A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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ラストバトル、スタートです

資料が少ないアルティメットとダグバ…さて、どう膨らませるべきか…






十章5話 究極

 翌朝、陸人は大社本部に足を運んでいた。戦う前に一度会っておきたい相手がいたからだ。

 

「そっか……じゃあ、今日行くんだ?」

 

「うん。みんなから聞いたよ。真鈴さんが必死に調べて、打開策を教えてくれたって」

 

「別に大したことはしてないよ。ずっと安全なところに居たんだから、これくらいはね」

 

「それでもお礼を言わせてくれ。本当にありがとう」

 

「……ん。それで、勝算はあるの?」

 

「向こうの本気がどんなものか分からないからね。具体的なことは言えないけど……でも必ず勝って帰る。今の俺たちならできるはずだ」

 

「そっか。陸人くんがそう言うなら、きっと大丈夫だね」

 

 努めて朗らかな顔で話す真鈴。陸人は今日、その不安を晴らすために来たのだ。

 

「真鈴さん、天の神は俺たちがどうにかする。約束だ」

 

「……陸人くん?」

 

「他の巫女の子達にも伝えてくれ……信じて待っててほしいって」

 

 それだけ言ってその場を離れる陸人。真鈴の疑念が確信に変わる。

 

(陸人くん、やっぱり知ってる? 奉火祭のこと……)

 

 陸人は知らない間に他人の荷物を勝手に背負いこんでいく。真鈴はそんな彼のために祈りを捧げることくらいしかできなかった。

 

(神樹様……どうかあの世界一のおせっかい焼きに勝利を……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、それじゃみんな……」

 

『いただきます!』

 

 いつもの食堂にいつものうどん。決戦前に9人全員で腹ごしらえをして気力を高める勇者たち。戦えない者も含めて、みんなで勝利するための最後の儀式だ。

 

「壁の外で戦うんだよな。危なくないのか?」

 

「勇者やクウガの力なら、外の炎は問題ないって計測結果が出てるみたい……ただ、変身が解けちゃったら危ないと思う」

 

「バット、あの歩くディザスター相手に内側で戦うわけにもいかないわ。次は四国丸ごと消されかねない」

 

「……外のバーテックスも気になるわ。天の神の力を振るうダグバなら、アレを使役できても不思議じゃない……」

 

「膨大な量の小型が少しずつ融合しているという反応も検知したそうです。どうかお気をつけて」

 

「案ずるな、ひなた。私たちとて強くなっている。誰が相手だろうと切り捨てるまでだ」

 

「バーテックスが無視できない規模だった場合は、ダグバとの交戦前に処理した方が安全だと思います。もしくは手分けするとか……」

 

「みんな。心配なのは分かるけど、りっくんたちなら大丈夫だよ。私たちがここで思いつくような危険はちゃんと想定してる……だよね、りっくん?」

 

「ああ、アマダムとも相談してある。今の俺ならさらに勇者の力を底上げできるはずだし、神樹様直々のサポートもある。バーテックスなら特に問題はないよ」

 

 参戦できない仲間たちの心配を拭うために強い言葉で言い切る。最終決戦、どうせなら信じて、安心して見送ってほしいというのが陸人の本音だ。

 

 

 

 

 

 食事を終え、大社との最終確認も済ませて、いよいよ出陣の時。

 瀬戸大橋の前で6人と別れる。橋の先、壁の向こうには究極の破壊者が待っている。

 

「よっし、ここまできたらもうタマたちが心配しててもしょうがないな!」

 

 球子が力強く笑う。

 

「明日も明後日も、その先も……みんなと一緒にいる。私は、そのつもりだからね」

 

 水都が優しく笑う。

 

「待ってるから……みんなで帰ってくるの、待ってるからね!」

 

 友奈が明るく笑う。

 

「私たちの未来はこれからも続いていく。ここは通過点でしかない……それを、忘れないでください」

 

 ひなたが静かに笑う。

 

「……あなた達のことだから、言うだけ無駄でしょうけど。本当にまずいと思ったら自分の命を最優先することね……」

 

 千景が小さく笑う。

 

「後は3人に全てお任せします。私たちの願いは1つ、生きて帰ってきてください」

 

 杏が美しく笑う。

 

「うん、大丈夫。絶対に、大丈夫だから」

 

 彼女達の言葉に笑顔で返す陸人。

 

「俺は今日、伝説を塗り替えてみせる。だから見ててくれ……俺の、変身!」

 

 一歩前に出て、その力強い背中で仲間に安心感をもたらす。

 人として、勇者としての覚悟を胸に、悠然と構える。イメージするのは究極の、そして()()()()()の姿。

 

 

 

 

「────変身ッ‼︎────」

 

 

 

 

 陸人がその姿を変える。以前一瞬だけ見せた究極の姿。黒く、重く、刺々しい力の塊。しかしあの時と違い、その両眼とベルトの霊石は、いつもと変わらない赤い輝きを宿している。

 

『クウガ アルティメットフォーム』

 

 絶望に呑まれながらも清き心を失わなかった戦士だけが至れる姿。伝説を超えた、人としての究極の力。

 

 

 

 

 

 

 その禍々しい後ろ姿に、少女たちは恐怖した。しかしそれも一瞬のこと。振り返ったクウガの眼を見て、一同は安堵する。彼はいつも通りだ。守りたいもののために戦う勇者、伍代陸人が変わらずそこにいた。

 

「さて、行こうか、歌野。陸人の背中は私たちが守るんだ」

 

「オーケー若葉。これを最後のスクランブルにするために!」

 

 若葉と歌野が変身してクウガに並び立つ。直後、あまりにも急激な力の上昇に思わずふらつく2人。勇者との共鳴能力も大幅に向上しているのを感じる。

 

「なるほど、これが究極の力か」

 

「サプライズ……! 頼もしいじゃないの」

 

 2人は持ち前の技量で出力の変動に即座に対応してみせる。冷や汗をかいたのはほんの一瞬。すぐにいつも通りの顔でクウガに並び立つ。

 

 

 

 陸人たち3人がサムズアップをすれば、向かい合う6人も同じく返す。また幸せな日常に戻るために。笑顔で再会するために。

 

 

 

 

 

「白鳥歌野、行って参ります!」

 

 気負うこともなく、自然体の歌野が飛び立つ。

 

「乃木若葉……出陣する!」

 

 敵を見据え、守りたいものを背負い、若葉が飛び立つ。

 

「伍代陸人、クウガ……征くよ!」

 

 生かすために、そして生きるために。陸人が飛び立つ。

 

 

 

 

 今の彼らの力は凄まじく、純粋な脚力だけで瀬戸大橋を飛び越え、一瞬で壁の向こうへ姿を消した。

 残る少女たちは、3人の姿が見えなくなっても、誰一人として目を逸らさずに彼らが消えた先を見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壁の外、燃え盛る炎の大地に3人は降り立った。

 

「うーん、気分いい場所じゃないのは間違いないけど……ここで戦うこと自体は特に問題なさそうね」

 

「ああ、ダグバは奥か。一応、可能な限り四国結界から離れたところで戦うのが理想だが……」

 

「──ッ! 2人とも下がって!」

 

 クウガの警告に反射的に後退した若葉と歌野。一瞬前まで2人がいた大地から猛烈な勢いで火柱が上がる。それは列をなすように連続で湧き上がり、やがて火柱同士結合して巨大な壁となる。

 3人の勇者は天にも届かんばかりの炎の壁により、初手から分断されてしまった。

 

「これは、トラップ? いえ、それにしては殺意が薄い。分断狙いかしら」

 

「私なら超えられない高さではない……が、接敵もしていないうちから精霊を使うのは……」

 

「……ダグバ! これはどういうつもりだ!」

 

 

 

 

 

 

『フフフ、ちょっとしたお遊びだよ。まずはボクと戦うだけの力があるのか……1人ずつ証明してもらおうと思ってね』

 

 クウガの問いかけに応えるように空高くから声が響く。

 それと同時に降りてくる巨大な異形。かつてのサソリ型をも上回る力を持ち、黄道十二星座を模した形状と能力で人類を脅かす天の神の遣いの最終形。『完成体バーテックス』が12体揃い踏みしてきた。

 

『神様の力を使ってオモチャを作ってみたんだ。それくらいは倒してもらわなきゃ困るからね』

 

 バーテックスは炎の壁で3つに分割された大地に、それぞれ4体ずつ降り立った。1人頭4体倒す。それが出来なければダグバと戦うことすらできずに終わるということだ。

 

『その道の先にボクはいるから、オモチャを壊せた人から来てよ。その時は本気で遊んであげる。ハハハ……アハハハハハ!』

 

 

 

 

 

 

 

 不気味な高笑いを最後にダグバの声は消えた。天の神を吸収したことで手の込んだ遊び方を覚えたようだ。

 

「若葉ちゃん! 歌野ちゃん! 大丈夫⁉︎」

 

「問題ない! ヤツの言葉に乗るのは癪だが、各個撃破して早いものから先にダグバの元に行こう!」

 

「……でも!」

 

「向こうにはまだまだ使えるバーテックスはいくらでもいるはず。グズグズしてると余計な増援が出てくるかもしれないわ! 大丈夫、私も若葉も自分の身は自分で守る、言ったでしょ?」

 

「……分かった! 向こうで合流しよう!」

 

 合流より突破を優先した勇者たち。世界の命運を決める最終決戦、前座と呼ぶにはあまりに豪華なキャスティングで、前哨戦の幕が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クウガの前に立ちふさがるのは4体。

 牡牛座の『タウラス・バーテックス』

 獅子座の『レオ・バーテックス』

 天秤座の『リブラ・バーテックス』

 水瓶座の『アクエリアス・バーテックス』

 

 特に強い威圧感を出しているのは後方にいる獅子座だが、クウガは特に警戒することもなく手近な天秤座に突っ込む。

 

「──フンッ‼︎」

 

 宙に浮かぶ巨体を片手で押し倒し、大地を壊しながら力尽くで引き摺り回す。その速さと力に、天秤座は一切の抵抗もできずに軋み出す。

 同胞の危機に、牡牛座がその能力を発動。体に装備したベルから怪音波を発生させる。

 

「なんだ? うるさいな……!」

 

 クウガはそれを攻撃と認識することもなく、単に耳障りな音を止めるために牡牛座に標的を変更。神速で懐に飛び込むと、そのベルをむしり取って握りつぶした。

 距離を取っていた獅子座と水瓶座が、火球と水球で遠距離攻撃を仕掛けるも、今のクウガには通用しない。片手を振るってその全てをかき消した。

 

 今の姿の感覚をつかもうと大雑把に動いていたクウガは、ひとまず敵から距離を取って調子を確かめる。

 

(力は桁違いに跳ね上がったが、これまでと感覚はそう変わらないか)

 

 クウガが再び敵を見据えると、4体のバーテックスが更に融合しようとしていた。

 

「へぇ……ちょうどいい、やってみろよ!」

 

 融合が完了したバーテックス『レオ・スタークラスター』は、これまでにない圧力と熱量を持っていた。その全てを収束した巨大火球が放たれる。

 

 ──問題ないな、陸人? ──

 

(ああ、これくらいなら……!)

 

 左手を突き出して火球を正面から受け止める。視覚的におかしいが、人間の数千倍のサイズの火球を完全に抑え込んでいる。

 

「──シッ‼︎」

 

 引いた右拳を突き出し、火球に叩き込む。4体が融合したバーテックスの最強の攻撃は、最強のクウガのありふれた一撃によってあっけなく消滅させられた。

 

 

 

 

 弾ける光の中から歩み寄ってくるクウガを見て後退する融合体。それを見たクウガは、バーテックスに見切りをつけた。

 

 ──準備運動はもういいのか? ──

 

(ああ、こいつら相手にこれ以上は無意味だ。終わらせよう)

 

 無造作に右腕を上げるクウガ。その手は融合体を捉えていた。

 

「満を辞して出て来たところ悪いが、こっちはお前たちの相手をしている暇はないんだ……!」

 

 感情を持たないバーテックスが恐怖したかのように撤退しようとする。しかしその判断はあまりに遅かった。

 

「手っ取り早く。消えてもらうぞ!」

 

 クウガが手を握った瞬間、融合体の巨体が一気に燃え盛る。ダグバの炎にも劣らない火力、ほんの数秒で燃え尽き、最強のバーテックスは消滅した。

 

 

 

「さて、行くか……!」

 

 ──ここからが本番だな。気を引き締めて行くぞ……! ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っと! 今のはちょっとデンジャラスだったわね」

 

 歌野を囲むように展開する巨体。

 蟹座の『キャンサー・バーテックス』

 乙女座の『ヴァルゴ・バーテックス』

 蠍座の『スコーピオン・バーテックス』

 射手座の『サジタリウス・バーテックス』

 

 遠近揃ったバランスのいい連携で歌野を追い込むバーテックス。しかし歌野の顔に焦りはない。

 

(なるべく陸人くんを1人にはしたくない。とはいえここで消耗しきるわけにもいかない。きっと若葉もそう考えてるはずだから……)

 

 どちらかが先を急ぎ、もう一方は消耗を抑えて後に備える必要がある。それならば自分の役目は後者だろう、と歌野は冷静に考える。

 この圧倒的不利な状況でも考えるだけの余裕がある。それは歌野の実力ももちろんだが、クウガの究極の力の影響が大きい。

 

 黒のクウガの力を共鳴(リンク)と呼ぶなら、究極の力は同調(シンクロ)とでも呼べるものだ。現在進行形で力を高め続けるクウガと直接ラインをつなぐことで、究極に近い領域まで力を引き上げる。

 

「私のジョーカーはまだ安定してない。ここは地力で突破してみせましょう!」

 

 歌野にはどんな状況でも最善を選ぶ安定感と、それをもたらす精神力があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。やはり凄まじいな。究極の戦士の力は……」

 

 若葉も同じくバーテックスとの戦闘に入っていた。

 牡羊座の『アリエス・バーテックス』

 双子座の『ジェミニ・バーテックス』

 山羊座の『カプリコーン・バーテックス』

 魚座の『ピスケス・バーテックス』

 

(このままでも勝てるだろうが時間がかかりすぎるな)

 

 手早く仕留めるには面倒な特性を持つバーテックスを相手に、若葉は奥の手を切ることを決めた。端末を取り出してシステムを起動。友奈のシステムの記録を元に、大社が急ごしらえでアップデートした新機能だ。

 

頂点(Vertex)……上位種を気取って人を殺す、醜い化け物ども……私達を甘く見るなよ!」

 

 勝利への強い意志を持って、若葉が切り札を発動する。

 

 

 

「出し惜しみなどしない! 降りよ……『義経』! 『大天狗』!」

 

 

 

 かつて友奈が強行した二重顕現。その記録を参照したシステムの補助を追加し、安定性と出力を増した人類の最終手段。大社の尽力と、防衛より攻勢に力を向けてくれた神樹の助力で成し得た力。人の手で届いた奇跡の形。

 若葉自身の力量、究極の力の同調、二重顕現。今の若葉は間違いなく最強の勇者だった。

 

 天狗の大翼を広げて剣を構える。完成型だろうと何だろうと、邪魔するものは全て切り捨てるのみ。

 

「刮目せよ。これが人の力……人間の、本当の強さだ‼︎」

 

 最短最速で陸人に追いつく。若葉はそれしか考えていない。バーテックスなど障害とすら見なしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ……来たね、クウガ。やっぱりキミが一番乗りだ」

 

 炎の壁の終点、3本の道の合流点にダグバはいた。圧倒的な速度で踏破してきたクウガがその正面に降り立つ。

 

「これが最後だ。決着をつけよう、ダグバ……!」

 

「アハハハ……いいね、長いこと待った甲斐があったよ! 今のキミとなら、楽しく遊べそうだ!」

 

 

 

 

 究極の力がぶつかり合い、世界を揺るがすほどの衝撃が走る。

 

 全てを守る者と全てを壊す者の、頂上決戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




バーテックスがすっかり噛ませ役になってしまったなぁ。
クロスオーバーでこういうのは本来よろしくないんですが、これまで散々苦しんできた陸人くんに、ちょっとでいいから無双して欲しかったんですごめんなさい!
まあ原作でもあいつらボス敵でありながら量産型という不思議なポジションでしたからね……許してください。

感想、評価等よろしくお願いします

次回もお楽しみに


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