A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
Q.プロットもなしでやっている作者がこういうことをするとどうなるか…
A.修正祭り
というわけで矛盾が発生したら修正することになるでしょうが取り敢えず上げます。
補足…原作と同様のシーンはばっさりカットしていきます。主人公は学校に行かないのでその辺は特に…ご了承ください。
『安芸先生!』
「やっぱり来るわよね……要件は分かってるわ、とりあえず座って……長い話になるから」
バーテックスとの初戦から1日が経過した夕方。未だ傷の残る体で、祝勝会を終えた勇者たちは最も身近な大社関係者を訪ねて事情の説明を求めた。
勇者たちの監視と教導を担当する大社職員、彼女たちから安芸先生と呼ばれている女性は、少し気まずそうに3人を座らせるとゆっくり口を開く。
「彼から連絡があってね、聞かれたら全部話していいって言ってたから。一通りのことは説明する……ただアンノウン……あなたたちが先日遭遇した人間大の怪物については正直不明な点が多いの」
「アンノウン……アレは他にもたくさんいるのですか?」
「ええ……半年ほど前から時々現れるの。バーテックスと違って壁を越えることができるし、超えてきても神樹様は反応できない……存在の力が小さいからなのか、特別な手を使っているのかは分からないけど」
「ってことは〜、アンノウンっていうのは現実世界で動けるってこと〜? それはマズイんじゃ〜?」
「ええ、それに対処しているのが鋼也くんよ。どうやらアンノウンは壁を超えられる代わりに神樹様を壊すことはできないらしくてね……アレが標的にするのは
「でもアイツ、樹海に入ってこっち攻撃してきたよな?」
「それはこちらも予想外だった。バーテックスと連携を取れるとなると、こちらも勇者とギルスの共同戦線が必要になるわ」
そうして勇者の質問に安芸が答えていく。今分かっている情報をまとめると……
恐らくは天の神が遣わした人類殲滅のための尖兵。
結界を超えて、樹海にも囚われない隠密性がある。
樹海発生時に範囲内にいれば樹海内で自由に動ける。
神樹に一定以上に近づけず、直接壊すこともできない。
発見するには現状ギルスの感覚に頼るしかない。
総数は不明だが既に12体以上現れている。
狙いは基本的には大社本部。一度だけ別の方向の一般市民を狙ったことがある。また、その際割って入ったギルスに反応して攻撃してきた。
「今説明できるのはこれくらいね。今後もバーテックスと一緒に戦うことになるでしょう」
「……アンノウンについては理解できました。それではもう一つ……」
須美は隣の銀に視線を向ける。昼間の祝勝会では元気に楽しんでいたが、やはり気になっているのだろう。
「安芸先生……篠原鋼也って、前にウチの学校にいたんだ。アイツ、何があったんだ? 今、何をやってるんだ?」
「…………そうね……」
銀の疑問に、安芸が悩むように目を閉じて黙り込む。
「今後も共闘することになるでしょう……本人もそのつもりで了承したのだろうし……」
昔話をしましょう。そう言った安芸の顔には隠しきれない悲嘆が浮かんでいた。
今より3年ほど前。篠原鋼也当時8歳。彼には仲のいい幼馴染が2人いた。
「いよいよ儀式の日か……緊張するな……」
1人は
「大丈夫だって! 私たちさいこうてきせいち? あるんでしょ? 大社の人言ってたじゃん、絶対成功するって!」
もう1人は
「まあ気楽すぎるのもどうかと思うけど、ここまで来たら後は運だろ。リラックスしていこうぜ?」
彼ら3人は共に大社で格のある家柄の子供。家同士のつながりが深く、生まれた頃から何かと行動を共にしてきた仲だ。その日は3人に与えられたお役目を果たす、重要な日だった。
「しかし、本当に僕たちにできるのか……英雄の跡を継ぐなんて」
「って言っても俺たちはあくまで力を授けてもらうだけだろ? 何もあの伝説みたいなことしろってわけじゃないさ」
「そーそー。儀式自体に危険はないって話だし。志雄は心配しすぎだよー」
彼らに与えられた役目とは、すなわち英雄の後継。神樹の中で温存、熟成されてきたクウガの力を授かり、新たな時代の戦士になることだった。
あと数年で天の神は完全に力を取り戻す。そうなれば再び神と人の争いが始まるのは必然。これまでのように勇者は選ばれるが、それ以外に新たな力が必要とされた。300年ぶりの本格的な闘争に、かつて終戦をもたらした英雄を求めるのは自然と言えるだろう。
神性への適性はもちろん、強い肉体と、魂の強度が求められる。そんな英雄の器となるために、彼らは神託が降った日から3年間努力してきた。その努力が身を結ぶ今日この日、3人は神樹に続く道を並んで歩いている。
「いやー、俺たちが英雄だってさ。キツイ稽古に耐えてきた甲斐があるってもんよ」
「だよね。中でも一番キツかったのは、パパとママが辛そうな顔するんだよ、私の傷とか見ると。それもようやく今日報われるんだなぁ」
「……そう、だな。僕たちは多くの人の期待を背負っている。つつがなく儀式を終えて、いい報告をしなくては」
「それそれ、俺たち3人揃えばなんだってできるさ。なあ香?」
「私たちなら新しい英雄にだってなれる! もしもの時は私が2人を守ってあげるからね」
「フン、自分の身くらい自分で守るさ」
彼らは未来に希望を抱いていた。明日は可能性に満ちていると無邪気に信じていた。
神樹の側でベッドに横たわる3人。穏やかな精神状態で眠りについた3人と神樹を呪術的なやり方で結び、力を受け取るためのルートを構築するのが今回の儀式だ。
医療機器を取り付けられ、睡眠薬と精神安定剤を投与された彼らは薄れゆく意識の中で、しっかりと手を握り合っている。
「それでは始めます。気を楽にしてください、長くはかかりませんので」
「鋼也、志雄……」
「ああ、3人一緒だ」
「目が覚めたら、またメシ食おうぜ。香のお母さんの、めっちゃうまい晩メシ……」
「うん!」
「ああ」
その約束を最後に、彼らは意識を彼方に飛ばした。
暗く静かな空間。自身の精神世界に意識を移動させた鋼也は、そこで白く瞬く光の塊を見つけた。
「これが、英雄の力……?」
恐る恐る手で触れると、光はゆっくりと移動し、鋼也の胸の中に入り込んだ。体中に暖かい何かが走る感覚と同時に、他の2人の声が聞こえてきた。
(うまく、いったのか……?)
(なんかすごい……! 力がみなぎってくる……!)
「2人とも、大丈夫みたいだな……」
3人全員が無事に力を継承できたようだ。鋼也が安堵のため息をついたところで────
(……ぅ……ぁ……!)
(……香?)
「どうした? 香?」
(ぅうあああああああああっ‼︎)
何かに悶え苦しむ香の絶叫。再び声をかけようとした瞬間、鋼也と志雄にも異常が発生する。
胸の内にしまい、安定したはずの光が内側から食い破らんばかりに暴れ始めた。
「ぐっ……なんだよ、コレ⁉︎」
鋼也の魂が飲み込まれる一瞬前、外部からの干渉で彼の精神世界は崩壊、意識も肉体に戻った。
「……ちくしょう、なんだったんだよ今の……」
「死ぬかと……いや、それ以上の何かがあったな」
息を荒げながら何とか現実に意識を浮上させた鋼也と志雄。深呼吸を繰り返して何とか落ち着いたところで、いつも1番に騒ぎ出す彼女が何の反応もないことに気づく。
「なあ、かお──」
「……香……?」
2人の間に横たわっていた香は、普段の彼女からは想像もできない穏やかな顔で眠っていた。その口から呼吸音は聞こえず、その胸も一切動いていない。
「……おいおい、冗談きついぜ? なあ志雄、何とか言って……」
「そうだ、早く起きるんだ香。息止め勝負をしている場合じゃないんだぞ?」
どんどん冷たくなる香の手を握り、引きつった顔で声をかけ続ける2人を大社職員が引き剥がす。
「香! おい、香‼︎」
「離してください! 香が!」
微動だにしないままベッドごと運ばれていく香。それが、鋼也が見た沢野香の最後の姿だった。
翌日、鋼也は大社職員でもある自分の母親から香の死を伝えられた。原因は医療機器のトラブル。途中まで適正量だった安定剤が、突如大量に投与され、幼い体はそれに過敏に拒絶反応を起こした。それが精神に影響を及ぼし、取り込んだばかりの光とのバランスが崩れて暴走。香の魂が破壊された。
さらにそれが同じラインで繋がっていた鋼也と志雄にも衝撃を与え、結果として3人とも完全な力の受け渡しはできなかった。2人の現状はこれからの検査ではっきりさせることになるが、良い状態とは言えないだろう。
「なんだよ、それ……」
「……誰も予想ができなかった、本来考えられない事態だったの……何度もチェックして、安全性もしっかりと──」
「しっかりと⁉︎ じゃああれは何だ? 香が死んだのはなんでだよ⁉︎ 誰かが悪くないなら、運が悪かったって……そう言うのか⁉︎」
現実を拒絶するように腕を振るって暴れる鋼也。怒りと悲しみに飲み込まれて激昂したことで、
がむしゃらに振り回した腕が母親に当たる瞬間、その腕が緑と黒に変わる。その異形の腕は、子供の力ではありえない勢いで母の体を突き飛ばし、壁に頭部を叩きつけた。
「……え……? ……あ……ぁぁぁ……」
呆然として自分の手を見つめる鋼也。窓に映るその姿は、腕だけでなく全身が異形としか表現できない何かに変貌している。
「母さん……? ……母さん‼︎」
騒ぎを聞きつけた大社職員が駆けつけるまで、鋼也はギルスの姿のまま、頭から血を流して倒れる母を呼び続けた。
「幸い鋼也くんのお母さんは一命をとりとめたけど、今もまだ意識が戻らないまま……眠り続けている。鋼也くんはそれ以来あんな調子で……軟禁生活にも手錠にも一切抵抗しなかった。彼自身が誰よりも自分を信じられなくなってしまったの……彼が出撃以外で外に出たことはないわ……この3年間、一度もね」
淡々と締めくくり、安芸は重苦しいため息をこぼす。
「そんなことが……」
「じゃあ、篠原さんは今も自分を責め続けて……」
「ええ、自分には戦い以外ないと思ってるの。大社への反抗心か、気怠そうな態度をとってはいるけれど、戦闘にだけは積極的でね……私も色々と話してはみたんだけど、どうにもならなくて……」
「そっか〜、だから私たちのこと……」
園子は戦場での鋼也の言葉を思い出す。態度こそ攻撃的で荒っぽかったが、何度も自分たちを危険から引き離そうとしていた。アレはきっと、全ての負担を自分で背負おうとする不器用な優しさだったのだろう。
「……あなたたちにお願いがあるの……鋼也くんのこと、怖がらないであげてほしい。同じ戦う立場である勇者だからできることがきっとある。だから……」
安芸が深々と頭を下げる。いつも気丈で凛とした大人の女性としての姿しか知らない勇者たちはその弱々しい雰囲気に思わず息を呑む。
「ただでさえ大変なお役目を背負っているあなたたちにこれ以上を求めるのは大人として間違っているんでしょう……だけど私にはもう──」
「それ以上はイイっすよ、先生」
懺悔のような言葉を銀が遮る。安芸が下げていた顔を上げると、銀も園子も須美も小さく笑っていた。
「色々びっくりしたし、まだ納得いってないこともたくさんあるけどさ……」
「それでもあの人が助けてくれたわけだし〜。私も怖くないよ〜」
「私はまだ彼のことを知りませんから。やはり本人と話してみてからです。機会は作れそうでしょうか?」
「……ありがとう、みんな……」
まだまだ幼い彼女たちに、ギルスの力は受け入れがたいものだったはずだ。それでもこうして笑っていられる。神に選ばれるには相応の理由がある。安芸は何も出来ない歯がゆさと、子供達の頼もしさに泣きそうになりながらも必死に普段の表情を取り繕う。
「彼は大社本部にいるわ。私の方で話を通して、あなたたちならいつでも会えるようにしておきます」
大人との事務的な会話ばかりだった鋼也の毎日に、やっと変化をもたらすことができる。安芸は心から安堵していた。
「それで唐突に訪ねてきたわけか……こうなるのが面倒だから話していいって言ったんだけどな……」
翌日、勇者たちは早速行動に移した。鋼也の生活拠点、監視施設とも言えるその部屋は、空虚さを感じさせるほど広く、生活感のない場所だった。
「何にもないね〜、テレビとか本とかは〜?」
「テレビはここに来てから見てないな。本は教材と一緒に時々頼んで適当に持って来させてる……ヒマ死には流石にゴメンだからな」
「それにしたって……」
風呂やトイレ、ベッドはしっかりしているが、後は小さな机と教材用の棚があるだけ。独房と言われても納得してしまいそうなほどだ。
「それで? 何しに来たんだよ」
「安芸先生から話は聞いたけどさ、やっぱ本人と話がしたくて」
「別に話すことはないがな……何が聞きたいんだよ?」
「じゃあじゃあ〜……好きな動物なんですか? ちなみに私は焼き鳥が好き〜」
「それは動物じゃなくて食の好みだろ……なんだコイツ、色々と大丈夫か?」
「……ごめんなさい。こういう人なの、乃木さんは……」
ぶっきらぼうではあるが、話しかければ意外と乗ってくれる鋼也。
ガンガン踏み込む銀。
めちゃくちゃな軌道で話を進める園子。
真面目成分を一手に引き受ける須美。
意外なほどに話は弾んだ。鋼也自身も饒舌で、3年ぶりの同年代との会話、いかに荒んでいても残っている年相応の感覚が彼の口を動かしていた。
「……あのさ、鋼也……」
鋼也のあだ名がしののんに決まり(本人の了承は無し)一息つく一同。いくら会話が弾んでも、本題に入るには彼女たちでも覚悟が必要。銀は小さく息を飲んで口を開く。
「鋼也の友達……国土、だっけ? 今はどうしてるんだ?」
「……あいつは今も大社にいるらしい。俺と違って適性を全て失ったそうだがな」
「らしいって……会ってはいないの?」
「会ってもお互いいい気分にはなれねえだろ……現にあいつも俺に会いに来たことはない……大社にいるならこんな目立つやつのこと、知ってるはずだしな。生きてるんならそれでいい……多分そう思ってるんじゃねえか」
「そっか〜……もう一個聞いていい? この前変身を解いた時に、しののんの体、なんかおかしくなってなかった〜?」
まるで老化したようになっていた鋼也の腕。園子は嫌な予感が拭えずにいた。
「……! …………よく見てんだな。隠してたつもりだったが」
そう言って右手を掲げる鋼也。その手は特に異常は見られない。
「傷が治るのは見せたろ……ああいう風に俺の体は再生速度が必要に応じて勝手に加速するんだよ。ギルスになってる時は特にな。アンタが見たのはその反動だ……ほっときゃそのうち治るもんなんだよ」
「!」
「それって……」
「は〜、すっげえんだなぁ」
基本頭を使うのが苦手な銀は別として、園子と須美は何かに気づいた。
「……! ……あー、とりあえず今日はもういいか? 他人とこんなに話したのは久しぶりでな……少し疲れた」
いらないことまで口走った失策に気づいた鋼也が話を打ち切る。少し焦りが見える彼に押し出されるように3人は部屋を後にした。
「……うん、やっぱ悪いやつじゃないよな。2人はどう思った?」
「そうね。ただ、私が気になったのは……」
「わっしーも思った? 私もなんだ〜」
「なんだよ? 何かおかしなことがあったか?」
「三ノ輪さん、人間の自然治癒力には限界があるの」
「え?」
先に見せられた鋼也の再生能力。あれは人間としてはあり得ない速度だった。そしてそれ以上にあり得ないギルスの力。あれが細胞に負荷をかけ、結果として老化現象が起きているとしたら……
「ギルスの力を使えば使うほど体が弱っていく……もしかしたら、肉体の寿命が縮むってことかもしれないって〜……そんな風に思っちゃったの」
「……何だよそれ……」
それが事実なら鋼也は、文字通り命を削って戦っていることになる。銀はあまりに理不尽な現実に怒り、拳を強く握る。
「おそらく本人は自覚しているはずよ……」
「安芸先生はそれも含めて心配してたのかも〜?」
「〜〜〜ッ! ああっ!」
深刻な顔で話し合う2人を見て、銀は自分の頬を両手で張り、気合いを入れ直す。頭脳労働に不向きな自分には、悩むよりも先にやるべきことがあると、気持ちを切り替えたのだ。
「ミ、ミノさんどうしたの〜?」
「アイツがそれでいいって思ってるなら、会ったばかりのアタシたちが何か言っても変わらないだろ」
「……それは、確かにそうね」
「だから、アタシは強くなる。強くなって、鋼也が1人で頑張らなくていいように、アイツが安心して背中を預けられる、信じられる勇者になる。それがアタシにできることだと思うんだ」
三ノ輪銀はうつむかない。どんな絶望からも目を逸らさず、自分にできる最善を探し、それに全力を尽くす。勇者の最前衛を担う彼女の前向きさは神のお墨付きだ。
「そっか〜……うん、そうだよね!」
「それには賛成よ。これからのことも考えて、彼には私たちのことを信じてもらわないと」
「へへ。まだまだ新米勇者だけど、頑張ろうな、2人とも!」
銀の決意に引きずられるように2人もまた前を向く。
勇者としての使命感とは別に、少女たちが頑張る理由がまた一つ増えた瞬間だった。
わすゆ編は短くまとめる予定。1話あたりこれくらいの字数と仮定すると10話いかないでしょうね。
感想、評価等よろしくお願いします
次回もお楽しみに