A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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久しぶりに原作イベントを原型に近い形でなぞります。あの微笑ましい思い出振り返りイベントです。これをみんなでやるっていうのもこの作品の目指すところの1つでした……想定外に陸人くんにしわ寄せがいってしまいましたが。


九章3話 想起

 丸亀城の教室、陸人たち8人は大社からの通達に目を通していた。

 先日の火災の被害報告と今後の指針についてだ。

 

「……死傷者の数がずいぶん少ないな。素人考えだが、この程度で収まる規模だったか?」

 

「……大方、勇者に余計なことを考えさせないように改ざんしてるんでしょう。いつものことよ……」

 

「……ったく、アレも嘘、コレも嘘じゃ、もう聞くだけ無駄じゃないか」

 

「大社のやり方に、理がないわけじゃないけど。でも私たちは人間で……世界に都合のいい存在には、なれないもんね」

 

 これまでの秘密主義、隠蔽体質に陸人の件がトドメとなって勇者たちの大社への信用は地に落ちている。それは大社に名を連ねている巫女の2人も同様で、1番大社に友好的なのが当の陸人というのだからおかしな話だ。

 

「ま、まあまあ……次読んでみようよ。今後の行動指針でしょ?」

 

 陸人の言葉に小さく返答し、若葉が書類をめくる。

 アレ以来ずっとこの調子だ。ヘタに自分の感情をぶつけても陸人を困らせるだけ。しかしこのまま何もしなければ陸人はいずれ手の届かない場所に行ってしまう。

 さらに先日の世界の崩壊。衝撃的すぎる光景は勇者たちの心を折るに十分だった。

 

 誰もなにも言えないまま、気まずく重苦しい空気が蔓延している。

 

「一度樹海が破られた以上、次も同じことが起きることは間違いない。今後は神樹がさらに私たちに力を授けることになるそうだ。

 あらゆる手で戦力強化を図りつつ、ダグバとの決戦に備える。今もヤツを追跡し、動向を探っているらしい。

 可能な限り時間を稼ぎ、万一ダグバが襲来してきたら即座に私たちで迎撃……だそうだ」

 

『あらゆる手で』 ぼかした言葉ではあるが、つまりはクウガの進化を求めているという本音は全員が感じとった。

 

「特に新事実もない、予想通りの内容でしたね……」

 

「……で、でもさ、神樹様が直接バックアップしてくれるなら心強いよね」

 

「確かにそうだけど、ダグバは天の神の一部を吸収してるんでしょ? そんな相手にどうやって……」

 

 球子、杏、千景、友奈の4人はかなり参っていた。陸人にぶつけるわけにもいかない不満のはけ口に大社を選び、神樹についても半信半疑だ。

 若葉と歌野も自分のモチベーションを維持するのがやっとで、ひなたも何か考え込んでいる。陸人1人が前向きな言葉を口にしてもこの空気では効果がない。

 

 困りきった陸人がため息をついたところで教室の扉を開けて水都が入ってきた。

 

「あっ、水都ちゃん。おかえり」

 

「……ただいま、陸人さん」

 

「お帰りなさい、水都さん……外はどんな様子でしたか?」

 

「やっぱり閑散としてる。幸い暴動とかはないみたいだけど、代わりに活気もなくて……家にこもってる人が多いみたい」

 

 水都はいつもの保育園や市民の様子を確認しに外出していた。

 大社のマークが厳しい勇者たちやひなたに変わって情報を集める役も兼ねている。

 

 彼女たちはこと情報面に関しては大社を一切信用していない。水都や本部の情報を流してくれている信頼の置ける巫女たちと協力して現状の正しい把握に努めているのだ。

 

「火災現場の方も見つからないように遠目から見てきたけど、あれはもうダメだと思う。完全に更地にして立て直す方が早いんじゃないかってくらいに荒廃してたよ」

 

「そっか……園のみんなは?」

 

「みんな無事みたい……場所が離れてるからね。それでも今日は来てない子も多かったよ」

 

 段階的な大規模避難も計画されているらしい現状、街も死んでいるに近い。この状況を打破できる要素は、皆の頭には1つしか思い浮かばなかった。

 

「ダグバはどうにかして倒さなきゃいけない。だから……」

 

「それ以上言ったら今度はタマがブン殴るぞ、陸人」

 

「陸人さんがいなくなっちゃうなんて、絶対に嫌です」

 

 陸人の言葉に噛み付くように返す球子と杏。ここ数日の間に何度か繰り返した流れだ。

 

「ゴメン、でも……」

 

「……謝るなら、私たちが苦しいって分かってるなら、言わないで……」

 

「もうイヤだよ。りっくんが傷つくのを、黙ってみてるのは……」

 

「…………」

 

 1番大切な存在に言われてしまえば陸人はなにも言えない。しかしその大切な存在を守るためには陸人が戦うしかないのもまた事実。

 今回もまた悲痛な空気だけを残して会話が終わる。

 

 

 

 

 

 

 そこでひなたが前に出る。殊更明るい声で無理やり笑う。

 

「……みなさん、このまま話しても生産的な結論は出ません。気分転換をしませんか?」

 

 そう言ってひなたは大量のメモリーカードを取り出す。

 

「気分転換って……」

「ひなた、それは……」

 

「はい、みなさんとの生活の中で撮りためた写真のデータです。たまには思い出語りも良いのではないかと思いまして」

 

 言いながら手際よくメモリーカードをパソコンにつなげるひなた。みんなで見るために用意したものだ。

 

 ひなたは何も言わないが、その意図に全員が気づいた。彼女は陸人の記憶の抜け落ちを気にしている。自分たちの気持ちとの齟齬を少しでも埋めるために記憶のフォローをしようとしている。

 

「……ひなたちゃん、ありがとう」

 

「あら、なんのことでしょうか?」

 

 笑ってとぼけるひなた。陸人も久しぶりに力の抜けた笑顔を見せる。

 陸人が乗り気になったこともあり、全員でパソコンを覗き込む。

 

 

 

 

 

「お? これは……初めてタマたちが丸亀城に来た時の写真だな!」

 

「へぇ、ってことはみんなまだ小学生か……確かに幼い感じ。なんだか表情も固いし」

 

 最初に出て来たのは丸亀城に連れてこられた当初の7人の写真。困惑を浮かべながらも陸人が球子と杏の手を取って何か語りかけているようだ。

 

「……こうしてみると、伍代くんたち3人は最初から距離感が近いわね……」

 

「侵攻の時も、城に呼ばれた時も、ずっと3人一緒でしたからね。私は特に色々怖くて……2人にくっついてた憶えがあります」

 

(……うん、さっそく記憶にないな。印象的な時間だったはずなんだけどな……)

 

 

 

 

 

 次の写真は7人で初めてうどん屋に行った時のものだ。

 

「……ああ、友奈が香川のうどんが食べたい、と言ったんだったな」

 

「うん。若葉ちゃんとヒナちゃんのオススメのお店に連れてってもらって……すっごく美味しかったなぁ」

 

「あれが今のうどん主体の食生活の始まりでしたね」

 

「む〜〜〜、蕎麦派の私としては複雑ね」

 

「うん、確かに美味しかった……あの時からだね。料理に興味が湧いたのは」

 

 味覚を失ってからは料理をしなくなり、食事も簡素にすませるようになった陸人。彼の気持ちを察した歌野が背中を叩いて笑いかける。

 

「落ち着いたら陸人くんのために香り、歯ごたえ、のどごし、彩り……味覚以外で楽しめる最高の蕎麦を作ってあげるわ。約束する!」

 

「歌野ちゃん、ありがとう……最高の蕎麦、楽しみにしてるね」

 

 ペットにそうするように歌野の頭をワシャワシャと撫でる。歌野も目を細めて受け入れている。それを聞き流せないのはうどん派の面々だ。

 

「ま、待て陸人。そういうことならうどんだって……」

 

「こういう時は、やっぱりヒナちゃんかな?」

 

「フフフ、分かりました。私に作れる最高のうどんをお出しします。楽しみにしていてくださいね、陸人さん」

 

「ありがとう、嬉しいよ。もう食事が楽しくなくて、億劫になって来てたからね……あ、そうだ。良ければ若葉ちゃんのきつねうどんもまた食べたいな」

 

「わ、私か? しかしひなたと比べると私の腕は……」

 

「確かにひなたちゃんは料理上手だけど、俺は若葉ちゃんのうどんも好きだから……ダメかな?」

 

「……し、仕方ないな。そこまで言うなら、やってみよう」

 

「ん、ありがとう若葉ちゃん」

 

 未来の約束を交わして、次の写真へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いくつか日常風景の写真が続く。その殆どを陸人は憶えていなかった。やがて話題は陸人、球子、杏の3人が写っている写真に移る。

 

 陸人が眠っている杏を背負い、球子が手提げ袋を持って隣を歩いている。新しく買った文庫本に夢中になった杏が公園で寝過ごしてしまい、仲間一同で捜索する事態になったのだ。

 

「陸人さんと球子さんが必死に探し回って、杏さんを発見したんでしたね」

 

「そんなことがあったのね……球子さんはコレ、何を持ってるの?」

 

「ああ、陸人が遠くの古本屋を回ってあんずが探してた本を集めてたんだよ。この頃は特に読書熱がすごくて危なっかしいくらいだったからな」

 

「……これは憶えてるよ。部屋で落ち着いて読書してもらおうと思って、杏ちゃんのお目当てを揃えてた帰りに話を聞いて捜索に回ったんだったね」

 

「私も憶えてます。『外で読むなら危なくないように俺も誘って』って言ってくれて。

 それ以来お互いのオススメを読んだり、タマっち先輩に読書を浸透させようとしたり……読書に関して一緒に色々やりましたね」

 

「でもって落ち着いたあんずが陸人におんぶされてるのに気づいて暴れだしてなー、2人でずっこけちゃったんだよな」

 

「……ああ、それであの時妙に汚れてたんだな2人とも」

 

 美しい思い出が勇者たちの胸に小さな光を宿す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマスツリーと共に写る一同。千景が友奈と仲良くなった思い出の日。そして陸人の誕生会の写真だ。

 

 

 

 

 

 

 クリスマスを祝うこともない家庭で育った千景のために子供主導でできるだけのパーティーの準備をしていた時、陸人が不意にこぼしたのだ。

 

「あ、そういえば24日って俺の誕生日だ」

 

 当然一同は驚く。あまりにもあっさりと今思い出したように口にした陸人に呆れるやら驚くやらだ。

 彼は血縁の顔も本当の誕生日も知らない。兄に拾われて日本に来て、最初の祝い事がクリスマスだった。賑わう街に感動した陸人に、雄介がこの日を誕生日にしようと提案したのだ。

 

「……誕生日……誕生パーティー、というものも、あるのよね?」

 

「それならりっくんの誕生パーティーも一緒にやっちゃおう! 何か欲しいものはある?」

 

 そんな友奈の提案で結局仲間たちが自分でプレゼントを選ぶこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 千景にとっては初めてクリスマスパーティーをして、初めてプレゼントを選び、初めて誰かの誕生日を祝った、特別な日となった。

 

(……そうか、部屋にあったプレゼントは、この時のものか)

 

 陸人は記憶にない本やネックレスの由来を確認できた。

 

「この時に陸人さんが色々見せてくれましたね。ダンスとかマジックとか……」

 

「うんうん、すごかったよね!」

 

「……ええ、あの日は、楽しかったわ……」

 

 陸人にその記憶はない。それでも彼女たちの話を聞いて、写真に写る笑顔の自分を見れば失った幸せな時間を感じられる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「ん、この辺りは結構最近のものですね……ほら、歌野さんと水都さんもいます」

 

「あら、これは陸人さんが農業デビューした日ね!」

 

「うん、正確にはうたのんが陸人さんを畑に引っ張っていった日だね」

 

 土にまみれた歌野が陸人と水都に抱きついて、畑に倒れこんでしまう3人が写っている。久しぶりに見込みのある農作業仲間を見つけてテンションが上がっているようだ。

 

「私が農業王になるにはやっぱり頼れる仲間が必要だから、って陸人くんに勧めてみたらスジが良くてねー。でも何度勧誘しても乗ってくれないのよ」

 

「陸人さんはやることたくさんあるからね。それでも時々手伝ってくれてて……」

 

「……うん、多分全部じゃないけど、農作業をした記憶はあるよ。自分が食べるものを自分で育てる。いい経験だったよ」

 

「ふーん、知らなかったな……時々いなかったのはそういうことだったのか」

 

 まばらな記憶の中にも確かに残る感情がある。陸人は命を育む農業という行為に感じた情動をわずかに憶えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の一枚。9人で桜の下で撮った集合写真。花見の席で一同の笑顔の花が咲いている。

 

「タマとあんずが仕切って、弁当も作って……」

 

「桜も満開で、すっごい綺麗で……」

 

「ああ、本当に楽しかったな」

 

「憂いはあれど幸せな時間でした。若葉ちゃんと陸人さんの剣舞、まさに優美そのもので……」

 

「りっくんのギターで、ぐんちゃんと歌ったよね。ぐんちゃん上手でびっくりしたよ」

 

「……そんなことは……高嶋さんこそ、本当に綺麗な歌声だったわよ……」

 

「私たちも頑張ったわよね! きっとアレはお金取れるレベルだったんじゃないかって今は思うわ」

 

「そ、そこまでかは分かんないけど。複合パフォーマンスは、確かにすごく良くできたよね」

 

 その全てを陸人は忘れている。何も言わない彼の態度に全てを悟った少女たちは、少しでも想いを共有するべく記憶を細かく語り合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう、覚えてないこともあったけど、本当に楽しかったよ。俺はみんなと過ごした時間が、これ以上なく幸せだったんだ」

 

 幸せな時間を振り返り、勇者たちの雰囲気は少しだけ明るくなった。根本の解決にはならないながらも、陸人の言葉は先程よりも少女たちの心に響いている。

 

 陸人の前向きな言葉に気持ちが上向きになる。

 陸人の未練を感じない言い方に切なくなる。

 

「今日はここまでにしよう。ひなたちゃん、本当にありがとね」

 

「……少しでもお役に立てたなら、嬉しいです」

 

 陸人の笑顔に心が温かくなる。

 陸人の後ろ姿に不安を覚えてしまう。

 

 

 

 

 相反する2つの感情が少女たちの精神を不安定にする。

 希望の光はまだ、彼女たちには見えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大社本部、資料室。真鈴は1人研究を続けている。陸人の状態を知ってから、大社総動員の避難誘導を除いた全ての時間をクウガの研究と例の神託の解析に費やし、かれこれ3日、資料室で過ごしていた。

 

(……やっぱりおかしい。過去の陸人くんのレントゲンや脳波。統合してみると進行の規則性が見えてくる。それに従えば今回の進行で間違いなく脳を侵されて陸人くんは終わってた……)

 

 真鈴が引っかかっているのは今回ダグバによって強制的に融合が進行させられた陸人の体の変質具合だ。全ての記録を洗ってみると、外側が変質するのに段階を踏むというのはおかしい。脳を侵食することで融合は完成し、それと同時に人の外見も完全になくなるはずだったのだ。

 なのに今もなお陸人の脳は無事で、彼の人格は健在なまま中途半端に外側が変質している。

 

(……もしかして、あの神託って……希望的観測が過ぎる、願望に近い分析だけど、もしそうだとしたら!)

 

 1つの予想、彼女自身の願いが多分に混じった光明を見出した真鈴のもとに、新たな神託が降りる。その考えに辿り着いたことへの褒美のように、神から新たなヒントが与えられたのだ。

 

(……これは……そっか。なら、いけるかもしれない……!)

 

 陸人から教わった、諦めない心。それが巡り巡って陸人を救うための力になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここから絶望の中の希望を掴み取るフェイズに移行します。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに。
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