A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
伍代陸人の夢世界、再会を果たしたかつての仲間。
「君は5号……? それとも、幻のようなものなのか?」
「んー、どっちも正解、かな? もちろん私自身は死んでるからね、ここにいるのは幻だよ。この場所自体夢幻みたいなものだし……ただ私は、神の力があんたの記憶をたどって形作ったもの。だから4号の中の私自身、と言えなくもないのかも?」
「つまり君は今俺の中にある呪いそのもの、って考えていいのか?」
「うん、その認識で合ってるよ。それでどうする? 呪いを消しに来たんでしょ?」
「……今はかなり混乱してる。ちょっと話をしないか? どうするかはその後だ。どのみち方法も何もわからないしね」
「ふふ、相変わらず優しいね……4号は」
呪いが5号の記憶を写したのは陸人が強硬手段に出るのを躊躇することを見越してだ。それは陸人自身分かっている。だがそれでも、あまりにも自分の知る5号そのものである目の前の少女に何か危害を加えるような真似はできなかった。
千景は球子に連れられて市内の大型アウトドアショップを見て回っていた。
陸人が眠りについてから、ごく少数の戦力が仕掛けては来たものの、陸人を起こすことなく、連携なしの勇者たちだけで倒せる程度の小規模な戦闘だった。
そのためこうして多少のんびりする余裕がある。
「……土居さん、正直並んでいる品の区別がつかないのだけど……というか、楽しいの? これを見て……」
「えー? 千景も分かってくれないのかぁ。丸亀城で話ができる相手は陸人しかいないんだよな〜」
今日はお互いの趣味について教え合うという約束で遊びに出ていた。この後ゲームセンターにも行く予定だ。
千景は幸せそうな球子を苦笑しながら眺めている。理解はできそうにないが、本人が楽しいならそれでいいかと思えるくらいには彼女も丸くなったのだ。
「じゃあこの機会に興味を持ってくれ! これからまた壁外調査みたいに野宿することもあるかもしれないし……そうだ、何か1つタマがプレゼントしてやろう!」
「……いいわよ、貰っても使わないし。買ってもらうのは悪いわ……」
「いいからいいから、杏たちにも広めるためにちょっと前から女子ウケのいいものを考えてたんだ。タマに任せタマえ!」
「……なら、この後のゲーセンで、何か1つ景品を取ってあげるわ……プレゼント交換、というんでしょう?」
「おお、いいなソレ! ならタマもいい奴選ばないとな〜」
丸亀城での暮らしも3年以上。千景も女子らしく、学生らしい常識にも染まって来た。
元々球子は出会った当初から千景を気にかけていた。千景が遠ざけることをやめれば自然と距離は縮まっていく。
(……もっと早く、私が気づいていれば。今からでも遅くはないのかしら……)
「そっか。4号、外の国の人だったんだ。確かに1人顔立ち違ったもんね」
「ああ、今俺がいる国で、日本って言うんだ。まあ世界中が大変でさ……前いたところはどうなってるかも分からないんだけど」
陸人と5号の話題は尽きない。時間の感覚もない世界で、思い出を語り、5号が死んでからの陸人のことを話す。陸人の記憶である彼女は全て知っていることだったが、それを表に出すことなく和やかに会話が続く。
陸人は意識して本題に入るのを引き延ばしていて、そのことに気づいている5号もそれに合わせていた。しかしいつまでもそうしてはいられない。幸せな夢の中で生き続けるには、陸人は外に大切なものを作りすぎた。
「4号、私はどうすればいいのかな? あんたはどうすればいいと思う?」
「……5号が俺の中の呪いなら、君を消す必要があるんだと思う。話しているうちに気づいた。多分戦う時の感覚で神樹様の力を使えば呪いは消せる」
「そう……じゃあ済ませちゃおうか。いつまでもここにいるわけにはいかないもんね、4号は」
「どうしてだ? どうして平然としていられる……消えるんだぞ! あんな歳で死んで、俺の記憶の中でかろうじて存在してる今の君が消えればどうなるのか……」
陸人は決断できなかった。この時間が幸せだったから、どんな形であれ唐突に別れた仲間と再会できたことが、望外の喜びだったから。この時間を失うことが怖かった。許されるならずっとこうしていたいと願ってしまっていた。
「う〜ん、そうだね……今までのあんたと一緒だよ。私にとって1番大切なのは、4号の願いだから。どうせ死んだ私のことよりもね」
陸人の記憶に人格を与えられた今の5号は、陸人のこれまでを全て知っていた。今を生きる命でありながら、他人を守るために全てを懸ける。そんな彼の中にいた5号もまた、全てを捨てる覚悟ができていた。
「私は……私たちは何もできずに死んでいった。名前も無く、何も残せず、何も守れず……だからせめて、生きていてくれたあんたのために何かしたいの。私たちが死んだことには何か意味があったって、そう思いたいの……お願い、4号」
そう言う5号は泣いていた。ありえない形で人格を手に入れたことで、幼い心で耐えるには残酷すぎる運命を理解してしまったのだ。
翌日、千景は杏の部屋にいた。先日共にプレイしたゲームのノベライズを持っている、と杏が千景を誘ったのだ。
「これです。私はゲームの展開は昨日初めて知りましたけど、小説版もまた違ったストーリーで、楽しめますよ!」
「……ありがとう。こういったものには手を出したことがなくて。興味はあったんだけど……」
「これが気に入ったら他にもオススメありますから、言ってくださいね」
自分の趣味の話になると相変わらず杏は熱い。基本受け身な千景相手ではその方がいいのかもしれないが。
人に本を薦めることがそんなに嬉しいものなのかと首をかしげる千景。先程から杏は実に上機嫌に見える。
「えへへ、実は前から千景さんは読書向きだと思ってたんですよ。集中力があるし仮想の世界にのめり込めるのはゲームも本も近いものがありますし……」
杏は照れ臭そうに頬をかく。球子と同じく趣味の話で盛り上がれる相手が欲しかったようだ。
「……そうね。なら、これからも時々ゲームに付き合ってもらうっていうのはどうかしら? 私もあなたのおススメ、読んでみるから……」
らしくないことを言った、と千景は慌てて口を手で覆う。しかし吐いた唾は飲み込めず、瞳を輝かせた杏が目の前に迫ってくる。
「いいんですか⁉︎ じゃあ趣味の共有ですね! やったぁ……タマっち先輩は本を睡眠導入剤としか思ってないし、陸人さんはあまりに多趣味だし……そう言ってくれて、凄く嬉しいです!」
楽しそうな杏につられて千景も笑う。最近笑うことが増えたかな、なんて考える。
(……私の言葉でこんなに幸せそうにしてくれる。きっとこれが、友達、なんでしょうね……)
千景は幸せを感じていた。これまで遠ざけてきた2人との交流は、わずか数日で千景の心の奥にまで届いていた。友奈や陸人には及ばずとも、大切な存在だとはっきり自覚するほどにまでなっていた。
だからこそ許せなかった。何も知らない外野の分際で、彼女たちを悪く言う市民の書き込みが。
「勇者は無能」
「守れてねえじゃん、仕事しろよ」
「土居と伊予島って勇者は負けて戦えなくなったらしい」
「なんだそりゃ、それでも勇者様かよ」
ずっと人に勇者と崇められることで自分の価値を確立してきた千景にとって、どんな小規模な声であってもその存在感は絶対だ。それが勇者のこと、特に戦線離脱を余儀なくされた球子と杏に悪意を向けている。大社の情報統制が不完全だったのか、身勝手な想像も交えてかなり言いたい放題になっている。
(……戦えない2人が……伍代くんを守れなくなった2人が、どんな気持ちでいるのかも知らずに……!)
球子は自分への怒りを未だに持続させている。杏はいつでも心のどこかで陸人を心配している。千景でさえ分かるほど、深刻な心境なのだろう。
(……なんで、こんなものを守るために、私たちが……!)
穢れの影響もあり、これまで最も勇者であることに拘っていた千景の心に"戦う意義"への疑問が生まれてしまった。
陸人はまだ迷っていた。それでも5号の言葉には聞き流せないものがあった。目尻の涙を指で拭い、その小さな体を抱きしめる。
「そんなこと言わないでくれよ。自分たちの死が無意味だったみたいに……」
「だって、私たち……」
「色々なものを見て、色々な人に会って、それでも……俺は今でも信じてる。意味なく死んだ人は、いないって……」
命が生まれたからには生きている意味がある。それと同時に命の終わり、死ぬことにだって必ず意味がある。陸人はそう信じて生きてきた。
「俺が今まで生きてられたのは、みんなと過ごした時間があったから。みんなが生きていた世界だったから……俺がこれから何をやり遂げても、それは振り返れば全部君たちのおかげなんだ」
伍代陸人の始まりは5号たちのおかげ。クウガが守ってきたものは彼らや雄介、みのりたち死んでいった命のおかげなのだ。
「俺が生きて、戦って、守って……証明してみせる。みんなが生きていたってこと、あの時間に意味があったことを……」
そう言って陸人は5号から離れる。彼女は涙を流したまま、笑顔とも泣き顔ともつかない表情で陸人を見つめる。
「ほんとう?」
「ああ、本当だ」
「……私たちに、意味があったの?」
「あったよ。これまでもこれからも、俺がそれを証明する」
「そっかぁ……私、ただ死んだわけじゃなかったんだね」
その瞬間、5号の体が光を帯びる。最初の黒ではなく、眩しく輝く白い光を。
「これは……⁉︎」
呪いの黒を希望の白が塗り潰す。陸人は記憶に人格を持たせた歪な5号の心を救ってみせた。呪いでしかなかった彼女に希望を与えることで、存在そのものを変質させた。
陸人の偽りのない信念と、それを受け取った5号の陸人への想いが起こした誰も知らない奇跡。天の神もアマダムも予想できなかった展開だった。
状況を理解できずに固まる陸人に、自分に起きたことを感覚でおおよそ把握した5号が優しく告げる。
「大丈夫、私はもう呪いじゃない、あんたの中の希望の一部として、ずっと一緒にいる」
「5号?」
「こうして会える機会はもうないかもしれないけど、私は1番近くにいる……ずっと4号を見てるから」
「そうか……ありがとう、5号」
なんとなくしか分かっていないが、5号の言葉を聞き届けた陸人は礼を言って立ち上がる。この時間はもう終わりだ。
「……ねえ、今は『陸人』って名前なんでしょ? せっかくだから私にも名前つけてくれない? 陸人と並んで違和感がない、日本の名前がいいかなぁ」
最後の最後に少女のワガママ。陸人は苦笑して頭をひねる。
「……そうだな。じゃあ、『
「……海花?」
「海のような大きな心を持って、花のように美しく咲き誇る……後は、俺の名前と並べてなんとなく綺麗かな、って思ったんだけど」
「うん、とっても素敵。私は海花、海の花……ありがとね、陸人」
「こちらこそありがとう。どんな形でも、また会えて本当に良かった」
「うん。私、見てるから……陸人がどんな選択をしても、私は受け入れて、ずっと一緒にいるから!」
「ああ、行ってきます……海花」
「うん……行ってらっしゃい、陸人」
空間全てが光に包まれる。陸人も海花も、最後の一瞬まで互いを見つめ続けていた。
陸人が自室で眼を覚ます。時計を見ると眠りについた日から4日経過していた。
──悪くない時間だったようだな。貴様の中に呪いはない。そして何故だか、穢れに打ち勝つ力……貴様自身の希望がより強くなっている──
(ああ……俺の仲間が、一緒に戦ってくれるんだ)
陸人は状況を把握しようと部屋を出る。アマダムの力で穢れの反応を確かめた時、異常に気づく。
(──っ⁉︎ かなり遠くで穢れが増大し続けている……これは、千景ちゃんか!)
──私も貴様に集中していたために気づかなかった……この量はマズイぞ──
天の神の計略は半分失敗した。クウガを黒に染めることはできなかった。しかしもう1人のターゲット、千景は今まさに敵の狙い通りに追い詰められていた。
当初は5号再登場の予定はありませんでしたが、ああも半端な出番のオリキャラは流石にちょっと……ということでここに持ってきました
一方千景ちゃん、原作で彼女を追い込んだ最大の一手は死んでしまった2人への侮辱だったと私は思うわけです。なのでここではその2人と親交を深めてみました。
天の神の呪いについて
本来は人の心の暗い部分、特に精霊の負荷で発生する穢れに強く結びつくものですが、アマダムと陸人くんが精神世界で戦おうとしたため、呪い自身が己を守るために大切な人の記憶と融合することにしました。
あの海花ちゃんは存在自体は呪いですが、人格含めて陸人くんの記憶の中の彼女そのものだということです。その人格が救われた結果、呪いという存在でしかない彼女は希望へと変化することができました。
改めて書いてもうまく説明できない……描写力に見合わない設定作っちゃってすみません。
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに