A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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とうとうお待ちかねのあの方登場です。

自分の拙い戦闘描写でどこまで魅力を表現できるか……ちゃんと戦うの自体久しぶりだしなぁ。


六章3話 強敵

 数日期間をあけた久々の樹海化。勇者たちは油断なく構えていた。

 

「連日来て、連日休んで、また来る。バーテックスめ、気まぐれでも起こしているのか?」

 

「しかも3日後に花見だってのに……あーもう! イライラする〜、料理上手くいってたんだぞ」

 

「まあまあ、あくまで俺たちの本分はバーテックスだよ。きっちり片付けて、また練習しよう」

 

 球子をなだめながら、陸人はアマダムの様子に違和感を感じていた。

 

 

 

 

(アマダム、どうかした?)

 

 ──とうとう来たぞ、厄介なヤツがな。敵勢の奥を見ろ──

 

 

 

 

 その声に従い小型の群れの奥に目を向ける。

 そこには人型の異形、どこかクウガに近い気配を感じさせる怪物がいた。

 

(──っ! まさか、アレが……)

 

 ──そう、古代の怪物の一体……『ガドル』と呼ばれていた。手強いぞ──

 

 やがてガドルの方もこちらを捉え、驚異的な脚力でこちらに飛び込んで来る。慌てて構える勇者たち。

 

「さて、俺が用があるのはクウガだけだ。大人しくしていれば邪魔な雑兵にも手出しはさせんが、どうする?」

 

 落ち着いた力強い声。それだけでかつてない強敵だと肌で感じさせる凄みがある。

 

「ふざけるな、そんなわけに行くか!」

 

「そうか。では勇者とやらは天の神のオモチャに任せよう。来い、クウガ……断るならばお前の仲間もろとも蹴散らすが?」

 

 その言葉に蠢くバーテックスたち。最奥にはこれまで見たことのないサソリのような巨大な影がある。

 

「みんな、コイツは俺が抑える。他のバーテックスを頼むよ」

 

 構えるクウガ。了承の意を受けとり、同じく構えるガドル。

 割り込めないと感じた勇者たちは逡巡の後小型を殲滅するために散開。

 心配げな顔の球子と杏が離れるのと同時に、2人の戦士がぶつかり合う。

 

 

 

 

 

「ヌンッ!」

「──ガッ⁉︎」

 

 同時に踏み込み、同時に拳を当てたはずだった。それなのにクウガの拳はまるで手応えがなく、逆にガドルの拳で大きく吹き飛ばされる。

 

 たった一撃で深刻なダメージを受けた事実に驚愕したクウガは、速度で翻弄するために青の力を発動する。

 飛び回り、翻弄し、死角からロッドの一撃。しかしインパクトの一瞬前、ガドルは平然とロッドを掴み、カウンターの肘打ちを放つ。

 

 再び吹き飛ばされたクウガにガドルが迫る。体勢を崩したクウガの顔面に膝を叩き込む。さらに拳のラッシュ。一気にクウガの体力を削り取る。

 

 青の速度を上回られていることを実感したクウガは遮二無二距離を取る。荒くなった息を整える間も無く、緑に変身。

 

 この時点で陸人は自覚していなかったが、彼は初めて『敵に恐怖』していた。とにかく距離を取るために、欠点も多い緑を後先考えずに使うほどに。

 変身する前、生身でバーテックスと対面した時も、数えきれない敵と怪我した体で出くわした時も、決して臆することのなかった心が、ほんの数秒で軋み始めていた。

 皮肉なことに、自分の幸せについて考えるようになったことで人としての防衛本能、恐怖心が働くようになってしまったのだ。

 

 目の前の恐怖を振り払うようにボウガンを連射する。的確に狙いを定めたにもかかわらず、全弾回避され、さらに接近を許す。

 

 素早く紫に変身。鎧で自らを守る。ガドルはあえてその守りの上から拳を打ち込む。1発、2発で衝撃に顔が歪む。3発、4発で踏ん張りきれずに足が下がる。5発目の衝撃で、耐えきれずに吹き飛ばされた。

 

 

「く、そ……なんだ、この力……!」

 

 赤を上回る格闘戦技術。青を超える反応。緑で捉えられないスピード。紫を破るパワー。

 ガドルは戦闘開始からたったの1分足らずでクウガの基本形態を完全に超越してみせた。

 

「これが全力ではないだろう。見せてみろ、貴様の本気を」

 

「……知って、いるのか?」

 

「天の神に一通り聞かされた。よほどお前が怖いらしいな。俺たちにクウガを始末させようと色々やってきた。しかしヤツの駒になる気もなくてな。こちらを操ろうとするヤツと話をつけるのに、今日までかかってしまった」

 

(今日までの妙な動きは、それのせいか。向こうもゴタゴタしてたわけだ……)

 

 ──奴らが一枚岩でないというのは僥倖だが、今ここで死んではどうにもならんぞ──

 

(分かってる。本当はもっとヤツの本気を引き出してから使うつもりだったけど、このままじゃ先にこっちが死ぬ……!)

 

 ──改めて言うが、3分だ。いいな──

 

(最低でも退かせるくらいはしないと……この3分で!)

 

 

 

 

 覚悟と共に、黒の赤の力を解放。再びぶつかり合う。今度は完全に互角に組み合うことができた。

 

「……ホゥ! これが本気か。いいぞ、もっとだ!」

「クソッ! どこまで余裕なんだ、コイツ!」

 

 愉快そうに笑うガドルとそんな余裕がないクウガ。足を止めての殴り合いが続く。側から見ると完全に互角。事実ガドルもクウガと同様にダメージを受けていた。

 しかし陸人の表情は芳しくない。

 

(このままじゃ、負ける……!)

 

 勝ち筋は見えず、打開策も無く、時間すらも敵に回し、クウガは確実に追い詰められていた。

 

 ──残り160秒──

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ! なんか変だぞコイツら!」

 

「数が多いし、なんだか時間を稼がれているような……」

 

 勇者たちは小型を殲滅しながら小型と新顔のサソリ型、そしてガドルの動向に気を配っていた。小型は進化体になろうとせず、距離を取って壁になるように動いていた。サソリ型は斬っても殴っても効果が薄く、その尾の一撃で樹海に深い傷を残している。かつてない強敵だ。

 

「クウガとあの怪物を孤立させようとしている?」

 

「私たちが邪魔しなければクウガを倒せる自信があるということか。天の神め……!」

 

 無理をすれば突破できるかもしれないが、完全に背中を向けるにはサソリ型の存在感が強すぎる。

 

「球子さん、杏さん、行って!」

 

「歌野さん⁉︎」

 

「このままじゃ陸人くんが危ないわ、手分けするなら援護向きの2人がベストなはずよ!」

 

「こっちは私たちでなんとかするから!」

 

「……伍代くんをお願い……!」

 

「命令だ、行け2人とも!」

 

 サソリ型の力は間違いなく脅威だ。全員が肌で理解していた。しかしそれは仲間を助けに行かない理由にはならない。

 

「……分かった! 行くぞあんず!」

 

「うん、皆さんも気をつけて!」

 

 奥の手を使ってなお苦戦しているクウガの元に行こうとして、小型が邪魔をする。

 しつこい妨害に怒りを向ける球子と杏。

 

「邪魔すんな、そこどけよ!」

 

「陸人さんが……陸人さんが!」

 

 どれだけ怒ってもバーテックスには通じない。目の前の壁も薄くはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ヅアッ! グゥ……ウオアアアッ‼︎」

 

「──ムッ⁉︎……フフ、ハッハァッ‼︎」

 

 血反吐を吐くような絞り出した声と、喜色に溢れた声が響く。殴られた体も、殴った手も、感覚が怪しくなってきている。

 

「──シッ!」

「ガアッ!」

 

 互いに大ぶりの一撃を打ち込み距離が開く。その間にクウガは後ろ手で端末を操作する。

 瞬間ガドルの真後ろに現れるゴウラム。反射的に蹴りを入れるガドル。相棒を囮に使うような真似をしてやっと作った一瞬の隙。

 

 一瞬で黒の紫に変身したクウガは、手にしたソードを突きつけて突っ込む。

 ガドルも超反応で振り向くも防御は間に合わず。

 

 必殺の突き『アメイジングカラミティタイタン』

 

 剣先が確かにガドルの腹部に突き刺さった……はずだった。

 

 

 

 クウガはその感触に違和感を覚えた。肉体を刺したというのに、途中でとても硬いものに当たって剣が止まる。そのまま剣を掴まれ、刺すも抜くもできなくなる。

 

(……そんな、ウソだろ⁉︎)

 

 黒の必殺技ですら倒せない。愕然としたクウガが顔を上げると、ガドルの目が紫に変色していた。

 

「今のは良かった。これは、返礼だ!」

 

 言葉と同時にソードが変質する。ガドルの体色に近い、黒ずんだ長剣に。驚愕するクウガを殴り飛ばし、剣を腹から抜いて構える。当たり前のようにアッサリと、腹の数は塞がってしまった。

 

「行くぞ!」

「コイツ、どこまでも……!」

 

 振り下ろされる豪剣。最硬を誇る黒の紫の装甲が、一撃で傷をつけられる。力を誇示するように装甲ばかりを狙うガドル。胸、肩、背中と切りつけられ、傷だらけになっていく。

 

 

 

 やがてダメージに耐えきれず、倒れこむクウガ。その腹部、アマダムに剣先を向けて構えるガドル。トドメをさす気だ。

 

「少し物足りんが、楽しかったぞ。クウガよ」

 

「……ゥ、グ……」

 

 ──残り100秒──

 

 

 

 

「やめろぉぉぉぉ‼︎」

 

 剣が下される寸前、ガドルとクウガの間に盾が飛び込み、矢が突き刺さる。

 飛び退いて距離を取るガドル。その前に舞い降りた2人の勇者。

 

「陸人、大丈夫……じゃないな⁉︎」

 

「こんなひどい傷……!」

 

「球子ちゃん、杏ちゃん。ダメだ、逃げて……」

 

 2人は初めて会った時を思い出し、どんなにボロボロでも自分たちの方ばかり心配する陸人の相変わらずさに苦笑する。

 

「クウガの言う通りだ。お前たちでは勝負にならん……どけ。クウガ以外に用はない」

 

「うるさい! お前になくても、こっちにはあるんだ!」

 

「陸人さんは殺させない。絶対に!」

 

 2人もガドルの強さは理解していた。黒の共鳴があっても自分たちでは勝てないということも。それでも、常に命を守ることを諦めなかった彼のように。少女たちは己を奮い立たせる。

 

「出し惜しみナシで行くぞっ‼︎ 来い『輪入道』‼︎」

 

「出し惜しみはしません! お願い『雪女郎』‼︎」

 

 武器を強化する球子の『輪入道』と、杏が初めて使う精霊『雪女郎』

 

 その能力は『雪と冷気の操作』広範囲をまとめて凍りつかせる、非常に攻撃的な力だ。

 

 ガドルがかわした冷気が、後ろにいた小型を周囲の植物ごと瞬時に凍結させる。

 

 さらに追撃の炎の盾。悠々とかわしながらも、ガドルは感心したような声を出す。

 

「フム、思ったより悪くはない……そうか、クウガと共鳴しているのか」

 

「ウアアァァッ‼︎」

 

 大型の盾を振りかぶって接近する球子。どちらかが前衛をしなければならないなら、やはり球子が適任だ。しかし、ガドルの相手ができるレベルには遠く及ばない。

 

「このっ!」

 

「出力はともかく技術が甘すぎる……人型と戦うという経験が不足しているな」

 

 首を掴み、そのまま投げ飛ばす。続けざまに飛んできた吹雪も飛んで躱されてしまう。

 

「お前はそもそも戦士には向いていない。戦況を把握する頭はあるようだがな……!」

 

「あ、当たらない……!」

 

 回避されないように全方位に、より広範に吹雪を放つ杏。しかしそんなことをすれば自然、一箇所の吹雪の密度は薄くなる。

 

「無駄だ」

 

 吹雪を正面から突破し、杏に拳を振り抜く。

 2人の全身全霊は、ガドルにとっては派手なだけの遊戯に過ぎない。

 

 

「球子ちゃん! 杏ちゃん!」

 

 動けない体で、それでも2人を守るために気力で黒を維持していたクウガ。

 彼の前に球子と杏が吹き飛ばされてくる。黒の力、精霊、デメリットを飲み込んで使った切り札でさえ、ガドルを倒すには至らない。

 

 ──残り45秒──

 

 

 

「これ以上見るべきものもなさそうだな。終わりだ……」

 

 ガドルの目が緑に変わる。同時に持っていた剣もクウガのものに似たボウガンへと変質する。

 

 クウガは軋む体に鞭打って、2人の前に出る。同時に放たれた矢を傷だらけの鎧で受け、今度こそ力尽きる。白の姿になり倒れてしまう。

 

 

 

「そこまでして守りたいか……いいだろう、まずはクウガ、お前からだ!」

 

 先ほどとは違う、黒い光がボウガンに集まる。それは勇者やクウガが使う、神の力によく似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ⁉︎」

 

「マズイ、抜かれた……!」

 

 その時、若葉たちの攻撃をものともせずに猛威を振るっていたサソリ型が急に飛び上がり、クウガたちの元へ向かう。あまりの不意打ちに若葉たちも反応できず、突破を許してしまう。その尾は迷いなく球子と杏に向いていた。

 

 

 

 

 クウガを狙うガドルを見る球子と杏。2人を狙うサソリ型に気づいたクウガ。

 当たり前のように球子と杏は『陸人を守らなきゃ』と判断し、クウガは『2人を守る』と決断し、同時に動いた。

 

 

 この一瞬の判断が、伍代陸人、土居球子、伊予島杏。3人の命運を変えた。

 

 

 3人はすれ違い、背中合わせに互いをかばう。

 球子と杏はガドルの射撃をその身で受け、力が抜けるように倒れこむ。

 クウガは残り短い黒の紫を気合いで発動、サソリの尾を受け止める。

 

「……ウ、オアアアアッ‼︎」

 

 力任せに尾の刃先を引きちぎり、無理やりソードに変質させる。

 

「俺の仲間は、やらせない!」

 

 投げやりのような構えから、ソードを投げつける。刃はサソリ型のほぼ中心を捉え、深々と突き刺さった。

 

「……みんなっ!」

 

『うおおおおっ‼︎』

 

 サソリ型が怯んだ隙に、小型の壁を突破した若葉、友奈、千景、歌野が接近する。精霊を解禁した4人の連携攻撃でサソリ型は消滅した。

 

 強敵の撃破を確認したクウガが振り返ると、球子と杏が倒れていた。

 しかも苦しみ方が普通ではない。少しずつ勇者装束が散っていき、熱に苦しむように息が荒い。

 

(コレは⁉︎)

 

 ──マズイな……おそらく体内の神樹の力を分解されている。天の神の力か──

 

 ガドルは背を向け隙だらけだったクウガを狙わなかった。横槍を入れてきたサソリ型への怒り、そのサソリ型を仕留めたクウガと勇者への賞賛が、ガドルの手を止めていたが、それもここまでだ。

 

 再びクウガに武器を向けるガドルに、4人の勇者が飛びかかる。しかし近接戦に不向きな射撃形態でありながら、ガドルは勇者を圧倒する。サソリ型との戦闘で疲弊しきった勇者では4人がかりでも届かない。それがガドルの戦力水準である。

 

 ──残り20秒──

 

 蹴散らされた勇者たちの影から走り込むクウガ。

 

 黒の赤の力による最強の必殺技『アメイジングマイティキック』

 

 ここから、一瞬で様々な攻防が繰り広げられる。

 

 ガドルは直感でその威力を悟ったのか、瞬時に形態変化して剣を生成。盾にするように構える。

 

「りく、と……陸人!」

 

 それに気づいたのかとにかく陸人のために何かしたかったのか、球子は尽き掛けの力を振り絞って盾を投げる。カーブを描いて飛んできた盾は、奇跡的なまでに完璧に、ガドルの剣を弾き飛ばした。

 

「何……⁉︎」

「オオリャアァァァ‼︎」

 

 やむなく左手でキックを受けるガドル。とっさの防御にもかかわらず、その腕は確実にキックの威力を殺し、衝撃を受け止めていた。

 

「これでも、ダメなのか……!」

「……グ……ウゥ……!」

 

 自分の最強技すらも防ぐガドルに絶句するクウガ。キックのエネルギーとガドルの体が激しくぶつかり合う。拮抗状態だ。

 

 

「りくと、さん……」

 

 薄れゆく意識の中、それでもクウガの背中だけははっきり認識できた杏は、自分に出来る精一杯の援護に打って出る。

 

「……お願い、雪女郎。陸人さんを!」

 

 最早地面を凍結させるのが限界の杏。しかしその献身が、クウガに光明をもたらす。

 ガドルの足元が凍りつき、踏ん張りが効かなくなったのだ。

 

「しまっ……!」

「おおおおああああぁぁぁぁ‼︎」

 

 ガドルの体勢が崩れた瞬間に全力で押し込むクウガ。その圧力に耐えきれずにとうとうガドルの体が吹き飛ぶ。

 同時に凄まじいエネルギーの衝突による爆発が巻き起こった。

 

 ──残り0秒──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変身が解けた陸人が、球子と杏を庇いつつ煙の奥を見つめる。

 予想通り、奥から人型の影が歩いてきた。

 

「左腕をやられたか。まあ時間を取れば治る程度だな」

 

 平然と歩み寄るその姿に、戦える勇者たちが青ざめながら構える。

 

(今の奴らを仕留めるのには、片手で十分か。だが……)

 

 そこでガドルは勇者装束も消え、苦しみ続ける球子と杏、そしてその2人を庇い、ふらふらの体で立つ陸人を見つめる。

 

(あの状態でもなお仲間を守ろうとする。これがリント……いや、強い人間、か)

 

 ガドルは小さく笑って背を向ける。

 

「今回は退こう。勇者というものを侮っていた詫びだ」

 

「な、に……?」

 

「次に会うときまでに、さらに力をつけていることを期待する」

 

 そこまで言うと、ガドルは思い出したように射撃形態に変身。ボウガンを連射して残るバーテックスを全て撃ち抜いた。

 

 その意外な行動と殲滅力に一同が驚愕している内に、ガドルは消えた。

 それを見届け、陸人もついに倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が霞み、耳も遠い。そんな状態でも、やるべきことだけははっきりしていた。

 

(2人が苦しんでいるのは、神樹様の力が抜けて精霊の反動に耐えられなくなっているから……だったら!)

 

 這いずるように球子と杏に近づく陸人。痛み以外の感覚がはっきりしない。精神力で体を動かし、やっとの思いで2人の手を取る。

 

 ──よせ! 今の貴様の体でそれをやれば、何が起こるか分からんぞ! ──

 

 アマダムの言葉に、陸人はここ数日の自分を思い返す。自分を好きになろうと、少しずつ自分を出すようになった。確かにこれ以上の無理は自分にとって良くないことになるのだろうとは思う。それでも……

 

「……変、身!」

 

(俺の幸せは、俺の大事な人が笑っている世界で……そのためなら、俺は!)

 

 黒の力を一瞬だけ制限時間を超えて発動。2人の穢れを自分に移す。

 

 自分と向き合い、過去を振り返り、世界を見回した結果、あまりにも今まで通りの結論に至った自分が可笑しくて、思わず笑ってしまう陸人。

 

(うまくいった、かな?)

 

 ──成功だ、娘たちは大事ないだろう。大馬鹿者め──

 

(そっか、良かった……)

 

 ザラザラしたものが流れ込んでくる感覚に苦しみながら、陸人はそれでも笑顔で眠りにつく。

 

 

 

 

 勇者たちの初陣から約9ヶ月ほど。

 絶望的なまでに明確な『人類側の敗北』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作より強い敵を相手に原作より犠牲を減らすというこの作品の至上命題……という名の無茶振り。
その負荷は全て陸人くんに回ります。ヒドイ話ですね……

感想、評価等よろしくお願いします

次回もお楽しみに

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