A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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 ひなたちゃんルート

 またも個人的な推しの感情が乗ってしまっているかも…




終章T話 異性(IF:上里 ひなた)

「……ええっと……ゴメン、もっかい言ってもらっていい?」

 

「ですから、陸人さんが触れてくれないんです! こちらからアプローチをかけてようやく手を握ってくれるくらいなんですよ?」

 

 大社の休憩室で、真鈴は思わず頭を抱えた。ひなたのシリアストーンに引っ張られて、うっかり2人きりになってしまった数分前の自分を殴りたい気分だった。

 

「あのさ、大事な話があるって言ったよね? 深刻な顔してたからわざわざ2人になったんだけど……」

 

「はい、ですから今大事な話をしているではないですか。私と陸人さんの未来がかかっているんですよ?」

 

「あー、はい……そうですねー」

 

 遠い目をして棒読みで返す真鈴。ひなたと陸人が恋人であるのは当然知っているが、時折暴走する彼女の愛の深さには正直辟易していた。

 

「んー、触れてくれないっていうのは……なに? 陸人くん照れてるってことじゃないの? あの子昔からそういうの弱かったじゃん、分かってたことでしょ」

 

「それは分かりますし、私だって多少は考慮しますよ。でも、以前は頭を撫でたり抱きしめてくれたり、わたしにも他の皆さんにもそういったことはあったんです」

 

「いやー、それは慰めるとか励ますとかでしょ? 非常時と今は違うんじゃないかな」

 

「それに付き合い始めの頃よりも距離を取られているような……並んで歩く時も少し間をあけてたりするんですよ?」

 

 何度なだめてもひなたの不満は止まらない。真鈴はこの場で納得させることは諦めて、気がすむまで聞き役に徹することにした。のろけにも聞こえる愚痴を繰り返す目の前の彼女を改めて見ると、陸人の気持ちも分かる気がした。

 

 あの戦いから4年。ひなたたちも高校を卒業し、心身ともに大きな成長を遂げている。それが特に顕著なのが陸人とひなた。

 中学生時点で比較的長身だった陸人の体はさらに鍛え抜かれ、シルエットは細身ながらも逞しい青年に。

 低身長ながらに女性的な体つきだったひなたは、更に大人らしい雰囲気をまとった女性に。

 

 街を歩けば10人中10人が振り返るような美人がすぐそこで笑っていれば、いくら陸人でも緊張するのだろう。

 陸人も陸人で、かつて四国中に顔を知られたことがある。そんな2人が並んで歩けば街でも当然目立つ。陸人といる時は彼のことしか見ていないひなたは気づかなかったが、実は普段から結構気を遣われているのだ。

 

「まあまあ、男の子には色々あるんだよ。どうしても我慢できないなら正面から言ってみたら? 彼がひなたちゃんを蔑ろにするわけないんだからさ」

 

 止まらないひなたの頬を軽く引っ張って宥める真鈴。物言いたげに上目遣いしてくる瞳に、なるほどこれに耐えるのはキツイわ、と真鈴は陸人に同情した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大社からの帰り道、陸人とひなたは2人並んで歩いていた。その間には連れとして認識できるギリギリの距離が開いている。今日はなぜかいつもと違う、回り道になるルートで帰路に着いている。何やら考え込んでいる様子の陸人に、ひなたはもう我慢できなかった。

 

「陸人さん。私、何かやってしまいましたか? なんだかこの頃距離を取られているような……」

 

「……え? いや、そんなことは……」

 

 思わず取り繕おうとした陸人は、ひなたの眼を見て口を噤んだ。クウガとして戦っていた頃、真っ先に陸人の秘密を聞き出した時と同じ眼をしていた。このひなたには、陸人はどうやっても勝てないのだ。

 

「……色々あったけどさ、今でも苦しんでる人がいて。その責任の一端は俺にもあると思うんだよ」

 

 そうは言っても『ひなたちゃんの近くにいるとなんだか緊張する』などと馬鹿正直に言うのはなんとなく躊躇われたので、もう一つの懸念事項に話題を持っていく。

 陸人が端末の画面を見せる。そこには大社からのメールが表示されていた。

 

 "例の被害者遺族の会が丸亀城の入り口に張り付いています。こちらで対処しますが、念のため道中警戒を"

 

 勇者たちの尽力もあって、当初の大社の想定よりもはるかに犠牲者は少なく済んだ。しかし遺族にとって、そんな統計上の数値で片付けられる問題ではない。何人、何割を守れたとしても、大切な誰かを失ってしまえば、それはもう守ってもらえなかったということになるのだから。

 最も大きな被害が出たダグバとの戦いからちょうど4年が経った。毎年この時期には遺族が大社や勇者たちに向けてデモのようなことをすることがある。その執念は、在学時には高校にまで来たことがあるほどだ。

 

「……俺は多分、これから先も良くも悪くも目立つと思う。俺に悪意のある誰かと向き合った時、隣にひなたちゃんがいたとして……今の俺で守りきれる自信がないんだ」

 

 高校を卒業し、大社で正式に働くようになったことで、これまで見ないようにしていた現実と向き合った陸人。守りきれないならそばにいるべきじゃない……そんな風に考えてしまうくらいに、陸人にとってこの問題は重たいものだった。

 

「ゴメン、ちょっと弱気になってるな……」

 

「陸人さん……分かりました、私は私で動かせてもらいます」

 

「えっ? ひなたちゃん?」

 

 陸人の本音を聞いたひなたがその手を握って微笑む。その見覚えのない笑顔に、陸人は違和感を覚える。

 ひなたが本気で怒ったのを、彼はまだ見たことがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、またも入り口に固まって責任の取り方だの賠償だのと主張を続ける遺族の会。陸人の思う通り、純粋に失った命への向き合い方としてこの道を選んだ者もいるのかもしれないが、ひなたから見れば、大半は騒ぎ立てれば何かしら得られるという醜い魂胆の持ち主でしかない。

 そんな連中のために大好きな彼が苦しんでいると思うと、自然と怒りと勇気が湧いてくる。激情を胸に秘め、あくまで穏やかな笑顔のまま、ひなたは彼らの前に出た。

 

「初めまして、みなさん……私は大社所属、勇者担当官の上里ひなたと申します──」

 

 怒ったひなたに勝てる者はいない。大人の集まりだろうと、世界の救世主だろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に驚いたし焦ったよ。1人で話をしようだなんて」

 

「だってあの人たち、美味しい思いがしたかっただけで、こちらの気持ちなんて考えてもいなかったんですもの。どうしても許せなくて……」

 

 その日の夜、ひなたは陸人の部屋に来ていた。実験を終えてから話を聞いた陸人が急ぐ道中で、見覚えのある数人とすれ違った。青ざめた顔で背中を丸める彼らは、きっとひなたの本気の怒りを受けて心折れたのだろう。城についた時には、妙にスッキリした顔のひなたしかいなかった。

 

「また同じことがあれば、私たち大社できっちり処理しますから。陸人さんは気にすることはないんですよ」

 

「……ひなたちゃんは、本当に強いね。男の俺が頼りっぱなしだ」

 

「そんなこと……私に強くなる最初の勇気をくれたのは若葉ちゃんで、強くあることの大切さを教えてくれたのは陸人さんです。今の私は、みんながすぐそばにいて、守ってくれたからあるんですよ」

 

 朗らかに笑い合う2人。陸人の心のつかえが取れたことを確信したひなたが、ベッドに座る彼のすぐ隣……体が触れ合う距離に腰を下ろす。

 すると一瞬動揺した陸人が小さく距離を空ける。ひなたが再び詰める。陸人が空ける。ひなたが詰める。この繰り返しだ。

 

「あの、陸人さん?」

 

「……えっと……その……」

 

 どうやらひなたが距離を取られていた理由は他にもあったようだ。目を合わせようとしない陸人の顔を掴んで強引に向き合わせると、その頬は赤く染まっていた。

 

「もしかして、陸人さん照れてます?」

 

「……う、うん……ひなたちゃんはさ、もう少し自覚したほうがいいよ」

 

 今のひなたとの距離感だと、事あるごとに柔らかい感触に襲われる。顔を向けるとすぐそばに美人の笑顔がある。

 彼女が巫女であるということ。お互いに未成年であること。その他いろいろなことを考えた結果、恋人であるはずのひなたとの在り方が分からなくなってしまった……知識も経験もない男がへたれたとも言う。

 

「ふぅ、陸人さんらしいというか、なんというか……」

 

「ゴメン……ひなたちゃんのことは、もちろん変わらず大切に思ってるよ。ただ、どうすればいいのか……」

 

「こういうことは、できれば殿方からしてもらいたかったんですけどね……」

 

 ため息をついたひなたが陸人をベッドに押し倒す。不意を突かれて隙だらけの陸人の上に乗り、唇を重ねる。

 

「……! ……ひ、ひなたちゃん?」

 

「私も今年で19になります。適性は衰えていますし、巫女の任も先日降りました。未成年、といっても私たちは既に正式に働いている身分です。考えすぎなんですよ、陸人さんは。私はあなたが好き、あなたも私が好き……それが1番大事なことでしょう?」

 

 ここまで言われて、陸人はようやく自覚した。最近ひなたに感じるようになった違和感……あれは単に、愛する女性に触れたいという当たり前の情動だったのだ。

 

「ゴメン……俺、こういうのホント疎くてさ……自分の気持ちもよく分からなくて」

 

「私だって恋愛経験があるわけではないですよ……無理にうまくやる必要はありません。初めて同士、思ったことはちゃんと伝えて、2人で進んでいきたいと私は思います」

 

「俺のそばにいてくれて……俺を好きになってくれて……ありがとう、ひなたちゃん」

 

「こちらこそ……私を選んでくれて、ありがとうございます。陸人さん」

 

 覆いかぶさるようにしてもう一度キス。先ほどよりも長く深く触れ合う唇から、互いへの想いが伝わっていく。

 息が苦しくなるほどに長い接触の後に、どちらからともなく離れる2人。髪をかきあげて微笑むひなたが美しくて目を合わせられない陸人。羞恥に負けて目を逸らす陸人が愛おしくて仕方ないひなた。

 2人の顔には緊張と羞恥、そしてそれを上回る喜びが浮かんでいる。

 

「りーくーとーさん……こっち向いてくださいな」

 

「ひなたちゃん……な、なんか怖いよ?」

 

「ウフフ、おかしな陸人さん……」

 

 雰囲気が変わり、再び2人の影が重なる。

 

 

 

 この夜、彼らの関係が1つ上の段階に進んだ……かどうかは、本人たちしか知らないことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 積極性という面ではトップのひなたちゃんでした。

 ちなみに…ルートによって彼らの生活はかなり変化します。前話では陸人くんたちは寮から出ていますが、このルートでは陸人くんとひなたちゃんは早くから大社勤めが決まっていたので、変わらず丸亀城にいます。

 感想、評価等よろしくお願いします。

 次回もお楽しみに



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