A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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前話もそうでしたが、原作の鬱な描写は少し控えめに、状況がわかる程度に抑えていきます。私の心がもたないからです。

そういった部分の分量を控えたため、なんだかあっさりした印象を受けるかもしれません。物足りなかったりする人は原作を読みましょう。




七章3話 凶刃

 呪いを受けてからの千景はひどく不安定になっていた。

 球子や杏たちが一緒の時は確かに笑顔を見せていたが、1人になると自分の中の弱気や恨み言が噴出してくる。

 

 ガドルとの戦いで感じた恐怖、仲間たちへの友情、市民たちへの怨嗟、自分への不安。いつも自分を癒してくれた友奈や陸人とも会えずにいる現状、千景は他者への攻撃性を無意識に高めていた。

 

 千景の不安定さを知った大社は家族を香川に呼びよせ、共に過ごさせようと考えた。千景は乗り気ではなかったが、こんなことで大社に逆らう気にもなれず、家族を迎えに地元に戻った。

 

 そこで千景は予想外の出迎えを受けてしまう。

 

「あんたたちのせいで死人が出た」

「私たちの生活を守れ」

「勇者になっても相変わらず愚図」

「ちゃんと戦え、役立たず」

 

 家に貼られた張り紙、憔悴する父、出会う住民たちの声……何も知らない無責任な一般市民を守ることに疑問を抱いていた千景の怒りは頂点に達しつつあった。

 

「土居と伊予島ってのは戦えなくなったんだろ? あのクウガとかいうチヤホヤされてたガキも大負けしたとか……勇者の義務も果たせねえのかよ」

 

 それはダメだった。1番辛い思いをしている球子と杏、そして誰よりも無理をしている陸人を貶すその声に、とうとう我慢できなくなった。

 

 千景は勇者の力を纏い、携えていた鎌を抜きはなち──

 

 

 

 

 

 

 

「千景ちゃん‼︎」

 

 目の前の男性に刃が当たる直前、高速で割り込んできた青がその鎌を止めた。クウガのロッドと千景の鎌が何の力も持たない一般市民の鼻先で火花を散らす。

 

「……伍代くん……」

 

「千景ちゃん、落ち着いて……」

 

「……そこをどいて。こんな奴ら、守る価値はない。私たちは命をかけて戦ってる……文句があるなら同じように命をかけるべきよ……」

 

「ダメだよ、千景ちゃん。君は今呪いに侵されて思考がおかしくなってるだけだ。鎌を離して……」

 

「土居さんも伊予島さんも、こんな奴らのために必死に戦ってきたの? あなたも、ボロボロになって守った挙句がこれ? 私はそんなの許せない。勇者は、私が勇者でいたのは、なんのために……」

 

「千景ちゃん!」

 

「どきなさい、クウガ!」

 

 呪いの効果がさらに膨れ上がる。陸人に武器を向ける程にまで錯乱し始めた。市民から引き離しながら防御に徹するクウガ。千景の攻撃はどんどん激しさを増していく。

 

 大振りの一撃を捌き距離を開けるクウガ。彼はそこで遠巻きに様子を伺う市民の目に気づいた。

 

(このままじゃ、この場を納めても……)

 

 一瞬考え、陸人は変身を解除した。予想外の行動に千景は困惑する。

 

「……どういうつもり?」

 

「これは勇者の内紛なんて大げさなものじゃない、友達同士のありふれたケンカだ!」

 

「……あなたは、なんでいつも!」

 

 再び斬りかかる千景。その勢いは間違いなく衰えている。

 陸人は大社の無感情な対応を予想していた。市民の声があれば、千景の勇者資格剥奪くらいはやりかねない。少しでも後の影響を小さくできれば。そんな焼け石に水程度の考えで彼は生身で勇者に挑む愚行に出た。起きてしまった問題を少しでも小さく納めるために。

 

 千景は躊躇していた。陸人の身体能力はこの数日で飛躍的に上昇していた。攻防はやがて千日手になり、互いに息を荒げ疲労を隠せなくなってきた。

 

 生身ゆえに体のあちこちが傷付いていく陸人と、いつもの精彩を欠き、不安定な戦い方に限界を迎えつつある千景。そんな様子を見ていたからか、先程千景に刃を向けられた市民の1人が愚かなことを考える。

 自分でもあの錯乱した勇者を撃退できるのでは、と。

 

(何が勇者だ、あんなガキに……!)

 

 実に愚かなその軽挙が状況を最悪に追い込む。

 

 

 

 

 

 

「うあああっ! ────これは……⁉︎」

 

「まさか、神樹様? ──まずいっ‼︎」

 

 千景が踏み込んだ瞬間、彼女の勇者装束が霧散。制服姿へと変わる。千景を止めるため、陸人を守るために、神樹ができれば避けたかった強硬手段に出たのだ。しかしあまりにもタイミングが悪い。

 

 次の瞬間、陸人の視界に異物が飛来してきた。

 冷静さを欠いた市民の1人が、掌ほどの大きさの石を拾い千景に全力で投げつけたのだ。

 普通の少女でしかない今の千景に当たればただでは済まない。陸人が仲間の危機を放っておくことなどできるはずもなく。

 反射的に身を翻し無理な体勢で石をキャッチする陸人。その身は完全に無防備を晒していた。

 

「──ガハッ‼︎」

 

「……ぁ……!」

 

 その予想外の行動に対応できず、千景は混乱したまま振り上げた鎌を止められなかった。陸人の腹部を鎌の刃が貫く。

 

 初めてバーテックスではなく人を刺した感触に呆然とする千景。

 恩と情を強く抱く陸人を傷つけてしまった。千景の視界が一気に暗くなる。

 

(……伍代くん、鎌が……あれは、私がやったの? 私が彼を……違う、私はそんなつもりじゃ……)

 

 放心し鎌を手放す千景。歯をくいしばる陸人は鎌が刺さったまま震える千景を抱きしめる。

 呪いの効果により湧き上がる穢れを気合いで無視して、ゆっくり言葉を紡ぐ。

 

 

 

「……千景ちゃん、落ち着いて……何も見なくていいから、目を閉じて……」

 

「……伍代、くん……」

 

「千景ちゃんが勇者にこだわる理由は、正直よく分からない……だから、今の千景ちゃんの気持ちも、きっと全部……正しく、は……理解してあげられないと思う……でも、それでも人を傷つける……のは……ダメだ……」

 

「……私は……」

 

 息も絶え絶えの状態で、それでも陸人は必死に言い聞かせる。少し失敗してしまった子供を宥めるように。

 

「どんな、理由であれ、千景ちゃんは……今まで勇者として、頑張ってきたんだ……今の世界は、その頑張りの結果だよ……千景ちゃんと、球子ちゃんと……杏ちゃんと、俺や友奈ちゃんたち……みんなで頑張った……結果が、今だ……」

 

 千景は放心状態で動けない。陸人は体の損傷で動けない。密着したまま震える声で対話は続く。

 

「……一時の感情に、任せて……力を振るえば、みんなの努力が、全部……全部無駄になる。"守るために"っていう……これまでの全てが間違っていたことになるんだよ……それだけは、絶対にやっちゃいけないんだ……」

 

「…………」

 

「千景ちゃんは、頑張ってた。千景ちゃんは……勇者だよ……誰が否定しても、俺たちは、それを知ってる……郡千景は、大切な友達で……勇者の一員だ……それだけじゃ、ダメかな……?」

 

 

 

 

 

(……こんな私を伍代くんは、みんなは愛してくれていた。なのに私は……)

 

 その言葉を聞いた千景がとうとう膝から崩れ落ちる。寄りかかるように抱きしめていた陸人も同時に倒れこむ。

 虚ろな目でそれでも自分を支えてくれた千景を見て、陸人はひとまず安堵した。

 

 

 

(……とにかく、ここを離れよう。大社に連絡して……)

 

 ──まさか、こんな時に……⁉︎ 急げ、面倒なヤツが来たぞ──

 

 アマダムが焦りを隠さず警告を飛ばす。それに反応するよりも早く、後方から荘厳な声が響く。

 

 

 

「偶然同じ地にたどり着いたのは僥倖だが、どうやら間が悪かったようだな……」

 

 

 神戸のキャンプ地で出会った軍服の男性。ガドルの人間態がそこにいた。

 

「……ガドル!」

 

 ──なぜ結界の中に……そうか、天の神め、次から次へと! ──

 

 ガドルは天の神からの侵攻指示を無視していた。弱体化した相手を狙うような真似は主義に反する。結界に向かうバーテックスを蹴散らすガドルを見て、天の神の方がとうとう折れる結果となった。

 

 両者は改めて契約を交わした。クウガと勇者との戦いに横槍を入れないこと。その代わりにガドルからもバーテックスの邪魔はせず、1つ実験に付き合うこと。それが契約の内容だった。

 

「本当に害意を消せば結界を超えられるとはな……器用なものだ」

 

 結果として天の神は限定的ながら結界を突破する術を得てしまった。個の意識が薄いバーテックスでは使えないものの、ここまで結界を分析できたという事実はまた1つ人類を追い詰める要素となる。

 

「やる気、か? ガドル……」

 

「……そうだな、俺を復活させた天の神への義理は果たした。ここからは好きにやらせてもらおう」

 

 ガドルは変身し、近づいていく。ずっと様子を伺っていた市民たちに。

 

「ガドル、何を……!」

 

「そこの勇者が挫けているのも、お前が傷ついているのも大元は大多数の愚かな人間どものせいだろう? つまりヤツらは俺の崇高な戦いを汚した。その報いは受けてもらう……!」

 

 ガドルは静かに怒っていた。結界を越えるのに時間がかかったが、陸人の気配を感じて感覚でその様子を把握していたのだ。

 陸人や勇者たちの在り方に敬意を抱いていた。この時代の人間というものに少なからず期待していた。そしてそれは裏切られた。愚かで醜い民衆の在り方に。

 本来なら弱者を相手にはしないのがガドルだが、そんな彼でさえ怒りを抑えられずにいた。

 陸人はそんなガドルを止めようと走り、千景はこの時ばかりは陸人よりもガドルに共感してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 腹部に刺さったままの鎌を力尽くで抜き、ガドルに振り下ろす。尋常でない出血量に、見ている千景の方が痛そうな顔をしていたほどだ。

 

「……なぜ止める? こんな命を守る必要がどこにある?」

 

「命の価値を決めるのは他の誰でもない、自分自身だ! だから守る、それだけだよ……!」

 

「そうか……こんな形でお前を倒しても意味がないのだがな!」

 

 陸人の体が弾き飛ばされるのと同時にやっと樹海化が発生。内部に侵入されるという事態に神樹の対応も遅れてしまっている。

 

 

 

 ゆっくり陸人に近づくガドル。そこにクウガを追ってきた若葉たちが乱入する。友奈は球子を、歌野は杏を抱えている。

 

「ぐんちゃん! りっくん!」

 

「球子と杏は2人を頼む! 行くぞ、友奈、歌野!」

 

「ラジャー! とはいえ、ガドル相手にどうしたものかしら」

 

「陸人! おい陸人!」

 

「この傷、この鎌……千景さん……?」

 

 戸惑いながら体制を整える勇者たち。ガドルは手を出すことなく眺めていた。

 

(クウガがああなっては、今回は期待できんな。共鳴なしの勇者だけではどれほど意志が強くても俺には及ばん)

 

 それは若葉たちも同じく懸念していた。かろうじて立てていたガドル対策はクウガを中心としている。こんな形で離脱してしまうともう打つ手がない。

 

「……今回倒すことは考えるな! 何とかして壁の外に押し返すんだ!」

 

 具体性がない無理難題を言い放つ自分に呆れてしまう若葉。千景と陸人以外の3人はもともと呪いの影響も小さく、この4日で完治していた。しかしクウガを欠いた連携でガドルを倒せるかと言われると不可能に近い。

 だが、どれだけ敵が強くても逃げるわけにはいかない。後ろには市民と、何より動けない仲間がいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 球子が陸人を抱え、杏は千景と鎌を回収して障壁を展開した。

 杏が気休め程度の応急処置を陸人に施す間、球子は千景に詰め寄っていた。

 

「千景、お前! 何でだよ……何でお前の鎌に陸人の血がついてるんだ!」

 

「…………」

 

 千景は何も答えない。球子の怒りはもっともで、殴られるのも怒鳴られるのも嫌われるのも当然だと思っていた。

 球子は許せなかった。この数日で少しは千景を理解できたと思っていたこともあり、余計にこの惨状を認められなかった。

 

「なんとか言えよ、千景!」

 

「……まっ、て……球子ちゃん……」

 

 千景のだんまりに我慢できなくなった球子が腕を振り上げたところで弱々しい声が発せられる。呼吸も不安定になっている陸人だ。出血と穢れの相乗効果でどんどん顔色がおかしくなっているが、目だけは変わらず力強く仲間を見ていた。

 

「……千景ちゃんは、悪くない……タイミングが悪かった、ただの事故、みたいなもので……」

 

「陸人さん、喋っちゃダメ! お願いだからジッとしてて……」

 

 千景は事ここに至ってまだ自分を庇う陸人に驚愕していた。球子は自分を大事にしない陸人に怒っていた。杏は傷つき続ける陸人を見て泣いていた。

 そんな彼女たちを見て、陸人は決断する。

 

(……アマダム、やれるか?)

 

 ──できるできないで言えば可能だ。しかし、本当にいいんだな? どうなっても──

 

(ああ、クウガ抜きじゃガドルには勝てないし。なにより……)

 

 ──なにより、なんだ? ──

 

(千景ちゃんの前でいつまでもこの傷に苦しんでるわけにはいかないでしょ……大した事ない、って笑ってあげるくらいじゃなきゃダメだ)

 

 ──もうどうしようもないな、貴様は。よかろう、近くで見ていてやると、そう言ったのは私だからな……! ──

 

 ベルトを現出。アマダムの力が解放される。するとあっという間に傷がふさがってしまう。痛みは消えていないが、出血も収まった。これなら戦える。

 

「……へへ、いよいよ人間離れしてきたな……」

 

「……陸人、さん?」

 

「おい陸人、まさか行く気じゃないだろうな⁉︎」

 

 止めようとする2人の口に指を当てる。いつもと違う陸人の雰囲気に、それだけで球子と杏は続く言葉が出てこない。

 

「千景ちゃん……」

 

「……伍代くん?」

 

「勇者だの巫女だのクウガだのって……必要だから仕方なく従ってきたけど、本当は誰かが誰かに強くあることを強制する権利なんてないんだよ。人にも、神様にだってね」

 

「……でも、私は……」

 

「ここにいて。千景ちゃんがそのままで……勇者じゃない、『郡千景』のままでいられる時間は、俺が守るから」

 

「……伍代くん、なんでそこまで……」

 

「千景ちゃんが自分を嫌いでも、俺は千景ちゃんが大好きだから。できれば俺の好きな人を、君にも好きになって欲しい……笑っていてほしいんだ。帰ったらまたうどん作るから……食べてほしいな」

 

 かつて千景の親友が自分にくれた言葉。それに救われたことを思い出し、今度は陸人が気持ちを伝える側に回る。

 陸人は直接黒の赤に変身。涙が流れる千景の頬に触れ、彼女の穢れをその身に移す。千景の内で蠢く呪いの効果と自分を追い詰め続ける精神状態が合わさって、尋常ではない量の穢れがクウガに流れ込んでくる。

 

「グッ⁉︎──アァ、オオオオッ‼︎」

 

 海花がくれた希望を支えに穢れを抑え込む。ほんの一瞬だけ、クウガの瞳が赤から黒に変化したことには誰も気づかなかった。

 

(すごい苦しいけど、なんだか力が湧いてくる……! これまでにない力が……)

 

 ──穢れがクウガの進化を促している。安定性は欠くが、確かに出力は上がるだろうな──

 

(これを制御できれば、ガドルとも戦える!)

 

 海花の希望がなければ踏ん張りきれなかっただろう。千景が球子と杏との交流で得た安らぎがなければ穢れが陸人の許容量を超えていたはずだ。

 しかし結果としてクウガは、ギリギリのところで穢れに飲み込まれずに済んだ。

 

「大丈夫、だから……見ててくれ」

 

 3人にサムズアップしてクウガは駆け出す。

 

 何があってもみんなを守る。それがクウガとして、伍代陸人としての全てだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




怪我の功名、とは少し違うか? 究極への一歩を踏み出しました。

原作では時間をかけて段階的に追い詰められていった千景ちゃんですが、原作通りの部分は端折る方針と、こういう展開を長く詳しく書くことができない私の未熟さゆえに短めにしてみました。

ちなみに天の神の狙い通りに勇者が呪いの影響下にある状態でガドルが来ていたらそこで詰みでした。閣下の誇り高さに救われた形です。さらに辿るとグロンギたちの完全制御を邪魔した遺跡の結界のおかげ。つまり……さすが雄介さん! ということです。描写が終わった後も株を上げていくスタイル。

感想、評価等よろしくお願いします

次回もお楽しみに
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