A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
余談ですが平成ジェネレーションForever観ました。
最高でした。自分は世代的に平成初期の作品を熱心に観ていた勢なんですが、最新の映像技術で生まれる新しいカッコよさや、過去の作品を知る人だから分かるネタなども多くあって大変楽しめました。
ライダー好きの方には劇場で観ていただきたい作品です。まだの方はぜひ!
――あなたが■■■■に頑張ってくれるのは嬉しいけど〜、私にも私の■■■■があるんよ〜。だから、■■■■■〜?――
――そういえば、あなたの■■■まだ聞いてなかったよ〜。私は■■■■、あなたは〜?――
――おっけ〜、■■さんにおまかせあれ〜――
幻想的で不可思議な空間で、激しく火花が散る中、場違いなくらいに優雅な少女は、ずっと笑っていた。思わず手を伸ばしてしまうような、儚く美しい笑顔を絶やさず、こちらを見つめていてくれた。
顔や声はボヤけているし、肝心の名前も思い出せる気配がない。それでも陸人は、度々夢に出てくる彼女のことを、寝ても覚めても忘れられずにいる。
(金髪の女の子……あの子はきっと――)
そうして夢から醒める。陸人にとっては珍しくもない、寝覚めが悪く、だけどどこか嬉しい1日の幕開けだ。
「ヤアッ!」
「っと、セイッ!」
道着を着て、その身をぶつけ合う少年と少女。畳に汗が滴り落ち、広い和室に声が響く。美森が見守る先で、友奈と陸人が組手を繰り広げていた。
「そこっ!」
「シッ――!」
陸人の突きは捌かれ、そのまま流れるように友奈の右足が伸び、陸人の頭部寸前で静止した。
「一本、だね……」
「負けちゃったかぁ、これで今日は俺の負け越しだね」
「お疲れ様、片付けたらぼた餅食べない? 今日は特に上手くできたの」
予定していた稽古を終え、体を休める2人。汗を流し、美森のぼた餅に手を伸ばす。料理……特に和菓子に関して、美森はプロ級と言ってもいい腕を持っている。
「うん! 美味しい、美味しいよ東郷さん!」
「ホントに、美森ちゃんのぼた餅が食べられるだけでその日は幸せになれるよね」
「フフ……2人は本当に美味しそうに食べてくれるから、私も嬉しいわ」
笑顔が笑顔を生む、和やかな時間が流れる。そんな空気の中、友奈は特に深く考えずに疑問を投げた。
「そういえばりっくん、今日はなんだか調子悪いみたいだったけど、何かあった?」
「ん?……分かっちゃうか、さすが友奈ちゃん。ま、大したことじゃないんだけどさ――」
あくまで雑談程度の軽い気持ちで、陸人は夢のことを話した。頻繁に夢で見る女の子がいる。記憶に引っかかるような感覚があって、多分会ったことがある。夢を見た日には、どうにも気になって会いたくなる。結果としてどこかボーッとしてしまうことがある。
「――とまあ、そんなわけで。ゴメンね友奈ちゃん。せっかく鍛錬付き合ってもらってるのに――ど、どうかした?」
こんなことを噛み砕いて説明し終えると、何やら眼が据わっている美森と友奈がいた。
「会いたい人……あのリクが⁉︎ どうしましょう、友奈ちゃん! 誰にでも優しくする割には特定の相手と懇意にはならないのに……1番身近な私たちにすら『会いたい』なんて執着見せたことなかったリクが……」
「どうしよう、東郷さん! 記憶のことが引っかかってる、ってだけじゃないよね。さっきの説明でも『綺麗だった』とか『守りたくなる笑顔』だとか言ってたし……」
小声で緊急会議を執り行う2人。出会ってから半年以上が経過したこの頃。異性への興味があるのかも怪しい陸人の口から飛び出た少女への賛辞や焦がれるような思いの数々が、それほど驚愕するものだったようだ。
「……? ただまあ、何処にいるのか、誰なのか、何も分からないからなぁ。俺の妄想だって言われても否定のしようがないくらい、ふわふわした存在なんだ。なのにこんなにも気になってしょうがない……どうしてなんだろ……」
「……記憶をなくす前に出会った相手なら、向こうはあなたを覚えているんじゃないかしら? もしかしたら近くにいる人かもしれないし、外を出歩いて記憶の手がかりを探すのはどう?」
「うん、いつも私たちに付き合ってくれてるけど、たまにはりっくんが行きたいところに行こうよ。私たちもりっくんの昔のこと、気になるし」
「美森ちゃん、友奈ちゃん……」
(目的が女の子っていうのは気になるけど、せっかくリクが記憶探しに前向きになってくれるなら……)
(その子のこともそうだし、色々はっきりさせたいこともあるもんね。アギトのこととか……)
仲のいい友人が自分たちの知らない女の子にご執心。少し面白くない状況だが、それを抜きにしても陸人の記憶が少しでも取り戻せるのなら。親友同士の彼女たちの思考は完全に同じ方向に向いていた。
「……というわけで、私たちは電車に乗って坂出市に来ていまーす!」
「友奈ちゃん、誰に言ってるの?」
なんとなく気になる、という陸人の感覚に従って、3人は珍しく少し遠出していた。電車を降り、目的地もなくフラフラと歩く。小腹が空いたら目に付いた店で軽く食事。青春真っ盛りの中学生にしては味気ない休日の使い方だ。
「う〜ん、ピンと来るものはない、かな……2人とも、俺に付き合うことなかったんだよ? 特に美森ちゃんはあんまり家から離れるのも……」
「大丈夫よリク。あなたと友奈ちゃんがいてくれれば、私はミッドウェー海戦のど真ん中だって怖くないわ」
「そうなる前に無理やりにでも連れ戻すよ、絶対に」
「……みっどうぇー?」
「あー、高校あたりの歴史で習うんじゃないかな……分からなくても問題ないよ、友奈ちゃん」
「むむ、それは聞き捨てならないわ、リク。日本国民の1人として、これくらいの――」
「はいはい、友奈ちゃんが勉強苦手なの知ってるでしょ? 日本国民にもそれぞれ向き不向きがあるんだよ」
「……うぅ……勉強頑張ります……」
特に中身のない会話を繰り広げながら、なんとなくで歩く3人。無軌道に進みながらも、陸人はちゃんと方向を把握していたし、最悪地図アプリもある。逸れて迷子になりそうな友奈にだけ注意しながら足を動かしていると、視界の奥に奇妙な影が映った。
「アレは……」
「橋かしら? ずいぶん奇怪な形になってるわね」
「あ、瀬戸大橋だね。前に何かの事故が起きて壊れちゃったんだって」
自然的であれ人為的であれ、どうすればこうなるのかと言いたくなるほどに、その橋は橋の体をなしていなかった。道路は半ばから断絶し、上方に円を描くように反り立っている。過激なジェットコースターのレールと言われても信じてしまいそうなほどだ。
「友奈ちゃん、その事故っていつ頃起きたか分かる?」
「えーっと……確か去年の秋頃だったかな? あんなことになっちゃったからね、結構大ニュースだったんだよ」
(俺や美森ちゃんの記憶が途切れたのと、ほぼ同時期ってことか……)
考え過ぎかもしれない。しかし陸人に宿るアギトの力。頻発するアンノウンの襲撃。明らかに何かを知っている大社。
そして極めつけに、ここに来てから感じる不思議な懐かしさ。街並みにはまるで見覚えがないのに、この辺りに流れる空気の感触がどこか引っかかる。その感覚に従って歩くうちに辿り着いたのが
「瀬戸、大橋……」
「美森ちゃん?」
「東郷さん、何か思い出したの?」
「……いえ、ごめんなさい。なんでもないわ……あんな形の橋、初めて見たから驚いただけ」
「そっか、やっぱりすごいよね。私も最初に見た時はビックリしたよ」
(やっぱり、俺と美森ちゃんの記憶は……以前の俺たちは、無関係じゃないみたいだな)
そう考えれば、大社の行動の早さや東郷夫婦の物分かりの良さにも納得できる――と、そこまで考えて陸人は思考を中断した。
最早家族と言ってもいい間柄の2人を疑ってしまうような思考は避けたい。そして何より、このままでは美森の不安まで煽ってしまう。陸人にとって、美森の心の安寧は自分の記憶よりも優先される。
やはり記憶探しなどするべきじゃなかった、と探索を切り上げて帰ろうと口を開き……
突如突風が吹き、それに乗ってきた香りに頭の中のナニかを刺激された。周囲を見渡しても美森と友奈以外人はいない。当然彼女たちの匂いではない。
「今、誰かいなかった? 俺たちくらいの、女の子……」
「え? 私は誰も……東郷さんは?」
「いえ、近くに人はいないけど……」
陸人だけが感じた気配。しかし決して錯覚などではない。もう一度意識を周囲に向けてみると今度は別の、お呼びではない気配を察知してしまった。
(……アンノウンだ、友奈ちゃん)
(分かった、任せて!)
指を2回鳴らす陸人と、それを見て胸に手を置く友奈。2人だけで会話ができない時のために考えたハンドシグナルのような合図。滞りなく意思疎通ができた陸人は、適当な言葉を残してその場を離れる。
「ごめん、財布落としてきたみたいだ。探してくるから先に帰ってて!」
「えっ? ちょっとリク!」
(この言い訳繰り返してると、財布の管理もできないマヌケと思われそうで嫌だな……)
嘘が極端に苦手な自分に苦笑しながら、陸人が走る。しばらくすると、こちらに近づいてきていたはずのアンノウンが方向転換、陸人からも美森達からも微妙に逸れた方角に動き始めた。
(何だ、さっきまで美森ちゃん達目当ての動きだったのに。俺から逃げているにしては方向がおかしいし……まさか、標的を変えたのか⁉︎)
――だい、じょぶだよ〜……私は■■ない。そういうふうになってるんだ――
先ほど感じた気配が強くなり、それと同時に夢で見た光景がフラッシュバックする。近くにその誰かがいるのか……もしかしたら、アンノウンが狙いを変えたのもそれが理由かもしれない。
――今度こそ……■■■ええええええっ‼︎――
(何で、こんなに苦しいんだ……この香りだけで胸が痛む……!)
その嘆きの記憶は、陸人の魂そのものに爪を立てるように鋭く響いていた。
斧と盾を装備した、サソリ型のアンノウン『レイウルス・アクティア』はゆっくりと標的を追い詰めている。眼前には金髪の少女。足が不自由なのか、うまく走ることができずに逃げられない。
(どうしよ〜。黙って抜け出したから端末はないし、フラフラしてるうちにミノさんともはぐれちゃったし〜……)
病床から抜け出したような白く薄い浴衣に、高級感あふれる淡い睡蓮柄の羽織。それらと雰囲気の異なるつば広帽子で顔を隠した少女。帽子の奥の表情は、分かりにくいがかなり焦っていた。
アクティアが斧を振り上げる……
「まずっ……!」
「させるかぁ!」
……と同時に、脇道から飛び出してきた人影がアクティアに飛びついて押し倒す。その影は、ずっと焦がれていた少年の後ろ姿と一致して、少女は泣きそうになった。
「大丈夫か? 急いでここから――え?」
「……あ……」
少女より背が高い陸人からは、彼女の顔はつばに隠れて見えないが、対面した陸人は妙な既視感にとらわれて動きを止めた。少女の方も心の動きに体がついてきていない。
そんな隙だらけの2人に向けて、サソリの毒針が飛んできた。
「危ないっ!」
「ひゃあぁ〜!」
少女を押してギリギリ回避した陸人。とにかく今は敵を倒すことが先決。
「――変身‼︎――え?……これは……」
アギトに変身して、座り込んだ少女の手を取ると……
――あなたが私のために頑張ってくれるのは嬉しいけど〜、私にも私の戦う理由があるんよ〜。だから、一緒にやろ〜?――
――だい、じょぶだよ〜……私は死なない。そういうふうになってるんだ――
――今度こそ……出てけええええええっ‼︎――
繋いだ手から何かが流れ込んでくる。それは陸人の記憶を強く揺さぶり、夢の中ではくぐもってちゃんと聞こえなかった少女の声がはっきりと頭に響く。
もう少しで少女の名前が聞こえる、というところで頭痛に耐えきれずにアギトが膝をつく。
「君だったのか?……夢で苦しんでいた女の子……」
「……え……?」
「君は、いったい……ガッ⁉︎」
呆けていたアギトにアクティアの武器が直撃。これまでにない武闘派のアンノウンの猛攻に、混乱している今のアギトはついていけない。
(クソッ、こいつ強い、オマケに硬い……!)
アギトの攻撃は全て盾で防がれ、一方的に攻撃を喰らい続ける。頭部に渾身の斬撃を受け、とうとう倒れ込んでしまう。
「!……あ……ぅ……」
再び少女に迫るアクティア。隙だらけのアギトよりも優先するほどに、彼女の資質を危険視しているらしい。
高く掲げ、投擲された斧は少女に向かい――
「グッ!……ホントに強いな……」
「……ぁ……」
少女の前に立ちふさがったアギトがその身を盾にして少女を庇う。膝をつきながらも、その背に少女を庇いながら優しく声をかける。
「君に聞きたいことはたくさんあるし、頭の中グチャグチャだけど……」
「……うん……」
「今は逃げてくれ。足が悪いならゆっくりでいい。誰かと会ったら声をかけて、一緒に逃げるんだ……アイツは、どうにか引き剥がすから!」
崩れた膝に力を込め、アギトが走る。とにかく乱打し、盾の上から強引にアクティアを退かせていく。
「シッ! ハァッ、ズアァァッ‼︎」
徐々に押し込んでいき、戦場は川に架かる橋の上に移る。
「これなら……どうだ!」
十分距離を取れたことを確信したアギトが、必殺技の構えを取る。角を開き、エネルギーを込めて跳ぶ。『ライダーキック』がアクティアの盾に直撃し…………あっけなく跳ね返された。
(これもダメか……本格的にまずいな)
陸人の精神状態は最悪に近い。その状況でこれまでにない強敵の登場。冷静さを欠いたアギトに、アクティアの追撃が続く。
(あの声……あの髪……あの雰囲気……)
斧で滅多打ちにされ、脱力して橋の欄干にもたれかかるアギト。絶体絶命のピンチでも、あの影が頭から離れてくれない。
――りくちー‼︎――
「!……その呼び方……」
アクティア渾身の一撃を喰らったアギトが、橋から落ちていく。火花を散らし、変身も解かれてしまった。重力に抗う術もなく、川の中へと沈む陸人。
落ちた瞬間、とっさに何かを掴んだ手の中を見る。そこにはなぜか懐かしい花が、その花弁を広げていた。
(……そうか、あの香り……睡蓮の――)
そこまで考えて、陸人の視界から光が途絶えた。
伝統芸能の水落ちです。アギトやファイズ辺りは多かった気がしますね。
……そういえば、睡蓮って川で咲くものなんですかね?(無知)
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに