A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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 仮面ライダークロス作品描いておいておかしな話ですが、当面アンノウンの描写は少なくなります。タダでも苦手な戦闘描写がグダグダになるからです。
 もちろん重要な場面はちゃんとフューチャーしますが、原作通りのところとライダーvs怪人の部分はカットできるだけカットしていく方針です。ご了承ください。



1+1+1+1=?

「きゃああああぁぁぁぁ‼︎」

「ひゃああああぁぁぁぁ‼︎」

「うおああああぁぁぁぁ‼︎」

 

「……なーにをやってんだアイツらは……」

 

 初戦から半月ほどが経過したある日。勇者たちは再びバーテックスの侵攻を受ける。

 今回のバーテックスは天秤座。左右に分銅を下げた天秤部分を回転させることで竜巻を巻き起こす能力を持つ厄介な個体。人類側の見込みを外した侵攻のせいで、未だに連携訓練も満足にできていない3人はまとまって何とか風に耐えている。

 

 

 

 

「オラアアアアッ‼︎……ふぅ、こっちは片付いたか……」

 

 苦戦する勇者たちを横目で伺いながら、手慣れた様子でアンノウンを仕留めたギルス。気怠そうに救援に向かおうとした足が思わず止まる。どうやら1番気負いがちな優等生が無茶をしたらしい。

 

「チッ、なんで俺が……ああぁもう、めんどくせえなぁ!」

 

 苛立たしげに頭を振り、ギルスは嵐の中に飛び込んで行く。

 

 

 

 

 

 

 風に煽られ、宙を舞う須美。一刻も早く仕留めなくてはいけない。その強い責任意識が無謀な戦術を選ばせてしまった。

 

「……くっ……狙いにくい、けど……これで!」

 

 発射姿勢もおぼつかない状態で、何とか射った一矢は風圧に押されてバーテックスには届かなかった。

 

「須美! 焦りすぎだって!」

 

 空中で無防備を晒した須美をフォローするために銀が飛んでくる。それが余計に須美を焦らせ、頑なにしていくことには誰も気づかない。

 

「っ! ミノさん、わっしー!」

「やべっ!」

「っ! かわせな……」

 

 空を舞う勇者めがけて飛んできた分銅。その攻撃は2人の目の前でつっかえるように止められた。

 

「──っ! ……いってぇなぁ……馬鹿力が……!」

 

「おおっ! サンキュー鋼也!」

 

「いいから、さっさと立て直せ!」

 

 バーテックスと分銅をつなぐ管状の部分に、生物的な触手が絡み付いている。

『ギルスフィーラー』クロウと同じくギルスの腕部から伸びる、打撃や拘束に使える触手状の攻撃技。

 

 この状況は、遠心力と巨体由来のエネルギーを振るうバーテックス相手に一対一で綱引きをするのと大差はない。いかなギルスと言えども無理がすぎたようで、徐々に踏ん張り切れずに足が浮かびかけてきた。

 

「こんの……負けるかよおおおおっ‼︎」

 

 ギルスは空いている左腕からクロウを形成、足場とする樹海の根に突き刺して体を固定する。全身、特にフィーラーを生やす右腕が軋むのを堪えながら、ギルスは1人でバーテックスの動きを止めてみせた。

 

「今だ、やれっ!」

 

 天秤座の長所は天秤の回転が攻撃と防御を兼ね備えていること。それは言い換えると、攻防のほとんどを天秤に依存している短所でもある。その主力を封じられたバーテックスは完全に無防備状態、絶好のチャンスが訪れた。

 

「当たってっ!」

 

 須美の溜め撃ちが右の天秤を撃ち抜く。

 

「せーのっ!」

 

 園子の突撃が左の天秤を断ち切る。

 

「トドメだあ!」

 

 銀の乱撃が弱ったバーテックスの本体を切り刻む。

 

 3人の一斉攻撃はなんとかバーテックスの耐久限界を上回るダメージを与えられたらしい。鎮花の儀が始まり、数秒後には見逃しようのない巨体はその姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「傷だらけね」

 

「アハハ……」

「うう〜しみる〜」

「すみません……」

「俺は何ともないがな」

 

 樹海が解除された直後の教室。応急処置を終えた勇者たちが安芸のお説教……もとい反省会の真っ最中。

 反省の意を示す少女たちと対照的に、鼻を鳴らしてそっぽを向く鋼也を睨んだ安芸が、何かに気づいたように目を細める。

 

「……? 先生?」

 

「──っ! と、とにかく喫緊の課題はやはり連携の練度ね……あなたたちはまだまだ足りていない……技術もそうだし、信頼関係もね」

 

「とは言っても、今のままでは訓練時間が……」

 

「そうね、だからこそ……あなたたちには合宿をしてもらいます!」

 

「合宿⁉︎」

「がっしゅく〜?」

「……ってオイ! 俺も参加するのか?」

 

「もちろん4人全員参加です。鋼也くんの外泊許可もとりました。今日から合宿終了までのあなたの管理は私が担当するように話をつけてるの」

 

「……チッ……樹海が解けてもいつもの鬱陶しい監視が来ねえと思ったら、そういうことかよ」

 

 鋼也が苦々しげに呟く。手錠こそ付けてはいるものの、常に感じる視線がないことも踏まえると本当に監視の目は間引いてあるようだ。安芸がそれだけ本気だということ。普段から何かと干渉してくる彼女の意気込みに、鋼也は溜息を禁じ得ない。心配されていることが分かっているからこそ余計に。

 

「なーに溜息なんかついてんだよ鋼也! 合宿だぞ合宿。楽しみだよなー」

 

「んなこと言われてもな……めんどくせえし。つーか俺は大社から離れて大丈夫なのかよ?」

 

「ええ。そちらも配慮して、本部からそう遠くない宿泊地を選定済みよ」

 

「用意周到なこった……しゃあねえ……行くよ、行きゃいいんだろ」

 

「おーし、気合い入るなぁ!」

「楽しみだね〜わっしー」

「え、ええ……そうね」

 

「それから、この勇者部隊のリーダーを決める必要があるのだけど──」

 

 リーダー任命において、1人の少女の精神状態で一悶着あったのだが、彼女たちとの付き合いも人生経験そのものも薄い鋼也には気づきようがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反省会を終えて解散した一同。3人は大型ショッピングモール『イネス』に寄ろうと道すがら話している最中、銀が忘れ物に気づく。

 教室に戻った彼女がドアを開けようとしたところで──

 

「右腕、見せてみなさい……隠してもだめよ」

 

「……相変わらず、目ざといなアンタ……」

 

 銀の動きが止まる。教室にはまだ安芸と鋼也が残っていた。薄く扉を開けて中の様子を伺うと……

 

「腕の筋を痛めてるわ……あなたの体でここまでダメージが残るとなると、相当な無茶をしたようね」

 

「別に……ちょっと見誤っただけだよ。大したことねえし、明日にゃ治ってるさ」

 

「それでもよ。処置できるならしておくに越したことはないわ……私にはこんなことしかできないしね……」

 

「……まあ、他の連中はともかく、アンタには感謝もしてる。そんな気に病むことはねえ……と思うけどな」

 

 テキパキとアイシングを行う安芸と、されるがままの鋼也。他の大社職員には露骨に反抗的になるか、良くて無視がデフォルトの彼にしては珍しく、安芸には文句を言いながらも逆らおうとはしない。

 純粋な善意や献身に弱い。銀は鋼也の弱点を一つ見つけた。

 

「しかし驚いたわ。あなた1人で戦った時にはこんな傷は残さなかったのに……気にかけてくれてるのね、あの子たちのこと」

 

「……ハッ、何を馬鹿な……デカブツは勝手が違って手こずっただけだよ」

 

 そこで銀は思い出した。今冷やしている右腕。アレは自分と須美を助けた時のダメージで間違いない。

 

「あなたも彼女たちもいい子だもの……そういう点では何も心配していないわ」

 

「勝手に信頼すんなよ。勇者のお守りはアンタの仕事だろ? 俺みたいな怪物に必要以上に近づけんのは職務怠慢じゃねえのか?」

 

「だからこそよ。勇者たちのこれからのために、あなたとの距離を縮めておきたいの」

 

 あなたなら分かるでしょう、と笑う安芸に何も返せず、鋼也は顔を背けて舌打ちを聞かせるしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀は忘れ物は後回しにして教室を離れた。三ノ輪家長女、三ノ輪銀。流石にあそこで割って入れるほど空気の読めない女ではないのだ。

 

(そっか……鋼也は、アタシたちのこと心配してくれてたのか)

 

 こちらが想うように向こうだっていきなり現れた女子たちのことを気にかけるくらいはする。そんな当たり前が銀はとても嬉しく、ほんの少しこそばゆかった。

 

「よし、合宿中にもっと強くなって……でもって鋼也と、あと須美とも仲を縮めてみせるぞ!」

 

 よっしゃ! と意気込む銀。その背中には彼女の武器のように烈火の炎が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遅い!」

「……zzz……」

(……ったくよ……俺でさえ時間厳守させられたってのに…………)

 

 数日後、勇者たちは集合場所のバス内に集まっていた……1人除いて。

 

「三ノ輪さん、また遅刻ね……仕方ない、鋼也くん、捜してきてくれる?」

 

「ハア? なんで俺が……」

 

「あなたならすぐ見つけられるでしょう? こういった小さなことから信頼が生まれるのよ」

 

「…………チッ……」

 

 口で安芸と張り合うよりは捜しに出た方がマシ。そう結論づけた鋼也が嫌々バスを出る。

 

「大丈夫なんですか? 悪い人じゃないのは分かりますけど……」

 

「問題ないわ……彼は自分で思っているよりもお人好しなの」

 

「…………?」

「はぅあっ⁉︎」

 

 須美が首をかしげると、彼女の肩で寝ていた園子の頭がずり落ち、間抜けな悲鳴が車内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上に飛び上がり、優れた視力で周囲を捜索。人通りのない早朝でなければ騒ぎになっていたであろうやり方だが、鋼也は捜索において実に優秀だったりする。バスを出てから1分弱、鋼也はターゲットを捉えた。

 

「……何を遊んでやがんだアイツ……」

 

 銀は河岸にしゃがみ込んで何やら探しているようだ。待たされたことへの苛立ちも込めて、鋼也は強く地を蹴り飛び上がる。

 

 

 

 

 

「オイコラ遅刻魔! 何やってんだよ」

 

「おお、鋼也か……あ、もしかしてもう時間過ぎてる?」

 

「大遅刻だバカ野郎……優等生がお冠だったぞ。今度は何に巻き込まれたんだ、お人好し」

 

 天から少年が落ちてくる。そんな異様な光景もこの数日彼に何かと絡んできた銀には慣れたものになっている。同時に鋼也の方も銀との会話で彼女の体質というか、本質を理解し始めていた。

 

「いやー悪い悪い。通りがかりに泣いてる子がいてさ……話聞いたら昨日ここで遊んだ時に大事なキーホルダー落としちゃったんだって話だから……」

 

「……で? この雑草生い茂る広い河原で、小さなキーホルダー探しに協力してたってか?」

 

「だってほっとけないだろ? ……いや、遅刻したのは悪いと思ってるけどさ……」

 

 視線を横に向けると、遠くに子供の背中が見える。遠目でも分かるほど必死な様子に、鋼也は説得を諦めた。

 

「しゃあねえな……ちょっと待ってろ」

 

「鋼也?」

 

 銀が反応するよりも早く、鋼也は再び高く飛び上がる。先ほどと同様、高所からの視点で周囲をくまなく捜索する。ジャンプ力、滞空時間、視力に優れる鋼也だからこそできる技術だ。

 

「……見つけた……そこから川に向かって10歩行って左に4歩。そこの足元だ」

 

 疑問符を浮かべながら銀がその指示に従うと、足元には確かにお目当のキーホルダーが落ちていた。

 

「おおっ! これだこれ! スゲーな鋼也」

 

「いいからさっさと渡して来い……時間押してんだよ」

 

「ああ、ホントありがとうな!」

 

 銀が子供に駆け寄って行く。その背中は心から歓喜していた。

 

(他人事にああまで一喜一憂できるもんか……変なヤツ……)

 

 少しのやり取りを終えて、銀が戻ってきた。その顔はやはり満面の笑顔で、鋼也は眩しくて見ていられなかった。

 

「おまたせ! 鋼也が見つけたって言ったら『なんであのおにいちゃん手錠してるの? 悪い人なの?』って聞かれちゃってさ」

 

「まあ悪目立ちするだろうな。なんて答えたんだよ?」

 

「大丈夫! あれはおにいちゃんの趣味なんだ! ……って、イテテテテ!」

 

「アホかテメエは! ガキがガキになんてこと吹き込んでやがる!」

 

 いらんユーモアを炸裂させた少女の頰を思い切り引っ張る。みずみずしい肌は予想外によく伸びた。

 

「ゴメンゴメンゴメン! でも大丈夫だよ、意味分かってなかったみたいだし……」

 

「……だろうな。分かってたらそれはそれで心配になるわ」

 

 お仕置きを済ませた鋼也が銀の襟首を雑に掴む。銀は思わぬ衝撃に嫌な予感が止まらない。

 

「ちょっ……こ、鋼也?」

 

「遅れてるっつったろ……飛ぶぞ」

 

「ま、待って……うひゃああああぁぁぁぁっ‼︎」

 

 こうして集合前からトラブルがありながら、勇者たちの合宿が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予定より少し遅れながらも、海沿いの宿屋に到着。荷物を置いて浜辺に集まる一同。

 

「連携に重要なのは役割分担よ。各々の特性を活かした立ち回りがあなたたちの総力をより増やしていくの」

 

 攻撃力に優れた銀はアタッカー。

 防御手段を持つ園子は前衛を守る壁役。

 長射程の須美は後方からの援護担当。

 ギルスも分類するなら銀に近いポジションになるだろう。

 

「この合宿の目的……あなたたちの連携によって、1+1+1+1を4ではなく10にすることよ」

 

 浜辺に複数用意された射出機。これらから飛んでくるボールから前衛の銀と鋼也を守りながら、奥にあるバスまで2人を到達させる。それが今回の訓練内容だ。

 

 園子は2人の前で盾を構える。

 須美は飛んできたボールの迎撃。

 銀は回避しながらの前進。

 鋼也には特別ルールとして銀から離れないことと、ギルスへの変身禁止が定められている。スピードに優れた彼の独断専行を禁じ、同時に鋼也の余計な負担を減らすためのルールだ。

 

「あーあ、やっぱりめんどくせえ……俺1人ならすぐに届くってのに」

 

「それじゃ意味ないだろ。アタシたちみんなで戦ってかなくちゃいけないんだからさ」

 

「よーし、2人は私たちで守るよ〜」

 

(私はここから動けない。どのボールを撃ち落とすかよく考えないと)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 各々意気込んで始まった連携訓練。しかし試行回数が10を超えた辺りから、疲労の色が隠せなくなってきていた。

 

 園子の反応が鈍れば銀は盾の奥から不意打ちを受ける。

 須美が外せば頭上の死角から鋼也にボールが飛んでくる。

 フラストレーションが溜まった銀が無理やり飛び出せば集中砲火を受ける。

 

 そんな三歩進んで二歩下がる、を繰り返し、何回目かも分からなくなってきた頃。日も暮れ出した時分、これまでで最もバスに近づくことができたが……

 

「よっし、ここからなら……!」

「待て、まだ早い!」

 

 運悪く、銀が飛び出したのと同時、最悪のタイミングでボールが飛んできた。須美が狙い撃つものの、暗くなってきたこともあり外してしまう。

 

「…………あっ……」

「……チッ、また失敗か……」

 

 顔面に飛んできたボールに、銀が反射で閉じた眼を開くと、目の前には片手で白球を掴み止めた鋼也の右手があった。

 

「鋼也……ありが──」

「なあ! 今日はもう終わりでよくねえか? ボールも見えなくなってきただろ」

 

「……そうね、今日はここまでにしましょう」

 

 安芸の号令で片付けが始まる。銀が最後のボールを手にしたところで、表面に血が付いていることに気づいた。

 

「なあ鋼也、手のケガは……」

「なんの話だ? この通り無傷だけど……」

 

 そう言って広げた掌には傷一つついていなかった。銀はそのとっつきにくい態度を、鋼也なりの気にするなというフォローなのだと受け取ることにした。

 

「そっか……さっきは言いそびれたけど、助けてくれてありがとな!」

 

 笑顔で走り去る銀。どんどん距離を詰めてくる彼女に戸惑いながら、鋼也も無自覚に笑顔になっていた。

 

「こんな気持ち悪いの見せてんのに……ほんと変なヤツだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練の汗を流すべく宿の露天風呂でくつろぐ勇者たち。唯一の男子である鋼也は当然一人で男湯だ。

 

「なんかうるせえな……たかだか風呂場で何をそんな騒ぐことがあるってんだか……」

 

 女湯の喧騒をよそに、ほぼ初めての広い浴場を堪能していく。

 

(気持ちいい……つーか、こんなに疲れてたんだな俺……)

 

 人と合わせるという当たり前の難しさを3年ぶりに実感している鋼也。文句は言いながらも始めてしまえばちゃんと役目を果たす。これで意外と真面目だったりするのだ。

 

「なあ鋼也ー! どんな女子が好みだー?」

 

 どんな流れでその話になったのか、女湯から意味不明な質問が飛んできた。シカトしても良かったが、上がった先で絡まれるのも面倒なので差し障らない範囲で適当に返答を考える。

 

「歳上でスタイル抜群の、大人の女! これでいいか?」

 

 答えた次の瞬間、女湯の扉が開いた音がした。誰か入ってきたらしい。同時に女子たちの喧騒もシンと静まったが、鋼也はそれを気にすることなく湯船堪能タイムを再開した。

 

 

 

 

 

 

(先生ってすごい体してたんだね〜着痩せするタイプ〜?)

(そうね……って、三ノ輪さん?)

(歳上……スタイル抜群……大人……いや、まさか……)

 

「……? どうしたの、あなたたち?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事も終え、後は就寝時間を待つだけとなった頃。一人部屋で寛いでいた鋼也は勇者たちの襲撃を受けていた。

 

「……オイ……部屋戻れよ。ここで寝る気か?」

 

「ん〜、それもいいかも〜?」

 

「ダ、ダメよそんなの! 破廉恥だわ!」

 

「流石に寝るときは戻るけどさ、せっかくの合宿なんだしちょっとくらい話そうぜ、な?」

 

 銀は最近になって気づいた。鋼也は押しに弱い。だからこそ刺々しい態度で必死に人から距離を取っているのだが、それをものともしない銀や園子に対してはどうにも対応に困っている。

 

「寝る時も手錠してるのね……」

 

「ああ、これただの手錠じゃねーからな。手首にはめて体内スキャンをかけてんだ」

 

「たいないすきゃん、って何だ?」

 

「まあ簡単に言うと、血流や神経の動きをチェックできんだよ……ギルスになる時は特殊な反応が出るらしくてな。これ付けてる時は変身しようとしても妨害電流が流れる仕組みだ」

 

「え〜痛そ〜……大丈夫なの〜?」

 

「大したことじゃねえよ。許可が下りて外すか、樹海に反応して外れるかしないと変身できない……そういう檻は必要なんだろ」

 

 4人が神妙な表情で手錠を見つめる。本人は気にしていないが、この空気は耐えかねたらしく、鋼也が咳払いをして話を再開する。

 

「つっても実はこれ、外そうと思えば外せるんだけどな……安芸さんにも黙ってるから秘密にしてくれよ?」

 

「そうなのか? どうやって……」

 

「変身しなくても力づくで鎖はぶっ壊せるし、関節外してもなんてことねえしなあ」

 

「お〜関節外し、見てみたいかも〜」

 

「悪いな、イタズラに外すと騒ぎになっからよ……ま、機会があればな」

 

「それなら寝る時くらい外す許可取れたらいいのに」

 

「俺を鎖に繋がなきゃ安心できない大人がいるんだよ。俺ももう慣れちまったしな。苦痛でもねえさ」

 

 空気を払拭するためにことさら明るい声色で内緒話を展開する鋼也。彼も少しずつ子供らしさが表に出てきている。

 そんな鋼也を男子と認識していないのか、分かっていてやっているのか、話題は『好きな人』いわゆるコイバナにシフトした。

 

「アタシはやっぱり弟たちだな! もう可愛いのなんのって……」

 

「そ、それはズルいんじゃないかしら?」

 

「……弟がいんのか?」

 

「ああ、2人の弟だよ。下の方はまだまだ赤ちゃんでな、私もいろいろ世話してるんだ」

 

「……そうか……」

 

「どうかした〜? しののん〜」

 

「いや、俺にも昔、妹みたいに仲良くしてたヤツがいたなと……ちょっと思い出してた」

 

 最後に会ったのは彼女が7歳の頃だろうか。まさに天使のような愛らしさと清らかさを持った少女だった。今は……10歳、どんな風に成長したのか、思い出すと気になってくる。

 

「それって〜……」

 

「……ああ、こうなってからは会ってない。今はどうしてるのか……あの家だし、やっぱり大社にいるのかね……」

 

「……鋼也、やっぱり会ってみないか? 昔の友達にも、その子にもさ」

 

 どこか寂しそうな鋼也に正面から踏み込む銀。

 

「今の俺が会おうとするだけで迷惑をかけるだろ。俺のことなんて忘れて、ちゃんとやってると思うし……」

 

「それは違う、間違ってるよ鋼也」

 

 力無い反論をぶった切り、銀は俯く顔を掴んで無理やり目線を合わせる。

 

「アタシはその人たちのこと何にも知らないけどさ、今の鋼也見てれば本当に仲が良かったことは分かる。だったら向こうだって、お前と同じくらい傷ついて、悲しんでるはずだ。一歩踏み出せば会えるんだから、逃げるなんてもったいないと思うぞ」

 

 又聞きで事情を把握しているだけの人間が踏み込んでいい領域をすでに超えている。銀自身分かってはいたが、少しでも彼に前を向いてほしかった。

 

「どうしても怖いなら、アタシが一緒に行ってやる。だから、会いに行こうよ……な?」

 

「……!」

 

 そう言って笑う銀の顔が、あの日失った親友と重なった。いつだって笑顔で自分たちの手を引いてくれた、女の子なのに1番勇気を持っていた少女に。

 

「…………考えとく…………ありがとな」

 

 小さく呟かれた本音に、銀は心から安堵し、黙って聞いていた2人も小さく表情を綻ばせた。

 

 

 

 

(……聞かなかったことにしましょう……)

 

 消灯を告げに来た安芸は、何事もなかったかのようにその場を後にした。大社職員としては問題のある内容だったが、それ以上に鋼也が馴染み始めている、変わり始めているという事実が、彼女にとっては重要だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連携訓練のメニューをなんとかクリアした翌日、合宿最終日。この日はアンノウン対策に対人訓練を中心にメニューが組まれていた。仮装アンノウンとして鋼也を敵とした3対1での連携訓練が始まった。

 

「うおっ? 速いなホント……!」

 

「アンノウン相手なら大振りしなくても攻撃は通る……敵の動きに合わせて小さな動きで斧を振るんだよ。その重さじゃ難しいかもしれねえが、お人好しの得意な体重と遠心力を乗せた回転攻撃はよほど状況を整えなきゃ当たらねえよ」

 

「えいや〜……あれ〜?」

 

「悪くはねえが、お嬢様の場合槍を振るうよりも穂先を操った方がいいだろうな。その器用な武器を最大限活かすんだ……その方法はまあ、アンタならいろいろ思いつくだろ」

 

「くっ、当たらない……!」

 

「優等生はまず肩に力入りすぎだ……敵を追いかけるんじゃなくて動きを先読みして軌道上に狙いを絞るんだよ。後はまあ、前の2人をもっと信じるこったな」

 

 安芸が驚くほど熱心に指導する鋼也。結局誰一人として彼から一本取ることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇっ、ぜぇっ……ちっくしょ〜……」

「ひーん、疲れたよぉ〜」

「まるで……太刀打ち、できなかった……」

 

「まあ喧嘩もしたことない小学生としちゃ、こんなもんだろ」

 

 一人涼しげな鋼也が淡々と片付けを進める傍で3人の勇者が屍のごとく並んで倒れている。こと対人戦においては、これほどの差が彼らにはあるということだ。

 

「……やっぱりまだまだだってことは、これで分かったろ?」

 

「……そうね。現時点ではむしろマイナス要素になりかねない、か」

 

 肩をすくめて苦笑する鋼也と、悔しげに俯く安芸。2人の意味ありげな会話も、倒れ伏している3人には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休息を終え、帰路に着く一同。全員がバスに乗り込み、発車しようとしたところで……

 

「──っ! ……このタイミングは……空気を読んだのか読まなかったのか」

 

 深く嘆息し、立ち上がる鋼也。雰囲気が変わった彼に安芸が声をかける。

 

「……アンノウン?」

 

「ああ、本部の方だ……こっからなら、飛んでった方が早そうだ。情報操作頼むぜ」

 

「やっぱり1人で行くの?」

 

「アンタがそう言うと思ったからさっき証明したんだろ。やっぱ向いてねーよ俺は。誰かと組むとかさ……アイツらには適当にごまかしといてくれよ」

 

 安芸はそれ以上何も言わずに小さく頷くと、鍵を使って手錠を外した。調子を確かめるように手首を回しながら、鋼也は後部座席で団子になって眠る勇者たちを見る。

 

「……合宿、そこそこ楽しかった……またな……」

 

 小さく笑ってバスから飛び出す鋼也。ギルスの咆哮を聴きながら、安芸は1人歯痒さを噛み締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 少しずつ攻略されていく鋼也くん…アレ、ヒロインって…?

 感想、評価等よろしくお願いします

 次回もお楽しみに


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