A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
なんとなく4話でまとめたくて、長くなりました。
初投稿から1ヶ月、自分でもここまで続くとは…これも読んでくれる、感想、評価をくれるみなさんのおかげです。これからもよろしくお願いします。
「ガドルゥゥゥッ‼︎」
「ホゥ……あの傷で戦おうとは、面白い!」
勇者たちを弾き飛ばしたガドルは突っ込んできたクウガを正面から受け止める。前回よりはるかに力が増している感触に小さく笑う。
「り、陸人! お前……」
「待って若葉。今はクウガに頼るしかないわ、お話は後よ!」
「……アレ? りっくん?」
「ウオオオオオッ‼︎」
友奈は陸人の様子に違和感を覚えた。戦闘時には基本理性的で連携を重視していた陸人らしくない荒々しい戦い方をしていた。
「……こちらはこの3分で押し切るしかない、行くぞ!」
「う、うん!」
その違和感は全員が感じていたが、今は何せ余裕がない。自分が合わせる形で連携を成立させて戦うしかないのだ。
(マズイ……戦いながら、どんどん意識が遠くなっていく!)
陸人は誰にも気付かれないように仮面の内側で焦りを募らせていた。
「……伍代くん……」
千景は涙を拭うこともせず、一心に戦闘を見つめていた。千景と陸人たちを交互にチラチラ見ながら双方を心配している球子と杏の様子にも気づかない。
(……私は見えていなかっただけ……ずっと欲しかったものは、とっくにみんなが与えてくれていた。勇者の力を失って、やっと気づくなんて……)
いつだか若葉に周りが見えていない、と偉そうに言ったことがあった。よくも自分を棚に上げてほざけたものだと自嘲する。
(私が抱えていた気持ちだって、他の勇者たちも同じく感じてた。みんなと私の違いは、ただそれを抱えたまま戦える強さがあるかどうか、それだけだった……)
恐怖、怒り、不安……そういったものに負けない強さが千景には無かった。バーテックスに狙われたのは、そのせいもあるのだろうと彼女の中の冷静な部分が自己分析を進める。
自己嫌悪に自己嫌悪を重ねている最中、友奈が戦場から大きく吹き飛ばされ、障壁の目の前まで飛んできた。
「──ったあ〜〜、やっぱり強いなぁ……あっ、ぐんちゃん! 大丈夫?」
「……高嶋さん……」
「よく分からないけど、今はちょっと戦えないんだよね? タマちゃんアンちゃんと一緒に隠れててね。私たちでやっつけてくるから!」
「……高嶋さんは、なんでそんなに強いの? なんで、あんな強い敵に立ち向かえるの?」
「う〜ん、なんでって言われると、ちゃんとした理由があるのかも分からないけど……バーテックスやあのガドルはさ、放っておくと私が大好きなものを壊しちゃうんだよ」
「……大好きな、もの……?」
「ぐんちゃん、私も怖くないわけじゃないんだよ。ただ私はこの世界に壊されたくないものがたくさんある。そう思えば、怖いけど勇気が湧いてくる……私は勇者だから! ぐんちゃんだってそうでしょ?」
「……勇気を出す、勇者……」
「とりあえず今はぐんちゃんやみんなを守るために、ちょっと行ってきます!」
友奈は再び戦場に駆ける。その背中に、自分にはなかったものを見た気がした。
(……怖くても、勇気を出す。それが勇者……)
陸人は無理に強くある必要はない、と言ってくれた。
友奈は自分の内から湧き上がる勇気を持って戦うのが勇者だと教えてくれた。
(……遅すぎるかもしれないけど……私も、みんなのように……!)
千景にだってある。戦ってでも守りたい……そう思える大切なものが。
(……ガドルはクウガを狙っている。今の伍代くんの体では……私のせいで、彼が……!)
千景は願う。陸人を助けるための力を。
(……神樹の神々……この一回だけでいい。勇者失格ならそれも受け入れる。だから今だけ私に、大切な仲間を守れるだけの力を……!)
神樹は何も答えない。千景に声は聞こえないし、聞こえたとしてもそう気軽に与えたり奪ったりできるほど神の力は軽くない。
(……当然よね。ならそれでもいい……私は私で、戦ってみせる!)
「あっ、千景⁉︎」
「千景さん、戻って!」
千景は鎌を握ると障壁を越えて走り出す。勇者の力がない身ではその大鎌は重かったが、千景はがむしゃらに走る。恐怖を越えて、勇気を出して。
千景の勇者服のモチーフは『彼岸花』
彼岸花の花言葉は"思うはあなた一人"
千景は世界のため、人類存続のため、そんな目に見えない広大なもののためには戦えない。
しかし彼女は、大切だと心から思える相手のためならいくらだって強くなれる。
千景は陸人のためなら勇気を出せる。陸人のためなら命を懸けられる。
伍代陸人のためになら、郡千景は勇者になれる。
その勇気に応える存在がいた。千景とともに戦ってきた相棒とも言える精霊『七人御先』だ。神樹の力を越えて勇者本人と強く繋がった精霊が大元である神樹の制御を抜け、千景に力を与える。
(……! そう、あなたは、こんな私にまだ力を貸してくれるのね……)
「ぐんちゃん⁉︎」
「千景さん無茶よ! ストップストップ!」
戦場に近づき、千景に気づいた仲間の制止の声を無視して飛び上がる。同時に千景は剥奪されたはずの勇者装束を身にまとう。
「はあああぁぁぁぁっ‼︎」
直前まで感じなかった神の力を持つ気配が唐突に現れた。クウガに集中していたこともあり、完全に不意をつかれたガドルは捌ききれずに鎌の一撃を受ける。
「フン、勇者も来たか……そうでなくてはな!」
「……私の大切なものを狙うあなたは、私が殺す……!」
「いいだろう、やってみせろ!」
「出し惜しみはしないわ……! 来なさい……『七人御先』!」
新たに現れた6人の千景とクウガ、若葉、歌野、友奈がガドルを囲み、同時に迫る。11対1の戦闘が始まった。
『……鏖殺してあげるわ……!』
勇者側の主力はクウガ。そのクウガの援護に3人の千景が付き、他の勇者にそれぞれ1人ずつ致命傷を避けるための盾として付ける。残る1人に安全地帯から全体を把握する役を任せる。七人御先の能力は集団戦に長けている。
1度に4人〜6人で攻めたて、押し返されたら交代する。暴走気味のクウガは千景が2人掛かりで引き剥がす。これがうまくハマり、ガドルを少しずつ消耗させていた。
(悪くない、どころか大したものだ。あの勇者もなぜか力が増している……クウガの中途半端な暴走をうまく制御して俺にぶつけてくるか)
ガドルは笑う。以前よりもはるかに自分を追い詰めている勇者たちに賞賛の念を抱きながら、その力に正面からぶつかる。それがガドルの戦い方だ。
七人御先は正しく千景の願いを聞き届けた。通常の勇者にあるリミッターのようなものを外したのだ。人が継続的に神の力を振るうための安全措置。それを外すことで一度に引き出せる力の上限を引き上げた。
千景は本来の力の根源である神樹から力を没収されている。今の変身が解ければ精霊と繋がることも2度とできなくなる。郡千景はこれから先の『勇者としての全て』を燃やして燃料にしているようなものだ。その覚悟が今、ガドルを驚かせるほどの力をもたらしていた。
(一度に相手をしていてはラチがあかないか。ならば……!)
ガドルの目が青く輝く。前回は見せなかった俊敏体の力を使う。その速度は圧倒的で、クウガ以外の全員が目で捉えることすらできなくなった。角状の棒を形成し飛び回る。
クウガも黒の青に変身。両者の速度は完全に互角。不可視の超高速戦闘が展開される。頭上を取り合い、背後に周り合い、棒で打ち合う。
クウガのロッドの刃がガドルの棒を真っ二つにする。すかされたような感触にクウガは驚き、ガドルは笑う。隙を作るためにわざと武器を捨てたのだ。空中で無防備を晒すクウガを蹴って吹き飛ばすガドル。クウガが体勢を立て直した時には射撃体に変身したガドルがボウガンを向けていた。
「──ッ! いけない!」
「歌野⁉︎ クソッ!」
その瞬間2人の思考を聞き取った歌野があらぬ方向に駆け出していく。若葉も直感でその後に続く。
「堕ちろっ‼︎」
「──ッ! ……ウオオッ!」
必中のタイミングで放たれた射撃を、さらに速度を上げたクウガが躱す。その動きは獣じみていて、やはりクウガらしくないものだ。
普段のクウガなら気づいただろうが、今の射撃は躱すべきではなかった。矢が飛んでいく先には球子と杏が隠れる障壁があった。
それに唯一気づけた歌野と、勘に頼って歌野を追った若葉がその身を盾に矢を防ぐ。ろくな防御もできず、2人は意識を失う。
「……乃木さん……!」
「歌野ちゃん‼︎」
その様子にも気付かず、クウガはガドルの足を斬る。これでガドルは速度をかなり封殺された。
「チィ……やるな!」
「グアッ⁉︎」
カウンターの拳でクウガが派手に吹き飛ばされる。手傷は与えられても、数的有利で押し込んでも、ガドルは純粋に強すぎる。
無理やり力を引き上げたクウガと千景についていくために、友奈は覚悟を決め、精霊『一目連』を解除する。
「来い! 『酒呑童子』!」
友奈が使えるもう一体の精霊『酒呑童子』他の精霊を大きく上回る破壊の力を持つ鬼の王。人が降ろすには過ぎた力ゆえに使用を禁じられた精霊を、友奈はここで解禁した。
「勇者ぁぁぁ……キィィック‼︎」
「ガッ⁉︎……フ、ハハッ!」
穢れを溜め込み力に変えたクウガ。未来を犠牲に力を底上げした千景。禁断の精霊を宿した友奈。
ここまでやってようやく勇者たちはガドルと互角にまで持ち込んでみせた。
千景と友奈の懸念は1つ。徐々に戦い方が理性的でない暴力的なものに変わっていくクウガのことだった。
一進一退の攻防が続き、黒の力の制限時間も近づいて来た。
「勇者ッ、タァックル‼︎」
2人分重ねられた鎌に足を置き、自身の脚力と千景×2の腕力を合わせた勢いで突撃する友奈。
「ムンッ! ……甘いぞ勇者‼︎」
「うわああっ⁉︎」
ガドルは正面から受け止め、踏ん張りきれずに数歩分後退しながらも友奈を真上に殴り飛ばす。
その飛ばされた先に2人の千景が飛ぶ。上向きの体制の千景と下向きの体制の友奈が足裏を合わせ、互いに膝を目一杯曲げて力を溜める。
「ぐんちゃん!」
「「高嶋さん!」」
『せーのっ‼︎』
2人分の体重と脚力で千景は友奈を真下に勢いよく飛ばす。
友奈は頭上から再びガドルを狙う。
「勇者ぁぁぁ……パァァンチ‼︎」
ガドルは背中から倒れるように体を落とし拳を避ける。そのまま体を回転させてオーバーヘッドキックの要領で友奈を蹴り飛ばした。
『捕らえたっ!』
2度の攻撃を凌ぎ、隙を晒したガドルを囲んで鎌で抑える5人の千景。五体を鎌で押さえ込まれて完全に動きを封じられたガドルの視界に走りこんでくるクウガが映る。
「ウオオオォォォ‼︎」
まさに必殺の一撃が入る、その瞬間──
あまりにも濃密な闇の気配にクウガは足を止める。本能に支配されつつあるクウガは、より強い存在に意識を向けてしまう。壁の外から気配を感じるのに、すぐ目の前にいるかのような重圧。圧倒的で絶望的な力の権化が降臨した。
「──ハアッ‼︎」
剣を生成して千景たちをなぎ払ったガドルは、隙だらけのクウガの胸に突きを入れる。
大きく吹き飛び、同時に制限時間が過ぎる。変身が解けた陸人は息も絶え絶え、内外から来る痛みに立ち上がることもできない有様だ。
そんな陸人にとどめを刺そうとする気配も見せず、ガドルは遠くに目を向ける。
「……ダグバめ、戻ってきたか」
「……ダグバ、ってことは……」
──そうだ。この気配、間違いない。奴らの頂点『ン・ダグバ・ゼバ』という存在だ──
「天の神と遊ぶのにも飽きたか、クウガが己に近づいたことに反応したのか……どちらにせよヤツの我慢が効くのもそう長くはないだろうな」
ガドルは陸人に向き直り、武器を捨てる。
「次だ……」
「……な、に?」
「次が最後の戦いだ。お前はその力を完璧に使いこなせるようになれ。力に溺れる者は、どれ程強くても戦士ではなく獣だ……だが俺も獣のお前に追い込まれたのは事実。次の戦いまでにこちらもさらなる力をつけて挑む」
この時陸人とガドルは同じ認識を持っていた。これで一勝一敗、次で決着をつける、と。
「これまでの俺を超えた『ゴ・ガドル・バ』と、これまでで最も強いクウガ……もちろん戦える勇者は全員連れて来い。最強のお前とはすなわち仲間と共にある時のお前だからな」
「ガドル……」
「傷を癒す時間も含め……10日後の日暮れ。今度はちゃんと空いている扉から、お前たちの本拠の方に入ろう。不意打ちのような真似はしない。元々契約したからここまで来ただけで、俺は結界の突破法などに興味はないのでな……」
「……それまで、誰も襲わないと誓えるか?」
「ああ。俺自身はもちろん、ダグバは面白いものが観れるといえばそのくらいは待つだろう。天の神は……まあダグバが表に出ている状態でそう派手には動けぬはずだ」
「……分かった。10日後、丸亀城……そこの樹海で決着だ」
「楽しみにしているぞ。クウガよ……」
ガドルは背を向け、壁の外に出る。
負傷した勇者も動ける程度に回復し、やがて樹海化も解除される。
同時に千景の勇者装束が霧散する。もう2度と千景がアレを使うことはないだろう。
「うっ! ──ぐぅ……ハァ、ハァ……」
「ぐんちゃん! 大丈夫?」
「……ええ、無理な力の使い方したからその反動が来ただけ……大した問題じゃないわ……」
「そっか、でも一応お医者さんに診てもらおうね」
力が入らない千景に肩を貸す友奈。友奈の方も酒呑童子の影響があるはずだが、千景が彼女の体に気を遣って一撃離脱の戦術を多用していたため、肉体への負荷はさほど大きく残っていないようだ。いつも通りの笑顔を見るに、短時間の使用に止められた分精神面の負荷も少なく済んだらしい。
一方陸人も球子と杏に支えられていた。こちらは体こそボロボロだが、変身していた時の荒々しさはなく、完全に普段の陸人に戻れている。
「陸人、なんか様子が変だったけど、大丈夫か?」
「うん。成り行きで得たものに頼り過ぎたね。力に振り回されたよ」
「それ以前に無茶をしすぎだよ……最初のお腹の傷だって本当はまだ痛いんでしょ?」
心配の声をありがたく聞きながら足を進める。若葉と歌野が先導し、7人は村の出口に向かう。住民たちの前を通るところで、陸人は2人に声をかけて止まり、彼らの前に出て頭を下げる。
「みなさん……今回は自分たちの対応が遅れてみなさんを危険に晒してしまい、申し訳ありませんでした。郡千景さんのことも……彼女が危険な行為に及びかけたのは事実です。ただ、アレは彼女の本意ではないんです。敵の精神攻撃で不安定になっていて。みなさんには見えないところで、千景さんは世界を守るために命懸けで戦ってくれたんです。そのことは、どうか分かってあげてください……お願いします」
そう言ってさらに頭を深く下げる陸人。住民たちにも言いたいことは山ほどあった。しかしそれでも、彼らの目に移った最後の光景、陸人が自分たちを庇って怪物に立ち向かうところを見ていたため、誰も何も言えなかった。
千景は振り返らず、しかし足を止めてその言葉を聞いていた。
その瞳から溢れる涙を、友奈は誰かに見られぬよう優しく拭った。
「……もういいだろ? 行こう陸人」
「さ、陸人さん。後から大社の人がくると思いますから、お話はそちらにお願いします。私たちはこれで、失礼します」
球子と杏に連れられてその場を離れる陸人。彼自身分かっている。今回彼らが静かだったのは自分たちがいたからだ。千景1人ならまた罵詈雑言、下手すれば手も出ていたかもしれない。
それでも今千景を傷つけるものが現れないこと、それが重要だった。
翌日のお昼時、当たり前のように完治した陸人は、うどんを持って千景の部屋に来ていた。
「千景ちゃん、一緒に食べよう!」
「……なんでもう治ってるのとか、なんで起きてすぐにやることが私にうどんを作ることなのとか、色々言いたいことはあるけど……もういいわ……」
陸人は樹海での約束をなるべく早く果たした。時間を置くと取り返しのつかないことになる。そんな気がしたのだ。
うどんをすすりながらゆっくり語らう陸人と千景。
「……調べてもらったけど……やっぱり私はもう勇者にはなれないって。力を没収された直後に裏技みたいなやり方で強引に精霊を使ったから。もう神の力を宿せないくらいに私の心と体は弱ってしまったらしいわ……」
「そっか……」
「……でも私、別に後悔はしてないわ。むしろ誇らしく思ってる……」
「え?」
「……あそこで限界を超えた力を引き出せたから、私たちは今生きている。私の力でみんなを守ることができた。それだけで私が勇者として戦ってきたこれまでの全てが報われたような……そんな気分なの……」
「そう、なんだ……うん、そう思えるようになったなら良いことだと思うよ。昨日の戦いもそれ以前も……千景ちゃんがいて、みんながいて、全員で全員を守りあって俺たちは戦ってきたんだ」
「……ただ、もうあなたを守れなくなってしまったのは悔しいし、申し訳ないわね……」
そう言うと千景は深く頭を下げる。
「……伍代くん、本当にごめんなさい。たくさん、たくさん迷惑をかけて……私はもう恩返しもできなくなった……」
「何言ってるのさ、俺たちは変わらず仲間で友達だよ。これからいくらでも俺が千景ちゃんに迷惑かけることも、頼ることもあるよ」
「……伍代くん……」
「戦えなくなっても千景ちゃんは勇者だし、戦えなくても友達を助けることはいくらでもできるさ。ほら、前に教えたでしょ? 友達に助けてもらったら、なんて言うんだっけ?」
子供に言い聞かせるような陸人の言い方に脱力してしまう千景。どこまでも自分のことを手のかかる友達としか見ていない目の前の異性に、喜んでいいのか落ち込めばいいのか……千景は少し顔を赤らめて、それでもまっすぐ陸人の目を見つめて口を開く。
「……えっと……助けてくれてありがとう、伍代くん。あんなことの後でも私のことを大好きだと言ってくれて……本当に嬉しいわ……」
千景は笑って感謝を伝える。今はそれでいい。陸人にとって『友達』とは、『何より大切な人』という意味なのだから。
陸人も笑う。千景の笑顔を取り戻すことができた。その笑顔こそ、陸人がなんとしても守りたかった幸せの1つだった。
夕食の時間、呪いの問題も解決し、久々に食堂に集う勇者たち。さらなる脅威の出現こそあったものの、ガドルに事実上の勝利を収めたこともあって、今日くらいはとみんなで小さな祝勝会のように賑やかに楽しむ。
『カンパーイ!』
ジュースのグラスを合わせる9人。その中身を口に含んだ時、陸人だけがおかしな反応を見せた。
(……なるほど、今度は味覚がなくなったか)
「どうかしましたか? 陸人さん」
「いや、久しぶりに炭酸飲んだなぁって……なんでもないよ」
陸人の誤魔化す演技も上達してきた。相手を選べば隠しきれるだろう……気づいたのがひなた以外であれば……
(陸人さん……?)
「……ふう……」
自室に戻った千景はベッドの脇に縮こまって座る。改めて仲間たちに謝罪し、新たな気持ちで彼らと楽しい時間を過ごした。
(……みんなは私を私として愛してくれる。それだけで、私はこれ以上なく幸せなんだわ……)
立ち上がり机に並ぶ宝物を手に取る。
手作りの卒業証書。球子が選んでくれた小型のランタン。杏が布教用として譲ってくれた小説。仲間と撮った写真。
そして友奈にもらった押し花スタンドと、陸人がくれた押し花のしおり。
これだけあれば千景はそれでいい。心から守りたいと思える揺るぎない『大切なもの』を、彼女はやっと見つけられたのだ。
「……ふう……」
食事を終え、陸人は自室のベッドに倒れこむ。味がしないものを美味しそうに食べるというのは、案外疲れるものだ。
(アマダム、ありがとね……)
アマダムからの返事はない。だが陸人はアマダムが尽力してくれたのを確信していた。
花見の約束を終えた翌日に色覚を消失。
料理の約束を叶えた直後に味覚を消失。
これを偶然で片付けられるほど、陸人は運命論者ではない。アマダムがせめて約束を叶えさせるためにと、反動の作用を全力で押さえ込んでいたのだ。
忠告を無視し続けても変わらず力を貸してくれる相棒に、陸人は改めて感謝していた。
一方アマダムは、陸人の感謝の言葉に何も返せなかった。陸人に真実を告げることができなかった。
黙り込むアマダムに、疲れてるのかな? などと考えながら、陸人は机の上の写真に目を向ける。
初陣の後に撮った最初の丸亀城の7人の集合写真と、歌野と水都が合流した9人が写る新しい写真。
(ギリギリだったけど、今回も全員で生きて帰れた)
陸人にとって何より大事なのはそれだ。
これからも守りぬくためには、今回得た穢れの力を使いこなす必要がある。
明日からの鍛錬に改めて意気込む陸人。そこで写真の隣に並ぶもう一つの写真立てが目に入る。
千景と友奈とやった押し花会で千景にプレゼントされたヤドリギの押し花。大切な友達にもらった大切なもの
……であるにもかかわらず。
「……ん? これ、なんだっけ?」
陸人は初めて見たような反応をする。陸人視点、これが自分のものなのか、どういう経緯で手に入れたものなのか、まるで分からない不思議なものでしかなかった。
(俺の誕生花で、ここにあるってことは、知り合いからの贈り物? こんな素敵なプレゼントのこと、忘れるなんて……)
自分に疑問を抱くも、疲労に抗えず眠りに落ちる陸人。目覚めた時にはこの疑問すらも忘れているかもしれない。
アマダムとの融合が進むたびに、戦いに不要なものは捨てられていく。
色覚は戦う上で必要ない。
味覚もまた戦闘時には使わない。
そして、
忠告をことごとく無視して突っ走るやんちゃ息子の願いを守るために何も言わず全力でフォローするアマダム様マジオカン……おかしいなぁ、最初は舞台装置に近い扱いになるかもと思ってたのに。
いつの間にかすっかりキャラ立ちして知恵袋兼全ての秘密を共有する相棒という美味しすぎるポジションを獲得していた……というか私の中でどんどん好きになって来てるな、アマダム様。
『限界』を超えた千景ちゃんの最後の戦い。
人として生きることの『限界』が近づいてきた陸人くん。
今回のサブタイはその二つの意味がこもっています。
……こんな風に明記すれば誰か感心してくれるかなぁ、なんて思惑であとがきを汚すダメ作者です。スミマセン。
何が言いたいかというと……
感想待ってまーす!(懇願)
八章もまだ出来ていないので少々お待ちください。
次回もお楽しみに