A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
読みにくかったらごめんなさい。
全員が揃った丸亀城の教室。ひなたが大社からの指令を通達している。
「じゃあ来週に?」
「はい、壁外調査の予定が立ちました。瀬戸大橋を渡り、岡山、兵庫、大阪と移動して、第一目的地を諏訪とします。その後生存の可能性がある東北の地へ向かう予定です」
「ワッツ? 諏訪が目的地ってどういうこと?」
「あそこが滅んだのは確かなはずだけど……」
諏訪で生き延びたのは2人だけ。確認こそできなかったがあの状況で生き残る道はなかっただろう。
「ああ、諏訪で隠れてた洞窟あったでしょ? あそこを改めて調査すべき、って進言しといたんだ」
「……という口実があれば、お二人を連れて諏訪にお墓参りに行けると狙ってたんですよね?」
『!』
「……ひなたちゃん……」
誰にも言わなかった本心を言い当てられ、困った顔をする陸人。
「さっすが陸人くん! 気が効くナイスガイ!」
「ありがとう……陸人さん」
「ん……まあ、自作の墓も様子見て、手入れしておきたいしね」
諏訪に再び行けると知り、喜色に溢れる2人。
「ん? ……ってことは、ひなたと水都も行くのか?」
「はい、勇者6人と陸人さん、巫女からは私と水都さん、真鈴さんが参加します」
勇者付きの巫女代表たるひなた、外での経験がある水都、クウガ関連の調査ということで真鈴もメンバーに加えられた。
「来週か……じゃあ準備しないとね!」
「とは言っても陸人さんのバイクとゴウラム以外の移動手段は使えませんし、陸人さんの端末に格納できる容量も限界がありますから、最低限の旅支度しかできないと思ってください」
「それじゃ野宿の道具と、食料でいっぱいになっちゃいそうだな。よし、タマに任せタマえ!」
「それと陸人さんは新型バイクの受け取りということで、この後大社の方にお願いします」
「ああ、間に合ったんだね。了解」
「おお、新型!」
「後で私たちにも見せてくださいね、陸人さん」
「分かったよ、じゃあすぐ取りに行ってくるね」
四国の外に出る、という貴重な機会に湧き立つ仲間に一声かけて、陸人は大社に向かった。
「ジャッジャーン! これがトライチェイサーの正式後継機、『ビートチェイサー』でーす」
テンション高めの真鈴に連れられて、陸人はトライチェイサーとほぼ同型、色違いのバイクと対面する。
『ビートチェイサー』
トライチェイサーの戦闘記録をもとに開発された正式後継機。
ゴウラムとの合体機能を前提とした処置が加えられ、全体的なスペックも向上した新たなクウガの愛機である。
「いやー、間に合って良かったよホント。私が直接陸人くんの力になれるのはこれが最後かもしれないからね〜」
「……真鈴さん……」
陸人の命令違反に協力したことで真鈴は研究室長の立場を追われ、今は一巫女として、度々肩身の狭い空気に晒されている。
「この子については設計段階まで私が主導だったから、何とか今日陸人くんに渡せたけど、これからは巫女の仕事に専念することになるね」
「……本当にごめん、俺のせいで……」
「その話はもういいってば。大社の上役やろうにも、そろそろついていけなくなってたところだし……ちょうどいいタイミングだったよ」
小を切り捨ててでも大を守る。そういえば聞こえはいいかもしれないが、大社の場合万全を期するためとはいえ切り捨てる決断が早すぎると真鈴は感じていた。最初に自分を切り捨て、残る全てに手を伸ばす陸人を見てきたせいだろうか。
「それに今回の調査だって、室長外されたおかげで選ばれたようなもんだしね……そりゃいいモノがあるかどうかも分からないけど、篭りっぱは性に合わないと思ってたのよね」
「……うん、俺はひどい光景しか見なかったけど、どこかに希望はあるかもしれない」
「そゆこと。そんな調査について行けるんだから、むしろラッキーよ。感謝してるくらいだわ」
そう言って笑う真鈴。陸人を気遣っている部分もあるにはあるだろうが、今の言葉は本音だろう。
「そういえば、巫女の3人はどうやって移動するか、とか聞いた?」
「あー、勇者に抱えてもらう、とかだったかな? テキトーに行くメンツでどうにかしろ的な態度だったよ」
「ざ、雑だなぁ……でも抱えてもらうにしても……ビートチェイサーに1人、後は勇者2人の手がふさがるのは、緊急時とかまずくない?」
「そうねぇ……でもしょうがないんじゃない?」
「……うーん……あ、そうだ!」
「お? なんか思いついた?」
「うん。久しぶりに大工仕事しなきゃだな」
そう言って笑う陸人。付き合いの長さだけなら球子とあんずに次ぐ真鈴が、久しぶりに見た年相応な顔だった。
友奈が忘れ物を取りに教室に入ると、そこには何やら机に大量の紙と花と本を並べて作業をしている陸人がいた。
「……りっくん?」
「あれ? 友奈ちゃん、どうしたの?」
「忘れ物しちゃって……りっくんは何してるの?」
「ああこれ? 押し花を作ってるんだ。早くに咲いたところを回って、落ちた桜を拾って集めたんだ」
「へぇ〜、押し花……りっくんが押し花やってるところ、初めて見たかな」
「そりゃ初めてやるからね。不慣れでなかなか進まないんだ。数も多いし」
「そうなの? また技の1つなんだと思ってたよ」
ヨーヨー、バルーンアート、ジャグリングなど。陸人は小学生時代からの習慣で今でも余暇に色々な技術を練習している。そのうちいくつかを披露されたこともある友奈だが、今回は違うらしい。
「墓参り……次に行く機会があるか分からないから、枯れちゃう花を供えるのもどうかと思ってね。押し花なら数揃えても大した荷物にもならないし」
「……そっか。りっくんが作ったお墓なんだよね?」
「うん……用意も人手も時間もなかったから、すごく簡素なやつだけどね」
「そんなことないよ。りっくんが作るものにはいつも温かい気持ちがこもってるもの」
「友奈ちゃん……」
「私もなにか……うん、私にもお手伝いさせて、りっくん!」
「いいの? 助かるけど……」
「せっかくお参りするんだから、手作りの押し花っていうのは素敵だと思う。たくさん持って行こうね!」
というわけで2人ではじめてのおしばな、開始である。
珍しく陸人が手こずった押し花。それに関して異様な才能を持った少女がいた。友奈である。
初心者向けの簡単な手順ではあるものの、友奈は最初の1回でコツを掴み、陸人の数倍のペースで完成させていく。
完成形をイメージするセンスもあるようで。友奈が作ったものには、同じ花を使っている陸人の物にはない独特の雰囲気があった。花の生命力を感じさせる押し花。友奈は押し花の神に愛されているかのようだった。
「押し花の神様ってなーに? りっくんってたまに変なこと言うよね」
「そう? 神樹様や天の神みたいな神様の集合体がいるんだから、押し花神、みたいなマイナーな神様もいそうじゃない?」
「あはは、でも確かに……いたら会ってみたいね。ひなちゃんは色々な神様の声を聞けたりするのかなぁ?」
「そう思うとなんか楽しそうだなぁ、巫女生活。何かと神様からの声が聞けたりしたら……」
神託の重要性を分かった上でバカ話のネタにする2人。口を動かしながら手も動かし、作業を進める。
「りっくんって信仰心強いようには見えなかったけど……」
「ああ、そうだね。神樹様のこと知るまではいないものだと思ってたし、今でも信仰心は特にないかな。もちろん感謝はしてるけどね」
──この前は直接助けてもらったし、と明るく笑う陸人を見て。
──ああ、この人は昔世の中を恨むようなことがあって、神様を信じることができなくなってるんだな、と友奈は感じ取った。
事実陸人は信仰心を持っていない。神樹についてもちょっと位の違う仲間、という大社で口にしたら刺されそうな認識を持っている。
「ふう、こんなもんかな?」
「とりあえず用意した分は全部できたね! いやー、初めてやったけど楽しいね、押し花!」
「ハマった?」
「かも……今までこんなふうに何かを作ったりって、小学校の図工くらいだったから」
「そういえば、友奈ちゃんの趣味とか聞いたことないな……聞いてもいい?」
「趣味? ……趣味か〜……うーん、昔からやってたから、武術になるのかな?」
──うん、武術は好きだし。と困ったような笑顔で言う友奈を見て。
──ああ、この人は自分を表現することで相手に何かしらの感情が生まれるのが怖いんだな、と陸人は察した。
友奈は自分のことを話して、自分を出すことで軋轢や衝突が生まれることに恐怖している。そんなありふれたことに心を痛めるくらいには優しい女の子だった。
知識や技術を教わる際、『一を聞いて十を知る』という才能の表現がある。
友奈と陸人は、『一を聞いて零を悟る』という才能を持っていた。
言葉という心の一部を聞き、その奥にある過去や本音を読み取る力。
察しがいい、とか聞き上手、とか呼ばれるそれを極めて高いレベルで持っている2人は、2人だけになると自分を棚に上げて相手の心配ばかりする。
「……あら、高嶋さんに伍代くん……なにをしているの……?」
そこに2人の共通の最優先心配対象が現れる。
友奈を探しに来たんだな、と陸人は思った。
陸人を探しに来たんだな、と友奈は思った。
実際千景は寮にいない友奈と陸人を探していたため、どちらも間違ってはいない。
「ちょっと調査に持っていくお供え物をね……」
「押し花作ってたんだ! 私もりっくんも初めてだったんだけど、結構うまくできたんじゃないかな?」
「……押し花……2人でやってたの……?」
「ついさっき全部終わったんだ。ぐんちゃんの分もあればよかったんだけど……」
千景はもっと早く来るべきだった、と悔やむ。
それを見た陸人が、予定を早めて袋を取り出す。
「千景ちゃん、これ。もう作業は終わっちゃったけど……みんなの分、別にしおりを作ったんだ。よかったらもらってくれる?」
陸人が差し出したのは赤い紐が付いた押し花のしおり。
「……い、いいの? ……ありがとう、大事にする……」
おずおず受け取る千景は、喜びを抑えようとして抑えきれない顔をしていた。
それに微笑む陸人は、続けてピンクの紐が付いたしおりを取り出す。
袋には他に、青、黄色、オレンジ、白、緑、茶色の紐が付いたしおりが入っていた。
「……で、これが友奈ちゃんの分。最初に作っておいて良かったよ。渡す相手の前では作りづらいからね」
「わあっ、ありがとうりっくん! 大事にするね! うーん、何か本でも買おうかな」
しおりを使いたいがために本を買うという本末転倒なことを言い出す友奈に陸人は苦笑する。
「無理に使わなくても、部屋に飾るなりカバンに入れるなり、好きにしてくれればいいよ。どうしても本に挟みたかったら杏ちゃんに言いな、きっとオススメ貸してくれるから」
「そっか、分かった。でもホントにいいなぁこのしおり……」
「そうかな? 俺は友奈ちゃんが作ったやつの方が素敵だと思うけど」
「ううん、さっきも言ったけど。りっくんが作るものはなんだかあったかいもん!」
そちらが、いやいやそっちの方が、と互いに褒めあう2人。千景には見慣れた光景だ。
「……押し花なんてちゃんと見るのは初めてだけど……私はどちらもすごく綺麗だと思うわ……」
「ありがとー、ぐんちゃん!」
「きゃっ、た、高嶋さん⁉︎」
千景の言葉に感激した友奈の不意打ちハグ。千景は真っ赤になって震えている。
そんな2人を陸人は眩しいものを見るような目で見守っていた。
「……りっくん、どうかした?」
「いや、千景ちゃんを見ると頑張ろう、って思えるし、友奈ちゃんを見ると安心するな、って思ってさ」
「……な、何よそれ……相変わらず、たまに分からない人ね……」
千景は一瞬訝しんで、すぐに小さく笑う。
陸人は気にしないで、といつもの笑顔を見せる。
友奈は憂いを顔ににじませ、その後意識して笑顔を作る。
千景を見るとまだ頑張って生きていなくちゃいけない、と思う。
友奈を見ると自分がいなくなっても何とかなる、と安心する。
陸人自身完全には自覚していなかった本音に、友奈だけは気づいていた。
はい、四章終了です。
次回から少しずつ本筋を進めていきます。
また、五章は特に独自のストーリーの比率が増えるので、設定や展開の矛盾を可能な限り減らすため、ある程度書き溜めてから投稿しようと思います。
ここまで何とか連日更新してきましたが、そろそろ厳しくなってきたのもあり、とりあえず次回は遅くなります。
楽しみにしてくれている読者様(おりましたら)申し訳ありません。
感想、評価等よろしくお願いします
次回もお楽しみに