A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
通販の遅れやらまとまった時間が取れなかった私の予定やらで遅れに遅れましたが、やっと勇者の章のBoxを堪能しました。
本編を見直し、満開祭りやPCゲームもチェックしました。素晴らしかったです。アニメのBoxを買ったのは初めてでしたが、大満足の品です。
まだの方はぜひ!(久々のダイマ)
結局陸人は他の仲間には秘密で通すことを譲らなかった。ひなたも折れてフォローに回ることを決める。
アイコンタクトが多くなった2人に、水都は何かに気づいたようだったが、何も言うことはなかった。
フォロー役がついたことで、陸人もみんなと共に食堂で食事をとるようになった。
「じゃあ今日は陸人は大社の方で修行するのか?」
「うん。神様の力への適性を高めるためにってことで、試しに巫女の修行に混ぜてもらうことになってる。何をするものなのかな?」
「精神修行と座学が主です。私も水都さんも他の巫女の方ほどの経験はありませんが……」
「やっぱり印象的なのは滝行かな。私やひなたさんは神樹様の加護が強いのかそれほどきつくはなかったけど……」
「みなさん滝行の時は憂鬱そうにしてますものね」
「滝行か。やったことないなぁ」
「……あれ? ちょっと待ってください、巫女の滝行って白装束ですよね? 濡れると透けちゃうような……男女で一緒にやるんですか?」
「えっ……そうなの?」
「ああ、そういえばそうでしたね」
「さ、さすがにその辺は配慮されてるんじゃないかな」
意味ありげに陸人を見つめるひなたと恥ずかしそうにチラチラ視線をよこす水都。陸人はその空気に耐えきれずに話題を変える。
姦しく話す勇者たち。友奈はそんな仲間を、特に陸人を注視していた。
(……りっくん、相変わらず調子悪そうだけど、ちょっと落ち着いてる? ヒナちゃんと水都ちゃんが何かしてくれたのかな)
友奈は水都のような感性もひなたのようなコネクションもない。それでも陸人の様子に確かな違和感を覚え、どうするべきかを考えていた。
ひなたと水都に案内されて、陸人は大社本部、巫女たちの修行場に到着した。
「……えっと、失礼します。伍代陸人です」
恐る恐る入室すると、すでに揃っていた巫女たちがワッと沸き立つ。
「キャー! 生伍代様だ」
「意外と線が細いのですね。普通の同級生に見えます」
「あの人がクウガになって戦うんだもんね……すごいなぁ」
陸人は本部付きの巫女とは真鈴を除いて関わりがない。たまに来るひなたたちが話題に出し、大社内の活躍の噂も加わりまるで芸能人のような扱いになっていた。
「やっほ、陸人くん」
「あ、真鈴さん。あの、なんか内緒話されてるんだけど、やっぱりいきなり来て迷惑だったかな?」
「あー、気にしないでいいよ。ひなたちゃんと水都ちゃんがしょっちゅう話すもんだから、勇者様たち……特に陸人くんと若葉ちゃんと歌野ちゃんは大人気なの」
よく見るとなんだか顔を赤らめて目線を向けてくる巫女もいる。視線の圧に押されて困った顔でなんとなく手を振ってみる……さらに沸き立ち収拾がつかない。
遠巻きに眺める巫女たちの中から2人の少女が陸人に近づいて来る。正確に言うと1人が1人の腕を引っ張って来ている。
「あの、伍代様……私、三ノ輪奈々言います! よろしくお願いします! ほら実加ちゃんも」
「……あう、引っ張らないで……」
「伍代様にお礼が言いたいって前に言うてたやん! こんなチャンスもうないで!」
「……えと、はじめまして、鷲尾実加といいます……」
陸人には意識して微妙な標準語で挨拶をした、関西弁の少女とおどおどと目を合わせようとしない少女。
ひなたよりも年少に見える2人の巫女。なにやら陸人に伝えたいことがあるようだ。
「えーと、伍代陸人です。多分初対面だと思うんだけど、お礼っていうのは?」
「この子、侵攻の時にお父さんが愛媛にいて。クウガに助けてもらったって……な?」
「はい、父を助けて頂いて、本当にありがとうございました。父も深く感謝しております」
「そっか、お父さんはお元気?」
「はい、変わりなく働いています。伍代様にお会いできると話したら、お礼を伝えてくれと……」
「なら良かった。当然のことをしただけだから、鷲尾さんもお父さんも気にしないでいいよ」
「いえ、そんな……」
「ひなたさんたちから伍代様や勇者様のことはよく聞きまして……いつも守ってくださり、ありがとうございます」
2人が頭を下げると、奥で見ていた巫女たちも続くように頭を下げる。陸人は困ったように笑うしかない。
「そんな風にお礼を言われるのは嬉しいけど、俺はそれほど大したことしてるわけじゃないんだ……俺たち以外は戦えないのと同じように、みんなにしか神樹様の声は聞けないわけだし……適材適所ってやつだよ。大変な時代だけど、お互いに助け合っていこう」
それだけ言うと気まずくなったのか陸人は部屋の隅に逃げた。
「本当に優しい方なのね」
「勇者様ってもっと偉ぶった感じかと……大社のお偉いさんみたいに」
「ひなたさんたちが言った通りの人だったねー」
概ね好感触だったようだ。
「陸人さんは多くの人の希望となっている。そのこと、忘れないでくださいね」
「大社じゃ色々言ってる人はいるけどさ、巫女に関してはみーんなクウガ派だから。主にひなたちゃんのおかげでね」
「街にも大社にもクウガを信じる人はたくさんいる。これはクウガが陸人さんだったからだと思うよ、私は……」
「うん、ありがとう」
陸人が忘れかけていた自分という存在の大きさ。それを少しでも分かってもらえたのなら、この時間は無駄ではなかった。穏やかに微笑む陸人を見て、ひなたは小さく安堵した。
神樹にほど近い滝で、禊に励む陸人と巫女たち。なんと大社は装束に関してなにも考慮していなかった……というかその程度で感情を乱すな、と年頃の少女には酷なことを言い出した。仕方なく陸人が目隠しをして、移動はひなたと水都に手を引いてもらう形となった。
時折柔らかい感触を感じた陸人だったが、この男女比で下手なことを言う度胸は流石になく、緊張しきりの彼を見てひなたと水都はこっそり笑っていた。
(う〜ん、神の力云々が成長してるかは分からないけど、精神修行としてはいいなコレ。今後もやらせてもらおう)
滝行初体験の陸人だが、あらゆる面で鍛えられた彼には丁度いい刺激となって、軽く楽しむ余裕すらあった。
滝行に慣れてくると、強化された聴力が滝の轟音の中から小さな少女の声を聞き取る。どうやら祝詞を無意識に口に出しているらしい。
一通り聴き終えた陸人は心の中で同じく唱えてみる。
(祓い給え、清め給え…………ん? これって……)
暖かい何かが流れ込んでくるのを感じる。以前黒の力を手に入れた時の感覚に近い。
──今の貴様の神性は人の域を逸脱している。神樹のそばで体と心を清めたことで、一時的に神樹が接触しやすくなったのだろう──
アマダムが言うには、今の陸人は黒の力を使い続けて神の力への適性が上昇している。陸人という器が大きくなった、それに合わせた力の使い方ができるように波長を合わせてくれたのだそうだ。
巫女のように神託を受け取ることはできないが、陸人は神樹のエールを受け取ったような気分だった。
(ありがとうございます、神樹様……一緒にこの世界、守りましょう)
陸人は神樹を奉らない。誰より大きく頼もしい『仲間』として信じている。
神樹がそれをどう思っているのかは定かでないが、協力してくれている以上否定的には見ていないのだろう。
伍代陸人、色々な意味でスケールのでかい男だったりする。
「ひゃあっ⁉︎」
滝行を終え、上がろうとしたところで陸人の隣にいた真鈴が足を滑らせた。陸人は音と気配を頼りに真鈴の腕を掴んで引き上げる。
「大丈夫? 真鈴さん」
「あ、うん。ありが──っ⁉︎」
陸人と触れ合った直後、真鈴に神託が降りてきた。
『聖なる泉枯れ果てし時 凄まじき戦士雷の如く出で 太陽は闇に葬られん』
強烈なイメージと共に刻まれたメッセージ。これまでの経験から、クウガの新たな力のことだと真鈴は即座に察した。
(なんだかかつてなく不穏な文言が並んでるんですけど……あー、どうしたもんかしらねコレ)
「……真鈴さん? どこか痛いの?」
「んーん、大丈夫……ちょっと神託が来ちゃってね。お先に失礼させてもらうわ」
軽く手を振って早足で立ち去る真鈴。陸人は違和感を覚えた。
──おそらくクウガについてだな。このタイミングで降りてきたということは、良いか悪いかは別として、重大な意味を持ったものだろう──
(ここに来て新事実なんてあるのか? もう腹いっぱいなんだけどな)
──封印の影響で私の知識も完璧ではない。クウガの全てを把握しているのは今の時代では神樹と天の神だけだろう。今の私から抜け落ちた知識から、何か有用な情報が得られれば良いのだが──
その後真鈴を訪ねるも、解読にかなり時間がかかるとのことで、その日は帰ることとなった。
「それで、いかがでしたか? 巫女の修行をやってみて」
「うん、手応えはあった。今後の鍛錬でどこまで引き伸ばせるかだな……それはそれとして滝行は楽しかったよ、またやりたいね」
「すごいなぁ、私は慣れるまで結構時間かかったのに……」
談笑しながら帰る3人。寮が見えたところで友奈が待っていた。
「りっくん、ヒナちゃん、水都ちゃん、おかえりなさい!」
「あら、友奈さん。ただいま戻りました」
「ただいま、友奈さん……どうかしたの?」
「んー、りっくんとお話がしたくて……いいかな?」
「俺と?」
「うん、ちょっと大事な話なんだ。鍛錬場まで来てもらえる?」
「……友奈さん、私も同席してもいいですか?」
「ヒナちゃん、ごめん。2人で話したいの」
いつもと違う友奈の雰囲気に警戒してしまうひなた。友奈も譲ろうとしない。その態度に陸人はある種の覚悟を決めた。
「いや、いいよ。ひなたちゃん、ありがとう。鍛錬場だね? 分かった、荷物置いたら行くよ」
「陸人さん?」
「それじゃ待ってるよ、よろしくね!」
友奈はパタパタと鍛錬場に走る。ひなたも水都も、心配げな顔で陸人を見る。
「陸人さん、大丈夫?」
「うん、友奈ちゃんにはいずれバレるかもとは思ってたんだ。なんとかするよ」
(軽い範囲で事実を明かして退いてもらうしかないな……嘘をつくのに慣れるような生き方は、したくなかったんだけど)
「りっくん、手合わせしよう!」
「友奈ちゃん?」
「前に若葉ちゃんが教えてくれたんだ。言葉が出てこない時は、体でぶつかり合うのもアリだって!」
「それはまたなんとも若葉ちゃんらしいというか……OK、付き合うよ」
無手の打ち合いが始まった。本気になれば通常時の勇者レベルの戦闘力を持つ今の陸人に軍配があがるが、陸人は仲間との訓練で本気を出すようなことはしない。
一方の友奈はそこそこ本気だった。自分の強さを示すことで少しでも陸人に安心して欲しかった。
「ホントに強くなったね、りっくん!」
「そうかな? 友奈ちゃんも、みんなも強くなってるよ」
「でも1番成長してるのはりっくんだよ。やっぱりクウガのよくない力を使ってるから?」
「……!」
「分かるよ。りっくんのこと、ずっと見てきたんだから! 痛みに苦しんでるりっくんも、見ちゃったんだから!」
大きく踏み込み、同時に本題に切り込む。陸人は苦い顔で誤魔化しにかかる。あの状態では陸人もアマダムも他人の気配まで気にしてはいられない。何度目かの際に見られてしまっていたらしい。
「それ、どうしてもやらなきゃいけないことなの? りっくんはずっと頑張ってきた……もうこれ以上苦しまなきゃいけない理由なんてないよ!」
「友奈ちゃん……」
「なんでりっくんばっかり……他の誰かじゃダメなの? 私なら、私だったら良かったのに!」
らしくない言葉だった。誰にでも優しく、基本朗らかな普段の雰囲気からは想像もつかない悲壮な表情で友奈は拳を振るっていた。
「友奈ちゃん、俺は確かに調子は悪いけど、でもそれは一時的なものだから大丈──」
「誤魔化さないでっ‼︎」
「──っ!」
「そんな笑顔で、そんな体で……私が大好きなりっくんの"大丈夫"って言葉を使わないで」
友奈は当初ここまで感情的になるつもりはなかった。自分たち仲間がいると、少しでも安心してほしかっただけだ。しかし改めて対峙することで陸人の変質ぶりを感覚で理解してしまった。打ち合いの中で見せる人間から逸脱した動き、何気ない会話の中で起きる認識の齟齬……そう言った要素が、目の前の少年をほんの少し前までいたはずの『伍代陸人』からかけ離れた存在に見せてしまっている。
友奈自身気づかないほど小さく溜まっていた酒呑童子の穢れ。それが『高嶋友奈の精神バランスの崩壊』という極めて珍しい事態に反応し、その揺れ動きを大きくする。
──陸人! これは──
(ああ、まさか友奈ちゃんが……いや、そういう先入観がいけないんだ。あの子もまだ中学生の女の子なんだから)
陸人は友奈の穢れを自分に移そうと近づく。
「友奈ちゃん、落ち着いて……君は今──」
「やめて! もうやめてよりっくん!」
陸人の狙いに気づいた友奈が距離を取って駄々をこねるように首を振る。その目には涙が滲んでいた。
「なんでそうやって……もっと自分を大事にしてよ、お願いだから……」
絞り出すような友奈の懇願に、陸人はなにも返せなかった。とうとう顔を覆って泣き出してしまう友奈にどうすればいいか分からない。
不安定極まりない今の友奈を放ってはおけないが、陸人がなにを言っても刺激するだけだ。
陸人が近づくと友奈は警戒して距離を取る。言葉を尽くしても友奈は聞こうとしない。
止むを得ず陸人はひなたに連絡。彼女に任せてその場を去った。
(どうすれば、良かったんだろうな)
──貴様の価値観の方が異端なのは確かだ。あの娘は優しく、お前のことを大切に想っている。こうなるのは自然と言えるかもな──
アマダムの言う通り友奈に気づかれた時点で話が拗れるのは当然の帰結だった。友奈はどんな理由があっても大事な存在が破滅に向かうのを良しとできるわけがない。そして陸人も自分が背負うものの重さを自覚している以上譲ることはない。
陸人は初めて仲間との間に気まずい雰囲気を作ってしまった。大好きな人を泣かせた自分、そんな相手になおも嘘をつくしかできない自分……陸人は己を殴りたくて仕方なかった。
(あああぁぁぁ……やっちゃった〜〜)
友奈は自室の布団に潜り頭を抱えていた。アレはない。先刻の自分はダダをこねる子供でしかなかった。
(りっくんだって他にどうしようもないからやってるだけなのに……1番辛いのはりっくんなのに)
落ち着いてからひなたに精霊の穢れの影響を受けていると教えられた。確かに少し淀みを感じる気はする。しかしあの醜態は自分の中にあったもの。穢れはそれを増幅しただけだ。
(ただ話してほしかっただけなのに。私に頼ることを忘れないでいてほしかっただけなのに……)
陸人に言ってもしょうがない不安や不満をぶつけて終わってしまった。これではなんのために機会を設けたのか。
(りっくんには明日謝るとして……どうしよう、こんな状態じゃ戦えない)
思っていた以上に自分の精神状態はよろしくない。何か自分の落ち着きどころを見つけないと、肝心の決戦で足を引っ張りかねない。
勇者、クウガ、ガドル、神樹様、天の神、精霊──精霊?
(そうだ、これなら……! うまくいけばりっくんと並んで戦えるかもしれない)
陸人が無理をする理由の1つ。戦力不足。それだけでもどうにかできれば彼の負担を減らせるかもしれない。
陸人と友奈はよく似ている。全てを好きになれる大きな愛。好きなもののために戦う覚悟。そしてそのためならどんな無茶でもやってしまう勇気。
高嶋友奈は、伍代陸人に最も近い、クウガに最も近い性質を持つ勇者である。
結界の外、山奥に雷鳴が響き渡る。その雷はおかしなことに一箇所に落ち続け、かれこれ30分になる。
落ちた先にいるのは、異形の戦士、『ゴ・ガドル・バ』
彼はクウガのような進化を求めて神の力を浴び続けた。疲労困憊状態だったとはいえ、あの陸人が1発受けて倒れた天の神の雷を30分だ。
天の神は驚いていた。ガドルの強さへの執着に。
ダグバは期待していた。ガドルとクウガ、勝利したどちらかが自分の領域までたどり着くことを。
(クウガよ。俺は必ず、お前を倒す……!)
確かな力の高まりに手応えを感じながら、ガドルは地獄の痛みに耐え続ける。
陸人は訓練に励みながらも友奈のことをずっと気にかけていた。
友奈は陸人を守るために鍛え、考え、決戦に備えていた。
ガドルはただ純粋に自分を高めることだけに邁進し続けた。
そして、約束の日が来たる──
あまりにも陸人くんが厳しい状況に追い込まれてしまったので、半オリキャラたちにちょっとチヤホヤされてみました。これくらいは許されるはず。
そして陸人くん、初めてのバッドコミュニケーション。しかもその相手は安定していると(勝手に)思っていた友奈ちゃん。
原作でも最後に一瞬綻びかけただけで常に穢れに打ち勝ってきた彼女が今回崩れたのは陸人くんの影響です。鋼メンタルのフォロー役(の男子)が他にいてくれたおかげで原作世界ほど心の強さが必要ではなかったため、勇者となってからの3年半での成長に違いが発生、友奈ちゃんは柔らかく(より女の子らしく)なりました。その結果です。
陸人くんに譲れないものがあるように、友奈ちゃんも譲りません。互いを守りたいという強い願いがいい方向に進むか、悪い方に働くか…
あ、小説のあらすじを一部改訂しました。特に想定していた流れを変えたわけではないのですが。改めて考えるとハッピーエンドと言いきれるものか自信がなくなってしまいまして……
感想、評価等よろしくお願いします
次回もお楽しみに