A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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 アニメで言うと二話終了ですね。






エガオノキミヘ

 ──どうしても怖いなら、アタシが一緒に行ってやる。だから、会いに行こうよ……な? ──

 

 ──考えとく………………ありがとな──

 

 

 

(……なんであんなこと言っちまったんだろうな、俺は……)

 

 鋼也は自室で1人思い出す。ああまで真っ向から想われたのが久しぶりで絆されたのか。それとも自分で思っているほど割り切れてはいなかっただけなのか。

 

 鋼也はもう自分のことは諦めているつもりだった。親友を失って得た力。母親をこの手で傷つけた力。それをせめて有効に使うこと、犠牲を無駄にしないこと、それ以外はどうでもいいと思っていた。しかし彼女たちと出会ってから自分の中で何かが変わっている。

 

 鷲尾須美の正しくあろうと自他を律する在り方は眩しくて仕方ない。

 乃木園子の何があっても揺るがない強さと大らかさには憧れを禁じ得ない。

 そして三ノ輪銀。なにかとこちらに構うお節介な少女。他人のために心を砕き、迷わず行動できる彼女の生き方は尊いものだ。どこか香に似た彼女の言葉はどうしても無視できない。

 

(アイツらには価値がある。こんなところで死んでいい命じゃない……そうだ、そう思ったから俺は……それだけの話だろ)

 

 向こうがこちらに構う理由は分からないが、自分が気にかけるのは単に彼女たちが綺麗に生きているから。そんな歪な結論を導き出して、鋼也は満足したように頷く。

 

 瞬間、世界が停止した。

 

「……ちょうどいいや、スッキリさせてもらおうか……ここからは、バケモノの時間だ……!」

 

 歪んだ覚悟を胸に、戦士は走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルスが戦場に到着した時には既に勇者たちは集まり、戦闘を開始していた。今回の敵は山羊座のバーテックス。下部に足のような触手を4本伸ばした異形。空中を悠然と航行する巨体は特に行動を起こしていない。

 

「おい、何やってんだ? あのデカブツ止めなきゃいけねーんだろ?」

 

「あ、鋼也……それが、あのアンノウンがさ……」

 

 バーテックスの真下に佇む蛇型のアンノウン『アングィス・マスクルス』。仰々しい杖を構え、油断なくこちらを伺っている。

 

「厄介な手を使うのよ。理屈は分からないけど……」

 

「アンノウンが手をかざすとワームホールみたいなのが開いちゃうんだよ〜」

 

「あん? そいつは……」

 

 言い切る前にギルスの姿が消失する。気づけば遥か上空に身を投げ出し急速落下している。

 

「なんっ……⁉︎」

 

 ギリギリで着地に成功したギルスの頭上からマスクルスが杖を振り下ろす。とっさに腕で受け止めた瞬間、ギルスの全身が痺れるように硬直した。

 

「──っ! ……んだよ、コレ……!」

 

「鋼也!」

 

 銀が突撃してマスクルスを引き剥がす。杖の麻痺効果はギルスや勇者のような存在は対象外らしく、ほんの数秒で感覚が戻った。しかし……

 

「なるほど、アレはまずいな……接近戦で動きを止められたら戦えねえし、距離をとったら訳の分からん転移で吹き飛ばされる……」

 

「無視してバーテックスに向かおうにも飛ばされちゃって……わっしーの矢も捉えるんだよ〜あの技」

 

「私たちじゃ隙を作るのも難しくて……」

 

「なら、アイツは俺がやる。デカブツは任せるぞ」

 

 簡潔に告げるや否やマスクルスに飛びかかり、力尽くで引き離す。敵の能力は厄介だが、接近戦でギルスと張り合えるほどの力はないようだ。

 

「よっし、今のうちに……って!」

 

 銀たちがバーテックスに視線を向けると、いつの間にか遥か上空にまでその巨体は上昇していた。

 

「私の矢の射程を超えている……あれじゃ……」

 

「卑怯だぞ! 降りてこーい!」

 

「待って! ……何か、仕掛けてくる……」

 

 上空から機械のような快音が響く。触手部分が高速回転しながら、ドリルのように地表めがけて落ちてくる。その真下にいるのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(厄介な能力は使わせない……! 手数で押し切れば……)

 

 初手にてフィーラーでマスクルスの杖を弾き飛ばし、そこからラッシュで動きを止める。反撃の間を与えなければ問題ない。ギルスの戦術は正しく、このアンノウンにはギルスの猛攻を凌ぐ力はない……そう、1人では。

 

 

 

 

 

 

 

 ギャリギャリギャリギャリギリギリギリッ‼︎

 上空からの異音に、ギルスの動きが反射的に止まる。その一瞬の隙を待っていたかのように、マスクルスの転移能力が発動。

 

「っ! しまっ……」

 

 ギルスはバーテックスの突撃地点、ドリル攻撃の真下に転移させられた。状況を把握できずに無防備を晒す彼にドリルが直撃する──

 

「やらせるかあああっ‼︎」

 

 寸前、走りこんできた銀がギルスを蹴り飛ばし、頭上からの攻撃を両手の斧で受け止める。出力が違う相手の真上からの攻撃。耐えるだけでも相当な負担になるはずだが。

 

「……ぐっ、んの……だああああっ! 鋼也、園子、須美! 15秒持たせる、その間にコイツを!」

 

「み、三ノ輪さん!」

(俺は、助けられた、のか? ちょっと神の力を借りてるだけの、勇者に……)

 

 焦りで動けない須美、予想外の事態に思考がまとまらない鋼也に、もう1人の勇者が毅然と指示を出す。

 

「私たちで敵を叩くよ〜! わっしーは私に続いて、しののんはアンノウンを!」

 

「えっ、あ……了解!」

「ちっ、無様を晒したな……ここは合わせる!」

 

 園子が槍の穂先を攻撃形態に展開、突撃し、須美もその後に続く。横槍を入れようとしたマスクルスをフィーラーで捕縛したギルスも2人に続いてバーテックスに突っ込む。

 

「いっ……けえぇぇぇっ‼︎」

 

 園子が正面から突っ込み、巨体のど真ん中に風穴をあける。大きなダメージを与えたが、槍の勇者の手はまだ終わらない。

 

「わっしー、使って!」

 

「了解!」

 

 貫通して着地した直後、園子が穂先を分裂させ、以前と同じく空の階段を形成する。これで須美は自分の間合いから威力特化の一射を撃てる。

 

「バケモノ同士、コイツも喰らっとけ!」

 

 そこにダメ押し。ギルスがフィーラーで縛り付けたマスクルスを投擲。狙いに寸分違わず、園子が空けた風穴に直撃、体がすっぽり収まるように叩きつける。傷を抉られ、空中の須美を迎撃しようとしていたバーテックスの動きが鈍る。

 

「南無八幡……大菩薩‼︎」

 

 弓の勇者の全霊を込めた矢が山羊座に直撃。ドリル攻撃から14秒でバーテックスは攻勢を維持できなくなり、離脱しようと上昇する。

 

「逃すか!」

「お返しだっ‼︎」

 

 ギルスがフィーラーを使ってバーテックスの体をよじ登り、その上に飛び上がる。

 ドリル攻撃に耐えきった銀が鬱憤を解放するかのごとく滅多斬りしながら上昇する。

 

「「おおおおぉぉぉぉっ‼︎」」

 

 山羊座の頭上から斬り裂くギルスの爪と、真下から斬りあげる銀の斧。2人の刃はちょうど中央でもがいていたマスクルスをも斬ったところで重なり合い、その勢いのまま巨体のいたるところを斬り刻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辛くも勝利を収めた勇者たち。樹海化が解除され、緑地公園に並んで倒れる小学生4人。痛々しい生傷も目立ち、一般人に見られたら騒ぎになりそうな絵図だ。

 

「えぐっ……ごめんなさい、私、わたしぃ……」

 

「へへ、なんだかやっと須美とダチになれた気がするな」

 

「えへへ〜……私たちみんなで勇者なんだから、一緒に頑張ろうね、わっしー」

 

「ありがとう……そのっち……銀……」

 

 鋼也が預かり知らぬところで何やら抱えていたらしい須美の懺悔。園子がリーダーに選ばれた理由は家柄だと、彼女の資質を見誤って空回り、足を引っ張ったことを涙ながらに謝る彼女を見ながら、唯一の男子は言葉に困っていた。

 

(やけに肩肘張ってるとは思ってたが……そんなこと考えてたのか)

 

 人生経験と言えるものが8歳で止まっている鋼也に同年代の女子の気持ちを察しろというのは無理な話だ。聞き役に徹していると、須美だけでなく銀と園子までこちらを見つめてくる。どうやらこの流れで何か言えという空気らしい。

 

「……ま、輪を乱すって意味じゃ俺が1番だったしな。優等生はマジメすぎる……言い換えれば努力家だってことだろ。常識が通じねえ連中を相手にすんだから、もうちょい力を抜いてみることだな……お嬢様とお人好しを……まあ、見習い過ぎてもアレだが……」

 

 なんとか機嫌を損ねない言葉を探して紡ぐ鋼也。しかし彼女たちは不服だったようで。

 

「……そろそろ名前で呼んでくれないかしら? 優等生って、あんまり好きじゃないわ。私も、その……鋼也くんって呼ぶから」

 

「私も〜。お嬢様って、あだ名にしても距離があるっていうか〜」

 

「だよな! ほら鋼也、アタシは前から言ってただろ。お人好しはやめろって」

 

 どうやら須美との距離が縮まった勢いでこちらにも踏み込むつもりのようだ。鋼也としては避けたい流れなのだが……

 

(助けられちまったしな……守る対象だと、勝手に決めつけて見誤っていたのは俺も同じか)

 

 今回彼女たち、特に銀には借りを作ってしまった。ここで頑なになるのは筋が通らない。鋼也は諦めの感情を込めて深くため息をつくと……

 

「三ノ輪、乃木、鷲尾……これでいいか?」

 

 いや、この流れでそれはないだろう。ここは名前呼びだろう。言葉では出てこなかったが、3人の瞳からはそんな文句が聞こえた気がした。

 しかし鋼也はボケた訳でも気恥ずかしくてごまかした訳でもなく、本気でこれが正解だと判断していた。男女の間柄では、迂闊に名前を呼びあうべからず。大社が適当に見繕った小説──なかなか進展しないもどかしい学園ラブロマンス──からの知識を鵜呑みにした結果だったりする。

 立場上、一定の距離感を保ってしか向き合えなかった安芸も知らないことだが。実はこの篠原鋼也、気を抜くと妙なところで空気が読めない子だったりする。

 

「えっと……じゃあ……」

 

 無言の抗議に気圧され、鋼也は小さく呟く。

 

「銀……園子……須美……って、呼んでもいいのか……?」

 

 珍しく自信なさげな鋼也の態度が、銀たちは嬉しかった。少し素を見せられる程度には心を開いてくれたことが。

 

「これで勇者組4人、一致団結って感じだな!」

 

「ええ、力を合わせて、お役目……果たしましょう」

 

「あ〜! 大変、大変だよ〜」

 

「ど、どうした園子?」

 

「ミノさん、しののん、そのっち、わっしー……わっしーだけ『の』がついてないよ〜、仲間はずれだよ〜」

 

「……え? いや、園子さん? それは……」

 

「……そんな、私は、仲間はずれなの……?」

 

「っておい! 須美まで乗るなよ!」

 

「……そもそも俺はその『しののん』呼びを許可した覚えはねえぞ。そうとしか呼ばねえから仕方なく合わせてるだけで……」

 

「はっ! そうだよわっしー大丈夫、しののんが『の』を2つ持ってる! しののんがわっしーの分も背負ってくれてたんだよ〜」

 

 どうやら知らないうちによく分からない定めを背負って生きてきたことになってしまったらしい。

 

「えっ、と……そのっち?」

 

「だめだ……園子のなかで何がセーフで何がアウトなのか、基準が分からん……」

 

「……まあ、それで納得できるんならもう『しののん』でいいか……」

 

「そうだ〜、私たちさっきまでイネスでうどん食べてたんだったよ〜」

 

「そういえば、今から戻ったら伸びてる……というか、多分下げられてるんじゃないかしら……」

 

「マジか⁉︎ あー、もったいない……それじゃあ仕切り直して、鋼也も来いよ! 一緒にうどん食べよう!」

 

「……そうだな……監視が来たら、話してみるか。同行者をつければ、一食外で食うくらいは許可下りるかもな」

 

 園子の土壇場の発想力は普段から突拍子のない思考に行き着く感性あってのものだろう。同じように須美の努力家で生真面目な部分も生来のもの。銀の仲間や世界を守ろうとする強い意志もまた同じ。

 きっとこれが彼女たちの、勇者としての強さの原点。そう思えばこれまで避けてきたコミュニケーションにも少しくらいは前向きになれる。

 

 その日鋼也は久し振りに、本当に久しぶりに、肩の力を抜いて思い切り笑った。

 自分がまだ心から笑えたことに、かなり驚いて……少しだけ嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 切りどころが難しく、これまでと比べると些か短くなりました。

 感想、評価等よろしくお願いします。

 次回もお楽しみに




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