A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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ゆゆゆ編スタート……といっても、まずは人間関係を整理するために数話かけて原作前の話です。


結城友奈の章
気づいてあげたい、キミノコエ


「ただいま戻りました!」

 

「はい、お帰りなさい。朝ごはんできてるから、食べちゃって」

 

「はい、ありがとうございます、静香さん」

 

 観音寺市にある一般的……というには些か立派な日本家屋。その玄関に1人の少年が駆け足で入っていく。彼の名前は御咲陸人。諸事情あってこの東郷家に預けられている記憶喪失、身元不明の人物。

 そんな雰囲気は微塵も見せず、いつも通りの穏やかな笑顔で挨拶を交わしながら卓につく。

 

「おはようございます、拓馬さん」

 

「ああ、おはよう、陸人くん……今日も走ってたのか? 毎朝精が出るな」

 

「そんな大したことじゃないですよ。入院する前がどうか忘れましたけど、やっぱり体がなまってる気がするので……」

 

「しかし、毎朝4時起きだろう? いやぁ、僕には真似できないな」

 

「お父さんはもう少し早起きする癖をつけるべきでは? 家長が1番遅くに起きてくるのはどうかと思いますよ」

 

「おっと、美森は手厳しいなぁ」

 

「あ、み……東郷さん、おはよう……」

 

「……はい、御咲さん、おはようございます」

 

「……えっと、今日は東郷さんが朝食作ってくれたんだよね。楽しみだなぁ」

 

「……一昨日と大して変わりませんよ。買い物できていないので」

 

「……そっか……」

 

「はい」

 

「…………」

 

「…………」

 

 東郷家の娘、東郷美森。陸人がこの家に来るのとほぼ同時期に、一部の記憶と両足の自由を事故で失った車椅子の少女。基本的には礼儀はきっちりしていながらも、穏やかで優しい気質の持ち主なのだが……

 

「いただきます…………うん、美味しい! やっぱり東郷さんは料理上手だね!」

 

「そうですか、お口にあって何よりです」

 

「うん…………」

 

「…………」

 

 このように、陸人と話すと途端によそよそしくなる。目も合わせず、敬語も一切崩さない。仮にも同じ家に住む者同士の距離感ではない。

 陸人の方は何度も会話を振ったり、車椅子ならではのちょっとしたトラブルの際に手を貸したりしているのだが、美森の態度は変わらない。

 この家に来て1ヶ月。父親の拓馬、母親の静香とは早々に打ち解けたのだが、来年度から同じ学校に通う予定の娘とうまくいっていない。

 深刻な問題だった。

 

(嫌悪感とかは感じないし、東郷さん自身はいい子なんだよなぁ……友奈ちゃんとはすごく仲がいいし、同年代が苦手ってことはない……男子だから、とか言われたらどうしようもないけど、それも多分ない……う〜ん……)

 

 初対面ではなにか面食らったような反応をしていた。そして次にあった時にはこれだ。好かれる理由も嫌われるキッカケもないだろうあのタイミングで、彼女の中で何かがあった。それが分からないため、陸人も困っていた。

 

「ごちそうさまでした……食器、下げますね」

 

「あっ、待って、それは俺がやるよ」

 

「……ありがとうございます、ではお願いします」

 

「うん、東郷さんは支度してて。友奈ちゃんと遊ぶ約束だったよね?」

 

「……はい」

 

 考えながら掻っ込むうちに全員朝食を終えていた。無意識でも車椅子の美森を気遣う陸人を見つめる彼女の瞳には、どこか申し訳なさそうな色が乗っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっかぁ。今朝もダメだったんだ」

 

「……うん。なにが悪いんだろう?」

 

「うーん、私から見て、りっくんと東郷さんは相性良さそうというか……仲良くなれると思うんだけどな〜」

 

 困った顔で笑い合う少年少女。彼女の名前は結城友奈。東郷家の隣に住む、美森や陸人と同い年の小学6年生。特殊な事情故に現在通学していない2人と違い、彼女は普通に市内の小学校に通っている。出会ってすぐに2人と仲を深め、家が近いこともあり毎日のように一緒に遊んでいる。

 

 陸人は彼女に形容しがたい懐かしさのようなものを感じていた。最初は無くした記憶の中で会ったことがあるのかと考えたが、友奈には一切の憶えがないという。これほど強く残っているなら、忘れられるような浅い知り合いではないだろう。

 まるでそっくりの誰かと仲良くしていたかのように、陸人と友奈はよく噛み合った。友奈の方もまた陸人に対して初めてではないような感覚を持っている。不思議な既視感の上で出来上がった彼らの友情は、長い年月を感じさせるような強固な絆を作り上げた。

 

 基本は3人か、美森と友奈の2人でいることが多いのだが、今は美森の通院に付き添って、彼女を待っている。珍しく2人の時間を取れた陸人が何か知らないかと問うが……

 

(この前東郷さんに聞いた夢の話……りっくんに教えてあげたいけど……)

 

「友奈ちゃん?」

 

「んーん、なんでもない。東郷さんには東郷さんなりの悩みとかあるのかもしれないね。私もりっくんも、まだ付き合い短いでしょ?」

 

 実は友奈は美森が陸人を避ける理由を本人から聞いている。しかし誰にも言わないと約束して聞き出した以上、教えることはできない。目の前で唸る友達に申し訳なく思いながら、無難な励ましをかけることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局その日も両者の関係は1ミクロンたりとも進展せず、就寝時間となった。美森は自室のベッドに横になり、ぼんやりし始めた頭で1日を振り返る。

 

(やっぱり今日もダメだった……御咲さんがいい人なのは分かっているのに……)

 

 美森自身、好き好んで陸人を避けていたわけではない。度々見る悪夢――彼女に自覚はないが、それは記憶が消えた直後の不安定な脳に朧げに刻み込まれた樹海での一幕だった――に出て来る仮面の異形、その声や雰囲気がどうしてもあの少年と同じものに感じられたのだ。

 

 見たこともない空を飛ぶ巨大な影。

 怪しく光る植物のようなものに囲まれた大地。

 顔もはっきりしないが、おそらく同年代の少女。

 そして件の仮面。

 

 何もかもが現実的でない、まさに夢のような光景だったが、何度も何度も見るうちに、あれが現実にあったことなのではと考えるようになった。

 そう仮定して、更にあの仮面が陸人だったとした場合、彼は自分が記憶を失った事故に関わっている可能性が高い。そう思うと全てが怪しく見えてくる。

 

(記憶がないって言いながら、それを気にしているようなそぶりがない……ここ数年分が抜けてるだけの私でも不安になるのに、何もない彼がああも平然としているのは……)

 

 何かと自分たちに良くしてくるのも、こちらの信用を得て何か事を起こすつもりだとしたら。現に彼はいきなり現れてすぐさま両親の信頼を得ている。こちらに積極的に構ってくるのにも目的があるのでは。

 

(分かってる。これは私が勝手に怖がってるだけ。私、ここまで穿った性格してたかしら……)

 

 考えに無理があるのは分かっているし、己に失望もしている。それでも、いきなり記憶と両足を失った美森の心的負担は相当なものだ。そこにいきなり現れた背景に不穏な影がある少年。恐怖心を煽るには絶好の要素だ。

 

(ダメね……友奈ちゃんにも、全て私の思い込みだって言ったのに)

 

 最近知り合って、自分では珍しいほど早く、それこそ一目惚れのレベルで距離が縮まった友達。彼女のことはこんなに信じられるのに、なぜほぼ同時期に知り合った彼のことはこんなにも警戒してしまうのか。

 

 この日も美森は自己嫌悪を繰り返し、気づけば眠りに落ちていた。そんな彼女を彼方から見据える瞳には気づくこともなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静まり返った夜の街を駆け抜けるシマウマのような姿をした二足歩行の異形、アンノウン。

『エクウス・ノクティス』は東郷家を視界に捉えたところで立ち止まり、改めてターゲットを見定める……

 

「またお前たちか……何体いるんだ?」

 

 誰もいなかったはずの背後からの声にノクティスが振り向くと、そこにはまだ幼さが残る少年が立っていた。標的以外の殺傷は控えろという話だったが、こうもハッキリ目撃されてはやむを得ない。人をミイラ化させる能力を持った腕を構えると、目の前の少年も足を開いて両手を構えた。

 光と共に彼の腹部にベルトが発生する。そこでようやく、ノクティスは目の前の少年が誰かを確信した。

 

「アギト……!」

 

「――――変身っ‼︎――――」

 

 前に突き出した両手をベルトの両端に叩きつける。ベルトの中心から更に強い光が発生し、ノクティスの視界を覆う。

 

 光が晴れた先には、金に輝く体と赤く光る瞳を持った影。自分たちとは違う『進化の可能性』たるアギトが、悠然と構えていた。

 

「好き勝手はそこまでだ……人間を、ナメるなよ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、結城友奈は珍しく、本当に珍しく夜更かしをしていた。というのも最近できた友人2人の関係改善について、頭脳労働全般不向きな頭を回して考えていたのだ。

 

(ん〜、私から言えることがないからなぁ。東郷さんが慣れるか、悪夢の印象を吹き飛ばすくらいの何かがあれば……)

 

 結局生産的な案は何も浮かばず、もう寝ようかと部屋の電気を消した時……

 

「……何? 今の光……」

 

 窓の外、少し離れた地点で何かが発光した。いつもの友奈なら気のせいだろうとすぐに忘れるようなことだが、なぜだか無性に気になって……

 

(……そーっと、そーっと……)

 

 親に気づかれないようにひっそりと、友奈は初めて夜に1人で家を抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子は傷つけさせない、絶対に‼︎」

 

 アギトの拳がノクティスを大きく吹き飛ばす。万一に備えて、夜中人が通らない公園まで敵を誘導し、確実にダメージを与えていく。

 初めて変身した時は流石に混乱してかなり手こずったが、この1ヶ月でもう4回目ともなると慣れたもので、勝負はアギトの一方的優位だった。

 アギトの戦い方には一切の淀みがない。無駄に力むこともなく、油断や慢心も見えない。あくまで自然体で、人間が怪物を圧倒している。

 

「終わりだ……!」

 

 角を展開して構えるアギト。グランドフォーム必殺のライダーキックで、ノクティスを爆砕、完勝した。

 

(アレが何者なのか、なんで東郷さんや友奈ちゃんを狙うのか。これ以上続くのなら、調べる必要があるか……)

 

 今後の対応を考えながら変身を解いた陸人。その耳に、いるはずがない友人の声が届く。

 

 

 

「……え? りっくん……?」

 

「――っ‼︎……友奈、ちゃん」

 

 

 

 隠しておきたかったアギトの戦い。その一部始終を見て目を丸くしている友奈の瞳には、同じ表情で固まっている陸人の顔が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 




原作イベントの前に、まずはこの時代において異邦者である陸人くんの立ち位置と関係性を描きます。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに


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