A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
ちょいちょい用意していたフラグの内容を少しずつ開示していきます。本格始動まではかなり先ですが……
それから、ちょっと書き方変えました。アンノウンの固有名詞を出して、地の文で表現する時はその名前を使います。わすゆ編とかも直したので、多分全部そうなっているはずです。
アンノウンの個々の名前まで覚えている人は少ないでしょうし、混乱するかもしれませんが、アンノウンという総体と個人を区別したいと思い、このような形になりました。
――あなたたちが入るべき部活はこれよ!――
――えっと、『勇者部』?――
――『人々のためになることを勇んでやる』、そんな部活よ――
――私、勇者って響きに憧れてたんです!――
――活動指針は素晴らしい……この名称も――
――そうだね、いいと思うよ。2人も気に入ったみたいだし――
――為せば成る、為さねば……うーん――
――『なせば大抵なんとかなる』……とか?――
――あたしたちの『勇者部五箇条』完成ね!――
幾許かの時が過ぎて、陸人たちは讃州中学に入学した。そこでいくつかの出会いを果たし、自分と波長の合う部活動を見つけ、充実した中学ライフを満喫している。
「天体観測会?」
「そうなの。前に演劇をやった保育園からの依頼なんだけどね」
讃州中学勇者部部室。陸人たちが所属する『勇者部』の拠点で、部長である
「天体観測というと、夜ですよね。付き添いというなら、中学生の私たちだけでは……」
「ううん、そうじゃなくてね。引率の方は先生や何人かの親御さんでやるみたいなんだけど……この前の演劇で気に入られちゃったらしくて、子供達から勇者部がご指名受けたんですって」
「つまり一緒に参加しましょうって話ですか? 風先輩」
「そ。まあ場所も七宝山ちょっと登った先だから遠くないし、深夜ってわけでもないけど、一応あたし達も中学生だからね。ムリな子もいるかなって……ウチは親いないし、妹のご飯だけ用意しておけば問題ないんだけど」
みんなはどう? と問いかける部長に、友奈が真っ先に返答する。
「私は大丈夫ですよ! 楽しそうだし」
「ウチも問題ないです。リクが一緒だと言えば、両親も安心してくれます」
「ハハ、信頼が怖いなぁ。裏切らないようにしないとね……というわけで風先輩、全員参加だそうです」
「さすが勇者部員たち! じゃあ東郷、先方に参加のメール送っといて」
「了解しました、部長」
快い返事が集まったことに満足げな風。この人選に他の意図があるとはいえ、お役目抜きで勇者部を大切に思えるようになったのは、間違いなく彼らのおかげだ。
「そうだ、なんなら風先輩の妹さんも連れてくればいいんじゃないですか? きっと楽しいですし、一緒にいる方が安心でしょう」
俺も会ってみたいですし、と笑う後輩に、妹の危険を察知する姉センサーがわずかに反応したらしい。じとっとした目で陸人を見据える。
「確かに誘ったらあの子は来そうだし……でも、うっかり惚れるんじゃないわよ? 樹はそりゃも〜〜、可愛いんだから!」
自分の学年でさえも軽く噂になっている後輩の魔手から妹を守らなくては。姉心が妙な方向に暴走している。
「そっかぁ。それじゃあ妹さんに本気にならないように、心の準備をしておかなきゃですね」
「リ・ク……?」
おどけて笑う陸人の背中に、冷たく突き刺すような声が飛んでくる。車椅子に座っているとは思えない威圧感を放つ美森が、笑顔を張り付かせたままお説教モードに突入する。
「そういうことは冗談でも控えなさいと前にも言ったわよね? なのにあなたは事あるごとに女子を勘違いさせるようなことばかり……」
「ハイ……ゴメンナサイ……」
「あなたはその気になれば大和男児の理想を体現できる素質があるのだから、もう少し自覚を持って……」
「モウシマセン……」
いつの間にか正座に移行して説教を受けている陸人。美森のマシンガンは止まる事なく、少年の背中が縮こまっていく。
この1年間で陸人が覚えた同年代の心を解きほぐすためのトークスキルは、美森からすれば軟派な悪癖でしかない。
「あちゃー、始まっちゃった」
「ホントに尻に敷かれてるわね。これじゃ迂闊に手を出せないわけだ」
「え? 何か言いました?」
「何でもないわよ……当事者の1人はこんな調子だしね……」
困った時にひょっこり現れて助けてくれる。自然とこちらも笑顔にさせてくれる。そんな風に密かに人気がある後輩は、同時にその隣にいる2人の女子との関係も噂になっていた。
人目をひくタイプの美人である東郷美森。異性とは一定の距離を置いている彼女が唯一
一緒に住んでいる、という事実が歪曲し、2人で同棲しているという間違った噂まで飛び交っているほどだ。
一方で、女子版ヒーローとも称される結城友奈。彼女の場合は基本男女に分け隔てないが、そんな彼女が明らかに特別扱いする親友が美森と陸人だ。
性別を意識していないのか、分かってやっているのか……腕を組む、抱きつく、おぶさる、といったスキンシップがたびたび目撃され、噂を加速させている。
陸人に興味がある女子が何人かいるのを風は知っているが、双璧が常に立ちふさがる現状、大きな動きが取れないでいる彼女たちにはついつい同情してしまう。陸人本人にはその手の意識がまるでないのだから。
「勿体無いというかなんというか……ハイハイ、その辺にしときなさい。それじゃ週末は予定空けといてね、観測会に向けてこっちからも何か用意しないと」
部長として号令をかけると、即座に並んで指示を聞く部員たち。やがて来る運命の日を忘れてしまうほどに、この場所は風にとって居心地が良すぎた。
「さてと、こんなものかしらね?」
「はい、向こうも用意していますし、ウチの財布事情も考えるとこれくらいでしょう」
翌日、風と陸人は買い出しに出ていた。望遠鏡を持っていこう! という友奈の思いつきに乗った美森が費用面を考えた結果、手製でお手軽な天体望遠鏡キットを作っていくという話になったからだ。持ち運びも考えて数個だが、これで少しは園児たちの回転もよくなるだろう。
「天体観測ね……陸人はやったことある?」
「んー、記憶にはないです。もしかしたら経験あるのかもしれませんけどね」
「……そっか……ゴメン」
「あ、気にしないでください。俺も時々忘れてますから、自分の記憶のこと」
「それはどうなのよ……」
風からは、陸人は記憶のことをまるで気にしていないように見えた。そのせいで時折こちらまで忘れてしまう。思い出話ができるほどの時間の蓄積は、ここにいる陸人にはまだないのだから、配慮するべきだと風は考えている。
「取り戻せるなら知りたいことはそりゃありますけどね……今の環境が楽しいですから、それでいいかなって」
なのに本人がこれである。美森なんかは今でも専門の資料を調べたりしているが、こんな調子でいいのかと呆れてしまう。
「記憶無くす前の陸人は、今の陸人と比べてどういう人だったのかしらね」
「そうですね……悪いことしてたとかじゃなければいいなぁとは思います」
「それはないんじゃない? 目の前のあんた見てると、まるで想像できないもの」
風は改めて目の前の後輩をジッと見据える。考えてみると、彼については分からないことだらけだ。
勇者適性がある友奈と美森と組め、という指示は受けている。しかし陸人については……
『彼についての選択は全て本人の判断に任せよ。一般的な知人として振る舞うように』
そんな曖昧な指示しか受けていない。男子である以上、勇者候補ということはないだろう。しかし何かある、そして大社はそれについて期待以上に警戒している。
風が知る御咲陸人は、困っている人を見つけるのが異常に得意で、何より誰かの笑顔を大事にしている……ちょっと度がすぎたお人好し。
多少変わっているとは思うものの、特別な人物だと思えるような何かはこれまでの付き合いの中では見られなかった。
「一応懐中電灯とかも持っていったほうがいいかも……風先輩?」
「……ん? ああゴメンゴメン、何でもないわ。他に必要なのは――」
知人も他人も関係なく、周囲をよく見ている後輩。風にとっての陸人は、概ねそんな言葉で形容できる存在だった。
「飛んでる奴は、実力以上に厄介だな……」
あの後、学校が見えてきた頃になってアンノウンを察知。陸人は悩んだ挙句『忘れ物をした』というベタ極まりない言い訳で荷物を風に任せて引き返した。訝しげな眼を向けられた気がするが、部室にいるだろう友奈のフォローに期待するしかない。
高架下で見つけたカラス型のアンノウン『コルウス・クロッキオ』は、彼の姿を見るやその翼を広げて上空に飛翔した。
アギトが届かない高さから一撃離脱戦法を繰り返すクロッキオ。これまでにない戦術を駆使してきた敵に対して、アギトもまた別のカードを切る。
「それ以上目立たれても面倒だからな、仕留めさせてもらう!」
ベルトに手を添えて、赤い光が発生する。右半身を中心に、アギトの体が赤く変化し、ベルトから一振りの刀『フレイムセイバー』が形成される。
『フレイムフォーム』
炎の力を宿し、パワーと感覚神経が強化される攻撃形態に変身し、居合の構えを取る。
左腰部に武器を添えた構えを見て、クロッキオは高速でアギトの背後に飛翔する。居合はカウンターとして優秀な戦術だが、それはあくまで地上で向き合った状態であることが前提の話だ。天空を自在に飛び回る相手に、飛行能力がないというのはかなり大きなハンデとなる。
固まって動かないアギトを嘲笑しながら、クロッキオが接近する。狙うは後頭部と首筋。自身の最高速で、敵の急所に爪を伸ばし――
「遅いっ‼︎」
刀を左の逆手に持ち替えて、左腰部からそのまま突き上げる。最短距離で届いた刃は、クロッキオの腹部を深々と貫通した。串刺し状態で静止した敵に、トドメを放つ。
「オオオオオッ‼︎」
刀の鍔が展開し、刀身にエネルギーが収束していく。
フレイムフォームの必殺技『セイバースラッシュ』が炸裂。クロッキオの身体を中心から真っ二つに両断、爆砕した。
「さてと――――2体目か……! どこまでも面倒だなっ!」
フレイムフォームの超感覚で新手の接近を察知。急降下してくる同型『コルウス・ルスクス』が迎撃の構えを取り――
「G3、
横から飛んできたワイヤーが、一瞬でルスクスの自由を奪って地面に叩き落とした。
「あれは……!」
「アンタレス、
ワイヤーを辿った先に、コバルトブルーを基調とした、特殊装甲を装着した戦士が銃を構えていた。
機械的な装甲を各所に纏った無機質的な容姿。
頭部の造形こそアギトやギルスに多少似ているものの、複眼やベルトも含めて機能的でメカニカルな造形。
腕に装備するワイヤー射出装置や大口径のグレネードなど、近代的な兵装。
『G3システム』
伝説上のクウガやギルス、アギトを参考に設計された強化外骨格。大社の小派閥が独自に作り上げた、『勇者に頼らない防衛戦力』の1つ。
「逃がさない……ここで仕留める!」
G3のワイヤーは手足と共にカラスの翼をも完全に巻き留めているため、ルクウスは身じろぎ以外の行動が取れずにいる。
のたうちまわるルスクスとは対照的に、G3の挙動は冷静そのもの。ワイヤーユニットに銃身を添えて狙いを定める。
「――
背を向けた敵の右翼を、大口径の弾丸が撃ち抜く。
「――
倒れ込んだところを、今度は左翼を狙い、すかさず2発目で破壊する。
「終わりだ……
何とか上体を起こしたルスクスの胸部に、トドメの3発目。命中と同時に爆散、消滅した。
アンノウンの消滅を確認し、立ち去ろうとするG3。その背後から、どこか気安い声が飛んでくる。
「ちょうど良かった、今度会えたら話を聞きたいと思ってたんだ」
背を向けたまま立ち止まるG3。アギトが次の言葉を紡ぐ前に振り返り、片手を向けてその言葉を制止する。
「……?」
「…………よし、これで問題ない」
ベルトの側部にマウントした端末を操作すると、G3の装甲が透けるように消えていく。その奥には陸人と同年代の少年が立っている。
「すまない、あなたとの接触は極力避けろという命令でね。アレを着けているうちは自動で記録されているから、後々面倒なんだ」
どうやらファーストコンタクトは成功したようだ。陸人も変身を解いて、素顔を見せる。
「やっぱり俺と同じくらいの人だったね」
「……よく分かったな」
「動きを見てなんとなく。偉そうな言い方になるけど、大人と見間違うくらいうまく戦えてたよ」
「それはどうも……で、聞きたいことがあるのか?」
「まあ色々とね。本部に連絡取るよりは前線に出てる人の方が信用できそうだったから……その前に、名前を聞いてもいいかな? 俺は御咲陸人。まあ知ってるか」
「僕は……そうだな、名乗ろう。特殊兵装開発班『G3ユニット』所属、装着員の
御咲陸人と国土志雄。
力を持つ者と、持たざる者。
選ばれた者と、選ばれなかった者。
大切な人をかつて守れた者と、今なお守れずにいる者。
正反対の道を歩んできた2人が、夕空の下で初めて顔を合わせた。
というわけで、志雄くん登場、といっても彼の見せ場はまだ先ですが。
時系列がほぼ同じであるくめゆ編はゆゆゆ編の後に作成予定なんですが、その前にも多少触れないと唐突で存在感のない立場になってしまうので……顔見せはたまにする予定です。
問題は、現段階の構想だと結構な大長編になってしまうんですよね。そこまで私がエタらずいけるか。そこまで読者様が認めるクオリティを維持して進めるか、不安だらけですが、頑張ります……
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに