A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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ついに初戦です。

この辺で気になる人もいるかもなので、書いておきますと、勇者チームの面々は、コミュ力帝王陸人くんの尽力により、原作よりも仲がいいです。現時点で原作の壁外調査時くらいの親密度はあります。若葉ちゃんの二人称や、特に構われまくった千景ちゃんの態度に色濃く出てると思います。
ただ、イベントをこなしたわけではないので、諸問題は起きたり起きなかったりします。


二章1話 初陣

「バーテックスの侵攻が、勢いを落としてきている?」

 

「そうなんですよ、今までこんなことなかったのに」

 

 若葉は1人、放送室で無線を使い、通信を行っていた。

 相手は四国外の数少ない生存域、諏訪を守る唯一の勇者、白鳥歌野。

 2人は以前から定期的に通信を交わし、遠く離れた地の仲間との結びつきを確認していた。

 いつも通りの情勢報告、うどん蕎麦論争が一区切りついたところで、歌野が困惑した調子で口を開いた。

 

「……先週の火曜日だったかしら? その日から急に襲撃の数も、1回に来るバーテックスの数もかなり少なくなってきてるんですよね」

 

「そうか……いいことなんだろうが、これまでがこれまでだ……どうしても手放しで喜べないな……」

 

「ええ、何かの前兆なんじゃないかって。みーちゃん……失礼、巫女の藤森さんも、神託は受け取っていないそうですが……」

 

 2人は黙り込む。考えられる可能性はいくらでもあるが、絞り込むには情報が足りない。

 重くなった空気を吹き飛ばすように、歌野が明るい調子で言う。

 

「もしかしたら、バーテックス側が疲れてきただけかもしれないですし。私たちのやるべきことは変わりません」

 

「……そうだな、四国に標的を切り替えた、という可能性もある。こちらも気を引き締めて……互いに力を尽くそう」

 

「はい、それでは今日の通信を終わります。ではまた、乃木さん」

 

「ああ、またな、白鳥さん。以上、通信終わり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通信を終えて放送室を出る若葉。彼女を待っていたひなたが、声をかける。

 

「若葉ちゃん、今日の通信はいかがでした?」

 

「……ああ、何でも……」

 

 歌野が言っていたことをそのまま伝える若葉。それを聞いたひなたは、『先週の火曜日』という単語に、わずかな引っ掛かりを覚える。

 

(その日は……確か大社本部の地下で何らかの事故が起きたとかで……騒がしかった日ですね)

 

 壁の外に出た、という事実を広めるのはよろしくない、ということで、あの日の出来事は箝口令が敷かれ、ひなたや勇者たちには知られていなかった。

 

 引っ掛かりこそしても、その2つを結び付けて考えるのは、聡明なひなたにもできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会話を交わしながら、若葉とひなたは食堂に向かう。

 そこにはすでに4人の勇者が席に着いていた。

 

「おっ、若葉、ひなた、こっちだこっち~」

 

「もうすぐ出来上がるみたいだよー」

 

 球子と友奈の声に手を挙げて答えながら、席に着く2人。

 

 少しして、7人分の器を持って陸人が近づいてきた。

 

 

 

「お待たせー、今日はきつねうどんだよー」

 

 

 

「わあっ、おいしそうです。ありがとうございます、陸人さん」

 

「では、いただこう………………うん、美味いな、私は好きだな、このうどん」

 

「はい、どんどん上達していますね、陸人さん。とても美味しいですよ」

 

「………………、ふう…………」

 

「うーまーいーぞ────ー‼」

 

「ズルッ、ズルッ……ッ! ん────! プハッ、危なかった、詰まっちゃった……」

 

 無言で噛み締めたり、目を輝かせたり、命の危機に陥ったり、各々のリアクションで味わっていた。大好評のようだ。

 

 

 

 丸亀城の生活が始まった当初、陸人にとって料理経験に数えられそうなものは、拾った何かを焼くか煮るかといった原始的な調理だけだった。生活に慣れた頃、そんな自分に危機感を覚えた陸人は、食堂担当の大社職員に申請し、定期的に料理の練習をするようになった。人に出せるレベルに達したと認められてからは、勇者たちにも時々振舞うようになったのだ。

 仲間の笑顔にほんわかしながら、陸人も自分の器に手を付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こうしていると、バーテックスとか勇者とか、忘れちゃいそうになりますね……」

 

 食事を終え一息ついた杏が、ふとこぼす。それに反応したのが若葉。彼女はリーダーとして、いさめるような調子で言う。

 

「気持ちは分かる。私もここでの暮らしは充実している。だが、それも全て私たちが勇者であるからこその今だ。誰もが苦しんでいるこの世界の状況を、忘れてはならないだろう」

 

「そう、ですよね……分かってはいるんです。でも、ずっと訓練してきて、敵はずっと来なくて……いえ、来てほしいっていうわけじゃないですけど……どういう気持ちでいればいいのかなって……」

 

 杏は勇者随一の頭脳派で、同時に最もバーテックスに恐れを抱いている。現状にどうしても考え込んでしまうことはある。自分のこと、球子のこと、陸人のこと。敵がいつ来るのか、という見えない不安は、彼女の心を小さく、しかし確実に追い込んでいた。彼女の表情には隠し切れない憂いが浮かんでいた。

 そんな彼女の表情を見た友奈は、気づかれないように後ろに回り、にじり寄る。

 

 

 

 

「……せ~のっ、コチョコチョコチョコチョコチョコチョ~!」

 

「わきゃうっ、アハッ、アハハハハ、ちょっ、なんですか友奈さん……!」

 

 

 

 後ろから杏の脇に手を差し入れ、思いっきりくすぐる友奈。

 どうにか友奈を振り払い、涙目で睨む杏。その表情には先ほどまでの憂いはなくなっていた。

 

「笑って笑って、せっかく可愛いんだから。りっくんの前でそんな顔しちゃだめだよアンちゃん」

 

「……なっ、ゆ、友奈さん……!」

 

「大丈夫だよ、私たちはみんな強いし、これからだって強くなれる。みんなで一生懸命頑張れば、なんとかなるよ!」

 

「……友奈さん……」

 

「……高嶋さんは、強いね……」

 

「うん、でもそれは友奈ちゃんだけじゃない。杏ちゃんも千景ちゃんも、確かな強さを持っている。一緒に頑張ってきた俺が保証するよ」

 

「そうですね、それでもどうしても不安になることがあれば、私におっしゃってください。いつでも聞きますから」

 

「……すみません、弱音なんか……ありがとうございます、皆さん」

 

「ふふん、あんずは怖がりだな~、安心しろ! あんずの隣にはタマがいる! 何があっても守ってやるからな!」

 

 

 

 互いに励ましあい、決意を固めあう勇者たち。

 そんな彼らを見ながら、若葉は自分と彼らに目に見えない境界があるように感じていた。

 

(やはり、私などに、リーダー役は務まらない……友奈や陸人のような……)

 

 そしてそんな若葉を、静かにひなたが見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「若葉ちゃん、自分はリーダーにふさわしくないんじゃないか……なんて考えているんでしょう?」

 

 2人きりの夜、若葉はひなたの言葉にたいそう驚いた。完璧に内心を言い当てられたのだ。

 

「分かりますよ。若葉ちゃんのことですから」

 

「私は……友奈や陸人のようにはできない……ずっと一緒に過ごしてきた仲間が悩んでいるのに、かけるべき言葉さえ見つけられないんだ……」

 

 若葉は後悔していた。自分の発言は、きっとあの場にふさわしいものではなかった。人は正論だけでは動けない。もっと杏の心に寄り添った言葉が必要で、友奈と陸人にはそれができていたように、若葉には思えた。

 

「若葉ちゃんは、若葉ちゃんにしかできないリーダー役ができている。私はそう思いますよ?」

 

「……そうだろうか……?」

 

 ひなたの言葉も、普段ほど若葉の心に刺さっている感触がない。そこでひなたは、仲間の言葉を借りることにした。

 

「若葉ちゃん、これは以前、陸人さんが言っていたことなんですが──」

 

 陸人の名前を出され、耳を傾ける若葉。しかし、ひなたの口から続く言葉は発せられない。凍り付いたようにすべての動きを停止したひなたの姿がそこにあった。

 

「……ひなた……?」

 

 その時、若葉は初めて気づく。ひなただけではない。周囲の時間がすべて止まっている。

 

「────これは────⁉︎」

 

 樹海化、と考えが及んだ瞬間、周囲の風景が幻想的な植物へと置き換わっていく。

 

「……来たか、バーテックス……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、樹海化か……」

 

「ってことは、敵が来たってことだよな⁉︎」

 

「……敵……バーテックス……」

 

 突然の事態に慌てる球子と、怯える杏。2人と一緒にいてよかった。と安堵しながら陸人は2人に指示を出す。

 

「とりあえず武器を取りに行こう。それからみんなに合流して、そこからだな……杏ちゃん、怖いのは分かる、けど、自分の身を守るために、装備と合流だけは済ませておこう。俺も一緒に行くからさ」

 

 そう言って杏の右手を取る陸人。その手を見て小さくうなずく杏。彼女の左手を取った球子が、二人を引っ張る。

 

「そうと決まれば急ごう! みんなも待ってるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に合流を果たした6人。勇者アプリのマップ機能を使い、敵の分布を確認する。

 

「敵の数は……想定内、といったところか……」

 

「うん、みんなで戦えばなんとかなるよ!」

 

「……みんなで……」

 

 友奈の言葉に引っかかることがあった千景は、青い顔をした杏に目を向ける。

 

「……伊予島さん……あなた、大丈夫? 今にも倒れそうよ、その顔……」

 

「…………わ、私は……」

 

 2人の小声のやり取りに気づかない友奈が、明るく声を上げる。

 

「よーし、みんなでいっしょに、勇者になーる!」

 

 その声に反応してアプリを操作する勇者たち。

 各々の力を象徴する勇者装束を身にまとう……杏以外が。

 

「杏? 大丈夫か……?」

 

「……ご、ごめんなさい、私……」

 

 戦う意思を示さなければ、変身はできない。手が震えている杏に、若葉が声をかけようとした時──

 

「ごめん、杏ちゃん、ちょっと緊張してるみたいなんだ。俺がフォローするから、任せてもらえるかな?」

 

 杏の様子を隠すように、彼女の前に立つ陸人。

 

 彼の言葉に、言おうとしたことを飲み込み、若葉は敵に向かい合う。

 

「……お前がそういうなら、任せよう。では、先に行くぞ」

 

 すぐさま仲間を庇った陸人の姿に劣等感を感じた自分をごまかすように、若葉は敵に飛び込んでいく。

 

「あっ、待って若葉ちゃん。私も行くよ!」

 

「……高嶋さん、私も……」

 

 飛び出していく3人。残る球子は、杏を心配そうにチラチラ見ている。

 

「なあ、陸人。タマも……」

 

「大丈夫だよ、杏ちゃんには頼もしい護衛を付けるから……来い、ゴウラム‼」

 

 勇者アプリを操作する陸人。次の瞬間、頭上から金色の飛行物体が現れた。

 

「おおっ、これがゴウラムか!」

 

「彼は俺の指示に従って動いてくれる。バーテックスが何体来ても、杏ちゃんを守ってくれるよ」

 

 ゴウラムに指示を出す陸人。初めて見るゴウラムに、確かな頼もしさを感じた球子は、杏に声をかける。

 

「それじゃ、タマもいくよ。あんずはここで見ててくれ。バッチリ倒してくるからな!」

 

 そう言って駆け出す球子。杏は、何も言葉を返せなかった。

 

「杏ちゃん、こっち向いて」

 

 その言葉に顔を上げた杏は、自分の頭が陸人の胸に抱きしめられていることに、一瞬遅れて気が付く。

 

「──ッ! り、陸人さん⁉︎」

 

「落ち着いて、大丈夫だから……」

 

 杏を追い込んでいる樹海の風景を視界から外し、自分の心音と体温でリラックスを図る。陸人にとっては理詰めの思惑があっての行動であり、一瞬舞い上がりに舞い上がった杏も、徐々に落ち着いていく。

 

 杏がある程度落ち着いたのを確認した陸人は、手を放して声をかける。

 

「杏ちゃん、食堂でも言ったけど、俺は杏ちゃんが強いことをちゃんと知ってる。今はちょっと勇気を出すのに時間がかかっているだけなんだ」

 

「……陸人さん……」

 

「今日できなくてもいい、明日できなくてもいい。いつか杏ちゃんが本当に守りたい大切なもののために、その勇気を引き出せる時が来るからさ。その時までは、俺が……俺たちが、杏ちゃんを守るよ」

 

 そこまで言って、さて俺も行かなくちゃ、と陸人は杏から離れて構える。

 

「────変身ッ‼────」

 

 青い姿に変身したクウガ。彼は最後に一瞬振り返り、告げる。

 

「ゴウラムには杏ちゃんを守ることと、君の指示に従うことを命令してあるから」

 

 言うべきことは言った、と言わんばかりにクウガは全力で飛び出していく。

 その言葉には、君が戦うのなら力を貸してくれる、という意味が込められており、その意を杏は正しくくみ取った。

 

「……陸人さん……タマっち先輩……私は……」

 

 本当に守りたい大切なもの。そう言われて杏が想起するのは、今前に出ている2人の友達だ。

 

「……私は……!」

 

 覚悟とともに、杏は再びアプリを起動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 球子は追い込まれていた。球子の武器、旋刃盤は、1度投げると戻って来るまで隙ができる。陸人からは、1人で動くときは投げないように言われていた。予想外に順調に数を減らせた球子は、油断から投擲してしまった。それを待っていたかのようにバーテックスが近づいてきたのだ。

 

「ちくしょう……」

 

 諦めかけた球子の耳に、聴きなじんだ声が聞こえた。

 

 

「タマっち先輩、伏せて!」

 

 

 周囲を取り囲むバーテックスが一気に撃ち抜かれた。

 攻撃が飛んできた方向を見ると、勇者装束に身を包んだあんずが、ゴウラムの腕に捕まり、上空からクロスボウを構えていた。

 

「あんず、お前……」

 

「遅れてゴメン、タマっち先輩……私も戦える、戦うよ」

 

「……よっし、それじゃ行くぞあんず!」

 

「タマっち先輩はゴウラムの上に乗って! 飛び道具を使う私たちは、すごい速度で空を飛べるゴウラムと組むのが有効だと思う!」

 

「……おっ、おう。大丈夫かな? 落ちたりしないよな……」

 

「ゴウラムも気を使ってくれるし、勇者の身体能力なら大丈夫だよ……きっと……」

 

「おおい! 今きっと、って言っただろ⁉︎ 何だよ、じゃああんずが上に乗れよ、タマが下にぶら下がるから!」

 

「いっ、嫌だよ、危ない……タマっち先輩の方が運動得意でしょ?」

 

「いやいや、そういう問題じゃないだろ⁉︎ これ」

 

 結局、杏はともかく球子は片手がふさがると戦いにくい、という理由で球子が上になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(伊予島さん……変身できたのね……)

 

 一方、千景は消極的にバーテックスを撃破していた。敵に向かって行くまでは良かったが、いざ向き合うと、恐怖に耐えられなかったのだ。訓練の成果か、近づいてきたバーテックスをカウンターで切り裂いてはいたものの、自分から踏み込むことができずに、次第に追い詰められていた。

 

「オオリャアァァァ‼︎」

 

 そんな千景の目の前に青いクウガが専用武器『ドラゴンロッド』を振り下ろしながら落下して来る。千景の様子がおかしいことに気づき、文字通りに跳んで来たのだ。

 

「──ッ! クウガ……」

 

「千景ちゃん、大丈夫? 調子悪いの?」

 

「……あ……」

 

 まただ。杏の時もそうだった。陸人は仲間を信じている。恐怖に打ち勝ち、前に踏み出す勇気があると確信している。できないのはたまたま調子が悪いだけで、その力がないとは最初から疑ってもいない。

 

「無理しないで。この数なら俺たちだけで何とかなる。まずは自分の身を守ろう」

 

 千景は陸人に感謝していた。普段から頼みもしていないのになにかと世話を焼いて来る彼に。表に出したことこそないが、いつか何かで返せたら、とずっと思っていたのだ。

 それなのに、日常の外、戦いの中でまで千景は陸人に守られている。

 冗談ではない。これではまるで子供ではないか。唯一彼と同い年の自分が、いつでもどこでも陸人に面倒を見てもらっている。

 千景は誰かに愛してほしかった。だから、ずっと愛されずに生きてきた自分に優しくしてくれた、友奈と陸人に並べるだけの自分になりたかった。そのために———

 

 

(私は……勇者よ……勇者であることが、私の価値ならば──!)

 

 意思を固め、再び、より力強く鎌を握る千景。

 そのタイミングで、千景を助けようとして速度の関係で陸人に遅れをとった友奈が到着した。

 

「ぐんちゃん、大丈夫⁉︎」

 

「……高嶋さん……ええ、私は大丈夫よ……そう、私は勇者だもの……」

 

「ぐんちゃん……?」

 

「行きましょう、高嶋さん……一緒に……!」

 

「うん、行くよ、ぐんちゃん‼︎」

 

 タイミングを合わせて飛び込む千景と友奈。クウガだけを見ていたバーテックスは、2人の同時攻撃で一気にその数を減らした。

 

「千景ちゃん、友奈ちゃん……」

 

「大丈夫? りっくん」

 

「手間をとらせたわね……私はもう、大丈夫だから……」

 

「そっか、流石千景ちゃんだね……!」

 

 3人は息を合わせ、次々とバーテックスを殲滅していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──フッ‼︎……順調に数を減らせている。この調子で──」

 

 1人先行し、バーテックスを切り倒す若葉。彼女は自ら最前線に切り込むことで、最も高い戦闘力を持つクウガ以上の戦果を出していた。

 全体の8割ほどを片付けたタイミングで、残るバーテックスがこれまでにない動きをしていることに気づいた。

 

 

「──これは、まさかッ!」

 

 バーテックスが集まり、融合し、巨大な棒状の姿に変貌する。

 

『進化体』

 小型のバーテックスが融合することで至るバーテックスの強化形態。その存在を初めて目の当たりにした球子と杏は動揺する。

 

 

 

「アレが進化体ってヤツか……? 変な形だな。アレでどう戦うんだ?」

 

「形状から能力が予想できない……様子見も兼ねて、まずは私が……!」

 

 ゴウラムに射程距離ギリギリを維持させつつ、杏が矢を連射する。

 着弾の直前、進化体の前に板状の組織が発生。杏の矢を、軌道そのままに跳ね返した。

 

「きゃあぁ⁉︎」

 

「あっぶないなオイ! ゴウラムが動いてくれなかったら当たってたぞ」

 

 

 

 

 進化体の能力は反射。

 その精度を目にした若葉は、勇者の奥の手である『精霊』の使用も考えるが……

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

 迷いなく精霊の使用に踏み切った勇者がいた。

 高嶋友奈だ。彼女は神樹と交信し、自らの精霊を呼び出す。

 精霊を宿した友奈の装束の一部が、その力を表現するように変化する。

 友奈の精霊は『一目連』、能力は『速度の上昇』

 その速度は、瞬間的には青のクウガさえも上回るほどのものだ。

 一目連を宿した友奈とクウガが目を合わせる。

 

(友奈ちゃん、大丈夫? 精霊を使って)

 

(大丈夫、私を信じて)

 

(……分かった、一緒に決めよう)

 

(うん!)

 

 一瞬のアイコンタクト。2人は被害を減らすために、全力であの進化体を倒すことを決めた。

 

 間違いなくこの世界で最速の2人が、最短距離で進化体に接近する。

 クウガが友奈の前に出て、ルート上の小型を処理する。

 進化体の正面に到達したクウガは、天高く飛び上がり、その奥から友奈が突っ込む。

 

 

 

「ひゃく、れつ────!」

 

「……出し惜しみはナシだ!」

 

 

 高速化された連撃を叩き込む友奈。

 ドラゴンロッドに力を収束するクウガ。

 

 

 

「勇者ぁぁぁ! パァァァァンチ‼︎」

 

「オオリャアァァァ‼︎」

 

 

 友奈の100発目の拳と、青のクウガの必殺技『スプラッシュドラゴン』を同時に受けた進化体は、その衝撃に耐えられず、崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……友奈、陸人……まったく、無茶をする」

 

 若葉の視線の先にはフラフラの体で、互いを支えながら立つ友奈とクウガ。

 自分が引き受けるつもりだった危険を、2人に任せてしまった。

 若葉は、判断の遅さを反省しながらも2人の無事を喜んでいた。

 

 2人を労おうと足を向けた若葉は、友奈と陸人を狙う小型の存在に気づいた。

 大技を使い強敵を撃破した直後、2人には決定的な隙ができていた。

 

 

「──ッ! 友奈、陸人‼︎」

 

 全力で駆け出し、2人とバーテックスの間に割り込む若葉。

 しかし、滑り込むような体勢で割り込んだため、反撃も防御も出来ない無防備を晒してしまう。

 

 バーテックスの攻撃が、若葉に迫る────! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで? バーテックスの体を噛みちぎり食べてしまったことの言い訳はそれで全部ですか?」

 

「い、いや……私の友達や、多くの人々を喰らった奴らに、同じ報いを受けさせようと……そのために……」

 

「報いというのはそういうことではないでしょう! お腹を壊したらどうするんです!」

 

 初陣を勝利で終え、樹海化が解除された先で待っていたひなた。

 怪我はないか、問題は起きなかったか、と一同を心配するひなたに、安心させようという意図もあったのだろう、球子が余計なことを言ってしまった。

 

 ──若葉なんて、バーテックスを噛みちぎって食べちゃったんだ、あれにはタマげたぞ──

 

 結果、ひなたの怒りが爆発。人喰いの怪物を文字通り食いちぎった勇者は、正座で懇々と説教を受けている。

 

 

 

 

 

 

 

 あの瞬間、若葉は驚異的な反応速度でバーテックスの攻撃を紙一重で回避。顔のすぐ横を通る敵の体に歯を立て、噛みちぎってみせたのだ。ちなみに、「食えたものではない」不味さだったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 止まらないひなたのお説教と、それに比例して小さくなる若葉の背中。そろそろ止めようか、と陸人が一歩踏み出したところで、千景が小さく彼の左袖を引く。

 

「……伍代くん……」

 

「千景ちゃん、どうかした? 怪我とか……」

 

「……いえ、平気よ……そうじゃなくて……今回は、迷惑をかけてしまったから……ごめんなさい……」

 

「なんだ、そんなこと。俺だってこれからきっとたくさん迷惑をかけるよ。言葉がなくても助け合うのが仲間じゃない?」

 

「……そう……なら、今度は私があなたを助けてあげるわ……」

 

「うん、俺も、迷惑かけないように頑張るよ……これからもよろしく、千景ちゃん」

 

「……ええ、任せてちょうだい……私は、勇者だもの……」

 

 言いたいことは言えたのか、千景は陸人に背を向け離れていく。

 

 

 

 

 

 

 さて、ひなたちゃんを止めなくちゃ。と足を向けなおす陸人は、今度は右袖を引かれる感覚に、再び振り返る。

 

 

「……陸人さん……ありがとうございました……」

 

「杏ちゃん……俺は何もしてないよ。君が立ち向かえたのは、君に勇気があったからだ」

 

「それでも、キッカケをくれたのは陸人さんです。ゴウラムのことも……すごく助かりました」

 

「あぁ、そうだね。ゴウラムは、杏ちゃんや球子ちゃんと相性が良さそうだ。今後も使っていくことになるかも。大事にしてあげてくれる?」

 

「はい、それはもちろん……陸人さん。ひとつ、私の宣誓を聞いてくれますか?」

 

「宣誓?」

 

「私は……勇者、伊予島杏は、これから先の戦いで、クウガ……伍代陸人さんを守ります。これは、私のワガママです」

 

「……!」

 

「タマっち先輩から聞きました。ずるいですよ、2人だけで……嫌とは言いませんよね? 私と陸人さんは、ワガママを許しあえる友達ですから」

 

「……ハハ、これは参った……いつの間にか、強かになったね。杏ちゃんも」

 

「えへへ……まだまだ未熟と言っても、私も勇者ですから!」

 

「それじゃ、改めてよろしく、勇者様」

 

「はい。みんなでみんなを守って、この戦い、勝って終わらせましょう……!」

 

 

 

 笑って握手を交わす2人。これからの戦いに不安はあるだろうが、それを上回る希望の光が、彼らの胸には灯っていた。

 

 

 

 

 その後ろでは、ひなたのお説教モード最終フェイズに突入した若葉が、亀のように縮こまり、涙目で歯を食いしばっていた。

 

 

 

 

 




初戦終了です。

長くなったなぁ、最初はここ2話に分ける予定だったんですけど。切りどころを見失いズルズルと

疲れた……



本文中に入れるとどうも文章がくどくなるため、ここで説明させてもらいます。

クウガのモーフィングパワーについて

モーフィングパワーとは、クウガやグロンギ(クウガの世界の怪人たち)が使う、簡単に言うと、触れたものを変質させて武器を作る能力です。

今作のクウガは、アマダムに土地神の力が入っていることで、樹海と相性がいいのです。(現実世界より樹海で戦った方が強い、まぁ現実で戦う機会があるかは分かりませんが)
なので、モーフィングパワーも扱いやすくなっており、樹海の植物に触れるだけで、形状関係なくロッドもボウガンもソードも瞬時に構築できます。
無機物のない樹海でクウガを活躍させるための無理くりな独自設定です。これに納得していただければ幸いです。

次回もお楽しみに

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