A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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余談ですが、劇場版アマゾンズ観に行きました。
ネタバレはまずいので詳細は避けますが……これまでのシリーズの積み重ねがあってこその重厚さと説得力のある展開、最高でした。
あまりにジャンルが違うので影響を受けたりはないでしょうが、物語とはかくあるべし、というのを教えてもらった気分です。

まだの人は是非劇場に!(恒例のダイマ)




四章3話 悔恨

「……う〜む……」

 

 丸亀城の教室。そこで若葉は1人原稿用紙と向き合いながら唸っていた。

 

 大きな戦いを乗り越え、小康状態の現在。大社はこのタイミングで色々な作戦を考えているようだ。

 以前から上がっていた壁外調査。新たなクウガの力を十全に使うための強化訓練。

 そして今回の街頭演説もその一環だ。勇者の代表として、市民の精神安定を図る一手が若葉に任された。

 

 大社の方で台本は用意される予定だが、生真面目な若葉は自分の言葉も反映させられたら、とこうして原稿を考えている。

 

 そこに資料を持ったひなたと陸人が現れる。

 

 

 

「はい、若葉ちゃん。図書館で借りてきました、過去の公式演説の原稿をまとめたものです」

 

「でも政治家とかばっかりだから、言葉の参考くらいにしかならないよ」

 

「ああ、分かっている。いざ書こうと思うと、私は自分で思っていたより言葉を知らないことに気付いてな」

 

「若葉ちゃんは言葉よりも背中で語るタイプですから。そんな若葉ちゃんも素敵です」

 

「アハハ、ひなたちゃんはどんな話でもその結論に持っていくね」

 

「当然です。若葉ちゃんが素敵なのは世界の摂理ですから」

 

 

 

 フフン、と鼻を鳴らして胸を張るひなた。陸人と若葉は苦笑するしかない。

 

 

「それで、俺に手伝って欲しいことって?」

 

「ああ、形になったら読んでみて、添削してほしいんだ。陸人の言葉にはいつも不思議な説得力を感じるからな。あてにしているぞ」

 

「そっか。買いかぶりだと思うけど、分かったよ」

 

 

 

 

 

 1時間ほどかけて原稿を仕上げた若葉。手直しする点はあれど、とりあえず形になったので休憩を取る。

 

 

「陸人、体の方は大丈夫か?」

 

「うん、もうすっかり。何度か戦闘にも出たけど問題なかったしね」

 

「そうですか……では、心の方は……何か悩み事とかありませんか?」

 

「……うん? 急にどうしたの?」

 

「私もひなたも心配なのだ。いつも陸人に話を聞いてもらってばかりだからな……1人で無茶をしないでいいように、これからは陸人の話をちゃんと聞きたいと思ってな」

 

「陸人さんにはもっと自分も大事にしていただきたい。それが私たちの総意ですから。これくらいハッキリお伝えしておかないと」

 

 その言葉に陸人は一瞬俯く。

 焦った末の行動が彼女たちに消えない不安を植え付けてしまっている。歌野と水都を救えた決断に後悔はないが、相談くらいはするべきだったかと反省する。

 

 それと同時に変われない自分に嫌悪感も感じている。

 陸人は未だにアマダムとの融合のデメリットについて仲間に話せていなかった。

 いざという時に最も危険なのは彼女たちだというのに。信じていると言いながら肝心なところで巻き込みたくないと思っている。

 そんな矛盾した自分が陸人は大嫌いだった。

 

「心配かけてゴメン……俺は大丈夫だよ。心も体も絶好調だから」

 

 そんな言葉で仲間の心配を流そうとする自分に呆れながら、それでも話す気にならない陸人。

 ひなたは何かを隠していることには気付いたが、今何を言っても無駄だと判断した。

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、本当に回復して良かった。陸人がああなったのは、私にも責任の一端があるからな……」

 

「またその話? もう何度も謝ってもらったし、気にしないでいいよ」

 

「そうはいかん。アレは生涯の反省とする。一生胸に誓って忘れないぞ」

 

 どこまでも生真面目な若葉に苦笑する陸人。

 ひなたはキリッとした若葉の表情をこっそり写真に収めている。

 

「私が、いつまでも過去に囚われていたから……目の前にあるものを見ていなかったから、仲間を危険に巻き込んでしまった。反省しきりだ」

 

「そうだね……でも若葉ちゃんのスタンスが完全に間違ってたわけじゃないと思うよ?」

 

「……えっ?」

 

 若葉が驚いた声を上げる。若葉自身経緯もあって以前の自分には悪感情しか抱いていなかったからだ。

 

「前にひなたちゃんには話したかもしれないけど……若葉ちゃんはただ、死んでいった人たちに強く想いを馳せてただけ。それ自体は悪いことじゃないはずなんだ」

 

 ひなたの日記帳にも書いてあった。陸人は以前の若葉のまま、褒めてくれていた。

 

「若葉ちゃんは今を生きてる人だから、当然生きてる世界により目を向ける必要があるのは確かで。それができてなかったのは問題だけど……死者を想う気持ちを忘れないことも大事だと思う」

 

 陸人は『死者への想い』に対して思うところがあるらしい。

 

「死なせず守ることができれば1番だけど……神様にも全ては守れないのがこの世界だからね。死んじゃった人たちにできるのは、その死を無駄にしないことだけなんじゃないかな」

 

 その顔は戻れない過去を見ているようでありながら、まっすぐ若葉を見つめていた。

 

「意味なく生きてる人も、意味なく死んだ命もないって俺は思いたい。だから、報いという形で死者と向き合い続けた若葉ちゃんはやっぱりすごいよ。誰にでもできることじゃない……俺にはできなかったから……」

 

 ひなたは、最後の一言にはこれまでにない悔恨の念がこもっているように感じた。同時に簡易にまとめられた陸人の過去の資料を思い出す。

 

(陸人さんもまだ、吹っ切れてはいないのですね……)

 

「……あー、変な話しちゃったね。今日はこれで……ゴメン」

 

 そう言って席を立つ陸人。若葉もひなたも声をかけられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひなた」

 

「……はい、何ですか、若葉ちゃん」

 

「陸人の過去、ひなたは知っているんだったな」

 

「ええ、大社から簡単な資料を見せられたくらいですが」

 

「……今の陸人の様子、心当たりはあるか?」

 

「……はい」

 

「……そうか、分かった」

 

 それっきりで2人はその話題を切り上げた。若葉が聞けばひなたは話したかもしれないし、ひなたが話せば若葉は聞いたかもしれない。

 だがお互いが自分から聞こうとも話そうともしなかったため、2人はそれ以上触れなかった。

 いつか陸人が胸に抱える全てを打ち明けてくれることを、2人は心待ちにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陸人、またうどんを作ってみたぞ。食べてみてくれるか?」

 

「おお、いただきます……うん、きつねうどんに関しては追いつかれちゃったかな。でも俺なんてまだまだだからね。その気があるなら食堂の人に頼んでみようか?」

 

「そうだな、では今度申請しよう。陸人たちにはできるだけ美味しいものを出してやりたいからな」

 

 若葉は分かりやすく陸人に気を遣う。陸人から教わったきつねうどんで、少しでも陸人の心を明るくできたらと願っていた。

 

「しかし、若葉ちゃんがここまで料理にハマるとは……」

 

「ハマると言ってもきつねうどんだけだがな……せっかく教わったのだから高めていきたいと思っただけだよ」

 

「そう言ってもらえると師匠として鼻が高いよ。そういえばテレビで言ってたんだけど……『コレだ、って得意料理が1つあると料理自体がイマイチでもお嫁さんとしては十分魅力的』なんだってさ」

 

「ヨ、ヨメッ⁉︎ いや、私はそんなつもりでは……」

 

「アハハ、分かってるよ。冗談だってば」

 

 顔を赤くしてジト目で見つめる若葉。やがて反撃の手段を思いつき、不敵な笑顔を見せる。

 

「そうだ、陸人。お前は伴侶とする相手にはやはり家事能力を求めたりするのか? ……うん、せっかくだから好みの異性も聞いておこうか」

 

 陸人からこう言った話は聞いたことがなかった。自分と同じくこの手の話題は苦手なのだろうと踏んでの質問だったが……

 

「うーん、あんまり考えたことなかったけど。家事は一応俺ができるから必須ではないかな……あ、でも若葉ちゃんみたいに得意料理があるのはいいよね。凛々しくて真面目で努力家で、苦手分野でも教わったことにしっかり向き合おうと頑張る子が、俺は好きだな」

 

 完全にカウンターを食らう形となった。真っ赤になって固まる若葉にごちそうさま、と声をかけて食器を戻しに行く陸人。若葉はその背中を見送るしかなかった。

 

 

「……おのれ……どうすればひなたみたいに一本取れるんだ」

 

 恨めしげにつぶやく。彼女の勝利への道はまだ遠い。

 

(……しかし、やはり得意料理の1つもあった方がいいのか……)

 

 それはそれとしてうどんはこれからも練習しよう、と決める若葉だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また別の日、ひなたは陸人を連れ出して買い物に来ていた。

 

「陸人さん、陸人さん。こんなのはどうでしょう? 似合いますか?」

 

「うん、服もひなたちゃんも可愛いから当然似合うけど……いつものイメージと違うなぁ……というか、スカート短すぎない?」

 

「もう、陸人さん、そういうことを言うときは顔を赤くして恥ずかしそうにするものですよ? 杏さんの小説ではみんなそうでした」

 

「そんなこと言われても……」

 

 ブランドショップの試着室で戯れる男女。側から見れば恋人同士以外の何者でもない。

 程なくして周囲の生暖かい視線に気づいた陸人が気まずげな顔で問いかける。

 

 

「どうして今日は俺を誘ってくれたの? こういうところなら若葉ちゃんとか、女の子同士の方が……」

 

「あら、でも球子さんや杏さんとはよく2人で街に出たりしているじゃないですか」

 

「いやまあ、そうだけど……アウトドアショップとか、古本屋とかだし……」

 

「なら私とのお出かけだって同じでしょう? ……それとも、私とは一緒にいたくありませんか?」

 

 目を潤ませて見つめるひなた。

 

「そ、そんなことないよ! ひなたちゃんのことは大好きだし、今だってすごく楽しいよ……ただ──」

 

 ──すごくデートっぽい気がして、とは言えなかった。ひなたにそんな気はないのだから、こんなことを言っては気分を害すると思ったのだ。

 

 そんな陸人の反応を見て、ひなたは手応えを感じていた。

 今回の外出、ひなたはなるべくデートらしくなるように意識していた。

 

 陸人の過剰なまでに他人を優先する性質、自分を軽く扱いすぎる癖を矯正するために、ひなたは恋愛感情が有効なのでは、と考えた。

 

 個人的に大切なものができれば、自分を愛してくれる誰かに気付ければ、自分を大事にしてくれる。そう思ったひなたは、まずは異性をより強く意識させるべく今回のデートを計画したのだ。

 

 1度意識させれば彼の周りは関係良好で魅力的な美少女揃い。彼女たちの方も悪くは思っていないだろうという理想的な環境だ。

 

 

 

 その対象に自分が選ばれるかも、という考えもなかったわけではない。

 

 

 

 

 

 

 

 店を出たところで、陸人を見た数人がざわつき始める。

 変装用に用意していたサングラス。店内で外したのを忘れてそのまま出て来てしまったのだ。

 

 

「あー、やっちゃったな……ゴメン、ひなたちゃん。ちょっと走ろう」

 

「あっ……!」

 

 ひなたの手を取り走り出す陸人。その手の感触に、約束を交わしたあの夜を思い出す。

 

 ──ああ、行ってくる、ひなた──

 

 手を握られた時、顔が熱くなった。

 呼び捨てにされた時、胸が高鳴った。

 

 

 

 

(……違います、私はただ陸人さんに生きていてほしいだけ……それ以上のことなんて……)

 

 そう思いながらも、また"ひなた"と呼んでほしい、という願望はごまかしきれないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陸人!」

「陸人さん」

「若葉ちゃん、ひなたちゃん」

 

 

 

 若葉とひなたは、語らずとも互いに同じ思いだと確信している。

 若葉の分かりやすい気遣いに、陸人は当然気づいている。

 ひなたについても、真意はともかく特別気を回されている自覚は陸人にはあった。

 察しのいい陸人がこちらの気持ちに気づかないはずがない、というのが若葉とひなたの共通見解だった。

 

 互いに内心を理解しながら、何も言わずにその心を受け取る。

 

 それで関係が成立する程度には、3人は互いのことが大好きで、信頼しあっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




……なんか締め方が前回と似てる……
というか話の始まり方と締め方がパターン化してる気がする…早くもネタ切れか?

頑張らねば



感想、評価等よろしくお願いします

次回もお楽しみに

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