A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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 エピローグです。




終章0話 勇者

 神樹の内側。静かで穏やかな空間に佇む魂。伍代陸人はそこにいた。

 

(……アマダムが言ってた褒美っていうのは……コレか……)

 

 神樹に話をつけたのはアマダムだ。その際陸人には内密に1つ条件をつけていた。

 

『陸人の魂を個として残すこと』

 

 その分の力はアマダム自身が存在を捧げて補うということで条件を提示し、陸人に感謝していた神樹もそれに応じてくれた。

 外に出ることも神の力を振るうこともできないが、ここから外で生きる仲間たちの様子を見ることはできる。詳しい状況までは把握できなくても、充実した日々を過ごしているかどうかくらいは、その顔を見れば分かった。

 

「……ありがとう、アマダム……がんばれ、みんな……」

 

 誰にも届かない声援を送り、陸人は見守り続ける。今日も明日もその先も、彼の時間は変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………………」」

 

 海辺にポツンと立つ碑石。21人の名前が刻まれた慰霊碑に、球子と杏が花を供える。

 陸人の部屋に残された書置きを元に名前を刻んだ。彼の仲間たちの名前を残してやりたい、という願いを叶えるために勇者の権限を活用した。

 

「……陸人の願いを1つ、やっと叶えてやれたな……」

 

「……うん……ずいぶん時間かかっちゃったけど」

 

 陸人の思い残しをなくし、彼が安心できる世の中にするべく努力する。それが全員で話し合って決めた、彼女たちの新たな戦いだ。

 あの争いから2年。ようやく過去や未来に目を向ける程度の余裕が人類に戻ってきていた。

 

「……それじゃ行くか、あんず! 陸人のお兄さんとお姉さんのお墓にも行かなきゃいけないしな!」

 

「うん、行こうタマっち先輩……今度は桶ひっくり返さないでね?」

 

「わ、分かってるっての! タマに任せタマえ!」

 

「フフッ、ちゃんとキレイにして、陸人さんの分もご挨拶しなくちゃね」

 

 球子と杏は高校に通いながら、大社の非正規職員、アルバイトのようなことをやっている。

 球子は次代の勇者の教導官候補。杏は資料室の業務補佐。勇者としての経験を生かして、陸人が守ったものを未来に繋ぐためにそれぞれのやり方で努力していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハァッ、ハァッ…………プハ〜〜〜…………疲れたぁ……」

 

「……お疲れ様、高嶋さん……すごいわ、最高記録よ……かなりの距離を進めるようになったわね……はい、スポーツドリンク……」

 

「……あっ、ありがとう、ぐんちゃん…………んぐっ、んぐ…………ふぅ、りっくんが光を残してくれたんだもん。私が頑張らなきゃ意味なくなっちゃう……私は絶対にまた、自分の足で立って歩くんだ」

 

 友奈と千景がいるのは病院のリハビリ施設。友奈の足は、陸人が散り際に与えた加護もあって、かなり動かせるようになってきている。今後以前のようにまで回復するかは友奈の頑張り次第だ。

 

「……ぐんちゃんの方は順調? 大学行くんだよね……しんしょうしんりし、だっけ?」

 

「……臨床心理士よ、高嶋さん……今のところ問題はないわ……これを取得すればカウンセリング関連の職に就く時、かなり応用が効くから……時間も費用もかかるけど、大社がお金も出してくれるし……」

 

 千景は心理カウンセラーを目指していた。味方がいない環境で殻に閉じこもっていた自分を救ってくれた陸人のように。苦しんでいる誰かの心に寄り添える人間になりたかった。

 

「……私は、足が治ったらどうしようかな。ぐんちゃんは、何が私に向いてると思う?」

 

「……そうね……高嶋さんなら、それこそカウンセラーとか向いていると思うけど……私もあなたにはすごく助けられたもの……」

 

「そっか……えへへ、なんだか嬉しい。ありがとう、ぐんちゃん!」

 

 自分の将来について悩む。そんな当たり前を取り戻してくれたのも陸人だ。どんな道を行こうとも、彼に恥じない生き方をする。

 それだけは全員が共通認識として持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーっし! 今日のところはここまでかしらね。みなさーん、休憩にしましょう!」

 

 一通りの水やりを終え、歌野は仲間に声をかける。以前よりも畑の広さも作業人数も増した彼女の農場は四国でも有数の収穫数を誇っている。

 

「うたのん、みなさん! ご飯持ってきましたよー!」

 

「ベストタイミングよ! さすが私のみーちゃん!」

 

 水都がおにぎりを持ってくる。わらわらと群がり、賑やかな昼食タイムへ。水都は2人分のおにぎりを持って歌野の隣に。

 

「今日も順調みたいだね、うたのん」

 

「もちろんよ、みーちゃん。神樹様に頼ってばかりじゃいられないわ……私達の糧は、私達で手に入れなくちゃ」

 

「うん……でも、前よりも収穫効率が目に見えて上がってきてるんだよね?」

 

「そうなのよ。もちろん私達も日々試行錯誤してるから、その結果ってのもあるだろうけど……それ以上に……」

 

「神樹様……それと、陸人さんが……力を貸してくれてるんだね、きっと……」

 

 陸人にはまだ、神樹の力を行使することはできない。それでも内部から祈りを捧げ、神樹に仲間の夢の後押しを求めるくらいはできる。

 歌野と水都は確信していた。陸人が自分たちの夢を心から応援してくれていたのを知っているから。

 

「そのサポートに報いるためにも、どんどん私の畑を大きくしていくの! 陸人くんがどこにいても見つけられるくらいにでっかい、1番の大農家……農業王目指して、私は頑張るわ! みーちゃん」

 

「うん……私も手伝うよ、うたのん。どこまでも一緒に……」

 

 2人は夢を諦めない。陸人が応援してくれた、彼が祈ってくれている夢を叶えるまで、止まることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ……ひなた、次の実験は何だ?」

 

「今日の分は全て終了です。休憩しましょう、若葉ちゃん」

 

「……いや、私はまだいける。多少予定を早めるくらい──」

 

「若葉ちゃん……気持ちは分かりますが焦りは禁物です。決して無理せず、安全確実慎重に、未来に力を託す。そう約束したでしょう?」

 

「……む……そうだな、すまない……今日はここまでにしよう」

 

 若葉とひなたは大社の実験場で、次代の勇者システムの開発に取り組んでいた。天の神の手前大っぴらには活動できないが、陸人や神樹に頼りっきりで済ませるわけにはいかなかったから。

 最終決戦の無茶で歌野と友奈の勇者適性も減衰した。結果として若葉は唯一戦える力を持って生き残った勇者。ひなたは大社の実質的な最高権力者。この2人は終結後もそのまま大社に残り、権力を高め、責任を背負い、役目を果たしてきた。

 

「そうだ、ひなた……例の件はその後どうだ?」

 

「ええ……新たな神託も降りました。少しずつですが、確かに前進していますよ……私たちが生きているうちに、なんとか形にしなくてはいけませんね」

 

 世界の未来とは別に、若葉たちにはそれと並ぶ重要案件があった。2人が権力を求めたのは、大社の腐敗を防ぐことともう1つ……自分たちの願いを叶えるためでもある。

 

「近いうちに1度、中間報告がてらみなさんと会うのもいいかもしれませんね。きっとそれぞれの道で頑張っているはずですし」

 

「ああ、それはいいな。直接会うのは随分久しぶりだ……たまには私がうどんでも振る舞おうか」

 

 全員が自分の道を選び、これからますます距離は遠くなっていくだろう。それでも少女たちには共通の願いがあり、切れない絆がある。

 少女たちの命は、この限られた世界で、確かに輝きを放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎて、西暦から神世紀へと名を改めてから180年程が経過した。幾多の問題こそ起きはしたが、西暦ほど明確な争いもなく、人が人として生きていける世界が続いている。

 

 仲間たちも天寿を全うし、陸人が伝承上の人物になった時代。

 陸人も少しずつ自分の裁量で力を振るえるようになり、神樹の手が回らないところを補うようにして人類を見守り続ける。

 

「やっほー、久しぶり陸人くん……あいっかわらず真面目ねぇ……200年近くそうしてるんだし、少しくらい力抜いてもいいと思うけど?」

 

「久しぶり、雪花さん……なんていうか、もう癖になっちゃって……手抜きのやり方が分からないんだよね……」

 

「……そうか……難儀な奴だな……まあ、陸人らしいと言えばらしいが……」

 

「棗さんも……2人も来るなんて珍しいね。何かあった?」

 

 勇者として散った魂は神樹に取り込まれる。陸人と違って神樹の力を能動的には使えない代わりに、彼女たちはこの中を自在に動ける。こうして時々陸人のところにも訪れる友人関係を築いていた……全員が魂だけの存在ではあるが……

 

「んー、今日はもうお仕事終わりにしたほうがいいよ。お邪魔になるから私たちはすぐ帰るけどさ」

 

「……陸人……今日は自分のことだけを考えるべきだと思う……それじゃあな……」

 

 それだけ言って消えていく2人。陸人が首を傾げながらも力の行使を中断して休憩を取ろうとしたところで、懐かしい声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「お〜〜い! 陸人〜〜〜‼︎」

 

「陸人さ〜〜〜ん‼︎」

 

 

 

 その声の主に、ずっと会いたかった。もう2度と会えないはずだった。

 

「球子ちゃん……杏ちゃん……みんな……!」

 

「ようやく、ようやく会えたよ、りっくん!」

 

「……待たせてしまったわね、ごめんなさい……」

 

 彼女らもまた魂だけの存在。しかし彼女らは平穏の中で年老いて死んでいった。その時点で適性を失っている。ここには来れないはずだった。

 なのに今ここにいる。陸人と別れた時の、少女の姿のままで。

 

「生前のうちに準備していたんです。神樹様の中で、あなたと再会するために」

 

「ここに陸人がいることも、死後こちらに来るためのヒントも神樹が教えてくれた……さすがに8人全員は無理があったのか、100年ほどかけて上り詰める羽目になってしまったがな」

 

 適性を持たずに神樹に宿った代償として、彼女たちは内部を自在には動けない。それでも100年かけて、他の勇者の魂にも助けられて、今日ついに陸人の元に辿り着いたのだ。

 

「いやー、ベリーハードな道のりだったわ。魂だけになれたのに、体があった頃よりもずっと重くて動けないんだもの」

 

「でも、やっと会えた。他の勇者の人も道を教えてくれて……やっと、やっと会えたんだね……!」

 

 彼女たちは陸人の願いを守るために全力で生きた。だから死んでからは自分たちの好きにさせてもらう。100年かけても会いに来るほどに、彼女たちは本気だった。

 

「約束通り、会いに来てやったぞ、陸人……!」

 

「陸人さん……陸人さん!」

 

 9人で引っ付き、抱き合う一同。魂同士なら、肉体と同じように触れ合うこともできる。

 

 

 

 

 

「みんな、本当に……って、ひなたちゃん……ちょっと近すぎるよ……は、離れて……」

 

「あー、ずるいぞひなた! っていうかお前と若葉は既婚者だろ! ウワキだウワキ!」

 

「まあ人聞きの悪い……あの婚姻は血筋と家柄を残すための儀礼的なものです。相手側もちゃんと納得した上で成り立っています……ですから勘違いしないでくださいね? 陸人さん……」

 

「わ、私だってそうだ! 家族は家族として愛していたが、それだけだ……1000年前にはありふれていたことだろう!」

 

「……そこで歴史上の名家の在り方を例に挙げるあたりが乃木さんよね……私たちも、伍代くんも、何年経っても変わらない……フフッ……」

 

「アハハッ! この感じ久しぶりだね。やっぱり私たちはみんな一緒じゃなきゃ!」

 

「生きてる間に私たちの夢はとりあえず叶えたからね。ここでは陸人くんの夢を叶えてあげましょう!」

 

「うん……ずっと頑張ってきた陸人さんを、私たちで幸せにしてあげようね」

 

「ありがとう、みんな……俺は今、すごく幸せだよ……」

 

「ウフフ、陸人さん。覚悟してね? ここなら時間はたっぷりある……絶対に! 答えを出してもらうんだから!」

 

「ええっ⁉︎…………アハハ、アハハハハッ……ホントに、良かった……嬉しいよ」

 

 現世のようにものに溢れた世界ではない。魂だけの彼らには、できないことも多くある。

 それでも彼女たちは陸人を幸せにしようと本気で思っている。

 陸人もまた、これから幸せになれると確信している。

 

「……これが、俺の夢……みんなと一緒なら、それだけで……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の域を超えた男を追って、道理を超えた女たち

 

 

 

 

 戦いを終え、世界を守り、時代を超えたその先で

 

 

 

 

 英雄はようやく、彼が望む幸せを手に入れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 オリジナル設定をこれでもかとぶちこみました。勇者の魂あたりは特に……
 これにてとりあえず本編完結です。
終わりを汚すようで蛇足感ありますが、物語形式ではない雑記的なものを用意しておりまして……あとがきに当たりますかね……

 前話以降のキャラクターたちの人生を箇条書きにしてまとめたものになります。ついでに今後の今作についての予定というか希望も書いてあります。明日投稿予定ですので、興味がある方は良ければ覗いてみてください。

 感想、評価等よろしくお願いします。

 次回もお楽しみに




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