A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
今回は大分今までと雰囲気の違う話になったかも…
4章はこんな感じでゆっくり進みます
『丸亀城の戦い』から数日、無理に無理を重ねてきた陸人の体も快復し、勇者たちのいつもの日々が戻ってきた。
その中にいくつか変わったこともある。
まずは歌野と水都の合流。歌野は勇者として。水都は巫女として。彼女は巫女としての適性こそわずかにひなたに及ばないが、樹海化がない諏訪で戦いをくぐり抜けてきた経験を買われ、ひなたと同じく勇者付きの巫女となった。
この2人も丸亀城の教室の一員となる。同じ制服を着て同じ勉学に励む。ただやはりブランクの影響は大きく、授業についていけず、苦戦していた。
「うーん、ダメだわ。なんで数学に英語が出て来ちゃうのよ?」
「あー、これはもう英語だとは思わない方がいいよ。小学校の算数の文章題で、りんごをいくつ買った、みかんはいくらだった、みたいな問題あったでしょ? そんな感じでイメージしやすいものに置き換えるといいよ……歌野ちゃんなら、野菜?」
「オウ、アメイジング! 急にこのxくんが愛おしく思えて来たわ。サンクス陸人くん!」
「ありがとう、陸人さん……私もうたのんも、長いこと勉強なんてやってこなかったから」
「それは仕方ないよ。2人とも理解すればちゃんと解けるみたいだし、すぐに慣れると思うよ」
そんな様子を離れた席から伺う勇者たち。一部の者からは不機嫌な空気が滲み出ていた。
「……むう、最近歌野と水都にベッタリじゃないか? 陸人のヤツ」
「……あの2人はまだここの環境に慣れていない……連れて来た者として、責任を感じてるんじゃない? ……彼、律儀な人だから……」
「それにしたって、しばらく会えてなかったのは私たちも同じなのに……あんな大変なことが、まるでなかったみたいにいつも通りで……」
「でもそれはいいことじゃない? りっくんが元気になったんだから!」
「そうですけど、でも……」
「ふむ、分からん。ひなた、2人は何が気に入らないんだ?」
「散々心配させられて、やっといつも通りになったのだから、もっと構って欲しい。そういうことですよ、若葉ちゃん」
「そ、そんなんじゃないやい!」
顔を赤くして反論する球子。
その大声に陸人が近づいてくる。
「どうかした? 球子ちゃん?」
「な、何でもないぞ! ないったらない!」
「……」
「杏ちゃん?」
球子も気になったが、それ以上にいつもと様子が違うのが杏だ。
さっきまで凝視していたのに、陸人が近づいてきてからは目をそらし続けている。
「素直になった方がいいと思いますが……陸人さんは聡い方ですが、乙女の機微まではカバーしていないようですから」
「…………」
「……あら?」
最近の変化がもう一つ。杏の態度が少し変わった。陸人に対してと、もう1人、ひなたに対しても。
陸人は他に聞こえないように小声で話す。
(ひなたちゃん、最近杏ちゃんの様子が変なんだけど……俺と、気のせいかもしれないけど、ひなたちゃんにも)
(そうですね、気のせいではないと思いますよ? 流石は陸人さんです)
(……ということは、ひなたちゃんは理由が分かってる、ってこと?)
(ええまあ、検討はつきます。ただ、私の口から教えることはできません、頑張ってください)
話をしながらも少しずつ陸人との距離を縮めて行くひなた。思考に没頭する陸人は気付かない。
いつの間にか肩がくっつき耳に口をつけるような体勢にまで接近している。
「フゥ〜〜〜」
「うおわぁぁ‼︎ ビックリした! ……何、ひなたちゃん⁉︎」
陸人の耳に息を吹きかけるひなた。実戦でも見せたことのない過剰反応で距離を取る陸人。
「いえ、考え込んでいる様子でしたので。そこまで深刻な話ではないですし、肩の力を抜いて自然体でいてください。それが陸人さんの役目です」
「ひなたちゃん……うん、わかった。でも次はもう少し普通に声をかけてよ、肩を叩くとかさ」
「ふふっ、ちょっとしたいたずら心じゃないですか。笑って許してくださいな」
腰を屈め、上目遣いで陸人に笑いかけるひなた。若葉以外にはあまり見せない年相応な少女らしさが、陸人を翻弄する。
そんな2人の様子に耐えきれなかった杏は、急に立ち上がると陸人の腕を取る。
「陸人さん、今日はもう授業も訓練もないですし、ちょっと街まで一緒に行ってくれませんか?」
「あ、杏ちゃん……?」
腕に抱きつくように密着する杏。かつての距離感からは考えにくい行動だった。
杏は色々なものに怒っていた。
急に現れて陸人と親しくしている歌野と水都。
なぜかこの頃陸人との距離が近いひなた。
そしてそんな気持ちにも気付かずいつも通りの陸人。
そして同時に、そんな文句を直接ぶつけられない程度には、優しさと仲間意識も彼女は持っていた。
複雑な感情をごまかすため、杏は普段と正反対の行動に出る。
杏に引っ張られるように教室を出る陸人。
呆気にとられて眺める仲間たち。
「……これが修羅場……恋愛シミュレーションでは王道だけど、リアルで見るとなんともむず痒いものね……」
「しゅらば?」
「……高嶋さんは知らなくていいのよ……」
「うーん、なんか怒っていたわねぇ杏さん。どうしたのかしら、ねえみーちゃん?」
「……あー、うたのんには分からない世界だと思うよ?」
「ところでひなた、最近のお前はなんだか陸人と仲がいいな。一緒にいると楽しそうに見えるが……」
「若葉ちゃんでも分かるほどですか? まぁ、そうですね……素敵な方ですから、陸人さんは」
「うーん、あんずが積極的に外に出ようとするなんて、珍しい……」
丸亀城は今日も平和だ。
「……はぁ……」
夜、杏は自室で1人後悔していた。昼間の自分の態度を。
(分かってるのに……陸人さんは、ただみんなに優しいだけで……何でこんなにイライラしてるんだろう)
歌野と水都に気を遣っているのは彼としては当たり前のことでしかない。ひなたとだって、友達同士の普通のやりとりのつもりなのだろう……少なくとも陸人の方は。
ゆっくりこの気持ちと向き合っていく、と決めていたのに少し状況が変わっただけでこうも心を乱される。杏は自分の幼稚さが嫌になった。
結局あの後も、いつもと違う雰囲気に戸惑う陸人に終始気を使われっぱなしだった。明日にでも謝らなくては。
どうにも暗い考えしか浮かばない。今日はもう寝ようか、といつもより2時間も早く眠る準備を始めると……
「杏ちゃん、いる?」
「ふぇっ、り、陸人さん⁉︎」
扉の奥から聞こえたのはずっと思考の中心にいた彼。
陸人の方から部屋に訪れるという珍しい状況に、夢を見ているのかと一瞬錯覚する。
「りんごを剥いてきたんだけど、入ってもいいかな?」
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
慌てて髪を整え、ありもしないゴミを探す。とりあえず見せられないようなものがないことを確認してから扉を開ける。
「失礼しまーす。うん、いつ見てもすごい数の本だなぁ……また増えた?」
「え、あ、そうですね。えと、それで今日は……?」
りんごを乗せた皿を机に置き、杏の向かいに座る陸人。
「……直球で聞くね。杏ちゃん、最近何かあった? なんだか不機嫌なように思えて……もし何かあるなら言って欲しい。杏ちゃんのためなら何でもするよ」
「……何でも? ……じゃあ……」
──もっと私のことを見て──
一瞬よぎった暗い考えを即座に振り払い、意識して笑顔を作る。
「全然大したことじゃないんですよ。気にしないで──」
「杏ちゃんがそんな顔してたら、どうしたって気になるし、心配だよ」
「!」
作り笑顔は一瞬も持たなかった。
「俺に言いづらいことならいいんだ。けど誰かに吐き出すだけでもずいぶん変わると思うから……」
「……私自身気持ちを整理できてないので、めちゃくちゃな話になるかもしれませんけど……」
途切れ途切れに語る杏。
突然いなくなった陸人。自分が知らない内に目まぐるしく動く状況。
瀕死で帰ってきた陸人。生気がない顔を見るたびに、明日起きたらもう会えないんじゃないか……そんな不安に襲われていた。
杏は悲しかった。自分に何も言わずに陸人が出て行ってしまったことが。
杏は悔しかった。ひなたは陸人を見つけて約束を交わせたのに、自分にはそれすらできなかったことが。
杏は怖かった。自分の知らないところで陸人が傷つき、死にそうになっていることが。
杏は眩しかった。遠く離れた地で陸人と絆を結び、自分より短い付き合いなのに、自分よりも揺るぎなく陸人の帰りを信じている歌野と水都が。
話していく内に、杏は初めて自分の感情を理解した。
これは『嫉妬』だ。
(……そっか、私……嫉妬してたんだ。ひなたさんにも、歌野さんにも、水都さんにも……)
それに気づけば、一気に自分の間違いにも気づける。
(確かに、私のことだけ見てもらえたら、きっと幸せなんだろうけど。私が好きになったのは、誰にでも優しくできる大きな心を持った、この人なんだから……)
陸人の分け隔てない心。それに杏は惹かれたのだ。それが無くなった陸人は、杏が好きな彼ではない。
その結論に至ればもう心にモヤはない。
杏の勇者服のモチーフは「
紫羅欄花の花言葉は『豊かな愛』
大きな心を持って広く皆を愛する陸人を、そのまま許容して好きでいられる。
杏はそれだけ豊かで大きな愛をその胸に秘めている。
自然と雰囲気が上向きになる杏を見て首をかしげる陸人。
杏は随分と久し振りに、素直に笑えている自分に気づいた。
その後も和やかな雰囲気で過ごす2人。気づいた時には日付が変わる間際になっていた。
「おっと、長居しちゃってゴメン。今日はこれで……」
「あ、あの! ……良かったら、一緒に寝てくれませんか⁉︎」
その発言に思考が止まる。
陸人も、言った側の杏もだ。
(わ〜〜〜〜‼︎ 違うんです違うんです! 別に変な意味とかなくてただこのままお別れは寂しいなってちょっと思っただけなんですごめんなさい〜〜‼︎)
脳内で言い訳を畳み掛ける杏。頭をかいた陸人は立ち上がり、扉に向かう。
(……やっぱり、いきなりこんなこと言って、迷惑だったよね……)
「部屋から布団持ってくるから、ちょっと待ってて」
「……えっ?」
「流石に同じ布団はカンベンしてね? 俺が落ち着かないから」
そう言って笑う陸人の顔は赤い。杏が初めて見た『異性に対する羞恥心』だった。
2つ並べた布団で寝る陸人と杏。
先程までとは違う空気が2人の間に流れていた。
「……陸人さん、いますよね?」
「……いるよ、こっそり出てったりしないから大丈夫」
「アハハ、ごめんなさい。電気落とすとこの距離でも顔見えないから、つい……」
2人は眠る気分にもなれず、ポツポツと話を続けた。
「じゃあ、手でも繋ぐ?」
……なんて、冗談だよ。と続ける前に、杏が前のめりに返す。
「お、お願いします!」
「……え゛」
震える声で左手を差し出す杏。
流すタイミングを見失い、おずおずと手を握る陸人。
お互いの手から、羞恥と緊張が伝わってくる。
「あの、陸人さん……もしかして緊張してます?」
「そ、そりゃあねぇ……」
意外だった。杏自身、何度も触れた経験はあったし、球子としょっちゅうくっ付いている印象が強かったのだ。
「球子ちゃんの時は、向こうに恥ずかしさとかないみたいだったから、俺も自分をごまかせたんだけどね……そういえば最近おぶってくれとか言うこと減ったなぁ」
球子も陸人を意識して、自分のこれまでを省みたのだろう。
「でも、なんとなくスキンシップ慣れしてるな、って思ってました。陸人さんのこと」
「……うん、言葉が通じない所に行ったりもしたからね。何か気持ちを表現する時にそう言うのが出ちゃうんだ。けど、こんな風にしっかりと言うかじっくりと言うか、女の子の手を握ったことなんてないからさ……」
「そうなんですか?」
「こんなこと、流石に
特別。その一言であっさり上機嫌になる自分に呆れながら、杏は夢に落ちても思い人の手を握り続けた。
翌日、2人が杏の部屋から出た瞬間にひなたと遭遇した。
「……えっと、おはようございます?」
「おはよう、いや、違うんだよ」
「まだ何も言ってませんが……」
「おはようございます、ひなたさん!」
「……ふふ、さすが陸人さん。どうやらうまくいったようですね」
昨日とは打って変わって笑顔の杏を見て微笑むひなた。
「あの、昨日はすみませんでした。変な態度を取ってしまって……」
「あら、そんなことありましたか? 憶えがありませんが……」
「……ひなたさん……」
「それより、詳しく聞かせてくれませんか? 杏さんと陸人さんの、めくるめく愛の一夜を!」
「……ひなたさん⁉︎」
「声大きいよ! だから違うんだって……」
楽しげなひなたに必死に訴えかける陸人。
そんな2人を眺めながら、杏は微笑む。
(陸人さんにとって、私は特別仲のいい友達で、ちゃんと1人の女の子なんだ……)
そんな当たり前の事実が、杏はとても嬉しかった。
というわけでアンちゃん回でした。
恋愛描写って難しい……私の経験不足が響いていますね
戦闘描写苦手、恋愛描写苦手、じゃあ何が書けるんだお前、って話ですよね…
今回はお試しというか、こういう話を自分がどれくらい書けるかを見る意味も込めて描きました。
感想、評価等お待ちしています。
次回もお楽しみに