A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
拙い文をいいぜ、読んでやるよ、という心優しい方がいらっしゃると嬉しいです。
土居球子は焦っていた。元々表情豊かな彼女は、この状況で焦りを隠すことは到底できなかった。唐突に現れた白い怪物。はぐれてしまった家族や友達。がむしゃらに逃げた神社で見つけた、やたら硬い盾のような武器と、流されて走った先で出会った怯え続ける女の子。
無我夢中で怪物に盾をぶつけ、どうにか撃退してはいるが、そう長く持つものではない。身体能力に自信はあれど、武道経験もない女子小学生の限界は近い。そのことを自覚した球子は、後ろで弩のようなものを手に縮こまっている少女を見る。
先ほど聞いたところ、名前は伊予島杏。自分と同じく、逃げる最中で家族とはぐれて、なんとなくここにたどり着いたらしい。
それ以上のことはほとんど話す余裕がなかったが、それでも分かることはあった。
(きっとこの子は、タマみたいにヤンチャして怪我したりしない、女の子らしい女の子なんだろうなぁ)
男子より男子っぽい、と球子は自分を分析している。親や教師から女子らしく、女の子なんだから、と何度も言われた。"それ"を望まれていることは理解できても、それを実行できるとは思えず、実行する気にもなれずに聞き流してきた。
そんな中で、球子は徐々に女子らしい女の子を高尚なものとして見るようになり、それからかけ離れた自分に引け目を感じるようになってしまった。
そんな球子が、命がかかった緊急事態に出会った杏という子は、球子が想像する女の子の理想を形にしたような存在だった。怪物に通じる武器を見つけたこともあって、球子は使命感に近い感情に従い、杏を後ろに、怪物に立ち向かう。
(この子を守れるなら、走り回ってばっかだったタマのこれまでにも意味があったってことだろ!)
気合いを入れ直し、杏だけでも逃がそうと、球子は背後に声をかける。
「オーイ、あんず! そろそろヤバそうだ! 今のうちにここから離れろ‼︎」
急に声をかけられ驚いたのか、杏は過剰に体をビクつかせてから、恐る恐る答える。
「……で、でも……土居さん1人で……」
「なーに、大丈夫! 杏が離れてしばらくしたら、タマも逃げるさ! ちょっと足止めするだけだ、タマに任せタマえ‼︎」
杏は悩む。確かに逃げたい。だが、自分を庇ってくれた球子を置いて行っていいのか? 武器を持っても戦えない自分がいても足手まといでは? そもそも逃げた先にも怪物がいるのでは?
様々な思考が湧いては消え、結果として杏は前にも後ろにも足を踏み出せなかった。
再び球子が声をかけようとしたが、鳥居の奥からの轟音でかき消された。これまでの数倍の怪物が社になだれ込んできたのだ。
予想外の数に歯をくいしばる球子。ますます硬直して動けない杏。2つの餌に飛びつこうと怪物が突っ込んできた、次の瞬間
「ウオアアアアアァァァ‼︎」
怒声と共に、怪物の群れの横っ腹に、別の白い影が突っ込む。それは怪物の何体かを殴り飛ばし、蹴り潰し、最後に奥にいた怪物に吹き飛ばされて着地した。
「なんっ、なんだぁ⁉︎」
「人? ……じゃない?」
「おっ、やっぱりいた! やっと人に会えたよ」
突然の襲来者に警戒を露わにする2人に、その容姿からは想像もできない友好的な声色で話しかける白い異形。まだ自分が人から見たら
「ヒッ‼︎……しゃ、喋った……?」
「オッ、オイ! お前、何なんだ! あんずに近寄るな!」
2人の様子に、初めて自分の状態を自覚した異形は、少し逡巡した後、2人に背を向けた。ほんの少し、ショックを受けたように仮面の奥で溜め息をもらしたことには球子も杏も気付かなかった。
「あー、ゴメン。このナリじゃ怖いよな。分かった、2人には近づかない。だからとりあえずあいつらを倒すまで下がっててくれるか? 落ち着いたらちゃんと話をしたいんだ」
背中越しでも2人の困惑した様子は伝わるが、今は時間がない。倒すと言ったが、ざっと見積もって50匹はいる。1匹も後ろに通さない、という条件をつけると、今の彼には無理難題と言える。
それでも、逃げるわけにはいかない
遠くどこかからの爆発音と同時に、白い異形と白い怪物は激突した。
突如現れた異形はとりあえずこっちを襲っては来ないと判断した球子は、杏のそばまで退がり、盾を構えながら様子を伺っていた。
異形の戦い方は危なっかしい。少なくとも球子にはそう感じられるものだった。手前の敵に噛み付かれても、遠くの敵を蹴り倒そうとする。囲まれても、距離を取ろうとせず、むしろ前に出て距離を詰める。ひどく違和感のある、自分の危険を度外視した戦い方に、怯えながら見ていた杏の方が先に気づいた。
「……もしかして、後ろに通さないようにしてる……?」
「ど、どういうことだ?」
「あの人……人でいいのかな? 土居さんが戦えてたことを知らないから、私たちのところに怪物が届かないようにしてるのかも……」
「……言われてみれば、なんか無理にたくさんの敵を一度に相手してるように見えるな」
見た目のあまりのインパクトに警戒していたが、あの異形は一貫してこちらに敵意を向けていない。というか、振る舞いが妙に人間っぽくて、違和感がすごい。
そこまで考えて、もともと考えることが苦手な球子は、思考すること、警戒することをやめた。
「あんず、ちょっとタマ行ってくる。ここで待っててくれ!」
「あっ、ど、土居さん!」
考えて分からない時は直感を信じる。それが土居球子の生き方だった。
(手詰まり気味だ……どうしたものか……)
伍代陸人も焦っていた。だが、彼の顔は仮面の奥にあるので、元々表情豊かな彼の焦り顔は誰も見ることはなかった。
ここに来るまでの道程で、この姿のスペックは大体把握できた。1番の懸念だった空を飛ぶ敵への対処は意外と簡単にクリアできた。ジャンプ力、滞空時間が生身と比較して殊の外優れていたのだ。走りながら、出くわした1、2匹を飛び上がって殴る。子供の体の非力さに苦しんできた彼からすれば、パンチ力も悪くない。陸人には難しくもない作業だった。
だが、群れと正面からぶつかることになって、陸人は自分の見積もりの甘さに気づく。
まず、飛び上がれない。ほぼ密集した敵の群れがいるせいで、ジャンプ中という無防備を迂闊に晒さないのだ。
隙を見て飛べても、自分の想定通りのコースを飛ぶ間に横から攻撃が来る。もしくは滞空時間中に叩き落される。
ならば近寄ってきた敵にカウンター、という手も考えたが、待ちの姿勢に出ると、敵の一部が奥の2人に向かおうとするのだ。奴らに戦術的思考があるようには思えないが、恐らく目の前の危険に対処するか、食べられそうな餌に食いつくしかできないのだろう。
こうなると多少無理をして突破を試みる個体を倒すしかない。そして無理な体勢の隙を突かれてダメージを負う。当初の見積もりから大きく外れて、敵の殲滅ペースとこちらの消耗が釣り合わなくなってきていた。
こうなったら適度に気を引きつつ2人から引き離すしかないか、とやっと見つけた生存者との情報交換を諦めることも考えた時、
「うおぉぉぉっ‼︎ いっけぇ‼︎」
背後から飛んできた盾のような板のような何かが、敵を数体まとめて吹き飛ばした。
「1人でやらせてゴメン! ここからはタマも協力するぞ!」
「……有り難いけど、いいのか? 我ながら今の俺は不審だと思うんだけど」
「大丈夫! お前は信じられるヤツだって決めた! タマが、今‼︎」
「──ッ! ありがとう……」
陸人は素直に驚いた。こんな小さな女の子が怪物に通用する武器を持っていたことより、それを使って彼女が戦おうと決意したことより、こんな自分をこの短時間でロクに言葉も交わさずに信じてくれたことが驚愕だった。
「タマは土居球子、向こうにいる子は伊予島杏。よろしくな、仮面さん!」
「か、仮面さんって……一応れっきとした人間だからね? 伍代陸人。伍代でも陸人でも、まあ、仮面さんでも好きに呼んでくれ、土居さん」
「あっ、やっぱり人間だったんだな、しかも声や話し方からして、そんなに年の変わらない男子と見たぞ! どうだ?」
「えぇー? 俺もう6年生だよ? 土居さんは1年か2年でしょ?」
「んなっ⁉︎ タマは5年だ! 1個しか違わないぞ!」
「ありゃ、ゴメン。小さくて可愛いから、つい」
「ち、小さいとか可愛いとか、子供扱いすんな〜!」
球子の不意の一撃に怯み、怪物たちは距離を取った。そのわずかな時間でコミュニケーション能力に長けた2人は急速に距離を縮めていた。
「大人ぶりやがって〜、1個上でも敬語使ってやんないかんな! 陸人!」
「ああうん、その方がいいな。俺も球子ちゃんって呼ぶよ。ヨロシクね」
怪物たちが再び仕掛けて来るのと、2人の距離が名前呼びを許容する域まで縮まるのはほぼ同時だった。
「俺が前に出る! 球子ちゃんは抜けそうになった敵を狙ってくれ!」
「任せろ陸人! 2人であんずを守るぞ!」
白い怪物VS白い異形&小学生女子、第3ラウンドが始まる。
伊予島杏は落ち着いていた。先程までは誰よりも怯えて焦って追い詰められていたのだが、前で戦う2人の和みっぷりに引っ張られるように気持ちが安定してきたのだ。
光速で異形との距離を縮めた球子には大きな羨望を、穏やかに球子と話す異形には小さな信頼を、杏はそれぞれ抱いた。そして今、2人の実に見事な連携には、喧嘩の経験もない杏でさえも尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
「球子ちゃん! 右だ!」
「あいよぉ! アイツだな!」
異形が前に出て気を引きながら近い順に数を減らし、球子がマークから外れた敵を処理する。言葉にすれば簡単だが、戦闘経験のない球子には、誰が突出してきている敵か判別することすら難しかった。
最初の数合でそれに気づいた異形が即座に作戦を変更。合図をしたタイミングで、指定した方向で自分から一番遠い敵を狙うように指示。球子が考えるパートを可能な限り削ることにした。これにより球子の援護は冴え、フォワードの異形の肉体的負担も減り、何より異形の頭脳労働の比率が倍マシになった。
しかしそれを難なくこなす異形の的確な指示と、出会ったばかりとは思えない2人の息の合わせっぷりで迅速に怪物の数は減っていく。
異形の戦い方は弱い者が知恵と工夫で強い者に勝つための戦い方だ。それを感覚で理解した杏は、球子とは別のアプローチで異形の正体に確信を持ちつつあった。彼はきっと、今の力を手に入れて間もない、恐らく子供だと。
「これで!」
「終わりだぁ!」
落ち着きを取り戻し、様々な方向に思考を働かせていた杏が気付いた時には、異形と球子の同時攻撃で最後の1体は撃破されていた。
「よし、片付いたな。怪我してないか? 2人とも」
「陸人の方がよっぽど攻撃受けてただろ? タマはなんともないよ。杏は大丈夫かー?」
2人の様子を見るに大事ないようだ。杏が心配ない、と頷く。無事を確認した異形がホッとしたように仮面の奥で息を吐くのを、今度は杏だけが見逃さなかった。
それを見た杏の中に残っていた警戒心が霧散していくのに、球子だけが気づいていた。
「さて、ちょっと休んだらお互い分かることを教え合おう。この状況も、あの怪物も、何なら俺の格好も、分からないことだらけなんだ。子供だけでどこまで身になるかは不安だけど」
「なーに、大丈夫さ、三人寄ればブンタマの知恵、ってな! 難しい言葉知ってるだろ〜、タマの字が入ってるから憶えてるんだ」
「……土居さん、それを言うなら
「んなぁにい⁉︎」
「……球子ちゃん……」
ブンタマはねーよ、と陸人は思った。それを口にしないだけの優しさが彼にはあった。
球子の国語力が、諸事情で日本語の学習が大きく遅れている陸人以下であることが判明した瞬間だった。
長くなったなぁ。
戦闘描写が書けなくて、第三者からの視聴感想的な形でお茶を濁すクソ作者……私です。
次回(いつになるかなぁ)お楽しみに