A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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六章開始です。クライマックスまでの流れが出来てくるかと……

しかし今回はほのぼの回です。


六章1話 日常

「これで……ラスト!」

 

 最後の小型を撃破し、危なげなく勝利を収めた勇者たち。

 数体の進化体が発生したが、成長を遂げた勇者たちの敵ではなかった。

 

 黒の力、精霊の使用を避けるという決まり事を定め、その分を連携で補う。

 全てを打ち明けたことで、クウガと勇者たちの連帯感はさらに増していた。

 

「……ふぅ、今日のところはこれで打ち止めか?」

 

「……みたいだね。大した数出なくてよかった」

 

 一息ついたところで樹海化が解ける。

 

「それじゃ、お昼ご飯再開しよ! うどん伸びちゃうよ」

 

「ああ、ひなたたちも待ってる。行こう」

 

 安定感のある勇者たちのやりとり。日常と戦闘の切り替えにもすっかり慣れた様子だ。

 

 

 

 

 壁外調査、3日目の朝。ひなたが神託を受けとり、予定を中断して一同は四国に戻った。『四国に危機が迫っている』と。

 それ以来もう1週間、毎日小規模に戦闘が頻発している。

 

 

 

 

 

 件の四国の危機は未だ起こらず、連日の戦闘と警戒の連続に、少しずつ疲労がたまってきていた。

 

「アレ以来新たな神託もありませんし、なんともはっきりしない状況です」

 

「このまま物量と持久戦で押しつぶそうということか?」

 

「どうだろう……何かの時間稼ぎ、とか?」

 

 あーだこーだ言い合うも、神ならぬ身で天の神の狙いは読み取れない。

 

「まあまあみんな。とりあえず今日も勝てたんだから、まずはそれを喜ぼうよ!」

 

「分からないことを考え過ぎても仕方ない……何が起きても対応できるよう備えるのが今やるべきことじゃないかな」

 

 友奈と陸人の言葉に、勇者たちは議論を取りやめ、雑談に移る。

 

 いつもの空気に戻った仲間たちにホッと息をつく陸人は、こういった状況で何かしら教えてくれていたアマダムが黙っていることが気になった。

 この頃陸人はアマダムがどこか遠くを探っているような、ここに意識がないような、そういう不思議な感覚を体内で感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丸亀城のすぐそばにある墓地。

 陸人はみのりの名が刻まれた墓の前で手を合わせていた。

 

 多くのバーテックス侵攻の被害者と同様、みのりも死体すら残っていないが、陸人の家族ということで、後に大社の方で遺品を埋めた墓が用意された。

 

「この前、やっと雄介さん……兄さんの言葉を受け取ることができたよ。みのりさん、じゃない。姉さんの分はコレ……置いていくから、読んでください」

 

 やっと落ち着いた時間を取れたので、雄介とのことを報告に来ていたのだ。

 

「今からでも遅くないのなら、姉さんにもらった『陸人』って名前の通りに……しっかり自分で立って、1人の人間として幸せを探そうと思います。姉さんにも、見ていてほしいな」

 

 そこにみのりはいない。それでも陸人は、俺と雄介さんの言葉が届きますように、と祈りをこめた。自分がどんな話をしても楽しそうに聞いてくれた姉なら、きっと今も聞いていてくれる。

 そんな確信があった。

 

 

 

 

 

 

 

「実戦訓練?」

 

「ああ。この頃各員の士気が不安定になっている気がしてな……レクリエーションでもしてみようと思ったんだ」

 

「そこで訓練という結論に至るあたりが若葉ちゃんらしいですよね」

 

 神託、連戦、調査の結果など、不安を煽る要素が立て続けに起こっている現状、精神状態を良くするために若葉がリーダーとして考えた結果。勝者に全員への命令権という報酬を与える形で模擬戦をやることとなった。

 

 協議の結果、精霊や黒の力はもちろんナシ。武器も訓練用のものを使い、怪我をしないよう配慮された形となった。

 ちなみにクウガは、武器の生成は不可。あらかじめ備えた訓練用武器を使うことになる。

 

 

 

「──では、開始‼︎」

 

 合図と共に全員が動く。千景と杏はその場を離れて距離を取る。

 若葉、友奈、球子、歌野は示し合わせたように1人に狙いを定める。

 

 2人と同じく距離を取ろうとして間に合わなかった、クウガに対して。

 

「うおっ⁉︎」

 

「悪いな、1番の強敵を……」

 

「数があるうちに落とす! 行くぞクウガ!」

 

「なるほど、そうきたか……!」

 

 防戦一方のクウガ。若葉と友奈の近接コンビに打ち勝つのは厳しく、歌野と球子の攻撃は何せ読みづらい。このままでは長くはもたない。

 しかしここで全員を無理に振り切っても、そのまま追ってくるだけだ。ならば……

 

 自分の首めがけて飛んでくる鞭を掴んで抑える。

 

 みんないささか本気すぎないか、とクウガは思う。彼女達は勝った時に何をやらせようとしているのか。

 

 青のクウガに変身。鞭を掴んだまま飛び上がり、歌野を連れてその場を離れる。

 

「1人ずつ、倒す! まずは歌野ちゃんだ」

 

「上等!」

 

 一対一の状況に持ち込み、数を減らす。それがクウガの作戦だった。

 

 鞭を棒でいなしながら距離を詰めるクウガと、器用な鞭さばきでクウガの動きを封じる歌野。数合の打ち合いの末、しびれを切らした歌野が武器を奪おうと棒に鞭を巻きつかせる。

 その瞬間赤に姿を変え、棒を全力で引っ張るクウガ。予想外の動きに体勢を崩し、引き寄せられる歌野。

 一瞬の隙をついた飛び蹴りで歌野を撃破。クウガが勝利した。

 

 

「ん〜、負けちゃったかぁ、残念……」

 

「さすが歌野ちゃん、何度か危なかったよ」

 

「そう? まあ私ですから!」

 

 負けながらも笑顔を見せる歌野。怪我がないことを確認して、クウガはその場を離れる。

 

 

 

 

 

 最初の交戦場所に戻ると、そこには健在の若葉と、撃破された友奈、千景がいた。

 

「アレ? 千景ちゃん?」

 

「隠れて様子を伺っていたらしい。友奈との戦いに割って入ってきたんだ」

 

「じゃあ2対1で勝ったんだ? すごいな若葉ちゃん」

 

「まあ、隙をついたようなものだ。友奈も本気ではなかったしな」

 

 そんなことないよー、と笑う友奈をよそに、向き合って構えるクウガと若葉。

 

「予定と大きくずれてしまったな。球子も離脱したようだし……」

 

「それでも逃げる気はないんでしょ? 若葉ちゃん」

 

「無論だ!」

 

 

 

 ぶつかり合う刀と拳。青では力が足りず、紫では速さで劣る。赤のクウガで勝負することにした。

 

 互角の勝負を展開する2人だが、刀で防ぐ若葉と体で防ぐクウガのダメージ量に差が出てきた。

 

「そこだ!」

 

 疲労からクウガの膝が崩れる。その一瞬を見逃さず、必殺の抜刀。

 

「……いや、ここだよ!」

 

 しかしそれはブラフ。低くかがんだクウガは振るわれた若葉の腕の内側に滑り込み、そのまま一本背負い。若葉は刀を手放してしまう。

 

「しまったな……陸人は投げ技もできたんだったか……忘れていた」

 

「バーテックス戦じゃ使いようないからね」

 

 若葉は降参の意を込めて手を挙げる。これで残るは球子と……

 

 

 

「──っ‼︎」

 

 

 

 後ろに跳びのきながら緑に変身。ボウガンを抜き構える。

 先程までいた場所に矢が刺さっている。

 

 クウガは真後ろを振り向き、その先にいた杏を捕捉。

 彼女の方も2射目を構え、同時に発射。

 

 同じ性能の訓練武器であるため、当然同時に着弾。ダブルノックアウトとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として。

 若葉は友奈、千景を撃破したものの、その後クウガに敗北。

 クウガは歌野、若葉を撃破した後に杏と相打ち。

 杏は球子を不意打ちで撃破し、同じ手でクウガを狙うも反撃を受けて相打ち。

 

 クウガと杏の同時優勝として、命令権は2人に与えられた。

 

 杏は嬉々として仲間を使った恋愛小説の再現演劇を指示。普段のお淑やかさからは想像もつかない熱血監督ぶりで傍観していた千景たちを大いに驚かせた。

 

「うんうん、ぎこちない感じは否めないけど……タマっち先輩はかわいいし、若葉さんほど凛々しい人はいませんし。友奈さんが男気溢れる生真面目な正義漢、対照的に歌野さんが自由奔放なワイルド系……うん、想像通りみなさんすごく似合ってました!」

 

「褒められてるんだろうけど、う〜ん……」

 

「あまり、嬉しくはないな」

 

「アハハ、でも少し楽しかったよ。男子の制服なんて初めて着たし」

 

「楽しくないっ! なんでタマがこんなポワポワした女の子役なんだ!」

 

 

 

 

「……わ、私もアレをやらされるの? 絶対にゴメンよ、あんなの……」

 

「千景さんなら影のある謎めいた美少年、なんていいなって思ったんですけど……今回お2人への命令は、コレです!」

 

 そう言って杏は2枚の用紙を取り出した。

 一般的な卒業証書。仲間たちの手で模様や文章が書き加えられている。

 

「2人は本来なら中学卒業の時期だろう? こんな状況だ、ちゃんとした式はできないが、せめてと思って……」

 

「タマたち7人で用意したんだ。あっ、そこの模様はタマが書いたんだぞ!」

 

「うん、私たちみんな、小学校すらちゃんと卒業できてないものね」

 

「お金は大社が出してくれたんだ。ちょっとだけ見直しちゃった、あの人たちのこと」

 

「ふふっ、字は1番達筆な若葉ちゃんが書いたんです。ステキでしょう?」

 

「……というわけで、これを受け取ってもらうのが、お2人への命令です」

 

 

『卒業、おめでとう!』

 

 

 千景は杏に差し出された卒業証書を恐る恐る受け取る。

 

 

「…………そ、そう……命令なら、仕方ないわね…………」

 

 ありがとう、というとても小さな声を、杏は聞き逃さなかった。

 

 

 

「これは陸人さんの分です。おめでとうございます」

 

「ありがとう、こんな風にお祝いしてもらえるなんて……嬉しいよ」

 

 実に幸せそうな顔で証書を受け取る陸人。

 

「でも、こんなことならわざわざ命令しなくても──」

 

「言いましたね?」

 

 杏の目がキラン、と光った。

 あ、ヤバイ、と誰もが思った。

 

「では陸人さんへの命令を変更します。さっきの若葉さんのポジションに入って、タマっち先輩に壁ドンしてみてください!」

 

 さっきまでの感動ムードを一瞬で粉砕してみせる杏。陸人ならこう言うだろうと確信していたようだ。

 

「あー、迂闊なこと言うもんじゃないな……球子ちゃん、大丈夫?」

 

 顔を真っ赤にして首を横に振る球子だが、杏に何やら耳打ちされて、覚悟を決めたようだ。

 

「……よ、よーし! いつでも来い、陸人!」

 

「そ、そう? それじゃあ……」

 

 ゆっくり距離を詰める。だがもちろん経験がない陸人は完全ノープランだ。

 

(なんか言ったほうがいいか? あんまり怖がらせるのも嫌だし……普段面と向かっては言えないようなことを言えばいいのかな?)

 

 壁に寄りかかる球子と正面に立つ陸人。球子は小さく震えていた。

 

(怖がらせないように……やさしく、やさしーく……)

 

 身長差があるため少し屈む形でゆっくり壁に手をつき、目線を合わせる。

 

「いつもありがとう、球子ちゃん……みんなの気持ちを明るくさせようって頑張る君が、大好きです」

 

 これからもよろしくね、と頭を撫でて離れる陸人。球子は何も言えず膝から崩れ落ちた。

 

 

「杏ちゃん、これでいいのかな?」

 

 問いかけても返事はない。というかひなたや友奈を含めた何人かは完全にフリーズしている。

 杏に至っては目を回し、足元もおぼつかない様子で小さくアワアワ言っている……大丈夫だろうか。

 

 

「……伍代くん、ちょっと……」

 

「千景ちゃん?」

 

 比較的早期に復帰した千景が、陸人の耳に口を寄せて何やら吹きこむ。聞かされた陸人は訝しげだ。

 

「……えぇ……そんなことして大丈夫かな?」

 

「ええ、私の記憶が正しければ。伊予島さんは以前貸したゲームでもこういったシチュエーションを好んでいたはずよ」

 

 早く目を覚まさせてあげないと、と言う千景に押され、杏に近寄る陸人。杏の方は未だに現世に意識が戻ってこないらしく、反応が鈍い。

 

「杏ちゃん……先に謝っとく、ゴメン!」

 

「……ふぇ? 陸人さん?」

 

 杏がやっと目の前の陸人を認識した次の瞬間、先ほどとは違う大きな音を立てて、彼女の顔のすぐ横に陸人の腕が叩きつけられた。

 

「ひゃうっ⁉︎」

 

「さっきからゴチャゴチャうるせえよ……なあ、()()()

 

 いつもより低い声で、絶対に使わない口調で囁く陸人。

 荒い態度とは裏腹に、優しく杏の顎に手を添えて顔を向き合わせる。

 

「口数が多いほどその言葉は軽くなる……口を使って思いを伝えるもう1つの方法、教えてやるよ」

 

 そう言って徐々に顔を寄せてくる陸人。キスを迫っているようにしか見えない。

 アワアワしっぱなしではあるものの、雰囲気に飲まれ瞳を閉じる杏。

 

「……あ、あの、杏ちゃん? そろそろ抵抗するなり逃げるなりしてくれると……」

 

 すぐ近くで困ったような笑みを浮かべる陸人。適当なところで止めて杏の妄想暴走を諌めるのが目的だったのだ。

 自分が何をしようとしたのか思い出し、杏の心臓が人生最高に激しく高鳴った。

 

「……あ……う、うぅ〜〜〜……ごめんなさ〜〜〜〜い、わたしがわるかったです〜〜〜!」

 

 逃走する杏。座り込んだまま動かない球子。イマイチ状況がつかめていない実行犯陸人。満足げな千景。再びフリーズする仲間たち。

 

 実にカオスな光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、球子はいつも通りに杏の部屋にいた。

 

「あんず、お前のせいでめちゃくちゃ恥ずかしかったんだからな⁉︎」

 

「わ、私だって陸人さんがあんな本気でやるなんて……うぅ、まだ恥ずかしい」

 

 羞恥心を共有して心を落ち着かせようとした結果、思い出しては顔が赤くなる。完全に逆効果だ。

 

「……それで、どうだったの? 感想は?」

 

「ハ、ハァ⁉︎ なんでそんなこと言わなきゃいけないんだ!」

 

「言いたくなければいいけど。あの反応で大体分かるし……」

 

「そ、そういうあんずはどうだったんだよ? 呼び捨てされて、キスされそうにまでなっちゃってさ」

 

「うっ⁉︎ そ、それは……」

 

「それは?」

 

「やめよう、私から振っといて何だけど、お互いケガするだけだよ……」

 

「……うん、そうだな……」

 

 

 記憶から目をそらすように布団に入る2人。

 話題を変えても、今の2人ではどうしても陸人の話になる。

 

「最近、前より楽しそうだよな。陸人も」

 

「うん、いくら千景さんに言われたからって、私にあんな強引に迫るなんて……以前の陸人さんならありえなかったもの」

 

 抱えていた秘密を明かしたことで精神的に余裕ができたのか、少しずつ陸人の態度が変わってきている。

 

「何がしたいか、って聞いてもちゃんと答えてくれるし……」

 

「前は私たちに聞き返してばかりだったからね」

 

 自分を好きになるとは、願望や欲望に素直になることでもある。まだまだ遠慮は残っているが、ほんの少しだけ他人優先主義が治ってきているようだ。

 

「そういえばこの前花見がしたい、って言ってたな! よし、早い所バーテックス片付けて、お花見やろう!」

 

「うん。丸亀城は桜の名所だし、みんなでやりたいね」

 

 

 

 

 1つの布団の中で睦まじく会話する球子と杏。

 同じ相手を想っている、言ってしまえば恋敵になるのだが、この2人はそれを自覚していながらまったく気にしていない。

 

 その様はまさに姉妹そのもので、陸人が尊いと、守りたいと思う日常の象徴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハイ、日常パートです。

もう1話くらい挟んでから本筋突入を予定しています。

感想、評価等よろしくお願いします

次回もお楽しみに

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