A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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 3話です

 ここまでは勢いで書けましたが、ここからペースはガクッと落ちるかと

(いるか分かりませんが)読んでくれている方がいたら申し訳ありません。たまに見かけたら覗く、くらいの気持ちで楽しんでもらえたらと思います。


零章3話 変身

「まったく、陸人のヤツ、1人で突っ走りやがって〜!」

 

「ハァッ、ハァッ……やっぱりすごいねあの姿。あっという間に見えなくなっちゃった」

 

 球子と杏は走っていた。何せ山頂から町の様子を一目見た瞬間いきなり「ゴメン、2人はここにいて!」の一言で陸人が町に飛んで行ったのだ。訳も分からず追いかけるも、特別な武器を持っているだけの小学生が追いつける速度ではない。

 

「あんず、ここらで少し休もう。怪物に出くわした時に走れません、じゃマズイだろ」

 

「ハッ、ハッ……うん、ありがとう……ごめんなさい、足引っ張っちゃって」

 

「気にすんな、守ってやるって約束したからな!」

 

 先程から似たような流れで小休憩を挟んでいる。球子1人ならもう少し早く進めるのは確かだが、今の最優先は杏なのだ。

 

「しっかし、陸人は何見てあんな焦ってたんだろうな」

 

「うん……多分あの姿は目もいいんだと思う。私たちじゃ見えない何かがあったんだよ」

 

 陸人の異形の不可思議っぷりに考えを巡らせながら、休み休み走り、2人はとうとう町にたどり着いた。

 それと同時に、2人は陸人の焦燥の原因を目の当たりにする。

 

 死。

 死。

 死。

 

 目の前に広がる数多の死。そしてそれを人間がもたらしているという現実。殺している下手人こそ怪物たちだが、そこにはあまりにも醜い人間同士の生存競争があった。

 

 聡い杏は、陸人が自分たちを置いて行った理由にも同時に気づいてしまった。

 

(そっか。伍代さんは、これを見せたくなくて1人で……)

 

 あまりの光景に絶句していた2人は、女の子の悲鳴で意識をそちらに向ける。その先にあったのは……

 

 白い異形が倒れ伏し、その姿が幼い男子に変貌する瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ヤバイな、意識が飛びそうだ……)

 

 白い異形は追い詰められていた。ここに来るまでにも10体ほどの群れと2度交戦している。どちらもガムシャラに突破し、かなりのダメージが蓄積されていた。そんな身体で、恐慌状態で留まっていることすらできない大勢の市民を守りながらの戦い。数分持ったのが奇跡と言ってもいい。

 

「──グッ‼︎ こんのぉ‼︎」

 

 1体片付けるまでに1発攻撃を受ける。総戦力の分母が違う以上、追い込まれるのは当然だった。

 異形の出現に一時行動を停止していた市民たちは、彼が窮地と見るや、またしても我先に逃げ出そうと狂乱を始める。

 

 そんな最中、1人の男性が怪物の群れからあと少しで抜け出せる、という所までたどり着いた。しかし彼は気づかなかった。人間の死角、頭上を捉える影があったことを。

 

 

 それを見た真鈴が声を上げるのと、異形が男性と怪物の間に飛び込むのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伍代陸人は夢を見る。そこには何もなく、陸人ともう1人、()()()()()()姿()()()()()()()()()()

 

「……みのりさん、じゃないな。あなたは──」

 

 問いかけようとして止める。この存在を自分の中に感じる。言葉にするのが難しい感覚だが、陸人は直感でこの姿の正体に気づく。

 

「……そうか。あなたは、あのベルトか」

 

「……気づいたか。それでどうした? この場を設けたのは、貴様が私に呼びかけたからだ。話があるのだろう?」

 

 声がみのりのものとはまるで違った。荘厳で、男とも女とも取れない中性的な声。しかも口調も尊大。年齢より幼く見えるみのりの姿ではあまりに違和感がすごかったが、それを飲み込み、陸人は口を開く。

 

「言わなくても分かるだろ。力が足りない。もっと強くなれないか」

 

「おかしなことを言うな。私は既に必要なだけの力は貸し与えている。貴様が引き出せていないだけだ。戦うことへの迷いが、貴様の中で力を燻らせている」

 

「俺が迷っている? そんなことは……」

 

「ない、とは言わせんぞ。貴様は確かに戦わなくてはならない、とは思っている。だが同時にこうも思っている。自分でいいのか、と」

 

「──ッ!」

 

「貴様の過去はおおよそ見せてもらった。私に人間の気持ちなど分からんが、過去を足かせに今を疎かにするなど愚かとしか言えんな」

 

 みのりの口から辛辣な言葉が続くも、陸人は何も返せなかった。

 

(結局、変われたと思ってもガワだけか。俺は、あの日からずっと止まったまま……)

 

 黙り込んだままの陸人を見るみのりの姿をしたナニカは、世話が焼ける、と言わんばかりにため息を1つつくと口を開く。

 

「貴様が迷っているのは事実。そしてここまであの2人の少女を守ってきたのもまた事実だ。人は生きている限り事実から逃げることはできん」

 

「──! ……俺は……」

 

「そしてもう1つ。貴様は兄が戦力として適任だと判断して自分を選んだと思っているようだが、あの男はそんな打算的な考えを家族に押し付けるような男だったか?」

 

「え……」

 

「思い返してみろ。貴様と兄が交わしてきた言葉を。人間は言葉でわかり合う生き物なのだろう」

 

 言われて陸人は記憶を探る。自分がさっきまで戦えていた理由の一つ。兄の夢を聞いたのは、いつだったか──

 

 

 

 

 

 ──俺はね、人の笑顔を見るのが大好きなんだ。こっちまで幸せになるっていうか。だから、みんなに笑顔でいてほしい。それが俺の夢かな──

 

 ──そう、なんだ──

 

 ──陸人は、どう思った? あの人達の笑顔を見て──

 

 ──俺には、よく分からない。前にいたところじゃ、感情なんて邪魔なだけだって教わってきたから──

 

 ──……そっか──

 

 ──でも──

 

 ──うん? ──

 

 ──あの人たちを見て、笑顔は幸せの象徴なんだって、笑顔で生きることはきっと、誰もが許された権利なんだって。そう思った──

 

 ──そっか、そうだね──

 

 ──うん……雄介さん、俺にも夢ができたよ。俺は———

 

 

 

 

「……思い出したか」

 

「……ああ、ありがとう。いつの間にか忘れてたんだな。俺が俺になった、あんな大切な思い出を」

 

「私の力は、責任意識や義務感だけでは引き出せん。自分自身から湧き上がる思いこそが、力を引き出すのだ」

 

「今ならやれる気がする。ありがとう、俺は行くよ」

 

「そうしろ。手遅れになって泣くなよ」

 

「手厳しいね……また、会えるかな?」

 

「さあな……だがまあ貴様が腑抜けたら、また喝を入れにきてやろうか?」

 

「ははは……それじゃあ、当分は大丈夫そうだな」

 

「ふん……最後に、あの姿の名前を教えておこう。名を知るか知らないかで、自ずと心の持ちようも変わってくる」

 

 

「名前、か……そうだな、教えてくれる?」

 

「"クウガ"だ。貴様らの国の言葉では、空に我で空我(クウガ)だな。時代を超え、世界を超え、戦い続ける戦士の名だ。決して忘れるな」

 

 

「……クウガ、か。ありがとう、忘れないよ。それじゃ、また」

 

 

 

 

 尊大な口調とは裏腹に日本語表記まで教えてくれる丁寧さに苦笑しながら、陸人は夢の世界から出るために瞳を閉じて意識を集中する。

 

 

 

 ──ガンバレ、陸人くん──

 

 最後に、もう2度と聴けないと思っていた姉の声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「──オイ、陸人‼︎ こんなところで寝るなよ‼︎」

 

「……球子、ちゃん? 伊代島さん……」

 

「伍代さん! ……良かった、起きてくれた」

 

 球子は倒れた陸人を物陰に引っ張りこみ、杏は傷口を濡れタオルで拭いながら、声をかけ続けていた。

 そこにはかなり大きな建造物があったらしく、瓦礫の間に隠れるだけで、陸人と球子と杏、さらには真鈴と彼女に着いてきた十数人が隠れても見つからないスペースがあった。

 

「ありがとう、守ってくれてたんだな」

 

「ちょっ、待て‼︎ まだ動くなって!」

 

「大丈夫。見た目ほど体は弱ってないし、さっきまでより多分強いよ、今の俺は」

 

「何を言ってるんですか⁉︎ いいからジッとしてて──」

 

 なんか平気そうな顔で動いているが、体のあちこち、それこそ頭や首からも血を流し、手足に至っては何箇所か折れているザマだ。それでもなお戦おうとする陸人と、それを止める球子と杏。そんな3人をずっと黙って見ていた真鈴が、ふと口を開いた。

 

「……なんで、そこまでするの? ……あそこにいる人たちがやったこと、見てたでしょ? あなたがそんなボロボロになってまで守る価値があるとは私には思えない」

 

 安芸真鈴は、本来こんなことを言う少女ではない。めまぐるしい状況の流転に、幼い心が悲鳴をあげた、一時的な弱音だった。

 

 真鈴の言葉を聞いた陸人は、真鈴の正面にしゃがみ込み、目線を合わせる。

 

「そうだね。俺もそれなりに人間の汚い部分は何度も見てきたから、気持ちはわかるよ。でもさ、人間は汚いところがあって、綺麗なところもあって、そういうものじゃないかな? 汚いだけの人間も、綺麗なだけの人間もいない……俺はそう思う」

 

 幼少期を悪意が染み付いた世界で過ごし、その後雄介に連れられ、命が美しく輝く場面を何度も見てきた陸人の結論だった。

 

「そのどっちが本当の姿か、正解は分からない。けど、俺はどうせなら人間は本当は綺麗なものなんだって思いたい。その方が世界も綺麗に見えるだろ?」

 

 真鈴も、球子も、杏も、隠れていた他の市民も、黙って陸人の言葉を聞いていた。

 

「今どうしようもなく汚く見えても、いつか綺麗に輝く瞬間があるかもしれない。死ぬっていうことは、その可能性を閉ざすことなんだ。俺はそれを理不尽に押し付けるアイツらを放っておくことはできない」

 

 隠れていた市民の中、陸人が目覚めてからずっと、自分の鞄を漁り何かを探していた少女が、陸人に駆け寄ってくる。よく見ると、先程真鈴がかばった子供だった。

 

「これあげる! おにいちゃん、あたまからちがでてるよ?」

 

 そう言って少女が差し出したのは、一つの絆創膏。額の傷から派手に血が出ているのを見て、持ってきてくれたのだ。

 

「ああ、ありがとう、助かるよ…………うん、これでもう大丈夫。本当にありがとうね。さ、お母さんのところに」

 

「うん! おにいちゃんも、さっきはたすけてくれて、ありがとう!」

 

 傷口を軽く拭ってから絆創膏を貼る陸人。それを見た少女は最後に頭を下げて、母親の元に戻っていく。

 よく見ると、隠れている市民の間で、応急処置や飲み物のシェアなど、互いを助け合う姿がちらほら確認できた。

 

「ほら、みんな最初はあんな風に純粋な命だったんだ。今でも隣の誰かを気遣って一緒に生きようとする人だっている。俺はこの輝きを守りたい。それだけのことなんだよ」

 

 そこまで言うと、陸人は立ち上がり、怪物たちのいる方へ足を向ける。その道を塞ぐように立っていた球子と杏も、どうすればいいか分からない、というように所在なさげにしていた。

 

「大丈夫。俺は死んだりしないよ」

 

「……だけど、だけどさ……!」

 

「そんな身体で……伍代さんがそこまですること……!」

 

 泣きそうな顔で弱々しく言葉を返す2人。陸人は苦笑して2人の頭を撫でる。

 

「俺はさ、人が笑顔で生きることは、みんなに許された当然の権利だと思ってる」

 

「……え?」

 

「伍代さん……?」

 

「だから2人にも笑ってほしい。みんなでこの状況を切り抜けられたら、その時はとびっきりの笑顔を見せてくれ。俺はその笑顔を見るために、絶対に死なないからさ」

 

 そう言って笑う陸人の顔を見て、2人は何を言っても止められないことを悟った。

 

「──っ! わかった、わかったよ! 約束だ、絶対に死ぬなよ! 約束破ったらず〜〜っと引きずってやるかんな!」

 

「生きてください。私、もっと伍代さんとお話ししたいこと、たくさんあるんです……」

 

「おう、約束だ。絶対に守る……だから見ててくれ……俺の、変身……!」

 

 そう言って駆け出す陸人の背中に、それを見ていた誰もが光を見た。

 美しく生きている人だけが発する、生命の輝きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪物たちは、平等に人を喰らっていた。突き飛ばされた人間も、突き飛ばした人間も、見捨てられた人間も、見捨てた人間も。

 その場にいる人間のおよそ半分が死体に変わった頃、仕留めたはずの邪魔者が再び現れた。

 

 

「お前たちが何者で、どんな理由で人食ってるのかは知らない。けど……死んでもいい人なんて、どこにも存在しない!」

 

 その言葉に、残る市民たちが陸人を見る。自分たちの姿を見て、陸人の姿を見て、自分たちの行動の醜さに気づき、陸人の言葉の美しさに気づいた。

 

 

 

 

 ──俺にも夢ができたよ。俺は──

 

「いつか輝ける可能性に満ちた人の命を守りたい。だから俺は……!」

 

 その言葉とともに、陸人は両手を下腹部に構える。すると、異形のきっかけとなったベルトが現れる。その中心は、赤く輝いていた。

 

 左手をベルトに添えたまま、右手を左前方に伸ばす。その一挙手一投足に、人も怪物さえも、みんなが注目していた。

 

 右手を左から右へ動かすと同時に、ベルトに添えていた左手もベルトの左端へ動かす。両手の動きを止めた陸人は、まっすぐ敵を見据えて叫ぶ。

 

「────変身ッ‼︎────」

 

 その言葉の直後、左手と右手を重ねて、ベルトの左端に当てる。

 次の瞬間、ベルトから大きな駆動音のような音と、これまでにない輝きが発せられる。

 両手を腰の高さで広げた陸人は、その輝きに飲まれ、みんなの視界から消える。

 

 輝きが収まったその時、そこには1人の戦士がいた。

 

 先程までの異形よりも長く伸びた頭部の触角。赤い両眼。上半身を包む鎧は赤く、力強い印象をもたらす。

 

 クウガ マイティフォーム

 

 戦う意思と願いを固めた、本当の戦士の姿である。

 

 

「出し惜しみはナシだっ‼︎」

 

 怪物の群れに飛び込むクウガ。先程までと同じ戦法だが、決定的に違う部分がある。クウガのスペックだ。

 走り込む速さ。飛び上がる高さ。最高到達点までの速さ。攻撃の威力。敵の攻撃に耐える防御力。ジャンプ、殴る、攻撃を防ぐ、着地、ジャンプ、蹴る、と繰り返す。時折空中の敵を足場にさらに高く飛び上がり、上から敵を狙う、といった戦法も見せる。全てが白いクウガを上回り、あっという間に先程追い詰められた群れを殲滅してみせた。

 

 次の群れへ向かうクウガ。彼を見る真鈴は、そこで新たなお告げを聞いた。

 

「──っ! これを伝えればいいの? でも、私さっきあんなこと言っちゃって……」

 

 真鈴は後悔していた。陸人の言葉を聞いて、陸人の戦いを見て。人間の汚い部分を初めて見て、人間の価値を信じられなくなってしまった。そんな自分を恥じている真鈴に、球子と杏が声をかける。

 

「真鈴さん……陸人の言ってたこと、難しくてタマはよくわかんなかった。けど、アイツは失敗するな、とか人を悪く思うな、とかそういうことを言ってるわけじゃないのは分かるぞ。だから真鈴さんのことだって、陸人は絶対信じてる。何か教えられることがあるなら、伝えてやってくれタマえ」

 

「安芸さん……私も自分が情けないって思ってます。戦う力があって、なのにその勇気がない。だけど伍代さんはそんな私を守るって言ってくれました。お願いします。伍代さんを助けてください」

 

 2人の言葉に、今の自分の役目を自覚した真鈴は、球子と杏に付き添われ、瓦礫の陰から姿を現した。

 

 

「クウガ‼︎ "邪悪なる者あらば 希望の霊石を身に付け 炎の如く邪悪を打ち倒す戦士あり"‼︎」

 

 突然の小難しい言葉に、集中が途切れて隙を晒すクウガ。なんとかその場を切り抜けた彼の耳に、続く言葉が飛び込む。

 

「希望の霊石、っていうのはそのベルトの中心の石! 多分、貴方の思いに応じて、ベルトが力を与えてくれるっていうことだと思う‼︎ 違ったらごめん‼︎」

 

「分かった! なんかしっくりきたから多分それで合ってる! ありがとう真鈴さん!」

 

 なんともアバウトなアドバイスになってしまったが、陸人はこの状況で真鈴が勇気を振り絞って伝えてくれたこと自体が何より嬉しかった。少なくともモチベーションアップにはなったようだ。

 

 真鈴の声は、市民にも響いていた。彼らは好き好んで他人を攻撃したいわけではない。生きたい、という欲望に抗う強さがなかっただけだ。だが、そんな彼らよりも幼い子供たちが、勇気を見せてくれたのだ。

 彼らは特に打ち合わせることもなく、自分の近くにいる動けない人を抱えて離れる。クウガの邪魔にならないように。そして離れた先では、できる限りの応急処置が行われていた。

 

 人は誰もが輝ける。その光景に、つい先程まで地獄を見ていた真鈴、球子、杏はどこか呆れたような顔をしながら、間違いなく喜んでいた。

 

「なーによ、できるんなら最初からやればいいじゃない」

 

「まぁまぁ、今いい感じなんだから、それでいいじゃんか。なぁ、杏?」

 

「そうだね。人を信じる伍代さんは、間違ってなかったんだって。私も思うよ」

 

 人はあっさりと黒に染まる。それと同じように、白く染まるのだってあっさりとしたものなのだと、少女たちは学んだ。

 

 

 

 

 市民の行動にますますテンションが上がったクウガは、当初の1/5ほどにまで敵の数を減らすことに成功した。

 そのタイミングで、怪物がこれまでにない行動を取っていることに気づく。

 

「群れ同士で、まとまっている……?」

 

 数体〜十数体でまとまっていた群れが、一箇所に固まり始めた。ほとんど敷き詰めるような状態の怪物たちは、足並みをそろえてクウガに突っ込んでくる。

 

(なるほど、質量で押しつぶそうって訳か)

 

 

 そうなるとこちらも大威力の一撃が必要になる。そこで先ほどの真鈴の言葉を思い出す。

 

(思いにベルトが反応する……なら、これは?)

 

 腰を落とし、右足に意識を集中するクウガ。同時に体内で何らかのエネルギーが右足に収束していくのを感じる。

 収束が完了したのを確認したクウガは、向かってくる怪物の群れに、正面から走り込む。

 

 見ていた誰もが焦りの表情を浮かべる中、クウガは高く飛び上がる。

 

 

「オオリャアァァァッ‼︎」

 

 

 空中で右足を突き出し、群れに飛び蹴りを打ち込む。

 群れにぶつかってもその勢いは衰えず、そのまま群れを突き抜ける。

 クウガが着地した瞬間、全ての怪物が爆散した。

 

『マイティキック』

 

 どこかの世界で、戦士クウガが、最も多用した必殺技である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆風が収まり、振り返ったクウガは、珠子や杏たちが、こちらを不安そうに見ていることに気づく。そこで彼はかつて兄に教わった仕草を思い出した。

 

 みんなに向けて右手を前に出して親指を立てる。

 "サムズアップ" 古代ローマで、満足できる、納得できる行動をした者にだけ与えられる仕草らしい。

 その意味を知る者がいたかは定かでないが、それを見てとりあえず安心してくれたらしい。 陸人自身も息を抜き、変身を解いた次の瞬間……

 

「……うおっ、アレッ⁉︎」

 

 見事に倒れた。いきなりベルトの力を過剰に使いすぎた影響だろうか。疲労感が凄まじい。しばらく自力で立つのも難しそうだ。

 要訓練だな、と気を引き締める陸人。ふと地平線を見ると、ずいぶん久しぶりに見たような、太陽がそこにあった。

 

(夜明け、か……この世界の夜は、これから長いんだろうな)

 

 それでも、と陸人は覚悟を決める。

 

「雄介さん、みのりさん……俺は戦うよ。自分の夢のためにも、命を守る」

 

 

 慌てて駆け寄る珠子と杏の声を聞きながら、陸人は家族に誓いを立てた。

 

 

 

 

 

 




 間違いなく切りどころを間違えました。

 二話に分けるか、前半を前話に入れるべきだったなぁ

 しかし、アマダム様喋っちゃいましたね〜…

 設定のすり合わせに都合よく改変してしまいました。原作の物言わぬ力の塊であるアマダムが好きな方、大変申し訳ありません。

 たまーにですが、今後もアマダム様登場予定です。受け入れられない方はこんな作品のことは記憶から消して、クウガのDVDとか見てください。本当に素晴らしいですから!(ダイマ)

 次回、お楽しみに


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