A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

51 / 150
チラッと見たら評価が増えてて嬉しくなって投稿……ガキか私は……

そんなわけで九章開始。

色々考えた結果、しばらくキツい展開をこのまま続ける方向で行きます……今さらか……



九章1話 悪魔

 ガドルとの決闘から5日。勝利したにもかかわらず、勇者たちの空気は重い。

 1つは友奈が足を動かせなくなり、勇者としても戦線離脱を余儀なくされたこと。それ以外の傷は穢れを早期に移したために軽傷で済んだが、最も酷使した足にかかった負担は凄まじく、今後彼女は車椅子で動くしかない。大丈夫、と言ってはいるが、武術に励み、勇者としても努力していた友奈にとって、残った傷は決して浅くない。

 

 もう1つの理由は隠してきた陸人の体の異常にみんなが気づいたこと。髪の色素を失って戻ってきた彼を見て勇者たちは問い詰める。最後まで口を割らなかったが、大社に詰め寄った彼女たちに全てを知られてしまった。

 

 今日はやっと病室を出られるようになった友奈を含めた全員が揃い、陸人と話をするために病院の屋上に集まっていた。

 陸人は諦めて全てを明かした。ひなたが先んじて事態を把握した上でフォローしてくれていたことを除いた全てを。

 

 

 

「今はもう体の痛みは来ない……多分融合が新たな階梯に達したんだと思う」

 

「ここまでは大社から得られた情報とほぼ同じだな」

 

「りっくん、今回は……()()()()()何を失くしたの? お願い、教えて……!」

 

 友奈は泣きそうな顔で問い詰める。彼女自身の傷よりも、結局自分は陸人の重荷になってしまったという事実が友奈を強く追い詰めていた。

 同時に陸人もまた、友奈の車椅子姿に追い詰められていた。陸人にとって友奈の足が動かなくなったのは自分1人でガドルを倒す力が無かったから。そして完全に穢れを抜き取ることができなかったから。

 2人は互いを見る度に罪悪感を募らせる。そんな2人を見ていられず、歌野が口を挟む。

 

「陸人くん、私たちも本当のことが知りたいの。君の口から……」

 

 陸人はしばし逡巡して、ぎこちなく口を開いた。

 

「……体温、血液、発汗。そういう身体機能の一部が効かなくなってる。心臓も動いてないし……後は見ての通り髪の色素が抜けちゃったくらいかな……」

 

 検査をした医療部門の分析とアマダムの推察によると、アマダムが生成する謎の組織が体内に広がっている状態、らしい。それが生きる上で必要なエネルギーを与えながら人間としての中身を機能停止、破壊して新たな組織に置き換えている。現状体内の新組織の比率が8割を超えており、その結果人間としての体機能が停止したようだ。

 

「よく、分からないよ。つまりどうなるの? 今、どうなってるの……?」

 

「つまり外見は人間のままでも、中身は新種の生物……そういうこと?」

 

 恐る恐る予想を口にする杏に陸人は首肯する。最終的にはエネルギー補給を自分の体内で完結でき、食事や睡眠すら必要とせず戦い続ける究極の生命体になる。それが大社の予想だ。

 

「脳まで侵食された時、俺は多分みんなのことも分からなくなる。全部持ってかれる前にダグバと天の神をどうにかしないといけない」

 

 あえて淡々と話す陸人に、やはり球子が真っ先に爆発した。

 

「そんな話じゃないだろ! 人間じゃないって何だよ! 持ってかれるって何だよ‼︎」

 

「……」

「タマっち先輩……」

 

「タマたちのせいか? タマたちの穢れを引き受けたから……」

 

「それは違うよ。クウガとして戦い続ければ遅かれ早かれこうなったんだ……穢れは少し早めただけ。そもそも俺が勝手にやってきたことなんだし……」

 

「……そんな言葉で納得できる人は、ここにはいないわ……」

 

 千景の言葉に何も返せない陸人。一同を覆う空気はひどく重い。こうなるのが嫌でずっと隠してきたのだ。

 

 珠子は自分自身への怒りを隠さない。

 杏は流れる涙を止められない。

 水都も口を押さえながらも嗚咽が堪えきれていない。

 千景は俯いたまま顔を上げない。

 流石の歌野も口を開けない。

 友奈も今の精神状況ではそれどころではない。

 ひなたも未だに自分のことを庇う陸人の手前、何も言えない。

 

 そんな中、若葉が陸人にゆっくり近づく。様々な感情が入り混じった瞳で陸人をまっすぐ見据えている。

 

「陸人、歯を食いしばれ……!」

 

「……? 若葉ちゃ──」

 

 言い切る前に鈍い音が響く。若葉が全力で陸人を殴り飛ばした音だ。

 倒れこむ陸人。杏と水都が慌てて駆け寄る。

 

「若葉、ちゃん……」

 

「言いたいことはいくらでもあるが、それは皆同じだろう。私からはこの拳1発で打ち止めにしておく……後は任せるぞ、みんな」

 

 それだけ言って若葉は屋上から立ち去る。ひなたは陸人に目配せし、陸人はそれに首肯で返した。

 ひなたも若葉の後を追い、その場から2人が去った。

 

 

 

 

「陸人くん。仮に今後戦わなかったとして、あなたの体はどうなるの?」

 

「歌野ちゃん?」

 

「体が元に戻ったり、そういう可能性はないのかなって」

 

「……多分ない、かな。元々の俺の体構造は壊されてるようなものだから……このまま過ごしたら進行はしないかもしれないけど、元には戻らないんじゃないかと思う」

 

「そっか。アンダスタン、ありがとう……」

 

「……歌野ちゃん、ダグバはあのガドルより強いんだ。クウガ抜きじゃ……」

 

「分かってる。気になったから聞いただけ、仮定の話よ」

 

 歌野は意識して笑顔を作る。今の状況では、それを見ても笑ってくれるのは陸人1人だけだとしても。

 今やクウガと共に戦える勇者は若葉と歌野の2人だけ。それを自覚しているからこそ仲間の前で強い態度を示している。陸人は2人に感謝した。

 

 車椅子の少女に歩み寄る陸人。今誰よりも傷ついている友奈に。

 

「私、りっくんを守りたくて……少しでも、りっくんの重荷を減らせたらって。なのに戦えなくなって、しかもそんな私のために……またりっくんが……!」

 

「そんな風に言わないでよ、友奈ちゃんは俺の恩人なんだから」

 

 陸人はしゃがみ、友奈の手を握る。

 

「友奈ちゃんが頑張ったから俺はまだ生きてる。命の恩人を助けたくて俺は友奈ちゃんの穢れを移した……同じことをやっただけさ。みんなだってきっと同じだ。俺は別に自分が不幸だとか、そんなこと思ってない」

 

 なんてことない、と陸人はあくまで笑う。

 

「友奈ちゃん、前に言ったよね。『他の誰かじゃダメなのか、私だったら良かったのに』って……そういうことだよ。

 たまたまでかい役を背負っただけの話なんだ。この世界にとって、その"誰か"が俺だったんだよ。みんなが世界を守るために命懸けで戦ってきたことと本質は何も変わらない……

 誰の()()でもない、俺は俺の意思で全てを守る()()にやるべきことをやってる」

 

 あまりにも迷いのないその言葉に、誰も口を開けない。

 伍代陸人は諦めているわけではない。負けたわけでも、逃げたわけでもない。世界から見れば正しいこと、尊いことをしている彼を否定する言葉は、年若い少女たちには思い浮かばなかった。

 

「……あの、陸人さん──」

 

 それでも水都が何かを伝えなくてはと口を開き──

 

 

 

 

 

(──! この感覚……)

 

 ──ダグバか? いや……なんだ、この気配は……? ──

 

 陸人とアマダムが異変に気づくと同時に世界はその姿を変える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……若葉ちゃん」

 

 屋上から1フロア降りた先の踊り場で、若葉は1人泣いていた。傷つく自分を陸人に、仲間に見せないために。

 口下手な己を自覚し、言葉を重ねても陸人を困らせるだけだと自制した。陸人の罪悪感を少しでも軽くするため、みんなの気持ちを示すために1発だけ拳を入れてその場を離れた。

 その心境の全てを把握したひなたが若葉に寄り添う。

 

「ひなた、か……」

 

「安心してください。陸人さんも他の皆さんもいません……私だけです」

 

「そうか、気を使わせてすまない……」

 

「まあみなさん気づいてはいたでしょうね。それだけの仲になれたという確信があります」

 

「……私は何もできなかった。仲間と共にあると、そう誓ったのに……」

 

 2度と過ちを繰り返さない。その一心でリーダーとして励んできたつもりだった。それなのに、抱え込む奴だと分かっていたのに、陸人の無茶を見過ごしていた。

 

「若葉ちゃん……」

 

 ひなたは黙って若葉を抱きしめる。泣けるだけ泣かせてあげたい。悲嘆と罪悪感にまみれた心で、なおも若葉を包む。

 

「……う、ぁぁ……りく、と……」

 

「泣いていいんです。泣いて当然ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 ひなたは若葉のことならなんでも知っている。ここまで完全に挫けたのは久しぶりに見たが、どのくらいで自身を立て直せるか、どんな言葉をかければいいか、ある程度把握していた。

 だからこそ驚いた。ほんの数分、ひなたが何か言うよりも早く持ち直した若葉には。

 

「まだだ、まだ終わっていない……!」

 

「若葉ちゃん?」

 

「今生きている陸人を、私は絶対に諦めない。私は何が何でも陸人の隣にいる……1人にはしないし、一人で行かせはしない……!」

 

「……フフッ、それでこそ若葉ちゃんです」

 

「全てを終わらせて、そこに陸人がいなかったら……その時はまた泣かせてくれ、ひなた。それまでは絶対に折れはしない」

 

「分かりました。それが私の役目で、若葉ちゃんの役目ですものね」

 

 

 

 これが乃木若葉だ。勇者たちのリーダーにして、陸人が人としての理想形の1つと称した気高く強い心を持った少女。

 叩かれることで形作られる刀のように、若葉は挫け、乗り越えるたびに強く美しくなる。

 

「おそらく歌野もそう待たずに立て直すはずだ。残る勇者が私たち2人なのは、不幸中の幸いだったのかもしれないな……ひなたは、他のみんなを見てやってくれ。戦えない分暗い気持ちがたまりやすいはずだ」

 

「はい、任せてください」

 

 若葉は仲間を気遣う。しかしその中にひなたは入っていない。

 彼女は何も言われずとも気づいたのだ。ひなたが自分たちより先に事情を知り、ある程度気持ちの整理をつけていたことを。

 そしてひなたもそれを察して、言及することなく頷く。言葉にせずとも分かり合える。人と人との繋がりとしての究極を2人は体現している。

 

「改めて惚れ直しちゃいました、さすがは若葉ちゃんで──」

 

 

 

 

 

 不自然なところで言葉を切り、動かなくなるひなた。一拍遅れて若葉は非常事態に気づく。

 

(樹海化⁉︎ こんな時に……まさか!)

 

 世界が塗り替えられる。常在戦場と常に心掛けている若葉でさえ、運命を恨まずにいられない、最悪のタイミングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 陸人、若葉、歌野は合流して樹海の奥に向かう。

 陸人は若葉の目が赤いことに気づき、若葉は歌野が表面上だけでも笑えているのを確認し、歌野は陸人がこの期に及んで戦うことを躊躇していないことを確信した。

 それでも誰も口には出さず、一種の白々しさすら感じさせる雰囲気のまま、3人は進む。

 

「……やはり、ダグバか?」

 

「感覚は似てる……けどおかしい。感じる力の量も質も以前と違いすぎる」

 

「どういうこと? ダグバ以外にまだそんなモンスターがいたの?」

 

 警戒を強める勇者たち。レーダーを見ても1つの反応が動かずにあるだけだ。たった1人に陸人がこうも反応するということはダグバ以外にないはず……

 考えるうちに視認できる距離まで近づいた。

 

 そこにいたのは全身白の服に身を包んだ少年。陸人とそう年の変わらない、幼さすら感じさせるあどけない笑顔でこちらを見つめていた。

 

(あれがダグバ……目を合わせただけで……)

 

 圧倒的な存在感。まだ怪物としての本性を見せてもいないのに、陸人たちは確かに恐怖していた。

 

 ──やはりおかしい。古代でも、以前感知した時にも、ヤツはあんな力は持っていなかった──

 

(どういうことだ、アマダム?)

 

 ──今の段階ではなんとも言えん……だが、今のクウガで太刀打ちできる相手ではないぞ──

 

(かといって逃げるわけにもいかないよ。何とかしなくちゃ──)

 

 アマダムと対話しながら、ダグバの前に飛び降り、対峙する。

 

 

 

 

 

 

「フフフ……キミとは初めましてだね。『ン・ダグバ・ゼバ』……ダグバって呼ばれてる。よろしくね、今代のクウガ」

 

「……伍代陸人だ。あなたの狙いは……俺、か?」

 

「そうだね。ボクと遊べそうなのはこの世界じゃキミぐらいだし……何せガドルを倒したんだ。期待はしちゃうよね」

 

「……なら、俺以外に手を出すな、と言ったらどうする?」

 

「ホワッツ⁉︎」

「陸人⁉︎ 何を……」

 

 聞き逃せない言葉に詰め寄る若葉と歌野。ダグバは笑って返答する。

 

「アハハ、キミは本当にお友達が大切なんだね。でもゴメンね、ボクは全部壊したいんだ。

 だからキミを倒したら、そのままみんな終わらせちゃうよ。街も、キミのお友達も、たかーいところから見てる()()()()もね」

 

 その言葉に驚愕する3人。天の神に従順、とはいかずともガドル同様不干渉の立場にあると思っていたのだが。

 

「最初はいい遊び相手になると思ったんだけどね……力は大きくてもあれはボクとは違う。暇つぶしに付き合ってもらって、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……食べる?」

 

 ──そういうことか……ダグバめ、どこまでバケモノなのだ──

 

(どういうことだ、アマダム⁉︎)

 

 ──クウガやガドルを見て、同じく神の力を欲したのだろう。そしてダグバほど存在の力が強ければ、納められる力の総量もケタ違いだ……それこそ神を直接吸収してしまっても問題ないほどに──

 

(天の神の力を、そのまま使えるってことか……⁉︎)

 

 ──流石に全てを食い尽くしたわけではないだろうがな……まだ天の神の気配はある。それでもヤツが宿す神の力の量は我々の許容量を大幅に超えている。これでは──

 

 

 

「おしゃべりはこの辺で……始めようよ、クウガ。ボクを笑顔にしてみせて……!」

 

 ダグバを中心に嵐が巻き起こる。3人は咄嗟に距離を取って構え、臨戦態勢を取る。

 

 

 

 少年の姿が変わる。不気味なほどに白い姿に、息苦しくなるほどに黒い光を纏った異形。

 

『ン・ダグバ・ゼバ』

 

 究極の闇をもたらす者……狂喜の破壊者が、その本性を現した。

 

「何という重圧……これが、怪物の王……!」

「向き合うだけでピリピリする。これは何……?」

(……なるほど、確かに現状勝てる相手じゃなさそうだな)

 

 気を抜けば震え出す体に力を込めて構える3人。

 ダグバは悠然と歩み寄り、数歩で何か思いついたようにその足を止める。

 

「それじゃさっそく……と思ったけど、やっぱりこの樹海っていう場所、居心地が悪いや。ボクの中の神さまのせいかな? ……うん、キレイにしちゃおうか」

 

 右手を天に掲げるダグバ。あまりにも軽い言葉と軽快な挙動。勇者たちが反応するよりも早く、ダグバは掌から黒い光を放射する。

 

「な、なんだアレは⁉︎」

 

 その黒は瞬く間に樹海の空を覆い尽くし──

 

 

 

 

 

 次の瞬間、()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 見慣れた風景。自分たちの『家』である丸亀城。遠くには数多の命が輝く市街も見える。

 

「……え?」

「馬鹿な、なぜ丸亀城が……街がここに?」

「樹海を破壊したのか、ダグバ……!」

 

 樹海の破壊。これまでの戦いの大前提を打ち破られた。

 ダグバは神樹の力を真っ向から破れるほどに天の神の力を振るえる、という事実をここに証明してみせた。

 

 

「……ふぅ、これでスッキリ……さて、久しぶりだなぁ。こんな風に遊ぶのは!」

 

 神樹の加護さえ破られ、本物の悪魔が現実の世界に降臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すごく不穏ですが、話も佳境に入り、ここに来て残虐描写とかグロに走ったりはしません。安心してください……そんな心配している人はいないか。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。