A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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 タマちゃんルート
 時系列はゴタゴタした事後処理が済んで、陸人くんが告白されて、悩みに悩んで全員に返事をして1人を選んで割とすぐですね




終章R話 初恋(IF:土居 球子)

「……うーん……これなんかどうだ? 陸人」

 

「うん、似合ってるよ。球子ちゃんはかっこよさと可愛さが両立してるから、合う服の系統が多いよね。やっぱり自分が着てみたい服が1番だと思うよ」

 

「そ、そっか? そう言われると、嬉しいけど……なんていうか……」

 

「ん?」

 

「なんか、手慣れてるなって……んーん、なんでもない! それじゃこれ、ちょっと試着してくるから待っててくれ!」

 

 珍しく歯切れの悪い球子の様子に首をかしげる陸人。2人は若者向けのブランドショップで球子の服を見て回っていた。初めての2人デートだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陸人が球子の告白に応えてから一週間。お互いに経験がない間柄になった2人は、どうすればいいのか分からなかった。ただでさえ特に距離感が近かった2人だ。今更になって恋人らしいこと、と言われるとそれまで自然だったこともいちいち意識するようになってしまう。

 例えば食事時……

 

「おっ、陸人のうどん、うまそうだな!」

 

「今日はちょっと出汁に新しい工夫をしてみたんだ。球子ちゃんもどうぞ、ハイ、アーン……」

 

「ッ! いや、その……」

 

「……! あー、ゴメン。じゃあ器置くから、球子ちゃんが好きに食べて……」

 

 これまでであればなんの躊躇もなく食べさせ合っていた陸人と球子。しかし2人の関係に新たな色が付き、名前が変わった今となっては、とても大胆なことをしている気がして……妙に遠慮してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 何かにつけてこんな調子で、むしろ恋人になる以前よりもよそよそしくなっている始末だ。見るに見かねた杏が背中を押して、今日のデートが決行されたのだが……

 

「……ムゥ」

 

「球子ちゃん? どうかしたの?」

 

「陸人は、なんだか慣れてるな……タマはこんな風にデートらしいデートは初めてだから、なにをすればいいのかもよくわかんないぞ」

 

「俺も慣れてるわけじゃないよ。ただ、こういう店は何度かひなたちゃんと一緒に来たことあるから……」

 

「なに? ひなたと……?」

 

 自分ばかり緊張しているような状況が悔しくて唸っていた球子の耳に、聞き逃せない情報が入る。

 ひなたとデートをした。それも何度も? 

 

「……陸人、お前の彼女は誰だ……?」

 

「え? どうしたの急に……そりゃ球子ちゃんだよ」

 

「だったらもっとタマのこと……! ゴメン、なんでもない……」

 

 一瞬嫉妬に駆られた球子だが、すぐに冷静になる。陸人は陸人なりに自分のことを特別扱いしてくれているのは分かるのだ。ただ、それでも彼にとって仲間たちは全員が特別で、いざ彼女という立場になってみると、どうしてもそれが気になってしまう。

 一方陸人も、何か自分の発言に問題があった、程度には理解できたらしい。

 

「あー、えっと、ゴメン、俺が何か悪いこと言った……んだよね?」

 

「いや、陸人がみんなのこと好きなのは知ってるし……そこがいいところだとは思うんだけどな?」

 

 普通じゃない経験を散々してきた2人だが、こと恋愛に関しては恐ろしく不器用で無作法になってしまう。おっかなびっくりでとりあえず手を繋ぐ。側から見て、初々しすぎて危なっかしいカップルだった。

 

「よ、よし! お昼ご飯行こっか……球子ちゃんが好きな骨付鳥の店、調べてきたんだ。この近くにも人気のところがあるんだよ」

 

「お、おう! 任せるぞ陸人!」

 

 手を繋いだままぎこちなく歩く2人。油の切れた機械人形のようなその動きを、周囲の市民が微笑ましげに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ……美味しかったね、球子ちゃん」

 

「うん! この辺にはなかなか来ないから知らなかったぞ……この店、覚えておこう」

 

「……うん」

 

「……ん」

 

 昼食自体は大満足のものだったが、いざ食事を終えると途端に話題に困ってしまう。

 

「……ゴメン、ちょっと……」

 

「……あ、うん」

 

 空気に耐え切れずにお手洗いに立つ球子。陸人はなにも言葉をかけられない。このままではマズイことだけは分かったが、どうすればいいのかが分からない。

 

(うーん、どうすれば…………ん?)

 

 何気なく端末を開いたところ、新着メッセージが届いている。

 

「……杏ちゃん?」

 

 それは、今日のデートをセッティングしてくれた2人共通の親友からの応援だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーむ、これは多分デートになってない。マズイぞ……」

 

 球子もまた、洗面所で唸っていた。顔でも洗いたい気分だったが、出かける前に杏が薄くメイクを施してくれている。手直しの方法などさっぱり知らない球子に、それを崩すことはできなかった。

 

「……お? あんず?」

 

 時間を確認しようと端末を開くと、件の親友からメッセージが来ている。どうやら2人の初デートがこうして行き詰まることも予想していたらしい。

 

 

 

 

 

 

 "タマっち先輩、デートは順調? もしうまくいってるならこの先は読まないで消してください。

 気不味くなっているようなら、私からのアドバイスです。今の2人に必要なのは、恋人ということを意識しすぎないこと。普段の2人はそれこそ恋人同士にしか見えないくらいに仲良しで、遠慮のない、羨ましい間柄だったと思うの。

 陸人さんはタマっち先輩のこと大好きだし、タマっち先輩もそうでしょ? それはちゃんとお互い分かってるんだから、今更意識する必要はないんだよ。

 焦らなくても好きな人同士が一緒にいれば、自然と雰囲気とか行動とかは変わってくるものだから、今はただ一緒の時間を楽しめばいいと思う。

 以上、恋愛小説で蓄えた知識で悪いんだけど、参考にしてください。私もみんなも、2人のこと応援してるから、頑張ってね! "

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あんずは本当に、タマたちのことよく分かってくれてるな」

 

 パン、と頬を叩いて気持ちを切り替える球子。2人を1番近くで見てきた彼女が言うことに間違いはない。自分たちは誰に憚ることもなく、お互いが好きだから一緒にいるのだ。ならば1番心地いい2人でいればいい。

 

(陸人がタマを選んでくれたんだ……そのことにもっと自信を持って!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、球子ちゃん、お帰り……デザート頼んだけど、球子ちゃんも食べる?」

 

「お、いいなソレ! 一口くれ、アーン……」

 

「ん、ハイ、アーン……」

 

 戻ってきて早々に、極めて自然にいちゃつくカップル。一通り流れを終えた後で、あまりにスムーズに進んだことに2人とも驚く。

 

「球子ちゃん……」

「陸人……」

 

『何かあった?』

 

 異口同音、同じ角度に首をかしげる陸人と球子。久しぶりに感じるいつも通りの雰囲気が可笑しくて、2人は同時に吹き出した。

 

 

 

 

 

 

「そっか。球子ちゃんの方にも来てたんだ、杏ちゃんのメッセージ……」

 

「うん……2人揃って心配かけちゃってるな」

 

 陸人にも球子宛のものに近い内容のアドバイスが送られていた。実体験こそないものの、数多の物語に想いを馳せ、誰より近くで3人一緒にいた杏の言葉には不思議な説得力があった。

 

「よっし、そろそろ次の店に行くか!」

 

「うん……行こう、球子ちゃん」

 

 左手を差し出し、手をつなごうとする陸人。球子は満面の笑顔で彼の左腕全体に飛びつく。

 

「っと……球子ちゃん?」

 

「へへ……やっぱり陸人とは、こうしてくっついてたいからな!」

 

 笑顔で腕を組んで歩く2人。ようやくいつもの彼らの光景が戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後仲睦まじくデートを続け、真っ暗になった頃に帰路に着く。街から離れ、人目がなくなったところで球子が肩車を要求。戦いが始まって以来の距離に、無意識に笑顔が溢れる。

 

「おお、久しぶりにやってもらったけど、背が伸びたか? 陸人……前よりも景色が高い気がするぞ」

 

「そうかもね。球子ちゃんの方は……うん、特に重くはなってないかな……」

 

「むぅ、成長してないってことか、太ってないってことか……嬉しいような悲しいような……」

 

「アハハ、成長は分からないけど、球子ちゃんの普段の運動量なら太ることはないんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

 話しながらゆっくりと歩き、寮に到着。球子を下ろして荷物を分ける陸人。球子はそんな彼を見つめて、赤い顔で小さく唸っている。

 

「はいこれ、球子ちゃんの分……どうかした?」

 

「……イ、イヤ! なんでもないんだ」

 

「そう? それじゃ、今日は楽しかったよ……おやすみ」

 

 背を向けて自室に戻ろうとする陸人。球子は衝動的にその袖をつまむ。

 

「……球子ちゃん?」

 

「……え、あ……えっと、その……」

 

 引き止めたはいいが、ふさわしい言葉も行動も出てこない。紅潮した顔で慌てふためく球子を見て、陸人の方は何かに気づいたようだ。

 

「ああ……よし、球子ちゃん、ちょっとこっち向いて」

 

「え? ……あ! ……ん……」

 

 不意打ち気味のキス。唐突に口を塞がれた球子はなんの反応もできない。触れ合う部分から伝わる暖かさに、思わず瞳を閉じる。

 数秒後に離れる2人の唇。体に力が入らず、球子はその場にへたり込む。

 

「……り、陸人」

 

「……えっ、と……それじゃ、今度こそおやすみ、今日はありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 

 足早に去っていく陸人。その背中を見つめて、球子は1つ心に誓う。

 

(クッソ〜、今度はこっちからやってやる……絶対にびっくりさせてやる〜!)

 

 陸人の方も実はかなりテンパっていた。球子の顔を見ているうちに、思った以上に大胆な行動に出てしまった。

 

(なるほど、これが杏ちゃんが言ってた……自然な恋人同士、ってやつか)

 

 まだまだ照れは残っているが、この日2人は確かに一歩、大きな前進を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 やってみて気づいた…これ人数分やるとなるとめっちゃ疲れる…
それでもやります!みんなが好きだから!

 あと7人…まだ全然できてないので、とりあえずの目標は来週末に次を投稿すること。多分今後はこんなペースになると思います。それでも良ければお待ちください

 感想、評価等よろしくお願いします

 次回もお楽しみに

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