A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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過去最長を更新しました…!

ただ今回は、切りどころを見失ったのではなく、一連の流れを熱を維持して読んでいただきたかったからです。(言い訳)

WARNING‼︎WARNING‼︎

今回は特に都合のいい改変が多くあります!

また、一部のクウガファンは歓喜、一部のクウガファンは落胆することになるかもしれません!



三章6話 超越

 数えるのも嫌になるほどのバーテックスに空を埋め尽くされた樹海。

 6人の勇者は、敵の様子を伺いながら作戦の最終確認をしていた。

 

「大侵攻、っていうだけのことはあるなー、気持ち悪い光景だ……」

 

「諏訪にいた頃も、この数はお目にかかったことないわねー」

 

「大丈夫です、消耗を抑えて作戦通りに動ければ勝機はあるはず……!」

 

「うんうん、きっと今の私たちは、前よりも強いよ!」

 

「よし、そろそろ来るな……戦闘準備を──」

 

「……ちょっと、いいかしら……?」

 

 若葉の指示を遮る千景。その瞳は歌野を捉えていた。

 

「……白鳥さん、あなた……本当に戦えるの……?」

 

「……上里さんにも同じようなこと聞かれたわね。いいわ、続けて」

 

「……諏訪は、四国が準備を整えるまでの囮だった、というのは知ってるでしょう……?」

 

「お、おい千景!」

 

 若葉たちが止めようとするも、歌野本人はあっけらかんと答えてしまい、口を挟めない。

 

「ええ、オフコース知ってるわ」

 

「…………。ならば思うところはないの? あなたたちが苦しんでいる間に悠々と生きていた四国に……私たちに恨みや怒りはないの……?」

 

 千景は理解できなかった。真実を知ってなお、四国を守ろうとする歌野の心が。

 

 歌野は小さく唸りながら答える。

 

「確かに大社のやり方に反発がないとは言わないわ。私たちは囮になるために生き残ったわけじゃないもの。結局助けてくれたのは大社に逆らった陸人くんだったわけだし」

 

「……だったら……!」

 

「でもね」

 

 千景を遮り歌野は続ける。

 

「その陸人くんが話してくれたのよ。あなたたちのこと。何があっても信じられる勇者たちだって」

 

 自分の大切なものはここにはない。でも、ここは彼の大事な場所だ。

 

「私とみーちゃんのために会ったこともない人たちの墓を一晩かけて作っちゃう陸人くんのこと、私は信じると決めた。ずっと励ましあってきた乃木さんがいて、陸人くんが信じるあなたたちがいて、彼が守ってきたものがある。私が戦うには、十分な理由よ」

 

 その言葉に迷いはなく、勇者たちは歌野の強さを見た。

 

「千景、もういいだろう。ありがとう、白鳥さん。改めて力を貸してくれ……!」

 

「オーケー、乃木さん……いえ、若葉、と呼びましょうか。私も名前で呼んでちょうだい、みんなも好きに呼んでね」

 

「分かった。歌野、よろしく頼む」

 

「あっ、私も私も! 友奈って呼んでね、歌野ちゃん」

 

「……ごめんなさい、白鳥さん。つまらないことを聞いてしまって……」

 

「ノンノン! 千景さんは仲間のために、一緒に戦う私のこと確かめようとしたんでしょ? 気にしなくていいわ!」

 

 四国の勇者が抱えていた罪悪感が霧散した瞬間だった。

 

 

 

 

「それじゃ気合い入れるために、円陣でもしましょうか」

 

「円陣かぁ……やったことないなぁ」

 

「肩組んで丸くなるんだろ? あんず、こっち来い」

 

「……仕方ないわね……」

 

「よーし、準備できたよ! リーダー!」

 

 小さく深呼吸をして、若葉が号令をかける。

 

「……私たちは、絶対に負けるわけにはいかない! そしてもう1つ、目覚めた陸人を全員で迎えるために、誰1人としている死ぬことは許さない! 必ず全員で、生きて帰るぞ! ファイト──」

 

『オオーッ‼︎』

 

 勇者たちの叫びと共に、決戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の貴様の体、どうなっているか把握しているか……?」

 

「なんとなく、ね。まさか毒が仕込まれてるとは……水戸ちゃんや歌野ちゃんが刺されなくてよかったよ」

 

 いやぁ、危ないところだった、と笑う陸人。

 この状況で他人の無事に胸をなでおろす宿主に溜息をつくアマダム。

 

「……とにかく、貴様の体は本来とっくに死んでいるはずの状態だ」

 

「ああ、それをアマダムがどうにかしてくれているんだろ?」

 

「時間稼ぎが精一杯だがな。何せ毒の量が多すぎる。持ってあと数日。その後は私の力が追いつけなくなり、今度こそ貴様は死ぬ」

 

「!」

 

 あまりにも淡々と伝えられる死期。その端的さがかえって真実味を持たせていた。

 

 

「……それで? 何とかする手があるから、俺をここに呼んだんだろ?」

 

「…………。貴様は、肝が座っているのか、自分に興味がないのか分からんな……まあいい、簡単な話だ。今の段階で毒に勝てないなら、段階を上げればいい。より貴様と私の融合を引き上げるのだ」

 

「そんなことができるのか?」

 

「ああ。言うなれば今の貴様は私という城の敷地に立っているだけ。頂上はおろか、天守閣に入ってすらいない。そんな半端な状態で無ければ、いくら天の神の横槍で傷ついたとはいえ、この私があの程度の毒に負けようはずもない」

 

 生活圏の中心に城がある特異な生活をしている陸人に合わせた例えを出してくれるアマダム。相変わらず態度の割に気配りができている。

 

「そうだ、あの雷。アレは、天の神の仕業だったのか?」

 

「間違いない。あの()()()()()()()()もそうだが、よほどクウガが邪魔らしいな」

 

 墓荒らし──陸人はあの洞窟について聞こうかと思ったが、少なくともこの場で話す気はアマダムには無いらしい。

 

「話を戻すぞ。融合の度合いを上げれば死なずに済む。私の力もより強く引き出せるようになる。お互いの欠損を補い、数時間もかけずに私の傷は治り、貴様の毒も消せるだろう」

 

 アマダムの言うことは、夢のように都合のいい話だった。

 それだけならわざわざ呼び出すこともなかっただろう。

 

「そう、当然タダとはいかん。今の安全域を逸すれば、もう私にも貴様にも止められん。戦う度に私に体を侵食され、脳にまで支配が至れば──」

 

 アマダムは陸人の手を掴み、言葉を紡ぐ。

 

「人間、伍代陸人はそこで終わる。戦うことしか考えられない、バーテックス以下の醜い化け物に成り下がる。命を守るために握ってきたこの手で、守ると誓った者たちを殺すことになるのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大侵攻は五分五分の戦況となっていた。

 

 杏考案の陣形がハマり、小型の群れを順調に始末することはできた。

 しかし、これまでにない数の小型が融合した進化体。丸亀城を超えたサイズまで巨大化していたそのバーテックスは、圧倒的な存在感を放っている。

 

 全員が健在の勇者側。そして脅威的な規模の進化体を擁するバーテックス側。

 

 この膠着状態を打破するために奥の手を切ることを決めた勇者が3人。

 

『精霊を使う! ……ん?』

 

 意図せず声を揃える若葉、球子、歌野。緊迫する戦場に一瞬、生暖かい風が吹く。

 

「わ、私がリーダーとして突破口を開かなくては……」

 

「あーっ! ズルいぞ若葉、タマが1番活躍するって言っただろー!」

 

「ハイハイ、じゃあ一緒にやりましょう? 私、この勇者システムでの実戦は初めてだし、誰かと一緒だと心細くないわ」

 

 まるで心細さを感じさせない声色で言う歌野。万全を期して3人で精霊を使うことになった。

 

 

「降りよ、『義経』‼︎」

 

「来いっ! 『輪入道』ッ‼︎」

 

「カモン、『覚』‼︎」

 

 

 若葉の精霊、『義経』 能力は『剣技や身体能力の強化』

 球子の精霊、『輪入道』 能力は『旋刃盤の強化』

 そして歌野の精霊、『覚』 その能力は『他者の思考を聞き取る力』

 

 人間だろうとバーテックスだろうと、意図した相手の思考を声という形で受け取り、次の動きを予見する。限定的な未来予知と言える能力。利便性もあり、仲間の動きに合わせることも、複数の敵の思考を聞き分けることもできる。

 

 歌野の武器、『藤蔓』には元々その力の大元が備わっており、何となく敵の動きを予想する程度の力は発現されていた。

 彼女が3年もの間1人で諏訪を防衛できた理由の一端はこの力にある。

 

 

 

 

「ヤツの弱点は分かっている。接近さえできれば……」

 

「それならコイツが使える! いっくぞ〜〜〜〜!」

 

 旋刃盤をハンマー投げの要領で振り回す球子。人間大を超えてどんどん巨大化する旋刃盤。

 

「オオリャアァァァ‼︎」

 

 全力で武器を放り投げ、その上に乗る球子。

 

「みんな乗れ! これでザコを潰しながら近づける!」

 

 その言葉に従い全員が旋刃盤に乗り込む。

 球子は旋刃盤を操作し、小型を蹴散らしながら進化体に迫る。

 

「球子さん、右! でかいのが来るわ!」

 

「オッケー!」

 

 敵の動きを予見する歌野の指示もあり、大きなダメージもなく接近できた。

 

「……今説明した箇所に、融合が不完全な場所がある。そこを一気につければ倒せるはずだ」

 

「同時攻撃、ですね」

 

 

 

 

 若葉の指示通り、分散して進化体の弱点に向かう勇者たち。しかし、そこに大量の小型が急行。壁を作る。

 

「クソッ、邪魔だ!」

 

「ここを、抜けなきゃ……」

 

「あぁ、もうっ!」

 

 苦戦する仲間たちを見た若葉が、精霊の力を行使する。

 

『義経』の能力の一端、『八艘飛び』で敵から敵へと飛び移り、仲間の前に蠢く小型を一気に殲滅。

 

 

 

「よし、これで……」

 

「拓けた! 勇者パーンチ!」

 

「決めるぞ!」

 

 6人同時攻撃により、進化体は崩壊。天秤は勇者側に傾いた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──かに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「──っ! マズイ……みんな、小型を潰して!」

 

 最初に気づいたのは敵の思考を聞く歌野。だが彼女でも、ほんの一部の小型を減らすしかできなかった。

 

 歌野に一瞬遅れて、他の勇者たちも小型の挙動に気づく。

 

 

 

 残っていた少数の小型が壁の近くまで後退すると、それらに呼ばれるように侵攻当初と同等の大軍勢が押し寄せてきた。

 先程の進化体をさらに上回る数が、一箇所に集まっていた。

 

 

 

「オイオイ……」

 

「そ、そんな……」

 

「……クッ……」

 

「でっかい……」

 

 

 

 先程と同じ形状、凡そ倍ほどの大きさの進化体が顕現した。

 しかもそのままただ大きくなったわけではない。

 

「……ん? 何かしら、アレ。さっきはなかったわよね?」

 

「……! アレは……」

 

 歌野を除いた全員がその脅威を覚えていた。初陣の際に出現した進化体。その能力を司る反射板が超大型の中心部に複数浮遊していた。

 超大型は、どうしても発生する弱点を無理やり一箇所にまとめ、そこを重点的にガードしているのだ。

 

 2体の進化体を作り、それをさらに融合する。

 

 言わば『融合進化体』

 

 人間の戦法を学習したバーテックスが至った新たな境地が、勇者たちに牙をむく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、やろう」

 

 アマダムの問いかけにコンマ2秒で返答する陸人。流石のアマダムも、頭を抑えてため息をつく。

 

「ため息つくと幸せが逃げるらしいよ?」

 

「なら私の不幸の元凶は貴様だな……話を聞いていたか? 正しく理解しているか?」

 

「うん、要はアマダムに乗っ取られないように強くあればいいんだろ? 大丈夫だよ、アマダム自身も乗り気じゃないんだし」

 

 どうしたらそんな結論に至るのか……そもそもアマダムが自らこの秘密を明かしたのは陸人が初めてだ。もしかしたらコレが人間の当たり前の反応なのか? と考え、即座にその思考を却下する。

 

「……分かっているのか? ことは貴様1人の問題ではない。いずれ貴様が信頼する仲間にもその力を向けてしまうことになるのだぞ?」

 

「だからそれは最悪の場合だろ? そうなる前に戦いに勝てばいい。決着が着くまで、意地でも俺を保ってみせるさ。それに……」

 

「……それに?」

 

「もし万一俺がバケモノになったら、その時はみんなが止めてくれる。勇者として、俺が誰かを手にかける前に……そう信じられるくらいには、仲間やってきてるからさ」

 

 そう言う陸人の迷いない顔に、アマダムはこれ以上の言葉は無意味と判断した……サジを投げたとも言う。

 

 

 

「……よく分かった。ならばコレから先の貴様を、もっと近くで見せてもらおうか。その言葉が真であると、証明してみせろ……()()!」

 

「ああ、見ててくれ……人間は愚かかもしれないけど……滅びなきゃいけないほど、救えない生き物じゃないってこと!」

 

 そう言って笑顔とサムズアップを見せる陸人。

 一瞬目を見開いたアマダムは、小さく笑った。

 

「妙なところで、よく似た兄弟だ」

 

「……えっ?」

 

「行くぞ、勇者たちが戦っている……!」

 

 

 アマダムが輝きながら、陸人の胸に吸い込まれていく。

 

 暖かいもので全身が満たされていくのを感じながら、陸人は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現実世界で目を覚ました陸人は、両手を誰かに握られていることに気づいた。

 

「ひなたちゃん……水都ちゃん……」

 

 ──信じていると言うのなら、もっと娘たちの気持ちも考えてやれ……貴様が信頼するのと同じだけ、この子らは貴様を信頼し、心配し、愛してくれていることを忘れるな──

 

 体内から響くアマダムの声。

 

(分かってる……ああ、分かっているんだ)

 

 時間が止まった世界で、何を言っても届かない。それでも陸人は、優しくその手をほどきながら、自分を心配してくれていた2人に声をかける。

 

「水都ちゃん……大事がなくて、本当に良かった」

 

 病院着を脱ぎ、ひなたが用意してくれた制服に着替える。

 

「ひなたちゃん……約束、引っ張っちゃってごめん」

 

 体の調子をチェックする。未だに動きはぎこちないし、毒もまだ残っているが──

 

 

「よし、いけるな」

 

 それが陸人の結論だった。

 最後にもう一度2人に振り返り……

 

 

 

「今度はちゃんと『ただいま』って言うからさ……もうちょっとだけ待っててくれ」

 

 

 

「行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手詰まりだった。攻撃力と防御力を備えた融合進化体に、勇者たちは有効な手を何一つ打てずにいた。

 更なる増援に備えて後方支援に徹する杏を除いた全員が精霊を使ってもなお、不利を覆せずにいる。

 

「あの反射板を砕くまでに小型が邪魔をする…………」

 

「かと言って防御の薄い部分をちまちま削っても意味がない……どうすれば……」

 

 

 絶望的な戦況に焦る勇者たち。その時、歌野がこの戦場に近づく思考を感じる。バーテックスではない、これは……

 

 

 

 

「まったく、なんで来ちゃうかなぁ……」

 

 歌野の呆れ返った声に、勇者たちは振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 そこには青白い顔でゴウラムにつかまり空を飛ぶ、伍代陸人がいた。

 

 

 

「……り、陸人⁉︎」

 

「なんで⁉︎」

 

 

 

 驚愕しながら駆け寄る勇者たち。

 合流した陸人は笑顔で口を開く。

 

 

「みんなごめん、心配かけたね……もう、大丈夫だから」

 

「心配かけた、ではない! なぜ来た⁉︎ いや、話は後だ、早く戻れ!」

 

「そ、そうです。命に関わる大怪我でずっと眠ってたんですよ⁉︎ いきなり戦ったりしたら……!」

 

「そうは言っても、このままじゃマズイでしょ? 端末でちょっと前から状況は把握してたんだ」

 

「……んぐっ、だ、だけど今の陸人よりはマシだ! 良いから戻って寝とけよ!」

 

「大丈夫、もうみんなに心配かけるようなヘマはしない……後でいくらでも話は聞くからさ……」

 

 俺を信じてくれ。そう頭を下げる陸人に、誰も何も言えなかった。

 

 

 

 

 

「……終わり次第力尽くでも病室にぶち込み、説教だ、いいな……」

 

「若葉ちゃん⁉︎」

 

「うん、ありがとう、リーダー」

 

 苦い顔で小さく呟く若葉。

 その決断に感謝しながら前に出て構える陸人。このタイミングで──

 

 

 

 

 

 

 アマダムさえも見逃した、天の神の罠が発動した。

 

 

 

 

 

 

「────へんし……グッ⁉︎……ガアアァァッ‼︎」

 

 

 

「り、陸人⁉︎」

 

 アマダムが輝いた瞬間に陸人の体を衝撃が駆け巡る。

 天の神の雷が、体内から陸人を苛んでいるのだ。

 

 大元が同じバーテックスの毒に擬態して、陸人の体内に潜伏し続けていた雷。それがアマダムに反応して活性化。陸人は内側から焼き尽くされるような激痛にさらされた。

 

 

「ウ、アアアアァァァァ‼︎」

 

「りっくん、りっくん‼︎」

 

「……どうすればいいの……? 何が起きているの⁉︎」

 

 

 我慢強い陸人の口から漏れる絶叫。

 事態を把握できない勇者たちの焦りは加速するばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もが混乱していたその時、神の祈りが降って来た。

 

 

 

 

 

 

 樹海の天空からきらめく雷。それが陸人の体を包み込むように落ち続ける。

 

「な、なんだ? 今度はなんなんだよ⁉︎」

 

「……雷? これは……」

 

「サンダー……またあの攻撃⁉︎」

 

「いえ、ここは樹海の中、こんなことができるのは……」

 

「まさか、神樹……?」

 

「すごい、この雷……暖かいけど、熱くないし、痛くない……!」

 

 

 

 天の神の雷と同種の、その性質を逆転させた神樹の雷。

 それが陸人の体内で暴れる雷を中和、同化し、陸人自身のエネルギーへと変換する。

 

 

 神樹はアマダムに宿る自らの力を通じて、陸人の言葉を聞いていた。

 命を守るために全てを賭ける。その生き方は、神に初めての感情をもたらした。

 

『共感』と『応援』という2つの感情を。

 

 人類という総体ではなく、特定の個人に初めて肩入れした神樹の感情の表れ。それがこの雷だ。

 

 

 

 

「うおおおおあああああっ‼︎」

 

 

 

 

 アマダムの力の高まりを感じる陸人は、ためらわずその全てを解放した。

 

 

 

 

 

 

「出し惜しみは、ナシだっ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 腕を振り払い、雷の中から現れる。

 

 そこには、赤のクウガを黒く染めたような姿の、新たなクウガがいた。

 足首やベルトなどに金の意匠が追加され、全体を黒で塗りつぶしたような力強い色合い。それでも瞳は変わらず燃える赤だった。

 

 

 

『アメイジングマイティ』

 

 

 

 雷の力を重ね合わせることで至る、クウガの超強化形態。

 

 

 

 

「黒くなった……」

 

「……黒の、赤のクウガ……?」

 

「とんでもないパワーを感じるわ」

 

 クウガは振り返り、友奈に手を差し出す。

 

「今なら、今の俺たちなら、アイツに勝てる。友奈ちゃん」

 

「りっくん?」

 

「行こう!」

 

「……うん!」

 

 友奈はその手を掴み、2人は手を繋いだまま敵に突っ込む。

 その時、クウガ以外の誰もが驚愕する事態が発生した。

 

「──ダァッ‼︎」

「勇者、パーンチ‼︎」

 

 2人の拳が、山ほどのサイズの融合進化体を吹き飛ばしたのだ。

 

「うわぁ、すっごいね、りっくんの力!」

 

「俺だけの力じゃないよ……アマダムを通じて伝わってくる……この姿は、神樹様の力をより活性化させるものなんだ」

 

 アマダムに宿る土地神の力と、雷という形で陸人に宿った神の力。これらが神樹由来の勇者の力と共鳴し、互いの出力を高め合っていく。

 

 簡単に言うと、仲間がいるほど強くなる。

 仲間を愛し、それ故に無理をしがちな陸人を案じたアマダムと神樹がもたらした絆の力である。

 

 

 

 

 

 

 

 想定外の事態に対処が追いつかない融合進化体。クウガは友奈の手を離し、後方の仲間に声をかける。

 

「ガワを削って動きを止める! 千景ちゃん、歌野ちゃん!」

 

「……任せなさい……!」

 

「アイツの動きは私が読んで抑える、好きに動いていいわよ!」

 

 

 

 ベルトに手を添え、その姿を変えるクウガ。ここで使うのは黒の青の力 『アメイジングドラゴン』 更なる速さを手にした高速戦闘形態。

 

 両端に金の矛先を備えた『ライジングドラゴンロッド』を2本形成。両手に構える。

 瞬間──

 

 

 

 視認できるレベルを超えた速度域に達したクウガの連撃が、融合進化体の体表を次々と削り取って行く。

 

 本来ならクウガとはついていけない速度差がある千景と歌野。

 2人はそれぞれの精霊の力で連携を成立させた。

 

 千景は7人による連続攻撃。歌野は敵とクウガの思考を聞き取った先読み攻撃。

 

 黒の力で底上げされたこともあり、融合進化体にわずかな反応さえも許さない怒涛の連携攻撃が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 小さなダメージが蓄積し、その動きを止める融合進化体。

 そこでクウガは、周囲を漂う小型に目を向ける。

 横槍や更なる増援を防ぐためには、先に片付ける必要がある。

 

「小型を落とす! 球子ちゃん、杏ちゃん!」

 

「よっしゃ、タマに任せタマえ! 杏、乗れ!」

 

「うん、やろう、タマっち先輩、陸人さん! 私たち、3人で!」

 

 

 

 今度は黒の緑の力 『アメイジングペガサス』 大量の感覚情報を同時に受け取り個別に処理できる至高の射撃形態。

 

 

 

 先端に金の刃を取り付けた『ライジングペガサスボウガン』を2丁構築。ゴウラムに飛び乗り構える。

 旋刃盤に乗って合流する球子と杏。

 

 ゴウラムとクウガ、球子と杏。この2組のコンビは共に『攻撃力を持った空飛ぶ足場』と『連射力を備えた射撃武器』という要素を持った、殲滅力に優れた組み合わせである。

 

「蹴散らす!」

 

「いっけー‼︎」

 

「私たちの世界から、出ていって!」

 

 

 

 射撃。射撃。射撃。圧倒的な矢の嵐が、次々と小型を撃ち抜く。

 花火のようにチラチラと、バーテックスが弾け飛んで行く様子は、いっそ幻想的ですらある。

 20秒足らずで全ての小型の殲滅を達成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 小型を蹴散らしたクウガは、融合進化体の頭上でゴウラムを止めて、三度姿を変える。

 

 

 黒の紫の力 『アメイジングタイタン』 堅牢さと膂力に磨きがかかった重防備形態。

 

 

 金の刀身が追加された『ライジングタイタンソード』を生成。両手で振りかぶる。

 そのままゴウラムから飛び降り、融合進化体の弱点に向かう。

 

 固めて配置された反射板に、落下の勢いも込めて一閃。

 その太刀筋はまさに雷霆の如く。

 全ての反射板を一刀のもとに切り捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ての反撃手段を封じられた融合進化体が選んだ手は、幼稚で原始的なものだった。

 ただ倒れこむだけ──規格外のサイズを持っていれば、必殺となりうる一手だ。

 あの巨体の下敷きになれば、クウガも勇者も無事では済まない。

 

 

「チッ、悪あがきを……」

 

「決めるよ、若葉ちゃん!」

 

「ああ、付き合うぞ……どこまでもな!」

 

 再び黒の赤の力を使うクウガ。

 そのクウガに先行して仕掛ける若葉。

 

 巨体の至る所に攻撃を仕掛けながら跳ね回る。倒れこむ勢いを手数で押しとどめながら、『義経』の力でどんどん加速していく。

 最高速に至った若葉の渾身の一撃が、のけぞらせるように巨体の動きを停止させた。

 

「今だ、陸人!」

 

 腰を落として構えていたクウガが、その言葉に走り出す。

 両足の『マイティアンクレット』が1歩ごとに脚力を増強する。

 

 高く飛び上がり、弱点に飛び込む。

 

 黒の赤の超必殺 『アメイジングマイティキック』

 

 雷を宿した両足を叩き込む必殺技が炸裂した。

 

 

 その威力は桁違いで、樹海そのものを震撼させるほどの衝撃に、中心にいたクウガは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丸亀城、桜の木の下。

 

 樹海が解ける直前に大きく吹き飛ばされた陸人は、仲間たちとは違うところで現実世界に帰還した。

 

(勝てた、みたいだな)

 

 ──無茶をしすぎだ愚か者、あの力をいきなりあれほど多用するとは──

 

 アマダムの言葉通り、陸人は回復しきっていない体で新たな力を多用した結果、再び体力を使い果たしていた。

 

(……でも、約束したからな……『ただいま』って言いに行かないと……)

 

 静止した世界での一方的な約束を守るため、足を踏み出す陸人。

 だが数歩も持たずに倒れこむ──

 

 

 

 ──その直前、陸人を探していたひなたと水都が、左右からその体を支える。

 

「やっと見つけました、陸人さん」

 

「気づいたらいなくなってるんだもん、心配したよ? ……でも、良かった……」

 

「ひなたちゃん……水都ちゃん……」

 

 力を入れることもできずに、完全に2人に体を預ける陸人。慌てて支え直す2人。

 

「……みんなは?」

 

「全員の帰還を確認しました。今ははぐれた陸人さんを探しています」

 

「そっか。良かった……」

 

「よくありません! うたのんといい、陸人さんといい、どうしてこう笑って無茶しちゃうのかな……」

 

「ハハハ……ゴメンね、色々と心配かけて……」

 

「それも仕事のようなものですから、謝ることはないですよ」

 

「そっか……ゴメン、起きたばかりでなんだけど、ちょっと眠いや……横になってもいい?」

 

「分かりました…………では、どうぞ?」

 

 驚異的な手際の良さで膝枕の形に移行したひなた。

 陸人は慌てて退こうとするが、体の痛みで叶わない。

 

「ひなたちゃん……」

 

「何か問題でも?」

 

「色々あると思うんだけど、まあ、いいか……」

 

 疲労もあり、頭が働かない陸人。

 目を閉じる前にこれだけは、と2人を見つめる。

 

「ひなたちゃん、水都ちゃん、ただいま……」

 

 その言葉に一瞬驚いた顔をする2人だが、すぐに顔を綻ばせて返事をする。

 

「……はい、お帰りなさいませ、陸人さん……」

 

「お帰り、陸人さん……帰ってきてくれて、本当に良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 満足げな顔で眠る陸人。そんな彼の頭を撫でながら微笑むひなたは、傍でその様子を微笑ましく見つめる水都に話しかける。

 

「水都さん……この人はいつもこの通りです。損得も好き嫌いも超えた価値観で動き、大社の理性的な判断にも時に逆らう……私はそんな陸人さんを支えなくてはいけません。同じ巫女として、力を貸していただけますか?」

 

 その問いかけに、彼女にしては珍しいことに、水都は即答する。

 

「もちろんです。私に何ができるか、分からないけど。私も、うたのんと陸人さんと、みんなと生きていきたいから……」

 

 笑い合う2人。そこに、駆けつけてきた勇者たちの声が届く。

 

 

 

 

 

 

 

 

『丸亀城の戦い』は、こうして人類側の勝利で終わった。

 

 その立役者の少年は、誰より幸せそうな顔で、青空の下で夢を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




〔悲報〕神樹様アメイジング派説〔ライジングさんなかったことにされる〕
全国のライジングファンの皆様、申し訳ありません!

これを含め、今回は言い訳することが多いので、箇条書きで行きます



歌野の精霊『覚』の能力…5秒でテキトーに考えました。原点の妖怪と、歌野の要素を合わせて、こんな形に落ち着きました。

アマダム周りの設定…この辺の謝罪は皆さんもう聞き飽きましたかね…

融合進化体…ライダーファンなら響きに覚えがあるかもですね…単なる言葉遊び、思いつきです。

アマダム様、喋り出す…陸人くん以外には聞こえませんし、日常パートでメインになるようなこともないかと…これから先予定されるシリアスな内緒話の手間を省くための措置です


〜久々のあとがき設定資料〜

アメイジングフォーム

天の神の怒りの雷と、神樹様の祈りの雷、さらにアマダムとの融合の進展により至った『Amazing(驚異的)』なクウガの姿。
神の力の割合も増したことで勇者たちとの共鳴能力も覚醒。
この状態の勇者たちは神世紀世代の勇者の通常状態→満開と同等の強化率を誇る。
ただしこの状態はクウガも勇者も負担が大きく、使いどころは選ぶ必要がある。




ライジングをすっ飛ばした理由としましては…

①時間が限定されるライジングの使い方が上手く描けそうにない、かと言って常時使用可能にするくらいならアメイジングにすれば良くない?というハショリ大好きゆとりっ子精神。

②勇者たちのテコ入れを考えた時、一足飛びにした方が新たな力に説得力があるんじゃないか、という安易な思考。

③私自身がアメイジング大好きで、アメイジングドラゴンとか妄想した過去を持っていること。

…こんな感じです。改めて楽しみにしていた皆様、申し訳ありません…今後ライジングの出番は予定されていません。






これにて3章終了です。この展開を描きたい、という願望と日常回はうたのんとみーちゃんが合流してから、という考えからここまでそこそこハイペースで来ました。
ここからは執筆ペースも話の進み方も落ちると思います。ご了承ください。

後書きも過去最長を更新しました…こんなに言い訳並ばなくてもいいのかな、と思いつつ、根がチキンなもので…読まなくてもいい部分なので、気になるなら今後も後書きは読み飛ばしてください…



感想、評価等お待ちしています

次回もお楽しみに


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