A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

78 / 150
勇者部での陸人くんと、1人立ち位置が違う風先輩の心境に軽く触れていきます。
原作時間に入った時にスムーズに進むために、事前に出しておきたい要素をまとめて、もう少し原作アギトを彷彿とさせるようなオリジナル回を重ねる予定です。

改めて読むとツッコミどころ多いな、この小説……



旋風と星空

 

「つまり、『アンノウン』とやらは何かしらの条件を満たした人間だけを襲うってことか?」

 

「ああ、現にこちらが妨害した後も、同じ人が狙われたことがある」

 

「確かに、俺の友達ももう何度も狙われてる……その条件って?」

 

「……不明だ。繰り返し狙われた人間を調べても、特に共通点は見つからなかった」

 

 これは嘘だ。2年前の決戦以降も散発的に発生するアンノウン案件。それらを調査し、敵が狙う人間の特性は掴んでいる。

 

 巫女が多く滞在している大社本部が頻繁に襲われたこと。

 友奈と美森が度々狙われること。

 

 アンノウンの目的は神樹の、神の力への適性を持つ人間……テオスが嫌う、人の上位に進化する可能性を持った人間の抹消。

 その結論に至った大社は、可能であれば適性を持った人材を保護、難しいようなら護衛と監視を付けている。

 

 例外が陸人の側にいる美森と友奈。彼女たちについている風も、アンノウン関連の事情は知らされていない。全ては陸人に干渉させないために。大社はそれほど、陸人の存在を重く捉えている。

 

「済まないが僕からはこれ以上教えられることはないな。こうして話すだけでもバレたら懲罰モノだ」

 

「そっか、それはゴメン……大社の人も大変だ」

 

「だが、1つだけ……」

 

「何かな」

 

「そう遠くないうち、恐らく一年ほど後か……本当の戦いが始まる。これまでのアンノウンの動きは全て牽制や敵情視察に過ぎない。その時何を守れるか、それはあなたにかかっているはずだ」

 

「本当の戦い……」

 

「大事なものがあるのなら、目を離さないようにしたほうがいい。今はどこもキナ臭くなっている。何が起きてもいいように、心構えだけはしておいてくれ」

 

「分かった。曖昧すぎて現実味がないけど、忠告はありがたく受け取るよ」

 

「ここまでだな……今後戦場で会うことがあっても、このような時間は取れないと思ってくれ。前回すれ違った時のように、見なかったことにしてくれると助かる」

 

「了解、組織っていうのは面倒なものだね」

 

「本当にな。それじゃ、お互いの領分で力を尽くそう……失礼する」

 

「色々ありがとう、またね」

 

 その言葉を最後に、2人は背を向けて歩き出す。現時点で彼らが同じ道を行くことはない。各々の大切なものを守るため、偶然交わった一点から、2人の道はまた離れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしよし、いい感じよー」

 

「さすが風先輩、手慣れてますね」

 

「そりゃもう毎日ご飯用意してるし。でも陸人も相当手際いいじゃない。東郷に教わったの?」

 

「あー、それが美森ちゃん、和食は嬉々として教えてくれるんですが……こういう洋菓子系はあんまり好きじゃなくて。料理の基礎を教わってから自分で覚えました」

 

 翌日、風と陸人は観測会に向けて手作りクッキーを用意していた。本来なら勇者部のお菓子担当である美森に頼む場面だが、彼女は大の和食派。園児受けの良さと手軽さを考えて、料理上手の風と器用な陸人がクッキーを作ることになった。

 

「あの子のアレも筋金入りねー。家でもあんな感じなの?」

 

「……まあ予想通りじゃないかと。お陰で俺も大分詳しくなりましたよ、歴史とか軍事とか」

 

「時々出てくるアクの強ささえなければ清楚なお嬢様なんだけどね」

 

「確かに対応に困ることはありますけど、好きなものを突き詰めていくところは美森ちゃんの美点だと思います」

 

「……あんたのそういうところも相変わらずね」

 

 作業の手は止めず、口もまた止まらない。普段から賑やかな風だが、今日は特に口数が多い。会話に間が空くのを避けたがっている。

 

(なんか陸人だけ平然としてるのがシャクねー……こっちは男子を家に上げるなんて初めてだってのに)

 

「……風先輩?」

 

「んにゃ、じゃあ仕上げに入りましょ」

 

 普段から同級生の女子と一緒に暮らしている陸人には、風の気持ちを察することができなかった。

 

 

 

 

 

 

「それで、昨日は結局どうしたのよ?」

 

「ただ財布忘れただけですよ、言ったじゃないですか」

 

「ホントにぃ〜?」

 

「本当ですってば」

 

 何度目か分からない押し問答が再開された所で、犬吠埼家の玄関が開いた。

 

「ただいま、おねえちゃん……あれ、この靴って……」

 

「あ、おかえりー、樹」

 

「お邪魔してます。風さんの後輩、御咲陸人って言います」

 

「あっ、え……と……い、犬吠埼樹です……」

 

 入ってきたのは風の妹、来年讃州中学に入学予定の犬吠埼樹。いきなり対面した歳上の異性に緊張しているようだ。

 

「なーにビクビクしてるの樹。今日は陸人が来るって朝言っておいたでしょ?」

 

「そ、そうだったっけ……?」

 

「あんたまた朝ごはんの時半分寝てたのね? ホントに朝弱いんだからもー」

 

「あぅぅ……ごめんなさい……」

 

 一瞬で形成される2人の世界。その自然な空気が、陸人にはどこか懐かしかった。

 

「ふふっ、仲がいいんですね」

 

「姉妹だもの、いつもこんな感じよ」

「あっ、ご、ごめんなさい……」

 

「いや、見てて楽しかったよ。そうだ、樹ちゃんって呼んでもいいかな?」

 

「うぇっ……えーと、その……はぃ……」

 

 風から見た今の樹は、初対面の相手にしては落ち着いているようだ。声色、目線、姿勢、口調、距離感……相手の緊張を和らげる方法は実はいくつかあって、陸人は自然に話しやすい空気を作ることができる。これが人誑しのタラシたる所以だ。

 

 

 

 

 

 

「樹ちゃんは音楽が好きだって聞いたよ。俺も最近携帯プレーヤーを使うんだけど、何かオススメの曲とかあるかな? 例えばランニング中とか――」

 

「えと、そうですね。男の人が好きそうな曲だと――」

 

 まだ壁はあるがそれもごく小さな警戒心だ。姉が連れてきたということもあって、随分と打ち解けて話せている。

 

(ま、樹の可愛さに舞い上がって妙な気を起こしたら、あたしがぶっ飛ばせばいいわよね)

 

 抑えきれない妹愛(シスコン)を拗らせながらも、風は2人の対面が概ねうまくいったことに安堵していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっ、犬吠埼、樹ですっ!……よろしゅく……あぅ、かんじゃった」

 

「カーワイー! 私、結城友奈。よろしくね樹ちゃん!」

 

「東郷美森です。お近づきの印に芸を一つ……」

 

 

 

 クッキーを仕上げて、校門前で集合する勇者部+α。友奈と美森とも顔合わせをした樹が手厚く歓迎されている。そんな妹を満足げに見つめている風の隣から、陸人が声を抑えて話しかける。

 

 

「樹ちゃん、可愛い子ですね」

 

「当然、世界一可愛い自慢の妹よ」

 

「ただ、少し警戒させてしまったみたいで。踏み込み過ぎたかもしません」

 

 申し訳なさそうに呟く陸人に、風は少し驚いた。樹はかなり気を使うタイプで、自分を出さない。どちらかといえば内向的な性格だ。隠していた機微を悟れるのは姉である自分くらいのものかと思っていたのだが。

 

「それとなく伺っておいてもらえます? ちょっとでもイヤだと感じたなら、次の機会は改めますから」

 

「そんなに気にしなくていいと思うわよ。樹は誰相手でも最初はああなるの。むしろ陸人にはかなり心開いてた方よ?」

 

「……ならいいんですが。仲良くなりたいという気持ちが前に出過ぎたかなと」

 

(なるほど、いつも人に囲まれてるワケだわ)

 

 アクティブに距離を詰めるタイプかと思えば、その実かなり細かく相手の様子を伺っている。丁寧に気を遣い、なおかつそれを相手に気づかせない。人にイヤな思いをさせないことを第一に。

 

 中学生にしては気味が悪いくらいに大人びている。相手によっては煙たがられるタイプだが。同級生がガキっぽく見えてしまう姉御肌の風にはちょうどいい距離感で接することができる気のいい後輩だ。

 

「自分で思っているほど、他の人はあんたを悪く思ってはいないはずよ。先輩を信じなさい」

 

 過去に人間関係で失敗したことがあったのか。気を遣わねばならない相手が近くにいたのか。それとも生来の質か。彼の記憶がない以上、それは誰にも分からない。

 いつか事故の前の陸人にも会ってみたい。風は背伸びをして、自分より背が高い後輩の頭にそっと手を添えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天体観測会が始まった……のは良いものの、ちょうど星が多く瞬く方向に分厚い雲。せっかくの望遠鏡も、これでは楽しさ半減だ。

 

「はいはーい、みんなー! お姉さんたちからクッキーのプレゼントだよー」

 

 こんな時のために用意していたお菓子で園児たちの気を引くことはできた。しかしこれは一時的なもの。このままではせっかくのイベントが中途半端で終わってしまう。

 風たち勇者部も考えるが、流石に天体観測に行くのに別のネタまで用意していない。ウンウン唸っていた風も……

 

(う……ダメだ、お腹減っちゃった。そういえばクッキーの準備でお昼もほとんど食べてなかったっけ)

 

 元々その体のどこに入るのかというほどに風は健啖家だ。日頃エネルギッシュな彼女には人一倍栄養が必要なのかもしれない。

 

「あ、風先輩。良かったらこれどうぞ」

 

「……え? クッキー?」

 

「こういう時のために、子供達に配るのとは別に用意しておいたんです。風先輩がお腹空き過ぎてみんなのクッキー奪おうとしたら大変ですから」

 

「……そこまで食い意地張っちゃいないわよ……でも、ありがと」

 

 ほとんど目の前で一緒に作業していたはずだ。なのにこのクッキーの包みにも余分を作っている様子にも覚えがない。抜け目のない陸人の気配りに、風は関心と感謝を同時に抱いた。

 

 

 

 

 

(ゴメン、友奈ちゃん。アンノウンだ)

 

「風先輩! りっくんちょっと忘れ物を取りに行くそうです!」

 

 なのに度々こうして不自然な行動を取る。こういう掴み所がないアンバランスさが風を悩ませている。もう数ヶ月の付き合いになるが、彼女はいまだに陸人とどう付き合うかのスタンスを決めあぐねていた。

 

(大社は警戒しろって副音声バリバリで干渉するなとか言うし……まったく困った後輩だわ)

 

 それでも風は、そんな陸人を含めた勇者部が、大好きで大切だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気配を辿って山道を下った先、更なるカラス型『コルウス・カルウス』とカラス型のリーダー格『コルウス・イントンスス』が空を舞っている。気配は感じるものの、闇夜に溶け込んだ黒の翼を捉えることができない。

 

「ぐあっ!――つぅ、こう暗いと……!」

 

 山道は街中ほど光源も多くない。上空からの奇襲、2体の絶え間ない連携に反応できない陸人が大きく跳ね飛ばされた。反転して再び接近するイントンスス。しかし、視覚で捉えられない程度では御咲陸人は倒せない。

 

「調子にのるなよ……そこだっ!」

 

 敢えて眼を閉じ、耳と気配を頼りにアンノウンの軌道を察知。真上に飛び込んできたタイミングで跳躍、オーバーヘッドキックでイントンススを地に叩き落とした。

 

「今回の狙いは風先輩か?……とにかく今は――変身っ‼︎」

 

 変身したアギトを見て、地上戦では勝てないと踏んだアンノウン達が再び飛翔、距離を取っていく。敵の数が多い現状、カウンター戦法は不利。手段を考えるアギトの視界で、月明かりに照らされたアンノウンの影が雲と重なって完全に消える。その光景を見て、アギトは1つ案を思いついた。みんなを守り、みんなを笑顔にする方法。

 

 子供達の笑顔のために、友奈や美森、樹たち友人のために、そして今日のために頑張ってきた尊敬する部長のために。アギトは初めて戦闘に無関係な私情を持ち込んだ。

 

(これだけ暗ければ、多少目立ってもなんとかなるだろ……!)

 

 ベルトの中央から光が発生し、左腕部を中心にアギトの姿が変化する。金でも赤でもない、風の力を宿した青の姿。

 

『ストームフォーム』

 

 スピードやジャンプ力に長けた俊敏形態。風のように速く、軽やかに、鋭く。ベルトから現出させた薙刀『ストームハルバード』を構える。

 

「来い、トルネイダー!」

 

 彼方から飛翔してきた愛機、マシントルネイダーに飛び乗る。スライダーを用いたアギトも飛行能力を得て、これで五分だ。ハルバードに風を纏わせ、アギトとアンノウンの鬼ごっこが始まった。

 

「吹き飛べ!」

 

 得物を振り回して竜巻を発生、前を飛ぶカラス型を追い立てていく。カルウスもイントンススも、紙一重で回避しながらより高く飛翔する……アギトの狙い通りに。

 

 アギトは絶妙に狙いを反らしながら敵の軌道を誘導していく。アンノウン達はそんなことに気付く余裕もなく、想定通りのルートに乗せられていく。やがて三者は雲に届くほどにまで高く上っていった。

 

「さて、ここからだな……!」

 

 アギトが両手でハルバードを回転させ、()()()()()()()()()()()()下降気流を発生させる。アンノウンごと低空に追い落とし、そのまま竜巻で追撃をかける。人為的な気流に押し流された雲は、やがて水滴を維持できなくなり、星空を覆う暗雲は消滅した。

 

(成功したか……! あとは奴らを)

 

 純粋な戦士であれば戦闘中にこんなことはしないだろう。しかし御咲陸人は笑顔を守るために戦う勇者だ。陸人に言わせれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()……ということになる。

 

「付き合わせて悪かったな……これで終わりだ‼︎」

 

 自分のテリトリーであるはずの空中で、満足に動けずもがいている2体に突撃、飛翔の勢いと旋風の力を乗せた斬撃『ストームブレイク』で、まとめて両断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ただいま戻りました――っと、盛り上がってますね?」

 

「あ、陸人! 遅いじゃない! なんかいきなり雲が晴れてね、用意した望遠鏡も大好評よ。やっぱり日頃の行いよね〜」

 

「へぇ、それは確かに……風先輩が頑張ったから、お天道様が雲を消してくれたのかもしれませんね」

 

「フフン、もっと褒めていいのよ?」

 

「おねえちゃん、スゴイよアレ!」

 

「ハイハイどした〜? マイシスター」

 

 妹や子供達の波に呑まれていく風を見送り、一息ついた陸人の右手を、友奈が確かめるようにそっと触れる。

 

「りっくん、あの雲、もしかして……?」

 

「んー、まあいいじゃない。運が良かったってことで」

 

「もう、りっくんはいつでもりっくんなんだから……ケガまでして」

 

 友奈が確かめるように優しく触れた手首には、アンノウンとの出会い頭に吹き飛ばされた際の傷が残っていた。

 

「よく見せて、りっくん。とりあえず水で洗って……」

 

「大したことないって、大丈夫だよ友奈ちゃん」

 

「傷をごまかそうとする人の『大丈夫』は信用できません!……ほら、転んだとか言っておけばごまかせるから、絆創膏貼るくらいはさせてよ」

 

「……ゴメン……」

 

「そんな言葉じゃ許してあげませーん」

 

「……ありがとう、友奈ちゃん」

 

「うん! 私の方こそ、いつも守ってくれてありがとう!」

 

 現状で陸人が戦っていることを知っているのは、彼の身近では友奈だけ。つまりこうしてお礼を言うことができるのは彼女1人だけなのだ。友奈はそれを分かっているから、感謝を言葉にすることを忘れない。それが友奈が思う仲間としての在り方だ。

 

「友奈ちゃん、リク、こっちに――どうかした?」

 

「――っ、な、なんでもないよ、東郷さん!」

 

「どうしたの? 何か星座とか見つけた?」

 

 手を繋いで微笑み合っていた2人は、共通の親友の声が聞こえた瞬間、弾かれたように距離を取った。美森はどこか慌てた雰囲気に首を傾げながらも追求はしなかった。割とよくあることだからだ。

 

「さっき流れ星が見えたって子がいて。今みんなで次の流れ星を探してるみたいよ」

 

「へぇ〜、流れ星……願い事言えるかな?」

 

「そういえば時期によってよく見える流星群があるって聞いたことあるね」

 

 友奈がシートを敷き、陸人が美森を抱き上げて、3人並んで地面に横たわる。視界いっぱいに広がる星空を目に焼き付け、誰からともなく手を繋ぎ合う。

 

 

 

「綺麗ね……」

 

「うん、すごい……」

 

「またやろうか、天体観測……」

 

 顔を天に向けたまま笑い合う少年少女。園児たちや初対面の樹も感じ取れるほどに、彼らの間には独特で不可侵な、暖かい雰囲気が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





前書きにも書きましたが、今回はストーム、フレイムフォームやG3の登場など、済ませておきたいイベントをまとめたため、風先輩の印象が薄いかもしれません。改めて謝罪します……

雲が消える理由について……不勉強な作者の付け焼き刃知識ですが……

雲ができている寒気は、気圧が高い低空に降りると圧縮される。
圧縮される=気体の内部エネルギーが増える=気温上昇。
気温が露点よりも高くなり、水滴が蒸発して雲が見えなくなる。

……確かこんなプロセスだったはず。これとか星のこととか、色々雑ですが、気になった方は「ああ、無知な作者なんだな」と優しく見守ってもらうか、指摘してくれるとありがたいです。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。