A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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今回はタイトルが全てを物語っています。あの時の美森ちゃん、すごかったですよね、っていう話です。




東郷美森の目が据わる

「すみません、遅れました!」

 

「おっ、どうだった? お嬢様とは仲直りできた?」

 

「おかげさまで……状況は?」

 

「3人とも準備はできてるんですけど……敵が、その……」

 

「昨日のと同じくらいデッカいのが、3体もいるんだよ。アンノウンの方は?」

 

「なるほど…………さらに悪い知らせだ。アンノウンも3体。合計で4対6、これは参ったね」

 

 各バーテックスに1体ずつアンノウンがついている。こうなると分散してアギトが仕留めるというのも難しい。数的不利を覆すには、やはり奇襲が常套手段か。

 

「集中攻撃でバーテックスをまず1体堕とそう。そしたら戦力差は1人分だけだ。俺がちょっと踏ん張れば各個撃破できる」

 

 的が大きいバーテックスなら攻撃を集中させやすい。そこから手分けして各々で足止めする。横槍さえ入らなければアンノウン2体くらいはアギトだけでもすぐに仕留められる。

 

「それしかなさそうね……というか陸人、随分慣れてるみたいね? あたしも多少訓練受けた身なんだけど……」

 

「まあ、アイツら数が多いんですよ。それなりに経験はあるってことです」

 

「それじゃりっくん、どれを狙うの?」

 

「前に出てきてる尻尾があるやつ……アイツにしよう」

 

「分かりました……同時攻撃ですね」

 

 4人は構え、同時に飛び出した。接敵直後の一斉攻撃で1体仕留める。その狙いは悪くなかったが――

 

「盾⁉︎ どこから……!」

 

「アレッ⁉︎ すり抜けちゃった……なんで?」

 

(見抜かれてたか。連中のトップは随分達者なんだな……!)

 

 人類を学習した敵側にも、その常套手段を見切る程度の知恵は備わっていた。

 

 

 

 

 蠍座の『スコーピオン・バーテックス』

 蟹座の『キャンサー・バーテックス』

 射手座の『サジタリウス・バーテックス』

 

 昨日のアンノウンと同じ狗型の個体『スケロス・グラウクス』

 エイ型のアンノウン『ポタモトリゴン・ククルス』

 同じくエイ型の『ポタモトリゴン・カッシス』

 

 これが今回の敵戦力。この組み合わせには戦術的意味がある。攻撃と防御を分担して連携する、実に人間的な戦術が。

 

 前に出たが故に狙われたスコーピオンを守るために、キャンサーの遠隔反射板を展開し、風と樹の攻撃を完全ガード。

 さらに、突破力に優れた友奈とアギトの攻撃は、防ぐのではなくすり抜けることで対応した。

 ククルスとカッシスが共通して持つ特殊能力、触れた対象を非物質化する力で、2人の突撃を無力化。勇者たちの同時攻撃は完璧に凌がれてしまった。

 

 奇襲が失敗すれば、攻守はあっさり逆転する。すり抜けたまま飛んでいった友奈とアギト。跳ね返された風と樹。二手に分断され、さらに高速のアンノウン――グラウクスが対アンノウンに不慣れな友奈をアギトから引き剥がす。

 

「うっ、速い……わひゃっ⁉︎」

 

「友奈ちゃ――っと!」

 

「陸人、友奈!……ああもう、邪魔よアンタら!」

 

「う、わっ……バーテックスとは違う、狙いにくい……!」

 

 犬吠埼姉妹もエイ型2人に抑え込まれ、バーテックス3体が完全にフリーになってしまった。特に白兵戦に不向きな樹を風がフォローしているため、突破しようにも隙も作れない。

 サジタリウスの斉射がアギトを追い込み、キャンサーの反射板が矢の軌道を変えて背後から狙い、スコーピオンの尾が飛び回る金色を完全に捉え、吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……リクッ!」

 

「ぐぅ……効いたなぁ……」

 

 樹海の空に舞う背中を見て、美森は全身の血の気が引いていくのを実感した。動いてはいるものの、相当なダメージを負ったはずだ。遠くに見える他の仲間達も確実に追い込まれている。このままでは全滅も時間の問題だ。

 

 ――美森ちゃんの勇気をどこで使うか。それは君が自分で決めていいんだ――

 

 戦闘前の陸人の言葉を思い返す。彼はどこまでも美森を巻き込みたくないのだろう。それは分かる。しかし――

 

(何をしているの、東郷美森……! 私の勇気の使い道? そんなものは決まってる。私の大切な人のために、私を大切に思ってくれる人のために――!)

 

 バーテックスに感じていた正体不明の既視感と恐怖心。それはアギトを見てすぐに立ち消えた。昨日は使えなかった勇者システム。それも今ならきっと。

 ククルスと剣で迫合い、歯を食いしばる風。カッシスの鰭の攻撃を必死で避ける樹。グラウクスの速度に翻弄される友奈。

 そしてスコーピオンの刺突を躱そうともがくアギト――御咲陸人。全て美森の大切な相手だ。だからこそ、勇気を振り絞ることができる。

 

 

 

 

 

(私を選んだと言うのなら、力を貸してください……神樹様!)

 

 光に包まれた車椅子の少女は変身する。開花の光が収まった次の瞬間には、手にした銃で蠍の針先を撃ち抜いていた。

 自慢の武器を破壊されて怯んだスコーピオンにさらなる連射。前のめりに攻めていたバーテックスを後退させた。

 

「美森、ちゃん?」

 

「ええ、私よ……リク、大丈夫?」

 

 動かない足をフォローする触腕。移動補助用の機能を使ってアギトの元まで飛んできた美森が、倒れた戦士に優しく手を伸ばす。いつも助けられる側だった少女は、ようやく彼女が望む関係を手に入れた。

 

「友奈ちゃんは私が。リクは2人を助けに行って」

 

「……分かった。任せるよ、美森ちゃん」

 

 背中を預け、力を合わせる対等な関係。車椅子で生活してきた美森にとって、ずっと切望していたものだった。

 

 

 

 

 

 

(不思議なくらいに落ち着いている……武器があるから? それとも……)

 

 二丁の散弾銃に持ち替えた美森が、スコーピオンとグラウクスを同時に攻撃。足を止めて、追い込まれていた友奈に離脱のチャンスをもたらした。

 

「東郷さん、変身できたんだね! カッコいいよ!」

 

「ふふっ、ありがとう友奈ちゃん……まずはあのアンノウンよ、私が止めるから――」

 

「分かってる、行こう、東郷さん!」

 

 言葉と同時に飛び出した友奈。皆まで言わずとも理解して命を預けてくれる。その背中で友情を示す友奈が、美森には輝いて見えた。

 

「大人しくなさい――今よ、友奈ちゃん!」

 

「勇者ぁぁぁぁ、パァァァンチッ‼︎」

 

 自慢の脚力を足元への斉射で封じられ、グラウクスは仲間と同様に桜色の拳に倒れた。援護役の美森とフィニッシャーの友奈、最高の友達の即席コンビネーションが完璧にハマった形だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人とも、伏せろっ!」

 

 スライダーで飛んできたアギトが、車体をぶつけてアンノウンを吹き飛ばす。クセの強い武器を持ち、慣れない白兵戦に苦戦していた2人を救出した。

 

「陸人っ、大丈夫?」

 

「友奈さんは……」

 

「美森ちゃんが変身したんだ。向こうは大丈夫だよ」

 

「東郷が……」

 

 手短に状況を説明するアギト達の頭上から矢の雨が降り注ぐ。しかし落ち着いてしまえば何のことはない。大剣の盾とワイヤーの防御陣、姉妹の二重防御で完全に防ぎきった。

 

「よし、仕切り直しよ! バーテックスは私と――」

 

 態勢を立て直し、風が指示を出そうとしたところで、目の前に大きな影が広がり、巨体が彼方から降ってきた。

 

「エビ運んできたよー!」

 

「いや、サソリでしょ⁉︎」

 

「どっちでもいいよ、お姉ちゃん……」

 

 スコーピオンを吹き飛ばし、友奈たちも合流する。微妙な雰囲気のまま戦闘に突入してしまった美森が、風に通信を入れる。

 

『風先輩、先ほどは失礼しました。先輩の気持ちは分かっていたのに、あんなことを……』

 

「東郷……こっちこそ、ごめんなさい。一緒に戦って――」

 

 風が言い切るよりも早く、スコーピオンに連続スナイプが命中し、その巨体はあっという間に沈黙した。

 

『ええ、もちろんです。援護は任せてください!』

 

「は、はい……よろしくお願いします……あと、ホントすいませんでした……」

 

 美森の頼もしさと恐ろしさに冷や汗を流す風。とにかくこれで封印の儀に入れる。御霊が露出し、友奈が突っ込もうとした瞬間、御霊が高速回転し始めた。

 

「何あれ? めちゃくちゃに回ってる……」

 

「アレを止めないと壊せないな……美森ちゃん!」

 

「……任せて……!」

 

 再びの連続スナイプ――正確無比な3連射。1発目で回転を止め、2発目で表面を削り、3発目で同じ箇所を撃ち抜いて破壊した。

 

「すごい……東郷先輩」

 

(確かにすごい。東郷も友奈も陸人も……巻き込んだ元凶が気張んないでどうするってのよ!)

 

 風は勇者部に負い目を感じていた。仲間たちが頑張ってくれている以上、このままでは終われない。一勇者としても、勇者部の部長としても。

 

「あたしたちも負けてられないわ! 陸人、そのバイク貸してくれる?」

 

「分かりました、俺はアンノウンを……」

 

「樹、あの鬱陶しいバーテックスは、犬吠埼姉妹で片付けるわよ!」

 

「……! 分かった、やろうお姉ちゃん!」

 

 スライダーに乗って飛翔する風と樹。射撃に巻き込まないためか、サジタリウスとキャンサーは寄り添うようにして構えている。それはつまり、まとめて狙える位置にいるということだ。

 

「樹、防御よろしく!」

 

「分かってるよ、お姉ちゃん!」

 

 全方位から飛んでくる矢をワイヤーで捌く樹。スライダーの機動力も活かせば、矢の雨を凌ぐのは難しくない。そしてこの機動力があれば、キャンサーの防御も掻いくぐることができる。

 

(あの反射板が展開されるより早く、一撃で2体まとめて……!)

 

 2体の頭上に昇り、スライダーから飛び降りる風。最大サイズまで巨大化させた大剣を振り上げ、全力を込める。

 

「食らえ、あたしの女子力ぅぅぅ‼︎」

 

 全霊を込めた振り下ろしで、2体を同時に両断。バーテックスの身体は限界を超え、そのまま封印の儀に突入。弱点の御霊が発生する。

 

「御霊が分かれた……! 全部落とせっていうの?」

 

「うわっ、この御霊速いよー⁉︎」

 

 あらかじめ御霊に狙いを定めていた美森と友奈だったが、出てきた急所はそれぞれが厄介な特性を持っていた。

 美森の散弾銃でも撃破が追いつかないほどの分裂増殖。

 的確に友奈の拳を避ける敏捷性。

 このまま粘られれば時間切れ。焦る2人に、上空から声がかかる。

 

「2人とも下がってください! 私がやります!」

 

 普段の印象とは大きく外れた樹の力強い声。彼女の武器の特性は殲滅力。そして上空というのはそれを活かす絶好のポジションだ。

 

(増える箇所、タイミング、個数は掴めた……動く方も、この範囲からは抜け出さない。だったら……!)

 

 観察して分析して、狙いはすでに定まった。スライダーで接近し、ワイヤーを広く展開する。

 

「全部まとめて――これでぇぇっ‼︎」

 

 直上から降り注ぐワイヤーの雨。行動を読まれた御霊に凌ぐ術はなく、文字通り一網打尽にされ、連携を得手とする2体は消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(みんな慣れてきてる……選ばれたっていうのは、本当らしいな)

 

 仲間の戦況を横目で見ながら、アンノウン2体をいなしていくアギト。能力が割れた個体なら、2対1でも片手間で勝てる。それだけの実力差があった。

 

 触れたものを非物質化させるカッシスの鰭。投げつけられた刃はアギトの首を捉えた。しかしこれもアギトの狙い通り。

 

「コレデ……!」

「遅いんだよ!」

 

 能力を発動させるよりも早く、思い切り鰭を引く。膂力で負けているカッシスはいとも簡単に引き寄せられ、ライダーパンチをまともに受けて吹き飛んでいった。

 

 

 

 

「シャアァァァッ‼︎」

「そろそろ終わらせるぞ……!」

 

 剣を振って突っ込んでくるククルス。必殺の構えを取ったアギトの視界の端で、友奈が親指を立てている。アレは."一緒に行く"のサイン。

 

(一緒に決めよう、りっくん!)

「了解…………ダアァァァッ‼︎」

 

 アギト必殺のライダーキックを剣で受け止めたククルス。しかし武器で防ぎきれる威力ではない。刃は爆散し、殺しきれなかった衝撃で大きく跳ね飛ばされる。その先にはもう1人のフィニッシャーが待ち構えていた。

 

「勇者ぁぁぁぁ、パァァァンチッ‼︎」

 

 飛んできた背中に友奈の拳が突き刺さる。予想外のダメージを受けたククルスはあっけなく爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コ、コノママデハ……」

 

 なんとか消滅せずに生き残っていたカッシスは、おぼつかない足取りで撤退しようとしていた。敗北したアンノウンに戻る場所はない。それでも一縷の望みにかけて逃走を図っていた異形の背後から、凍てつくような銃声が響く。

 

「ガッ……キサマハ……!」

 

「正体が何であれ、私の友達を傷つけたあなたたちは、絶対に許さない……!」

 

 スナイパーの視野で逃げようとする背中を捉えた美森が、気配を隠して接近していた。胸を撃ち抜かれて崩れ落ちたカッシスの頭部に銃口を突きつけて、極めて冷静に弾丸を叩き込んでいく。

 

(許さない……逃がさない……絶対に!)

 

 結局カッシスが爆散するまで引き金を引き続けた美森。何発撃ったかは本人も把握できていない。

 

「美森ちゃん、そっちは――」

 

「――っ! リク……こっちは終わったわ。ケガはない?」

 

 爆風を見て駆けつけたアギトの声に、ハッとしたように振り返る美森。一時的に視野が狭まっていたようだ。

 

「俺はなんとも……美森ちゃんは平気?」

 

「私も大丈夫。精霊バリアってすごいのね……」

 

「そうだね。友奈ちゃんたちも大丈夫そうだし、大したもんだ……」

 

「リクのアギトにも使えればいいんだけど……難しいかしらね?」

 

「多分根っこから別物だからね。厳しいと思うよ」

 

 なんて事のない話をしながら樹海の崩壊を眺める2人。第2戦にしてかなり大規模になった戦いは、人類側の勝利に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員の無事を確認し、解散となった勇者部。しかし陸人には、帰った先でもう一つ修羅場が待ち受けていた。

 

「えっと……美森ちゃん、これは何でしょうか?」

 

「誓約書よ。私とあなたの約束事を明文化しておこうと思って」

 

 唐突に美森の部屋に呼び出された陸人は、渡されたプリントの束をめくり、内容を読んで頭痛を抑えられなかった。

 

 

 

 1.御咲陸人は東郷美森に嘘をつかない

 

 2.御咲陸人は東郷美森の質問には包み隠さず全て答える

 

 3.アンノウン発生時、御咲陸人は東郷美森に事前または事後に連絡する

 

 

 このような内容が延々続いている。項数が3桁に到達した辺りで陸人は把握するのを諦めた。

 隠し事をされていた反動で、美森の自制が効かなくなってきたらしい。これを承諾したら、陸人の自由はほぼ完全に消滅する。冗談のような内容だが、美森の顔は真剣そのもの。サインをしないことには今夜眠ることもできないかもしれない。

 

「えーっと、本気?」

 

「もちろん! あ、でも想定外の事態もあるでしょうし、誓約だけでなく物理的な手段も必要よね……やっぱり盗聴器と発信機は……

 

 非常に物騒な単語が聞こえた気がしたが、陸人はなかったことにした……命が惜しかったからだ。

 

(……まあ、これも自業自得かなぁ?)

 

 愛が重たい女の子だと分かっていて、隠し事を続けた自分が悪い。そうでも思わなければやってられない陸人だった。

 

 

 

 

 




今回の友奈ちゃんとアギトのコンビネーションは、またもファイズを踏襲しました。
番組終盤(何話か忘れました)の、ファイズとデルタの連携
ルシファーズハンマー→グランインパクト
アレも好きなんですよね。ファイズは人間関係がやたらドロドロしてる割に、アクションシーンの連携は見事でかっこいいですよね。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに


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