A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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さて、本格的に戦闘描写のお時間です。どこまで盛り上げられるだろうか。






十章6話 不撓

「ダグバァッ!」

 

 先手はクウガ。拳を顔面に叩き込んでからのラッシュ。一気にダメージを積み重ねるも、ダグバの頑強さは並ではない。

 

「ハッハァ!」

 

 ダグバが笑いながらカウンター。アッパーが綺麗に入り、クウガは一撃で吹き飛ばされる。

 

(やっぱりまだ力の差はあるな……)

 

 ──潜在的な力はともかく、体の方はダグバほど染まりきってはいないからな。特に防御力の差はどうにもならん──

 

 陸人は究極の進化を果たしたばかりだ。今も猛スピードで進化を続けてはいるものの、純粋な怪物であるダグバの域にはまだ遠く及ばない。

 それでもこれ以上はダグバが待っていないだろうと、多少の不利は承知でここまで来たのだ。今さら降りるわけにはいかない。

 

 

 

 クウガとダグバが同時に右手を相手に向ける。次の瞬間2人の体を炎が襲う。猛烈な勢いで燃え盛る炎、しかし両者は意にも介さず距離を詰め直す。殴り合ううちにいつのまにか炎は消えていた。

 

(能力勝負じゃ良くて引き分けか。やっぱり経験の差が出てるな)

 

 ──神の力の総量も、未だヤツの方が上だ。それ以外で上回るしかないな──

 

 やはり単独でダグバに勝つのは難しそうだ。こうなってくると、敵の予想を超えた攻撃が必要になるが、今の陸人は自分の手札すら把握しきれていない。一方のダグバは楽しげに手持ちのカードを見せてくる。

 

「フフ、普通に燃やすんじゃダメか……なら、これでどうかな?」

 

 ダグバが広げた両手に炎が発生。腕を振るって投げつけてきた。1発目は躱せたものの、2発目がクウガの肩に直撃。途端に大爆発を起こして大きく吹き飛ばされる。

 

「──クソッ、何だ今の……?」

 

 ──大気を変換したのだろう。非常に燃えやすく、燃焼状態で一定以上の個体に触れると爆発するような、訳の分からない物質にな──

 

「さすが天の神を吸収しただけはあるな。知恵が回る上にやり方が実に巧妙だ!」

 

 ダグバはこの数日、暇つぶしとしてこの終わった世界で思うままに自分の能力を行使していた。手当たり次第に世界やバーテックスを壊していくうちに、神の力と自身の能力の使い方を感覚で理解していったのだ。

 

 

 

 

 

 基本的なスペックと特殊能力においてダグバに負けているクウガ。ならば彼が勝っているのはどこか。当然、頼もしい仲間の存在だ。

 

 

 

 クウガに迫るダグバの真横から鳥のような影が飛び込んでくる。真一文字にダグバを斬ったその影の正体は若葉。クウガと1分程度の差で彼女もバーテックスたちを突破してきたことになる。

 

「……すまない、少し遅れた」

 

「いやいや、早すぎるくらいだよ」

 

「確かにね。来るにしてもキミはもう少し遅くなると思ってたよ」

 

「それは貴様が人間を侮っていただけの話だ。敵がどれほど優れていようが、立ちはだかる壁があるのなら必ず越えるための道を見出す……それこそが人間の強さだ!」

 

 クウガの隣に降り立ち剣を構える若葉に、ダグバが笑いかける。若葉に付けられた胸の傷は浅く、数秒で消えてなくなった。

 

「いいよ。キミたちはオマケくらいに思ってたけど、これは思った以上に楽しくなりそうだ……!」

 

(完全に意識の外にいた状態から全力で斬り込んであの程度か。私ではどうにも威力が足りないらしいな)

 

 ますます楽しげに笑うダグバ。若葉は一瞬顔をしかめるも、すぐにいつもの凛とした表情でクウガを見つめる。

 

「陸人、1回深呼吸してみろ」

 

「……若葉ちゃん?」

 

「戦い方がらしくないぞ。自分の力、相手の力、今の戦況……あらゆる要素を冷静に把握する。

 そこまでできたら次は客観的な視点から打開策を探すこと、それが戦いの鉄則だ」

 

「ああ、ゴメン……助かったよ」

 

 己の究極の力への恐怖と、底なしのダグバへの驚愕。それらが無自覚のうちに陸人を焦らせていた。外から見て一瞬でその内面を把握した若葉が声をかけたことで、陸人は落ち着きを取り戻した。

 

「仕切り直しだ。合わせていくよ!」

 

 クウガが両手を合わせて、ゆっくりと開いていく。両手の間に漆黒の長剣が形成される。ダグバの火炎を模倣して、大気中の物質を再構成して武器を作ってみせた。クウガは戦闘中の今でさえ、1秒ごとに進化を続けている。

 

「へぇ〜、じゃあボクも……」

 

 クウガの進化が面白いのか、ダグバも真似するように剣を生成。剣同士の戦場に移行する。

 

「さあ、次は何を見せてくれるのかな?」

 

「人の技、人の研鑽……その結晶を!」

 

「力任せのお前に、教えてやる!」

 

 幼い頃より剣の道を歩んできた若葉と、命を守るためにあらゆる努力を続けてきた陸人。2人の剣士が破壊者に挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこまでも炎が広がる世界、その果てまでも響くような剣戟の音。

 瞬発力でダグバを上回る若葉と、技術の差によって一撃の威力でダグバに勝るクウガ。2人は連携で確実にダグバにダメージを与えていく。

 

 挟み撃ち、上空からの奇襲、不意の交代。あらゆる手でダグバの虚をついては小さな傷を作り、再生するより早く次の一撃に繋ぐ。その連携も徐々に精度を上げている。

 

 クウガの股下から若葉がスライディングで割り込んで足を斬り裂く。怯んだ隙にクウガが肩口に一閃。そのまま若葉を前衛に。

 

 唐突に若葉が屈み込み、一瞬前まで彼女の頭があった場所からクウガが突きを入れ、ダグバの目を一瞬潰すことに成功する。

 

 このような曲芸じみた連携を一切の合図なしで成立させられる理由もまた、究極の力にある。

 より強く、より強固な神性のラインを結んだことで、互いの思考をある程度把握できるようになっている。歌野のように全て聞き取れるわけではないが、戦闘の流れをノータイムで共有できる今の2人の連携は完璧と言ってもいい。

 

 

 

「「ハァッ‼︎」」

 

 2人同時の刺突が炸裂し、ダグバを大きく吹き飛ばす。予想以上に上手くハマっている連携に、彼ら自身も驚いていた。

 

(若葉ちゃんの一瞬先の動きが見えるみたいだ。これなら……)

 

(体の距離以上に、陸人の心を近くに感じる。今の私達なら……)

 

 確かな手応えを感じる2人の前に火柱が上がった。業火を宿した剣を振り上げたダグバが笑い声をあげる。

 

「あの大きさは……!」

「マズイぞ、アレは!」

 

「アハハハハハハハハハハハッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バーニング……アレはちょっとヤバいわね」

 

 あまりにも巨大な火柱は、遠くを走る最後の1人にも見えていた。歌野は端末を手に取り、合図のメッセージを送信する。

 

(バーテックスたちはなんとか覚の力だけで倒せたけど、ダグバはムリでしょうね)

 

 他の勇者たちとは違い、急造の機能に後付けでアップデートを重ねた勇者システム。出力に劣る歌野のそれには今、仲間の想いが込められている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日前の朝、友奈の連絡を受けて彼女の病室を訪れた歌野。そこには何やら機材を抱えた大社職員もいた。

 

「あっ、歌野ちゃん! 急に呼んでごめんね」

 

「いえいえ……それで、準備ができたってことでいいのよね?」

 

 戦線を離れた4人のうち、友奈だけは唯一身体的な問題で離脱した。逆に言えば、勇者システムを使うこと自体はなんの問題もないということだ。

 それに着目した友奈が提案し、大社が突貫で仕上げたのが『精霊の引き継ぎ』という新機能。友奈が勇者に変身し、彼女が精霊を降ろすことで、システムをリンクさせた歌野に精霊を憑依させる。勇者やクウガの強化を後押しする方向に加護を与えてくれる神樹の協力があって初めて成立する綱渡りのような危なっかしい切り札。

 

「でも、本当に大丈夫なの? ノーリスクじゃないんでしょ? 今の友奈さんじゃ……」

 

「うん。確かにこの体には、負荷の一部でもキツいかもしれないけど……今の私にできるのはこのくらいだもん」

 

 精霊の負荷は9割9分歌野の方に向かうが、それでも元の使い手にも多少の負担はかかる。それを承知で友奈は提案している。その瞳に迷いはない。

 

「歌野ちゃんは私たちの中で1番粘り強い人だと思うんだ。だからお願い。りっくんと若葉ちゃんと、3人で生きて帰って来て」

 

「ほんと、友奈さんは友奈さんね。オーケーよ、この私に任せなさい!」

 

 戦えなくなっても諦めない強さを持った勇者と、これまでの窮地をくぐり抜けて来た強さを持った勇者。2人は同じ想いを胸に、同じ輝きをその笑顔に宿していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友奈さん、あなたの力……ありがたくお借りするわ!」

 

 友奈も準備できたようだ。歌野がシステムを起動して新たな力を顕現させる。

 

「出し惜しみナッシング! 出番よ……『覚』、『酒呑童子』‼︎」

 

 装束の意匠が変化し、宿る力が桁違いに跳ね上がる。戦友に託された最強の精霊と、集団戦において最良の精霊。2体の力を合わせた至高の勇者が戦場に飛び込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルほどのサイズの炎剣が振り下ろされる。逃げ場もないまま遮二無二防ごうとするクウガの視界に、頼れる仲間の影が映る。クウガの後方から飛び出してきたのはもう1人の勇者、白鳥歌野。

 

「グーッド、タイミング‼︎」

 

 歌野の鞭が、炎剣の莫大な熱量で見えなくなっているダグバの手元に正確に巻きついた。ダグバの後ろに回り込み、強化された膂力で剣を止める。

 

「──へぇ、この力は……!」

「せぇ、のぉ‼︎」

 

 ダグバの動きが止まった瞬間に反転してその背中を飛び蹴りで吹き飛ばす。不意打ちで体勢を崩されたダグバは炎を霧散させた。

 

「歌野ちゃん!」

「来たか、歌野!」

 

「フッフーン、真打ち登場ってね!」

 

 2人の危機を颯爽と救った歌野が正面に立つ。見慣れない姿をした彼女にクウガは違和感を覚える。

 

「歌野ちゃん、その力は……」

 

「ザッツライト! 友奈さんに力を貸してもらったわ。心配しないで、ちゃんと準備した上での切り札ですから」

 

「友奈ちゃんが……頼もしいよ!」

 

「よーし、それじゃ行くわよ! レッツゴー!」

 

「──って待ってよ歌野ちゃん!」

「張り切るのはいいが突出するな、歌野!」

 

 

 

 ほぼ元の剣のサイズまで縮小した炎剣を持ったダグバに突っ込む歌野。2人も慌てて追いかける。

 攻撃の速度に限れば若葉すらも超えている歌野の鞭。さすがのダグバも捌ききれずに微小のダメージを受ける。

 

「へぇ、もしかしたらキミはここまで来れないんじゃないかと思ったけど……なんだ、できるんじゃないか!」

 

「私もクウガの仲間、勇者の端くれよ! 甘く見てもらっちゃ困るわ!」

 

 歌野が隙を作り、クウガが正面から、若葉が背後から同時に斬り込む。3対1の有利な戦況に移り、さらに戦闘が激化する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クウガ、若葉、歌野。3人による連携の精度はさらに高まっていく。しかし先ほどよりもダグバを押しきれずにいる。

 ダグバの強さはその存在が持つ力だけではない。陸人と同等の学習能力、対応力による無限の進化の可能性を持っている。それこそがダグバとクウガの2人と、その他の存在との決定的な違いであり、神ですら2人を恐れる所以でもある。

 

「んーと、こうかな?」

 

「「──なっ⁉︎」」

 

 ダグバはわずか数分で若葉と陸人の剣技の大半を学習した。それを自分の剣として高い再現率で技を振るう。人の研鑽というものをバカにしているとしか思えない楽しげな態度で、人類最強の剣士である若葉の剣を真似てみせたのだ。

 

「いいねぇ。もっと新しい技を見せてよ……こんな風にさぁ!」

 

「嘘だろ……⁉︎」

「剣が、伸びた⁉︎」

「ワーオ、私の鞭より伸ばせそうな勢いね、アレ」

 

 重ねてダグバは炎剣の操作によって若葉とクウガを翻弄してくる。炎の出力調整によって自在に間合いを変えるダグバの剣は、通常の剣術に精通したものほど対応が難しくなる。大剣、短剣、長剣、両刃と、振るった端から形状変化する剣の攻略法など、知っているものはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ、なんなんだアイツの剣は!」

 

「剣で斬り合ってちゃ勝てないな……歌野ちゃん!」

 

「オーライッ! 私が崩してみせるわ!」

 

 クウガが剣を捨て、若葉が空へ舞い上がり、歌野が前に出る。3人がかりでも正面からのぶつかり合いではダグバには勝てない。それが勇者たちの結論だった。

 

 そんな彼らを見たダグバは、気まぐれに以前から少し興味があった技を試すことにした。

 

「えーっと……確か、こうだよね?」

 

 体内の天の神の神性、雷の力を活性化させて足を広げるダグバ。あの強敵を思わせる構えに、クウガは慌てて2人の前に出る。

 

「いくよ、ガドルの技だ!」

 

「──クッソォォォ‼︎」

 

 ガドルの必殺技『ゼンゲビ・ビブブ』を真似たダグバの飛び蹴りと、クウガのキックが空中で激突。大地の炎を一時的にかき消すほどの衝撃が走る。

 

(これは……ヤバい────‼︎)

 

 そのあまりにも大きな衝撃に、クウガの視界は真っ白に染まり、そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハ、アハハハハハハハハ……ハァ〜、これで終わりか」

 

 閃光が晴れた後には、ダグバだけが立っていた。若葉と歌野は慌てて周囲を見回すも、あの頼もしい戦士の姿はどこにもない。

 

「陸人、陸人‼︎」

「陸人くん……どこにいるの⁉︎」

 

「あーあ、あの技使うのはもうちょっと後にしておけばよかったかな」

 

 決着がついてしまったことを惜しむようなダグバの声。聞こえていればそれに言い返したであろう陸人は、そこにはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




義経天狗ワカバ
究極神樹クウガ VS 天のダグバ
酒呑覚ウタノン

最強&最強&最強VS無敵の戦い、この先どうなっていくのか?
私自身ろくに考えずに描いているので分かっていません!

感想、評価等よろしくお願いします

次回もお楽しみに


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