A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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雰囲気を生き返らせるまでにもう追い込みイベントを全て消化する流れにします。


九章2話 地獄

 天の神は四国結界を研究していた。四国を殲滅するべく突破法、破壊法を探っていた。その結果が以前ガドルが実践した結界の通過であり、その技術は天の神自身が備えていた。

 

 ダグバはその技術をも吸収した。結界を解析し、どのように力を行使すれば良いかを無意識に理解して樹海を打ち破ってみせたのだ。

 

 事態の深刻さを1番最初に把握したのは杏だった。すぐに端末で各所に同時連絡を繋ぐ。

 

「陸人さん、ダグバを街から引き離して! ひなたさん、大社に連絡を!」

 

「了解、海まで吹き飛ばす! 来い、ゴウラム、ビートチェイサー!」

 

「大社も急ぎ避難誘導を始めるそうです! 杏さんたちも合流できますか⁉︎」

 

「ダグバは私たちで何とかするしかない……ひなたたちもなるべく距離を取れ!」

 

 完全に後手に回っている人類側。クウガはとにかく安全を確保するべくビートゴウラムでダグバを引き離そうと迫る。

 

 

「ダグバァァァッ‼︎」

 

「そうそう、本気で来てよ……楽しくさぁ!」

 

 ダグバが手をかざすと、目の前に不可視の力場が形成された。それは絶対の硬度を誇り、ビートゴウラムの突撃を完全に受け止めてみせた。

 

「──っ⁉︎」

 

 ゴウラムに力を注いでも、いくら加速しても、一向に前に進まない。出力頼みの、完全に遊びで力を振るうだけでダグバはクウガの必殺技を防いだ。

 

「うーん、まだまだ足りないなぁ……こんなものじゃ、ダメだよ」

「うあっ⁉︎」

 

 ダグバが腕を横に払うのと同時にクウガとバイクが真横に大きく吹き飛ぶ。空中で体勢を整えたクウガは黒の緑に変身。ボウガンを全力で連射するも、当然のように全弾ダグバの目の前で停止した。

 

(なんだ、ダグバは何をやっているんだ⁉︎)

 

 ──高密度の神性を放って物理的な力場に変換している。あれを正面から破るには同レベルの出力が必要になるぞ──

 

「フフフ……それじゃ、返すよ」

「──っ⁉︎ クッソォォッ!」

 

 止められた全ての矢が高速で戻ってくる。クウガは黒の青で何とか回避。ダグバの頭上に飛び上がる。

 それと同時に左右後方から若葉と歌野も接近する。三方向からの同時攻撃でダグバの防御を抜く策だ。

 

「「「ハアアアアッ──ッ⁉︎」」」

 

「フフフ……お友達も一緒に遊びたい? いいよ、楽しもう」

 

 ダグバは自分を覆う球状に力場を展開。3人の攻撃を受け止める。

 

「けどダメだね。この程度じゃお話にならないよ」

「「「⁉︎」」」

 

 ため息と同時に力場を炸裂させて3人を吹き飛ばす。空高く打ち上げられた若葉と歌野は体勢を整えることもできない勢いで海に落下。派手に水しぶきをあげて意識を失った。

 

 

 

 クウガは2人とは逆方向に吹き飛び、市街地に墜落してしまった。

 周りを見渡すと目を丸くした市民があまりにも多くいた。

 

「ヤバイ……! ここで戦えば……」

 

 ガタがきている体で何とか街から離れようとするも、それより先に白い影が現れる。一瞬前まで何もなかったはずの場所に、瞬間移動してきたのだ。

 

「アハハ、命がたくさん……クウガを潰してからのつもりだったけど、ちょっとくらいいいよね」

 

 ダグバが市民に腕を向けた瞬間、クウガは怒りと焦りから無策に突撃。それを見たダグバは標的をクウガに変更、自身が元から持っていた超能力を発動した。

 

「うっ、ぐ……がああああああっ⁉︎」

 

 突如体の内側から炎に包まれるクウガ。あまりの痛みに立っていられない。

 

『超自然発火能力』

 

 クウガやガドル、ダグバが使う物質を分解・再構成する能力を応用した、対象をプラズマに変換して燃やし尽くす恐ろしい技。

 

 苦しみ続けるクウガをよそに、ダグバはゆっくりと逃げ惑う市民たちに迫る。

 

「生きてる人を全滅させたら、クウガも目覚めてくれるのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉に何かが切れた陸人は更なる深淵に足を踏み入れる。

 

「ううううおおおおああああ‼︎」

 

 瞳が黒く染まったクウガは咆哮とともに炎をかき消して立ち上がる。

 

「ダグバァァァァァァァァァッ‼︎」

 

 走りこんでくるクウガに、ダグバは力場を展開して応じる。しかしクウガが拳を振りかぶった時、予想外のことが起きた。

 

「アァァァァァァァァァッ‼︎」

「──ガッ⁉︎」

 

 パンチの一瞬だけ、クウガの姿が変貌する。

 黒を基調として全身に金のラインが輝く。各所から棘が生えた攻撃的な手足。頭部の角も形状が変化し、常に輝きを失わなかった眼とベルトの霊石も光を失くしている。

 

 荒々しく力強いそのクウガの拳は、力場を力任せに打ち破り、ダグバの顔面を捉えた。

 

「へぇ……やればできるじゃないか!」

 

 ダグバが返礼の蹴りでクウガを吹き飛ばす。その一撃が決定打となり、変身が解除されてしまう。

 ダグバは意識を失った陸人の襟元を掴んで持ち上げる。

 

「本当にあと一歩ってところみたいだね……ちょっと手伝ってあげようか」

 

 ダグバは笑って陸人の頭を掴む。そこから天の神の力、黒い神性を送り込む。神樹の力とは異なる神の力を過剰に流し込むことで陸人の変質を後押ししようとしているのだ。

 

 ビキビキと嫌な音を立てながら、陸人の腹部、アマダムがある辺りから黒く硬質化していく。太い筋を描くように肉体の一部を変質させながら上に昇っていく。硬質化が服の内側を超えて首、頰にまで進行したところでダグバの背後から旋刃盤が飛んでくる。

 

「陸人を離せ、バケモノ!」

 

 球子が投擲した盾は、ダグバが無意識に放出している光に阻まれて命中せずに落ちる。普通の人間の投擲では不意をついたところでダグバには届かない。

 

 球子、杏、千景。勇者の力を失った3人が、それでもと武器を取りダグバの前に立つ。

 

「……伍代くんに何をしたの……!」

「今すぐ離れてください!」

 

「アハハ、言われなくても離すよ……今日はここまでだ。これだけやればクウガもボクと同じところまで来れるはずだし、次が楽しみだね……」

 

 笑って陸人を放り投げるダグバ。陸人の口からは苦しげなうめき声が漏れている。杏は全ての危険を無視して一瞬駆け寄りそうになった自身の足を必死に押しとどめた。

 

「ガドルみたいに期限を決めるのもいいけど……やっぱり最高に楽しい時がいいよね。

 うん、クウガが進化を果たしたら遊ぶことにしよう。あんまりのんびりしてたらこっちに来て適当に殺して回るから、気をつけてね」

 

 人の姿に戻り、楽しげに条件を提示するダグバ。ヤツと人間との間には、生物として決定的な違いがある。千景はダグバの笑顔に理解不能な寒気を感じて鎌を強く握る。

 

「キミたちを殺すのも今はやめておこう。クウガは守るものが危ない、っていう状況が1番強くなれるみたいだからね……うーん、そうだな……あ、こんなのはどうかな?」

 

 さも名案だと言わんばかりの態度でダグバは腕を上げる。直感で危険を察知した球子が一歩踏み込むよりも早く、周囲の建造物を発火させた。

 

「な、なんだあ⁉︎」

「まずいよこれ、まだ人がたくさん……!」

「……何なの、何なのよアイツ……?」

 

「人間は誰も直接燃やしてないから、うまく逃げれば助かるよ……さて、何人死ぬのかな?」

 

 能力を行使して直接確殺するのではなく、絶望的な危機にさらして生存の可能性と死の危険性の両方を提示する。ダグバとしては、陸人にもたらす希望と絶望のバランスをうまく取った一手のつもりだが、炎に晒される人間側からすればたまったものではない。

 

「死ぬ命と生き残る命が出てくる……フフフ、こういう趣向もたまには面白いね……ハハハ、アハハハハハ!」

 

 ダグバは純粋に楽しげな笑い声を残して一瞬で姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダグバが去り、苦しみ続ける陸人の元に駆け寄る3人。

 

「陸人さん、陸人さん‼︎」

 

 杏が触れた硬質化した頰は冷たく、まるで生物感を感じられなかった。

 どんどん人から逸脱していく陸人に、泣きそうになる己を叱咤し、彼女たちは必死に頭を回して今できることを探す。

 珍しいことに指示を出したのは千景だ。年上であるという意識と陸人の代わりを務めなくてはという義務感から毅然とした態度を無理に保つ。

 

「……伊予島さん、上里さんに連絡して救護の用意を頼んで。こうなると迎えを待つより私たちで彼を運んだほうが早いわ……」

 

「は、はい…………ひなたさん、陸人さんを回収しました! ダグバが何かしたみたいで……医療班を手配してください。これから離脱します」

 

「……土居さん、伍代くんは私と伊予島さんで運ぶわ。あなたは先導をお願い……!」

 

「任せろ! こいつがあれば今のタマでもガレキくらいなら壊せるはずだ!」

 

 盾を拾い、ひなたと連絡して最適なルートを探る球子。あまりにも攻撃的で回りが早い炎に、わずか数分でいくつかの建物が崩落している状況だ。大社職員が出せるだけの人手を総動員して避難誘導に当たっているが、明らかに手が追いついていない。

 やはり今大社に頼ることはできない。球子が道を把握し、杏と千景が両脇から陸人に肩を貸す形で支える。

 

「よっし、あんず! タマは前方に集中する。後ろのことは任せるぞ!」

 

「うん……皆さん! 自分で歩ける人は、私たちの後に続いてください!」

 

 周囲の市民に声を掛ける杏。なるべく大勢で通れるようにガレキを壊して道を作る球子。

 

「……ちょっと伊予島さん。土居さんも……」

 

 陸人が一刻を争うこの状況、千景に言わせれば市民を気遣う余裕などないのだが。球子と杏は迷わず声をかけ、手を貸し、命を救いながら進んで行く。

 

「確かに今優先すべきは陸人さんです。でも死ぬかもしれない人を置いていった結果助かった、なんて陸人さんが知ったらそれこそ絶望しちゃいます……私たちは陸人さんの代わりに、みんなを守るんです」

 

「だいたい千景だって不服そうな顔してみんなを助けてるじゃんか。ホントは自分でも分かってるんだろ? 陸人だったらどうするか、ってさ」

 

 言われて初めて気付く。無意識のうちに後ろを歩く市民のために空いている左手だけで鎌を振るい道を整えている自身に。

 

「……仕方ないわね、大社に連絡しましょう。ルート上の動ける市民は私たちに任せてそれ以外に手を回すようにって……」

 

 力だけを見れば間違いなくただの少女に過ぎない勇者たちは、目につく命に片っ端から手を伸ばし、地獄から引っ張り上げ続けた。今は動けない、自分たちのヒーローのために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……りっくん、みんな……!」

 

 友奈は丸亀城から双眼鏡を使って街の様子を伺っていた。陸人のピンチに駆け出した仲間たちが「危ないから」と車椅子の彼女を巫女の2人に任せていったのだ。ひなたと水都も神託や大社で教えられた非常時対策マニュアルに従って避難指示に専念している。現在丸亀城の教室は対策本部として連絡の中心となっていた。

 戦闘要員としての訓練しか受けてこなかった友奈は、せめて目の数合わせくらいはと、双眼鏡で上から火と人の様子を観察して危険を知らせる役に徹していた。

 

「……あっ! りっくんたち、今集合団地の脇を抜けたよヒナちゃん! あそこなら火も遠いし安全だと思う!」

 

「……はい、こちらでも確認しました……上里です、陸人さんが安全域、B-4に到達しました。大至急向かってください!」

 

 これでひとまず陸人たちは安全だろう。市民も大勢連れて火の海から逃れることができたようだ。

 しかし友奈は双眼鏡越しに見た陸人の様子が気になった。尋常ではない苦しみ方に、スス汚れには到底見えない何かで黒く染まった頰。

 また何かあったのか、自分が戦えれば……先程から気づけば後ろ向きな思考ばかりが浮かんでくる。

 そんな友奈の心情を察したひなたが声を掛ける。

 

「友奈さん、今はやるべきことに集中しましょう。幸い陸人さんたちの安全は確保できました。後は──」

 

「ひなたさん! うたのんと若葉さん、無事引き揚げられたそうです。2人とも意識はないけど大きなケガはしてないって……」

 

 涙目の水都が慌てて割って入る。これで仲間たちは全員無事が確認できた。

 

「……ふぅ、ダグバも今から引き返してくることはないでしょう。後はどれだけの人を無事に誘導できるか……私たち次第で生存者の数が決まります、友奈さん」

 

「うん……気を張ってなくちゃだね。ヒナちゃん、水都ちゃん!」

 

「……うん。一緒にがんばろう、友奈さん!」

 

 頭を振って集中する友奈。今は彼女たちの働きに人の命がかかっているのだ。

 問題を先延ばしにしているだけだ、と誰もが自覚はしていたが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから3時間、神樹の助力と各員の奮闘により、全ての消火が完了した。被害の詳細確認はこれからだが、規模と比較すれば人的被害はかなり抑えられた。

 

 しかしそれでも、樹海が破壊され、今回初めて市民に直接危険が降りかかった。

 さらに勇者たちが手も足も出ずに敗北を喫した。ダグバのほんの数分の気まぐれで、人類側はかつてない痛手を受けることとなった。

 

 大社は対応に追われ、今も本部は慌ただしい。

 そんな本部の一角、もはや専用部屋になりつつある病室に、陸人と勇者たちは集まっていた。

 

 

「陸人……」

 

「そんな顔しないで、大丈夫──」

「……悪いけど、今後一切あなたの『大丈夫』は信用しないことに決まったの。満場一致でね……」

 

「……え、えぇっと……」

 

 ベッドに身体を預ける陸人を勇者たちが囲み、まるで尋問のような状況になっている。

 

「誤魔化すことは許さん。陸人、お前のその身体……やはり融合が進んだんだな?」

 

「……うん。中の方は脳を除いて変質が終了したみたい。外見に出てくるとは……大社の人も驚いてたよ」

 

 意識して軽く話す陸人だが、そんなことでカバーできるような問題ではない。友奈が車椅子を動かして陸人の硬質化した頰に触れる。

 

「りっくん……感覚、ある? 私の手、分かる?」

 

「……ごめん、感じない。目を閉じると何も分かんないや」

 

 その言葉に友奈の瞳に涙が溜まる。不安定気味な彼女の反応に、陸人は慌てて頭を撫でる。

 

「な、泣かないで友奈ちゃん。幸い脳への侵食は進んでないって……ほら、俺は俺のままだろ?」

 

「だけど、もう……りっくんの体は人間とは違うんでしょ?」

 

「あー、まあそうなんだけどさ。でも別に中身が黒かろうが青かろうが困ることはないし……確かに失くして困るものもたくさん失くしたけど、それでも俺はそれ以上に大事なものを守れた。

 俺が後悔してないんだから、みんなが気にすることはないんだよ」

 

「……りっくん」

 

 どこまでも気丈に仲間を気遣う陸人に、勇者たちが言おうとした言葉が止まってしまう。友奈に至ってはついにボロボロと泣き出してしまい、陸人が友奈を抱きしめて背中をさする。

 

「もう、本当にどうしようもないのか?」

 

「うーん、助からないって決まったわけじゃないよ。わからないことが多いってことは、実は助かる道があるかもしれないわけだし……」

 

 その言葉は気休めにもならないことを、口にした本人ですら分かっていた。

 

 

 

 

 

 友奈が落ち着き、千景が車椅子を引いて退室していった。他の面々も激動の1日の疲れが出たのか、今日のところは帰ることに。

 

 皆が病室を出る前に、友奈が離れたタイミングで陸人は1つ聞きそびれていた疑問を口にした。

 

「あのさ、友奈ちゃんの車椅子……アレどうしたの? ケガ?」

 

 まるで()()姿()()()()()()()()()()その言葉に、一同は息を呑む。みんなが知っていたから。陸人が友奈に罪悪感を抱えていたこと、なんとかしたいと願い、模索していたことを。

 

 だからそんな思いすらも忘れてしまった陸人の顔を、誰も見ていられなかった。

 

「……ちょっと色々ありまして。長くなるのでまた今度お話しします。複雑な問題なので、友奈さん本人には聞かないでくださいね」

 

 ひなたが苦し紛れに時間を稼ぎ、少女たちは病室を出る。陸人は首を傾げながら見送るしかなかった。陸人はダグバに敗北してから自室に戻れていない。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それを取り繕うことすら出来なかった。

 

 病室を出た一同は誰も口を開くことなく、その場で解散した。

 

 若葉は鍛錬場で淀みを払うべく剣を振るう。

 歌野は珍しく暗い顔で農作業に励む。

 水都は外の情報を集めては被害の大きさに顔を歪める。

 友奈は病室で陸人の押し花を握り涙をこぼす。

 千景はゲームに没頭し、らしくないミスを繰り返す。

 珠子はひたすらに走り、ひたすらに叫ぶ。

 杏は本を開きながら、文字を追うこともせずに俯いている。

 

 そしてひなたは考える。自分にできる何かを。

 

(陸人さんの運命を変える力は私にはない。ならば私にできるのは……)

 

 誰もが苦しんでいる。どうにもならない現実をどうにかする奇跡を求めて、何も見つけられずにもがいている。

 

 人が死に、街が燃え、勇者の心は沈んでいく。人類の最後の希望、四国は今未曾有の危機に直面していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四国結界から大きく離れた外界、諏訪の上空にダグバはいた。

 

「フフフ……ただ待ってても退屈だし、急かす意味も込めて、派手にやってみようか」

 

 気軽な調子で神の力を全開放。ダグバはその力を世界全てに向けて放つ。

 

 

 

 

 

(──っ! これは、ダグバか? 何をする気だ……)

 

 ──陸人、非常事態だ! 壁の外が──

 

 あまりにも濃密に感じる闇の力に、陸人は病室を抜け出して壁外に飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 天から海に降りる数多の光の柱。それが海の水を恐ろしい勢いでかき回す。

 水平線から太陽をさらに上回る大きさの炎の塊が現れる。大地は揺れ、怪音が響き、世界の悲鳴が鳴り止まない。

 

 

 

 

 

「やめろ! やめろぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

 惨状を見たクウガが、遥か彼方のダグバに必死に叫ぶ。それが届いたのか否か、ダグバは仕上げにかかる。

 

 クウガを運ぶゴウラムが全速で結界内に引き返す。あのゴウラムが命令を無視してでもクウガの安全を優先するほどの危険を感じたのだ。

 陸人は悲痛の叫びをあげながら帰還する直前の一瞬、世界の終わりを目撃する。

 

 

 

 

 太陽が空を覆い尽くし、そのまま地に降りてくる。

 その光が全てを包み、その熱が全てを燃やし尽くす。

 

 

 

 

 天が地に堕ち、その全てを喰い尽くした。

 

 

 

 

 

 

「アハハ、いいね……()()()()()()()()

 

 ダグバにとって、この行為に大した意味はない。暇つぶし、クウガへの釘刺し、後はかつて封印されていた場所が現存しているのが気に入らない。その程度の思いつきだった。

 

 街を燃やすのも、世界を塗り替えるのも、クウガと戦うのも、自分が死ぬのも、ダグバにしてみれば娯楽でしかない。

 神の視点から人類を滅ぼすべき、と結論を出してそのために行動している天の神とは違う。

 ただそこにあるから壊し、そこにいるから殺し、生きているから戦う。

 それが『ン・ダグバ・ゼバ』究極の闇をもたらす者だ。

 

 

 

 

「……ハハハハハハ……アハハハハハハハハハ‼︎」

 

 

 

 

 炎とバーテックスに包まれた世界に、悪魔の狂気が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最高にタチ悪いな、ダグバのやつ。
暗い展開を1話に詰め込んでみました。そろそろ徐々に盛り返していきます。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに。

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