A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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今回はサブタイであっ、てなる人もいるかもですね

前回もそうでしたが、視点移行や時間経過による場面転換が多いので、もしかしたら分かりづらいかも

修正……できたら、するかもです


三章4話 雷鳴

「やー、久しぶりに滝行やったから、死ぬかと思ったわぁ……」

 

「そうですか? 私はどこか温かいものを感じましたが……」

 

 大社本部での滝行を終えたひなたと真鈴は更衣室で2人、話をする。

 重大な神託が予定されるため、動ける巫女を全員集めての禊が行われたのだ。

 

「しかし、久しぶりということは、以前は参加していなかったんですか?」

 

「あーうん、一応室長って立場だったからね。他の仕事も多くて、その辺は免除されてたの」

 

 真鈴は、2日前のクウガ脱走劇に協力したことの責を問われ、クウガ研究室の室長を辞することとなっていた。

 

「本当にごめんなさい。私も同罪なのに……」

 

「いいって、私は自分の判断でひなたちゃんの名前を出さなかっただけ。気にする必要ないよ」

 

 真鈴は全て自分でやったことだと自供していた。真実を知るのは陸人とひなたと真鈴だけ。隠すのは容易だった。

 

「……これから先、また陸人くんと大社の方針がぶつかることがあるかもしれない。そうでなくても、今回の件で大社はクウガの認識を改めるはず……何かあった時、彼の味方をしてあげられる人間が大社側に必要になると思うわけよ」

 

「それが私、ということですか……」

 

「ぶっちゃけそういう意味で信じられる人は、大社内じゃほとんどいないからね。私から見たら確実な安パイはひなたちゃんだけよ」

 

「しかし、真鈴さんはこれから……」

 

「あー、平気平気。今でも私が事実上クウガ専門の巫女だってことは変わらないし。むしろ知らないうちに押し付けられた責任者の肩書きを下ろせてホッとしてるくらいよ。少しは仕事も減るだろうしねー」

 

 飄々と言う真鈴だが、巫女である以上大社から抜けることはできない。違反者のレッテルを貼られたまま逃げられないのだ。この先の苦労は予想できる。

 

「……真鈴さん……」

 

「まったく、こーんな美少女2人に心配されてる例の色男は、今頃何を思ってるのかねえ」

 

 気遣わしげな視線から逃れるように明るく話す真鈴。苦笑したひなたもそれに乗る。

 

「ふふっ、そんなのは決まってます。真鈴さんも分かっているでしょう?」

 

 

 

『誰かの命を、守るために』

 

 

 

 声を合わせた2人は、どちらからともなく笑い声をあげる。

 

「さてさて、それじゃ無茶しいなあの子のために、できることを頑張りますか」

 

「そうですね。差し当たっては例の『重大な神託』です」

 

 

 

 

 

(みんなが陸人さんの帰りを信じて待っています……そのこと、お忘れなきよう……)

 

 ひなたは神樹ではなく、この世界そのものに祈りを捧げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陸人は、洞窟に迫り来る一万は超えた大軍勢が一気に追ってくることを覚悟していた。しかし、結果は違った。洞窟から離れた陸人たちを追ってきたのは全体の1/4ほど。大多数はそのまま洞窟内部に飛び込んでいったのだ。

 

「ど、どうなってるんだろ……」

 

「とにかく、あの数そのまま相手にすることにはならずに済みそうね」

 

 

 必死に距離を取りながら陸人は考える。今の敵の動き。まるで本命は洞窟に入ることだったような……

 

 

 

 

「……そうか、順番が逆なんだ」

 

「どういうこと……?」

 

「バーテックスは俺たちを探して洞窟を見つけたんじゃない。元々あの洞窟を探してて、歌野ちゃんたち、それから俺に会った。それを追って目当ての洞窟を見つけたんだ」

 

 その洞窟での用事が何かは知らないが、あれほどの数を必要とするナニかがあって、その数を揃えるために一晩経ってから現れたのだ。今こちらを狙っているのは、物のついで程度なのかもしれない。

 

「……あの洞窟にそれほどのものがあるってこと? 確かになんとなく不思議なものを感じたけど……」

 

 感受性が高い水都ですら全容を把握できないナニか……夜のうちに確認だけでもしておくべきだったかと一瞬考え、頭を振ってその思考を追い出す。

 

「とにかく、今は逃げることだけ考えよう。向こうは気楽なつもりでも、今の俺たちにあの数は処理できない」

 

 

 予定していた回り道の少ないルートでは振り切れそうにない。一応用意していた早期に発見された場合のルートに切り替える。

 

 

 

 

 歌野の武器は鞭。ある程度射程はあれど、鞭が届く程度の距離では逃げ切ることなどできない。クウガの武器は徒手、棒、ボウガン、剣。唯一の射撃武器は時間制限付きでこの状況では使えない。

 どうにも逃走戦には向かない戦力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃亡開始から数時間。元々の速度では上回る陸人たちは、途中水都のために屋内に隠れて休憩を取りながら、どうにか捕まらずに逃げ続けていた。

 

「大丈夫? みーちゃん」

 

「……うん、もう平気……ゴメンね、私のせいで」

 

「何言ってるの、みーちゃんの勘があったから何度もギリギリで振り切れたんじゃない」

 

「うん。四国の巫女の子も言ってたけど、神様の声を聞く、っていう巫女には特別な勘働きがあるって本当なんだね」

 

 陸人は感心していた。水都はいくつかの分かれ道で敵にぶつからないルートを的確に選択して見せたのだ。

 

「で、でもそれも確実ってわけじゃないし……私ももう大丈夫だから。行こう、2人とも」

 

 

 

 

 休憩を終え、出発しようとした矢先に目の前に100体ほどの小型が現れる。分散して捜索していたうちの一団に発見されたのだ。

 

 

 

 

「────変身っ‼︎────」

 

「やあぁっ‼︎」

 

 

 

 速攻で一撃を加えるクウガと歌野。こうなった以上無理に逃げるより倒して進む方が消耗は少なく済むと判断した。

 

 

 

「増援が来る前にここを突破する! 歌野ちゃん!」

 

「オーケー! 諏訪の勇者の力、見せてあげるわ!」

 

 

 頼もしい、と陸人は思った。歌野はたった1人で3年間諏訪を守ってきた勇者だ。彼女は戦力差のある戦いに慣れている。

『追い込まれてからの強さ』という一点では、歌野は他の誰よりも優れていた。

 

 周囲を囲む小型を鞭で薙ぎ払う歌野。マイティキックを群れに叩き込むクウガ。

 

 最初の会敵を潜り抜けた2人に、水都が声をかける。

 

「……2人とも! デカイ群れが来る!」

 

 

 言われて空を見上げるクウガと歌野。先ほどの10倍を超えた軍勢が、天を白く染めていた。さらにその奥には……

 

「──っ! アイツは……!」

 

 クウガにとって最早馴染み深い、射撃型の進化体の姿があった。その口元に矢が形成された瞬間、先ほどまでの余裕は吹き飛んだ。

 

「みーちゃん‼︎」

 

「きゃあああ!」

 

「……グッ、クソ……」

 

 水都に向かって放たれた矢の雨。歌野とゴウラムが叩き落とし、残りの矢はクウガが身を盾にして防いだ。

 

「り、陸人さん……」

 

「だい、じょうぶ……乗って!」

 

 射撃型の射程から逃れるために全速力で逃げる3人。なぜか追撃の矢は飛んでこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神樹に続く道、最も巫女適正が高いひなたを先頭に巫女たちが列を作り歩む。

 

(私たちは必ず帰るんです……当たり前にあった日常に……!)

 

 誓いと共に神樹に触れるひなた。その瞬間、神樹という格が違う存在から与えられた情報の奔流に耐えきれず、ひなたが倒れてしまう。

 

「上里様⁉︎」

 

「ひなたちゃ──ッ! ……ってなに……? コレは……⁉︎」

 

 ひなたに駆け寄ろうとした真鈴に、同じく神樹からの神託が降りる。ひなたに送られたものより負担は軽いものだったが、その内容は真鈴を戦慄させるに十分なものだった。

 

「早く病室に──」

 

「待って!」

 

「……何か? 安芸様……」

 

 ひなたを運ぼうとする大社職員に声をかける真鈴。仮面越しでも分かる訝しげな様子に思うところはないでもないが、今はそれどころではない。

 

「ひなたちゃんも心配だけど、コッチにも喫緊のやばい神託がきたの!」

 

「……神託が……?」

 

「クウガが……陸人くんが倒れてた! 場所は多分……瀬戸大橋の上!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必死の状況を何度も潜り抜け、3人はやっとの思いで瀬戸大橋まで辿り着いた。

 

「ここが、瀬戸大橋……」

 

「ここを越えれば四国結界だ……」

 

「ふぅ〜、ラストスパートね」

 

 追っ手はまだ見えない。今のうちに渡り切ろうとした時、水都が気づいた。

 

「う、上から何か来る!」

 

『──っ‼︎』

 

 大橋のど真ん中に、途中で追っ手の中から姿を消した射撃型が降りてきた。

 

「先回りされたのか……」

 

(これ以上長引くと、変身が持たないな……)

 

「どうする、陸人くん?」

 

「今から引き返してたら挟み撃ちだ。ここでアイツを倒すよ。水都ちゃん、ゴウラムに移ってくれる?」

 

「う、うん……」

 

 歌野に手を引かれゴウラムの上に乗る水都。

 

「2人はここにいてくれ!」

 

 言葉と同時にバイクを走らせるクウガ。射撃をかいくぐり突っ込んでいく。

 

「ちょっ、ウェイトウェイト!」

 

「陸人さん⁉︎」

 

 やがて捌き切れなくなり、クウガとバイクの体に矢が刺さる。

 

 

「──っ! ……そこを……どけぇ‼︎」

 

 構わず突っ込み、ドンドン矢を受けるクウガ。トライチェイサーが耐えきれずに火を噴くのと同時に跳躍。回避ができない空中で、矢の雨の直撃を受ける。

 

「……オオリャアァァァ‼︎」

 

 体に何本も矢が刺さったまま、気合いでマイティキックを打ち込むクウガ。

 一撃で進化体を撃破してみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これで2人は安全だ、と陸人は思った。

 やっと2人が休めるところに、と歌野は思った。

 とりあえず2人を病院に、と水都は思った。

 

 

 

 

 

 

 誰もが気を抜いたその瞬間、神の怒りは降ってきた──

 

 

 

 

 ──突如天から落ちた雷霆が、クウガのベルトに直撃する。

 

 

 

 

 

「……ガッ、ハッ……⁉︎」

 

 訳も分からず倒れこむ陸人。あまりのダメージに変身も強制解除された。

 

「陸人くん‼︎」

「陸人さん⁉︎」

 

 慌てて駆け寄る2人。そんな2人の後方、橋の最端部に小型の群れが蠢いているのを陸人だけが視界に入れた。

 その選択は、一瞬で。

 

(……ゴウラム……頼む……2人を連れて、壁の中に……!)

 

 直後、ゴウラムがその腕に歌野と水都を抱えて飛行。陸人から離れて結界内に向かう。

 

「ゴウラム君止まりなさい! 陸人くん‼︎」

 

「陸人さん! 陸人さん‼︎」

 

 あっという間にその背中は小さくなり、やがて視界全てが光に覆われ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大社からの連絡を受け、大橋方面に向かう若葉たちは、そこで大社職員と言い争う2人の少女を目撃する。

 

「だーかーらー! とにかく勇者を呼んでって言ってるの!」

 

「私たちのことは後で確認してくれていいですから……! 早く救助を……!」

 

「勇者の乃木若葉さんにつないでよ! 時間がないのよ!」

 

 最初は一般市民かと思ったが、2人のうち1人の声に聞き覚えがあることに気がついた。

 

「乃木若葉は私だが…………! 君は、まさか……!」

 

 その少女は、勇者服に装いの似た服を着ていた。

 

「そっか……あなたが、乃木さん……!」

 

「白鳥さん? 白鳥さんか⁉︎ なぜここに……」

 

「あー、待って。話は後。とにかく大橋に向かって!」

 

「大橋に……! それは……」

 

「陸人くんが1人で残ってる! もうボロボロで動けないのよ、彼‼︎」

 

 

 

 遠巻きに様子を伺っていた4人を含めた勇者たちの血の気が引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大慌てで大橋に向かう5人。橋の中間ほどで見たのは──

 

 

 

 血だらけの陸人と、彼の首を噛みちぎろうとするバーテックスの姿だった。

 

 

 

 

「ああああぁぁぁぁ⁉︎」

 

 

 叫び、矢を連射する杏。ギリギリでバーテックスから陸人を解放できた。

 陸人の周囲の敵を殲滅する若葉、友奈、千景。

 敵を3人に任せて陸人の体を抱き寄せる球子と杏。

 

「……そんな、陸人!」

 

「こんな、こんなことって……!」

 

 呼吸は浅く、出血は止まらず、腕や腹には肉がえぐられている箇所もあった。

 

「……ウソよ、こんなの……ウソよ……」

 

「りっくん……! りっくん!」

 

「……まだだ、一刻も早く病院に……!」

 

 

 やっと本来の仲間として、意識を新たにしていたというのに……若葉のリーダーとしての最初の指示は、皮肉にも大切な仲間を抱えて逃げることだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




またしても独自設定です。

神樹様が結界内で樹海なんて作れるんだから、天の神なら結界外でこれくらいできるんじゃないかな?って思いまして

感想、評価等お待ちしています

次回もお楽しみに

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