A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
今回あとがきに補足コーナーを追加してみました。よければ覗いてみてください。
一夜を越して翌日。陸人からはなんの音沙汰もなく、美森は不安で押しつぶされそうになっていた。
「東郷さん、昨日は……」
「ええ、リクは帰ってきてないし、連絡もないの。ウチの両親はお休みだし、友達の家で遊んだりしてるんだろうって言うけど……あの子が無断外泊なんて考えられないし、何度かけても返事がないの。友奈ちゃん、私はどうしたら……」
「お、落ち着いて東郷さん。まずは私達で昨日行った場所を探してみるのはどうかな? りっくんを見た人がいるかもしれないし……」
「……そう、そうね。落ち着いて、できることをやりましょう……となると、まずは坂出ね」
なんとか美森に前を向かせることはできたが、見つからなければいずれまた彼女は泣く。それを止められるのは、御咲陸人ただ1人。
(りっくんが連絡をくれないなんて今までなかった……今、どこにいるの? 大丈夫なの?)
美森の手前平常心を装ってはいるが、友奈も相当参っていた。彼女は唯一知っているのだから。陸人がいつ死ぬかも分からない戦いに身を投じていることを。
――ゴメンね、ホントは遠目で2人を見るだけのつもりだったの――
――アンノウンに見つかって、りくちーまで来ちゃって――
――本当にごめんなさい、私のせいで集中できなかったんだよね――
――こんなこと頼むのは厚かましいけれど……お願い、わっしーを守ってあげて――
「知らない天井……ていうか、なんだここ?……廃工場?」
陸人が目を覚ましたのは、人の気配がない廃工場の中。廃棄されてからそれなりの年数が経っているようだ。いい環境とは言えないが、雨風をしのげるだけ有難い。誰かがここまで運んでくれたのは間違いない。
(この羽織……あの子の?)
見覚えがある睡蓮の羽織が身体にかけられていた。どうやら、あの後自分を引き上げて人目がないところまで運んでくれたらしい。しかし何か運動障害を抱えているようだった彼女に、水を吸って重くなった男子を運べるものだろうか。
(誰か連れがいたのか……アギトを見たときの反応といい、なぜか濡れた形跡がない服と体といい、ただの女の子じゃないのは確定だな)
顔くらいは見ておくべきだった、と後悔したところで、異形の怪物が付近で活動しているのを感覚で捉えた。
(近い……さっきの奴か。いや、そもそもどれくらい寝てた?)
水没したはずなのになんの問題も起きていない端末を確認すると、すでに日を跨いでいる。そして鬼のように着信が溜まっている。相手はもちろん美森だ。
(やっちゃったな……どう言い訳したもんか)
家に帰ったときを想像して身震いする陸人。『美森を泣かせない』ことを最優先してきた彼としては痛恨の失敗だ。そのまま履歴をチェックすると、友奈からも何件かメッセージが来ていた。美森からの連絡は恐怖を感じてしまい、とりあえず友奈のものから確認してみる。
"りっくん、今どこにいますか? 忙しいようなら着信だけでもいいので反応待ってます"
"アンノウンのこと、どうなった? 私にできることはなんでも手伝うから、連絡ください"
"もしも記憶のことで何か悩んでるなら、なんでも話してほしいな。私にはりっくんの気持ちを分かってあげられないかもしれないけど、どんな過去があっても、私にとってりっくんはりっくんだから。あなたの居場所はここにあるから、ちゃんと帰ってきてね"
(……さすが友奈ちゃん、よく見てるな)
記憶を取り戻した時、今のままでいられるか。陸人が記憶探しに消極的な理由の1つはその恐怖があったからだ。友奈はそれを正しく見抜いていた。
陸人が秘密を共有するほどに彼女を信じる理由は、その優しさと人の機微を悟る眼にある。
"私のせいで集中できなかったんだよね"
"お願い、わっしーを守ってあげて"
眠っていた時に薄く聞こえた声。あの子の声はやはり泣いていた。陸人がヘマさえしなければ、彼女が自身を責めることもなかったはずだ。
(そうだな……記憶探しなんかに気を取られてたから不覚を取ったんだ。今、目の前にあるものを守ることに全力を尽くす。それが俺の、アギトの戦いだ……!)
"わっしー"なる人物が誰かは知らないが、助けが必要な人がいるなら手を伸ばす。訳の分からない状況にあるのだから、行動指針はシンプルなくらいがちょうどいい。
(……次会った時には、返さなくちゃな)
少し逡巡して、女物の羽織を身に纏い、陸人は廃工場を飛び出した。
人通りが少ない路地裏や空き地までくまなく探し歩いてはみたものの、やはり陸人は見つからない。友奈も美森も、精神面も含めて疲労していた。
「リクらしき人を見たという話すらない。いったいどこに……」
「ちょっと休憩しよっか? 私達が参ってちゃ――」
休めそうなところを探して周囲を見渡した友奈が、背後に気配なく忍び寄る影を見つける。武器を構えた異形――アクティアが、数秒で詰められる距離に佇んでいた。
「――っ‼︎」
悲鳴は声にならず、美森の車椅子に伸ばした手が届くよりも一瞬早く――
天翔ける騎馬が異形に激突し、そのまま彼方へと運んでいった。
(アレは……!)
その上に乗っていた少年は去り際に左手を伸ばし、見えるように指を2回鳴らした。それは友奈だけに通じる『ここは任せる』のサイン。
(りっくん……良かった)
「今、何か音がしなかった?」
「……へっ? い、いやー、私はなんにも……」
陸人の無事は確認できた。後は自分の役目を果たすだけ。友奈は美森に勘付かれないように表情を作りながら、心の底から安堵していた。
2人から遠く離れた河岸にアクティアを落として、陸人も着地する。強敵なのは確かだが、今の陸人は絶好調だ。やるべきことを見据え、目の前の敵を捉える。それさえできれば、陸人は最高の勇者になれる。
「アギト……邪魔ヲ……!」
「昨日は世話になったな……だが、今度は同じようにはいかないぜ?――変身‼︎――」
光と共に降臨したアギト・グランドフォーム。一度勝利した相手を嘲笑うように首を鳴らし、アクティアが突撃する。
「遅いっ!」
大振りの斧を躱し、鳩尾にカウンター。まるで子供と大人のように、敵の体があっさりと吹き飛ばされた。
「昨日とは違うって言っただろ?……人間を、ナメるなよ!」
大社本部の最奥、病室のような社のような一室。1人の少女が祈るように両手を組んでいた。
(……もしもこの声が聞こえるなら、がんばって……あなたが守りたいもののために。そしてあなた自身のために……)
祈りを終えた少女が視線を横に向け、深い深い眠りに落ちている少年を見つめる。
「しののんも、聞こえてたら応援してあげて……あなたの……あれ? この場合、先輩になるのかな? それとも後輩?」
どこかズレた疑問を抱きながら、少女は少年の頭を優しく撫でた。
「俺はやる……! みんなの笑顔を守る……そのために今は、まずお前が邪魔だ!」
暖かい何かに背中を押され、アギトの勢いがさらに増す。盾の上から攻撃を重ね、アクティアの体力を削っていく。疲労を隠しきれないサソリ型の受けは精彩を欠き、少しずつ防げない打撃が増えてきた。
「どれだけ上等な武器を持っていようが、俺は絶対に負けない!」
回し蹴りでアクティアを吹き飛ばし、間合いを開く。角を開いてライダーキックの構え。一度破った自信からか、敵は盾を構えて仁王立ち。
「スゥ――……ダアァァッ‼︎」
アギトの蹴りとアクティアの盾が、真正面からぶつかり合う。これまで蓄積してきたダメージと合わせて、盾にヒビが広がっていく。
「チィッ――嘗メルナァッ!」
「!」
しかし敵もさる者、盾が破壊された瞬間、身をかがめてアギトの下に潜り込む。そのまま隙だらけの脇腹に斧を叩き込み、大きく跳ね上げる。
まさに紙一重の攻防。それに勝利したアクティアは思わず気を抜いて見逃した。これもアギトの計算のうちであることを。
空中で姿勢を整え、拳を構えて落下。キックの余剰エネルギーを今度は右腕に収束する。
『ライダーパンチ』大地の力を込めた拳を、真上から叩き込む。
「オオリャアアアアッ‼︎」
アギトの拳はとっさに向けられた斧を砕き、そのままアクティアの胸部を破壊、その体を地面に叩きつけた。必殺技の二段構えには耐えきれずに爆散、消滅した。
「……ふぅ、手こずった……同じアンノウンっていっても強さは色々なんだな」
状況が悪かったとはいえ、一度遅れを取り、美森たちに心配させてしまった。今後は一層気を引き締める必要があるだろう。
自己反省しながら歩く陸人は、そこで初めて上着のポケットに紙片が入っていることに気づく。取り出してみると、上品で女の子らしさが漂うメモ用紙が畳まれていた。
――"満開"には注意して――
(……なんだこれ? 満開、って……花粉症に気をつけろ、とかそういう話じゃないよな?)
専門用語かもしれないが、陸人にはさっぱり分からない。面白くもない冗談しか思いつかない以上、今考えても仕方ないことなのだろう。
――助けてくれて、ありがとう。私のヒーローさんへ――
何気なく裏を見てみると、表のきっちりした字体とは違う、女子らしい丸い文字でお礼の言葉が書いてあった。結局分からないことが増えただけだったが、それでも陸人はどこか嬉しかった。
(とりあえず、満開って言葉は覚えておくべきか。また会えるといいんだけど)
いつか記憶が戻った時、この疑問も解き明かされるのかもしれない。だとしても、とりあえず今は――
(わざわざ探しにきてくれたみたいだし、早く顔を見せないとな……)
最後の一撃がまだ響いているが、特技のやせ我慢で笑顔を作り、陸人は友の元へと走り出す。
いつかまた会えるという期待の証……睡蓮の羽織をたなびかせて。
「さっき連絡あって、アギトが昨日のアンノウンを撃破。御咲陸人は須美たちのところに無事戻ったってさ」
「よかった〜……今回は私のワガママでみんなに迷惑かけちゃったけど、とりあえず解決か〜」
「まあ目を離した一瞬でアンノウンに絡まれてた時は焦ったけどな。アタシは別に気にしてないよ。遠くからだけど、須美の顔も久々に見れたしな」
「ありがと〜……でももう抜け出すのは無理かもね〜。脱走の前科ついちゃったし〜」
ボロボロの体を押して抜け出したことで大社の警戒度は跳ね上がった。側付きの変更という話まで出たが、少女の怒りの一言で即座に取り消された。
「結局すぐに仮面連中に見つかっちゃったし、トラブった割には成果は微妙だったな……」
「うん……もうちょっと具体的な伝言ができれば良かったんだけど……アギトと直接接触しちゃったらそりゃ見つかるよね〜」
スキを見て残せたのは簡単なメモ1枚。苦労に見合っているとは言えない結果だ。しかし園子にとってはそれ以上に大きな収穫があった。
(でも、りくちーは理屈とは違うところで私を感じてくれた……心のどこかでずっと私のことを覚えててくれたんだ……)
ここに来てからは珍しくなった、心からの笑顔。小さく微笑む主人を見て嬉しくなった側付きの少女がからかうように抱きつく。
「で? あれがお気に入りの騎士様か。確かにいい奴オーラ全開だったな。抱えた時の感触は、なかなか鍛えてるみたいだったし」
「もう、そんなんじゃないよ〜。助けてくれたお礼がしたいだけだってば〜」
「照れるな照れるな、そういう反応は新鮮だなぁ」
一瞬だけ立場を忘れてじゃれ合う2人。久しぶりに等身大の友人同士に戻れた貴重な時間だ。
「とりあえず、アイツが須美の近くにいてくれれば安心できるな、園子」
「そだね〜、ミノさん。いつか来る戦いまでに、私たちもできることをやらなくちゃ……しののんのためにも……」
一度失ったからこそ、もう何も失わないために。彼女たちの戦いは、終わっていない。
ファイズのクロコダイル戦、クリムゾンスマッシュ→グランインパクトの流れが大好きな作者です。(私の拙い表現力でアレを思い出せる人がいるかな……?)
――補足――
感想欄などから分かりにくかったかもしれない部分について説明します。
G3がアンノウンを倒せた理由――
装着者や技術面にも差異はありますが、一番の違いは経緯と前提条件です。原作では未確認生命体の再来に備えて作られたのがG3で、それ以上の力を持つアンノウンに度々遅れをとりました。
しかし今作では、大元の大社が設計前からアンノウンやそれ以上の規模のバーテックスの存在を認識している状況でした。アンノウンを倒すための武器が、アンノウンを倒せない性能でロールアウトすることはありえません。
原作でも実戦を重ねて調整することでG3単独でアンノウンを倒した例もあります。今作ではスタート地点がそのレベルだったと思ってもらえれば良いかと思います。
その他細かい部分はかなり先で描けたら描くかもしれません。
陸人くんの記憶について――
転生前の記憶は物理的ではない手順で頭から抜けていったもの。東郷さんの散華に近い、忘れたというよりも失った記憶です。
園子ちゃんや東郷さんとの記憶は、脳が混濁した状態で刻まれた記憶であったために整理する過程で引き出せなくなったもの、忘れてしまった記憶です。なので夢のような形で思い起こせることもある。
東郷さんのアギトの記憶も同様です。散華直後の記憶だからうっすら残っていたということになります。
以上、こんなまとまりのない説明読まなくても分かる方、細かいことまで理解せずとも良い方もいるかもしれませんが、少しでも今作を読みやすく感じていただけたらと思いこんなコーナーを設けさせてもらいました。本文でできたらいいんですが、くどくなりそうで……
また理解しにくい設定等が出てきたと感じたら勝手にやるかもしれませんし、質問してもらえれば答えられることには頑張って答えるつもりです。よろしくお願いします。
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに