A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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 勢いで二話目投稿……

 この時間ならだれも見ないはず……


零章2話 合流

「……とまぁ、そんな訳で、俺は成り行きでこの姿になって、とりあえず敵を減らしながら人を探そうと思ってね。怪物が集まってるここなら誰かいるかと思って来たんだ。まさか他にも戦える武器を持った人がいるとは思わなかったけどね」

 

 戦闘から少し休息を入れた後、陸人の提案通りに情報交換を行う3人。陸人は、家族を目の前で殺されたこと以外は全て包み隠さず伝えた。彼なりに今言うべきことを吟味した結果である。

 

「なるほど、お兄さんの贈り物の力でねぇ……古〜い石にそんなことができるなんて、タマげたなぁ」

 

 言葉ほど驚いているように聞こえない球子の言葉。余りに理解不能な現象の連続に、半ば思考を諦めているように見える。

 

「私のクロスボウは、ここの社で見つけたものなんです。土居さんも、神社で見つけたって言ってましたよね」

 

「ああ、なんとなく入った神社で、なんとなく奥に向かったらそこにあって、なんとなく気になって拾ったんだ」

 

「私も同じような流れです。なんだか変な話ですね。いや、今の状況で変じゃないことなんてないですけど」

 

「変な話って言えばこれ拾った後に真鈴さんっていうお姉さんに会ってな、声が何とかとか、お告げがどうのって、タマはここに行くように言われたんだ。あれ、何だったんだろうな~」

 

「お告げ? よく分かんないけど、その人なら何か知ってるんじゃ……どこにいるとか分かる? 球子ちゃん」

 

「いんや、とにかく急いで、って言われてタマ飛び出しちゃったからな~。会ったのは家の近くだったけど、今は移動してるんじゃないか?」

 

「……そっか、どこにいるかわからない人をこの状況で探すのは危険かな?」

 

「そうですね。気になる話ですけど、すぐに見つかる保証もないですし」

 

 話し合いに飽き始めて眠そうな顔をする球子と、数少ない情報を整理する杏と陸人。二人間の雰囲気も多少は気安くなった……まだ物理的に距離をとってはいるが。

 

「本当に変なことばかりだよなぁ。まったく、なにがどうなってるんだか」

 

「お前が一番変なんだよ!」

「貴方が一番変なんです!」

 

「おお、ダブルツッコミ……だがまぁ、だいぶ元気出たみたいで、良かったよ。伊代島さん」

 

「あ、ありがとうございます、気を遣ってもらっちゃって……」

 

「なんだよ、今のボケだったのか……分かりづらいぞ陸人」

 

 まぁ、こんな風に向こうからマメに気遣いが飛んでくれば、警戒し続けろと言うのは、小学生の杏には無理な話だ。

 

「真面目な話さ、もうそろそろその格好も見慣れちゃったけど、1回人間の姿見せてくれないか? 今のお前に陸人、って話しかけるの、違和感があるんだよ」

 

「そうですね。今さら疑うつもりはないですけど、伍代陸人さんの顔を見て、仮面の奥はこう言う顔なんだ、っていう自分の中の落ち着きどころ? が欲しいです。ダメですか? 伍代さん」

 

 結局現状について建設的な情報はほぼ出ないという結論が出た本会議の話題は逸れて曲がって陸人の素顔の話に移る。

 2人の提案に、陸人は仮面の奥でウムム、と唸る。

 

「……いやー、俺もできたらそうしたいんだけど。実はこれの解除の仕方がわからないんだよね。無我夢中で付けて、気づいたらこれだったから」

 

「そっかー。ってそれ、もしかしてもう戻れないとかじゃないだろうな? そのままじゃご飯も食べられないぞ!」

 

「あー、その辺深く考えてなかったな。でもまぁ、多分大丈夫だろ」

 

「そんな適当で大丈夫なんですか? 一度付けたら外せない、呪いのアイテムとか」

 

「うーん、いや、それはないと思う。雄介さんは、俺にそんな危険物送ってくる人じゃないし。この格好見れば、いやお前それ危険物だろ、って言われても否定できないけどさ。多分雄介さんも俺に持たせたのは苦肉の策だったんじゃないかなって」

 

「クニクノサク?」

 

「仕方なくとか、そうするしかなかった、って意味ですよ。土居さん」

 

 球子生徒のための(一学年下らしい)杏先生の日本語教室をよそに、陸人はベルトについて考える。

 

(そうだ。あの人は不思議なことを色々知っていた。今回の異常もある程度知っていて、対抗策として考えられるのが俺しかいなかったのかも。そう言われれば納得できる。少なくともこの国で俺より適任なんて、捜しても数人だろう)

 

 自分なりに仮の結論を見出し、思考を取りやめ、二人の様子を見る。大分心身共に回復しているようだ。身を守る術もあるし、これなら大丈夫だろう。

 自分の中で結論付けた陸人が喫緊の課題をあげる。今後の行動指針だ。

 

「さて、これ以上話し合っても意味はなさそうだし。そろそろ動こうと思うんだけど。2人はどうする?」

 

 急な話題展開に若干戸惑う杏と球子。

 

「えっと、動くっていうのは?」

 

「俺はこれから他の生存者を探そうと思う。あいつら数は多いけど、それほど早くないから、逃げ延びた人は他にもいると思うんだ」

 

「そういうことならタマも行くぞ! せっかく戦える力があるんだしな!」

 

 

「わ、私は……」

 

 2人の迷いない言葉に、杏は黙り込む。一緒に行くと言う勇気も2人と別れる覚悟も持てずにいるのだ。

 それを見た陸人は杏が怯えないギリギリの距離で声をかける。

 

「伊予島さん、俺たちや他の人のことは気にしなくていい。自分が生きるために決めてくれないかな?」

 

 陸人は杏がどう答えてもここに置いて行くつもりはさらさら無かった。残るというならもっと安全なところを見つけるまで、杏も球子も徹底して守る心持ちだった。ただ今後のために、戦う力がある彼女には形だけでも自分の意思を固めてほしかったのだ。

 陸人は過去の経験上それが必要だと確信していたが、球子にはそれが責めているように映ったらしい。

 

「おい陸人、そんなこと聞く必要ないだろ。あんず、心配するな。タマが絶対に守る。だから一緒に行こう」

 

「……土居さん……」

 

 ストレートな球子の言葉に頷く杏。それを見た陸人は自分のミスを悟った。

 

(あの時と今は違う。俺たちのルールを普通の小学生に求めるなんて……)

 

 久々の非常事態に、無自覚に焦っていたらしい。頭を冷やそうと空を見上げる陸人をよそに二人の雰囲気は和やかになる。

 

「タマのことはタマ、って呼んでくれていいぞ、あんず。それか他にあだ名を考えてくれても、いいんだぞ~?」

 

「……えっと、じゃあ、タマっちとか……どうかな?」

 

「おお、いいじゃないか! じゃあせっかくだからタマっち先輩、って呼んでくれタマえよ!」

 

「えっ、と……せんぱい、先輩かぁ」

 

「あ、あれ? 先輩、嫌か? そう呼ばれるの憧れてたんだけど」

 

「球子ちゃんと先輩って響きのかみ合わなさに戸惑ってるんじゃないの?」

 

「なんだとー?」

 

 傍から聞いていた陸人は、杏の表情から何か事情があるのを何となく察し、ひとまず話を進めるために球子を茶化しながら会話に入る。この短時間で2人との関わり方を把握しつつある、機微に聡い男だ。

 

「じゃあひとまず3人で住宅街のほうから回ってみるってことでいいかな?」

 

「あ、その前にここの山頂から全体の様子をうかがってみませんか? 敵は飛んでるわけですから、入り組んだ街に入る前にあたりをつけたほうがいいかも……」

 

 本人は何気ない提案だっただろうが、陸人はその発言に静かに驚いていた。先ほどまでの態度からは結び付かない冷静な意見だったからだ。

 

(一度落ち着けばこの子はとても聡い。本当の意味で頭のいい子なんだな)

 

 杏の頭脳と球子の精神力は年齢不相応と言っていい。それぞれの短所を補える資質を持ち、信頼関係で結ばれた2人。この現実離れした状況では頼もしい資質だ。

 

 最初に2人と出会えた幸運を喜びながら、陸人は球子と杏を先導して、山頂を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 どこまで行っても悲鳴と血の匂いから逃げられない。どれだけ神様だか何だかの声に意識を向けてもこの2つだけは感覚に染みついて仕方ない。地獄の体現のような世界で、安芸真鈴はそれでも、数えきれない命を背負って道を進む。

 

「皆さん、こっちです! はぐれないようについてきてください!」

 

 真鈴の呼びかけに答える声はない。何を頼ればいいかわからない現状、さながら思考停止状態で真鈴に付いてきているだけで、誰もが希望を失いつつあった。そしてそれを一番強く感じているのもまた、真鈴だった。

 

「こんな状況、どうしろってのよ……アタシ普通の小学生なんですけど?」

 

 聞こえない様に呟く愚痴こそ年相応だが、その内心は自分にもっと頼りがいがあれば、説得力のある言葉を持っていれば、と後悔と自己嫌悪に満ちていた。

 

(あーあ、やっぱりあの時球子ちゃんに一緒にいてもらえばよかったのかなぁ? でもお告げの声の言うことだし……)

 

 一度自分を見失えば思い返すのは以前の自分の判断。その時は最善と信じたことでも、その後に追い詰められれば、人はどうしても後悔してしまう。そういう風にできているのだ。

 

 

 

 そんな非生産的な思考に沈んでいる真鈴の耳に、すぐ近くからの破壊音が飛び込んでくる。

 振り返った時にはすでに遅く、ついに追いつかれてしまったのだ。

 

「──ッ!! こっちです、逃げてッ!」

 

 神託の示すルートを先導して走る真鈴。この状況でも人を導く役目から逃げない彼女もまた年齢不相応な心の強さを持っているといえる。

 

 だからこそ彼女は想像することができなかった。死を間近にした人間の節操のなさを。

 生きたいという当たり前の権利を守るためなら、人間はなんだってできてしまうのだと。

 

 恋人を突き飛ばす男。

 捨て置かれた老人。

 転んだまま泣き叫ぶ子供。

 

「何よ、これ……」  

 

 真鈴は先ほどまでの怪物が人間を殺す光景を地獄だと思っていた。

 だが、だとすれば目の前に広がる光景は何なのか。

 

 人が人を殺す世界は、なんと表現すればよいのだろうか。

 

(これは……何? 誰が悪くてこうなったの? ……怪物? 私? それとも……人間?)

 

 あまりにも凄惨な光景に、真鈴の思考は加速度的に混乱していく。その中でも幼い子供の泣き声に反応して体が動く自分に、誰より彼女自身が驚いていた。

 

 子供を抱えて駆け出すも、子供の足でそんな無茶が通るはずもなく、足場を崩され倒れこむ。

 

「あーあ、何やってんだろうなぁ、アタシ。こんなキャラじゃないでしょうに……なんか神聖そうな声が私だけに聞こえる、なんて状況に舞い上がっちゃったか……」

 

 それで死んでちゃ世話ないでしょ、ダッサ……なんて呟きながらも体は子どもを庇うように覆いかぶさっている。彼女はどこまでも素直でなく、どうしようもなく上手に生きられない性分をしていた。これまでもこうして敵を作り、損ばかりしてきたのだ。

 そんな彼女をあざ笑うように、二人まとめて食らおうと口を大きく広げて怪物が近づいてくる。

 

「あー、ごめんなさい、神様……役立たずで……」

 

 

 

 その声が届いたのか否か。

 彼女にしては珍しく、助けてくれる誰かが、そこにいた。

 

 

「そんなことない、カッコいいよ。神様は分からないけど、俺は好きだな、君みたいな人」

 

 ドラマの口説き文句のようなセリフとともに、怪物を蹴り飛ばした白い異形は、真鈴たちを見て泣きそうな顔をしていた。少なくとも、真鈴にはそう見えた。

 

「……あ、えっと……」

 

「球子ちゃんから話は聞いてる。真鈴さん……だよな?」

 

「は、はい……あなたは、その……」

 

「あー、話はあとで。今はその子を離さず、じっとしててくれ」

 

 話すのも苦しそうな様子でそれだけ言うと、異形は敵に向き直る。

 

 

 あたりに広がる地獄を目にして、何かを振り払うように頭を振ると、異形は構える。

 

「行くぞ……! 出し惜しみはナシだ!」

 

 

 

 

 




 切りどころを見失い非常に微妙な終わりに……
 
 そろそろ0章は終わります……多分。

 次回お楽しみに

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