A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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七章開始です。

オリジナル色強めなので説明が多く、くどい文になってるかも…読みにくかったら申し訳ない……


七章1話 呪詛

(とりあえず、目そのものがダメにならなくて良かったよ。誤魔化しようがないし、戦闘にも支障が出る)

 

 ──だが重なればいずれ致命的なことも起こりうる。肝に命じておけ──

 

 大社の検査を終え、色覚の喪失は医学でどうにかできるものではないことを確認できた。

 

(やっぱり、あのコンディションで穢れを受け取るのは無茶だったか)

 

 ──当然だ。アレが最後の一押しとなったのだ。気持ちいいくらいに人の忠告を無視してくれたな──

 

 アマダムの声には分かりづらいが怒りがこもっている。やんちゃ小僧を叱りつける母親のようだ。

 

(ゴメンってば。アマダムなら俺が本気で反省してるの、分かるだろ?)

 

 ──ああ。私の言葉を無視したのは反省していること、そしてこの結果にはなんの後悔もしていないこともな──

 

 どうも機嫌を直せそうにない。時間を置くか、と陸人が考えていると……

 

 ──あの穢れは貴様の心と体に負荷を植え付ける。私との融合を後押しする形で人としての在り方を破壊するものだ。心の方は……現状は問題なさそうだが、次も耐えられる保証はない。ゆめゆめ忘れるな──

 

 言うだけ無駄か、と不機嫌な調子で告げ、黙り込むアマダム。陸人は苦笑しながらその忠告を反芻していた。

 

(心と体に負荷を……あの時、全員分にまでは手が回らなかったけど。他のみんなは大丈夫なのかな?)

 

 そういった話で特に心配なのがやはり千景だ。

 彼女はとても繊細で純粋な心を持っている。何がきっかけで今のモチベーションが崩れるか分からない。

 

 特に今回の敗戦は現実世界にも影響を及ぼした。一部の土地で災害が発生、死者と重傷者を出してしまったのだ。

 目に見えるレベルの被害を許してしまった。これが市民感情にどんな影響を及ぼすか……陸人は過去の経験からある程度予想できていた。

 

(これ以上、負けるわけにはいかない。そのためには……)

 

 そこで陸人は、ガドルの言葉を思い出す。

 

(アマダム、ガドルは天の神に従ってるわけじゃないって言ってたけど、どう思う?)

 

 ──おそらく事実だ。四国に戻ってからずっと、奴らの動向を探っていたが、壁外でバーテックスとガドルが争っていたような動きがあった──

 

 アマダムが言うには、件の2体を復活させる際に天の神は完璧に制御する用意をしていたはず。しかし奴らの力が想定外だったのか、残っていた封印の影響か、完璧な制御が叶わず個々の意思で動くようになってしまった。

 

 クウガさえ倒せればそれでいい天の神とクウガと戦うことにこだわるガドルが妥協案としてある程度の相互不干渉を定めたのだろう、というのがアマダムの予想だ。

 

(もう1体の、怪物の頂点っていう奴は?)

 

 ──奴についてはいくら探っても見つからん。復活しているのは間違いないはずだが……少なくとも四国の近くにはいないだろうな──

 

(あのガドルより強い敵がいる。想像もしたくないな)

 

 ──しかし残念なことに事実だ。あの2体が同時に襲っては来ないのがせめてもの幸運だな──

 

 分かりきっていたことだが、状況は絶望的だ。

 1番の問題は、人類側の最高戦力たるクウガが、いつ何が起きるか分からない非常に不安定な状態にあることだ。

 

(無理をしなくちゃ勝てない。無理が過ぎて俺がリタイアすればそこで詰み……厳しいな)

 

 現状を再認識して溜息をつく陸人。そこに球子と杏が駆け寄ってくる。

 

「あ! いたいた、おーい陸人!」

 

「対ガドル会議の時間だよ、陸人さん」

 

「そうだった。急がなきゃね」

 

 3人並んで駆け出す。球子と杏も、戦えなくなったことについて気持ちの整理はついたようだ。今は自分にできることをやろうと前を向いている。

 2人は信じている。

 

『何度も自分たちを救ってくれたヒーロー』が、今度も必ず勝ってくれると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒の力が通用しないとなると、他の手も効果を期待できるかどうか」

 

「それなんだけど、ガドルは元々強かったけど、あの硬さと回復力はおかしいってアマダムが……」

 

 古代の戦いですでにあの耐久力があれば、封印のしようがなかったはずだ。アマダムの予想では、おそらく復活の段階で体に神の力を入れられたのだろうということ。球子と杏の力を消したあの光もそれだ。

 

「土地神様の力を得たクウガと天の神の力を得たガドル、ってこと? 私は戦いのことはよく分からないけど……もしそうなら、なんでガドルはバーテックスを倒したのかな?」

 

 水都の疑問にアマダムの予想を伝える陸人。天の神との完全な協力体制を結んではいない。この状況ではありがたい情報だ。

 

「……バーテックスを引き連れてきたけど。邪魔そうにしてたし、実際に始末したわけだから。仲間というわけではないのでしょうね……」

 

「そうだね。あの時は俺1人で挑んでぼろ負けしたけど……黒の力の本領は勇者との共闘だ。次は仲間と組んで戦う。今思いつくのはそれくらいだね」

 

 陸人に頼られた勇者たちはどこか嬉しそうに頷く。仲間を守るためには仲間に頼らなければならない時もある……陸人も学んだのだ。

 

 その後陸人や球子、杏の戦って得た感覚を共有、少しでも情報を得ようと会議は続く。

 

「私は、ガドルの武器の変化が気になりますね。なんだかクウガみたいで」

 

「そういえば、武器が変わると目の色が変わってたよな? 緑だったり紫だったり」

 

「……そうなの? それってつまり……」

 

「タマにはそう見えたけど、それがどうかしたか?」

 

「もしそうなら、クウガと同じ形態変化ができるなら……青の力と同様の速度特化形態があるのかもしれません」

 

 出てきた情報に苦い顔をする一同。あれ以外に戦闘スタイルがあるなら、どう対応すればいいのか。

 

 

 

 

 

「!」

 

「敵襲? ガドルは……」

 

「いないことを祈るしかないな。今は」

 

 考えが煮詰まってきたところで樹海化が発生、かつてないほど重苦しい空気での出陣となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今回は、例のガドル、いないみたいね……」

 

「正直助かるよ。現状あいつに勝つ手立てがない」

 

「……とはいえ進化体はいるし全体数も多い。油断はできんぞ」

 

「タマちゃんとアンちゃんは、大丈夫?」

 

「はい。端末のアップデートが間に合いましたから」

 

「タマたちは距離を取って、根の影で障壁を張る。目の前まで来られなきゃ気づかれないって話だ」

 

 球子と杏は予想通り樹海に取り込まれていた。その時に備えて大社が端末に用意した障壁機能。これでバーテックスの目を誤魔化せるという。

 

「敵は通さないことを意識して動こう。2人には近づけさせない」

 

「すみません。よろしくお願いします、みなさん」

 

「こんな形で足手まといになるなんて……」

 

「俺が今健在なのは2人のおかげだよ。だから今度は、球子ちゃんと杏ちゃんを守らせてくれ。大丈夫だから」

 

 サムズアップで2人を励ますクウガ。球子と杏は少し安心した顔でその場を離れる。

 

 

 

 

 

 

「お? あれは、またニューフェイスね!」

 

「……蝶? それとも蛾?」

 

 見慣れた進化体の中に1体だけ、見たことのない個体がいた。

 

「どんな能力を持っているか分からない、慎重に行くぞ!」

 

 散開する勇者たち。千景は踏み出す直前、視線のようなものを感じて一瞬動きを止めた。

 

(……今のは?)

 

 彼女の感覚は間違いではなく、新型は千景1人をじっと注視していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦況は芳しくない。各員のコンディションも良くない上に援護に長けた2人が抜けたことで複数相手が難しくなっているのだ。

 

「ガドル抜きでも、ここまで手こずるとは……!」

 

「怪我人を出すわけにもいかない。ここは俺が……」

 

「……待って! なら私がやる……」

 

「……千景ちゃん」

 

 陸人にこれ以上負担をかけられない。ガドルと戦うにはクウガを頼るしかない以上、せめてそれ以外は全て自分が倒す。それくらいの覚悟で千景は戦っていた。

 

「……来なさい! 『七人御先』!」

 

 精霊を使用、7人の千景が現出する。手数と不死生で一気に押し切ろうと考えた。

 

 

 

 それを確認した蛾のような進化体が飛翔。勇者たちの上空から鱗粉のような光の粒子を撒き散らす。

 

「なんだ、これは?」

 

「もしかして、毒⁉︎」

 

「ポイズン⁉︎ だとしたらまずいわ、みんな離れて!」

 

 全員が飛散範囲から離れる。それぞれ多少浴びてしまったが、特に影響はない。

 

 蛾型は役目を終えたと言わんばかりに身を翻して離れて行く。

 

「逃がすか!」

 

 緑の力で蛾型を射抜くクウガ。意外なほどあっさりと進化体は霧散した。

 それと同時に小型も撤退。やがて樹海化も解除された。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだったんだ、いったい……」

 

「あの粒子を私たちに撒くのが目的だったってこと? だとしたら……」

 

「メディカルチェック、したほうがいいでしょうね。遅効性の毒とかだったらマズイわ」

 

 首を傾げながら引き上げる勇者たち。その時陸人は、千景の身に起きている異常に気づいた。

 彼女から感じられる穢れが尋常でない域に肥大化していたのだ。

 

「──っ! 千景ちゃん!」

 

「え……? 伍代く──」

 

 千景の肩に触れた途端、陸人は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──ッグ、ヅゥ⁉︎」

 

「りっくん?」

 

「どうしたの? 陸人さん」

 

「全員ストップ!」

 

 慌てる仲間たちに陸人が声を張り上げる。

 

「今はよく分かってないけど、なにかおかしなことが起きてる。大社に連絡して迎えを呼ぼう。それまでみんなは互いに距離を取って……触れ合うと良くないことが起きるかもしれない」

 

 真剣な表情の陸人に従い、一同は大社の迎えの車に乗り込みそのまま検査へ。

 呪術的見地から、彼らの体に精霊発動時に溜まる穢れの濃度が引き上げられていることが分かった。

 

 肉体の調子を落とし、精神の安定を崩す穢れ。あの粒子にはそれを活性化させる呪いのような効果があったようだ。さらに感染性質もあるらしく、七人御先の効果で7人分粒子を浴びた千景と、彼女に触れた陸人は他よりさらに影響が強い。

 

 

「対策としては勇者同士での接触を減らすこと……これまで精霊を使った後の皆さんの反応から見て、永続性はないと考えられますから落ち着くまで距離を取っておくのがベストかと」

 

「ふむ、つまり精神攻撃か。バーテックスも手口を変えて来たな」

 

「ガドルの手綱を握れなかったことで、焦ってるのかもしれませんね」

 

「落ち着くまでに敵が来ちゃったら、どうしたらいいのかな?」

 

「その時は、やっぱり距離を取ったまま分担して戦うしかないんじゃないかな。でも、もしガドルが来たら……」

 

「なるほど、敵はそれも狙ってるのかもね。私たちの要、チームワークを崩す。戦場の外から」

 

「その時は接触しないように意識して連携する。無理難題だけど、やるしかないよ」

 

「しばらくキツイ状況になるな。タマたちにできることあったら、なんでも言ってくれよ!」

 

 大なり小なり苦しい顔をした勇者たちが当面の対応を議論する。一段落したところでずっと黙っていた千景が口を開く。

 

「……話は終わりでいいかしら? さっきから少し頭痛がするから、私は部屋に戻るわ……」

 

 フラフラと教室を出る千景。その顔色は良いものではなかった。

 

「球子ちゃん、杏ちゃん。千景ちゃんのこと、お願いできるかな?」

 

「え?」

「陸人さん?」

 

「今1番症状がきついのは千景ちゃんだ。でも穢れを持ってる俺も友奈ちゃんも今は迂闊に近寄れない。ひなたちゃんと水都ちゃんにはいつものようにみんなを看ていてほしいし……2人にしか頼めないんだ」

 

 ただでさえ千景は何かの影響を素直に受けやすい性質だ。この状況はよろしくない。穢れも全て移し、粒子も浴びていない2人に任せるしかなかった。

 

「分かった、要は千景と一緒にいればいいんだな?」

 

「そんな簡単な……でも話をして、少しでも気晴らしができるようにってことだよね。うん、任せて!」

 

 力強く頷く球子と杏。陸人も2人に絶対の信頼を置いている。

 

「よし、俺の方はさっきアマダムが提案してくれた体内の呪いを消す方法を試してみるよ」

 

「呪いを消す? 陸人さん、それはどのような?」

 

「アマダムと直に接触できるくらいに深く眠りについて、神樹様の力を天の神の呪いにぶつけるんだって……」

 

 アマダムというツール越しに神樹の力を使うクウガだからこそできる対策。アマダムから神樹の力を体内に放つことで呪いを消滅させる。

 一見便利な力だが、アマダムとの融合は当然進行するし、肩代わりにより移る穢れについてはアマダムを経由するため、この方法では消すことができないらしい。

 リスクはあるが全員が不調のままでは次の勝利もままならない。陸人たちはもう負けられないのだ。

 

「2、3日眠ることになるけど、外部からの接触で起きれるらしいから、敵が来たら強めに叩いて起こしてね」

 

「分かった。まあ、ついでにゆっくり体を休めるといいさ」

 

 呆れた様に笑う若葉。ひとまず全員しばらくは自室で過ごすことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……呪い、か……)

 

 千景は自室で1人ゲームに耽っていた。もともと彼女は部屋にこもることもままあるため、特に支障なく過ごしている。

 

(……あの進化体は明らかに私を狙っていた。七人御先を使った私はより強く影響を受けるから? それとも……)

 

 千景自身今回の件までは知らなかったが、致命傷を受けて消えることなく分身が健在のまま戦闘を終えると、その後元に戻る際に体内に受けた影響は合算されるのだ。

 

 これまでにない敵の戦術に不安を募らせる千景。自分はここまで臆病だったか、とため息をついたところで部屋の扉がノックされた。

 

「千景、いるよなー?」

 

「千景さん、入ってもいいですか?」

 

「……土居さんに、伊予島さん?」

 

 珍しい来客に首を傾げながら扉を開ける千景。2人は笑顔で中に入ってくる。

 

「お邪魔しまーす。うわぁ、ゲームがいっぱい。杏の部屋の本みたいだな」

 

「えと、本とかお菓子とか持ってきました。一緒にどうですか?」

 

「……急に何を……ああ、伍代くん辺りに何か頼まれたの?」

 

 いきなりバレたことにビクッとする2人。

 何だかんだ長い付き合いになる相手だ。千景も察しはつく。

 

「ま、まあまあ、確かにそうだけどさ。この状況じゃ考えも煮詰まるだろ? 一緒に遊んでテンション上げようってことで!」

 

「迷惑、ですか? 千景さん」

 

 空笑いする球子とオドオドしながらこちらを見つめる杏。きっかけはどうあれ気を遣ってくれていること自体は、千景も嬉しかった。

 

「……そこまで言うなら、まあいいわ。あなた達とはあまりゲームしたこともなかったし、少し付き合ってもらおうかしら……」

 

 小さく笑う千景に2人も喜ぶ。珍しい組み合わせでゲーム大会が始まった。

 

(……高嶋さんや伍代くんだけじゃない。土居さんも伊予島さんも、他のみんなも……私が勇者だから出会えた仲間。何があっても私は勇者でいなくちゃ……)

 

 敵よりも呪いよりも怖いもの、『無価値な自分に戻ること』こそが千景にとって最も大きな恐怖の対象だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陸人は夢の中、何もない世界に三度足を踏み入れた。今回はアマダムもいない。ここの外から力を貸してくれるらしい。

 

(呪いを消すって言っても、何をどうすればいいんだ? その辺りアマダムは教えてくれなかったからな……)

 

 当てもなく歩く陸人。景色も足元も何も変わらず、方向感覚も距離感覚もおかしくなってくる。

 

 歩き続けてどれほどか、陸人は目の前に黒い光の球体を見つけた。

 

(これが呪いか……これをどうすれば消滅させられるんだ?)

 

 様子を観察していると、光が蠢き、徐々に人の形を作り上げる。

 それは年齢二桁にも満たない幼い体躯で、痛んだ髪は長く、体にはいくつもの傷が見えた。

 

「え? 君は……⁉︎」

 

 陸人はその姿を知っていた。忘れてはならない少女だった。

 

「久しぶり。すごく大きくなったね、4号」

 

「5号……!」

 

 陸人が4号と呼ばれていた頃、彼の1番近くにいた大切な仲間。

 5号と呼ばれていた少女との、7年ぶりの再会だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作読んでて特に胸が痛かった千景ちゃん編です。何とかしてどうにかしたいなぁ、と思っています。

七人御先についてはオリジナル設定です。もし公式設定と異なっていたりしたらスミマセン、ここではこうだと思っていただければ…

陸人くんの過去について、時系列はちゃんと書いてなかったと思います。
飼い主に拾われたのが2歳。
実戦に出たのが5歳。
仲間を失い雄介さんと出会ったのが8歳。
バーテックス襲来時点で11歳。

実は付き合いの長さで言うと、
伍代兄妹<勇者たち<5号たち
だったりします。

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