A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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今回はちょっと難産でした。書きながらあっち行ったりこっち行ったり……

とっ散らかった文になってるかも

手直し、できるかなぁ


四章2話 無垢

 小競り合いのような戦闘をいくつか潜り抜け、小康状態にある四国。そんな街の一角。

 

「……ふぅ……」

 

 大社本部からの帰り道、水都は憂鬱な気分を誤魔化すようにあてもなく街を歩いていた。

 

(やっぱり、何度行っても慣れないな、あの空気……)

 

 無感情な態度で統一された集団が無機質な声で上から淡々とモノを言う。

 諏訪が状況こそ悪かったが、歌野の尽力で雰囲気は和やかな場所だったこともあり、余計に大社での居心地が悪く感じられた。

 

(大体、諏訪を見捨てる選択をした立場で、諏訪にいた私に陸人さん(命の恩人)を監視しろ、だなんて……どういう神経してるんだろ……)

 

 1度大社の決定を無視して諏訪に向かった陸人。警戒する気持ちは分かるがその監視を命じるのがよりにもよって自分。

 

 水都にしては珍しく他者に攻撃的な感情を抱いていた。

 そんな自分を自覚し、気分転換のためにこうして街を歩いているが、住民の顔を見るたびに諏訪での思い出を想起する。

 

(今日はもう帰ろうかな……)

 

 そう思った時、目に付いた人物がいた。

 

 彼は風船を膨らませると、それを手早く変形させて犬や猫などを作っていく。所謂バルーンアートを街行く人々に披露していた……その顔にクウガらしきお面をつけて。

 

 

 

(アレ、陸人さんだよね……?)

 

 知人の予想外の登場に困惑しているうちに、今回のショーは終わったらしい。足を止めて見ていた住民たちの分のバルーンアートを残して、挨拶をしながらお面の少年がはけていく。

 

 

 

 

「……あの、陸人さん?」

 

「ああ、水都ちゃん、はいこれ水都ちゃんの分」

 

「えっ? あ、ありがとう……?」

 

 恐る恐る声をかけてきた水都にバルーンアートを手渡す陸人。

 

「気づいてたの? 私のこと……」

 

「途中から見てたよね。なんか元気なさそうに見えたから早めに切り上げたんだ」

 

 お面越しでも遠くから見ていた自分に気づいたのか、と陸人の目敏さに感心する水都。

 

「……ごめんなさい、気を遣わせちゃって」

 

「今日は大社に呼ばれてるって歌野ちゃんに聞いてたけど。何かあった?」

 

「……実は……」

 

 

 水都はゆっくり言葉を選びながら話す。

 大社に陸人の監視を命じられたこと、彼らの雰囲気が苦手なこと、ふとした時に諏訪を思い出してしまうこと。

 話して整理するうちにどんどん不安の種は増えていく。

 

「私にこんな指示が出たのは、私自身に力がないことが理由なのかなって……」

 

「力がない?」

 

「私には何もない。勇者のみんなみたいに戦えないし、ひなたさんほど巫女として優秀なわけじゃない……真鈴さんみたいに得意分野があるわけでもない。こんな私がここにいていいのかなって、時々思うんだ」

 

 水都は悔しかった。大社があんなふざけた命令を出したのは、自分が侮られているからだと。反発されても何もできはしないと思われているからだと。

 

 完全に負のスパイラルに呑まれている水都に、陸人は手を差し出す。

 

「水都ちゃん、これから時間ある?」

 

「え? 空いてるけど……」

 

「ちょっと付き合って欲しいんだ」

 

 そう言って楽しげに笑う陸人。水都は首をかしげるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人が訪れたのは市内の保育園。外に出て遊ぶ時間のようだ。

 

「えっと、陸人さん?」

 

「俺がたまにお邪魔してる保育園なんだ、呼んだら入って来てね」

 

「ちょっ……」

 

 反論の間も無く行ってしまう。

 

 

 

「みんなー、こんにちはー!」

 

「あっ! りくと!」

「りくとさんきてくれたー」

「おにいさんこんにちはー!」

 

 慣れた様子で園内に入る陸人。水都は思わず足踏みしてしまうが……

 

「今日はお友達を連れて来ました! 水都おねえさんです!」

 

 紹介されては出ていくしかない。おずおずと園児たちの前に出る。

 

「……えっと、藤森水都といいます。よ、よろしくお願いします」

 

『よろしくおねがいしまーす!』

 

 挨拶はしっかり教えられているらしい。

 

 

「それじゃ今日はこれ。ヨーヨー!」

 

「はじめてみた」

「どうやるのー?」

 

 

 

「こんな風にヒモの輪っかに指を入れて、こうやって落とす。で、すぐにヒモを引っ張ると……」

 

「もどってきた!」

「すげー!」

「もっかいやってもっかい!」

 

 

 

 盛り上がる園児たち。配られたヨーヨーを手に、各々がチャレンジしている。

 水都が様子を眺めていると、保育士の1人が話しかけてきた。

 

「こんにちは。今日はありがとうね」

 

「あ、いえ、私はついてきただけで……陸人さんは、よくここに?」

 

「そうね。前は頻繁にきてくれてたんだけど、やっぱり勇者様として忙しいみたいね」

 

「あ、やっぱり陸人さんのことは……」

 

「うん……彼のご家族のことは知ってる?」

 

「あ、はい。聞きました……」

 

「そっか、仲のいいお友達なんだね。それなら教えてもいいか」

 

 

 

 飲み物を受け取り、犬吠埼望見と名乗った彼女の話を聞く。

 陸人の姉、みのりと彼女は保育士仲間だった。陸人とも面識があり、2年前にここで偶然再会したという。

 

「3年前のアレ以来連絡がつかなかったから、予想はしてたんだけど……でもまさか越してきた香川で陸人くんに会えるなんて思わなくてね」

 

 それ以来度々保育園に訪れては子供達と遊んでくれている、と。勇者云々についても、公表以前に信頼関係を築いていたおかげで職員とも保護者とも大きな問題は起きなかったそうだ。

 

「あんな子供に世の中任せなきゃいけないなんて、情けないし心配になるよ……」

 

「その気持ち、分かります。私も、何かあったらどうしよう、なんて戦いのたびに思います」

 

 その言葉に意外そうな顔をする望見。

 

「てっきり陸人くんみたいな怖いくらい強い人ばっかりなんだと思ってたけど、そういう人もいるんだね」

 

「ごめんなさい、ガッカリさせて……私はあんな風に強くなれなくて……」

 

「ううん、あなたみたいな人がそばにいてくれるなら、ちょっと安心できるよ」

 

 その言葉は、水都には理解できなかったが、本音で話していることだけは分かった。

 

 

 

 

 

「陸人さんは、どうしてここに?」

 

「んー、私も聞いてみたことはあるんだよ。一般人ならともかく、大事なお役目抱えた立場なんだし、って。そしたらね」

 

 

 

 ──俺たちがなにを守っているのか、負けたらどうなるのか……それを忘れないため。っていうのもありますかね。それに元々、子供は好きですし──

 

 

 

「多分他にも理由があるんだろうね。私には話してくれなかったけど。気になるなら本人に聞いてみな?」

 

 ほら、呼んでるよ。と望見に背中を押され、水都は園児の輪の中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

「ごめん、水都ちゃん。ヨーヨーって分かる?」

 

「えと、簡単な放して戻すくらいなら……」

 

「じゃあ見てあげてくれる? 俺ちょっとこっちの子達に技を見せなきゃいけなくなって──ハイハイ、こんな感じの技がありまーす」

 

 子供に引っ張られながらヨーヨーのヒモであやとりのようなことを始める陸人。

 

 器用だなぁ。と感心する水都の袖口を少女が引っ張る。

 

「ねえねえ、みとおねーちゃん」

 

「あ、うん……ヨーヨーなら、私はあんまり難しいのは……」

 

「みとおねーちゃんは、りくとおにーちゃんのコイビト?」

 

「ッ⁉︎ な、なんで?」

 

 不意打ちの質問にむせこむ水都。どうやら集団に1人はいるおませさんのようだ。

 

「……そんなんじゃないよ。私はただのお友達。私なんかじゃ陸人さんとは釣り合わないから……」

 

「そうなの? おにーさんがだれかつれてきたのはじめてだったから」

 

「えっ、そうなの?」

 

 

 意外だった。陸人の周りにはいつも勇者たちがいるので、よく連れてきているものだと思っていた。

 

 

 

「でもコイビトじゃないならよかった。わたしがりくとおにーちゃんのおヨメさんになるんだから」

 

「あはは、そっか……うん、カッコいいもんね。陸人さんは」

 

 園児に囲まれた陸人を見る。何やらヨーヨーを二つ構え、ダンスのように体ごと動かしている。ヨーヨーには疎いが、おそらくアレは素人技ではない。

 

 その後1時間ほど子供達と遊びまわり、その日は終わりとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ時の帰り道、2人は川沿いをのんびりと歩いていた。

 

「陸人さん、すごいね。ヨーヨーもだし、バルーンアートも……」

 

「ああ、一時期雄介さんに影響されて色々なことを練習してたんだ。最初に名刺渡されなかった? 1995の技を持つ男、とかって」

 

「あ、うん……1999、だったかな?」

 

「じゃあ旅の間にまた増えたんだ……本当にすごいな」

 

 水都は驚いた。陸人の口から雄介の名前が出たことに。

 落ち着いた頃に話そうと思っていたところ、神託でその話題は止められていたのだ。相応しい時期がある、とのことで。

 

「あの、雄介さんのことは……」

 

「ああ、神樹様に口止めされたんでしょ? アマダムに聞いたよ。近いうちに色々なことがハッキリするから、とか言ってたけど」

 

 気まずい空気が流れる。水都個人としてはすぐにでも弟の彼に伝えたいことがあるのだ。歌野に伝えた時、彼女も同様に渋い顔をしていた。

 

「俺はアマダムを信じる。神樹様も信じてる。だから今は聞かない……水都ちゃんも話した方が楽かもしれないけど、ゴメンね?」

 

 その言葉に、水都は出そうになった言葉を飲み込む。本人がそう言うなら、自分はそれに合わせるべきだ。

 

「分かった。じゃあ一緒に待とう? その時が来るのを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな訳で、小学生の頃は200の技を持つ男、とか名乗ってた時期もあったなぁ」

 

「へぇ、なんだか意外です。でもすごいなぁ、小学生で200も技を……」

 

 話題を変え、和やかな空気の中歩く2人。

 

 

 一息つくと、気になっていた質問をぶつける。

 

「陸人さんは、どうして私を連れてってくれたの?」

 

「うん、なんだか煮詰まってるみたいだったから。水都ちゃんの良いところを自覚してもらおうと思って」

 

「私のいいところ?」

 

「水都ちゃんは、自分には何もないって言ってたけど、そんなことないんじゃないかな? 戦いが終わるたびに現実での被害を真っ先に確認してること、少しでも神託を早く確実に受け取れるように巫女としての訓練を頑張ってること……歌野ちゃんも俺も、みんなちゃんと見てるよ」

 

 その言葉に驚く水都。いつも忙しなくしている陸人に気づかれているとは思っていなかった。

 

 

「水都ちゃんは樹海化のない諏訪でずっと戦いを見てきた。だからこそ、バーテックスの怖さ、神託の重要さ、戦えない不安と恐怖。そういうのを身を以て知ってる。その経験と実感は、勇者にもひなたちゃんにもないものなんだ」

 

 戦う立場では強くある必要がある。ひなたもまた、強くあろうと自分を律し、実際に彼女は強い。

 

「君は弱い人の立場に立って気持ちを慮れる。その優しさと感受性は、誇っていいと俺は思うよ」

 

 ずっと自分の存在意義について悩んでいた水都にとって、その言葉は小さな、しかし確かな救いとなってくれた。

 

「ねえ、陸人さんはどうして保育園とか、路上とかでパフォーマンスやってるの?」

 

「ん〜……雄介さんの影響とか、みのりさんの友達がいるとか、色々あるけど……1番はやっぱり、こんな世の中だからこそ笑っていて欲しいじゃない、特に子供にはさ。俺が何かして笑ってくれたら、それはきっと素敵なことだよ」

 

 やっぱり兄弟だな、と水都は思った。

 

「今日はありがとう、陸人さん……今度でいいんだけど、お願い聞いてくれる?」

 

 ヨーヨー教えて欲しいんだ、と水都は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の丸亀城。そこにはいつもと違う光景があった。

 

 ヨーヨーを手に悪戦苦闘する水都と、横から指導する陸人。

 

 

「……よっ、と……あれ?」

 

「惜しい惜しい、大分上達してきたよ水都ちゃん」

 

 ちょっと飲み物買って来る、と陸人が席を外したタイミングで、歌野が声をかける。

 

 

「みーちゃん、急にどうしたの? ヨーヨーなんて趣味あったかしら?」

 

「あ、うたのん……うん、ちょっと練習しようと思って」

 

 ──子供の笑顔が見たいんだ、とは言わなかった。陸人が自分にだけ明かしてくれた秘密を、秘密のままにしておきたかった。

 

 その笑顔を見た歌野は追求しなかった。確かに昨日より幸せそうな水都に、いいことがあったならそれでいいか、と結論を出したのだ。

 

 水都は何も言わない。歌野は何も聞かない。それでも2人は親友で、変わらず睦まじく笑いあっている。

 

 

 

 

 

 

 

 




みーちゃん回です。

雄介さんの2000の技、いいですよね。当時あんな大人に憧れたものです。
今? 技と呼べるものなんて片手で足りる無個性男子ですが何か?


感想、評価等よろしくお願いします

次回もお楽しみに


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