A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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 いやぁ、まさかこの速度で1章1話が書けるとは……

 今の勢いが持続するうちにかけるだけ書きます。


一章1話 三年

 香川県丸亀城の敷地内にある訓練場にガン! ガン! と木刀がぶつかり合う音が響き渡る。

 

「──シッ‼︎」

「っと!」

 

 ぶつかり合うのは中学生ほどの年頃の男女。だが、かなり鍛えているこの2人の実践稽古は、大人どころか半ば人間離れしたものとなっている。

 

「──そこだ‼︎」

「グッ⁉︎」

 

 攻撃の後に起こる一瞬の隙。そこを突いた女子の一刀が男子の木刀を弾き飛ばした。勝負アリだ。

 

「今回は、私の勝ちだな、陸人」

 

「うん、参りました。ドンドン強くなるね、若葉ちゃんは」

 

「獲物を限定しないと、途端に勝てなくなるからな。刀に合わせてくれている時くらい必勝でなければならない」

 

「うん、俺も剣は使うし、これからもお互い切磋琢磨しないとね」

 

 勝利した少女、乃木若葉が、しゃがみこんでいる少年、伍代陸人に手を差し出す。それを掴み、陸人が立ち上がると、距離をとって一礼。稽古終了だ。

 

 一息ついている2人に、タオルと飲み物を持って近づく少女が1人。上里ひなたは、その頰を赤く染めながら笑顔で2人に話しかける。

 

「はぁ〜〜……やはり若葉ちゃんの稽古姿は凛々しくて素敵です。陸人さんもそう思いますよね?」

 

「あー、うん。流石に今の立会い中には若葉ちゃんの凛々しさまで見てられなかったけど、確かにカッコイイよね。剣も真っ直ぐで綺麗だし、すごいと思う」

 

「や、やめろひなた。陸人も、乗らないでくれ。ひなたが止まらなくなる」

 

「んー、聞かれたことに嘘はつけないからね。カッコイイのは本当のことだから」

 

「〜〜〜ッ‼︎ り、陸人!」

 

「さすが、陸人さんはよく分かってます! また今度、最新の若葉ちゃんコレクションを見せてあげますね?」

 

「なっ⁉︎ ひなた、まさか見せたのか⁉︎ アレを⁉︎ 陸人に⁉︎」

 

「ハイ! とても楽しんでもらえたので、特別に何枚かコピーをプレゼントしました」

 

「うん、何枚か俺のアルバムにも入ってるよ。幼稚園の頃の写真とか」

 

「す、捨てろ‼︎ 今すぐに」

 

「えー、でも仲間のことは少しでも多く知っておきたいでしょ?」

 

「……わ、分かった。なら後日、今の私の写真を撮って渡す。それと交換しないか……?」

 

「アハハ、そこまで言うならしょうがないか。じゃあ5枚、今度持ってきてね」

 

「それならその写真はこの私が……」

 

「却下だ! 自分で撮る!」

 

 この3人で話すと八割方若葉がイジられる。というのも、若葉ちゃん信奉者のひなたと、基本どんな人間も好意的に見る陸人の相性は、特に対若葉において、非常に良かったのだ。

 

 もちろんそれ以外でも、意外とクレバーな思考ができるひなたは、陸人にとって貴重な相談相手だった。1人だけ立場が違うこともあり、全てではないものの、仲間内で陸人の過去を知っている唯一の存在でもある。

 

 一方、若葉と陸人はどうなのかというと、こちらも良好だ。使命感に溢れる努力家の若葉と、自分の役目を重く捉えてしっかり準備する陸人は、仲のいいライバルとでもいうべき間柄となった。

 気高く凛とした若葉は、陸人の理想の人間像の1つであり、若葉もまた、陸人の評価に恥じない自分でありたいと意識している。

 

 リーダー役である若葉は、本当は自分より陸人の方が人をまとめるのに向いていると思っている。

 一方陸人は、みんなの味方をしようとしてしまう自分に様々な決断が求められるリーダーはムリだと自覚しており、慣れないながらもチームをまとめようとしている若葉を尊敬し、手伝いをしている。

 いつだって隣の芝生は青いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 稽古の汗を流し、準備を終え、共に訓練場を出る3人。

 取り留めのない話をしながら教室に入ると、やはりというべきか、他に誰もいなかった。

 

 それぞれの席に荷物を置き、雑談を再開しようとした矢先、

 

「どうだっ! 今度こそタマが一番……ってあれ⁉︎ 若葉もひなたも陸人まで来てたのか⁉︎ これまでで一番早起きしたのに……」

 

「おはよう球子、残念だったな。言っておくが私と陸人は朝稽古を終えてからここに来たんだ。つまりより早く起きているということだな」

 

「おはようございます、球子さん。私はお2人ほど早起きしたわけではありませんが、これ以上の早起きは、球子さんには厳しいのでは……?」

 

「なにおう! タマにかかれば、早起きなんて……早起き、なん、て……」

 

「おはよう球子ちゃん。もうこうなったら教室で寝泊まりするくらいしかないんじゃないかな? 許可取れるか分からないけど」

 

「ウムム……クッソ〜、覚えてろよ!」

 

「おはようございます……ってタマっち先輩また若葉さんに絡んでたの? そろそろ諦めようよ。教室一番乗りなんて誰でもいいじゃない」

 

「よくないぞ、あんず! 一番最初に教室にいるヤツって、なんかこう……ヌシ、みたいな感じするだろ?」

 

「全然わかんないよタマっち先輩……あ、そうだ陸人さん。この前の洋書、また分からないところがあって、良かったら教えてもらえますか?」

 

「おはよう杏ちゃん。見せてみて……あー、ここね。これは知らないと読めない表現だね」

 

 少し遅れて入ってきた球子と杏。陸人と最も仲がいい2人だ。

 

 球子と陸人は最早性差を感じさせないほど距離が近い。球子は一番背が高い陸人におんぶや肩車を平気な顔でせがむし、陸人も陸人で平然とそれに従う。

 

 一度だけ完全に陸人の性別を忘れた球子が一緒のベッドで寝ようと誘ってしまい、珍しく焦った陸人が部屋から走って逃げた事件は2人だけの秘密だ。

 

 一方杏は、最も陸人の性別を意識している相手と言える。お互いに下の名前で呼び合い、距離もかなり縮まった。だが、2人きりになると恋愛小説愛好家の杏の乙女モードが起動し、なんとも微妙な空気になる。球子と陸人と3人で手を繋いでもなんともないのに、2人きりの時に手が触れ合うだけで過剰に反応してしまう。

 

 訓練終わりに疲労で階段から落ちそうになった杏を陸人が助けようとして、お姫様抱っこをされた時、あまりの近さと体勢に杏が気絶してしまった事件は、2人だけの秘密だ。

 

「なんだよー、また本の話か? あんずもタマには外で遊んだ方がいいぞ? 体力もつくし楽しいぞ〜。な、陸人?」

 

「いいじゃない、好きなんだから。タマっち先輩こそ、もっと本読んで、文字に慣れないとますます成績落ちちゃうんじゃない? ねぇ陸人さん?」

 

「ハハハ、まぁお互い向き不向きも好き嫌いもあるのは仕方ないよ。球子ちゃんの勉強は、また俺も教えるし。杏ちゃんの体力も日頃の訓練以外にできるヤツ、新しいメニュー考えるからさ」

 

「うえ〜、陸人の教え方わかりやすいけど厳しいんだよなぁ」

 

「う、またメニューがレベルアップするんですね……」

 

 球子と杏は何もかもが正反対でだからこそ仲が良いのだが、そこに何もかもを許容し、自分なりのフォローを入れる陸人が加わることで、2人はお互いの苦手分野にも少しずつ手をつけ始めるようになった。そうしてまた距離が縮まっていく3人なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 そうしていつもの仲良しトリオが仲良しトリオをやっていると、静かに教室に入ってくる少女。郡千景。陸人と並んでこの教室の最年長である。

 

 彼女は教室の様子を一瞥すると、黙って自分の席に座って携帯ゲームの電源を入れる。彼女は基本いつもこの調子だ。他の者も挨拶こそするが、返ってこないことに慣れているため、今更取り立てて反応もしない。

 そんな彼女の顔を見た陸人は、球子と杏に一言断ってから席を立つ。千景の前に立つと、チョコレートと飴を差し出す。千景もため息混じりに受け取る。

 

「クマひどいよ、千景ちゃん。また徹夜? ゲームもほどほどにしたら?」

 

「……私の部屋で何をしようが私の勝手よ……あなたも目ざとい上に飽きないわね。私が徹夜するたびに毎度毎度……」

 

「そう言いながらすぐに食べてくれる千景ちゃん、俺は好きだよ」

 

「──っ! ゴホッ、ゴホッ……ば、馬鹿なこと言わないで……喉につまりそうになったわ……」

 

 

「ご、ごめん……大丈夫? 飲み物持ってこようか?」

 

「……いいから、放っておいてちょうだい……」

 

 千景はとりあえずで他人との距離を取るタイプ。

 陸人はとりあえずで他人との距離を詰めるタイプ。

 相性がいいとは言えないが、この教室の人数が少ないことと、陸人がとかく世話を焼くため、千景にしては珍しく拒絶しきれない相手なのである。

 

 陸人から見た千景は、保育士として働いていた、今は亡き姉が言っていた"家であまり親の愛情に触れられない子"に見えた。かつての自分に重なる部分が見えたこともあり、現在誰よりも気を使っている相手だ。不摂生な生活が続いた時には手料理を作ることすらある。

 

 その気遣いレベルは、共に過ごすようになった当初、一目惚れ疑惑が持ち上がったほどだ。何故か当人よりも盛り上がり、感情的になった杏の誤解を解くために三日三晩言葉を尽くしたのは良い思い出だ。

 

 

 

 

 

 

 

「おっはよー、みんな! ありゃ、私が最後かぁ」

 

 朝の千景差し入れ活動を終了して席に戻ろうとしたタイミングで、最後の1人が教室に入ってきた。高嶋友奈。陸人に負けず劣らずのコミュ力モンスターである。彼女は各々との挨拶を終え、荷物を置くと千景の席に向かってきた。

 

「おはよう、ぐんちゃん! りっくん!」

 

「おはよう、高嶋さん……」

 

「おはよう、友奈ちゃん。今日も元気だね」

 

「うん、私は元気だよ〜、りっくんは?」

 

「もちろん元気だよ、ヘーイ」

 

「ヘーイ!」

 

 特に意味もなくハイタッチを交わす陸人と友奈。そんな2人を羨望の眼差しで見つめる千景。友奈は、千景が唯一挨拶を返すほどに心を開いている存在なのだ。今のところ千景的距離が近いランキングの1位が友奈で2位が陸人だ。ちなみに3位以下はいない。ランキングに乗る最低水準を満たすものが他にいないのだ。だが、ドベ枠だけは若葉で埋まっている。

 

「あっ、ぐんちゃん。りっくんにお菓子もらったんだね? ってことはまた徹夜? ……ムムム、確かに目の下にクマが……」

 

「……た、高嶋さん、近いわ……」

 

「まぁその辺はもうりっくんが言っただろうから私は何も言いません。体調だけは気をつけてね?」

 

「……ええ、大丈夫。差し支えるようなことにはならないようにするわ……」

 

「うーん、やっぱり俺が言葉を尽くすより、友奈ちゃんの一言のほうが、千景ちゃんには効くんだねぇ」

 

「そんなことないよ。私はりっくんみたいに料理上手じゃないし。りっくんいつも部屋の前に置いて帰っちゃうから知らないだろうけど、りっくんの料理食べる時のぐんちゃん、幸せそうな顔してるんだよ?」

 

「……た、高嶋さん……!」

 

 陸人と友奈は人との付き合い方という面で見ると、非常によく似ていた。まず第一に他人、というスタンスを徹底している、珍しいタイプだ。そのせいか、当初は互いに気を遣い合った結果、意外なほど話が盛り上がらなかった。自分に似た性質の人間との付き合い方がわからなかったのだ。

 

 そんな2人の距離を縮めたのが、またもや意外なことに千景だった。彼女への接し方を見ることで、お互いの本質を理解した2人は、徐々に2人でも気安く話せる間柄へとシフトしていった。今や無意味にハイタッチである。ちなみに千景に貢献した自覚は全くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まもなく始業時間となり、全員が席に着き、授業が始まる。

 

 伍代 陸人  14歳 中学3年生 クウガ

 

 乃木 若葉  14歳 中学2年生 勇者

 

 上里 ひなた 13歳 中学2年生 巫女

 

 土居 球子  13歳 中学2年生 勇者

 

 伊予島 杏  13歳 中学1年生 勇者

 

 高嶋 友奈  13歳 中学2年生 勇者

 

 郡 千景   14歳 中学3年生 勇者

 

 この7人がこの教室の生徒であり、神様の力を授かり戦う勇者である。

 

 

 

 あの惨劇から3年、友と語らい笑い合う、どこにでもいる子供達に命運を託さねばならないほど、世界は窮地に陥っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 さて、原作時間に突入しました。

 今回は主に人間関係について描写しました。ちょっとしつこくなりましたが、のほほんとした空気を描けるのも今のうちですからね。

 自分がこの小説を書くにあたり定めたテーマが、

「雄介さんという最高のヒーローの生き方を受け継ぐ勇者がのわゆの勇者を救おうと抗う物語」なんですよね。

 だから仲間内の描写は今後も多くなります。そしてそれに比例して、自分の苦手な戦闘描写は減っていくかもしれません…こんなところで言い訳するからだめなんだよなぁ…

 話変わって感想をいただくことができました!めっちゃ嬉しいですね

 ここが面白い、ここがおかしい、とかおっしゃっていただけると、参考になりますので、良かったら感想よろしくお願いします

 次回、お楽しみに

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