A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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本当はもっとギスギスした方がらしいと思うんですが、作者の力量不足で半端な形になっているかも……




犬吠埼風は頭を抱える

 アンノウンは撃破したものの、まだ戦いは終わらない。肝心のバーテックスを止めないことには世界の危機は継続中だ。

 

 乙女座の異形『ヴァルゴ・バーテックス』が、爆弾を撒き散らして進撃する。アレが神樹に到達すれば全てが終わる。今さっき話を聞いたばかりの友奈たちには実感が湧かないが、とにかく動きを止めなくてはならない。

 

「来い、トルネイダー!」

 

「うえぇっ⁉︎ ナニコレ⁉︎」

 

「俺の相棒だよ。友奈ちゃんも乗って、まずは接近しないと」

 

「そっか、あの時乗ってたやつ……よし、行こうりっくん!」

 

 空飛ぶバイクに目を丸くする友奈。基本的に接近しないことには勝負もできない2人には、爆撃を掻い潜る手段が必要だ。アギトにエスコートされて友奈も飛び乗り、バーテックスに接近する。

 何も手がかりがない吹きさらし、それもかなり荒く飛び回るという乗り心地最悪のマシンだが、友奈は持ち前の運動神経ですぐさま適応した。

 

「もう大丈夫だよ、りっくん……ありがとう」

 

「さすが、それじゃちょっと飛ばすよ!」

 

 掴まっていたアギトの肩から手を離した友奈。彼女を気遣っていたアギトも、彼女の眼を見て配慮は不要と判断する。最高速度でヴァルゴに接近するトルネイダー。敵も近づいてきた影に火力を集中させる。

 

「うわっ、ととっ……ひゃあ〜!」

 

「風先輩、樹ちゃん、爆弾はこっちで引き受ける!」

 

 悲鳴を上げながらもどこか余裕がある友奈と、的確に攻撃を見切って回避するアギト。間近を飛んでいく爆弾を掴み取って投げ返す頼もしい2人を見て、地上で苦戦していた風と樹の眼にも戦意が宿る。

 

「陸人……友奈も。よし、決めるわよ樹、ついてきて!」

 

「う、うん……行こう、お姉ちゃん!」

 

 空中のアギトたちに気を取られているヴァルゴの下に降り立った勇者2人。妹をリードしながら風は儀式を開始する。

 高い再生力を持つ神の使徒を倒すための『封印の儀』。これを行うことで、バーテックスの中枢にして急所でもある逆四角錐の物体『御霊』を露出させることができる。

 

「バーテックスの弱点よ! アレを壊せば倒せるの!」

 

「よーし、私が――――パーンチッ‼︎……っていったぁ〜!」

 

 御霊に突撃して拳を振り下ろす友奈。しかしその堅牢さは予想を超えており、仕掛けた側がダメージを負ってしまった。

 

(なるほど、弱点にはちゃんと防備してるってことか……見た目の割に賢しいやつだ)

 

 友奈でダメとなると一撃では壊せないということだろう。手をこまねいている間にも儀式の陣に表示されたカウントは減っていく。0になった時、封印は不可能になる。ぐずぐずしている余裕はない。

 

「友奈ちゃん、合わせてくれるか?」

 

「もちろんだよ、りっくん。私達ならやれる!」

 

 友達にして仲間。秘密を共有してきた関係である2人は、ごく僅かな言葉を交わすだけで意思の疎通ができる。トルネイダーの上で必殺技を構えるアギト。思い切り高く飛び上がる友奈。

 

「フゥ――……くらえぇぇっ‼︎」

 

 トルネイダーの加速を合わせた必殺キック『ライダーブレイク』が決まる。御霊の側面にアギトの足が突き刺さる……が、そこまでだ。技の勢いが殺され、御霊に食いついたまま停止する。

 

「ここだ、友奈ちゃん!」

 

 突き刺さった足を基点に力を込め、強引に御霊の向きを変えさせるアギト。傷を負った側面を上に向け、そこからさらに力づくで足を抜き取る。

 御霊から離れたアギトの影から飛来する勇者。友奈が先程よりも力を込めた拳を引きしぼる。

 

「今度こそ――勇者、パァァァンチッ‼︎」

 

 落下の勢いを込めた拳が、真上に向けられた傷に直撃する。表層を破られた御霊の中心にまで拳が通った。

 陸人が装甲を削り、友奈が決める。2人の連携により、ヴァルゴの中枢は砕け散り、バーテックス本体も霧散していく。

 

 その光を見届けると同時に、樹海全体も光に包まれて消えていく。勇者たちの視界が白に包まれ、やがて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここ、学校の屋上?」

 

「ええ、この辺で樹海に飛んだ時は、ここに戻ってくることになってるわ」

 

「ということは、戦闘終了ってことでいいんですよね?」

 

「そうね。私たちの勝利よ、お疲れ様……いきなりだったけどよくやってくれたわ」

 

「うう〜……おねえちゃーん……」

 

 ハイタッチを交わす友奈と陸人。抱きつく樹をあやす風。それぞれが勝利の余韻と安心感に包まれる中、1人だけ暗い表情で俯いている。唯一参戦できなかった美森だ。喜び合う仲間をしばし見守った彼女は、やがて徐に口を開く。

 

「それで、風先輩。説明してもらえるんですよね?」

 

「東郷……ええ、全部話すわ。だけど……」

 

 気遣わしげに陸人に目を向ける風。彼女自身もアギトのことは全く知らなかった。樹も友奈も、陸人と美森の顔を交互に見やって言葉に窮している。

 

「今日は解散にしましょうか……もう遅いですし、明日部室に集まりましょう。まずは風先輩の事情から話してもらえますか? 俺のことはその後自分で説明しますから」

 

 まっすぐに美森の顔を見て告げる陸人。戦ってでも守りたかったもの……偽りの平穏を捨てる覚悟はできたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を守るためにバーテックスと戦う選ばれた存在『勇者』

 人を襲うアンノウンと戦う謎の力『アギト』

 

 勇者に選ばれなければそのままなかったことにするつもりだった風。心配をかけないために普通を装い続けてきた陸人。

 それは2人なりの優しさであり、責任の取り方でもあった。それでも、美森のショックは大きい。

 彼女は元来精神が強い方ではない。美森の趣味趣向が逞しく雄々しいものに偏っているのも、無意識に頼もしい存在を求めている面もあるのかもしれない。

 

「……話せなかった理由は分かります。それでも、私は教えてほしかった……! 勇者のことも、アギトのことも!」

 

「美森ちゃん……」

 

「リク……どうして友奈ちゃんには話したの? なんで私には教えてくれなかったの?」

 

「東郷さん、それは私が――」

 

「私たちは家族じゃないの……? 何も知らない私を見て呆れてたの……? 私のこと、そんなに信じられなかったの⁉︎」

 

 感極まった少女の双眸から涙が溢れる。心の叫びを残して、美森は部室を出ていった。陸人も友奈も、自分たちの選択がどれだけ彼女を傷つけたのか、それを思い知って動けずにいる。

 

「りっくん……」

 

「…………」

 

 特に陸人はかなり焦っていた。彼は人間関係でトラブルを起こさないようにずっと気を回してきた。そのため、交友関係は広く、コミュニケーション能力も高い割に、拗れた場合どうすべきか、ということが分かっていない。しかも相手は家族同然の大切な存在。珍しく陸人は頭が真っ白になって固まっている。

 

「ほら、ボサッとしない! 早く追いかけなさい」

 

 そんな少年の背中を力強く叩く手。前世含めて陸人の周りにあまりいなかった『先輩』の後押しだ。

 

「風先輩……でも、今何を言っても傷つけてしまいそうで……」

 

「はぁ〜、あんたはもう、気が効くクセに分かってないわねぇ。

いい? 人と人っていうのは考えるだけじゃダメなの。感じたまま、思ったままの本音をぶつけることも時には必要なのよ。今の東郷みたいにね」

 

「本音……」

 

「そ。陸人はいつも東郷に優しかったし、それは悪いことじゃないわ。けど、きっとあの子はあんたの本音を知りたかったはずよ。だって家族なんでしょ?」

 

 陸人にとって東郷美森は『守りたいと心から願う大切な人』

 しかしそれをはっきり伝えたことは当然ない。伝える必要もないと陸人は思っていた。

 

「女の子っていうのはね、100回行動で示されるよりも、1度だけでもいいから言葉にしてほしいって望むものなのよ。

特に陸人は誰にでも優しいから、分かりにくいところも、勘違いされるところもあるしね」

 

「俺は、ただ……」

 

「ほら、その続きをあの子に伝えてあげなさい。いつもみたいに気を遣わずに浮かんできた言葉、それがあんたの真実なんだから。そのまま言うの。

そうすれば、2人はこれまでと違う関係になれるはずよ」

 

「ありがとう、ございます……行ってきます」

 

 

 

 

 ようやく顔を上げ、陸人も部室を立ち去る。いつもの調子に戻った後ろ姿を見送った勇者部3人は、ようやく肩の力を抜いて座り込んだ。

 

「ふぅ〜、焦ったぁ……あの2人があんな揉めるとはね」

 

「お互いのこと、すごく大切にしてるから。すれ違いがあるのが認められなかったんだと思います……私も後で謝らなくちゃ」

 

「でもお姉ちゃん、カッコよかったよ。すごく先輩って感じだった」

 

「えへへ、そう? まあそれほどでもあるわ、なんたって先輩で、部長だからね!」

 

 胸を張って高笑い。しかしそんなテンションも長くは続かず、背中を丸めて頭を抱える風。まだ懸念があるようだ。

 

「風先輩?」

 

「お姉ちゃん、どうしたの?」

 

「やー、勇者のこと。きっと東郷は反発あるとは思ってたんだけど、陸人まで地雷を持ってたのは予想外で……あんな東郷初めて見たし。

あの2人が落ち着いても、あたしはあたしで謝らなくちゃいけないわけで、どうしようかと……」

 

 自分の問題は何1つ解決していない。それでも悩める後輩の背中を押した風はまさに先輩であり、同時に、今になって思い出したように困り果てる姿はまさに年相応の少女そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 部室から少し離れた渡り廊下。美森は1人落ち込んでいた。もちろん先程の自分の発言についてだ。頭では分かっていても心の悲鳴が抑えられなかった。

 

(あんなこと言うつもりなかったのに……リクが家に来た当初を思い出すわね。私は本当に進歩がない。こんなに感情的な人間だったかしら?)

 

 どうにも陸人のこととなると自分の感情を制御できなくなる。その理由も分からないまま、後悔ばかりが押し寄せてくる。気分を変えるために自動販売機でお茶を買おうと手を伸ばし――

 

「ここの自販機では緑茶……だったよね?」

 

 車椅子では微妙に届かない高さのボタン。美森の趣向を把握している陸人が横から代わりに押してボトルを渡す。

 

「……リク」

 

「……さっきの質問に答えるよ。"なんで美森ちゃんに黙っていたか"だよね」

 

 陸人が自分の分の飲み物も買い、2人は並んで窓の外を眺める。間も無く日が1番高くに昇る時分。雲ひとつない青空が広がっている。

 

「俺は誰にも話す気は無かった。巻き込みたくなかったからね……友奈ちゃんが知ってたのは偶然。たまたま見られて、そのまま協力してもらうことになったんだ」

 

 大方そんなところだろうと美森は分かっていた。陸人が自分から友達を危険に晒すようなことはあり得ない。しかしそれで納得できるかと言われれば話は別だ。

 

「それでも友奈ちゃんに知られた時点で美森ちゃんにも話すべきだったのかもしれない。そうすれば少なくとも今君を泣かせることはなかったんだと思う」

 

 美森が何よりショックだったのは、陸人が夢で見た仮面の正体だったことでも、自分たちが勇者だったことでもない。

 陸人が当事者で、友奈も知っていて、なのに自分だけ何も知らなかった。彼が命を懸けている時にも、自分だけ呑気に過ごしていたこと。

 要は寂しかったのだ。喜びも悲しみも共有してきた3人の輪から除け者にされた気がして、それが嫌だっただけだ。

 

「それでも俺は、間違ってたとは思わない。後悔もしてない。

こんな風に美森ちゃんも当事者になっちゃったけど、そうでなければ今でも君の日常は続いてたはずなんだ。たとえ君に嫌われても疑われても、俺は君の幸せを守るために戦う。それは絶対に変わらない」

 

「……なんで、どうしてそこまで……」

 

 陸人のスタンスは徹頭徹尾変わらない。誰かの――特に美森の"いつも通り"を守ることにはこだわってきた。

 陸人は自覚がないが、彼の記憶の隅の隅には、鷲尾須美のこともまだ残っている。それが無意識下で美森に日常を過ごさせようとしているのかもしれない。

 

「そんなの、当たり前だろ? 美森ちゃんが大好きだから……大切だからだよ」

 

「……なら、私も言わせてもらうわ。私に隠し事をするのはやめて。リクが大好きだから……大切だから」

 

 それでも1番のモチベーションはきっと違うところにある。家族として、友達として、それ以外の何かとして……その関係にどんな名前を付ければいいのか、それはまだ誰にも分からない。

 そんな曖昧で、だけど深く強い絆で結ばれた2人だから。陸人は美森を守るためならなんでもできるし、美森は陸人の全てを知りたいと心から願っている。

 

「……ははっ」

「ふふっ」

 

 過去にないレベルで拗れた2人。しかし蓋を開ければ、微笑ましいほど純粋な愛の告白合戦だ。傍から見たらカップルの元鞘のようなやり取りだった。

 

「それでもやっぱり、私はリクに頼りないと思われてるのね……」

 

「えっと、なんで?」

 

「態度を見れば分かるわ。この件の友奈ちゃんと私……お互いの立場を入れ替えて考えてみなさい。私が先に知ったとして、あなたは協力を頼んだかしら?」

 

「……あー、うーん……」

 

「いいのよ。頼もしさで言えば友奈ちゃんほど優れた子はいないもの……私のことを過ぎるくらいに心配してくれたんだ、ってことにしといてあげるわ」

 

「アハハ……美森ちゃんはよく見てるね」

 

「そうね。少なくてもあなたと友奈ちゃんのことなら、自信はあるわ」

 

 緩やかに言葉を交わし、2人は部室に戻る。いつものように、陸人の手は美森の車椅子を押している。

 

「風先輩にも謝らないと……さすがに口が過ぎたわ」

 

「美森ちゃんの動揺は半分以上俺のせいだからね。一緒に謝るよ」

 

 

 

 

 いつもの勇者部に戻ろうとした、そんな穏やかなタイミングで、世界は再び停止する。それは異形と異界が迫り来る足音。

 

「連日か……仕事熱心なことだな」

 

「リク……」

 

「大丈夫、焦って戦おうとしなくていいよ。戦えないのが普通なんだから。美森ちゃんの勇気をどこで使うか。それは君が自分で決めていいんだ」

 

 戦える者だけが戦えばいい――それが陸人の考え。

 真に戦える者と呼べるのは、この世界では己だけ――それもまた陸人の考えだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




話の切り方が微妙だったかもしれません……次回、第2戦です。振り返ってみるとアニメ一期のバーテックス襲来ペースは凄かったですよね。のわゆやわすゆを経て、敵側も学んだのでしょうか?

この辺はアンノウンを適宜参入させるくらいしか差別化する方法がない……難しいところです。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに


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