A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
キャラ崩壊著しいかもしれません…お気をつけください……マジで
「おはよう、陸人! さあ朝ご飯の時間だぞ」
朝一番、陸人は部屋から出た直後に球子に捕まった。普段なら彼女はまだ寝てる時間だ。それが身支度もしっかり整えて待ち伏せしていれば陸人も驚く。
「おはよう球子ちゃん……どうしたの? 今日ってなんか予定あったっけ?」
「ふふん、陸人が今日ヒマなのはちゃーんと分かってるぞ! 今日一日陸人はタマたちと遊ぶんだからな!」
「えっと……とりあえずその"タマたち"っていうのは球子ちゃんと杏ちゃんでいいのかな?」
「そう、2人で計画してきたからな。陸人も目一杯楽しめるはずだ」
そこまで聞いて陸人はこの場での詮索をやめた。杏も噛んでいるならそちらに聞いた方が話が早い。何やらテンションが上がっている状態の球子と話しても要領を得ないのは実証済み。これも長い付き合いゆえの信頼関係というものだ。
「ほらほら、行くぞ陸人! 1日の元気は朝のうどんからだ!」
「そんな引っ張らなくても行くってば、球子ちゃん」
球子の魅力は無自覚に他者に元気を分け与えてしまうところだ。呆れた顔をしながらも、陸人は笑顔になっていた。
食堂で杏と合流。うどんを食べながら予定を聞く。どうやら今日は3人で街に出て1日遊ぼうということらしい。
「陸人さんも行きたいところある? 予定には余裕を持たせてるから、そんなに遠くなければ……」
「んー、特には……あ、朝のうちに行っておきたいところがあるんだけど、いいかな?」
「もちろん大丈夫だよ。それでどこに……」
「今まで誰も連れてきたことなかったからね。2人を紹介しておきたいんだ」
陸人は変わらず笑顔で、杏も変わらない笑顔を維持している。
杏は陸人の笑顔が大好きだ。見ている人に安らぎと暖かさをもたらすその笑顔に、最近は何か別の、儚く脆い感情がこもっている気がして、勇者たちは漠然とそれを恐れている。
みのりの墓の掃除に取り組む3人。陸人が2人を連れてきたのは家族の墓参りだった。
ここに墓が建てられてから3年、陸人は月命日には欠かさず花を備えていた。それでも、これまで一度たりとも誰かを誘ったことはない。
陸人は仲間にも言えない本音や弱気をここでたまに吐き出している。陸人にとってここは聖域と言ってもいい。ならばなぜ、今回2人を誘ったのか。球子は首をかしげるだけで終わってしまったが、杏は理解できた、できてしまった。
(陸人さん……自分がいなくなっても、この墓を私たちに守ってほしくて……)
大社の土地である以上、放っておいても最低限の整備はされるのだろうが、やはり信頼できる仲間に家族の墓を任せたい。一度連れていけば明言せずとも彼女たちなら分かってくれる。そんな形の、杏たちにとっては嬉しくない頼り方で、陸人は仲間に甘えを見せていた。
「陸人さん。私、お墓掃除ってやったことなくて……教えてもらっていい?」
「ん? うん、それじゃまずは──」
「待て待て、タマにも教えてくれよ」
3人で仲良く墓掃除。杏はこれを最後にするつもりはまったくない。
(来月も、その先も……陸人さんと一緒に。どこにだって……!)
「さっそく俺の用事につき合わせちゃってゴメンね。今日はどこに行くの?」
「フフン、まずはタマの得意分野だぞ! 久しぶりに遊びで思いっきり体を動かすんだ!」
朝からテンション上がりっぱなしの球子に連れられて訪れたのは複合スポーツ施設。
「……あれ? お客さん、いないね」
「ん? うーん、まあそういうこともあるだろ」
陸人だけが知らないことだが、勇者として顔を知られている彼らが気兼ねなく楽しむために、今日行く予定の場所は大社に頼んで貸切状態にしてもらっているのだ。
元々今の市街に活気がないこと、杏がクウガのメンタルケアのためにと大社を丸め込んだことで可能となった。
首をかしげる陸人の背中を押していく球子のテンションは最高潮だ。
バッティングセンターで──
「よっし、ホームラン! 見てたか陸人ー!」
「えっと、こう握って、足はこう……ひゃっ! り、陸人さん……」
「はいはい、力抜いてー。ここは球速遅いコースだからよーく見てね」
「──ってこっちも見ろよー! 陸人、あんずも!」
「……えいっ! ……あっ、やったぁ! 当たったよ陸人さん!」
「うんうん、杏ちゃんももう自分で思ってるより鍛えられてるはずだよ。自信持って」
「聞けってばー! おーい!」
持ち前の運動センスでバシバシ打って得意げな球子。その横ではバッティング初体験の杏に手取り足取りレクチャーを施す陸人。
超接近状態に顔を赤らめながらも杏は何とかヒットさせた。3年の訓練が文学少女を変えたのだ……横では球子が複雑な顔をしていたが……
ボウリング場で──
「フフン、ここでもタマが1番取るぞ……って、アレ?」
「──っし、ストライク! 悪いね球子ちゃん。俺もボウリングは得意だよ」
「よーし、そんじゃ勝負だ! 負けた方がジュースおごりな!」
「うーん、私じゃ混ざれそうにないし……隣のレーンで練習してようかな」
珍しく熱くなっている陸人と球子の一騎打ち。他のお客さんがいなくて良かったなぁ、と杏は他人事状態でのんびり見ている。
結果は2勝2敗1分け。互いにジュースをおごりあう形になった。
屋内コートで──
「テニス、バドミントン、卓球台もあるね」
「バドミントンがいいんじゃないか? アレならあんずとやったことあるし」
「うん、バドミントンならできるかも。当たっても痛くないし」
「判断基準がおかしいような……うん、それじゃ3人でラリーしようか」
緩やかにラリーを続けながら、3人は和やかに会話を広げる。
「さっきも思ったけど、あんずも結構動けるようになったな!」
「それはまあ、戦う訓練してたわけだし、ね!」
「日常生活でもある程度は体力あった方がいいしね。今後もトレーニングは続けるといいよ」
「……それなら、また陸人さんがメニュー考えてくれる?」
「んー、そうだね。落ち着いたら新しいの組もうか」
「その時はタマも一緒だ! 3人で頑張ろうな!」
時折空気が重くなったりもしながら、3人は子供らしく爽やかな時間を過ごした。
続いて杏が選んだ場所は小洒落た雰囲気の喫茶店。『ポレポレ』という店名のようだ。
「杏ちゃん、ここは?」
「この前たまたま見つけたお店なの。すごく美味しくて、店長さんも面白い人で……いい店なんだよ」
店内も華美でない程度に明るく、居心地のいい内装。カウンターの奥にいた男性が陸人たちを見て声を上げる。
「おっ! いらっしゃい、杏ちゃん。今日はお友達も──って! も、もしかして君……伍代陸人くんかい⁉︎」
「えっと……はい、伍代陸人ですが……」
「かぁー、こりゃたまげた! しかもそっちの子は土井球子ちゃんじゃないか!
杏ちゃんが来てくれただけでもびっくりしたのに、勇者さんが3人も来てくれるなんて……いきなりごめんね。良かったらサインしてもらえる?」
なにやらテンション高くまくし立てる男性。あの球子さえも圧され気味だ。
「おやっさん、陸人さん困ってますよ……こちら、ポレポレのマスターさん、おやっさんって呼ばれてるの」
「おっと、これは失礼。オリエンタルな味と香りの店、ポレポレにようこそ……俺のことはどうぞ、おやっさんと呼んでちょうだい」
それなりに高齢に見えるが、飄々としてバイタリティを感じさせる男性、おやっさんは冗談っぽく笑いかける。
「……おお、これはすごいな。タマたちの記事がたくさんだ。雑誌の特集も、新聞の切り抜きもある」
「うーん、改めて見るとちょっと恥ずかしいね。しかし、こんなに取材受けてたんだなぁ、俺って……」
「私も、始めて来た時に見せてもらってビックリしたよ。一応変装してたのに一瞬でバレちゃったし」
「フッフッフ……何を隠そうこの私、勇者のみんなの大ファンでね! 報道が出てからずっと応援してたんだよ」
注文したカレーができるまでの間、3人はおやっさん自慢のスクラップブックを見せてもらっていた。そこには勇者やクウガについての記事がまとめられていて、個々の写真もあり、嬉しいやら恥ずかしいやらだ。
「最近はニュースも暗いこと言ってるし、この前の火事も……勇者を悪く言う人も出て来てるみたいだねぇ」
「そう、ですね。実際、死傷者も出てしまっていますから」
「確かにそれはそうだ、忘れちゃあいけない。でもそれは決して君達が悪いわけじゃないだろ? 火をつけたのも人を殺したのもバケモノがやったことだ。
君たちにしかできないからって子供に危ない役目押し付けて……他人事でなにもしなかったくせに、危険が自分たちに向いた途端に被害者ヅラってのは大人としてどうかと思うよ」
「……ぁ……」
おやっさんが勇者を応援していたのは、それくらいしかできることがなかったからだ。勇者の記事を見つけては切り抜き、来る客に見せては勇者の凄さをアピールして、少しでも彼らを応援してくれる人を増やそうとしてきた。その成果もあり、この近辺では特に勇者人気が高い。
「杏ちゃんには前に言ったけど、改めて……いつもありがとう、この店をやっていけてるのも、君たちのおかげだよ」
「おやっさん……」
「……さ、今日は奢りだ! 最高のカレーを食べてってちょうだいな」
味だけではない。香り、彩り、何より作り手の暖かさが染み込んだカレーが、舌が効かない陸人に束の間の安らぎをもたらした。
「いいお店だったでしょ?」
「うん。なんていうか、全部が暖かい場所だったね」
「ああいう風に応援してくれてるのは、なんか嬉しいよな」
「ああ、楽しかったよ……それで、今度はどこに?」
「すぐそこだ。腹も膨れたし、買い物の時間だぞ!」
「デートの定番、ショッピングです」
男女比1:2の現状をデートと呼ぶのかは疑問だったが、なるほど確かに、と陸人は納得した。
大型ショッピングモール。大抵のものはここで揃う、香川有数の大規模複合店だ。実はひなたに連れられた擬似デートも大概ここだったりする。
「今日はなにを買いに来たの? 俺に分かるものならいいんだけど……」
「もちろん陸人に選んでもらうために来たんだ。今日はなにかお揃いのものを買おうと思ってな」
「アクセサリーとか、小物とか。なにか御守りがわりに持っていたいなって……陸人さん、どうかな?」
やはり2人にも心配されているようだ。そんなに今の自分は危なっかしい顔をしているのか……陸人は苦笑しながら答える。
「うん、いいんじゃないかな。じゃあ男女がお揃いで持っていておかしくないもの……あ、みんなの分は──」
「あ、あ〜……今回は3人だけってことで……」
「み、みんなのものはまた全員の意見を聞いてからにしましょう」
なにやら歯切れ悪く誤魔化す2人。とりあえず今日は3人の分を、ということで店内をみてまわるも、どういったものがいいかよく分からない。
店を歩き回って小一時間、端末で店を検索する杏の目に、乙女心センサーに引っかかる一文が飛び込んできた。その様子に気づいた陸人が、若干抵抗する球子を引っ張ってその目的の店に入っていく。
その店はアクセサリーとしてのドッグタグを扱っていて、その場で希望の内容を刻印できるというサービスを売りにしていた。個人情報を入れるか、プレゼントとしてメッセージを刻むのが一般的だが、この店には嘘か真か面白いジンクスがあるらしい。
(思いの丈を刻印して、共に過ごしながら相手に読まれなければその想いが届く、かぁ……)
ありきたりと言えばありきたりで学生受けしそうな噂話だが、杏だけでなく球子も興味があるようだ。ドッグタグなら誰がつけていても違和感はない、陸人としても反対する理由はなかった。
「それじゃ、ここでやってもらおうか。1人1つならそれほど高くはならないし」
「うん! どんなのがいいかなぁ」
「えっと、こういうのってやっぱ英語だよな。なんかそれっぽい文、検索したら出て来るかな?」
すでに半分くらい妄想の世界に行ってしまっている杏と、端末片手に唸っている球子。陸人も刻印内容を考えながら好みのドッグタグを探す。
(んー、せっかくだし杏ちゃんが好きそうな名作文学から取ろうかな)
その後少しして、3人がそれぞれ注文した刻印入りのドッグタグを無事に購入。早速見られないように首にかけて服の内側に隠す。
(なんか聞いたことあるし、響きもいいし。タマ、すごくセンスいいんじゃないか?)
"Stand by me forever"
調べたら出てきた聞き覚えのある言葉を直感で選んだ球子。なんだかんだ彼女の想いから外れてはいないのがすごいところだ。ちなみにすごく大雑把なフィーリングしか球子は分かっていない。
(ちょっと大胆だったかな……ううん、見られなければいいんだもん。そう、見られないようにすれば……!)
"I can't live without you"
杏の乙女心が込められた一文。どこか文学的な言葉だが、間違いなく彼女の本心だ。今更になって顔を赤くしている杏は、何が何でも隠し通すことを決意した。
(……うん、いい感じにできたかな。どっちに転んでも、悪い意味にはならないし)
陸人が刻んだメッセージは、少し毛色が違った。店員も2人と温度差がある一文に、少し訝しげにしていた……まあそもそも中学生の男女が3人でこのサービスを利用すること自体がおかしいのだろうが。
「よし、なかなか良いものが手に入ったよ。ありがとう2人とも」
「タマもちょっと恥ずかしかったけど、楽しかったぞ」
「うん。今日はもう遅いし、帰ろうか」
寮に帰る頃にはすっかり暗くなっていた。陸人は、名残惜しさを感じている自分に驚き、思った以上に楽しかった時間を振り返りながら笑顔を作る。
「今日は本当に楽しかった。ありがとね、2人とも」
「……あの、陸人さん」
「陸人、ちょっと待ってくれ。大事な話があるんだ」
口ごもる杏をフォローするように、球子が力強く陸人を引き止めた。アイコンタクトを交わして頷く2人。その真剣な表情に、陸人も思わず力が入る。
球子が一歩前に出る。どうやら彼女が先らしい。
「陸人、今日は楽しかったよな……今日だけじゃない。これまで色々やってきて、タマはすごく楽しかった」
「……ああ、忘れてても心に残ってる。球子ちゃんたちとの日々は、楽しかったよ」
「最初はこの気持ちがなんなのか、よく分かんなかったんだ。陸人は優しくて、タマみたいな子を女の子として扱ってくれて、信じてくれて、信じさせてくれた。
親友だって思ってたこともあった……でももうダメだ。それじゃタマはダメなんだよ」
「……球子ちゃん?」
大きく深呼吸して、球子はありったけの想いを叫ぶ。
「陸人──好きだ‼︎」
「……!」
「1人の女の子として、タマは陸人っていう男の子が大好きなんだ! 錯覚でも勘違いでもない。これがタマの初恋で、人生一番の恋だ‼︎」
球子がなにやらスッキリした顔で笑っているのに対して、陸人は目を見開いて固まっている。完全に予想外の状況に頭が追いついていない。
そんな2人を見て、覚悟が固まった杏が前に出て来る。
「陸人さん……」
「あ、うん……どうしたの杏ちゃん」
「前にお話ししたよね。タマっち先輩が王子様で、陸人さんが騎士様だって話……」
「ああ、それは覚えてるよ。杏ちゃんは球子ちゃんや俺に憧れてくれてて、これからも仲良く──」
「そうじゃないの。それだけじゃないんだよ、陸人さん」
ずっとイメージしてきた。その通りに胸の内をぶつければいい。今の杏に恐れはない。
「好きだよ、陸人さん……私はあなたに、心から恋をしています」
「──ッ‼︎」
「タマっち先輩が自覚するよりも、戦いが始まるよりも前から……ううん、今にして思えば一目惚れだったのかもしれないね」
顔は真っ赤だが、目をそらさずに陸人を真っ直ぐ見つめる杏。対する陸人は動揺が頂点に達して挙動不審になっている。
「えっ? いや、そんな……違う、俺が……なんで、そんなはずが……」
顔を手で覆いながらブツブツ呟く陸人。オーバーヒートしておかしくなってしまったようだ。
あまりに珍しい陸人の姿に球子は面食らう。
「お、おーい、どうするあんず。これじゃまともに話せないぞ」
「任せて、タマっち先輩……陸人さん、ちょっとこっち向いてください」
告白を済ませた瞬間からなにやら堂々としている杏が陸人に近づく。半ば無意識に顔を上げた陸人の顔に、杏の顔が接近する。
「────⁉︎⁇⁈⁉︎────」
「──んなっ……あ、あんず⁉︎」
「んっ……これがキス。私の、初めての……」
ごく一瞬ではあったが、陸人と杏の唇が重なった。普段の彼女からは想像できない積極的な行動に、陸人と球子は結構間抜けな顔を晒してしまっている。
とりあえず口と体の動きは止まったが、完全に停止してしまった陸人。そんな彼の姿を見て、杏は球子の背中を押す。
「ほら、今度はタマっち先輩の番。今なら陸人さん動かないし、チャンスだよ」
「ハァッ⁉︎ 何を言うんだあんず!」
「できないの? なら私がもう一度……」
「〜〜〜ッ! 分かった、分かったよ! ふぅ……陸人、覚悟っ!」
すっかり暴走している杏に煽られて、球子までその気になってしまう。陸人に飛びつき押し倒し、マウントポジションを取った。ここでようやく陸人の意識が戻ってくる。
「うおっ⁉︎ た、球子ちゃん⁉︎」
「……う、動くなよ陸人! 絶対に、絶対にうごくなよ‼︎」
「な、何を……んむっ⁉︎」
「……む、ん……プハッ! どうだ、あんずよりも長かっただろ! ──って、タマは何をやってるんだぁぁ⁉︎」
押さえ込むように陸人の唇を自分の唇で塞ぐ。勢いが強く、陸人の抵抗も許さない口づけは、数秒続いた。
顔を離して落ち着くと、自分のあまりの大胆さに球子は頭を抱えて倒れこむ。倒れたまま立ち上がれない陸人と球子、杏も2人に並んで横になる。
寝転がって星空を見上げる3人。ようやく少しずつ落ち着いてきたようだ。
「……あー、もう。何やってるんだ俺たち」
「い、いきなりになったのはゴメン。でも陸人だって悪いんだぞ! いつまでも気付かないから!」
「私たちにとって、陸人さんがどれだけ大切な人なのか……それを分かってほしくて。ちょっとやりすぎたかもしれないけど」
時間を置いて少しだけ熱が引いた頭で、陸人は考える。みんなそうだ。ここに来て自分に生きて欲しいと言ってくる。そんなことはできない、できないことはみんな知っているはずなのに。
「俺だって別に破滅願望なんてないさ。他に道がないから覚悟をしてるだけで……」
「他に道がないって、誰が決めたんだ?」
「……それは……」
「陸人さんはこれまで何度も不可能を可能にしてきた。誰かを助けるために、私たちを守るために……」
陸人の両手が握られる。その暖かさが、いつだって陸人の心を支えてきた。
「誰かのためなら奇跡を起こせるのが陸人さんだよ。なら今度も、陸人さんを待ってる私たちのために、奇跡を起こしてほしいな」
「陸人が自分を好きになれないなら、それ以上にタマたちが好きでいてやる。陸人はタマたちのこと、嫌いか?」
「……そんなわけない、大好きだよ」
「「うん、知ってる」」
笑い合う3人。もうこれ以上、仮面をかぶって感情をごまかすのは、さすがの陸人にも不可能だった。
「俺は、生きたいのかな……生きていても、いいのかな」
「何度だって生きてていいって伝えるぞ」
「何回だって生きててほしいって願うよ」
「そっか……当たり前だよな。みんなが死んだら、俺は泣く……ならみんなも、俺が死んだら悲しいよな」
「絶対泣くな」
「泣き明かすね」
「俺は、そんなことも見えなくなってたのか。そりゃ心配もされるよな」
「なー。ホントにらしくなかったぞ、この頃の陸人は」
「自分のことになった途端変に謙虚なんだもん。諦めないのが陸人さんでしょ?」
「ああ、ありがとう……とりあえず諦めるのはやめる。前を向いて考えてみるよ」
少女の告白を受けて、その裸の心の叫びがすでにヒビが入っていた陸人の心の防壁を突き破った。
久しぶりに温かい本物の笑顔を見せた陸人に、球子と杏は心から安堵する。
「それじゃ、ホントにもう遅いし……今日はここまでだな」
「あ……陸人さん、告白の返事とかは諸々落ち着いてからでお願いね」
「えっ、あ〜……なぜ?」
話しながらも内心どうしようと焦っていたので、助かったと言えばそうなのだが、まさか告白してきた側から延長申請とは。
「今回はみんなが気を遣ってくれたけど。言いたいこと言えてない人、他にもいるはずだから」
「だから全部の戦いが終わってから、タマたちの新しい戦いが始まるわけだ。陸人も楽しみにしとけよ?」
その言葉の意味はよく分からなかったが、とりあえず何が何でも生きて帰らなければいけないらしい。それだけわかれば今は十分だ。
「分かった。それじゃおやすみ……今日は色々ありがとう」
笑顔でサムズアップをする陸人。その笑顔に翳りなく。少女たちの奮闘はここに実を結んだのだ。
「う、うぅぅ……やっちゃった。恥ずかしいよぉ〜」
「ま、まあまあ、あんずが頑張ったから陸人が前向きになれたんじゃないか! タマもめちゃくちゃ恥ずかしかったけど、その甲斐はあったって!」
陸人と別れた後、落ち着いた杏が崩れ落ちた。勢いで維持していたが、正直後半あたりは羞恥で倒れそうになっていたのだ。
その杏を励ます球子も顔は赤い。恋愛経験など皆無に等しい2人が、今日1日でかなり不慣れなことをやり遂げた。ものすごい精神的疲労に襲われていた。
「やっぱり、陸人さんはああやって笑っててくれなきゃね」
「ああ、良かったよ……本当に」
後でみんなにも報告とお礼を言おう、と笑う球子と杏。陸人と同じく翳り続けていた2人の笑顔も、やっと光を取り戻していた。
何もない世界、陸人の夢。そこにはみのりの姿を借りたアマダムと、陸人が並んで腰を下ろしていた。
「どうやら、ようやく視野狭窄は治ったらしいな」
「うん。今はちゃんと見えてる……スッキリしてるよ。ゴメン、アマダムにも気苦労かけたね」
「気にするな。もう慣れた」
気安く談笑する2人。変質が始まってからずっと緊迫していた両者の間に、久しぶりに穏やかな空気が流れる。
「それで、少しは己を前向きに見られるようになったのだろう? 何か望みはあるか」
「望み、かぁ。そうだな……やっぱりみんなの幸せを守りたいって思う。それは変わらない」
「そうか……」
「……それから」
胸元のドッグタグに触れる。文字を選んだ時とは異なる思いを込めて、文字をなぞり、握りしめる。
「みんなを、幸せにしたい。俺にできるのか、分からないけど」
「フッ、それだけではないだろう? 私相手に取り繕う必要もあるまい。言ってみろ」
(みんなと一緒にいたい、ずっとそばにいてほしい。そう願うことが、贅沢じゃないのなら……許されるのならば)
「ああ、そうだな。俺はきっと幸せになりたいんだ……みんなと一緒に。みんなを幸せにして、みんなに幸せにしてもらう。そんな風に生きていきたい。それが俺の願いだ」
やっと言葉にした陸人自身の願望。それはあまりに抽象的で、あまりに幼稚な言葉ではあったが、アマダムは嬉しかった。陸人の口から自分の未来に肯定的な言葉が出てきたことが、本当に嬉しかったのだ。
「散々人を殺した俺が、あまりにも多くを背負っている俺が……こんなことを願っても、いいのかな?」
「安心しろ。貴様の幸せを願い、貴様と共に幸せになろうとしている娘を、少なくとも8人私は知っている。陸人もそうだろう?」
「ああ、そうだな……」
「あのような良き娘たちに想われているのだ。多少己に自信を持ってもバチは当たるまい」
そう言って陸人の肩に優しく手を置くアマダム。まるで姉弟のような2人。
「……今、自分の願いを見つけて、何かをつかめた気がするよ」
「それこそがクウガだ。余計なものを取り払ったむき出しの心に、クウガは必ず応えてくれる……とはいえ、今回のことは私の知識に残っていなかったからな。多少肝は冷やしたが」
「アマダムでもそんなことがあるんだな」
「からかうな、私とて万能ではない」
バーテックスが現れる前には確かにあった光景。2人の中身こそ変われど、その光景が戻ってきていた。
「それで、どの娘を選ぶのだ?」
「えっ、ア、アマダム⁉︎」
「やはり球子嬢か杏嬢か? いや、しかし他の娘たちも遠慮しているだけで意外と……」
「ストップストップ! まったく、どんどん人間臭くなるね、アマダムは……その姿だと余計に姉さんみたいだ」
「む、そうか?」
「もちろん姉さんじゃないのは分かってるよ。でも見た目以外にも似てるところもあってさ。だからか、たまにアマダムのことももう1人の姉さんみたいに思えることがあって……」
「ふむ……まあ、陸人のような面倒な子供の姉が務まるのはみのり嬢か私ぐらいのものだろうな」
「なんだよ、それ」
冗談めかした言葉だが、陸人は本気で言っていて、それが分かるからこそアマダムも内心喜んでいる。
「多分、次がクウガとしての最後の戦いになると思う。勝って終わらせよう。よろしくね、アマダム」
「ああ。私たちが揃えば、誰にも負けん。ダグバであろうがそれは変わらん。今度もまたその事実を証明するまでだ」
力強く握手を交わす2人。互いへのあふれんばかりの信頼がそこに輝いていた。
うーん、経験が少ない私ではここまで直球だと表現するだけでも難しいし恥ずかしい。
先陣切って告白するのは球子ちゃんで、告白した後に吹っ切れるのが杏ちゃん、って勝手なイメージです。
都合4話ものコミュ回の積み重ねによってどうにか陸人くん持ち直しました。正直これまでで1番手こずりましたね。
ラストバトル前の告白イベント、ベタすぎとかフラグとか思われるかもしれませんが、王道というのは長く、広く愛されたからこそ王道というのだと私は思います。たまにはこういうのも、いいよね?
あー、疲れた。内容もそうだし、文量もついに一万超えました……
次回からラストバトルが始まります。さて、クライマックスに相応しい展開を描けるのか?
次も来週末かな。間も無くフィニッシュというところでテストが近くなってきました……先に謝っておきます。ペース落ちたらごめんなさい。
感想、評価等よろしくお願いします
次回もお楽しみに