A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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いよいよ原作時間に突入です。ここからはどんな風に原作と差別化すればいいか、悩みながら描いています。ゆるーい目で楽しんでください。




結城友奈は勇者になる

「それでは、本日の保育園演劇興行の成功を祝して……」

 

『かんぱ〜い!』

 

 部長の音頭に合わせて5人の湯呑がぶつかり、音を鳴らす。勇者部行きつけのうどん屋『かめや』で恒例の打ち上げが始まった。

 

 これまた恒例の保育園訪問、今日は新たな演目にチャレンジした。いくつかのトラブルに見舞われたものの、最終的には上手くまとまり、園児たちの笑顔も引き出すことができた。

 

「今日はごめんなさい! 私、張り切りすぎちゃって……」

 

「いやー、友奈がセットを倒した時は焦ったけど、なんとかなるもんね!」

 

「うん。東郷先輩のアドリブのおかげです」

 

「咄嗟だったから強引なところもあったけど、みんながノッてくれて助かったわ。やはりあの子達にも大和の血が流れていると改めて実感したわね……」

 

「今の話の流れでそこに着地するんだね、美森ちゃん……」

 

「でも、本当にごめんね。特にりっくんは、あんなに頑張って作ってくれたセット、壊しちゃって……」

 

「まあまあ、今日だけ使えれば良かったんだし、気にしないでよ。倒れないように補強しなかった俺にも落ち度はあるしね」

 

 みんなにケガがなくて良かった、と笑って麺を掻き込む陸人。

 反省すべきところは反省して、それをズルズル引きずらない。それもまた大切なことだ。大好きなうどんをすすり、ちょっと落ち込んでいた友奈の調子も戻ってきた。

 

 

 

 結城友奈

 東郷美森

 犬吠埼風

 犬吠埼樹

 御咲陸人

 

 彼らは『讃州中学勇者部』

 人のためになることを勇んでやる、勇者達が集まった部活だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーっ! 美味しかったぁ、もうお腹いっぱい」

 

「たくさん食べてたものね、友奈ちゃん」

 

「風先輩ほどじゃなかったけどね。夕飯大丈夫なの?」

 

「う……ご飯の前にちょっと運動しようかな」

 

 帰路に着く3人。同じ家に住む陸人と美森、家が隣の友奈は、いつも一緒に帰っている。美森の車椅子を友奈が押す日もあれば、陸人がハンドルを握ることもある。逆にこの2人以外に美森が車椅子を預けることは滅多にない。たまに両親が後ろに着くくらいだろうか。

 美森はそれくらいに2人を信頼していたし、人懐こく友達が多い友奈も、この2人は自覚的に特別扱いしている。

 迷子の幼児から足が悪いお年寄りまで、困っている人には例外なく手を伸ばす陸人にしても、特別な相手はいる。1番過保護にしているのは間違いなく美森で、逆に1番頼りにしているのは明らかに友奈だ。

 

 出会ってから1年半ほど。3人には言葉にせずとも伝わる特別な空気感があった。だから陸人も友奈も分かっている。美森が2人の秘密を疑っていることも、誤魔化せる限界が来ていることも。

 

「それで、リクは昨日急にどうしたの? 友奈ちゃんが言うには財布を忘れたって話だけれど……あれは嘘よね?」

 

「えっ……いや、嘘なんて」

 

「だって私、あの日ずっとリクのこと見てたもの。飛び出した時点で財布はポーチに間違いなく入っていたわ」

 

「えーっと、その……」

 

 陸人はやせ我慢は得意だが、嘘をつく才能がない。友奈も人を騙すということに致命的に向いていない。結果2人は危ういと分かっていながらも『財布を忘れた(or落とした)』という言い訳をこれでもかと使い続けた。

 今まで突っ込んでこなかったのは、美森が2人の人柄を信頼していたからだ。悪いことなどしないという信頼の上で成り立っていたある意味白々しい関係。

 

 そんな美森も我慢がきかなくなってきた。最近の陸人に危うさを感じたからだ。連絡が取れなくなることも稀に起こり、先日の外泊の詳細も未だに聞けていない。曖昧に済ませるにも無理が出てきたのだ。

 

(……りっくん……)

(自己満足もここまで、かな……)

 

 陸人にとって、どんな無理を押してでも守りたかった『東郷美森の平穏』

 そのためなら慣れない隠し事も続けてきたし、どれだけ辛くても彼女の前では笑顔を維持してきた。

 

 しかしそんな意地が今彼女から笑顔を奪っている。ここまで来たら教えた方が美森の気持ちが楽になるだろう。諦めて全てを話そうと口を開き――

 

「……!」

「うひゃっ⁉︎ なになに〜?」

「……樹海化、警報……?」

 

 各々の端末から突如響く警報音。見覚えのない画面が表示され、どう操作しても音が切れなくなっている。そして同時に起こった異変がもう1つ。

 

「人が動いてない……いや、人だけじゃないな」

 

「風も景色も……これはいったい……」

 

「これじゃまるで、世界が停まってる?」

 

 目の前で発生する異常現象に目を丸くする3人。陸人はアンノウンの線を疑ったが、これほどの規模の特殊能力を持った個体を察知できないとは考えにくい。

 もっと大きな何か、世界そのものに干渉できる存在が動いている。そして何故か、陸人たちはそれの関係者となってしまったらしい。

 

「……何か来る。2人とも、俺から離れないで」

 

「何かって、いったい何が……」

 

「りっくん、もしかして……?」

 

「無関係ではないだろうけど、多分別口だな……そうか、これが……」

 

 かつて国土志雄が言っていた本当の戦い。時期から見てもそれが始まったと見ていいだろう。

 彼方から迫り来る光に呑まれながら、陸人は2人の手を強く握りしめる。大切な者を、何があっても守り抜くために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(眩い光を抜けると雪国であった、とかなら良かったんだがな……)

 

 気付いた時には幻想的な空間の真っ只中に佇んでいた。空の色も漂う香りも普通じゃない、森のような異質な空間。見慣れた街並みは何処にもなく、陸人たちは訳も分からず歩くしかなかった。

 

(……何があるか分からない。美森ちゃんの前だけど、変身する心持ちでいないと――!)

 

 近づいてくる足音に気付いて、2人の前に出て構える陸人。近づいてきた影を視認して警戒を解く。足音は2人分、同じ勇者部員だった。

 

「良かった、全員無事ね! みんなスマホ持ってて助かったわ」

 

「み、みなさん……やっと会えたぁ」

 

「風先輩、樹ちゃん!」

 

 仲間と合流できた安堵から、2人に抱きつく友奈。美森も張り詰めていた気を緩め、肩の力が抜けている。しかし冷静さを維持できていた陸人は、安堵より先に疑問が湧いていた。

 

(スマホ持ってて助かった……風先輩は何か知ってるってことか?)

 

 ひとしきり再会を喜んだ後、風は知る限りの事情を説明した。

 それは神世紀に蘇る人と神の争い。限られた者のみが知る、最新の神話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり、話を整理すると……」

 

「お姉ちゃんは大社に所属していて、私達には特別な素養がある……」

 

「神樹様を脅かす危険に立ち向かう『勇者』として、私達が選ばれて……」

 

「ここは『樹海』っていう神樹様の結界で、勇者はここで戦う……」

 

「……向こうを飛んでるデッカいのが戦う相手の『バーテックス』で、アレを倒さなきゃいけない、と……」

 

 あまりの情報量に頭を抱える一同。冗談のような話だが、すでに冗談のような光景を見ている以上笑い飛ばすこともできない。

 

「要点だけまとめるとそういうことね……理解できないのは分かるし、今すぐ戦ってくれとは言わないわ。アイツはあたしがなんとかするから、樹のことを――」

 

「ま、待ってお姉ちゃん! 1人じゃ危ないよ……」

 

「樹……」

 

 手を震わせながらも姉をまっすぐ見つめる樹。彼女は普段から弱腰ではあるが、心そのものは年齢不相応に強い。

 

「ついていくよ、何があっても……!」

 

「……分かったわ……樹、続いて!」

 

「うん!」

 

 覚悟と共にアプリを起動する姉妹。メッセージアプリに仕込まれた真の機能、勇者システム。使用者の心に従って、神樹の力をその身に宿す人類の切り札。

 

 黄色の装束を纏い、大剣を担ぐオキザリスの勇者、犬吠埼風。

 

 緑色の装束を纏い、ワイヤーを使う鳴子百合の勇者、犬吠埼樹。

 

 神樹を守る勇者が2人、樹海の地に降り立った。

 

 

 

 

 

「それじゃ陸人……あんたは2人をお願い」

 

「その前に1つ……近くにアンノウンもいるみたいです。それは俺が対処すればいいですか?」

 

「……アンノウン? ごめん、なんの話?」

 

「……え……?」

 

 大社の人間だという風は、当然自分やアンノウンのことも把握していると思い込んでいた陸人。一瞬呆然とした直後、自分の勘違いに気づいた。

 

(アギトのことを知らされてない、どころかアンノウンも知らない……となると、俺がやるのが1番だな)

 

「ちょっと待ってください。俺にも秘密があるんですよ……とっておきが1つね」

 

 嘘と我慢でやり過ごせる段階は超えてしまった。こうなれば、全力を尽くして速やかに障害を排除するしかない。1年以上守ってきた平穏を諦めて構えようとした右腕を、震える細腕が掴んで離さない。

 

「……美森ちゃん」

 

「リク……あなた、何をする気? こんなところで、何をしようとしているの?」

 

 普通に呼吸をするのも苦しげなほどに、美森は混乱していた。

 信頼していた先輩が大きすぎる秘密を抱えていたこと。

 知らぬ間に重い使命を背負わされていたこと。

 何も知らない(じぶんとおなじ)はずの家族が、冷静に事態を受け止めていること。

 さらに何かとんでもない秘密を明かそうとしていること。

 

 無意識のうちに陸人の袖口を掴み、彼の行動を止めようとしている。それは現実逃避の一種だ。現実味のない状況に放り込まれた今、1番近くにいると信じていた陸人まで遠くに行ってしまったら。見ないふりをしても現実は変わらないと分かっていても、美森は知りたくなかった。

 

 ずっと訝しんでいた陸人の秘密が、こんな遠い世界の事柄だったのだとしたら。

 それすら知らなかった東郷美森という少女は、彼にとっていったいなんだったのか――

 

 

 

「大丈夫、大丈夫だよ美森ちゃん」

 

 真っ青な顔で震えている美森を温めるように、陸人が自身の胸に彼女を抱き寄せる。馴染んだ匂いと暖かさに、少しだけ美森の呼吸が落ち着いていく。

 

「俺はずっと美森ちゃんに隠してたことがある。言えなかったのは単に心配をかけたくなかっただけなんだ。俺の自己満足に付き合わせて、本当にごめんね」

 

「……リ、ク……」

 

「落ち着いたらちゃんと話をしよう。今度こそ全部正直に話すから……だから、ちょっとだけ待っててくれ」

 

 宥めるように言葉を紡ぎ、ゆっくりと美森から離れる陸人。少し落ち着いてくれた彼女の涙を拭い、いつも通りに微笑みかける。

 

「友奈ちゃん、美森ちゃんをよろしくね」

 

「……うん、りっくんも気をつけてね」

 

 小さく頷いて構える陸人。ここがどこであろうと、アンノウンがいるならやることは1つだけ。

 

「――変身‼︎――」

 

 変貌したアギトを見て、美森は目を丸くして固まる。

 

(アレは……夢で見た……)

 

「……えっと、陸人? それはいったい……」

 

「風先輩と同じですよ。俺にもあったんです。特別な秘密が」

 

(どうしてリクが……どうして?)

 

 めまぐるしく動く状況に呑み込まれ、美森は完全に混乱しきっている。そんな彼女を心配そうに一瞥して、アギトと勇者2人は戦場に飛び立っていく。

 

「東郷さん」

 

「友奈ちゃん、私……」

 

「ごめんなさい、私は知ってたんだ。りっくんのこと」

 

「……え……」

 

 1番身近な2人が知っていて、自分だけがこんな大事を知らなかった。その事実がさらに美森の視野を狭めていく。

 

「落ち着いたら私も一緒に説明するから。今はりっくんを信じて……お願い、東郷さん」

 

「私は……」

 

 言葉に詰まった美森の視界に人影が飛び込んでくる。大きく跳ね飛ばされる金色の戦士の後ろ姿。アレは陸人が変身した姿ではなかったか。

 

「りっくん!」

「リク……!」

 

 目を覆う美森とハンドルを握る手を震わせる友奈。もどかしく複雑な思いをしているのは、美森だけではない。ハンドルが軋む音が、美森の耳に重く響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンノウン、見つけた……!」

 

「アレがアンノウン? バーテックスと比べて小さいわね」

 

「お互い知った相手を担当したほうがいいですね。あいつは俺が。済み次第そっちに行きますから、無理はしないでくださいね」

 

「世界の命運がかかってなければその言葉にも頷けたんだけどね〜、まあアテにさせてもらうわ。あんたも気をつけるのよ」

 

「樹ちゃんも、やばいと思ったら呼んでくれ。飛んでいくから」

 

「あ、ありがとうございます……でも、私もできるだけ頑張ります。足手纏いには、なりたくないんです……!」

 

「樹……ありがとう、一緒に頑張りましょう!」

 

「それじゃ、行きますか!」

 

 アギトはアンノウンに。風と樹はバーテックスに。それぞれが見知った敵を相手取る流れになった。アギトの敵はジャッカルに似た異形『スケロス・ファルクス』

 

(……! 速い!)

 

 速度を武器としたアンノウンの猛攻。重量がある大鎌を使っているにも関わらず、スピードで優位を取られている。無手のグランドフォームが拳を振るうよりもファルクスが2回鎌を振るう方が速いほどだ。

 

 "目にも留まらぬ"と表現できる速度に翻弄されたアギトが、ストームフォームに変身しようと構える。その一瞬の隙に、ファルクスは武器の真価を発揮して、無力な命に狙いを定める。

 

「動クナ……!」

「なっ! 友奈ちゃん、美森ちゃん!」

 

 鎌から真空の刃、いわゆるカマイタチを発生させ、遠く離れた友奈と美森に向けて放つファルクス。陰にしていた根を切断し、2人の足元スレスレに大きな傷ができる。

 

(コイツ、『隙を見せたら2人を殺す』って言ってるのか……ふざけたことを……!)

 

 狡猾な手段で詰め手を封殺されたアギト。こうなるとフォームチェンジもトルネイダーも使えない。グランドフォームでファルクスを倒すしかなくなってしまった。

 

「やっぱりお前たちは認められない、必ず倒す!」

 

「死ヌノハ貴様ノ方ダ、アギト……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発を捌くのに必死の風と樹。翻弄されて防戦一方のアギト。苦しむ仲間を見て、友奈は端末を強く握り、それでも一歩踏み出せずにいる。彼女の前には車椅子の美森がいる。彼女を置いて出ていくわけにはいかない。陸人とも約束したのだから。

 

「……友奈ちゃん、行って……」

 

「東郷さん?」

 

 悔しさを噛みしめる友奈の手を、美森がそっと握る。彼女の眼は迷いながらも強く友奈を見つめていた。彼女なら大丈夫、そう信じきっている眼だ。

 

「私は大丈夫。風先輩を、樹ちゃんを、リクを助けて……お願い」

 

 美森自身まだ心の整理がついていないのは明らかだ。それでも今優先すべきは仲間たちのこと。いつだって先陣を切って行動してきた友奈に、自分を含めたみんなの命を託す。心からの信頼がなければできないことだ。

 

「行ってきます、東郷さん。待っててね」

 

「ええ、行ってらっしゃい友奈ちゃん」

 

 美森の車椅子を根の陰深くに移動させ、友奈が駆けていく。真の勇気を宿した勇者が、光に包まれ姿を変える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「チィ……! こんのぉっ!」

 

 ファルクスを捉えることができず、切り刻まれるアギト。追い込まれた彼の耳に、聞き慣れた声が飛んでくる。

 

「勇者ぁぁぁぁ……!」

 

 その声に反応して同時に動きを止めたアギトとファルクス。信を置く仲間の声だと認識したアギトの方が一瞬早く動き出し、ファルクスを羽交い締めにして動きを止める。

 

「パァァァンチッ‼︎」

 

 無防備になったファルクスの胸部に、彼方から飛んできた桜色の拳が直撃する。敵の背に張り付いたアギトもろとも数メートル後退させるほどの衝撃。たった一撃でアンノウンの耐久限界を超えたダメージを与え、ファルクスが爆散、消滅した。

 

「友奈ちゃん、どうして……」

 

「りっくん、私も戦える……戦うよ」

 

 山桜の勇者、結城友奈。彼女の眼には一切の迷いがない。武術を活かせる籠手を備えた両腕を構えて宣言する。

 

「私、ずっと辛かった。りっくんを1人で戦わせることが……でも、これで私も一緒に戦える!」

 

「君は……」

 

「止めないで、りっくん。私の気持ちはあなたと一緒だから……誰かを傷つけないために、誰かが戦わなくちゃいけないのなら……私が頑張る!」

 

 2人の頭上から飛んで来たバーテックスの爆弾を拳で軽く打ち返す友奈。初めてとは思えないほど果敢な戦い方。これが勇者たる者の心意気とでも言うのだろうか。

 

「私は讃州中学勇者部、結城友奈!」

 

 誰かのために奮い立つ心――それが勇気。

 勇気を胸に立ち上がる者――それが勇者。

 

 

 

「私は……勇者になる‼︎」

 

 

 

 なればこそ、今この瞬間、結城友奈は紛れもなく勇者であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




原作1話と同じところでいい感じに切れました。さて、ここから数話は原作沿いにストーリーを消化していきます。必要があってやっていることですが、その中でどれだけオリジナリティを出せるか……頑張ります

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに


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