限りなく0に近いというだけで、決して不可能ではないのだ。

 

「既に死したと言えど、皆さんが生まれ生きた世界です。少しでも守りたいと思ってくれているのなら、陸人さんに恩義を感じているのなら……力を貸してください!」

 

 

 

 2人の演説が終わり、思念の集約が始まる。しかし、大社が期待したほどには市民の祈りは集まらなかった。神域側、死者の世界の方は比較的順調なのだが、生者の側は恐怖心に打ち勝てずに多くの者が二の足を踏んでいる。

 

「……そんなこと、急に言われても」

「僕達、何も知らないし、なんの力もなくて……」

「私には関係ないじゃない! できる人達だけでやってよ!」

 

 市民の反応も無理はない。なにせ世界を巻き込む規模の争い事があることすら数ヶ月まで知らなかった上に、それを聞いてからも天上の出来事、自分たちには無関係だと教えられていたのだから。いきなり当事者のポジションに引っ張り込まれて即応できる人間ばかりではない。

 

「皆さん、お願いします!」

「時間がないんです!」

 

 かぐやの演説でおおよその事情を把握した大社の人員が呼びかけるが、大きな成果はない。当然だ、ずっと秘密主義を通してきた組織の……少し前まで顔を隠して動いていた人員の言葉にどれほどの説得力があるだろうか。

 

 

 

 

『皆さんに問います。あなたに、守りたいと願う大切な人はいますか?』

 

 頭を下げたまま動かなかった、映像の中のかぐやが顔を上げて問いかける。彼女とてすんなりうまくいくとは思っていない。それでも、自分の言葉で四国の全員の心を動かせなければ終わりだ。今彼女はその小さな背中に人類の行く末を背負っていた。

 

『家族、恋人、友人……人は生きる上で多くのつながりを持ちます。きっと誰もが、その中のいくつかを特に大切に思って生きていくでしょう。それが人生というものです』

 

 そこでかぐやは一瞬言葉を飲み込んで沈黙する。何かを躊躇うように束の間目を閉じて、覚悟を決めた彼女は一つの画像を表示した。

 魂を抜かれて沈黙するクウガ、御咲陸人の姿だ。

 

『ですが彼は……御咲陸人様は違います。彼は誰も彼もを大切に思っている。すれ違っただけの赤の他人でも、見たこともない相手でも等しく守る対象になる。彼にとって全ての生命と笑顔は、自分の命を懸けてでも護りたい尊いものなのです』

 

「えっ……?」

「ウソだろ、あれ……御咲?」

「ボロボロすぎてよく見えねーけど、確かにあの顔は……!」

「酷い傷を……まだ子供じゃないか!」

 

 市民は仮面ライダーの正体、その画面の奥を初めて目撃した。陸人を知る者はその素顔に、知らない者も年端もいかない子供が身体を張っていた事実に驚愕した。

 

『無論彼のようになれ、とは言いません。あの方の生き方は尊くも、人としては明らかに歪んでいる。ですが分かってほしいのです。我々大社が無責任に重荷を背負わせ、あなた方市民が無自覚に重荷となっていたあのヒーローもまた人間であったことを。悩み苦しむ少年1人に背負わせるには、この世界は重すぎるのだということを』

 

 映像の陸人は酷い有様だった。身体の八割は黒い呪印に侵食され、残る僅かな肌色も赤黒い血に染められている。頭蓋の形も人のソレではなく、右腕と左脚が欠損した人型としても不完全なシルエット。

 幼稚園児の粘土遊びでも、もう少しマシな人形を作れるだろうというほどにボロボロだった。

 

「あ、あの……! 御咲くんは凄い人なんです! 優しくて、器用で、頭が良くて、気が利いて……勇者部ってご存知ないですか? 讃州中学の子達が近隣のボランティアのような活動をしてたんですが……」

 

 とある避難場所にて、陸人を知る者が声を上げる。

 宮守和葉。かつて陸人に心を救われて彼を慕った少女。陸人にとっても共に青春を過ごした大切な友人の1人。彼女は自分が知る限りの陸人のことを伝える。そこから波及して、勇者部と関わりがある市民が続々と後に続いて口を開いていく。

 

「ああ、あの子か。山の中まで行ってウチの子を見つけてくれた……」

「いつもゴミ拾いしてくれてた……そう、あの子が」

 

 また別の場所では、かつてアギトに命を救われた少年が大人達を相手に全力で思いの丈をぶつけていた。大好きなヒーローの良さを伝えるために、勇気を出して声を上げてくれた。

 

「アギトは凄いんだよ! あっという間に僕の目の前で怪物をやっつけて、帽子も取ってくれたんだから!」

「ええ、ママも覚えてるわ。そうね……画面の奥の素顔は、あんなに幼かったのね」

 

 御咲陸人として紡いだ縁。アギトとして築いた縁。これまでの彼の尽力が身を結び、今こうして彼自身を救う絆のネットワークが形成されていく。まさに"情けは人の為ならず"

 誰かのために動き続けてきた陸人が、誰にも助けてもらえない。そんなことはあり得ないのだ。

 

 

 

 

『皆さん、今この状況に恐怖を感じるのは当然のことです。無茶なことをお願いしている自覚はあります。ですがそこを曲げて、ほんの少しだけ自分以外に心を配ることはできないでしょうか? これまでの世界を支えてきた彼のように。今まさに前線で身体を張る彼らのように』

 

『皆さんは悔しくはありませんでしたか? 罪爐の我々を見下したあの言葉が。力無き者には何もできないと、あの悪霊は決めつけて油断しています。今こそ鼻を明かしてやるチャンスなのです』

 

『お願いします……私は彼を、陸人様を失いたくない。彼が普通の人間として生きられる未来を取り戻したい、そこで彼と共に生きていきたい。皆さんにもそう思う相手がいるのではないですか? 自分が望む未来のために、誰もが未来に希望を抱ける世界にするために、力を貸してください!』

 

 時に真摯に、時に挑発的に、時に少女としての素の顔で。かぐやは市民の心に楔を打ち込んだ。どの語り口が誰に響いたのかは分からないが、かぐやの必死の説得と陸人のこれまでの功績によって、思念の総量は加速度的に増幅していく。

 

「あんな子供に任せっぱなしで、いい大人が指咥えて眺めてられるかよ!」

「私にもあの年頃の子供がいるのよ。親として恥ずかしくない道を……!」

「バカにしやがって……なんの力もなくたって、できることはあるはずだろ!」

 

 この高揚は一時的なものに過ぎない。罪爐の指先ひとつで世界が終わるという現状から目を逸らしているのは事実だ。

 しかしそれでも、英雄を救うために全人類の想いがひとつになったのもまた事実。今この瞬間、人間は歴史上初めて文字通りの一体となれたのだ。

 

(強くて優しいあの人を……!)

(ずっと頑張ってくれたあの子を……!)

(見ず知らずの僕を助けてくれたあのヒーローを……!)

 

 

 ──もう一度、今度こそ!──

 

 

 

 

 

「凄い、本当にひとつになってる……」

「こんな時だってのに、嬉しくなっちまうな。さて、ここからは俺たちの仕事だぞ!」

「分かっています、巫女として選ばれた使命を今こそ……!」

 

 巫女も含めた大社職員達も市民と同じだ。数分前までこの作戦については何も聞かされていない。指示を受けたら指令書の通りに。たったそれだけで迅速に動ける。そこには絶対的な信頼があった。

 自身の上司たる筆頭巫女と、何度もすべてを守ってみせた英雄への、揺るぎない信頼が。

 

 

 

 

 

 

 

 

『園子ちゃん、天の神の本体の所在が掴めました! 座標を送ります』

 

「さんきゅ〜だよ、かーやん……これは、ほぼ真上だね〜」

 

「なるほど、それを見越して私達の満開を温存してたのね」

 

「そうなの? すごいね、かぐやちゃん」

 

 仲間達が命懸けの時間稼ぎに徹している最中、園子、美森、友奈の3人は空を見上げていた。彼女達の役目は壁外に広がる天の神の結界を破ること。アギトとしての陸人の力は、太陽の下でこそ本領を発揮できる。陽光を取り戻すことで初めて、陸人復活の希望が見えてくる。

 

「まあかーやんだからね〜、私たちには見えないものが見えてるんよ〜……よし、それじゃゴールが見えたところで……いくよ、わっしー」

 

「ええ、私達でリクの身体を守りつつ天の神を覚醒させて壁外の支配権を奪還する。友奈ちゃん、準備はいい?」

 

「いつでもいけるよ、東郷さん、園ちゃん。私は満開使っちゃったから、途中まで2人に頼ることになるけど……」

 

「も〜まんたい、だよ。ね? わっしー」

 

「ええ。リクを取り戻して、敵を倒して、国土を守る。やることはいつも通りよ」

 

『──満開!──』

 

 人を乗せて飛ぶことができる美森と園子の満開。この事態を見越してかぐやが伏せておいた切り札がここで開示される。友奈を乗せた園子の船と、陸人を寝かせた美森の砲台が天蓋に縛られた天の神目掛けて飛翔する。

 

「わっしー、見張りが出てきた!」

 

「雑兵は私に任せて、2人は本命に飛んで!」

 

 罪爐が念のために配置していたアンノウンの空中戦力。天の神を手元に確保しておくための見張り番が侵入者を迎撃すべく展開する。

 しかし今更ただのアンノウンが相手になるはずもなく、美森の一斉放射で粉微塵に消えていく。これだけで済むなら問題ない。園子はそう見立てていたが──

 

「そのっち、避けて!」

「っ⁉︎」

 

 何もない空間から七色の光を纏めた極太の光波が落ちてきた。かろうじて直撃は避けたが、掠めただけで船体の半分程が消し飛ばされてしまった。

 

「この力……まさか」

「位置的にも間違いないね〜、天の神自身の権能を無理やり使ってるんだ」

 

 砲撃が抜けていった周囲の空間を歪めるほどの威力。レーダーに表示された天の神の座標から飛んできた迎撃の光は、満開でも到底防ぎきれない。しかも一発限りではないらしく、次弾を装填するように光が集まっている。

 

「そのっち、次の一発は私が何としても撃ち落とすわ。あの連射速度なら、三発目までには届くでしょう?」

 

「東郷さん……でも危ないよ?」

 

「危険なのはみんな一緒よ。今罪爐に立ち向かっているみんなも、天の神の本体に特攻する2人もね。これはただの役割分担、リクを助けるためなら私は何だってできるわ」

 

「……お〜け〜わっしー。昔とおんなじだね〜、私が前でわっしーが後ろ」

 

「そういうことよ……次、来るわよ!」

 

 虹を凝縮したような色鮮やかな光波が、天空より降り注ぐ。園子の船目掛けて放たれた砲撃を見据えて、船の後方で構えた美森が満開の力を全開放する。

 

「私の力、全部使って……勇者砲、撃てぇっ‼︎」

 

 虹色と蒼色が正面から激突し、空間を震わせるほどの衝撃が広がる。数瞬の拮抗の後に、両者が同時に霧散、消滅した。

 

「……今! いくよゆーゆ!」

「うん!」

 

 砲撃が止み、拓けた突破口に船が突撃する。ボロボロの船体で最大船速を維持するのは負担が大きい。船のあちこちから火花が散り、爆発が起きる。それでも園子はすべてを無視して上昇を続ける。後でどうなっても、友奈を送り届ければこちらの勝ちだ。

 

「園ちゃん、船がもう限界だよ!」

「……ゆーゆ、乗って!」

 

 園子の言葉と同時に、船全体が爆発、崩落した。船の先端にいた2人も爆風に飲み込まれて消えた、が……

 

「友奈ちゃん! そのっち!」

 

 

 

「──まだまだまだぁ〜〜〜〜っ‼︎」

 

 

 

 爆煙を突っ切って現れた槍の勇者、乃木園子。彼女は自分の得物を目一杯伸長して振りかぶっていた。その穂先に頼れる仲間を乗せて。

 

「ゆーゆ!」

「園ちゃん!」

 

「「行っけぇぇぇっ‼︎」」

 

 園子が全力で槍を振り抜き、その先端に乗っていた友奈が真上に打ち出される。遠心力と勇者の膂力を乗せて放たれた友奈の身体は、花火玉のような勢いで真上に飛んでいく。

 

「届けぇっ!──っ⁉︎ これって、結界⁉︎」

 

 目的の座標に到達した友奈だったが、不可視の結界に阻まれた。天の逆手を宿した拳で突破を試みるが、まるで手応えがない。多くの結界や強敵をその拳で打倒してきた経験から、友奈はこの結界は自分では破れないことを感覚で理解してしまった。

 

(そんな、ここまできて、どうすれば──)

 

 ──私の力を使え──

 

 頭の中に直接響く声。ギョッとして周囲を見回しても、ここは上空。当然誰もいない。前を向き直すと、結界にぶつけ続けた拳に黒い光が灯っていた。

 

(この声、なに……って! もう次の砲撃が⁉︎)

 

 零距離で収束する虹色の光。空を飛べない友奈では避けようがない。眼球を焼くような眩い光を前に、友奈は何もできず歯を食いしばるしかなかった。

 

 

 

 

 

「こちらには西暦から神世紀にかけて生きてきた70億以上の魂がある」

「死霊の祈りでは、生者と比べて効率は悪いでしょうけど……」

「その分は数でカバーだよ、ほらぐんちゃんも! りっくんをよく知る私たちの祈りは特に重要だって話だったよね?」

「はい。一人の魂を構築するだけの想いの力が集まっても、そこに確かな記憶と縁がなければ陸人さんにはつながりません。ですから……」

「う〜ん、話がややこしすぎるぞ。タマはさっぱり分からん」

「要するに、私達の祈りがそのまま陸人くんのソウルを形作るってことでしょ? ちゃんと彼を取り戻せるかは私達にかかってる」

 

 神域ではかつての勇者達が先導する形で、死霊70億もの祈りが集約されていく。特に重要なのが関わりが深かった初代勇者達の祈り。

 集まった思念を、歴代でも上位に入る巫女であるひなたと水都が中心となって常世に誘導する。

 

「みんなの祈り……お願い、届いて!」

「大丈夫ですよ、水都さん。陸人さんは、どこにいても私達が呼ぶ声を聞き逃したりはしない人ですもの」

 

 

 

 

 

「神樹様を通して()()()()の方々の思念も集まってきます!」

「国土さん、射出後の誘導は壁外にいるあなたが要よ!」

『承知しました、全霊をもってお役目、努めさせていただきます!』

「思念の集約率、120%を突破!」

「凄い……事前の計算を大きく上回ってる、これなら!」

 

 上里かぐや、小沢真澄、沢野雪美。罪爐の眼を欺ける筆頭巫女と、この世に二つしか用意できなかった特殊な神具で干渉を防いだ2人の研究者。この3人だけで開発、演算まで行った急拵えのシステム『Be the one』

 それらをぶっつけ本番で使いこなして作戦を進める司令室のメンバー。ここにいるのは大社でも有数のエリート達。アドリブ力の高さと仲間への信頼の強さにおいて、かぐやが誰より上だと認めた者達で構成されている。

 

「ありがとう、皆さん……小沢さん!」

「分かってるわよ……真尋、準備いいわね!」

 

『当然です、誰の妹だと思っているのですか……千景砲、起動!』

 

 大社本部から少し離れた防人達の拠点、ゴールドタワー。その最下層の機関室にひとり待機していた安芸真尋が切り札を起動する。ゴールドタワーに隠された奥の手、"千景砲"。

 タワー全体を砲身に見立てて集約したエネルギーを上空に放つ超巨大砲塔。結界内部に侵攻された場合に備えて設計された代物だが、この作戦においては攻撃とは別の用途がある。

 

「全ての思念をゴールドタワーに集約……発射態勢で構えてください。私の合図でいつでも撃てるように」

 

(ここまでは予想以上にうまくいっている、後は……!)

 

 ここからは壁外で直接戦っている彼等の尽力が不可欠。ずっと頼り切ってきた相手を最後までアテにしなければならない己の無力を噛みしめ、それでもかぐやは祈る。全ては最後に笑うために。最高のハッピーエンドを掴むために。

 

(友奈様……お願いします!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 万事休すかと思われたその瞬間、陸人を助けたいと願う同士が横から割り込んできた。

 

「うひゃっ⁉︎ アレ、このバイク……りっくんの。たしか、トルネイダー?」

 

 アギトの愛機、マシントルネイダー。空陸問わずに駆け回れるトンデモバイクが、主人を救うために自分の意思で友奈を助けに来たのだ。

 

「ありがとう、もう少しだけ付き合ってくれる? いっしょにりっくんを助けよう!」

 

 クウガの愛機のひとつであるゴウラムと違い、トルネイダーに確固たる意思はない。それでも、ゴウラムとビートチェイサーが主人に合わせて進化した姿がトルネイダーだ。物言わぬアギトの相棒の声が、友奈には聞こえた気がした。

 

 

 ──もう一度言う。私の力を使え。我が光を恐れぬのなら、の話だが──

 

「あなた、もしかして……天の神?」

 

 ──人類がそう呼称するだけだが……その認識で誤りはない──

 

「あなたの力を使えば、あの結界を消せるの?」

 

 ──本来なら神樹由来の勇者の力が最適なのだが、既に切り札を切ってしまったのだろう? 今の貴様では力が足りん。それを補えるのは私だけだ──

 

 それはつまり、神樹とは異なる光をその身に宿すということ。そもそも神の力を人が振るうというだけで相当な危険が伴うのは満開で実証済みだ。その上で神樹と別種の力、それも人類に敵対していた天の神の力など宿せば、友奈にどんな影響があるか分からない。

 

「難しいことはよく分からないけど……それであなたに届くの?」

 

 ──ああ。私を縛る罪爐の結界さえ破れれば、私はすぐにでもこの空間の支配を解除できる。それが貴様らの目的なのだろう?──

 

「分かった、やるよ。どうすればいいのか教えて」

 

 友奈は迷わない、悩まない。道を切り開く可能性が少しでもあるなら、そこに飛び込んで全力で拳を振るう。自分にできることを全力で、真っ直ぐに。

 

 ──良いのか? 自分で言うことではないが、私が貴様らにしてきたことは──

 

「なにも思わないわけじゃないよ。でも、今は何より大切なことがあるの。それに……りっくんならきっと、ここで迷ったりしないから」

 

 ──そう、だな。あの男ならば……基本は神樹の力と同様だ。私の力を受け入れてその身を預けるように──

 

 友奈はいつだってそうだ。ずっと敵だった相手とでも手を繋ぐことができる。自他共に認める馬鹿でお気楽な彼女だが、それでも友奈が皆に信じられているのはこういうところだろう。

 1番大切なところで間違うことなく正しい道を選べる。それこそが陸人が殊更頼りにしていた友奈の勇者たる所以だ。

 

「スゥ────、っうおおおおおおっ‼︎」

(受け入れて、身を預ける……この力で、私はりっくんを!)

 

 ──この娘、御咲陸人のような特別性もない只人でありながら、これほどの素養を──

 

 友奈を中心に黒い光が吹き荒れる。奔流が全身を包み込み、友奈の装いが変わっていく。

 

「……満、開……!」

 

 光が晴れた先には、白を黒に、金を銀にそっくりそのまま逆転させた大満開装備の友奈がいた。黒い羽衣を靡かせて立つその姿は、まさに威風堂々。天の神による"大満開"……言うなれば"裏満開"。友奈はシステムと人間の限界を超えて、二柱の神の力をその身に宿して手中に収めてみせた。

 

「行くよ……!」

 

 四発目の砲撃を左腕であっさり払いのけた友奈が、再び結界に突貫する。構えるは右拳、ここでも彼女が頼るのは最も自信がある得意技。

 

 

 

「今度こそ決める……勇者ぁぁぁ、パァァァァァァァンチッ‼︎」

 

 

 

 黒が混じった桜色の拳が、不可視の結界を突き破り、その奥に眠る天の神の本体まで届いた。触れた指先が光を灯し、天の神を罪爐の縛りから解放した。

 

 ──無理難題を押し付けたと思ったが……大したものだ、私も応えなくてはならんな──

 

 火のエルの姿を模した天の神が指を鳴らし、壁外の全域を支配していた結界を解除する。300年間世界を覆い続けた炎の空間が、嘘のようにあっさりと消滅した。地も空も海もあるべき姿を取り戻し、陽光が降り注ぐ。

 

「友奈ちゃん、やってくれたのね!」

 

「東郷、さん……園ちゃんは」

 

「大丈夫、そのっちも受け止めたわ。ほらここに」

 

「よかっ、た……」

 

 無理な力の使い方をした反動で意識を失った友奈。園子と並べて砲台の台座に寝かせた美森が、作戦の成功を通達する。

 

「上里さん、壁外の解放成功です!」

 

『流石です、これで全ての条件はクリアされました……千景砲、発射!』

 

 

 

 

 

 ゴールドタワーの頂上から思念の輝きが迸り、彗星のような光が結界を超えて戦場を駆け抜ける。青空を照らす淡い流れ星。その幻想的な光景は、当然ギルス達相手に遊んでいた罪爐の目にも入った。

 

「アレは……人間の思念の集積体?」

 

『フフッ、今頃気付いたのですか? あなたの眼も案外節穴なのですね』

 

 罪爐が用いた通信網をハッキングした司令室から、かぐやの声が届く。彼女らしからぬ挑発的な感情がその声に乗っていた。

 

「こちらの通信に割り込んできた、だと?」

 

『何を驚くことがあるのやら。そもそもあなたが使っている技術は私がそっちにいた頃に見せたものを応用したのでしょう? だったら私に奪い返される可能性も考えておきなさいな。知ってる? あなたのような想像力に欠けている者を"馬鹿"と呼ぶのよ』

 

 冷たく刺々しい雪美の声。自分や家族を散々利用して弄んだ罪爐に、ようやく意趣返しができたことでかなり気分が高揚している。

 

「人間、如きが……」

 

『あなたはその人間如きに劣ってるって言ってるのよ。言葉通じてる?』

 

 システムチェックと並行して真澄も口を挟む。神世紀が生んだ稀代の天才2人が示した人類という種の底力に、罪爐は完全に翻弄されていた。

 

「汝等……何故、そのような謀の気配は何一つ……」

 

『なまじ感覚が鋭いと、それだけ傲慢にもなってしまうのでしょうね。あなたの眼に映るものが、世界の全てではないということですよ』

 

「あり得ない……何も教えることなく、これだけ複雑で大規模な計画を実行するなど!」

 

『あら? こんな簡単なこともご存知ないのですか?……ああ、あなたとは結びつかない概念ですものね。こちらの配慮不足でした、申し訳ありません』

 

 かぐやが更に煽る。いつも状況を整えて自分が上の立場に立ってから会話に入る罪爐にとって、このような状況は経験がなかった。つまり罪爐にはこの場において必要なものが決定的に不足していた。

 

『何も言わずとも信じ合える……これが絆というものです……ね? あなたには最も縁遠い言葉だったでしょう? 友も仲間も存在しない、孤高で哀れな罪爐様には』

 

「……貴様、今すぐ黙れぇっ‼︎」

 

 自分が不利に立たされた際に求められるもの──煽り耐性がなかったのだ。それも全くと言っていいほどに。

 見事に挑発に乗ったジェネシスは、周囲を爆破して群がる勇者達を一掃。結界越しにかぐやがいる大社本部を撃ち抜かんと砲撃を放った。

 

「後悔するがいい、我を相手に言葉を選ばなかった己の愚かさを!」

 

 どす黒い雷が収束し、結界の上を飛び越えて落ちるように、放物線上に照射される。間違いなく本部直撃コース、絶体絶命の窮地だったが……

 

 

 

 

「ちょっ⁉︎ 筆頭巫女様⁉︎」

「やりすぎでは? こちらに攻撃が……」

 

「大丈夫よ。この子はそれくらい計算に入れてる……でしょう?」

 

「はい。これで少しですが時間は稼げました。後はお任せしましょう……西暦の世を震わせた、白い悪魔様に」

 

 

 

 

 

 

「ハーッハッハッハッハ‼︎ 楽しい、楽しいねぇ!」

 

「ダグバ? ここで来たか!」

 

「そう、ここで来るのさ……どうやら、誰かの思うままに操られてるようだけど、ね!」

 

 遥か彼方に吹き飛ばされたダグバが大きく跳躍して帰還した。

 罪爐の砲撃コースは、ダグバの帰還ルートとかち合っていた。かぐやは問答のリズムと罪爐の行動パターンを予測して完璧なタイミングで両者をぶつけたのだ。

 

「もらうよ、その力!」

 

 ダグバの特性──いかなる力も空虚なほどに大きな器に吸収して自分のものへと変換する能力。かつて天の神の大半を食い尽くしたダグバの悪食が、罪爐の砲撃を残らず取り込んだ。

 

「チィ、厄介な……」

 

「鋼也!」

「わーってる!」

 

 最高戦力の帰還を確認した志雄と鋼也が爆風を超えて、ジェネシスを挟むように突っ込む。2人の狙いは敵の主力武器、二振りに別れた大鎌・婆娑羅。アンタレスとスティンガーで鎌を絡め取り、両側から引っ張って動きを封じた。

 

「っ⁉︎ しつこいぞ、羽虫共が」

 

「うるせえ、その羽虫一匹仕留められないテメーは何様だってんだ!」

「力があるだけのど素人が、調子に乗りすぎだ!」

 

「ハッハァ! 隙だらけだよ!」

 

 罪爐の雷を吸収して力を増したダグバが上空から迫る。綱引き状態で動かせなくなった婆娑羅を二振り同時に粉砕した。

 

「──ええい、どいつもこいつもぉっ!」

 

「っ、まだこんな……⁉︎」

「いっ、くそ……かわせねえ!」

 

 激昂したジェネシスが、砕け散った鎌の破片を操って飛翔刃として飛ばす。至近距離で構えていたダグバも、2人のライダーも避けきれずに切り刻まれる。特にギルスとG3-Xはここまで時間稼ぎの中心として立ち回ってきた疲労も蓄積しており、とうとう変身も維持できなくなり、地に沈んだ。

 

「あとは貴様だ、ダグバ!」

 

「どうしたのさ? 随分イラついてるねぇ」

 

「黙れ……貴様や御咲陸人ならまだしも、我が人間相手に……」

 

「戦えない人にも、かなり出来るのがいるみたいだね。ボクや君まで手玉に取るとは……さすがあのリクトが街や民間人(1番大事なもの)を任せただけはあるね」

 

「認めん……人間など、我の指先一つでその人生も、生き死にも好きに操れる……その程度の存在なのだ。それなのに……!」

 

「メッキが剥がれてきたね。やっぱり君は戦うのには向いてないよ」

 

 ジェネシスとダグバ。その実力は未だに隔絶した差がある。それでも、ダグバはようやく彼らしい嗤いが出てきたのに対し、罪爐の態度には明らかに余裕がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千景砲から放たれた思念は、一直線に陸人に向かっていった。攻撃が飛んでこない上空で待機していた美森の満開に、溢れんばかりの祈りの輝きが舞い降りる。

 

「これが……人の想い。リクを想うみんなの願い」

 

 死者70億、生者400万。それだけの人の心の光が一点に集まり、陸人の亡骸に注がれていく。最初はその幻想的で美しい光景に目を奪われていた美森だったが、すぐにその表情は怪訝そうに変わる。全体の二割程吸収されたところで、勢いが急に衰えたのだ。少しずつ呪印が剥がれ始めていた陸人の身体も、回復が止まった。未だに顔色は死人のまま。明らかに何かが復活を阻害していた。

 

「上里さん、これって……」

 

『そんなはず……まさか、私が見た未来のどれとも違う流れが?』

 

 かぐやは4万通りの未来を見てきた。しかし、全ての未来を最後まで見通してきたわけではない。彼女は効率化のために参考にならないと思った時点で未来視を切り上げて別の未来に移っていた。そのせいで見過ごしていた、最後の最後で発動する可能性がある死の罠。

 

『迂闊でした。最後の最後で油断した……!』

 

 陸人が消えてもなお肉体に残る罪爐の闇。それがここに来て光の吸収を妨害している。このままではいくらやっても陸人の魂は作れない。

 

(どうすればいい……どうすれば……)

 

 通信越しに本部の混乱が伝わってくる。何もかもお見通しだったかぐやでさえ予想していなかったアクシデント。だとすれば、現場で1番近くにいる美森がなんとかするしかない。

 

(私には何ができる? 私にあるのは、勇者の力と巫女の……巫女? そうだ、巫女には人の思念や神の光を導く力がある。だったら──)

 

 元来優秀な美森の脳がフル回転。1分足らずで有効と思われる結論を見出した。ただしそれは、少しばかり乙女的勇気を必要とする手段だ。美森は深呼吸して覚悟を決めると、誰も見ていないと知りつつも周囲を見渡す。若干赤く染まった顔を隠すことなく、陸人の両隣に横たわる二人の親友の様子を伺う。

 

(友奈ちゃんもそのっちも、起きそうにないわね……よし!)

 

 力なく倒れる陸人の身体を抱き寄せて気道を確保する。色々と趣味が濃ゆい彼女は、人工呼吸の手順も頭に入れていた。

 

 

 

 

「これは医療行為これは医療行為これは医療行為……東郷美森、行きます!」

 

 

 美森はゆっくりと陸人の唇に自分の唇を重ねる。互いの口腔が繋がり、そこから美森の呼気が陸人の中に入っていく。巫女としても高い特性をもつ美森の性質が体内に注がれたことで、思念の吸収もより活性化。罪爐の闇の妨害も止まり、凄まじい勢いで陸人の肉体が回復していく。

 

(初めてがこんな形になるとは思わなかったけど……ここまでやって起きなかったら許さないわよ、リク……お願い、帰ってきて!)

 

 そんな陸人の変化にも気づかず、美森は瞳を閉じて一心に人工呼吸を継続する。触れた手から感じる熱が少しずつ高まり、そして──

 

 

 

 

 

「……美森、ちゃん?」

 

「っ!」

 

 心から恋焦がれた声が再び聞こえる。眼を開けた美森は、密着状態の彼の瞳を、そこに映る自分の顔を見てようやく実感を持てた。

 

「リク……本当に、リクなの?」

 

「うん……今回は特に危なかった、心配かけたね」

 

「……馬鹿……リクの馬鹿ぁっ!」

 

 感極まった美森が胸に飛び込んでくる。陸人も抱き返そうとしたが、両手を引っ張られて動かせない。両隣を見ると、友奈と園子が意識を取り戻して手を握っていた。

 

「友奈ちゃん、園子ちゃんも……迷惑かけてゴメン」

 

「ううん、りっくんが帰ってきてくれれば、それだけで……」

 

「うんうん、あんな貴重なシーンを間近で見れたしね〜。私としては大満足だよ〜」

 

「……ちょっと待って、そのっち起きてたの⁉︎」

 

「あはは〜」

 

「笑って誤魔化さない!……え? まさか友奈ちゃんも?」

 

「えっと……ごめんなさい、東郷さんすごいなぁって……」

 

「そんな……あぁっ……!」

 

「ちょっ、美森ちゃん⁉︎」

 

 羞恥心で倒れそうになった美森を支える陸人。復活早々に妙な雰囲気に呑まれてしまったが、そのやり取りは通信を通して司令室、さらには四国中に流れていたりする。全体の悲壮感が消し飛んでいったのは良い事だが、この事実を知った時の美森が心配だ。

 

「……さて、そろそろ行かないと」

 

「りっくん……」

 

「心配しないで。みんなのおかげでかなり調子がいいんだ。さっき掴みそこねたあの感覚も今なら……」

 

「気をつけてね〜。終わったら話したいこと、たくさんあるんだから〜」

 

「分かってる。俺も、随分たくさんの人のお世話になったみたいだからね。ちゃんとお礼を言いたいし、すぐ戻るよ」

 

「……リク……いってらっしゃい」

 

「ああ……いってきます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔をするなぁ!」

 

「チッ、やるじゃないか!」

 

 ジェネシスに顔面を鷲掴みされたダグバは、そのまま後頭部を地面に叩きつけられた。周囲に地割れが広がるほどの威力は堪えたのか、とうとうダグバの動きが止まった。

 

「まったく、しぶといにも限度がある……大体、何故貴様は我の邪魔をする? 人類や御咲陸人に肩入れする理由などないだろう」

 

「んー? そうだね。ボクは別にアッチに加担してるつもりはないよ。ただ……なんて言うのかなぁ」

 

 脱力したダグバは、戦場に似つかわしくない気の抜けた態度で飄々と言ってのけた。

 

「君のことが嫌いなんだよ。見てるだけで腹が立って、壊したくなるんだ」

 

「……ほう。そうかそうか……では、二度と不快な我の姿を見ないで済むように地獄に送り返してやろう」

 

 横たわるダグバの首に手を伸ばすジェネシス。その動きは、触れる寸前のところで停止した。すぐ後ろに、誰より忌々しい気配を感じ取ったからだ。

 

「……まさか、あそこまでやっても戻ってくるとはな」

 

「ああ。俺も今度ばかりはダメかと思った。みんなのおかげだよ」

 

 そこに立つのは御咲陸人。制服こそボロボロだが、黒く染まった左半身も、欠損した肉体も完治している。完全復活を果たした英雄が再び戦場に舞い降りた。

 

「してやられたよ、貴様の仲間には……次は全人類と貴様、同時に滅ぼすことにしよう」

 

「させないよ。そのために戻ってきたんだ」

 

「止められるつもりでいるのか? 二人がかりで手も足も出なかった貴様が!」

 

 ジェネシスの翼が蠢き、陸人に向かって飛んでいく。クウガの脚も簡単に砕いた一撃が生身の陸人に迫り──

 

「──変身っ!──」

 

 一瞬でシャイニングフォームに変身したアギトのカリバーで薙ぎ払われた。復活前ではまるで対応できなかったはずの攻撃。明らかに調子の良し悪しだけではない。

 

「貴様……いったい何をした?」

 

「別に? ただ気づいただけさ。お前がやったのと同様に、俺の中にも奇跡の材料はちゃんとあったんだってな!」

 

 シャイニングカリバーを大地に突き刺し、アギトが構える。両手をベルトにかざし、紫色の輝石に金色が灯る。

 

「アマダム、やれるな?」

 

 ──無論だ。奇跡が必要と言うなら、何度でも起こしてみせよう──

 

「ああ、いくつもの奇跡的な幸運に恵まれてここまで来た。見せてやるよ、罪爐……これが最後の奇跡だ!」

 

 右腕を前に出して、左腕をベルトに添える。西暦を支えた最初の英雄、クウガの構えをアギトが取っていた。

 正面に銀色のアギトの紋章が浮かぶ。同時にアギトを挟んで反対側、後方には金色のクウガの紋章が発生した。ふたつの力を重ねることで爆発的な力を引き出すことを奇跡と呼ぶならば、陸人の中にはずっと前から奇跡の種が芽吹いていたことになる。

 

 

 

「──超変身っ‼︎──」

 

 

 

 クウガの変身プロセスを行ったアギトに、ふたつの紋章が挟むように融合する。天空から落ちる雷と大地から立ち昇る炎に包まれたアギトの姿が変わる。

 

 

 

「出し惜しみはナシだ……人間を、ナメるなよっ‼︎」

 

 

 

 光の奥にいたのは、クウガでもアギトでもない新たな戦士。

 赤と黒を基調としたボディに、金と銀のラインが走る、二種のライダーの最終形態を組み合わせたようなカラーリング。

 頭部の衝角はより長く伸長し、8本に枝分かれして光を放つ。

 天使を思わせる純白の翼を4枚伸ばし、羽ばたきと共に羽根が舞い散る姿は、現実離れした美しさを誇る。

 

 

 

「クウガとも、アギトとも違う……なんなのだ、その姿は⁉︎」

 

「そう。今の俺はクウガじゃない。アギトでもない……お前を倒して訪れる新しい世界……新時代の一号──仮面ライダーノヴァだ‼︎」

 

 

 

『仮面ライダーノヴァ・オリジンフォーム』

 

 アマダムと再融合を果たしたことで、陸人の内で並び立ったクウガとアギトの力。呪いに穢された身体では万全に振るえなかったが、今の陸人は違う。その身には純粋な人の善意が詰まっている。70億と400万の祈りを土台に、クウガとアギトの力を重ねて融合進化した戦士。新星(Nova)の名に相応しい、最新にして最強の仮面ライダー。

 

 

 

 

 

「ノヴァ、だと……巫山戯るな、我は全てを知る絶対存在。我の知らない戦士など、あってはならない!」

 

 時間操作と空間操作を併用して一瞬で距離を詰めたジェネシス。通常の次元で生きている者には反応のしようがない必中のハイキックが、ノヴァの首を刈り取るように振り抜かれた。

 

「──っ、馬鹿な……!」

 

 回避も防御も不可能、何があったか理解するより早く絶命するはずだった必殺の一撃を、あろうことかノヴァは左腕一本であっさりと受け止めた。

 

「ようやく、だな……」

 

「っ! 何を……」

 

「ようやく追いついたぞ……罪爐っ‼︎」

 

 防がれたまま呆然としていたジェネシスの顔面に、ノヴァの右拳が突き刺さる。吸い込まれるように直撃した一撃は創世神の鉄壁を突破して、ノーバウンドで10m以上吹き飛ばすほどの威力があった。

 

「なんだ、この力……我が痛みを?」

 

 驚愕とダメージで立ち上がれないジェネシスの正面に歩み寄り、ノヴァの全身に力が漲る。爆炎と雷光が迸り、翼を広げた神々しいその姿は、罪爐には死神に見えたことだろう。

 

「立てよ罪爐……お前が軽んじた人間の可能性ってヤツを、骨の髄まで叩き込んでやる!」

 

 

 奇跡は成った。あとは勝利を掴むのみ。世界の起源から続く生命と呪いの争いに、確かな終わりが近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




決戦までのかぐや様のお仕事

①膨大な数の未来を覗き回り、最も期待値の高い未来を選択
②選んだ未来に到達するために必要な要素、不要な要素を可能な限り拾い上げる(ゲームにおけるセーブ機能のようなものはなく、どんな未来を観れるかも完全にランダム)
③フローチャートがある程度埋まったら、部下に伝えても敵にバレないギリギリのラインを見極めつつ周知、事前準備を進める
④開戦後もイレギュラーの発生に目を光らせながら采配を振るって予定通りの未来へ導く
ちなみに、準備期間は僅か10日。全て伝えて頼れるのは研究職の2人だけという悪条件。

筆頭巫女様マジチート、な回でした。

感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに。

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