A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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不穏なフラグを大量に並べるだけ並べて最終決戦です……




明日また笑うために

「いっけぇ!」

「わっしー、いったよ〜!」

「これで……とどめ!」

 

 夏祭りからしばらく。バーテックスは一度も現れず、アンノウンが散発的に出没し、それを撃退する日々が続いた。その間鋼也が変身したのは同時に2体現れた1回だけ。それ以外は勇者の3人の連携で撃破してきた。

 銀が目指していた『安心して背中を預けられる仲間』になれたと言えるだろう。その奮闘もあって、鋼也はかつてないほど穏やかな時間を過ごしている。

 

「お疲れさん、だいぶ慣れてきたな。こっちも落ち着いて見てられるようになった」

 

 敵の気配を察知し、勇者を案内してそのまま様子見に徹していた鋼也が、アンノウンを撃破した3人に労いの声をかける。

 

「へへ、いちいち鋼也の手を煩わせるまでもないからな」

 

「1体なら問題なく処理できるわね……バーテックスもなんだか大人しいし」

 

「気になるところだけど〜。落ち着く時間は大事だよ〜」

 

 先日端末を一時的に大社に預け、システムの強化も行われた。『満開』という新機能。非常時の切り札ということでまだ試してはいないが、そんな奥の手を温存したまま安定して勝利できている。現状は総じて上出来と言って良いだろう。

 

「そうだ、今日はもう検査終わったら解散だろ? その後時間空いてる人いないか?」

 

「どうかしたのか?」

 

「今日急に両親が夜遅くまで家を開けることになってさ。アタシ1人で弟たちを見てるのは……できないこともないんだけど……」

 

 できれば人手を借りたい、ということらしい。普段から誰かに手を貸してばかりの銀が頼ってきたのだ。できれば協力したいと思うのは当然。しかし……

 

「ごめ〜ん、ミノさん……今日は私家の用事があって……」

 

「私もそうなの……今日は時間を取れそうにないわ、ごめんなさい……」

 

「いやいや、急な話だししょうがないって! 鋼也もムリかな?」

 

「……そうだな、2人が行くなら任せようと思ってたが……誰も行けないなら俺が行こうか。だが、俺で良いのか?」

 

「あー、別に難しいことはないよ。目を離せない下の弟はアタシが見とくから。鋼也には上の方の相手を頼みたいんだ。適当に付き合ってあげてくれればいいからさ」

 

「そういうことなら引き受けてやるよ。お前らが忙しいんじゃ俺もやることねーしな」

 

 そんなわけで、その日の鋼也の予定が埋まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! ねえちゃんのカレシ! ねえちゃん、カレシきたよー!」

 

 玄関を開けて最初の一言がこれである。鋼也は反射的に踵を返して出て行こうとしてしまった。弟の叫びから数秒後、凄まじい足音を鳴らして駆け込んできた銀が彼の頭を引っ叩く。

 

「コラァ、鉄男! いきなりおかしなことを言うな!」

 

「イッテェなねえちゃん! おかしなことなんて言ってないぞ! 家でしょっちゅう話してるし、それに俺知ってるんだ。祭りでも抱き合って踊ったって園の奴に聞いたぞ!」

 

「ななななな……なん、なんっ……〜〜〜っ⁉︎」

「えええ……尾ヒレつきすぎだろ、ソレ……」

 

 顔を真っ赤にして弟の口をふさぐ銀と、困ったように頭をかく鋼也。抱き合って踊った、ではなくおぶって跳んだ、が正確だ……どっちもどっちな気がしないでもないが。

 初っ端から一悶着あったが、弟たちとの顔合わせを終え、居間で一緒に過ごす。銀は次男の金太郎を寝かしつけ、鋼也は鉄男とテレビゲームに興じている。

 

「うーん、にいちゃん変わってるな? アクションもレーシングもシューティングもやったことないのか」

 

「そうだな。ゲーム機なんざ初めて触ったぞ」

 

「ええー? すげえ家だな……ウチなんて全然少ない方だけど、まったくないなんて家は知らないぞ」

 

(まあ、コイツくらいの歳には修行……からの軟禁生活だったからなぁ……)

 

 自分の世間一般とのズレっぷりを思わぬ方向から叩きつけられた鋼也は苦笑するしかない。事情を知らない鉄男の無遠慮な物言いに銀はハラハラしていたが、当の本人は気にせず、初めてのゲームに心惹かれているように見えた。

 

「しかし、面白いなこれ……この動きは参考になるかもしれねぇ……」

 

「おー、その必殺技はかっこいいよな! にいちゃん分かってるじゃん!」

 

 格闘ゲームの必殺技。およそ現実で模倣しようもない動きを見てそんな感想が出るのは鋼也くらいのものだ。すっかり熱中しているゲーム初体験の彼は、メキメキと上達していき、鉄男のいい遊び相手となっていった。

 

 

 

 

『ゲームは1日1時間』という三ノ輪家の規定に従ってゲーム機の電源を切った2人は、適当にトランプ(これも鋼也は初体験。名前しか知らなかった)で勝負していた。

 

「そういえば、お前さんは『鉄男』って名前なんだよな?」

 

「そうだよ? 三ノ輪鉄男。銀ねえちゃんの弟で、金太郎のにいちゃんだ!」

 

「姉が『銀』、弟が『鉄』男、その下が『金』太郎か……連帯感あるな。ちょいと前時代的な雰囲気ではあるが、覚えやすいしいい名前だな」

 

「そういえばにいちゃんは『こうや』っていうんだよな。どんな字書くんだ?」

 

「ん? そうだな。鋼也の『也』にはそれ一つで特別意味はないんだが、『(こう)』の字は『(はがね)』とも読むんだ。鋼ってのはお前さんの字の『鉄』に炭素が混ざってできる────いや、細けえことはいいか。

 銀、鉄、金と同じ金属の一種だ。そういう意味じゃ、お前ら姉弟の名前の仲間、って言えるかもしれねえな」

 

「そっかー。そんじゃにいちゃんがねえちゃんと結婚して家族になっても大丈夫だな!」

 

「まだその話続いてたのかよ……」

 

 思わぬ返答にガクッと肩を落とす鋼也。この弟君はなぜ今日出会ったばかりの男にこうも姉を推してくるのか。

 

「ねえちゃんがあんな楽しそうに男子の話してるの初めて見たからさ。それに、ねえちゃん恥ずかしがってるけど、将来の夢は『およめさん』なんだ!」

 

「嫁……へぇー……」

「ブッ、ゲホッ……こ、こら鉄男! 余計なこと話すなよ!」

 

 乙女の秘密を聞いた鋼也は素直に感嘆の声をあげただけだったが、料理をしながら聞き耳を立てていた銀の方が思い切り吹き出した。彼女自身、自分のキャラじゃないと思っているので、あまり話したがらないことだ。

 

「いいんじゃねーの? 少なくともそうやって台所に向かってる背中を見る分には、いい嫁さんになれる素質ありそうだけどな」

 

「……鋼也は、笑わないのか? ほら、アタシのキャラじゃないっていうか……正直似合わないだろ?」

 

「いや別に。つーか夢や目標なんて似合う似合わないじゃねーだろ。

 特に嫁さんなんてのはさ。女子にとって一番身近な将来の姿だし、何恥ずかしがることもねえよ。

 家族のために頑張って家を守る、いいと思うぜ?」

 

 一般家庭ってのをよく知らん俺が言うのもなんだが、なんて付け足して頭をかく鋼也。彼は世間一般の感性とのズレがあり、それが問題になることもあるが、逆に先入観なしに本質を見ることにもつながる。予想外に真面目に返されたことで動揺した銀は思わずもう一歩踏み込んでいく。

 

「……じゃ、じゃあ鋼也はさ、欲しいと思うか? その、お嫁さん…………アタシ、みたいな…………」

 

 最後の方は小声すぎて聞き取れなかったが、質問の趣旨を理解した鋼也が腕を組んで考え込む。

 

「んー……どうだろうな。まず俺はこの先自分がどうなるかもよく分からんしな……そんな先のことまで考えられねえってのが正直なところだ」

 

「そ、そっか……「でも」……ん?」

 

「でも、出来ることなら家族ってのは作ったみたいかもな。俺の家は父親が物心つく前に死んでてな……母親はあの通り普通じゃねえし、もうちょっと当たり前の家庭で暮らしてみたいとは思う……そうだな、この家みたいな感じだ」

 

「へ、へぇ、そうなんだ……」

(これは……どうなんだ? 悪くは思われてないってことか?)

 

 1人頭を抱えて唸る銀と、そんな彼女を見て首を傾げる鋼也と鉄男。彼らの視界の外では、火にかけた鍋が今にも吹きこぼれそうになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 夕食と風呂を終え、弟2人を寝かしつけたところで、銀の両親が帰宅。軽く挨拶だけ済ませ、入れ替わるように鋼也が三ノ輪家を出る。門扉を出たところで、何かを持った銀に呼び止められた。

 

「鋼也、これ……今日のお礼、ってだけじゃないんだけど……」

 

「ん? ……なんだこれ? アクセサリーか?」

 

「あ、知らない? ミサンガっていうんだ。腕につけるんだよ」

 

 赤い紐で作られたミサンガ。おずおずと差し出されたそれを、鋼也は言われるがままに左腕につける。装飾品の類は初めてで、興味深げに眺めている鋼也に、銀が頭を下げる。

 

「これはずっと身につけておくんだ。そうするとミサンガが切れた時に願いが叶うんだってさ」

 

「へぇ……そんなもん、なんだって俺に?」

 

「この前の祭りとか、お役目の時とか、今日とか……諸々含めてありがとう! これからもよろしくな」

 

「……気にすんなって言ったろ? まあ、ありがたくもらっとくが……ああそうだ、俺の方も伝えとくことがあったんだ」

 

「ん? どしたどした?」

 

 緊張を誤魔化すように、背筋を伸ばして咳払いを一つ。周りには誰もいないのに、何故か鋼也は小声で、顔を近づけて言葉を紡ぐ。

 

「……母さんに頼んでな、今度昔の友達……志雄たちと会うことになったんだ」

 

「おお! そっかそっか、会う気になったんだな!」

 

 銀は自分のことのように喜びを表す。そんな素直さと正しさが、鋼也の決断を後押ししてくれた一因だ。自分を変えてくれた笑顔を見つめ、鋼也もまた自然と笑顔になる。

 

「いつになるんだ? アタシも行けたらいいんだけど……」

 

「ちょうど一週間後の予定だが……来てくれるのか?」

 

 どう誘おうか悩んでいた鋼也にとって銀の、一緒に行くこと前提の言い方は意外なものだった。

 

「そういう約束だろ? アタシとしても鋼也の友達なら会ってみたいしな。もし迷惑ならやめとくけど……」

 

「いや、助かるよ。今の俺の話をする上で、銀のことも紹介したいしな」

 

「そっか! へへ、楽しみだな」

 

「ああ、何かが待ち遠しいなんて思ったのは、随分と久しぶりだ」

 

 笑い合う2人。この時の彼らにとって、明日は当たり前に来るもので、それを7回重ねた一週間後もまた、当たり前のものでしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鋼也の三ノ輪家訪問から6日、約束の日の前日。軟禁を解かれてからの日課として、放課後に4人は合流して遊びに行く。誰かの家にお邪魔するか、イネスで遊ぶかの繰り返しだが、今のところ彼らに飽きは来ていない。

 

「そっか〜。しののんは明日お友達に会うんだね〜。実は私も、明日久しぶりにお友達に会うんだよ〜」

 

「そうなの? 久しぶりってことは……学校が違うの?」

 

「ん〜……学校というより、大社とか、お家の付き合いで知り合ったんだけどね〜あの子も大事なお役目があるみたいでなかなか会えなくて……でも明日、約束したんよ〜」

 

 園子のテンションは普段から掴みにくいが、今日は分かりやすく上がっている。よほどその友達との再会が楽しみなのだろう。

 

「奇遇ね、明日は私も久しぶりに会うの……と言っても、私の場合は友達じゃなくて、家族なんだけどね」

 

 須美は勇者の役目に着くにあたり、生家である東郷家から養子に出て鷲尾性を名乗ることとなった。お役目の重要性も、そのために家を変える必要性も理解している須美は納得こそしていたものの、やはりまだ小学生。生まれた時から共にいた家族に会いたいと思うのも当然だ。

 

「今の家族も私を愛してくれているし、そこにはなんの不満もないの……ただ、やっぱり会えるとなると嬉しいものよね」

 

「そりゃそうだろ、家族なんだからさ……しかしそうか。それじゃ明日は、アタシたち全員にとって大切な日になるんだな」

 

「ええ、面白い偶然よね。これも勇者の絆、なのかしらね」

 

「ふふふ〜……」

 

「なに? そのっち」

 

「いや〜、あの堅苦しかったわっしーからそんな言葉が聴けるなんて、乃木さんちの園子さんは感動で泣きそうだよ〜。よよよ〜……」

 

「む、昔の話はやめてちょうだい……若かったのよ……」

 

 赤くなる顔を覆って俯く須美。恥ずかしがる彼女の顔を見ないようにしながら、鋼也が遠くを見て呟く。

 

「まだ一年も経ってねえけどな……そうか、もう長いこと一緒にいたような気がしてたが、まだ出会って半年くらいなのか……」

 

「そう思うと早いわね。それだけ色々あったということかしら」

 

「そ〜だね〜。楽しかったな〜……これからもよろしくね〜」

 

「おいおい、昔を振り返るには早すぎるだろ。明日もその先も────」

 

 

 

 

 

 その時、強い風が吹き込み、木の葉が舞う。その風に乗って、悪しき気配が近づいてくる。4人の雰囲気が一瞬で変わる。小学生の友達から、勇者の仲間たちへと。

 

「……分かるようになっちゃったね〜」

 

「バーテックスの方は、随分とご無沙汰だったわね。もしかしたら、例の切り札を使うことになるかも」

 

「その時は事前に教えてくれ。出たとこ勝負じゃ何かあった時に隙ができるかもしれねえ。俺がフォローに回る」

 

「よおし! バッチリ勝って、明日を満喫しなくちゃな!」

 

 デフォルメされたマスコットのような何かが3人の端末を持って飛んでくる。満開と共に実装された勇者システムの新機能『精霊』だ。神樹の力によって動き、勇者の身を守ってくれる頼れる存在……と聞いている。

 銀の『鈴鹿御前』 須美の『青坊主』 園子の『烏天狗』

 3人はそれぞれ好意的に受け取っていた(園子に至っては『烏・セバスチャン・天狗』というミドルネームまでつけていた)が、鋼也には胡散臭いものにしか見えなかった。

 

(そんな便利なモンがあるなら、なんで今まで話にも出てこなかったんだ……? 満開とやらも、そう短期間で仕上がるシロモノには思えねえが……)

 

 考え込む鋼也に、銀が視線を向ける。それに気づいた鋼也が、左腕のミサンガを見せて安心させるように笑う。

 

「お〜、それが話してたミサンガ〜? いいないいな〜、私もそういうの……そうだ、わっしー。これあげる〜」

 

「え? ……そのっち……これ、いつもしてるリボンじゃない。いいの?」

 

 そんな2人のやりとりに目を輝かせていた園子が、急に何か思いついたようにいそいそとリボンを外して須美に差し出す。少しためらった須美だが、園子の笑顔を見て、そっとそのリボンを受け取り、腕に結びつける。

 

「うん〜。わっしーに持ってて欲しいの〜、私だと思って大事にしてね〜……髪に結んでくれてもいいんだよ〜?」

 

「分かったわ、後で結んでみる。似合ってたら褒めてね、そのっち」

 

「いいねいいね! チームっぽくていいじゃん!」

 

「さて、気合いも入ったところで……行くぜ、勇者様!」

 

 

『────変身‼︎────』

 

 

 笑顔で向かい合いながら、4人の勇者は光に呑まれ、樹海へと飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光の奥、樹海に降り立った4人は、目の前に広がる光景に驚愕を隠せなかった。これまでに倒した3体以外、残る9体のバーテックスが勢揃いしていた。樹海の空を覆う異形の群れ。考えうる限り最悪の展開だ。

 

「オイオイ! そんなのアリか⁉︎」

 

「ずっと音沙汰なかったのは、数を揃えてたからってことね……」

 

「……デカイ戦になるとは思ってたが……」

 

「これは一刻も早く数を減らさなきゃいけないね〜」

 

 予想外に不利な戦場に飛び込んでしまった以上、取れる選択肢は限られる。園子は不確定ながらも現状を打破できる可能性に賭けて、初手から奥の手を切ることを決めた。幸いこれまでのアンノウン戦で温存してきたおかげで満開ゲージは全員溜まっている。

 

「しののん、少しだけ時間を稼いでくれる? ミノさん、わっしー、一気に行くよ〜」

 

『了解!』

 

 ギルスが前に飛び出し、バーテックスの攻撃を引きつける。矢が飛び、尾が迫り、地が揺れ、爆炎が舞う。ピンボールのように跳ね回り、紙一重で攻撃を避けながら敵に近づいていく。

 

(クッソ……! 一瞬でも足を止めたら粉々だ……!)

 

 1秒ごとに命が削られる感覚に耐えながら、必死で走り続けるギルス。蠍座の尾をジャンプで躱した先に、獅子座の火球が飛んでくる。身動きが取れない空中で、致命の攻撃がギルスに迫り──

 

「させない!」

 

 背後から飛んできた青い閃光が、数多の火球を一つ残らず撃ち落とした。思わず空中で惚けたギルスは、後ろから迫ってきた空飛ぶ船に引っ張り込まれる。

 

「──っと、コイツは……」

 

「お待たせしののん、コレが私の満開ってことみたいだよ〜」

 

 船首に立つ園子が、いつもの笑顔で振り返る。その装束はどこか大社職員のような、神官服に近いものになっている。

 

「園子……それじゃあ今の砲撃は……」

 

「私の満開よ。思った以上に力が増すようね、この姿は」

 

 園子の船に並んで飛ぶ空中砲台。その上に乗った須美が厳かに敬礼してきた。神官服のような装いと乗っている兵器と本人の雰囲気が妙な形にマッチしている。

 

「そんでもって、コレが、アタシの満開だぁ!」

 

 勇ましい声と共に、両者の間を人影が通り抜けていく。満開した銀だ。彼女もまた、同じように神官服を身に纏い、背中に巨大なアームを2本備えている。

 

 

「コイツで、ぶった斬る!」

 

 アームが握る巨大な斧。普段使うものをさらに強化したその武器で、銀は蠍座と正面から激突、バーテックスの巨体にも力負けすることなく、五分の鍔迫り合いに持ち込んだ。右の斧と尾の針。両者の力は互角……だが、銀にはまだ左がある。

 

「まだまだあぁぁっ!」

 

 左のアームを振りかぶり、針の先端に振り下ろす。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()脅威を、あっさりと両断してみせた。

 勢いそのままに銀は蠍座の周囲を飛び回り、斬りつける。アームの大斧と、銀の両腕で握る双斧。計4本の斧と満開で得た飛行能力を活かし、ものの数秒で蠍座は細切れにされて消滅した。

 

 

 

「ミノさんやる〜。それじゃわっしー、私たちも〜」

 

「ええ、分かっているわ…………目標、正面のバーテックス……全砲門、斉射!」

 

 軍人のような号令と共に、須美が乗る砲台から膨大な量の光が放たれ、蟹座の防御を強引に突き破り、消滅させた。その圧倒的な火力に鋼也は驚愕する。客観的事実として、彼は勇者システムの力を自分(ギルス)より下だと判断していたからだ。

 

(スゲェ……いや、凄すぎやしねぇか?)

 

「しののん、ちょっと飛ばすよ〜、捕まってて〜!」

 

「ウオオッ⁉︎」

 

 園子とギルスを乗せた船が転進し、射手座に接近する。慌てたように矢を斉射するバーテックスに対し、園子はどこか優雅に片手を向けるだけで対処した。

 園子が操作した幾多の刃が盾のように展開し、全ての矢を弾き返す。全弾撃ち切ったのか、攻撃が止んだ隙に、園子は更に刃を操作する。

 

「これで〜おしまいっ!」

 

 戦場とは思えないほど緩い雰囲気で園子が両手を合わせる。それと同時に全ての刃が射手座に突撃。全身に突き刺さり、そのダメージで一気に消滅した。

 

「これで3体撃破……!」

 

「いける、いけるよ! スゲーな満開!」

 

「後6体…………きゃっ⁉︎」

「園子⁉︎ 銀、須美!」

 

 この勢いで次を狙おうとした勇者たちだが、()()()()()()()()前触れなく、満開が解除される。飛行する術を失い地に沈む4人。精霊バリアでダメージこそないが、唐突な解除に動揺し、隙を作ってしまう。

 

「チッ──お前らどうした⁉︎」

 

 乙女座の爆撃を触手で捌き、ギルスが様子がおかしい勇者たちの盾となる。須美は立とうとしているのに一向に足が動かず、園子は右の視界が急に閉ざされ、銀は右手に力が入らず、斧を握ろうにも指が動かない。

 

「わ、分かんない……これ、どうなってるの〜?」

「動けない……どうして?」

「なんだこりゃ……指が動かない……力が、入らない……?」

 

 戸惑う4人に火球の雨が降り注ぎ、爆風で大きく吹き飛ばされる。多少数が減ったと言えど、まだまだギルス1人で対応できる物量ではない。

 

「う〜……ありがとうセバスチャン……とにかく今は、やらなきゃ!」

 

「そう、ね……満開すれば動ける……!」

 

「今のアタシは4本腕だ、まだ行ける!」

 

『満開‼︎』

 

 再び満開し、空を駆ける3人。ギルスも援護に回るべく、園子の満開に飛び乗る。

 着地した瞬間、何度も感じてきた敵の気配を捉える。あまりの悪寒と重圧に振り返ると、樹海の根の陰、100メートルほど後方に、獅子を思わせる異形『地のエル』が静かに佇んでいた。その右手には、強い存在感を放つ長剣が握られ──

 

 

 

『地』を司る天使の剣が、樹海の大地に突き立てられた。

 

 

 

「ガッ……ハッ⁉︎」

「うわああっ⁉︎」

 

 次の瞬間、高層ビル並に巨大な刃が地面から隆起し、園子の船に直撃した。船底から甲板まで貫通した刃は、真上にいたギルスをかち上げて吹き飛ばす。ギリギリで反応できたギルスが構えたクロウは両方とも根元から寸断され、その威力を物語っている。

 刃に跳ね飛ばされて墜落したギルスと、満開が解除されて落下した園子。2人は何とか体勢を整えて、新手の姿を改めて捉える。

 

「なんかすごそ〜……これまでのアンノウンとは何かが違う気がするよ〜」

 

「同感だ……アレは俺が抑える、お前らはバーテックスの殲滅に集中しろ」

 

『そんな、危険よ!』

『アイツは本当にヤバイって! 1人じゃ無理だよ』

 

 通信越しの苦言を無視してリーダーに訴えるギルス。この圧倒的不利な状況で、園子は戦略的な正しさを選ぶしかなかった。

 

「……お願い、しののん……すぐに終わらせて、助けるからね……!」

 

「ああ、流石に俺もアレを相手に強がる余裕はねえ……頼むぜ」

 

『そのっち!』

『園子! 鋼也!』

 

 バーテックスは残り6体。なんらかの不安要素がある満開に頼っても、殲滅できるか怪しい数だ。加えて新たなアンノウン。先程の攻撃を気軽に乱発できるなら、的が大きくなる満開状態の勇者達とは相性が悪い。そして何より──

 

(どうやら、奴さんも俺に用事があるらしいしな……!)

 

 地のエルの視線はギルスを捉えて離さない。誰かがあの規格外を足止めする必要があり、敵は明らかにギルスを狙っている。初手の奇襲で深刻なダメージを負ってはいるが、それを全力で取り繕い、ギルスは単身敵の前に飛び出す。

 

「ギルス……ソノ力ヲ……」

 

「何の用か知らねえが、あいにくこっちは予定が詰まってんだ」

 

「見セテミロ……!」

「お引き取り願うぜ!」

 

 ギルスが正面から飛びかかり、敵の顔面に拳を叩き込む。

 

「……なに……⁉︎」

「遅イ……軽イ……弱イ!」

 

 地のエルは微動だにせず、つま先で軽く地を踏む。たったそれだけの動作で足元の地面が炸裂し、ギルスは大量の土石流に呑みこまれて吹き飛んだ。

 

「チッ、硬さ自慢か……だったら!」

 

 地のエルの周囲を高速で駆け回り、翻弄する。スピードに優れたギルスの得意技だったが……

 

「遅イと言ッタ……!」

「ガハッ⁉︎」

 

 真後ろからの強襲は完璧に見抜かれ、カウンターの斬撃を食らう。ギルスの胸部に縦一文字の大きな傷が入る。

 

(……再生、しない……⁉︎ 速さも力も負けてる、このままじゃ……!)

 

 焦るギルスの内心を悟ったように、地のエルは脱力して剣を手放した。軽く両腕を広げ、自ら隙を作って示す。避けも防ぎもしないから、撃ってこいと言わんばかりに。

 

「色々な意味で他の奴とは違うらしいな……挑発の仕方まで心得てるとは達者じゃねえか。いいぜ、乗ってやる……! 舐めんなよ……アンノウン! ウオオオオオオオオオオッ‼︎」

 

 雄叫びと共に高く跳躍、踵から必殺の爪を伸ばす。

『ギルスヒールクロウ』多くのアンノウンにとどめを刺したギルスの必殺技は、地のエルの背部にその刃を突き立て──

 

「……嘘、だろ……⁉︎」

「コレデ、終ワリカ?」

 

 ガギン! と甲高い音を発しただけで一切刃が立たず、何のダメージも入らなかった。一切の行動を起こすことなく必殺技を封殺した地のエルは、超能力で手放した剣を引き戻し、隙だらけのギルスのベルトに突きを入れて大きく吹き飛ばす。

 力の根源を傷つけられた痛みで一瞬意識が遠のくギルス。空中で晒した致命的な隙を見逃すほど、今回の敵は甘くない。

 

(マズイっ! …………あー、クソッ!)

 

 大地から迫り来る刃を前に、反射的に盾にしようと構えた左手を()()()()()()()()()()()()()()()()()()代わりに右手を前に向ける。

 

「……散レ、ギルス……」

 

「────っ‼︎」

 

 大地の刃は、ギルスの右腕……肘から先を切断し、緑と黒の前腕部が樹海の空に弾き飛ばされた。

 それと同時に、精神力で何とか保っていた意識も完全に飛ばされ、空中で変身解除させられた鋼也の視界は闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミノさん、わっしー! 急ぐよ!」

 

「ええ!」

 

「分かってる!」

 

 三度満開した園子が合流し、勇者たちがバーテックスに突っ込む。しかし先程よりも動きが精彩を欠いている。強敵への恐怖は躊躇いを生み、仲間を失う不安は焦りを生む。

 

「うおっ⁉︎」

 

 焦りを払拭できないままがむしゃらに突っ込もうとした銀の鼻先をかすめるように、()()()()()()()が飛び込んできた。その色味に覚えがあった銀が地上を見下ろすと──

 

 

 

 おびただしい量の血を流し、赤い水溜りに体を沈める鋼也の姿があった。

 

「ああああぁぁぁぁっ‼︎ やめろぉぉぉぉっ‼︎」

 

 焦りが頂点に達した銀は、目の前のバーテックスを無視して急降下。今まさにトドメを刺そうと接近している地のエルと鋼也の間に斬り込んでいく。

 

「鋼也から、離れろぉぉぉっ‼︎」

 

 上空からの斧を飛び退いて軽く躱す地のエル。銀の全力の一撃は樹海の大地に大きなクレーターを作るだけに終わったが、その威力は地の天使でさえも無視できないものだった。

 

「勇者トヤラカ……貴様達ハ私ノ標的デハナイ……」

 

「ふっざけんな! だから鋼也がやられるのを黙って見てろって言うのか!」

 

 銀自身分かっている。満開したと言えども、対人戦であのギルスが負けた相手に右手が使えない自分では勝ち目がないことを。それでも逃げない。鋼也ならもう一度立ち上がってくれる。だからそれまで時間を稼ぐのは、勇者たる自分の仕事だと覚悟を決めた。

 

「こっから先は通さない……! お前の相手は、アタシだ!」

 

「……邪魔ヲスルナラ、死ヌ事ニナル……」

 

 剣を振っただけで大地が揺れ、地面が崩れる。

 3本の斧を振りかざし、その刃に炎が踊る。

 天災レベルの力を持つ地の天使と、怒りに燃える炎の勇者が、周囲をも巻き込んで激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 




地のエルの能力は捏造だらけですごめんなさい……

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに



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