A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
サブタイが不穏な上に前話で結構物騒な切り方しましたが、思ってるほどヒドイことにはなっていないかと……今のところ。
まだまだこの先ありますからね。
あの敗戦から3日。勇者たちは予定通り花見を開催していた。
「陸人さん、本当に大丈夫?」
「もう問題ないよ、全然平気だから」
憂いなく笑う陸人。つい先日重体で病院に担ぎ込まれた人間とは思えない。
「ひなた、大社の方で何か聞いていないか? いくらなんでも回復が早すぎると思うのだが……」
「私の方でも調べてみましたが、箝口令を敷かれたようです。水戸さんや真鈴さんにも協力してもらったのですが……」
大社が隠す以上、何かあるのは間違いない。大社からのひなたたちの信用も怪しくなってきたのか、勇者に知られたくない事実についてシャットアウトされている。
「陸人さんの方は、何かを隠している様子はないですが……本人も知らない、ということでしょうか?」
ガドルとの激闘から1日中寝通した陸人。目覚めた時には何事もなかったかのように全快していた。
「いやいやおかしくないか? あんだけの傷が一晩寝て消えてるとか」
「俺もそう思うよ。アマダムが頑張ってくれたのか、それとも……」
訝しげに陸人の体にペタペタ触る球子と、苦笑する陸人。
何度呼びかけてもアマダムは反応しない。衰弱しているのだろうか。
「笑い事じゃないよ。違和感あったらすぐに言ってね?」
心配を隠さずに陸人の手を握る杏。そんな顔が見たくなくて戦っている陸人としては何とか安心させてあげたい。
「俺は大丈夫。クウガの姿じゃ傷が目立ったけど、生身にはそれほど深刻なダメージが残ったわけじゃないみたいだ」
寝て起きたら回復していたため陸人は自覚がないが、融合が進むごとにむしろ生身への影響は大きくなるのだ。クウガの生体鎧が斬られれば生身にも傷が残る。再生力が向上しているのも、そのデメリットを補うためである。
少しずつ人間から離れていく陸人の体。救いは彼の心の有り様が変わらないことだろうか。
「それで、2人は大丈夫なの? ガドルの攻撃、なんか変だったけど……」
話題を変えた陸人の言葉に球子と杏は顔を暗くする。
「それが……」
「ゴメン、陸人。タマとあんずはここでリタイアらしいんだ……」
「……え?」
「ガドルが放った神の力。アレが私たちから勇者の力を消してしまったって、そう言われて……やってみたら、本当に変身できなくなってて!」
ガドルが使った黒い光。あれは天の神の力を圧縮解放したもの。その効果はかつて陸人に力を与えた神樹の雷に近い。
陸人の体内で暴れる天の神の雷に干渉して力に変換した神樹の雷。
今回のものはその逆。勇者の内部にある神樹の力に干渉して打ち消す効果を持っている。
アレを受けた勇者はその力を戦闘できないレベルにまで減衰させられる。先天的なものである勇者適性が衰えてしまえば、それを回復する手段もない。
球子と杏が勇者として戦うことは、もう2度とできなくなってしまった。
ガドルはたった一度の戦闘で2人の勇者を脱落させるというかつてない戦果を挙げたのだ。
「……じゃあ2人はもう危険なことはないってことかな?」
説明を聞いての第一声がコレ。どこまでも陸人は陸人だった。
「あー、えっとな……」
「樹海には変わらず取り込まれる可能性があるって。その程度にはまだ神樹様の力が残っているみたいで」
「そっか。もしそうなったら2人の安全を確保しなくちゃいけないね、距離を置くのと、他に何か安全策があるといいんだけど……」
「ってそうじゃないだろ! もうタマもあんずも戦えないんだ! 陸人が傷ついても、なにもしてやれないんだ!」
「タマっち先輩……」
「うん、分かってるよ。2人は悔しいし、悲しいだろうと思うけど……俺さ、実は少しだけホッとしてるんだよね」
「……どうして?」
「陸人?」
陸人は笑って2人の頭に手を置く。初めて会った惨劇の夜、同じようなことがあったことを思い出す。
「勇者だから、やらなきゃ世界が終わるから、って。頭では理解できるんだけど。みんなには危ないことしないで欲しいって思っちゃうんだ。2人にも、他のみんなにも……ホントなら何もない平穏な場所で生きてて欲しかった」
今の世界のどこにそんな場所があるか分かんないけど、と陸人は苦笑する。
「思いっきり負けた後じゃ説得力ないだろうけど。後は俺が何とかするからさ。球子ちゃんも杏ちゃんも、今は無事でいられることを喜んでほしい。ワガママだけど……俺のお願い、聞いてくれる?」
球子は何と言って良いか分からない。自分を出すようになったと思えば、言い方がずるくなるばかりで自らより他人を優先する癖は直りはしなかった。
今自分が無事なことだって陸人が穢れを引き受けてくれたからだ。
球子は最後の最後まで陸人に助けられてきた勇者土居球子が、とうしようもなく許せなかった。
「俺だって知らない誰かのためにここまではできないよ。ずっと俺を励ましてくれた球子ちゃんだから。俺の心を温めてくれた杏ちゃんだから。一緒に頑張ってくれた仲間のためだから、俺は迷わず戦えるんだ」
杏はこうなることを予想していた。陸人が戦い傷つく勇者を見て複雑な感情を持っていることには薄々気づいていたのだ。
陸人の最優先事項は仲間たちの幸せ。それはもうどうやっても変わらない。それが分かるから、杏は今泣いているのだ。
2人の涙を止める言葉を、陸人は持っていない。だから泣き顔を見ないように、2人を抱き寄せる。
「泣きたい時には泣いていい。球子ちゃんも杏ちゃんも、勇者である前に女の子なんだからさ」
その言葉に、ついに2人は決壊した。
「グス、うぇぇ……りくとぉ……」
「ごめんなさい、わたし……」
『ああああああぁぁぁぁぁぁ‼︎」
無理を重ね続けた球子と杏の声を、陸人はただ黙って受け止める。
(本当に……無事でよかった)
その後検査を重ね、滞りなく陸人は退院した。大社の方からは融合の進展以外異常はなかったと言われている。それを素直に受け取る者は一人もいなかったが。
誰もが不安を抱えながら、それでも本人が笑っているためそれを押しとどめ、勇者たちは日々を過ごしている。
「それでは各自の出し物の時間です!」
「1番手は歌野、水都、陸人の3人! 盛り上げてくれよな!」
マイナスの感情を振り切るように笑う球子と杏。全員がそれを察し、上向きな空気を意識して作る。
その後出し物は順調に進んだ。
歌野と水都との合同パフォーマンスは最終的に曲に合わせたダンスに近い形となり、異種種目の合わせ技もあり、素人とは思えないハイクオリティな仕上がりになった。
若葉とひなたとの剣舞。これも美しい舞とひなたの澄んだ歌声が合わさり神々しさを感じさせた。最終的には全員正座で拝見していたほどだ。
友奈と千景の歌。意外にもアイドルソングを選択した千景。恋愛シミュレーションの主題歌らしいが、千景なりに盛り上げようと考えたのだろう。陸人の演奏も問題なく、少女2人の微笑ましいデュエットで大いに盛り上がった。
最後に球子と杏のマジック。球子はシルクハットから花を出す定番マジック。無事決まった時のホッとした顔を全員が見逃さなかった。
杏は手先の技術で成り立たせる基礎的なトランプマジック。話術も重要なこの演目、普段の杏とは違う雰囲気に全員が驚かされた。
最後に陸人が、さらに高度なトランプマジックを披露。仕上げのタイミング、手元のカードを確認した瞬間、おかしなことが起きた。
4種類のAのトランプが
(……なんだ?)
目を疑い、瞬きをすると視界が元に戻る。鮮やかな桜も、桜色に綻ぶ少女たちの頰も正しく認識できている。
「どうした、陸人? まさか失敗か〜?」
「あぁゴメン、何でもない。大丈夫、続けるよ」
寄ってくる球子を誤魔化し、頭を振る。
(何だったんだ?)
小さな違和感に蓋をして、陸人は花見を楽しんだ。
翌朝。結局夜まで騒ぎ続け、いつもより遅い時間に起きる陸人。
目を覚ました一瞬だけ、違和感を覚えた。
(なるほど。肩代わり、ってのはこういうことか)
突然の色覚消失という異常事態を持ち前の適応力で取り繕う。彼にとって大事なのは仲間たちの心配のタネをこれ以上増やさないことだ。
──これが無理をした結果だ……最も貴様に後悔などないのだろうがな──
久しぶりに聞こえたアマダムの声に陸人は頷いて返す。
──これからも戦えば同じことが起きる。人から逸脱するたびに何を失うか分からんが、それでも良いのか? ──
(ああ。仲間よりも失いたくないものは、今の俺にはないよ)
──愚か者め──
その一言を最後に黙り込むアマダム。
陸人はアマダムに謝罪しながら部屋を出て食堂に向かう。その姿はどう見てもいつも通りの陸人そのもの。
伍代陸人は変わらない。その大きすぎる愛が、どうしても自分以外に向いてしまう。彼の本質は変化しようがない。
何を得ても、何を失っても……絶対に。
このクウガの症状が後の散華の前身、だったりするのかもしれません………スミマセン、よく考えずテキトー言ってます。
次章もまだできていないのでお待ち頂きたく。レポートとかもありまして、時間がかかることが予想されます。
感想もらえるとモチベとスピードあがるかも……(小声)
次回もお楽しみに