A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
蛇足と言われれば反論のしようがない蛇足なので、本編を終わりまで読んだ上で「別の結末も見てみたい!」と思ってくださった方はこの先をどうぞ。
──もう後戻りはできないな。陸人、人としていられる最後の時間だ……ここには私しかいない、言いたいことがあれば言っておけ──
アマダムは、最後の意思確認の場を用意した。陸人の答えは分かっている。それでも、果ての果てまで本音を隠さなければならないというのは、あまりに残酷すぎると思ったから。
「……そうだなぁ……」
どこまでも面倒見のいい相棒に苦笑しながら、口にする気は無かった本音をこぼす。
「……やっぱり消えたくはない。みんなと、ずっと一緒にいたかったよ……」
最強最高の勇者、伍代陸人の人間としての最後の言葉。それはどこまでも彼らしくなく、どこまでも人間らしい、当たり前の弱音の発露だった。
──やっと言ったな……頑固で馬鹿で……まったく困った奴だ──
陸人の本音を聞いたアマダムが、用意していた秘策を使う。現在進行形で陸人の体を蝕む力の奔流をアマダムに収束させる。人ではない体に進化した陸人の生命を維持する神樹の光もろとも吸収して、全てのエネルギーがアマダムに集まっていく。
(アマダム⁉︎……何をする気だ?)
──陸人が何を捨ててでも娘たちを守ろうとしたのと同じだ……私にも、何をしてでも守りたいものがある! ──
力を奪われて肉体を維持できなくなった陸人。倒れた彼の体に神樹の雷が落ちる。それは一瞬で怪物と化した体を消滅させ、同時に
「……何だ? 色が、見える……?」
神樹に記録されていた、侵食が始まる以前の陸人の体。それを模した御姿は、失くした記憶を含めた全ての身体機能が正常に作用している。
──どうやら、うまくいったようだな──
「アマダム! これはいったい……」
気づけばいつもの精神世界に引き込まれていた陸人。常に体内に感じていたアマダムを、どこか遠くに感じる。
──陸人を蝕む全て……光も闇も、私に集めて切り離した……その体は神樹が作った新しい
「ちょっと待ってくれ! 切り離したって……そんなことをしたら!」
──そうだ……これで陸人はもうクウガにはなれない。もう、苦しむことはない──
「そんな……それじゃあ、天の神は!」
──後のことは、私に任せろ……変身! ──
精神世界に降り立つ究極の戦士。陸人は初めてクウガというものを俯瞰で見た。陸人とクウガが向き合う、ありえない光景がそこにあった。
神樹に呼ばれ、時代を超えて集まった勇者たち。その中には陸人の結末を知る者がいた。
かつて自身の多くを神樹に捧げ、陸人とは別のアプローチで人よりも神に近い存在に変質した勇者、乃木園子。
神樹信仰が強い家の教育を受けた巫女、国土亜耶。
彼女たちは気を遣ってその話題を避けていたが、1人の少女がその秘密を明かしてしまう。
「……とまあ、こんな訳で。陸人様の献身と犠牲の上で成り立っているのが神世紀……ひいてはそこに生きる者の存在すらも、あなたがいなければあり得なかった。ひどい話だと思わない? 陸人様は結局最後まで人並みの幸せも得られずに、存在することもできなかったのに……」
赤嶺友奈。神樹内の世界で敵対した勇者。出会った当初から、何故か陸人に執着している少女。
彼女は精神攻撃の一環として、全員の前で陸人の未来、史実の結末を暴露した。陸人の心を崩して、自分の元に引き込む。
勇者たちは何も言えない。信じたくないという思いと同時に、陸人ならやりかねないという確信もあった。共に戦ってきた8人でさえもその事実を受け入れられなかった。
「……なるほど、よく分かったよ。ありがとう、赤嶺さん」
それでも陸人は笑う。まるでそんな未来は怖くない、と言わんばかりに。
「あれー? お礼を言われる流れじゃないと思うんだけど?」
「今教えてもらえれば、自分の時代に戻った時に対策が打てるかもしれない……君もそのつもりで俺に教えたんだろう?」
「……! 違うよ。ただ未来を知れば、私のところに来てくれると思って……」
「そう? まあそれならそれでいいさ……悪いけど、何を見ても何を知っても、俺の答えは変わらない。命を守る、そのために──変身ッ‼︎」
「……どうして分かってくれないの! その人達じゃ陸人様にはついてこれない。そこにいたら、あなたは全部失くしちゃうんだよ!」
「……ごめん、きみがみんなの敵に回るなら……俺は戦う! きみが諦めるまで、何度でも!」
結局赤嶺の策は陸人本人には大した効果はなかった。しかしアマダムにとっては、未来を変えるための大きな分岐点となった。
元の時代に戻り、戦いを再開した勇者たち。限定的に未来を知っている彼らの尽力で多少過程の変化はあったものの、やはり天の神が一手上回り、陸人は追い込まれていた。
この窮地を脱するために、アマダムは準備を進めてきた。力を高め、神樹とも秘密裏に打ち合わせを重ね、最悪の事態に陸人を制するために。
「こんなことができるなんて、聞いてないよ?」
「……言っていないな……本来できる、という訳でもないしな」
アマダムに変身者と分離する機能はない。無理やり別れた今、アマダムが存在していられる時間はそう長くない。収束した力が爆散して消滅する。それを天の神にぶつけるのがアマダムの策だ。
「……アマダムは、俺のために……?」
「……長く封印されていた私にとっては、未来の安定よりも大事なものがある……それだけだ」
陸人と勇者たちの幸せ。アマダムにはそれが何より大切だった。
誰かのために戦い続け、ようやく見つけた願いからも目を背け、全てを捨てようとしている陸人。アマダムはそんな結末を認めない。絶対に認めるわけにはいかない。
「……これが最後だ……陸人、自分の願いを見失うな。貴様もまた1人の人間……守られるべき存在であることを自覚しろ。自分を度外視して誰かを守っても、娘たちは決して喜ばない……」
「アマダム……俺は……」
「これで貴様はさして特別な存在ではなくなる。全てを守る義務も、その力もない……ただの人間だ。自分と側にいる大切なもの……それだけを見ていればいい。もう、世界を背負う必要はないのだ……」
言い聞かせるようなアマダムの言葉。ここで言い返すのがいつもの勇者、伍代陸人であるはずだ。しかし力を失ったからか、戦意や闘志が冷めていくのが分かる。彼は今、失くした人間性を急速に取り戻し始めている。
アマダムに侵食された怪物の体から、神樹が作った御姿に。
痛みと苦しみに削られて形取られた戦士の心から、物心がつくよりも前の、本当に純真だった人間の心に。
「俺は、もう……戦えない。戦わなくても、いい……?」
「そうだ。貴様はすでに役目を終えた。誰に憚ることもなく、これからは自分の幸せを追い求めればそれで良い……」
その言葉と同時に精神世界が崩壊する。現実に戻った陸人の目の前には、バーテックスの攻撃から自分をかばうクウガ……アマダムの背中があった。
「──ッ! アマダム‼︎」
「色々とあったが、貴様との時間……悪くなかった……楽しかったぞ……陸人!」
アマダムが陸人を壁の内側に飛ばす。今の陸人には、灼熱の大地に耐える体も、クウガに抗う力もなかった。
「アマダムゥゥゥゥゥゥッ‼︎」
伸ばしたその手は虚しく空を掴み、陸人は光に呑まれて
「……さて、英雄の立場を奪ってしまった以上、責任は取らなくてはな……」
力を溜め込む仮初の
「行くぞ……出し惜しみはナシだ!」
視界を覆うバーテックスを一瞬で焼き尽くし、崩れた包囲網を突破。天の神の世界と現世を隔てる境界の真下まで移動した。
めまぐるしく変わる状況をようやく把握した天の神が、最大出力で迎撃を開始する。しかし一手遅かった。
「……天の神よ……貴様ごときに、我が弟の未来を邪魔する権利はないと知れ‼︎」
アマダムのエネルギーは最高潮。その全てが天の神に向けられる。砲撃を受けても止まらない。
「我が名はアマダム! 貴様ら神が作り、その創造主ですらも恐れた、力の塊だ‼︎」
太陽よりも眩く力強い輝きが世界を覆い、空が砕けた。
全てを白く包み込むアマダムの光を、陸人はただただ見つめていた。
戦いが終わって数日、陸人は自室のベッドで何をするでもなく寝転がっていた。思い返すのは、最後の最後で陸人を出し抜いていなくなった相棒のこと。
アマダムの最後の一撃は、天の神に致命的なダメージを与え、撤退に追い込んだ。神託によれば、向こう100年は侵攻どころではないということだ。
勇者たちの戦いは終わり、陸人もその力を失い、役目は完遂となった。そのためこうして時間を持て余している。陸人を陸人たらしめていた力と使命を同時に失くしたことで、何をすればいいのか分からなくなっている。
(アマダム……ああ、こうやって話すことも、もうできないんだな……)
1番近くにいたアマダムを失った陸人。忘れた記憶を含めた全ての機能を取り戻したが、それ以上に大きなものを失った彼は、何もできずに連日部屋に籠っている。
「オーイ! 入るぞ、陸人!」
「失礼します……陸人さん、起きてる?」
そんな陸人の部屋に入ってきた球子と杏。2人は陸人が反応するよりも早く、彼の両手を取って部屋から引っ張り出した。確保というか連行というか、もはや拉致である。
「……あの、2人とも?」
「いいからいいから! しばらくまともに食べてないだろ?」
「私たちで準備はしておいたから……せめて食べるだけでも、ね?」
そこでようやく、陸人は周りが心配してくれていることを思い出した。
食堂に入った瞬間、陸人の耳にクラッカーの音が届いた。
『お役目終了、おめでとう!』
そこには仲間たちが用意した料理や飾り付けが並んでいて、まさにパーティーといった様相だった。
「色々あったし、これからも色々あるんだろうけど……ひと段落ついたのは確かなわけだし、ね」
「私たちも今日になってようやく体も回復して、煩わしい検査からも解放された」
「私たちで料理したんです、陸人さんの体が元に戻ったお祝いも兼ねて……」
かつての思い出を振り返った時の約束。陸人自身忘れかけていたそれを守るために、慌ただしい中で用意された祝いの席。陸人はどれだけ周りを見ていなかったかを思い知った。
「せっかく味覚が戻ってきたんだもの……美味しいものいっぱい食べなきゃダメだよ陸人さん」
「……ええ……それに、記憶の方も……ちゃんと戻ってるのか、色々話して確かめてみましょう……」
「どんな形でも、りっくんが帰ってきてくれたことが、私たちはすごく嬉しい……その気持ちを、受け取ってほしいな」
「……みんな」
仲間の優しさが胸にしみる。やっと色が戻ったのに、仲間たちとまともに向き合っていなかったことにようやく気付いた陸人は、改めて正常な視界で少女たちを見つめる。何より大切で、守りたかったもの。それが今、確かにここにある。これが陸人が求めて、アマダムが願ってくれた光景だ。
「……本当に、ありがとう……いただきます……」
久しぶりの味がある食事。その美味しさに、陸人は涙を禁じ得なかった。
最終決戦から数ヶ月。事後処理も終わり、勇者たちにはお役目完了が正式に通達された。今後の生活は全て自由。必要であれば援助も惜しまないとのこと。世界を救った褒賞としては些か物足りないと思われるかもしれないが、大社の闇を知る彼らからすれば意外なほど穏当な結末である。
(アマダム……俺、将来について考えてるよ。進路だの就職だの、ちょっと前まで死ぬまでに何ができるかしか考えてなかったのに、変わるもんだよな……)
この当たり前の人生が、アマダムが何より守りたかったもの。それを忘れることなく、陸人は1人の人間として、相棒に恥じない生き方を誓った——
この時の陸人は知る由もなかった。
『……好きです!』
最も大切に想っている8人の少女たち。その全員から同時に告白されるという……
「……えっ……?」
自分の将来の100倍頭を悩まされる問題が間近に控えているという事実を……
陸人くん生存ルート、別名アマダム様ルートといってもいいかもしれない……
ちなみに赤嶺ちゃん関連は完全にノリです。彼女については謎だらけですし、公式設定が現段階の私の想定を超えたらまた構成し直しです。そして想定内であったとしても、赤嶺ちゃん、ひいてはゆゆゆい時空の話をちゃんと作る予定も今はありません。ご了承ください。
本編よりもさらに無理矢理な設定とこじつけで話を作りました。
そしてここから各ヒロインルートに分岐していくわけです。こう書くとギャルゲーそのものだな……
各ヒロインごとにテーマを決めて、ネタ被りしないように全員分描く予定です。一応すでにキャラごとのテーマは決めて書き始めています。
このキャラのこんなシチュエーションが……とか希望がある方ももしかしたらいらっしゃるかもしれませんが、申し訳ありません。自分で思い描いたものしか作れない惰弱な作者ですので……
文量とか熱量とかもバラバラになりそうですし、全体的に本編よりも更に読み応えダウンした代物になる可能性大です……それでもよければお待ちください……なんて言い訳をここに書くのがいけないんだろうなぁ……
感想、評価等よろしくお願いします
次回もお楽しみに