A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
ご都合主義と馴れ合いの連続で批判もあるかもしれませんが、ご容赦ください。
「我は、どうして生まれてきたのか……ここで敗けるというのなら、絶対ではないのならば」
ノヴァの必殺技がジェネシスを砕く寸前、両者の魂の距離は0となった。極限まで高められた魂は現実世界の時間をも超えて、2人だけの次元で最後の対話が行われる。
「我を生んでおきながら、誰も彼もが我を否定する。だから我は戦った。他者に依存せずとも我が我として生きるために」
「お前の存在には俺達全員に責任がある。そういう意味では、これまでの全部についてお前のせいだと言うのは間違いなのかもしれない」
最後の最期で、ようやく2人は何の虚飾も障害もなく、素直に向かい合うことができた。罪爐が抱えていた根源的な恐怖も、陸人が抱えていた罪悪感も、初めて言葉として交わされた。
「だとしても、それでお前の行いが許される事はない。罪爐にとっては勝手な言い分かもしれないが、この世界は命あるものの居場所だ」
「そう、らしいな。我が目を逸らしていただけで、ずっと世界は我を拒絶していたのかもしれん。汝のような特大の特異点を産み落としたのがその証拠だ」
罪爐はその性質上、必要以上に過剰で悪辣な手法を選んできた。そのせいで誰もが気づかなかったが、遠大な計画の最終目的はただひとつ。確立した一個の命として生きたかった。
もっと言えば、罪爐は散々見下してきた人類のように普通に存在すること。それだけが望みだったのだ。
「このような在り方しかできない我には、居場所など最初からなかった。そういうことだろう」
似合わない寂寥感を滲ませた声。散々苦しめられた仇敵だというのに、陸人はその悲しみを無視できなかった。
「罪爐、お前は倒さなきゃならない。これは絶対の真実だ……だけどひとつ、約束してやる。もう二度とお前のような存在が現れない世界にしてみせる。人が自分の意思で闇に打ち勝てる新しい未来を、必ず作り出す」
「……汝は……」
陸人は300年に渡って罪爐に苦しめられてきた、最大の被害者と言ってもいい。そんな彼が、罪爐に誠意を示す理由など皆無。強いて挙げれば御咲陸人だから、だろうか。
「お前の罪を裁くのは俺の役目じゃない。世界の摂理に任せるけど、全ての罰と贖罪がもし終わる時が来たら、その時は──会いに来いよ。お前と俺なら、常世でも来世でも天国でも地獄でも、会おうと思えばきっと会えるさ」
「……我を恨んではいないのか? 汝の親を、仲間を、多くの罪なき命を奪ったのは我だぞ」
「……どうだろうな。死んでいったみんなの恨み憎しみは、当人達に任せる。友奈ちゃん達に救い出されてから、そう決めて戦ってきたつもりだけど」
超常の力を持つ者として、恨み憎しみで力を振るうのは許されない。そんな綺麗事じみたお題目を本気になって守っている。それが陸人の強みであり歪み。理性と本能の狭間で揺れ動く不安定さを突く罪爐の呪いに打ち勝った、強靭すぎる理性。
「……お前に次があるのかは知らないけどさ、次は意地張って一人で何とかしようとするなよ。自分が不安なら、弱音を吐いて頼れる誰かを見つけるべきだ。お前が本音でぶつかれば、本音で相手になってくれる誰かが絶対にいるはずだから」
「……覚えておこう。汝も一度吐いた大言壮語、忘れるなよ」
それが最後。御咲陸人と罪爐、長きに渡る因縁は誰も予想し得ない形で終焉を迎えた。
『Be The One』の光が、罪爐の闇を粉砕する一瞬前。神も悪魔も知り得ない二人だけの秘密の逢瀬があった。
「りっくん……」
「リク、大丈夫かしら……」
「あっ、あれ〜!」
遠く離れた地上から決戦を見守るしかできなかった勇者達が、天の光に祈りを捧げていた。そんな健気な少女達の頭上から、美しい羽根が舞い散る。御咲陸人の奇跡の断片だ。
『──陸人っ‼︎──』
「……終わったよ、みんな……」
決着をつけたノヴァが天空より帰還する。その腕に、異界の主神を抱えて。
「テオス、気分はどうかな?」
「……問題ありません。が、疑問があります」
罪爐の縛りから解放された黒衣の青年がゆっくりと自分の足で立ち上がる。変身を解いた陸人と向き合うテオス。身体を支配されていた消耗はあるようだが、存在に関わる致命傷は受けていない。
「あなたの力は絶大だった。最後の一撃は、私ごと罪爐を討滅できた……いえ、むしろそうなる方が自然だったはずです。何故あなたは、態々力の向きを調整してまで私を生かしたのですか?」
「うーん、何故って言われてもなぁ」
「答えに窮する質問でしたか?」
「いや、なんていうか……当たり前のことだからさ。テオスは加害者の一人ではあるけど、同時に被害者の一人でもあるだろ? だから決着をつけるなら、必ず解放するつもりだったんだ。
それにアンタを消したりしたら、アンタの世界の命が大変なことになるんじゃないか? これ以上被害を増やすような真似はしたくないよ。当然だろ?」
罪爐ほどではなくとも、テオスもまた陸人からすれば手を焼かされた相手だ。それでも恨みを後に引きずるようなことはしない。譲れないものがあったから戦うことになった。ならば事が済んでからも争う意味はない。それが罪爐にも語った、新しい未来の人類の在り方。陸人は自分の理想を自ら示していた。
「……なるほど、天の神や罪爐が躍起になっていた理由が分かりました。同時に、彼等を相手に最後まで退かなかったあなたの強さも」
テオスは小さく笑って眼を閉じた。神を憎まず人を愛す。敵を倒すのではなく仲間を守るために。言葉にするには簡単で、実行するにはあまりに難しい理想論。人が神に『許し』を与えるという、本来とは立場が真逆になってしまっている現状がどうにも可笑しくて、テオスはしばらく笑いが止まらなかった。
「あなたは、既に神に相応しい力と格と質を備えている。惜しいことです。あなたが私の世界の住人であれば、側に置いていたのですが」
「現役神様にそうまで言われるのは悪い気しないけどな。俺は俺だよ。人間だから今日まで戦ってこれた。人間だから、罪爐に勝てたんだ」
「ふふ、そうかもしれませんね……では、あまり勝利の喜びに水を差したくありませんので、そろそろ失礼します。私がこの世界に持ち込んだマラークは連れて戻りますのでご安心を」
テオスが左腕を天に掲げると、空から柱状の光が降り注いできた。テオスを囲むように届いた光が、青年の肉体を粒子状に解いていく。見れば遠方にも幾多の光柱が同様に降っている。言葉通り、全てのアンノウンが本来いた世界に帰還するようだ。
「迷惑をおかけしたお詫びに、コレを差し上げます。使い途はご随意に」
去り際に陸人の腹部に手を当ててから消えていったテオス。触れた箇所からは、アギトの炎に似た仄かな熱が残っていた。
(今の……なんだ?)
「りっくん?」
「リク……これで、終わったのよね?」
「ん? ああ。これで罪爐もテオスもいなくなった。天の神とは、いずれ話はしなきゃいけないけど、当面問題はないはずだ。後は──」
不安そうに覗き込んでくる少女達に、陸人は笑顔で返す。そんな和やかな空間に馴染めない異邦者が、まだ一人残っていた。
「──ねぇ」
小さくともよく通る声。同時に響く、鈍い破壊音。ガレキを蹴り砕いた破片が背後から陸人に迫り──対する陸人は背を向けたまま片手で受け止めた。
「もういいかい? リクト」
「ああ。お前にしちゃよく我慢した方かもな……ダグバ」
戦勝ムードをぶち壊した最後のグロンギ、ン・ダグバ・ゼバ。いつも通りの微笑みを浮かべて挑発的に近寄ってきた彼に、陸人もまた笑みをたたえて歩み寄る。最初から分かっていたというように、手を伸ばせば届く距離まで近づいていく2人。
「えっ? ちょっと……」
「りくちー? まさかまた〜?」
「ああ、悪い。でもこれがダグバの目的だから……最初から、俺と戦うために出てきたんだろ?」
「さすが。キミの話が早いところ、好きだよ」
ここまで聞けば全員が理解できた。陸人とダグバは、ここで雌雄を決するつもりだと。この全てが終わった達成感の中、なんの意味もない個人的な意地で戦いを続けるつもりだと。
「そんな! これ以上戦う必要なんて……」
「そうだね。この戦いに必要性も生産性もない。だからみんなの手は借りないよ。今度は正真正銘、一騎討ちだ」
「いいねぇ、やる気があるようで嬉しいよリクト」
「だからお前も、この戦いに誰も巻き込むな。俺以外の誰一人傷つけないと約束しろ……でなきゃ勝負は受けない」
「もちろんそれで構わないよ。ボクはキミと遊ぶためにここにいるんだ。むしろここからがボクの本番さ。それ以外なんて最初から興味ないね」
「それからもうひとつ……今回は罪爐との戦闘で借りができたから相手をするんだ。お前の遊びに付き合うのは、これっきりだからな」
「ああ。十分だよ、リクト……!」
仕方なく、という風に言ってはいるが、今の陸人は戦うこと自体に乗り気なのは見て取れた。ダグバはともかく、陸人がここまで戦闘に意欲的なのは見たことがない。仲間達は不毛な喧嘩を始めようとしている2人を止める言葉を探していたが、そこへ割って入る者がいた。
「やめとけよ。男の意地に口挟むもんじゃないぜ」
「同感だ。今の陸人は何を言っても聞かないだろうしな」
「鋼也、志雄……」
この中で数少ない、彼等と同じ男である鋼也と志雄。2人は陸人の今の気持ちをおおよそ理解できた。ずっと使命感で戦ってきた陸人の変化に、同じ男子として気づける部分があった。
「ずっと誰かのためだけに力を振るってきたアイツが、ようやく自分のやりたい戦いを見つけたんだぜ? 邪魔するのは野暮ってもんだろ」
「彼がやっと見せた初めてのワガママだ。一度くらい許してやってもいいだろう? ここまで散々助けられたのだから」
そこまで言われると、美森達も何も言えない。ため息を吐くなり、肩を落とすなりで呆れたような反応を返すしかできなかった。"これだから男の子は"という気持ちが言葉にせずとも聞こえてくるようだ。
「鋼也、志雄、フォローありがとう」
「いやなに、気にすんなよ」
「心置きなくやるといい」
「りっくん、本当に……やるしかないんだね?」
「そうだね。これからは戦う以外の手段で道を切り開く時代が来ると思う……だからこそその前に」
「りくちーがりくちーであるために、必要なことなんだね〜?」
「うん、ダグバとの決着だけはつけておきたい。最後に残ったコイツとだけは……!」
「……ハァ、よく分かりました。お好きになさいな……ただしリク、終わったらお話があります」
「あー……了解。全部済んだら聞くよ」
若干後が怖いような気はするが、これで準備は完了だ。世界の命運を賭けた死闘は終わり、ここからは私闘が始まる。
「──変身!──」
「ハッハァッ!」
アギト・シャイニングフォームとン・ダグバ・ゼバが衝突する。白と白の饗宴、双剣を手にした両者は一歩も引かずに剣をぶつけ合わせていく。
「いいねいいねぇ、やっぱりキミが1番だよリクト!」
「そうかよ……楽しそうで何よりだ!」
速度では僅かにアギトが上。力ではダグバが若干だが上回る。技量はほぼ同等──格上ばかりを相手にしてきた経験がある陸人と、神霊すら脅かす戦士としての才能で暴れるダグバ。総合的な結果は互角。
「……ふう、小手調べはこんなものでいいか?」
「そうだねぇ。そろそろ本気で遊ぼうか!」
何度目かの鍔迫り合いの後、耐久限界を超えた互いの得物が砕けると同時に、両者は距離をとって構え直す。
「出し惜しみはナシだ……!」
「これだよ……この瞬間を待ってたんだ!」
クウガの構えを取り、稲妻と爆炎を宿すアギト。
頭部に手をかざし、全身から光を放つダグバ。
「────超変身っ‼︎────」
「──ボクに限界はないっ‼︎──」
顕現する2人の超越者。奇跡の領域に意識的に踏み込めるほどの規格外。
仮面ライダーノヴァ・オリジンフォーム
ン・ダグバ・ゼバ・ルゲン
全時代全次元全世界を含めても3本の指に入る稀代の戦士がぶつかり合う。ただどちらが上かを決めるためというくだらない理由で。
「人間を舐めるなよ、ダグバッ!」
「キミの全てをボクに見せてよ、リクトッ!」
この戦いに必然性はない。この勝負に生産性はない。
史上最高の好カードを組んで、史上最も意味のない最終決戦が幕を開けた。
天の神の支配を脱した今、世界はありのままの姿を取り戻している。西暦のバーテックス侵攻で既に荒廃しているといえど、新しく命が生きる場所を壊すのは避けたい陸人は、ダグバを引き付けて天へと翔け上がる。2人はそのまま重力の枷を超えて星の海までその翼を伸ばした。
「ここなら遠慮はいらない。全力で行くぞ!」
「そうだよ。散々おあずけされたんだ、これ以上ボクを退屈させないでくれよ!」
二筋の白い飛跡が交差しながら宇宙を舞う。やがて2人は月軌道に乗り、そのまま月面に墜落した。夜空を照らす地球唯一の衛星。かつて人類の夢の舞台だった星に立ち、ダグバはそんな有り難みなど微塵も気にせず力を振るう。
「アハハハハハッ! ちょうどいい石コロ見つけたよ!」
「クッソ、月が石コロかよ。無駄にスケールでかい奴だな!」
ノヴァの顔面を鷲掴んで、月表面に叩きつけたまま引きずり回す。希少な研究資料であった月の石が惜しげもなく散っていく。対するノヴァも、翼に莫大な力を込めて月面ごと爆散させて強引に距離を開けた。未確認のクレーターの完成だ。
(やっぱり勝手が違うな。足場がある分踏み込めるだけマシだが、重力の差が足を引っ張る……!)
「ククッ、いいねぇ。盛り上がってきたよ!」
「チッ、なんでお前はそうポンポンと慣れられるんだ」
ちなみにダグバの方は宇宙に飛び出すと同時に宙間戦闘のコツを掴み、自分の感覚をアジャストしている。置かれた環境下で必要なものを即座に揃えられるのが、ダグバのダグバたる所以。戦いの天才の本領だ。
「何にせよここで派手にやり過ぎるのはマズい。場所を変えないか?」
「ヤダね。地上から出た時点で既に一度キミの都合に合わせてる……これ以上付き合う気はないよ」
あっさり拒否して足元に拳を叩き込む。右肩まで地面に埋まるほど深々と突き刺すと、
「おいおい、お前まさか……!」
「言っただろ? ボクにとってはこれくらい、石コロと一緒さ!」
両翼を広げ、天体ひとつを丸ごと抱え上げたダグバ。純粋な膂力だけで月を破砕することなく掌握している。せいぜい全長2m前後の生物にできていい所業ではない。
「アハハハハハ……ハハハハハハハハハッ‼︎」
「笑えないんだよ、お前のやることはいつもいつもっ!」
砲丸投げのようなフォームで月を振りかぶったダグバ。全宇宙で例を見ない珍現象──衛星の遠投事件──を止めるために、反対側からノヴァが月に組みついた。直径3,500kmの天体を挟んで、2人の超越者の力比べが勃発する。
「ほらほら、潰れちゃうよぉ!」
お互いが両端から押し返す状態で拮抗する両者。このまま続けば圧力に耐えきれずに月そのものが崩壊する。かといってダグバの暴挙を許せば、地球や他惑星にどんな影響が出るか分からない。
「グッ、いい加減に……!」
『active──AGITΩ!』
そこで陸人は、ほんの少しかける力を上向きにして圧力の均衡を崩した。ほんの一瞬、修正に動いたダグバに隙が生じる。刹那、ノヴァが瞬間移動を行使してダグバの背後に回り込んだ。
「──しろぉっ!」
右腕のノヴァセレクターが回り、手の甲にアギトの紋章が輝く。ノヴァ・オリジンフォームの必殺パンチ『オリジネイトインパルス』が炸裂した。幼子のように無邪気に月を押し出すことに夢中になっていた白い悪魔を、背後から全力で殴り飛ばした。
「──ったく、焦らせてくれる……アマダム、計算は任せていいか?」
──ああ。正しい軌道に戻さないと後々怖いからな──
力尽くで月軌道から外された月面に触れ、適切な方向と力加減であるべき位置に移動させる。月が正しい軌道から外れてしまえば、自転や潮の満ち引きの関係で地球環境に悪影響が出る。無自覚ながらも天災を引き起こすダグバ。やはり悪魔は悪魔だった。
「──なーに遊んでるのさ、リクト!」
「チッ、もう戻ったのか!」
宇宙の彼方まで吹き飛ばしたダグバが戻ってきた。まさしく光速で飛ぶダグバがノヴァを捉え、2人のドッグファイトが再開する。光を散らして衝突しながら二筋の閃光が地球の外縁を飛び廻る。
「あっ、アレ!」
「あの光、あいつらか?」
「ほんとデタラメだなぁ。なんだよあの速さ、流れ星じゃないんだから」
淡い光を降らせながら、星の帯が空を彩る。地球から見たその光景はあまりにも美しかった。神話を思わせる優美な景色、それを描く奇跡の体現者達の戦いは、何も知らない民衆の眼をも釘付けにして離さない。
「フゥ──、スゥ──……」
「ハッ、ハッ、ハッ……! クフフ、クハハハハハ。たまらないよ、自分の中身をすり減らすこの感覚!」
彗星と彗星のチェイスは小一時間ほど続き、最早地球を何周したかも分からない。流石の2人も体力は限界に近く、肩で息をしている。そもそも宇宙空間で通常通り呼吸を行えている時点で異常だが。
「おいダグバ、小競り合いはもうたくさんだ。決めるとしようぜ……!」
「ボクも同じことを考えてたよ。やっぱり気が合うねぇボクら」
「気持ち悪いことを言うな……獲らせてもらうぞ、ダグバ!」
『active──AGITΩ!』
『active──KUUGA!』
『ignition──NOVA‼︎』
「いいや、勝つのはボクだ!」
奇跡を為した証でもある特徴的な翼。ここまでの戦闘で度々拡張していたその象徴が、ここに来て最大の規模にまで膨れ上がっていく。地球を覆うほどに幅広く、太陽に届きそうなほどに長く。
「──ダグバァァァァァァッ‼︎」
「──リクトォォォォォォッ‼︎」
仮面ライダーノヴァが単独で放てる最強必殺技『The Origin』
ダグバがライダーを真似て会得した必殺技『
2人のキックが月軌道上で衝突し、膨大なエネルギーが銀河に煌く。太陽の如く眩い光が走り、地球の空を白く染めた。
必殺技で生じた閃光が星全体を束の間包み込んだ。数秒の暗転の後に通常の色を取り戻した空に、折れた翼が描くふたつの隕石が見えた。煙を吹きながら地上に落下していく光。勇者達が見守る地からそれほど遠くない地点に墜落していった。
「あれって、まさか……!」
「堕ちてる⁉︎ りっくん!」
泡を食って落下地点に向かう一同。走って走って走り抜いた先には、とても人間大の質量が落ちた跡とは思えない、大規模なクレーターが出来上がっていた。
「だぁりゃぁぁっ!」
「ハハッ、シィィィッ‼︎」
瓦礫が散乱し、地面を踏み抜いて地下水が染み出している悲惨な破壊跡。そんな不安定なクレーターの中心地で、陸人とダグバは殴り合っていた。既に変身を維持する余力もなく、フラフラなまま相手の顔面を殴っては殴り返されている。示し合わせたように一発ずつ、殴り殴られ血肉を撒き散らす。凄惨なほど単純明快な意地の張り合いだった。
「そろそろ、沈めっ!」
「ハッ、誰が!」
アッパー気味に振り抜かれた陸人の左拳を、ダグバは頭を振って迎え撃った。インパクトのタイミングをずらされた上に硬すぎる頭蓋骨を叩きつけられた左手は、一瞬で五指の骨を砕かれた。
「しまった……!」
「これで終わりだよ!」
予想外の痛みに後退した陸人に、ダグバが踏み込む。空中で体を捻り、反動と体重を乗せて威力を増した飛び蹴りが胸部に直撃。吹き飛ばされた陸人は、背後に反りたっていた壁面の残骸をブチ抜いて倒れた。
「……ぁ……ぐ……!」
「──リク!」
「りくちー!」
瓦礫ごと地面を転がっていった陸人は、呻き声を上げて停止した。うつ伏せのまま微動だにせず、地面に血溜まりを作って沈黙している。遠くにいた勇者達には、死んだようにしか見えなかった。
「ボクの勝ち……? クハハ、ボクは勝った……やっとリクトに、ボクが最強だ! バルバは正しかった! アーッハッハッハッハ‼︎」
「──……る……ぇょ」
ダグバの
「相変わらず……お前の笑い声は耳に障る……おちおち寝てもいられない……」
まるで幽鬼のようにゆっくりゆったり、体を起こしていく陸人。やっとの思いで取り戻した正常な顔も身体も、半分以上が赤く染まっている。それでも眼だけはしっかりと、前に立つダグバを捉えていた。
(視界が赤い……身体の感覚も怪しい……どこが痛いのかも分かりゃしない……でも、なんだろうな……悪くない気分だ)
(胸の奥で何かが叫んでる……負けたくないって──勝ちたいって──コイツにだけは!)
(そうか……これが、熱くなるってことか……!)
「──ォォォォオオオオオオオオオオッ‼︎──」
咆哮と共に立ち上がる、血だらけの少年の姿。突けば倒れそうなボロボロの有様で、それでも二本の足で強く大地を踏み締めて立つ。初めての高揚感に魂を熱く滾らせて、自分のためだけに拳を握る。
「そんなになってもまだ立ち上がる……いいよリクト! やっぱりキミは──」
「うるさい……!」
喋りながらも油断なく距離を詰めてきたダグバの拳に、あえて砕けた左拳を合わせて迎撃した。左で反撃されるという可能性を除外していたダグバは完全に虚を突かれた。
「なに……?」
「──ッオオオオオオッ‼︎」
真っ直ぐ立つのも難しい失血状態にもかかわらず、陸人はさらに一歩踏み出して拳の威力を引き上げた。予想外のカウンターに対処できなかったダグバは力負けして吹き飛んだ。
瓦礫に身を預けるように崩れ落ちた白い人間体もまた、陸人と同様に血に塗れている。
「ゼェッ、ヘッ、ハァッ……オネンネするのはまだ早いんじゃないか? ダグバ」
「ククク、まさかこのボクがそんなこと言われる日が来るなんて。キミと遊ぶと新しいことばかりだ……ああ、本当に──この瞬間が楽しい」
恍惚とした雰囲気で天を仰ぐダグバ。膝に手をついて崩れそうな身体を必死に支える陸人。どちらもこれ以上泥試合を続ける余裕はない。
次で最後、どちらも口には出さず理解していた。
「……フフフ、さぁ──いくよ!」
先に仕掛けたのはダグバ。言うことを聞かない脚で走るのを諦め、一歩目で高く跳躍。思い切り振りかぶった右拳を陸人の頭部に振り抜く。
「……っ……!」
「っ! 馬鹿な……」
回避できない必中のタイミングだった。天の気まぐれか英雄の徳か、たまたま一瞬だけ陸人の意識が飛び、たまたま一瞬だけ脚が崩れて、狙いの頭部を大きく下げる格好になった。意図せず攻撃を避けられたダグバは、空中で腕を空振ったまま無防備になってしまった。
「もらうぜ……!」
膝をついて崩れた陸人が、再び膝を伸ばして立ち上がる反動も込めたアッパーを撃つ。寸分違わず顎を砕き、ダグバは噴水のような勢いで血を吐いて倒れる──
「──まだだ」
「……!」
ダグバが頭から倒れる直前、陸人は撃ち込んだ左手で襟元を掴んで引き上げた。自分で身体を支える力も残っていないダグバを引き寄せ、残った右手に全ての力を注ぎ込む。
「これが最後の一撃だ……自分が砕け散る感覚、よーく味わって──」
「……ハハハ……いいねぇ」
脱力したまま笑顔を見せるダグバ。態度とは裏腹に、その身体にはもう指一本動かす力も残っていなかった。
「そして絶対、忘れるなよ……!」
全体重を拳に乗せて、身体全体でぶつかるような捨て身のパンチ。左頬を捉えた一撃でダグバは吹き飛び、瓦礫の向こうまで転がり落ちていった。
「…………」
「…………」
数秒待ってもダグバは立ち上がらない。どころか、身動き一つなく、仰向けに倒れて空を見上げている。今にも頽れそうな身体を精神力で無理やり引っ張って立ち続ける陸人は、ここでやっと勝利を確信した。
「俺の……勝ち、だな……!」
「ああ……ボクの敗北だ」
「──……〜〜しゃあっ‼︎」
滅多に見せない歓喜の声を上げる陸人。この瞬間、全次元最強の戦士が決まった。
「気分はどうだ? ダグバ」
「思ったより悪くないよ。一騎討ちで、言い訳の余地もなく完全無欠な敗北ともなれば、もっと悔しいのかと思ったけど」
「……お前は、以前よりずっと強かった。その拳には、お前以外の誰かが乗ってたように感じた」
「分かるのか。さすがだね……キミはずっとそうして戦ってたもんね。最後の最後だけ思い至ったからって、それで勝とうなんてのはムシが良すぎたかな」
ダグバもまた、陸人との繋がりの中でガドルと同じ真実に辿り着いていた。"自分以外の誰かのために戦うこと"こそが最強の資質。それを教えてくれたバルバを想って、グロンギの誇りを思い出させてくれた姉のために、ダグバは最強という華を手に入れようとしていた。
「とにかくこれで誰が一番強いかハッキリしたろ。もう二度と絡んでくるなよ?」
「ん〜、どうかな? 忘れた頃にまた来るかもね。地獄から戻る手段なんてなくても、ボクならいずれなんとかできそうな気がするし」
「勘弁してくれ……一度しか言わないぞ」
少し照れ臭そうに咳払いをして顔を背ける陸人。本人は認めたがらないだろうが、陸人の方も同じように、ダグバの影響で変わった点があった。
「お前との戦い、悪くなかった……楽しかったぞ、ダグバ」
長く戦い続けた陸人が、初めて口にした戦闘を肯定する言葉。何も背負わず、負けたくない相手を倒すために。御咲陸人にとって、最初で最後の自分のための戦いだった。
「……! アッハハ、それが聞けただけでも、こっちに来た甲斐があったよ……それじゃリクト、縁があればまた会おう。お友達にもよろしく……ハハハハハ、ハッハッハッハ──‼︎」
光と共に消えていく白い青年、ン・ダグバ・ゼバ。誰よりも戦いに生き、戦いに死した白い悪魔は、最後に少しだけ英雄に変化をもたらして消滅した。その末期まで、彼らしい笑いと共に。
(終わった…………いや、なんだ?)
ダグバの消滅を見届けた陸人が天より降り注ぐ光に包まれた。その奥に広がるのは神域の風景。死者でありながら生者と共に戦った、かつての仲間達が並んで待っていた。
「みんな……それにこの気配、神樹様も見てるのか」
「ああ。神樹もとうとう限界を迎えた。常世にほど近いこの世界も維持できなくなる……お別れだ」
「そんな、それって……ん? これは」
目を伏せた若葉が無念そうに呟く。お別れという言葉を聞くと同時に、陸人の中で暖かい何かが脈を打つように活性化し始めた。テオスに託された光が胸の内から飛び出し、人の形に変わっていく。
「え? あの光、あの姿は……」
「もしかして、陸人か……?」
「うん、うまくいったみたいだな」
御咲陸人と向き合うように立つ少年、伍代陸人。西暦と神世紀ふたつの記憶と経験を宿した御咲陸人から、その半分を抜き取って一個の人格として再構成した姿。
「君は……俺?」
「そうなるな。俺は君……の中の西暦の時間と、クウガの力を分離した……いわば分身みたいなものかな」
──当然私もこちら側だ。普通の人間として生きる分には、私の力はむしろ邪魔になるからな──
「アマダム……」
──そんな顔をするな。元々300年前に消えた立場だ。一瞬の邂逅でも、私は嬉しかった──
「そうだな、俺もだよ。ありがとう……アマダム」
元々クウガとアギトの力は両立できない。かつての力と記憶を取り戻し始めた頃から陸人の身体に異常が発生したのは、同じ肉体に過剰な力を併せ持った積載過多も理由のひとつ。
それを危惧したテオスが、伍代と御咲が別の人格として分離できるように手を加えてから消えていったということだ。
今の御咲陸人はアギトの力を宿している以外は普通の人間。
そして伍代陸人はクウガの力を昇華しきって神霊に至った最高状態。
「この形が一番安定するんだよ。俺も、君もね」
「……そうなのか。よく分からないけど、もう俺の身体は心配ないってことでいいんだな?」
「ああ。少しずつ西暦の……伍代の記憶は君の中から抜けていくだろう。君はこの時代で人として生きていける」
もうこの時代に神を超えた英雄は必要ない。これからは、人が人として生きていく強さが求められる新時代だ。
「それじゃ改めて、お別れだ。君には感謝しているよ……俺の時代の不始末もカタをつけられた上に、ダグバとの決着まで。ありがとう、って自分の顔に礼言うのも変な気分だけど」
「これからどうなるんだ? みんなはすでに死んでいるけど……」
「神樹様の御神体が常世に存在できなくなりましたが、私達の魂が消失するわけではありません」
「本来の神様達の居場所……神域よりもずっと遠い世界に、他のみんなは先に還っていったよ。神樹様もそこに行くんだって」
ここには伍代陸人と共に戦った8人以外の勇者がいない。神域の魂達は死者が本来あるべき場所に還り、いつかの再誕まで休むことになる。
「みんなは、ってことは君達は……」
「俺は既に神樹様から独立して神霊として動けるだけの力がある。罪爐の影響が他の世界にまで及んでいないか、調べることにするよ」
「他の世界に?」
「テオスの世界のように、ここから遠くない別世界はいくつもある。各世界間の調和を誰かが保たなきゃいけないからな。俺がやるべきことだと思うんだ」
神霊の格があって初めてできる世界を跨いだ人助け。自由に動けて力もある伍代陸人にしかこの役目は果たせない。
「そっか。まだ、戦うのか」
「そんな顔するなよ。俺に引け目を感じる必要はないからな? これは俺が好きでやってるんだ。こんな風に選択できたのも君のおかげだしな」
「俺の?」
「君がこの世界で当たり前の幸せな時間を過ごしている……そう思えば、俺は永劫の時だって戦い抜ける。だから君は生きてくれ、君だけの人生を」
伍代陸人にとって、もう1人の自分とも言える御咲陸人。彼自身として過ごした記憶は消えても、過ごした事実は無くならない。その繋がりだけあればいい。それが伍代陸人の結論だ。
「もちろんタマ達も付き合うぞ!」
「神樹様の世界でずっと一緒だったからかな? 今の私達は陸人さんっていう神様の眷属みたいな立場なんだ」
「りっくんが他の世界に行くなら、私達も行ってそこの人たちを助けるよ。ね、ぐんちゃん?」
「……そう、これは私達全員が自分の意思で選んだ道よ……御咲くん、あなたも自分の道を進みなさい」
「よくやってくれた、御咲陸人。初代勇者として、心からの敬意と感謝を」
「こちらこそ本当にありがとう……神樹様にも、お礼が言いたいんだけど」
「神樹様のお声はもう私達にも聞こえませんが、今ならまだこちらの声は届くと思いますよ」
「分かった……神樹様! 人間を信じてくれて、俺を助けてくれて、ありがとうございました!」
「──返事はないけど、聞こえたはずだよ。暖かい光が増えてるもん」
偉大なる先達と、大恩ある地の主神。それぞれが新しい居場所で新しい道を行く。勝って未来を手に入れた結果訪れた、希望あふれる別れだ。
「さよならだ、俺」
「ああ。またいつか、だな──俺」
その別離に涙はなく、明日への期待に満ちた笑顔だけが咲いていた。
神域に繋がる最後の光が消失。常世と天国を結ぶ境界は神樹と共に永遠に消え去った。ひとり地上に帰還した陸人は、そこでようやくクレーターの周辺で見ていた仲間達に気づいた。
「みんな……」
「リク……」
「りっくーん!」
「りくちーっ!」
「これで、本当に……全部終わった、よ……」
本人も忘れていたが、ダグバ戦の大量失血は全く回復していない。脚から崩れ落ちた陸人は前に倒れ込み──
「──ふぅ、今度はちゃんと受け止められたわね」
「これからは、私達がりっくんを受け止める番だよ!」
「えへへ〜、ナイスキャッチ〜」
頭全体で感じる柔らかい感触。両手を掴み止めてくれた女子らしい小さな掌の熱。種々様々な花の香りに包まれて、陸人はやっと心から安堵できた。少しずつ意識は遠のき、脱力した身体を仲間達に預ける。
「それじゃ帰ろっか〜。かーやん、回収お願〜い」
『すぐに車両を回します。安静にしていてください』
「防人、任務完了を確認。帰投するわよ!」
「勇者部、家に帰るまでが遠足よ。油断なく帰りましょう!」
「あれ? りっくん、持ってるのって──」
「ああこれ? みんなにお土産、月の石……」
「リク……戦いながら回収してたの? まったくもう──」
暴力だけで何かを守る時代は、ここで終わる。
これからの人類は、自分を信じる強さと、誰かを信じる強さ。
そのふたつで自分達の居場所を守るための、新しい戦いが始まる。
『敵性の全滅及び別世界への離脱を確認。四国防衛戦、完遂です。皆さん、よくやってくださいました』
ご都合主義全開で鼻につくかもしれませんが、ビターエンドはのわゆ編だけで十分なので。全体のエンディングは可能な限り頑張ってきた彼らに都合の良いハッピーエンドをと思って描いています。
次回エピローグにて完結です。
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに。