A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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今回は陸人くんほとんど出ません。
原作主人公の力を見よ!


三章5話 団結

 大社付きの病院、その特別病室に眠る陸人。多くのチューブに繋がれた痛々しい姿をガラス越しに見るしかできない勇者たち。その雰囲気は一様に暗い。

 

 アマダムの影響もあり、傷はひとまず塞がった。しかしそれ以前の出血と身体の負担が過剰すぎたせいで体力が戻らない。

 そしてバーテックスの矢に仕込まれていた毒。これがしつこい。アマダムの回復力と毒性がぶつかり合い、結果として意識が戻らない状態が続いている。

 駄目押しに例の雷。アレがアマダムに損傷を与え、回復を阻害している。

 破損したアマダムありきで命を繋いでいるため、いつ何が起きてもおかしくないのが現状。

 

 

 

 そんな説明を受け、杏と球子は病室の前から離れようとせず、千景に至っては医者に鎌を向けて恫喝する有様だ。

 

 昨日自分が退院したばかりの病院で仲間が苦しんでいるのを見つめる友奈も、流石にいつもの笑顔を作れずにいる。

 

 仲間たちの憔悴具合を見た若葉は、改めて陸人の存在の大きさと有り難みを実感していた。

 

(球子やあの友奈まで追い込まれている。こんな時に率先して周りを励ます陸人が倒れていると、こうまで絶望的な空気になるのか……)

 

 若葉自身陸人に頼ってきた部分は大きく、気を抜けば崩れ落ちてしまいそうなことを自覚もしていた。それでも陸人が認めてくれた乃木若葉でありたいという意地と誇りが、若葉をその場に踏みとどまらせている。

 

(陸人が信じてくれた私は、誰かの苦しみに寄り添って、一緒に背負える者……私は、陸人を人を見る目のない愚か者にするわけにはいかない……!)

 

 若葉は、今こそ陸人がやってくれていた役割をリーダーとして果たそうとしている。そのために……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 若葉が最初に声をかけたのは球子と杏。

 この状況に特に消沈している2人だ。

 一日中陸人の病室の様子を伺っている2人に、後ろから声をかける。

 

「球子、杏、良かったらこれを食べてくれ」

 

「……若葉、これは?」

 

「きつねうどん?」

 

「いつか陸人が作ってくれたろう? あれが忘れられなくてな……後日陸人に作りかたを教えてもらったんだ。完全に再現するには、私の腕が足りないだろうが……」

 

 特別に許可を取って作ってきたうどんを置く若葉。

 黙ってうどんをすする球子と杏。

 

「……うん、やっぱりちょっと陸人のと違うな。でも、タマはこれも好きだぞ」

 

「……美味しいです、ありがとうございます、若葉さん」

 

 ほんの少しだけ表情が明るくなる2人。

 とりあえず不味くないものを提供できたことに安堵する。

 

「ひなたから話は聞いたな……?」

 

「ああ、大侵攻、ってヤツだな」

 

「かつてない規模の決戦……それが近いうちに始まる」

 

 陸人が運び込まれた翌日、ひなたは青白い顔のまま病室に訪れ、神託の内容を伝えた。陸人がこの状態での一大決戦、それもまた勇者たちを追い込む一因になっていた。

 

 

 

「私は陸人が目覚めた時に安心させてやりたい。だからむしろ、このタイミングは好都合だ。陸人がムリをせずとも世界は守れる。それを証明したい」

 

「……若葉」

 

「そう、ですね……私ももっと陸人さんに、私たちを頼って欲しいです」

 

「だが情けないことに、私1人では陸人の穴は埋められない。だから力を貸してくれ。球子、杏。陸人が帰って来る場所を、奪われるわけにはいかないんだ」

 

 そう言って頭を下げる若葉。

 球子は驚愕していた。少し雰囲気が変わったとは思っていたが、仲間のために別の仲間に頭を下げる若葉など、想像もできなかったのだ。球子ほどには動揺していない杏が、若葉の肩に手を置く。

 

「頭をあげてください。私もタマっち先輩も、きっと友奈さんも千景さんも同じ気持ちです。みんなで協力して、陸人さんが帰る場所を守りましょう」

 

「……杏」

 

「……協力……そうだ、ちょっと待っててください!」

 

 何か閃いたように部屋を出る杏。驚いた顔で見送る若葉と球子。

 

 

 

「杏は、変わったな。前は、私と話すだけでも緊張していた様子だったのに……」

 

「あんずは確かに変わったけど、若葉に言えたことじゃないと思うぞ」

 

「そうか?」

 

 首をかしげる若葉。その態度に球子は呆れたように笑う。

 

(若葉は変わった。あんずも、きっとタマも……それはきっと、お前のおかげなんだよな? 陸人……)

 

 環境的に仕方ないとは言え、あらゆる女子に影響を与えている少年に、釈然としないものを感じつつ、球子は誓う。

 

「よっし、次の戦い! タマが1番活躍するぞ! 若葉、お前よりもだ」

 

「球子?」

 

「そんでもって、陸人が目覚めた時に褒めてもらうんだ! 『やっぱり球子ちゃんは頼りになるなぁ』ってな!」

 

「そうか、そうだな……だが、決して無理をするなよ? 球子が怪我をしては、陸人が心配する」

 

「分かってるって。そのくらいの気持ちでがんばる、ってことだ」

 

 そう言って笑う球子の姿が、どうしようもなく頼もしかった。若葉は改めて、自分が仲間に恵まれていることに気づく。

 

 

 

「……お、お待たせしました! これ、次の戦いに使えるんじゃないかって……」

 

 戻ってきた杏が抱えていたのは、戦史学や歴史書。古くからの陣形や戦略が描かれた資料類だ。

 

「近代兵器が一般化されてから廃れた人間の技術……神との戦いには、役に立つと思うんです」

 

「なるほど。杏は、こんなことにも精通していたんだな」

 

「せ、精通ってほどじゃないですよ……たまたま持ってただけで」

 

「陸人が言っていたよ、杏ちゃんは活字にされている知識は大抵持っている博識美少女だと」

 

「ふ、ふえぇっ⁉︎ 陸人さんが、そんなことを……」

 

 顔を真っ赤にして縮こまる杏。その反応に、若葉はいつもひなたが自分をからかう気持ちがわかった気がした。

 

 

 

「……そういえば、2人は陸人のどこが好きなんだ?」

 

『⁉︎』

 

「私とて年頃の女子だ。たまにはそういう話をしてみたくもなる」

 

「お前、本当に若葉か?」

 

「どういう意味だ!」

 

「あの、頭とか打っちゃったならここで診てもらった方が……」

 

「杏まで⁉︎」

 

 女三人寄れば姦しい。彼女たちはこの瞬間、紛れもなく『女友達』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に訪れたのは千景の部屋。彼女はここ数日、1日1度陸人の病室を訪れ、それ以外の時間は部屋にこもるという日々を繰り返していた。

 

 

 

「千景、ゲームをやろう!」

 

「……乃木さん……?」

 

「千景はゲームが得意だろう? 最近始めて、詰まってしまったところがあってな。協力プレイ、というのをやってくれないか?」

 

 密かに劣等感を覚えていた相手から自分を頼る、と言われたことで少し気分が良くなった千景は、若葉を部屋に入れ、協力プレイを始める。

 

 

 

 

 

「……乃木さんにはゲームの才能があるわね……」

 

「そ、そうか? 千景に言われると、自信がつくな」

 

「……今度、私のゲーム、いくつか貸してあげるわ……」

 

「あ、ありがとう……しかし、陸人の言うことは確かだったな」

 

「……何が……?」

 

「千景ちゃんは実は協力してゲームをするのが1番好きなんだ、足を引っ張られても、好きなことを共有することに幸せを感じている、と。その通りだな。いつもの1人で画面に向き合う顔より、ずっと楽しそうだったぞ」

 

「……伍代くん……なぜ私に直接言わずに、乃木さんに……」

 

「予想だが、私と千景の関係を良くしたかったんだろう。お互い、あまり話をする仲でもなかったからな」

 

「……ああ、きっとそうね。私も聞いてないのに乃木さんの話とか、たまにされたわ……上里さんに耳かきされた時の蕩けた姿とか……」

 

「なっ⁉︎ 陸人め、なぜよりにもよってその話を……」

 

「……彼、気が効く割に、たまにデリカシーないわよね……」

 

 

 

 お互いにポツポツと言葉を放つだけの簡単な会話。それでも千景との、確かな進歩だった。

 ここでも1番話題に上るのが陸人のことだという事実に苦笑しながら、話は続く。

 

 

 

 

「千景……私はリーダーとして、今度こそ皆とともに戦う。そう誓ったな」

 

「……ええ、私はそれに、側で見ていてあげる、と返した……」

 

「改めて誓おう。私は『伍代陸人が信じてくれた』リーダーとして、今度こそ皆とともに戦う。見ていてくれ、千景」

 

「……いいわ、見ていてあげる……伍代くんの分まで、ね……」

 

 互いの顔を見て笑い合う。お互いに感じていた壁が壊れたことを感じた。

 

「……だけど、勘違いしないことね。伍代くんが褒めてくれるのはあなただけじゃない……むしろ彼は、どんな相手でも過剰に褒める癖があって……」

 

「ち、千景?」

 

 ただ、同時に地雷を踏んでしまったらしい。抑揚のない声で淡々と語る千景に気圧されながらも、こんなやりとりができること……それが若葉は嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、こちらが白鳥さんの端末になります。戦闘時も平時も、これを使ってください」

 

「サンクス、上里さん。これで私も勇者としてパワーアップ! って訳ね」

 

「そしてこちらが藤森さんの分……落ち着いたら巫女として改めて大社から連絡がくると思います」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 丸亀城の教室。ひなたは諏訪の生存者、歌野と水都に、大社からの指示を伝える。

 

「白鳥さんには、今度の大侵攻にも参加してもらうことになります。しかし、本当によろしいのですか?」

 

「ホワイ? 何のこと?」

 

「お2人は故郷を失い、やっと四国に着いたばかり……気持ちの整理がつかなければ、私の方から参戦を見送るよう申請することもできますが……」

 

 気遣わしげなひなたに、歌野は笑顔で答える。

 

「ありがとう、上里さん。でも別に無理してる訳じゃないの。陸人くんのおかげで1つ踏ん切りはつけられたし。ね、みーちゃん」

 

「うん……私もうたのんも、四国のことはよく知らないし、思い入れがある訳じゃない。でもここは、陸人さんが大事にしている場所だから……」

 

「まぁそちらに納得してもらえる言葉を使うなら、恩返し、かな。私たちを助けてくれた陸人くんの代わりに、私が四国を守る! ……これで分かってもらえたかしら?」

 

「ふふっ、ええ、よく分かりました。陸人さんは、そちらでも変わらず陸人さんだったんだな、ということも」

 

「あの、上里さんこそ、大丈夫ですか……? 陸人さんの病室にも、ほとんど行ってないみたいですし……」

 

 今度はこちらを気遣わしげに見る水都に、ひなたは苦笑で答える。

 

「……私に傷を癒せるような、それこそフィクションの巫女様のような力があれば別だったんですけどね。私が行っても何もできません……ならば今、私にできることをやる。それが私なりの陸人さんへの恩返しです」

 

 その言葉に迷いはない。水都は同じ巫女として、尊敬の念を禁じ得なかった。

 

「それに約束しましたから。無事な姿を見せてくれると。まだその約束は続いています。だから、私は信じて待つだけです」

 

 そこには、絶対的な信頼があった。

 

 

 

 

「そうだ。陸人くんのこと、教えてくれない? こちらの皆さんは長い付き合いなんでしょ?」

 

「そうですね。では諏訪での陸人さんについても、教えてもらっていいですか?」

 

「分かりました。共通の話題、ですからね……」

 

 

 ほとんど初対面と言ってもいい3人の姦しい声が教室に響く。

 本来出会うはずのない少女たち。そこには誰も奇跡と気づかない奇跡があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 若葉は練習場で悩んでいた。友奈を呼び出したのは良いが、何の話をすれば良いか分からないのだ。

 友奈は陸人に似たところがあった。いつでも相手を気にかけ、自分の話はしない。そのためか、一対一でどう話せば良いか想定する材料が無かった。

 

「若葉ちゃん、来たよー」

 

 練習場に入ってくる友奈。口調こそいつもの軽妙さがあるが、隠しきれない悲壮感が声に乗っていた。

 

「急に呼び出してすまないな、友奈」

 

「ううん、それはいいんだけど……今日はどういう?」

 

 ギリギリまで悩み、若葉は携えていた竹刀を構えた。

 

「友奈、一手付き合ってくれるか?」

 

「えっ、若葉ちゃん?」

 

「色々考えてみたんだが……やはり私に陸人のマネは限界がある。私の得意分野で友奈と語り合いたいと思う」

 

 困惑したまま、とりあえず防具をつけて構える友奈。

 

 お互いに本気からは程遠い調子の、軽い打ち合いが始まる。

 

 

 

「……友奈、私は後悔している……! 自分を嫌悪している!」

 

「若葉ちゃん?」

 

 竹刀を振り下ろしながら、若葉は口を開く。

 

「私がもっと早く周りに目を向けていれば、陸人の焦りに気づいていれば……陸人が怪我を押して1人で無理をすることはなかったかもしれない!」

 

「それは、若葉ちゃんだけの責任じゃないよ……」

 

「それでもだ。私は、自分が許せない!」

 

 少しずつペースアップする若葉。それにつられるように友奈も熱が上がる。

 

「私も、もっと強ければ……もっと早くりっくんのお話を聞いていれば……そう思うよ」

 

 自分自身への怒りを込めて、拳を振るう友奈。

 

「いつもみんなの心を和らげてくれるりっくんだから……何があっても優しいりっくんだからてきっと大丈夫、ってみんなが思ってて……でも、そんなはずなくて!」

 

「そうだ! 私たちは間違えた。陸人1人に、押し付けていい負担じゃなかったんだ!」

 

「……りっくん、ごめん、ごめんね……」

 

「済まない、陸人……!」

 

 いつの間にか本気のテンションで打ち合う2人。同時に大きく振りかぶる。

 

 

「──陸人ぉぉぉ‼︎」

 

「──りっくぅぅぅん‼︎」

 

 

 

 吸い込まれるように綺麗に、互いの攻撃が互いの顔に直撃した。

 

 

 

 

 

 

「──ふぅ、大丈夫か、友奈」

 

「大したことないよ、若葉ちゃんは?」

 

「ああ、問題ない。スッキリしているくらいだ……済まないな、友奈。お前の不安を払えたらと思っていたのに、私の方が落ち着かせてもらった」

 

「ううん、私も、言いたいこと、言えたから……今すごい楽だよ」

 

 2人は倒れ込んだまま笑い合う。鼻血を流したまま、というのは乙女として問題がある光景だが、少女たちの顔は晴れやかだった。

 

「初めて、友奈の本音を聞けた気がするな」

 

「えっ? そう、かな……」

 

「ああ、ウソをついているというわけじゃないんだ。ただ友奈はいつも周りに気を使っているように思えてな。陸人もそうだったから、何とかしたくてな……」

 

「ありがとう、若葉ちゃん。そうだね、私も、今度()()()()()()()()()()、私自身の話もしてみようかな……慣れてないから上手く言えないかもだけど、聞いてくれる?」

 

「もちろんだ。楽しみにしてるぞ」

 

 陸人を含めた全員での約束。彼女たちは共に、彼の帰りを信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乃木若葉は努力していた。陸人の代わりを務めるように。

 上里ひなたは強がっていた。陸人に心配をかけないように。

 土居球子は期待していた。もう一度陸人の手で触れてもらうことを。

 伊予島杏は焦がれていた。再び陸人に名前を呼んでもらうことを。

 高嶋友奈は願っていた。陸人に自分の話を聞いてもらう日を。

 郡千景は誓っていた。今こそ陸人のために戦う時だと。

 藤森水都は祈っていた。自分を救った陸人にも救われて欲しかった。

 白鳥歌野は無心だった。何も考えず、ただ陸人を信じていた。

 

 

 

 

 

 少女たちは各々のやり方で湧き上がる不安を押しとどめ、来たる大侵攻に備えていた。

 

 そして神託から半月ほど経ったある日──

 

 決戦が、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伍代陸人は、その景色に見覚えがあった。初めてクウガになった、世界が終わった日。自分の中にいる者と出会った場所だ。

 

 

 

 

 

「このまま、貴様が死ぬまで会うつもりはなかったのだがな」

 

「えっと、久しぶり……でいいのかな?」

 

 

 

 

 その姿は死んだ姉そのもので、しかし声も口調も似ても似つかない。

 

 

 

 

「こんにちは、アマダム。お変わりないようで何より」

 

「戯けたことを……変わりがなければ貴様を呼んだりはせん」

 

 

 

 

 

 一心同体と言ってもいい存在。

 

 アマダムは変わらず、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 




というわけで若葉ちゃん大活躍の巻でした。

今回と次回でハッキリしますが、アマダム関連、大分都合がいいように設定改変しています(今さらか…)

原作に忠実にやると、恐ろしくくどい文章になってしまって。

土地神様の力でファンタジックになったと思っていただければ…

感想、評価等お待ちしています。

次回もお楽しみに

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