A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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 なんとか1話できたので、ランキング載った喜びに乗せて投稿…相変わらず無計画だなぁ

 うたのんルート

 時系列は終戦から1年後の、高校入学前から始まります。

 投稿の際に投稿位置をミスしまして、少しおかしなことになりました。お気付きの方はお騒がせして申し訳ありません。



終章S話 距離(IF:白鳥 歌野)

「もう決めたんだね?」

 

「ええ、やっぱり私は机に向かうよりも土に向き合う方が性に合ってるわ。陸人くんやみーちゃんには悪いけど……」

 

「……ん、俺は気にしないでいいよ。なんとなくこうなる気はしてたし……水都ちゃんにはちゃんと自分で話しなよ?」

 

「オフコース! ちゃんと話して分かってもらうわ、一生のベストフレンドですから!」

 

 ほんの少し寂しそうな陸人と、ほんの少し申し訳なさそうな歌野。それでも話がこじれることもなく、向こう3年に関わる重大事は、こうしてあっさりと解決した。

 

 友達というには距離が近く、恋仲というには淡白すぎるが、それでも陸人と歌野は想いを告げ合い、結ばれた恋人同士である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……高校、行かない?」

 

「ええ、色々考えてはみたんだけどね……今はまだ神樹様も安定していないわけだし、この先のことを考えれば、少しでも早く農業に集中したいのよ」

 

「でも、一緒の高校に行こうって……私はまだいいよ、学校終われば会えるし……だけど」

 

 そう言って陸人に目をやる水都。彼は変わらず笑ったまま、何も言わない。しかし何も思っていないはずがない。

 陸人は大社の非正規職員として研究の手伝いをしている。歌野が高校に行かないとなれば、2人が共に居られる時間はかなり少なくなる。せっかく恋人となった彼らの距離が開いていく。なのに本人たちはそれを気にした様子もない。親友を自負する水都であっても、今の2人のことが理解できなかった。

 

「……陸人さんは、それでもいいの?」

 

「こうと決めたら一直線なのが歌野ちゃんのいいところだっていうのは、水都ちゃんが1番よく知ってるでしょ?」

 

 宥めるような口調で微笑む陸人。あまりに自然なその態度に、水都はまるで自分の方がおかしなことを言っているような気になる。

 

「俺が好きになったのはそういう人だからね。もちろん寂しくないと言ったら嘘になるけど、歌野ちゃんが決めたことなら邪魔したくないんだ」

 

「さすが私の陸人くん! 私もあなたのそういうところが大好きよ!」

 

「……うたのん、陸人さん」

 

 満面の笑顔で抱きつく歌野を、ハイハイと慣れた様子で受け流す陸人。あっさりし過ぎているように見えるが、当事者が納得しているなら自分が口を挟むことではないと、無理やり己を納得させる。

 自身の想い人と結ばれた親友か、その親友を選んだ想い人か。このモヤモヤとした感情はどちらに向けたものなのか……

 

(……いや……両方、かな)

 

 今の水都には分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数ヶ月後、陸人と水都は同じ高校に入学。世界を守った勇者として、名前と顔が知られている陸人は当然のように目立った。最初の1ヶ月は芸能人のように声をかけられ続け、次の1ヶ月で全校の半数以上と友好を深めていた。あの激動の日々で成長した水都もできた友人は少なくないが、陸人の勢いには苦笑するしかなかった。

 

 久しぶりの普通の学校生活にテンションを上げ過ぎて若干加減を忘れた陸人が、その人誑し(天性)を発揮。色々な部活に飛び入り参加しては活躍していく姿に見惚れる女子も少なくない。この時点で水都はもう嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

 

 入学から3ヶ月が過ぎた頃にはもう、水都が知る限りでも、陸人が女子に告白された回数は両手で数えられなくなっていた。陸人はその度に苦しそうな顔をして断る。

 

「あの、恋人がいるってちゃんと言った方がいいんじゃない? 女子はそういう噂広げるの早いし……そうすれば言われることも減るんじゃないかな」

 

「……なるほど、校外の人って言えば後にも引かないし。そうするよ、ありがとう水都ちゃん」

 

 途中からは水都のアドバイスに従って、"校外に付き合っている人がいるから、その気持ちには答えられない"というのが陸人の常套句になった……が、それが予想外の方向に事態を進展させた。

 

 

 

 

 夏休みを控えた4ヶ月目には、1つの噂が学校中に浸透していた。

 

『伍代陸人は藤森水都と付き合っている』

 

 この高校には陸人と水都以外に丸亀城の仲間はいない。すると意識せずとも2人でいることが多くなり、その自然な距離感に年頃の学生たちの想像は加速する。2人に自覚はなかったが、あの閉鎖的で特別な仲間同士の絆は、一般の学生からすれば特別なパートナーにしか見えないものなのだ。

 校外の、というのも余計な波風を立てないようにという陸人の気遣いだろうと勝手に解釈されてしまった。

 

 2人とも聞かれればキッパリ否定してはいるものの、1度こうだ、と印象付けられた認識はそう簡単には覆せない。高校生の集まりであればなおさらだ。陸人が告白を受ける回数は激減したが、これはこれで問題だろうと水都は再び頭を抱える。

 

 陸人と歌野がどれだけお互いを想い合っているかを知っている水都はそろそろ胃が痛くなってきた。こうなった大元の原因は、歌野が恋人から距離をとっているからだ。こんな現状を何度説明しても、バカ笑いするだけで真面目に捉えようとしない。

 

「うーん……そんなに面倒なら、いっそ認めちゃったら? 否定しなくなれば囃し立てられることもなくなるんじゃないかしら?」

 

 笑い過ぎて涙が滲んだ目を拭いながら、歌野がそんなことを宣った時には、流石の水都も頭にきて思いっきり説教をかました。歌野も冗談のつもりだったが、いささか無神経すぎたと反省していた。

 しかし、問題はそこまで彼女に危機感がないということだ。陸人の方もこの状況を深刻に捉えてはいないようだし、水都の心労は尽きない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハーイ、陸人くん。今日はいつもより遅かったわね……何かあったの?』

 

「こんばんは、歌野ちゃん。今日はちょっと実験が長引いて……よくわかったね」

 

『毎日わりと決まった時間にコールしてくれてたからね、流石に気づくわよ』

 

 大社での仕事を終えた陸人の自室。彼は毎日落ち着いた頃合いに歌野に電話している。内容はあってないような話題ばかりだが、一緒にいない分、何気ない会話がとても充実した時間になる。

 

『最近みーちゃんから事あるごとに聞くんだけど、そんなにすごいの? 学校のウワサ……』

 

「うーん、そのうち飽きるとは思うけどね。それまで待つのが1番だよ……ただまあ、水都ちゃんが気にしてるならなにか行動したほうがいいのかな?」

 

『なんとなくだけど、みーちゃんが気にしてるのはウワサどうこうじゃないような気がするわね。どっちかというと私に怒ってるみたいだし』

 

 歌野の言葉に首をかしげる陸人。2人でしばらく唸っていると、やがて同時に1つの答えにたどり着く。

 

「……もしかして水都ちゃん」

 

『まだ気にしてるんでしょうね、私と陸人くんのディスタンスを』

 

 噂が立つということは、客観的に見て1番近い距離にいるということだ。その立ち位置にいるのが自分、という事実を水都は気にしていた。

 

「あー、うーん……それなら近いうちになんとかできるかも……夏休みに入ったら2人で畑手伝いに行くよ」

 

『うん? それはありがたいけど……何かあるの?』

 

「今は内緒。楽しみにしててよ」

 

『サプライズってわけね? オーケー、そういうの大好きよ私!』

 

「うん。それじゃ今日はもう遅いからまた明日……おやすみ、歌野ちゃん」

 

『ええ、グッナ〜イ陸人くん』

 

 毎日お馴染みの挨拶で電話を切る。1日の最後に心を休める癒しの時間が終わり、横になる陸人。

 

(水都ちゃんには、悪いことしたかな……でも後ちょっと、頑張れば)

 

 間も無く夏休み。陸人にはそれまでに果たしたい目標があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、サプライズってなにかしらね……みーちゃんも知らないなら、大社の方で何かあったとか?」

 

 1日の疲れを癒す電話を切って横になる歌野。陸人との通話を終えると、いつもあの日を思い出す。8人もいる少女たちの中から、陸人が自分に応えてくれたあの日を。

 

(いつも自信に満ちていて、やりたいことに向かって突っ走って、その結果みんなを笑顔にできる……今の私は、陸人くんが好きになってくれた私でいられてるのかな?)

 

 結ばれたその日に、歌野は選んでくれた理由を聞いた。正直なところ、自分が選ばれるとは思っていなかったから。

 自分を許せず、自分を愛せずにいた陸人には、歌野が眩しかった。どんな絶望でも前を向くことを忘れずに、自分も周りも照らす笑顔の勇者。

 

 それが心から惹かれた女の子、白鳥歌野だと、そう言ってくれた。

 気恥ずかしくはあったし、そんな大層な人間である自信はなかったが……大好きな人がそう思ってくれたなら、それに応えたい。

 歌野が今の道を選んだ1番大きな理由は、陸人には1番魅力的な自分を見て欲しいという願いだった。寂しくはあったが、陸人も応援してくれたし、どれだけ離れても彼が自分を見てくれている確信もあった。

 

(……明日は、なにがあるかしら。なにを、お話ししようかしら、ね)

 

 寝る前に最後に考えるのはいつも陸人のことばかり。そうすれば夢の中で会えるんじゃないか、という誰にも知られない乙女心がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休み初日。水都と陸人は、朝から歌野の畑に来ていた。

 

「よーし、今日は2人が来てくれたし、張り切っていきましょうか!」

 

「ああ、ちょっと待って歌野ちゃん。そろそろ……あ、来た」

 

「陸人さん? あれ、なんだろうあのトラック……」

 

 

 

 

 

 作業を開始しようとする歌野たちのもとに、一台のトラックがやってきた。その荷台の上には……

 

「陸人くん、これって……」

 

「近くの農場の人と共有してるヤツが寿命で、買い替え時期だって言ってたから……ちょっと奮発してみました」

 

 そこにあるのは新品のトラクター。陸人がさりげなく聞き出した1番この畑に必要な、歌野が1番求めていたものを選んだ、恋人へのプレゼント。

 陸人は得意げに笑っている。水都はポカンとした顔で陸人と歌野に目を向けている。歌野は言葉も出ない様子で固まっている。

 

「陸人さん、もしかしてこれのために大社で?」

 

「もちろんそれだけじゃないけどね……あそこの実験は俺にしかできないから、普通のバイトよりも実入りがいいんだよ」

 

「詳しくは知らないけど、高いのは100万とかするって……」

 

「アハハ、そこまでじゃないよ……まぁ6ケタ後半とだけ、ね……」

 

「陸人くん‼︎」

 

「おわっ! ……と、歌野ちゃん?」

 

 復活した歌野が陸人に飛びついて押し倒す。彼女のテンションはもはや最高潮だ。

 

「こんなサプライズがあるなんて……陸人くんってばホントにやることビッグなんだから!」

 

「歌野ちゃんのために、今の俺にできるのはこれくらいだからね……喜んでもらえて嬉しいよ」

 

「んもう!」

 

「うおっ……!」

 

 感極まった歌野が不意打ちで唇を重ねる。陸人は反応できず、されるがままである。

 唐突に発生した桃色空間に、水都は慌てて背中を向ける。彼女は羞恥と同時に安堵に包まれていた。もう水都が心配することもないだろう。

 

(良かった……2人なりの在り方が分かりにくいだけで……確かな絆がちゃんとあるんだよね)

 

「陸人くーん!」

 

「分かった! 分かったから、いったん離れて……」

 

 自分の言葉をずっと忘れずに、努力を続けてくれたことが、歌野は何より嬉しかった。

 テンションのブレーキを踏み壊して、体全部で愛情を表現する歌野と、水都の手前なんとか彼女を止めようとする陸人。

 

(いやでも、これはちょっと違うような……?)

 

 2人の恋人らしい姿を見たいと思っていた水都でも首をかしげるような光景。

 

 伍代陸人と白鳥歌野の間には、他人には分からない距離感と絆があるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




 男女というよりはパートナー的な感じ。思ったよりもみーちゃんの出番が増えたなぁ

 ちなみにこの時間軸の9人は全員同学年です。終戦の年に試験で中学卒業認定を受け、そこから高校受験。同時に高校生になりました。

 トラクターって購入なり所持なりに年齢制限とかあるんですかね? 免許とかはないと思うんですけど……まあ何か条件があったなら、それは大社がなんとかしてくれましたってことで。

 感想、評価等よろしくお願いします

 次回もお楽しみに

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