A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
みーちゃん誕生日おめでとう! 前話と順番逆にすれば良かったかな?
余談ですが、このサイトで大好きなゆゆゆ二次がとんでもない展開になってきて、衝撃を受けています。
あの作品と比べれば私が描く絶望度合いは大したことないのでは……なんて考えて、いやこういうのは相対評価ではないだろう、と思い直し……なんだか無駄に苦悩しました。
私は私にできる表現で描きたい話を作ろうと思います。
朝稽古を終えた若葉が城の前で見たのは、掃除に励む陸人の姿だった。
「おはよう、陸人……朝から掃除とは精が出るな」
「若葉ちゃん、おはよう。暇でうろついてたらゴミが目に付いちゃって。
もう──いや、長く過ごした俺たちの拠点なのに、改めて大掃除とかってしたことないなと思って。今大規模なことはできないけど、せめてこれくらいはね」
陸人はうっかり漏れそうになった本音を隠して笑顔を作るも、若葉は陸人が誤魔化した言葉が聞こえた気がした。
『もう──ここには戻れないかもしれないから』
若葉は何も言わず、陸人が用意した掃除用具から箒を取り出し、陸人と並んで掃除を始めた。
「若葉ちゃん?」
「ここには私も世話になっている。2人でやったほうが効率もいいだろう」
根が生真面目で手を抜けない2人は、じっくりしっかりと清掃活動に勤しむ。
「ふむ、あまり汚れてはいないな」
「大社の人が定期的に掃除してるからね……でも最近はそれどころじゃなかったから、探せばゴミはあるよ」
丸亀城の周囲の掃き掃除を終えた2人は、そのまま城内へ。2人で全て綺麗にするには広すぎるため、頻繁に使う教室とその周辺の清掃をすることに。
「ふむ、こちらもそれほど……ん? これは球子のものか?」
「それは……文庫本?」
教室の掃除中に若葉が見つけたのは一冊の文庫本。球子の机を動かした時に中から出てきたようだ。
「ああ、そういえばかなり前に……杏が貸した本を球子がなくしたとかで揉めていたことがあったな。珍しく杏が激怒していて、機嫌を直すのに3日かかったんだ」
陸人は思い出せない。どうやらこれも失くした記憶の1つらしい。
「そうなんだ。球子ちゃん、授業中も机の中なんて見ないし使わないから……そこに入れたまま忘れてたんだね」
呆れたように嘆息する陸人。とりあえず夜にでも持って行ってあげようか、と笑う彼に若葉は複雑な顔で本を渡す。
(2人の関係回復に1番尽力したのは……お前なんだぞ? 陸人)
今更蒸し返すこともできず、若葉は掃除を再開する。どうしようもないことだと納得するには、どうしようもないことがあまりに多すぎる。
これ以上余計な思い出を掘り出す前にと、若葉は手早く作業を済ませていく。首を傾げながら陸人もそれに合わせる。
一通り教室の掃除を終え、階段を降りるところで陸人が壁に入った傷に目を留める。
「ああ、この傷は──」
「若葉ちゃんが階段から落ちそうになったひなたちゃんを助けた時の傷だよね」
「……! そうか、憶えているのか」
まだここでの暮らしが始まって間もない頃、慣れない環境と不思議な修行による疲労から、ひなたが体調を崩したことがあった。各々が何とか慣れようといっぱいいっぱいだったこともあり、ひなたは何でもないように振舞って、いつも通りに大社に向かおうとした。階段を降りようとした時、体の力が抜けたひなたは足を踏み外し、階段を転げ落ちそうになる。
その瞬間を階下の真横から目撃していた若葉は、瞬時に勇者に変身。隣にいた陸人を置き去りに猛スピードでひなたの正面に疾走した。掌底を打ち込むような勢いで壁に片手を打ち付けて急停止し、ひなたを抱きとめる。数秒粘った後に不安定な体勢の限界が来て、倒れ込んだところを出遅れた陸人が押さえてどうにか誰も怪我せずに済んだ。
「いやー、あの時は本当にビックリしたよ。若葉ちゃんが消えたと思ったらひなたちゃんの目の前にいたんだから」
「ううむ、ああするしかなかったとはいえ……勇者の力を使い、城に傷をつけてしまった。恥ずかしい話だ」
「そう? すごくカッコよかったと思うよ、俺は」
そう言われても若葉は複雑だ。ひなたを救えたのは良かったが、もっと早く気づいて彼女の傍にいればこんなことにはならなかった。まだ試作状態だった勇者システムを唐突に使って不具合を発生させ、軽々しく勇者の力を使わないように、と大社から注意を受けた若葉としては、あまり振り返りたくはない思い出だ。
陸人に残っている思い出の話ができたのは嬉しい。できればもう少し素直に喜べるような話が望ましかったが、陸人だって記憶の取捨選択が出来るわけではないのだから仕方ない。
「若葉ちゃんは真面目でお堅いところはあるけど、いざという時に規則や正論より大切なものを間違えずに判断できる。だからこそ君は、俺たちのリーダーなんだよ」
相変わらず何かにつけて自分を褒め称える陸人に、若葉は非常に複雑な心境を隠して、とりあえず笑ってみせた。
続いて2人がよく利用する練習場の掃除をすることに。手慣れた動きで周囲の清掃を終えたところでひなたがやってきた。
「お疲れ様です。いい時間ですし、お昼にしませんか?」
「ひなた……おにぎりか、ありがとう」
「ありがとう、ひなたちゃん。それじゃ、お昼にしようか」
場内でひなたのおにぎりを食べる3人。陸人用として渡されたそれには、総じて辛味の強い味付けがされていた。ラー油、ワサビ、柚子胡椒等を用いて辛味を追求した品だ。
「ひなたちゃん、これは……」
「あら、やはり辛味は効くんですね。良かったです、色々試した甲斐がありました」
辛味は味の一種だが、感覚でいうと味覚ではなく痛覚に分類される。今の陸人でも辛味は痛みとして感じることができる。厳密には辛味そのものを感じているわけではない陸人だが、味のないガムを噛み続けるような通常の料理よりもはるかに刺激的で楽しい食事だった。
「ほう、それなら私も1つ食べてみたいな」
「あ、若葉ちゃんも食べる? はい、アーン……」
「……えっ……ぅ、うむ……んぐっ! すごいなこれは……」
若干硬直しながら差し出されたおにぎりに小さくかぶりつく若葉。通常の味覚の持ち主である若葉にはいささか刺激が強かったのか、むせかえって水を飲む。
「アハハ、やっぱり辛いよね……でも美味しいよ。ありがとう、ひなたちゃん」
笑って若葉が口をつけたおにぎりを頬張る陸人。久々に刺激を感じられる食事に気分が上がっているようだ。まるで気づいていない。
「──あっ!」
「若葉ちゃん……間接キス、ですね……フフッ」
「ひっ、ひなたぁ!」
「あらあら、私に怒られても困ります。差し出したのも食べたのも陸人さんですよ」
「……も、文句など言えるか。あんな楽しそうな陸人に……」
聞こえない声で何やらワタワタしている2人をよそに陸人は幸せそうな顔で久しぶりに満腹になるまで食事を楽しんだ。
「んー、練習場はいつも使った後に整備してるしね」
「そうだな、たまには雑巾がけでもやるか。私達ならこの広さでも2人でやれるだろう」
「では私は窓拭きをしましょうか。そこまでは普段手が回りませんからね」
ひなたも加えて清掃を再開。水回りを掃除した陸人が2人に遅れて場内に入ったところで事件は起きた。
入り口に背を向けて雑巾がけをしている若葉。窓際に据え付けられた収納の上に乗って四つん這いで窓枠を拭くひなた。
制服姿の2人。決して長くはないスカートの奥が見えるか見えないかの一瞬で陸人は180度回転。
「わ、若葉ちゃん! ひなたちゃん!」
訝しげな声で返す2人。可能な限り婉曲で、かつ意味が通じる言い方をとっさに考える。
「……スッ、スカート!」
「「⁉︎」」
その指摘に慌てて立ち上がりスカートを抑える2人。反射的に雑巾を陸人に振りかぶり、あまりに理不尽なことをやろうとしている自分に気づいて脱力する若葉。顔を赤らめてチラチラと陸人に視線を送るひなた。
3年以上の共同生活の中でもこの手のトラブルはほとんどなかった。陸人が気を遣い続けた成果だ。なので一度こういった空気になると不慣れな陸人にはどうすることもできない。
背を向けたまま固まる陸人。それでも慌てて立ち上がったひなたが1mほどの高さの収納から足を踏み外したのは、感覚で掴めた。
若葉が反応するよりも早く、陸人は一瞬でひなたの元に飛び込み、姫抱きの形で抱きとめてみせた。
「──っと、大丈夫? ひなたちゃん」
「……は、はい……ありがとう、ございます」
無事なひなたを見た若葉が安堵の次に感じたのは驚愕と悲嘆。特別な力を使わずとも勇者に匹敵する身体能力を振るってしまえる陸人に驚いた。それをなんとも思っていない彼の在り方がどうしようもなく悲しかった。
「……若葉ちゃん?」
「──っ! このままでは差し支えるな。着替えてこよう」
陸人と目が合うと、羞恥と痛々しさから若葉は背を向けて離れていく。その内心を窺い知れない陸人の気をそらすために、全てを正しく把握したひなたが声をかける。
「陸人さん? そろそろ下ろしてもらえると……」
「あっ! ご、ごめん……」
優しく下されるひなた。怪我がないか確認しようと真剣に自分を見つめる視線が気恥ずかしくて、ついついからかってしまう。
「やっぱり陸人さんも男の人なんですね……びっくりしました」
「うぇっ⁉︎ いや、そんな……」
「そういうことに興味があるなら言ってくださればいいのに」
「ひ、ひなたちゃん!」
「冗談ですよ。丸亀城にその手の経験がある人はいませんし、やはり男性がリードするべきでしょうね」
からかわれていると分かっていても翻弄される陸人。それを見てひなたはようやくさっきの動揺と羞恥を流すことができた。いかに彼女が成熟した精神の持ち主でも、年頃の女子であることに違いはないのだから。
色々と気まずい雰囲気のまま掃除を完了。片付けも終わったところで唐突に若葉が口を開いた。
「陸人、私はお前の力になりたい」
「若葉ちゃん?」
「次の戦い、私はお前のために戦う、勇者としては失格かもしれないが、今の私にとって1番大切なのは陸人の未来だ。大義名分よりも力が入る理由を胸にダグバを倒す」
「……らしくないこと言うんだね、若葉ちゃん」
「私自身驚いているよ。使命感や責任意識がなくなったわけではない。だがそれ以上に大切なものがある……人間というのはそういうものだろう?」
「……俺に必要なのはそれ、ってことなのかな?」
ひなたは口を挟まない。若葉は口下手なりに言葉でしか伝えられないことを伝えようと言葉を尽くす。
「陸人は陸人の答えを出せばいい。ただ、これだけ言わせてくれ。
この先何があっても私はお前を1人にはしない。どんなに遠くに離れていっても……必ず私の翼で追いついて、力尽くでも連れ戻す。邪魔するものはダグバだろうが天の神だろうが切り捨てる」
その宣誓に一切の迷いはない。陸人のために。陸人と自分たちの未来のために。それが若葉のリーダーとしての決断だった。仲間たちに気を遣われ、それでも迷い続けている陸人にとって、若葉の覚悟は眩しく映った。
「本当にすごいな、若葉ちゃんは……」
「私が変われたのは陸人のおかげだ。そのお前が、私にできたことをできないはずがない。今まで私たちに教えてくれたこと、かけてくれた言葉……覚えている限りでいい、思い出してくれ」
迷子のような眼でこちらを見つめる陸人を、優しく抱き寄せて頭を撫でる若葉。硬直して動けない陸人。自分からは同じようなことをみんなにするだろうに、と呆れてしまう。
いつもと逆だな、と苦笑しながらやっとリーダーらしいことができた気がして、若葉は少しだけ自分が誇らしかった。
その夜、陸人はひなたに呼び出されて彼女の部屋にいた。仲間内で最も言葉を使うのが上手い彼女と一対一で話すのは避けたいところだったが、友達の誘いを理由なく断ることなど陸人には不可能だ。
「陸人さん、耳掃除いかがです?」
「……え?」
「煮詰まって肩に力が入っているように見えたので……耳掃除には自信があるんです、少しは楽になるかもしれませんよ」
「いや、いいよ。俺よりも若葉ちゃんとか──」
「やっぱり陸人さんは私のことが嫌いなんですね……うぅ……」
「あ〜もう、分かったよ! 耳掃除お願いします!」
涙も流さず泣き真似をするひなた。このパターン何度目だろう、と自嘲しながら、陸人はまたしてもひなたに押し切られてしまった。
ドギマギしながら横になる陸人は見逃していた。ひなたの眼が本気の輝きを宿していたのを。
「……う、うぅん……すごいね、ひなたちゃん」
「フフフ……膝の上でなら、私は誰にも負けない自信がありますよ」
さしもの陸人もひなたのテクニックには抵抗できず、夢見心地でフワフワしている。珍しく子供らしい表情を覗かせる陸人に、少しドキッとした心をごまかして余裕な顔を作るひなた。
「はい、こちら側は終了です。もう片方もやりますから、こっち向いてください……ほら、コロンって」
「……うん──ってうおっ⁉︎」
ひなたのささやきに無意識に従った直後、陸人は目の前の光景に驚愕する。正面にひなたの腹部、視界の端にはスカートから伸びる生足、少し見上げれば年齢不相応に豊かなバスト。その手の耐性がまるでない陸人は一瞬でオーバーヒートした。
「ひゃんっ⁉︎ き、急に動かないでください……危ないですよ」
「ご、ごめん。でもこの体勢は良くないよ。俺が移動するから……」
「いいですから、こういうものなんです。私に気を遣わず、楽にしていてください……ね?」
ひなたに抑えられて起こした上体を戻す陸人。仕方なく眼を固く瞑る純情な彼が可笑しくて、ひなたは笑った。耳掃除をするうちに緊張もほぐれていき、それに比例して口も開くようになる陸人。
「いつもありがとう……ひなたちゃんがいたから、俺はずっと頑張ってこれたんだ」
「そんなこと……私がこうしていられるのは陸人さんの尽力の結果ですよ。これからも一緒にいてくださいね」
別れの挨拶にも聞こえてしまう言葉に思わず前のめりになって返す。陸人としてはその気はないのかもしれないが、無意識に後腐れのないよう言葉を選んでいるような気がして、ひなたはそれが怖かった。
耳掃除を終えてもひなたは陸人を起こさず、あまりの心地よさに陸人も起き上がれずにいる。
「陸人さん……以前の約束、憶えていますか?」
「……やく、そく?」
「陸人さんが1人で諏訪に行った時に、私と約束してくれたんです。
陸人が忘れてしまっていることを利用して、少し脚色して伝える。陸人を引き止めるためならひなたはいくらでも強かになれる。
「……そりゃ、友達を泣かせようなんて思わないさ」
「そうですか……ならずっと傍にいてください。陸人さんがいなくなったら、私は泣きます。それはもう号泣しますよ? いいんですか?」
「……ひなた、ちゃん……」
「私には陸人さんが必要なんです。あなたがいて、若葉ちゃんがいて、みんながいる。そうじゃなきゃ、私はもうダメなんです。そんな風にしたのは陸人さんなんですから、責任とってくださいね」
「ごめん……あり、が…………」
最後まで言い切るより早く、陸人は夢の世界に旅立った。それなりに乙女的勇気を出したつもりの言葉を半分寝ながら聞いていたのかと思うと、少しイラっとする。
その憤りのままに、陸人に顔を近づけていく。
「ひどい人……こんな気持ちにさせておいて、何も気付かずに遠くに行こうとしている」
"いつもの上里ひなた"の仮面をかぶってごまかしたが、奉火祭のことはひなたもすでに聞いていた。その焦りが、本来の彼女らしくない行動に走らせている。
「……いけませんね、こんな時こそ私がしっかりしないといけないのに……」
後数cmで唇が重なるというところで、ひなたは停止した。相手が眠っていなければ自分の気持ちも伝えられない自分に、その資格はないのではないか。
そんな風に考えて、脳裏に浮かぶのは出会った時から彼を見つめ続けていた2人の友達の姿。球子も杏も、想いを伝える決意を既にしているようにひなたには見えた。
(お2人は気持ちを伝える覚悟がある。こんな形で横入りするのは、さすがに卑怯ですよね)
「ほら、陸人さん……眠るなら自室にしてください」
「……ん、んぅ──うわあっ⁉︎」
あまりに近距離にいたひなたに、大慌てで飛び起きる陸人。さっきのやりとりもどこまで憶えているものか。
「耳掃除も終わりましたし、少しは休息になりましたか? 陸人さん」
「あ、ああ……ありがとう、ひなたちゃん……ってもうこんな時間か! 長居してごめん、また明日ちゃんとお礼はするから!」
夜遅くまで女子の部屋に入り浸っていた事実に慌てて、部屋を飛び出す陸人。ひなたは苦笑しながら手を振って見送る。
「私が望むお礼は、あなたの無事……それだけです」
高鳴る胸に手を当てて、ひなたは世界に祈りを捧げる。
(はっきりとこの想いを伝えるためにも、どうか、陸人さんを……)
この時ばかりは、上里ひなたは神樹の巫女ではなく……ただ1人の女の子だった。
うーむ、難産でした。そしてまたしてもひなたちゃん贔屓が入った気がする。
感想、評価等よろしくお願いします
次回もお楽しみに