A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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さて、当初から予定していたクライマックスです。予想通りかもしれませんし、予想外かもしれません。




十章9話 陸人

「……あ、危なかったぁ」

 

 ──あと一瞬反応が遅れていれば全滅だったな──

 

「……ぅ、ん……」

「歌野? 気を失ったか」

 

 間一髪で仲間を抱えて回避に成功したクウガ。2度の二重顕現で過剰な負荷を負っていた歌野は、今の衝撃がダメ押しとなって気絶。精霊も解除されている。

 

「今のは、天の神か?」

 

「……だと思うけど。今の攻撃、アイツは弱ってたんじゃないのか?」

 

 ──おかしい。天の神の気配がどんどん強くなっている……まさか⁉︎──

 

 はるか彼方からバーテックスが集結し、それに比例して天の神がその力を高めている。そこから導き出される結論は1つ。

 

 ──ヤツは吸収される前に己の力をバーテックスに込めて外に放っていたのだ。私たちに気づかれないほど遠くに隠して──

 

 天の神はアマダムの目を欺き、両者の決着の隙を伺っていた。戦闘が激化し、天の神へのマークがなくなったタイミングで残していたバーテックスを吸収して力を回復。ボロボロの人類側に侵攻を仕掛けた。勇者たちはまともに戦えるコンディションではない。

 

 ──未だに弱っているのは確かだが、現状の私たちでは──

 

 空から舞い降りてくる無数のバーテックス。倒したはずの完成型まで再び現れた。勇者たちはやむなく結界間際まで撤退する。

 

 

 

 

「どうすればいい……どうすればいいんだ……!」

 

 クウガは傍の若葉を見る。剣も握れず、立っているのもやっとの状態だ。

 腕の中の歌野を見る。やはり負荷が重いのか、うなされるように息を荒げて苦しんでいる。

 背後の四国結界を見る。自分たちに力を注いだ今の神樹に、あの攻勢を凌ぐ力はもうないだろう。

 

「……くっそおおおおぉぉぉぉっ‼︎」

 

 歌野を片手で抱え直し、クウガが右肘の衝角に力を込める。ダグバを仕留めた時よりも更に出力を高めた一撃で、バーテックスの群れを薙ぎ払う。

 その一閃は世界ごと両断するような巨大な刃。迫り来る敵を残らず消滅させてみせた。

 

(まずい……! 今ので全部使い切った。完全に空っぽだ)

 

 変身も解除された陸人。天の神を強襲するという陸人の策は、この時点で完全に頓挫した。

 

「陸人、大丈夫か? ダグバは倒せたんだ。口惜しいが、ここまでだ」

 

 2人を抱えた若葉が壁の内側に逃げ込む。瀬戸大橋に降り立つ3人。

 若葉の言葉は正しい。しかし、陸人には頷けない理由があった。

 

(……ダメだ。倒すにしろ交渉するにしろ、弱っている今を逃せばもうチャンスはない。このままじゃ大社は確実に奉火祭を決行する……!)

 

 生贄など認めない。そして事態は最早犠牲なしで切り抜けられる段階をとうに超えている。陸人はアマダムと交信し、高速で思考し続ける。現状より少しでもマシな未来に向かうための手段を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 天の神は巧妙に策を練っていた。ダグバの制御に失敗した時点で流れを切り替えたのだ。

 事前に戦力を余所に用意した状態でダグバに吸収される。そうすればダグバの性格なら用意しておいた対結界戦術を使うだろうと踏んで。結界や樹海さえ突破されかねないと知れば、神樹は必ず結界に使っていた力をクウガと勇者のサポートに回す。結界さえ弱まれば天の神の勝利条件はほぼクリアされる。

 

 後はクウガとダグバ、生き残った方を潰して手薄になった四国を滅ぼす。究極の2人は実力伯仲。消耗した決着の隙をつけばまず負けはしない。

 クウガの最後の抵抗でバーテックスは蹴散らされたが、それなら自身が出張れば済む。今の四国結界なら破るのも容易く、人類側に戦力と呼べるものはすでに残っていないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──おおよそこんな流れだろう、天の神の狙いは。そして残念ながらその策はほぼ完璧に成功してしまっている──

 

(……なるほど。人間滅ぶべし、とか言う割には随分人間臭い手を使う神様だな…………そうだ! もしかして、これなら……)

 

 アマダムの予想を聞いた陸人は、1つだけ打開策を思いついた。世界全体を見れば最善の一手、陸人個人に限って見れば最悪の一手を。

 次に思い出すのは自分の願い。大切な人たちと一緒に、幸せを共有する未来。仲間との笑顔の日々を思い描き、彼女たちの命が失われる未来を想像し、それに耐えきれない己を自覚した。

 

(俺は、負けたわけじゃない、諦めたわけじゃない! 自分にできることを全力で、最後まで……!)

 

 葛藤は数秒、決意は一瞬。伍代陸人は勇者だから。

 間違いなく仲間を泣かせることになってしまうが、それでもみんなに生きて欲しかったから。

 

 ──陸人、貴様はどこまでも……! ──

 

(アマダム、どうだ? 俺のアイデア、見落としはあるか?)

 

 ──それは……その方法では……! ──

 

(アマダム!)

 

 ──いや、陸人の問題さえ度外視すれば他はない。おそらく現状における最善策だろう──

 

 アマダムは嘘をつけない。嘘をつくという機能が存在しない。だから陸人が望むなら、全てを教えてどこまでも共に歩む。

 例えそれが彼自身の終わりに繋がる道だとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くと! おい陸人!」

 

「……! 若葉ちゃん?」

 

「どうしたんだ、急に黙り込むから心配したぞ」

 

「ああ、ごめん……」

 

 不安げな表情で陸人の顔を覗き込む若葉。愛する仲間の顔に、一瞬躊躇しそうになる自分の弱気をぶん殴り、陸人は立ち上がる。

 

「……1つだけ思いついた策がある。若葉ちゃん、端末を貸してくれる?」

 

「ん? ああ、構わないが……いったい何をするんだ?」

 

 無警戒に自分の命綱とも言える端末を渡す若葉。その信頼すら利用する己への嫌悪を嚙み潰し、陸人は端末を操作。若葉の変身を解除して、端末を海に投げ捨てた。

 全てを捨てて世界を守る。そんな英雄は、ただ1人でいい。

 

「なっ⁉︎ 何を、どういうつもりだ陸人‼︎」

 

 装束が霧散し、無力な女学生に戻った若葉が詰め寄るも、無表情を徹底している陸人は何の反応も返さない。自分を無視して壁外に戻ろうとする彼を見て、若葉は人生最大級の寒気を感じた。

 

「……待て、陸人‼︎」

 

「……っ!」

 

 友達を無視するという伍代陸人ならあり得ないその行動に、予感が確信に変わった若葉は、彼を止めること以外の全てを思考から除外した。

 

「陸人、その先に行くというのなら……私はここから飛び降りるぞ! それでもいいのか‼︎」

 

 若葉が橋の手すりに飛び乗って叫ぶ。彼女は本気で飛び込もうとしていて、陸人もその本気は感じ取った。腕に力が入らない今の若葉なら、最悪溺死も考えられる。陸人はゆっくり振り返ると、少しずつ若葉のもとに歩み寄る。

 

「若葉ちゃん……」

 

「……どうした! 私を死なせたいのか、陸人!」

 

 若葉の勇者服のモチーフは『桔梗』

 桔梗の花言葉は"誠実"

 若葉は何事においても真っ直ぐ自分を貫いて生きてきた。熱心に努力し、勤勉に生活し、バーテックスへの恨みだって、元を正せば道理に誠実な性格故のものだ。

 今も若葉は自分の言葉と心に誠実であろうとしている。『絶対に1人にしない』所詮は口約束に過ぎない誓いに、己の命を懸けている。

 

 どこまでも自身が憧れた乃木若葉を貫く姿勢に感銘を受けた陸人が小さく笑う。

 

「……フフッ、やっぱり若葉ちゃんはすごいね」

 

「陸人……そうだ、こっちに来い。何をする気か知らないが、まずは落ち着いて話し合って──」

 

「……ごめん!」

 

 だからこそ、これ以上向き合って決意を崩されるわけにはいかない。一瞬で若葉を手すりから引っ張り込み、腹部に一撃。陸人に攻撃される可能性など全く考えていなかった若葉には反応もできず。意識を失い倒れこむ。

 

「……ダメだ……り、く……」

 

「若葉ちゃん。変わらないでいてくれて、ありがとう」

 

 気絶しながらも陸人を止めようとする若葉を、歌野の隣に寝かせる。

 若葉の顔にかかった髪を払っていると、隣の歌野がその腕を弱々しく掴む。

 

「……ぅ、ぅん……ぐぅ……」

 

「歌野ちゃんも、本当にありがとね……」

 

 魘されながらも無意識で陸人を引き留めようとする歌野。その強さを眩しく思いながら、陸人は彼女の汗を拭う。ついで程度の感覚で精霊の負荷を自身に移し、陸人は自分に負荷と力を上乗せする。

 何らかのダメージは残るかもしれないが、ひとまず苦しみはこれで落ち着くだろう。

 

 

 

 

 

 2人の顔を目に焼き付け、立ち上がったところで橋の反対側から気配が近づいてくる。

 

 走るのに向かない巫女装束で、転びかけながらも駆け寄ってくる水都。

 息も絶え絶えで、今にも閉じられそうな瞳を必死に開きながらこちらに手を伸ばす友奈。

 友奈の車椅子を押している分、仲間たちより遅れながらも必死に走る千景。

 今も何か神託を受けているのか、どこか遠くを見ながら危うい足運びで駆けるひなた。

 この中で1番体力があるはずなのに、誰よりも息を荒げながら必死の形相で走る球子。

 不安げに揺れる瞳からこぼれる涙を拭うことも忘れ、青白い顔で足を動かす杏。

 

(水都ちゃん……友奈ちゃん……千景ちゃん……ひなたちゃん……球子ちゃん……杏ちゃん)

 

 陸人は仲間に何か言おうとして、開いた口をとっさに片手で塞ぐ。

 

(今みんなと向かい合えば、俺はもう踏み出せなくなる……)

 

 少女たちの声を無視し、一人一人の顔をしっかりと見つめて……陸人はそれで十分だった。

 

「みんな、ごめん……ありがとう!」

 

 全ての迷いを振り切って、陸人は壁の向こうに姿を消した。少女たちが伸ばした手は、あと一歩のところで英雄の背中に届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壁の外に出た直後、陸人は天からの攻撃を紙一重で躱す。

 

(……天の神か!)

 

 ──どうやら焦っているのは向こうも同じらしいな。どうしてもこの好機にクウガだけでも仕留めておきたいようだ──

 

 体勢を整えた陸人は、制服にしまっておいたダグバのバックルを取り出す。ダグバの力の収束点。2つに裂かれたそれを両手に握り、自分の胸に突き刺し、ねじ込む。

 

(……尽きかけのクウガ、手元のダグバの力も半分も残っていないだろう。それでも、2つの究極を合わせれば……!)

 

 

 力の奔流に呑まれかけた陸人を緊急避難させるために、アマダムが精神世界に陸人の魂を取り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ──もう後戻りはできないな、陸人……人としていられる最後の時間だ……ここには私しかいない。言いたいことがあれば言っておけ──

 

 アマダムは、最後の意思確認の場を用意した。陸人の答えは分かっている。それでも、果ての果てまで本音を隠さなければならないというのは、あまりに残酷すぎると思ったから。

 

「……そうだなぁ……」

 

 どこまでも面倒見のいい相棒に苦笑しながら、口にする気は無かった本音をこぼす。

 

「やっぱり消えたくはない……みんなと、ずっと一緒にいたかったよ」

 

 最強最高の勇者、伍代陸人の人間としての最後の言葉。それはどこまでも彼らしくなく、どこまでも人間らしい、当たり前の弱音の発露だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああああぁぁぁぁ……ガアアアアアッ‼︎」

 

 天の神の光とダグバ自身の闇。間違いなく有害な2つの力が陸人の体を駆け巡る。体内を切り刻まれ、燃やされるような感覚に耐えながら、内包する力を高めていく。

 

「オオオオオオオオッ‼︎────変身ッ‼︎────」

 

 陸人は力の足し、程度にしか思っていなかった。アマダムも知らなかったことだが、この直感的な思いつきがクウガの最後の扉を開く。

 

 黒と赤のオッドアイ。

 体を駆け巡るラインは金から白へ。

 背中からは燃え盛る炎の翼を4本伸ばし、神にも悪魔にも見える造形。

 輝きを保っていたベルトの霊石も黒く染まりきっている。

 心に蠢くどす黒い闇を、輝く光で正しく使う。2つの究極の、さらに先。

 

『アルティメットフォーム・ユナイト』

 

 究極の闇と究極の闇を融合(Unite)することで初めて到達する進化の頂点。

 クウガとダグバ。世界を壊す2つの闇に、生身の心1つで立ち向かい、それでも光を見失わない……『人間の心の強さ』を極めたものだけに許された姿。

 全ての時間、全ての世界で全てのクウガが成し得なかった奇跡の最終形態に、陸人は最後の最後で至ったのだ。

 

「……出し、惜しみは……ナシだ!」

 

 声を出すことすらもままならない苦痛の中で、陸人は最後の役目を果たすために、天空のさらに上へと、その翼を広げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天の神は焦っていた。アレこそが神すら恐れた可能性の終着点。伝説の中だけの存在であるはずだった。神ですら実在する姿を見たことがない、あり得ないシロモノであるはずだった。

 なのにそれが今、己目掛けて飛んできている。天の神はたまらず今の自分の最大火力をぶつける。星そのものに深刻なダメージを与えかねない、天の神の本気の本気だ。

 

「こんなもので……ウオオオオオオオオオオオオッ‼︎」

 

 天からの砲撃を真正面から受け止めるクウガ。これを四国に落とせば、結界の上からでも街が消滅することを直感で把握していた。

 徐々に光を押し込み上昇するクウガ。天の神の焦りは頂点に達した。予備戦力として残していた完成型バーテックスを残らず投下。四国に向かわせ、少しでもクウガの気をそらす策だ。

 

「……させるかよぉぉぉぉ‼︎」

 

 炎の翼が空を覆い隠すほどに長く広く膨張する。その羽ばたきが全てのバーテックスを一瞬で細切れにした。

 天の神の手段は最後の地雷を踏み抜いてしまった。陸人は最強最高の一撃を解禁する。

 

「折れず、曲がらず、真っ直ぐに、諦めずに……! それが勇者だ‼︎」

 

 右腕を引き、力を込めて拳を握る。仲間の1人、無手のスペシャリストの技を借りる。

 

「勇者ぁぁぁぁぁぁ……パァァァァァンチッ‼︎」

 

 世界を背負い、勇気を握ったその拳は、天の神の攻撃も、世界を分かつ防壁すらもまとめて打ち破った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現実世界の上に存在する、天の神がいる世界。2つの世界の境界線を破壊したクウガが、天の神の間近、正面に降り立つ。戦いに勝ったのはクウガ。しかし、彼にとって最も大事なのはここからだ。

 

 

 

 ──神樹には私から話を通しておこう。今の我々なら神との交信も容易だ──

 

(ああ。ありがとう、アマダム)

 

 神霊の域にまで力を高めたクウガは、目の前に存在する形なき力の集合体に声をかける。

 

「……天の神、と呼ばせてもらう。アンタと交渉がしたい。俺はそのためにここまで来たんだ」

 

 しばらくの沈黙の後、天の神の意思が届く。聞く気にはなっているようだ。

 

「俺が要求するのは人類への攻撃の停止と、四国への不干渉。それを約束するなら、俺もこれ以上暴れない。すぐにアンタの世界からも出て行こう」

 

 陸人はこれを狙っていた。戦況的優位に立った上で、交渉によって長期的な四国と人類の安全を確保する。

 

 今でこそ力で上回っているが、完全な神霊である天の神を確実に消滅させられる確証はない。もし自分が力尽きてから再び侵攻を受ければ次は耐えられない。人類は終わりだ。

 そして今のクウガの力を制御し続けることができないことも分かっていた。後1回か2回、強い力を行使すれば十中八九陸人の自我は消え失せる。そうなれば人類の脅威が天の神からクウガに変わるだけ。それでは本末転倒だ。

 

 自分が消えた後の平穏を確保するためには、痛み分けとして両者同意の上で停戦するのがベストな形だ。天の神を必要以上に刺激せず、人類をこの先も生存させられるギリギリのラインとして、陸人が考えたのが四国の現状維持だった。

 

「もちろん何の手も打たずに口約束ってわけじゃない。お互いの条件を守るために、俺はこの後神樹様に取り込まれるつもりだ。

 ……今、相棒が話をつけた。神樹様も了承してくれたよ」

 

 その言葉に、さすがの天の神も驚愕を隠せない。約定破りに対抗するための力として、陸人は神樹に吸収されることを決意していた。

 

 今のクウガは神さえも壊せる攻撃性の塊だ。神樹の内部でそのまま温存してしまえば、いざという時の切り札として長く保有できる。永遠の抑止力とまではいかずとも、人類側が防備を固めるだけの時間は稼げるはずだ。

 さらに神樹の一部になれば、クウガという個がなくなり暴走する危険もない。代償に人として、個人としての陸人も一緒に消えてしまうが、それよりも大切なものが彼にはあった。

 

「どうする? 俺の本気は伝わったはずだ。断るなら、さっきの続きをやるだけだが……」

 

 天の神には実質選択肢はない。今は承諾しなければ負けるのは確実だ。人類の抹消を諦めたわけではない。それでも、伍代陸人ほどの存在が生まれた人間を、再攻撃までの時間つぶしに観察し直しても良い。そう考えて条件を飲んだ。了承の意思を飛ばし、クウガが安堵のため息をつく。

 

「賢明な判断、感謝する。それじゃ約束通り、すぐに消えるよ……アンタも約束、ちゃんと守れよ?」

 

 天の神への怒りがないわけではない。それでも今は、最善の形に収められたことへの感謝を告げて速やかにこの世界を離れる。

 飛び立つ寸前、天の神が疑問の意思を飛ばす。なぜそこまでできるのか、神に至るほどの力を手に入れて、なぜ人類を守り続けるのか、と。

 

「こんな高くから眺めてるだけのアンタに言っても分からないさ。人間は、すごく複雑で、1人に限って見てもその中にいくつもの面があって、可能性がある……俺はそれが輝く未来を守りたい、それだけだよ」

 

 陸人が至ったクウガの頂点。あれは陸人が最初から本能的に悟っていた人間の本質を体現している。

 

『光と闇の両方を宿し、そのどちらが本質であるのかは、一人一人が意志と行動で決める』

 

 今のクウガも同じ。光と闇の2つを抱えて、その中でほんの少し魂を光の側へ傾けて人格をギリギリで保っている。陸人が人間を正しく見ていたからできたこと。天の神にはできなかったことだ。

 

 クウガが天の世界から飛び立っていく。天の神は何も言わず、害意も見せず、静かにその背中を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間移動で神樹の内部に飛んだクウガ。ここなら誰の邪魔も入らない。

 

 ──今から陸人は神樹に取り込まれる……つまりは神に至るわけだが、思い残すことは本当にないのか? ──

 

「……そうだな、ありがとうアマダム。兄さんみたいに、みんなにメッセージを残そうかな」

 

 意識の一部を現実世界に飛ばす。これで最後の挨拶くらいはできるだろう。

 

「……これで、お別れか。アマダムはこの後どうなるのかな?」

 

 ──私のことは気にするな。陸人と別れる以上、私の結末はどの道大差はない……力の大半を失って消えるか、封印されるか……似たようなものだ──

 

「……そっか。ごめん、俺が勝手に決めたことで……」

 

 ──気にするなと言っている。それよりも、だ──

 

 これから自分が消えるというのに、相棒の心配ばかり。らしいと言えばらしいが、アマダムはありもしない頭を抱えたくなった。

 

 ──娘たちとは、純粋に気持ちをぶつけ合うべきだからな。代わりに私が労ってやろう……陸人、よくやったな。未来を繋げたのは貴様のおかげだ。他の誰でも不可能だった、伍代陸人だからこそなし得た結果だ……胸を張れ──

 

 もっと他に言いたいことがあった。陸人に人としての幸せな未来を歩ませてあげたかった。しかし、最後は清々しく別れたい。自分に誇りを持たせてやりたい。アマダムは自分の本音を勇者たちに譲り、陸人を褒め称える。

 

 ──今の私にできる、精一杯の褒美を用意してある。少し待てば分かる、楽しみにしておけ──

 

「……? よく分かんないけど、アマダムがそう言うなら……うん、待ってるよ」

 

 ──私にとっては一瞬のような短い時間だったが、陸人と共に駆け抜けた日々は楽しかった。貴様と一緒に戦えたのは、私の誇りだ──

 

「そんな。俺だってアマダムには助けられてばかりで……君の相棒になれたことが、本当に誇らしいよ」

 

 ──そう言ってくれるか……否応無く戦う運命を与え、苦しみをもたらしてきた私を──

 

「違うよ。アマダムは一番最初に、俺に力と信頼をくれた。俺たちが起こしてきた奇跡……その最初の一歩を一緒に踏み出してくれたのがアマダムだ。俺を信じてくれて、ありがとう。俺たちは最高の相棒さ」

 

 ──それだけ聞ければ、十分だ。ありがとう、陸人……さらばだ──

 

 

 

 

 

 

 アマダムが神樹に溶け込んで消えていく。それを見届けた陸人の体もまた、少しずつほどけるように消えている。

 

(飛ばした方の意識は、まだ残ってる。あっちの俺が最後になりそうだな)

 

 この瞬間、伍代陸人は人ではなく神に変わった。この時代の勇者の使命は、これにて完遂された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瀬戸大橋の上、8人の少女は何もできずに立ち尽くしていた。壁を超えられる勇者もおらず、神託も陸人が飛び立ってすぐに途絶えてしまった。

 

「……何かしら、アレ?」

 

 精霊の穢れを抜き取られ、ある程度回復した歌野が空を見上げる。人影のような光が、こちらに降り立とうとしていた。

 

「……神樹様……いえ、少し違う?」

「この感じ……クウガ……ううん、陸人さん?」

 

 神樹の声を聞く巫女、特に感受性が高い水都が、直感でその本質を理解する。

 

「うん、俺だよ。みんな無事だね……よかった」

 

 全員がその光を陸人と認識した瞬間、光が人の姿に変わる。侵食が進む前、髪も顔も本来の状態である陸人がそこにいた。

 

「陸人、一体何が起きた? いや、お前は何をやったんだ?」

 

「詳しく説明すると長くなるから、その辺は後で神樹様から教えてもらってくれ。

 簡単に言うと、戦いは終わりだ。俺は神樹様と融合する……みんなとはお別れだね」

 

 あまりに省略しすぎた物言いだが、神について学び、その手の感覚に優れたひなたと水都はおおよそのことを把握できた。

 

「それは、世界を守るための力として……神になる、ということですか?」

 

「まあ、そんな感じだね。約束守れなくて、本当にごめん……みんなと一緒の未来には、俺は行けなくなっちゃったよ」

 

「……そんな! なんとか、なんとかならないの?」

 

「……これ以外に人類が生き残る道はないんだ。俺は、みんなに生きていてほしい。俺の1番は、やっぱりそこなんだよ」

 

 勇者の6人は、巫女たちの半分も事態を把握できていないが、これが陸人と話せる最後の機会だということだけは理解した。

 

「あんまり時間がないんだ。ちょっと場を整えさせてもらうね」

 

 

 

 

 

 

 陸人の手から光が広がる。その中は魂同士が直接対話できる精神世界に近い空間。陸人の夢の世界と同じ理が流れる世界を現実に顕現させた。

 8個の空間に分割された何もない世界で、陸人と少女たちが1対1で向き合う。残された時間が少ない陸人が、全員と同時に対話できるように力を振るったのだ。

 

 

 

 

「神様になる、かぁ。さすが陸人くんね、やることがビッグだわ……ほんと、ビッグすぎよ」

 

「アハハ、我ながらビックリだよ。ここまでくるとはね」

 

 この期に及んで笑っている陸人が信じられなくて。いつも笑っている自分を棚に上げて、歌野は一瞬陸人に詰め寄りそうになった。

 

「笑い事じゃないでしょ。陸人くんは未練とかないの?」

 

「ない、って言い切るには……俺の中の歌野ちゃんたちの存在が大きすぎるかな。でも、大切で大好きだから……守りたいって思ったんだ」

 

 陸人の笑顔に翳りはない。それは彼の言葉が紛れのない本音だということだ。そんな笑顔が、歌野自身大好きだったから分かる。

 

「未練はある。だからこそ後悔はしてない。たとえ時間を巻き戻しても、俺はその度に同じ選択をするよ……絶対に」

 

「流されたわけじゃない、追い詰められたわけでもない……あなたが自分で選んだ道なら、泣いちゃうくらいに寂しいけど、私は応援するわ。ファイト、陸人くん!」

 

「うん……ありがとう、歌野ちゃん。君の笑顔が、大好きだよ」

 

 歌野は笑う。陸人も笑う。『これが最後なら、一番の笑顔を覚えていてほしい』それが2人の願いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陸人さんと、みんなとずっと一緒に、って……私の願いなんてそれだけなのに。そんなに許されないワガママなのかな、これって……」

 

「そんなことないよ、当たり前の願いだ。そんな当たり前を願う権利は、俺が守る。水都ちゃんの願い、全部は叶えてあげられなくて……そこは謝るしかないけど」

 

 水都は信じていた。陸人なら必ず帰ってくると。無根拠に信じて、その度に応えてきた陸人だから、今度も大丈夫だと確信していたのだ。

 

「陸人さんはずっと苦しんできた。きっとこれからは、幸せなことばっかりが待ってる……そんな未来が、あったはずなのに」

 

「未来は誰にも分からない。神様だって俺がこうなることは予想外だったみたいだしね。でも嬉しいよ。水都ちゃんがそんな風に、俺の未来の幸せを祈ってくれた……それだけで俺は幸せだよ」

 

「……足りない! こんなんじゃ、陸人さんの今までと全然釣り合ってないよ!」

 

 水都は滅多に見せない怒りを表す。彼女の怒りは珍しい。それは彼女が誰かのためにしか怒らない少女だから。そんな彼女でも世界に怒らずにはいられないくらいに、陸人の結末が許せないものだったから。

 

「俺のために怒ってくれてありがとね。でもそれを決めるのは俺だから……俺が幸せだって言うんだから、それでいいんだよ」

 

「そんなのってないよ……悲しすぎるよ、陸人さん!」

 

「うん……ありがとう、水都ちゃん。君の優しさが、大好きだよ」

 

 陸人は何もできない今の自分がもどかしかった。水都の涙を止めてあげたいと思い、同時に自分を思って泣いてくれる水都の優しさを嬉しくも思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あなたがいなくなったら、私たちがどう思うか……分からないわけないわよね?」

 

「うん……泣いちゃうのは分かってたよ。できればその涙を止めてあげたいけど、俺はもう触れることもできないから……」

 

「いや! いやよ……やっと素直になることができたのに。やっとあなたに真っ直ぐ触れられるようになったのに……! もう、触れることもできないなんて!」

 

「そうだね、俺も寂しい。でも、それ以上に嬉しかったんだ。ずっと心配してた千景ちゃんが、前向きに変わっていってるのが分かったからさ」

 

 最後の最後まで、陸人にとって千景は放っておけない娘のままで。せめて最後くらい、と千景は涙を拭って顔を上げる。

 

「……なら、もう一度。あなたに触れたい……どう、かしら?」

 

「でも、今の俺は……」

 

「……実際に触れなくてもいいの。少しでも、あなたを感じることができればそれだけで……」

 

 陸人の光を抱きしめるように腕を回す千景。微かな熱が、そこにいる陸人を確かに感じさせる。

 

「……今、ここにいるあなたに伝えるわ。私は大丈夫。本当にもう、大丈夫だから……」

 

「うん……ありがとう、千景ちゃん。君の純粋さが、大好きだよ」

 

 陸人も触れない体で精一杯、千景を抱きしめる。そんなことしかできないことに申し訳なさを感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだよりっくん、私は……りっくんのいない世界で心から笑える自信がないよ」

 

「友奈ちゃん……今の俺が言うのもなんだけど、友奈ちゃんには誰かを幸せにする才能がある。誰にも負けないすごい力がね。

 俺も千景ちゃんもそれに救われたんだ。だから、少しだけ自分を信じてみない?」

 

「りっくんを助けられなかった私に、自信なんて持てないよ」

 

「そっか……それなら、俺にできる最後のプレゼントだ。これでちょっとでも前を向いてくれたら嬉しい」

 

 そう言って笑う陸人が光を放つ。それは友奈の足に注がれ、動かないはずの彼女の足に力を戻した。

 

「……ぇ……足が動く⁉︎」

 

「今後もリハビリは必要だろうけど、これなら頑張れば以前と同じに動けるようにもなるはずだよ。

 忘れる前からなんとかしたいと思ってたんだ……俺の願い、叶えてくれないかな? 友奈ちゃん」

 

「りっくん、記憶が?」

 

「うん。失くしたものは、多分全部戻ってる……神樹様のご褒美、なのかな?」

 

 友奈の足は陸人の中で消えないしこりとなっていた。記憶をなくしても変わらず気にしていた。その解決の一助になれた。陸人はそれを喜んでいて、これからの努力で友奈がそれを形にしてくれることを願っていた。

 

「りっくん。今すぐには無理でも、必ずりっくんにもらった力を無駄にはしないから……だから、今だけは……!」

 

「うん……ありがとう、友奈ちゃん。君の強さが、大好きだよ」

 

 泣きながらも頑張って笑顔を作る友奈。その思いやりこそが、今日までの陸人を支えてきたものの1つだから。陸人はそれを忘れてほしくなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陸人、私は言ったな。お前がどこに行っても必ず追いつくと……1人にはしないと」

 

「うん、覚えてるよ。だから謝らないとね……俺はその言葉を破らせてしまった」

 

 頭を下げようとする陸人を手で制する若葉。拭ってもこぼれ続ける涙はもう諦めて、それでも真っ直ぐに前を向いていた。

 

「謝る必要はない。お前がなんと言おうと、私はあの言葉を曲げる気などさらさらないからな」

 

「若葉ちゃん。君は、どこまでも……」

 

「改めて誓おう。お前がどこに行こうと、何度離れようと、必ず追いついてその手を掴む。死のうが消えようが、それは変わらない」

 

 若葉は自分の言葉に、自分の決意に殉じる覚悟がある。一度口にしたことは彼女にとって絶対なのだ。

 

「若葉ちゃんらしいね……でも、自分を大事にしてね? 自殺とかは絶対にダメだよ?」

 

「分かっているさ。お前に救われた命を無駄にはしない。生きて足掻いて、道を探す」

 

「うん……ありがとう、若葉ちゃん。君の正しさが、大好きだよ」

 

 自分の言葉も陸人の願いも世界の未来も、その全てを背負う決意を固めた若葉。陸人はそれが何より眩しく、頼もしいものに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うっ……うぅ……グス……」

 

「ひなたちゃん……その、本当にごめん」

 

 ひなたはひたすらに泣いていた。普段の心の強さからは考えられないほどに崩れ落ちていた。

 

「俺には泣かないで、なんて言えないけど……ひなたちゃんには、前を向いて笑っていてほしいかな」

 

「そんなことを言って……陸人さんは、私が泣いている理由が分かるんですか?」

 

「うん、多分分かるよ。友達だとか仲間だとか、そういうことじゃないんだよね?」

 

「……ぇ……!」

 

 ひなたはこの想いを隠しきれている自信があった。事実陸人も昨日までは気づいていなかった。球子と杏の告白を受けて、これまでを振り返ることでひなたの気持ちに薄々感づいたのだ。

 

「だからこそ、ひなたちゃんともこれからたくさん話がしたかったんだけど……ごめんね、もう時間がないんだ」

 

「陸人さん、あなたは……いえ、今は答えは出さないでください。私はあなたの、そんなところが……」

 

 陸人がここまでの無茶をした理由の1つは、間違いなく奉火祭だ。真鈴からの連絡と彼の行動で確信したひなたは、それも含めたこれまでの感謝を告げる。

 

「陸人さん。本当に……本当にありがとうございました……大好きです」

 

「うん……ありがとう、ひなたちゃん。君の暖かさが、大好きだよ」

 

 もっと早く気づいていればと悔やむ陸人。もっと早く告げるべきだったと悔やむひなた。そんな本心を隠して笑う2人。言いたい言葉を隠して、言うべき言葉を選ぶのは、2人とも得意だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陸人のバカ! バカ、バカ、大バカァ‼︎」

 

「ごめん、球子ちゃん……本当に、ごめん」

 

 子供のように泣きわめく球子。いつもなら頭を撫でるなりしていたところだが、今の陸人ではそれも叶わない。

 

「なんでだよ……なんで陸人ばっかり、こんな目に会わなきゃいけないんだよ」

 

「俺ができること、俺がやるべきこと、俺がやりたいこと……全部が重なっていて、その中で俺が選んだ道だよ。俺は自分が不幸だとは思ってない。それだけは分かってほしいな」

 

「それじゃあ、陸人はタマと一緒にいられなくてもいいのかよ。タマは嫌だ! ずっと、陸人と一緒に……!」

 

 これから消えるのがどちらなのか分からないほどに、陸人はいつも通りで、球子は心が折れていた。

 

「もちろん会えないのは辛いよ。でも、たとえ消えても、もう会えなくても、球子ちゃんがくれた暖かさはずっと忘れない。綺麗事かもしれないけど……別れが悲しいのは、それだけ出会いが幸せだったってことだからね」

 

「陸人……陸人は、ホントに幸せだったか? タマたちと一緒にいて、ホントに幸せだったのか?」

 

「うん……ありがとう、球子ちゃん。君の明るさが、大好きだよ」

 

 消える前に、せめてそれだけは伝えたくて。陸人は触れない腕でそれでも球子の頭を撫でて、真っ直ぐな気持ちを込め続けた。球子はそれが懐かしくて、暖かくて、余計に涙が止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陸人さんに告白した時、これできっと大丈夫って……前を向いた陸人さんなら、絶対なんとかしてくれるって……そんな風に無責任に信じて……それで!」

 

「信じてくれてありがとう。それに応えられなかったのは俺が悪いんだよ。杏ちゃんは何も悪くない……自分を責めないで」

 

 杏視点、最後まで陸人頼りだった自分たちにもっとできることがあったように思えて。

 陸人視点、約束を破った自分が一から十まで悪いと思っていた。

 

「杏ちゃんやみんなのおかげで、俺は今日までやってこれたんだ。みんなの未来を守ることが、俺自身の幸せよりも大事だった……それだけなんだよ」

 

「でも、私たちが何かできれば、陸人さんが諦めることもなかったかも……」

 

「杏ちゃん、それは違うよ。この結末は、誰かが努力を怠ったからじゃない。みんなが自分に出来る精一杯を尽くしたから、こうしてみんなの未来を掴めたんだ」

 

 杏の言葉は、陸人にとっては絶対に否定しなくてはいけないことであった。陸人は変わらずみんなに感謝していたから。

 

「それからもう1つ……俺は諦めたわけじゃない。全部失いかけたところから、1番大切なものを選んだんだよ」

 

「陸人さん……こんな、こんな私のこと……」

 

「うん……ありがとう、杏ちゃん。君の美しさが、大好きだよ」

 

 言い訳にもならないような言葉の言い換え。それでも陸人が必死に元気付けようとしていることはちゃんと伝わって。杏は変わらない優しさが愛おしくてたまらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人での対話を重ねて数分。陸人が作った空間が軋み、音を立てて崩れ去った。

 

「……ふぅ、もう本当に限界だな……!」

 

 合流した一同。陸人の言葉に、いよいよ避けられない別れが間際に訪れたことに気づく。

 

「球子ちゃん、杏ちゃん。昨日の返事なんだけど……俺、ずっと考えてた。でもやっぱり結論は出せなくて……みんなが大好き、じゃあやっぱりダメなんだよね?」

 

 答えを出さずに消えるというのがどうにも不誠実に思えて、それでもちゃんと返事もできず……曖昧な言葉を伝えるしかない陸人。

 球子と杏は、陸人を安心させるために、精一杯の笑顔を作る。

 

「しょうがないな。なら次に会った時にはきっちり答えを出してもらうからな!」

 

「必ずまた出会う……! そこで、絶対に好きになってもらうんだから!」

 

「……そっか。ありがとう、2人とも」

 

 陸人は、ずっと引っかかっていた胸のつかえが取れたような気がした。気持ちが楽になった陸人の体が、どんどん光となって解けていく。

 

 

 

 

 

 

「これから先……どんな未来が待っているかは分からない。完全な平和が訪れたわけでもないしね。

 それでも、みんななら自分も、他の人も幸せに出来るって信じてるから……生きて生きて、その先で……どこかでまた会えたら、その時はよろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 涙を流しながらも輝く笑顔で、仲間へのエールを残し、陸人は光となって消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陸人が消えた場所に、何かが落ちている。杏が拾い上げたそれは、デートの時に買ったドッグタグ 。自分の想いを刻んだ、球子と杏と3人の御守りとして決戦にもつけていったものだ。

 陸人はそれに力を注いで自分の分身を飛ばしていた。

 

「陸人さんの……これ……! 陸人、さん」

 

 ドッグタグの刻印を読み上げた杏が、さらに泣きじゃくる。

 

 "As long as there is one of us, there is all of us"

 

 とある文学作品の一節を一部変形した文。捉え方は色々だが、陸人が込めた想いは……

 

『離れていてもずっと一緒にいる』

 

 少女たちの慟哭が響く。それを止められる唯一の少年は、もうこの世界にはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クウガ 伍代陸人

 

 人の域を超え、神に至った1人の少年の偉業により、世界に束の間の平穏が訪れた。

 

 西暦における争い、神と人の戦争はここに終結したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うーん、ってなるかもしれませんが、ここまで読んでいただけたなら、ぜひ明日投稿するエピローグもよろしくお願いします。
ここから大逆転、とまではいきませんが、少しは後味の良い終わりを予定しておりますので。

感想、評価等よろしくお願いします

次回もお楽しみに

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