A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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最終決戦、決着です。




十章8話 空我

「「「ダアアアアアアアッ‼︎」」」

 

「アハハハハハハハハッ‼︎」

 

 ダグバが全身の棘や装飾を伸ばし、幾多の触手として勇者たちを襲う。威力、硬度、速度の全てが規格外なその攻撃をギリギリで捌きながら接近する3人。最も間合いが広い歌野が、やっとの思いでダグバを射程内に捉える。

 

「──ッラアァッ‼︎」

「ガッ! フ、ハハハ……いいね、まずはキミからだ!」

 

 額を打ち抜かれたダグバが、瞬間移動で歌野の懐に飛び込む。歌野は予測はできても反応できない。

 

「弾けろ……!」

「──キャアアアアッ‼︎」

 

 ダグバが密着状態から大爆発を起こす。あまりの衝撃に歌野は意識を失い吹き飛ばされる。精霊も解除されてしまった。

 

 

 

 

 

「歌野ちゃん! このおおっ!」

「おのれ……!」

 

 触手を振るって2人を引き離す。徹底的に間合いを封殺してくるダグバに、近接主体のクウガと若葉では攻めきれない。

 

 クウガと若葉は焦っていた。ダグバは愉しんでいた。

 だからこそ誰も気づかなかった。無防備な背後からダグバを狙う彼女の存在に。

 

「隙だらけよ、おマヌケさん!」

 

 歌野必殺の一撃が、ダグバの背面の装飾を破壊した。彼女の姿は再び二重顕現の状態。不完全なシステムを使って、2度の二重顕現という無茶をやってのけた。

 

「ビックリしたよ……キミ、なんでまだ動けるの?」

 

「だから言ったでしょ、甘く見るなってね! 私はいずれ農業王になる女‼︎」

 

 触手を次々と破壊していく歌野。この攻撃は私が対応しなくては、という意識が、鞭をさらに冴え渡らせる。両足に触手の一撃を受けてもなお止まらない。

 

「アーンド、救世の勇者、伍代陸人くんの……グッドでベストでワンダフルな、大! 親! 友!」

 

 全ての触手を根本から叩き壊し、ダグバが一瞬無防備になる。

 

「勇者、白鳥歌野‼︎」

 

 力強い名乗りと共に、ダグバの胸をえぐる一撃で大きく吹き飛ばす。

 

「一度散らせた程度でウィナー気取られちゃ困るのよ! あなたが立っている限り、私は何度だって返り咲いてみせるわ!」

 

 諏訪の勇者、四国の勇者。その2つを名乗れる唯一の少女は、立てないほどのダメージを足に負い、倒れながらも雄々しく叫ぶ。彼女の心は何が何でも折れたりしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物理攻撃の手数を失ったダグバは、大火力で蹴散らす手に出た。天高くに灯る数多の火球。先ほどと違い一撃で破られないように分割して展開した。満天の星のようなその様はあまりに美しく、ダグバがもたらしたとは思えない幻想的な光景だった。

 

「手数で押し切る気か!」

 

「ならば、私の番だな!」

 

 翼を広げて星の海に飛び込む若葉。火球を斬り裂いては次の火球に飛びつき切り捨てる。その度に小さなダメージは蓄積されていくが、若葉は構わず斬り続ける。

 

「私は、乃木若葉だ……! 乃木の家訓は、『何事にも報いを』……」

 

 若葉にはここで終われない理由がいくらでもある。生真面目な彼女はやり残しなど認めることはできない。

 

「貴様らへの恨みも晴らさねばならん! そして何より……」

 

 若葉は誓った。絶対に1人にはしないと、他でもない陸人本人に誓ったばかりなのだ。

 

「陸人への恩を返せていない! この想いをくれたことに、私を変えてくれたことに報いていない! こんなところで、終われないのだ‼︎」

 

 空に瞬く数千もの火球、若葉はその全てをたった1人で切り捨ててみせた。最も強く衝撃を受け続けた両腕から力が抜け、剣を手放して本人も落下する。地面に激突する寸前で、クウガがその体をキャッチした。

 

「ありがとう、後は……任せてくれ」

 

 2人を少し後方に寝かせて、クウガが前に出る。大きな攻め手を失ったダグバと、今なお進化を続けるクウガ。これでようやく互角だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 互いに両刃の槍を形成。超スピードで打ち合う2人。黒の青をさらに超える速度で、2人だけに許された時間軸での超々高速戦闘。

 音さえ置き去りにして、ぶつかり合うごとに衝撃が走る。若葉と歌野の眼には何もないのに破壊の跡が広がっていく不思議な光景しか映らない。

 

「チッ……速いな」

「キミもね……!」

 

 槍を弾き飛ばされたクウガは、瞬時に剣を形成。突っ込んできたダグバにカウンターの刺突を入れる。吹き飛ばされたダグバも空中で剣を形成。さっきまでとは打って変わって力勝負が始まる。

 互いに回避を諦めて、倒れる前に斬り倒すと言わんばかりに攻撃一辺倒。黒の紫以上の防御力頼みの泥臭い斬り合いは、両者が同時に吹き飛んで幕引きとなった。

 

「ガアアッ⁉︎」

「クハッ、ハハハッ‼︎」

 

 距離が開いた2人は射撃戦を選んだ。二丁のボウガンを形成してとにかく連射。走りながら、跳ねながら、回りながら敵の矢を躱し、次の矢を打ち込む。

 打ち合わせでもしたのかと思わせるほど見事に回避しながら、両者はノーダメージのまま射撃を続ける。黒の緑よりも優れた感知能力を持ってしても当てられない。

 

「面倒だなぁ、やっぱり……」

「来たな、堪え性のないやつだ」

 

 焦れたダグバがボウガンを捨てて走り込む。クウガもそれに合わせて武器を捨てて接近する。結局最後には直接ぶつかり合う肉弾戦。膂力と耐久力で勝るダグバ有利……と思いきや……

 

「そこだっ!」

「──っと⁉︎ やるねぇ!」

 

 クウガは体に複数ある棘状の装飾を操作して刃として使う。間合いと威力を増したクウガの攻撃がダグバを襲う。全ての装飾を歌野に破壊され、再生に回す神性まで込めた攻撃も若葉に凌がれた。今のダグバは通常の肉弾戦しかできない状態だ。

 

 初めてダグバの優位に立ったクウガが、膝の刃でダグバの胸部を斬り裂く。ここに来てようやくダグバは追い詰められていることを自覚して、さらに狂気を増していく。

 

「アハハ、すごい、すごいよクウガ! こんな感覚は初めてだ!」

 

「そうかよ……どこまでも楽しそうだな、お前は!」

 

「キミはなんで楽しくないのさ⁉︎ こんな力があるのはボクとキミだけだ! なら楽しまなきゃダメだよ‼︎」

 

「俺は好きで力を手に入れたわけじゃない! やらなきゃいけないから戦ってるだけだ! そしてこの戦いも、お前を倒して終わらせる‼︎」

 

 クウガがダグバの顔面を殴り飛ばし、同時にダグバの蹴りがクウガの腹部に直撃する。

 大きく吹き飛ばされた2人は、同時に大技の構えを取る。足を開き、腰を落とす。単体威力では最強の、エネルギーを収束した飛び蹴りだ。

 黒の赤の必殺技を大きく上回る、互いの切り札がぶつかり合う。

 

「ウオオオオオッ────オオリャアァァァァァァッ‼︎」

「ハハハハハハッ────ズアアアアァァァァァァッ‼︎」

 

 空中で再び激突する2人。クウガが惨敗した前回と異なり、完全に拮抗した両者のキックはお互いに致命的なダメージを与えた。

 墜落する2人。痙攣して立ち上がれないクウガと、体を起こそうとしてはまた崩れ落ちるダグバ。

 

 

 

 

 

 

 クウガもダグバも、すでに再生が追いつかないレベルの大ダメージを受けている。それでも相手より先に立ち上がらなければ勝てない。クウガは意地で、ダグバは愉悦で、限界を迎えた体を精神力で無理やり引っ張って立ち上がる。

 

「ハア、ハア……そろそろ、限界だな」

 

「そうなの? まだまだ楽しめるのに……」

 

「お前と一緒にするな。俺は殴るのも斬るのも好きじゃない」

 

「分かんないなぁ、楽しめばいいじゃないか。それができれば、もしかしたらボクよりも強くなれたかもしれないのに……」

 

「死んでもゴメンだね。それに、そんなことをしなくてもお前には勝てるさ。それを今から証明してやる!」

 

「ハハハ……面白い、ホントに面白いよ! クウガァ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 クウガとダグバの会話の最中、若葉と歌野は陸人の思考を感じ取ってギョッとしていた。しかし相互のコミュニケーションまではできないため、反対の意思が陸人には届かない。

 

(やるしかないか? 出たとこ勝負だ……信じるぞ、歌野!)

 

(大雑把なイメージを思考共有して、後はアドリブで合わせるしかないわね)

 

 覚悟を決めた若葉と歌野が準備を始める。若葉は腕が動かず、歌野は立つこともできない。しかも2人の武器は手元にはないという状況。ここで失敗すれば全滅だ。

 それでも、若葉を歌野を信じていて、歌野は若葉を信じている。そして何より、陸人に頼られたなら応えなければ、という意識が2人の心を完全にシンクロさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クウガが駆け出す。小細工なしの正面突破。ダグバも正面から待ち構える。

 

 同時に若葉が翼を羽ばたかせて風を起こす。その風が狙いと寸分違わずに、歌野の鞭を持ち主の手元に運ぶことに成功した。

 

「パーフェクト! これでぇぇぇ‼︎」

 

 歌野が倒れたまま地面に鞭を叩き込む。それは高速で地中を掘り進み、ダグバの真下で突如跳ね上がる。

 

「──グゥッ⁉︎」

「ヒット! さすが私!」

「ウオオオオオッ‼︎」

 

 奇襲を顎に叩き込まれたダグバは、目の前まで来たクウガに完全に隙を晒した……はずだった。

 

「──何っ⁉︎」

「惜しかったね!」

 

 クウガのパンチを反射で受け止めたダグバは、そのままクウガの左拳を握りつぶし、続く右の攻撃も腕で防いだ。完璧な連続攻撃を防がれたクウガの腹部を、ダグバの拳が突き破る。

 

「グッ、ハ……」

 

「これで、終わりだね……!」

 

「いいや、終わるのはお前だよ……!」

 

 

 

 

 その言葉に疑問符を浮かべた次の瞬間、ダグバは自らの腹部に痛みを感じた。自分の体を見下ろしたダグバは、そこで初めて心の底から驚愕した。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()が、自身のバックルを貫いていた。

 

「フゥー、フゥー……!」

 

 クウガの背後には息を荒げて跪く若葉。その口で自分の剣を咥えてクウガの背中に突き刺している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 若葉は翼を羽ばたかせた直後、その勢いのままクウガを追って飛び立っていた。鞭を引き戻した歌野が遠くに落ちている若葉の剣を絡めとり、若葉の口元に運ぶ。咥えるには重すぎるその剣を、顎の力まで強化される勇者の力で強引にクウガに突き刺したのだ。

 

 

 

 

 ダグバの予想の外側から攻める。そのためにクウガは自身の体を目隠しに使った。その無茶な策が功を奏し、ダグバは急所を貫かれている。

 

「フゥー……アアアアァァァァッ‼︎」

 

 裂帛の気合とともに、若葉が剣を動かしてダグバのバックルを斬りとばす。腹を掻き回されるような痛みに耐えて、クウガがトドメの一撃を構える。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎」

 

 右肘から伸びる衝角に力を収束し、光の刃を長く伸ばす。そのまま腕を振り上げ、左腰から右肩にかけて、斜めににダグバを斬り裂く。バックルを失い力が減衰したダグバは見事に真っ二つに裂けて倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腹に2つも風穴が空いたクウガ。両腕が使えない若葉。両足が動かない歌野。完全に両断されたダグバ。

 全員が満身創痍だが、ここに確かに勝敗は決した。

 

「ハハハ……まさか、あそこで後ろの2人が来るとはね」

 

「誰かと一緒に戦ったことがないお前なら、予想もしないと思ってね……」

 

「なるほど、確かにボクにはない発想だ。してやられたよ……」

 

 ダグバは身じろぎもできずに倒れている。それでも2つに裂かれてなお喋れるというのだから恐ろしい。

 

 

 

 

「陸人、大丈夫か? 作戦とはいえ、お前の体に傷を……」

 

「全然大丈夫だよ、若葉ちゃん。口で振るってるのにうまく急所を避けてくれたからね」

 

「オーイ! そっちどうなったの? 結局勝てたのー?」

 

「ああ、勝てたよ! 歌野ちゃんは大丈夫?」

 

「頭痛くてクラクラするのと、お腹痛くて気持ち悪いのと、足が痛くて立てないの以外はノープロブレムよ!」

 

「……そ、それは重症じゃないか⁉︎」

 

 

 

 決着がつけばダグバなどに眼もくれずに仲間を案じるクウガ。ダグバは自分が負けた理由が少しだけ分かった気がした。

 

(そうか。ボクはキミを……キミとの戦いしか見てなかったけど、キミはその先にある大事なものを見ていたんだね)

 

 生命としての価値観が異なるダグバでは詳しいことまでは理解できない。それでもクウガが自分にないものを持っていることだけは把握できた。

 

「ハハハ、ハハハハハハハハハ……アハハハハハハハハハハハッ‼︎」

 

 なんとなく、本当になんとなく何かを掴めた感覚を最後に、ダグバの体が消滅していく。散り際まで愉しそうに、その高笑いは変わらずに世界に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダグバが消滅したのを確認したクウガが倒れこむ。若葉も歌野も、3人ともすでに限界に至っていた。それでも……

 

「勝った……勝ったぞ……! 若葉ちゃん、歌野ちゃん!」

 

「ああ、我々の勝利だ……!」

 

「フフッ、ビクトリーね……」

 

 勝利の達成感に浸るクウガ。笑って返す若葉。片手を上げて応える歌野。無理のない話だが、今の彼らは完全に気が抜けていた。

 

 陸人が大きく広げた手に何かがぶつかる。ダグバの力が込められたバックル。倒す前に切り離したせいか、消滅せずに残っている。2つに裂かれたバックルを握りしめ、陸人は心と体に最後の喝を入れる。

 

(後は少しだけ休んで、天の神のところまで飛んで……アレを倒せば全部終わりだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 アマダムが陸人に労いの言葉をかけようとした時、唐突に悪意が迫ってきていた。

 

 ──陸人、上だ! 避けろ! ──

 

「……ぇ……なんっ──⁉︎」

 

 アマダムの警告に反応して上を見上げた陸人は、空を流れる無数の黒い光を視界に捉える。

 一瞬後、陸人たちがいる地点に、光の雨が降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて決着。なんだか終わり方がアマゾンズっぽくなりましたね。
フィニッシュが分かりづらくスッキリしない形になったかもしれません。思いついた時はすごくかっこいいと思ったんですが……イメージのままに表現できない自分の文章力が憎い……!

そしてガドル戦もそうでしたが、最終決戦だと言うのに勝利! やったぜ! 次回へ続く! ってならないのがこの作品の不思議なところ。なんていうかスッキリ終わらせると次の話に持って行きづらくなる感覚があるんですよね。ちょっとくらい陸人くん(と読者様)に安らぎを与えるシメを用意するべきかもしれないのですが……

そんなこと言っておきながら次回最終回、そしてエピローグでとりあえず本編完結です。

感想、評価等よろしくお願いします

次回もお楽しみに


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