A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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長らくお待たせしました。みんな大好きにぼっしーちゃんの出番です。




三好夏凜は胸を張る

 2度目の襲撃からしばらく、バーテックス関連は何の音沙汰もなかった。アンノウンは数度出現したものの、アギトと、時に勇者たちの活躍によって被害を抑えることができた。

 いつも通りの勇者部活動に加えて、外を出歩く際に気持ち周囲を気にするようになった。彼らの日常における変化は、その程度でしかなかった。

 

「さーてと、お久しぶりの敵さんね……今度は1体だけか」

 

「アンノウンは……同じく1体。数を出して負けた割に、おとなしい手勢ですね」

 

 そんな穏やかな時間を経ての3戦目。敵の数を見る限り、前回よりも楽に対処できそうに見える。

 

「まあ少ないならそれに越したことないよ。久しぶりだし、油断せずに頑張ろ――――って、ええっ⁉︎」

 

「何だ? 攻撃……?」

 

「私たちじゃない……じゃあ誰が?」

 

 仲間を鼓舞するように友奈が拳を掲げたのと同時に、バーテックスの表皮を削るように複数の爆発が発生した。勇者部とは別の何者かが、バーテックスに攻撃を仕掛けている。

 

「――上か!」

 

「ちょろいっ‼︎」

 

 連続攻撃に怯んだバーテックスの直上、急降下する影が見えた。その少女は赤を基調とした勇者服を纏い、二刀を構えて強気に笑っている。

 

 そんな乱入者に、ようやく敵側も対抗の手を打つ。山羊座の『カプリコーン・バーテックス』の全身から霧が発生する。敵の視覚を奪い、距離を取るための一手だが、赤い少女は怯みもしない。

 

「はん、そんなモンがこの私に――っと!」

 

 構わず霧に突っ込んでカプリコーンに迫る少女の軌道を遮るように、新たな影が飛び出してくる。ピラルク型のアンノウン『ピスキス・アラパイマ』だ。三叉の鉾を振るい、少女と正面から激突する。

 

「チッ、アンノウン……邪魔をするなぁ!」

 

 白兵戦にも手馴れた様子の少女は、軽やかな二刀捌きでアラパイマを翻弄し、霧の向こう側にはじき返した。しかしそれは敵の目論見通り。霧の奥から緑色の光が明滅し、それを見た少女の意識が遠のいていく。

 

 

 

 

 

 

「マズそうだな……俺が行く。みんなは念のために距離を取って様子を見ててくれ」

 

「あっ、りっくん!」

 

 闖入者の戦闘を訳も分からず傍観していた勇者部だったが、どうやら少女の方が軽くピンチらしい。素性の知れない相手ということで、仲間は置いてアギトが援護に向かう。

 

「どう思う? 東郷」

 

「服装は私たちに近いものに思えます。人間なのは間違いないですし、どちらが味方かといえば向こうでしょうね」

 

「そこは同感……だけどあたし何も聞いてないのよね」

 

「お姉ちゃんが知らない……でも、同じ勇者に見えるけど」

 

「とりあえず今は警戒しておきましょう。陸人ならヘマもしないでしょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい! しっかりしろ、君!」

 

「……ぅわっ! 何よアンタ!……ってそうか、アンタがアギトね」

 

 飛び込んだアギトが、動かない少女を霧から連れ出して強めに肩を揺する。催眠効果はまだ浅かったようで、少女の意識はあっさり回復した。

 

「俺を知ってることも、君自身のことも後回しだ。あの光は催眠か麻痺か、何かあるらしいな。注意しないと」

 

「フンッ! ちょっと不意を打たれて対処が遅れただけよ。見てなさい」

 

 不服そうに鼻を鳴らし、少女が再び突貫する。無謀にしか見えない行動を止めようとしたアギトだったが、彼女は眼を閉じていた。

 催眠光を視認しないために自ら視覚を封じ、その上で接近戦に臨む。直接ぶつかり合う武器同士の戦いで一方が視覚を封じるというのは、あまりにも大きなハンデになるのだが……

 

(眼を使わなくても……気配で見えてんのよ!)

 

 そのハンデをものともせず、アラパイマを圧倒する少女。敵の足音やぶつかった感触から、敵の位置と体勢を割り出して切り結んでいる。よほどの修練をこなさなければできない神業だ。

 しかし敵の罠は催眠光だけではない。

 

(……何よコレ、体が動かない? でも光は見てないのに……!)

 

 一方的に押していた少女の動きが鈍っていく。少しずつ感を握る手の感覚が怪しくなってきた。

 

(そうか……この霧、目くらまし以外にも効果があるのね。どこまでも小細工を……!)

 

 眼を閉じている少女には分からないことだが、最初にカプリコーンが発生させた霧とは微妙に濃度が異なる別種の霧が周囲を包んでいた。

 その正体はアラパイマの能力、吸った相手を麻痺させる瘴気だ。

 

 催眠光を見切った時点で、新たに瘴気が発生すれば警戒したかもしれない。しかし吸い込んでも特に問題なかったカプリコーンの霧に紛れさせることで、意識の隙間に入り込んだ。アラパイマの妙手だ。

 

「あぁぁもう、めんどくさい!」

 

 麻痺しかけた身体に無理やり力を込めて、少女が高くジャンプする。危険地帯である霧の中を抜け出し、真上の足場に飛び上がった。

 

「だったら、これでどうよ⁉︎」

 

 複数の刀を生成し、霧の中に投げつける。目を閉じたままではおおよその方角しか分からないが、数を投げて狙いの甘さをカバーしている。

 20本ほど投擲したところで、他の刀とは違う着弾音が少女の耳に届いた。

 

「捉えた……そこねっ!」

 

 無造作に見えて、頭の中で敵の位置と投げた方向をイメージしていた少女。手応えがあった場所に突入し、見事にアラパイマを捕捉した。

 そのまま激突して、霧の中から押し出す。アラパイマを下敷きにして樹海の地面に墜落していった。

 

「――っとと……面倒なことしてくれたわね。アンタみたいなタイプ嫌いなのよ!」

 

 落下のダメージでふらついたまま立ち上がるアラパイマ。文句を言いながら刀を構える少女。両者は向かい合い、同時に走りこんで獲物を振るう。

 

「シャアァァァッ‼︎」

「甘いってのよ!」

 

 鉾の下に潜り込み、敵の得物を跳ね上げる。隙だらけになったアラパイマの胸にXの字を刻むように、少女の二刀が閃く。

 技巧で完全に上を行った勇者の剣でアンノウンは倒れ、爆散した。

 

 

 

 

 

「さて、後は……って! 霧で分かんなかったけど、かなり進行してんじゃないの!」

 

 アンノウンの相手をしている間に、カプリコーンは静かに樹海の奥に進んでいた。そろそろまずいと感じた他の勇者たちが踏み込もうとしたところで、樹海に風が巻き起こる。

 

「鬱陶しい霧ごと、吹っ飛ばしてやるよ……!」

 

 ストームフォームに変化したアギトが、カプリコーンの周囲に竜巻を発生させた。流石に本体を吹き飛ばすとまではいかないが、面倒な霧は瞬く間に晴れていき、風が全体に少しずつダメージを与えている。

 

(アギトが竜巻を起こして足を止めている……だったら!)

 

 少女は植物を足場に高く跳び、竜巻の発生地点の上から急降下する。目に見えない中心の無風地帯。それを感覚で見切って入り込んだのだ。

 

「封印開始!」

 

 無風地帯から刀を投げ、単独で封印の儀を始動する少女。現れた御霊は、これまでと違い特に抵抗のアクションを起こす様子がない。アギトの風で霧が出せず、身を守るすべがないのだ。

 

「小細工を弄するヤツってのは、それが崩れると脆いのよね!」

 

 無防備な御霊に突っ込み、全力の斬撃を叩き込む。カプリコーンは最後、隠れることすらできずに消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果としては闖入者とアギトの2人だけで勝利を収めた。そんな2人は近くも遠くもない距離感のまま、勇者部の元に降り立つ。

 

「お疲れ様、リク」

 

「今回は大したことしてないよ、俺は。彼女のおかげだね」

 

「……それで? あんたはどこのどなた様なワケ?」

 

「……フン、アンタたちが神樹様に選ばれた勇者、ねぇ?」

 

 値踏みするように全員の顔を見つめてから、少女は咳払いをして胸を張る。

 

「私は三好夏凜。大社から派遣された()()()勇者よ。アンタたちとは違ってね」

 

 自信満々、と全身で表現している少女、三好夏凜。5人目の――本人曰く完成型――勇者の登場だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、澄ました顔で陸人たちのクラスに転入してきた夏凜を含め、全員が部室に集合、会議が始まる。

 

「アンタたちの戦闘データを収集、応用して強化された完成型勇者、それが私よ!」

 

「なるほどね〜。でもあたしたちだって実戦をくぐり抜けてきたんだから、そこはアンタに対してのアドバンテージって言えるんじゃないの?」

 

「むっ……優れているのがシステムだけだと思わないでよ。私自身も長い間勇者になるための訓練を受けてきてるんだから!」

 

(ふむふむ、気が強くてプライドが高い……意地っ張りだけど悪いことはできない真面目ちゃん……そんな感じかしらね)

 

 風がおちょくるようなコミュニケーションで夏凜の性格を把握していたり……

 

 

 

「つまり、憂国の志を持った同士ということね。お近づきの印に、ぼた餅どうぞ」

 

「な、なんでここでぼた餅なのよ。私には煮干しがあるからいらないわ」

 

「……煮干し? 好きなの?」

 

「なによその眼は。煮干しはすごいのよ? 完全食なのよ?」

 

 美森が熱いぼた餅アタックを仕掛け、煮干しVSぼた餅の異種格闘技戦が勃発していたり……

 

 

 

「それじゃ一緒に頑張る仲間だね。よろしく、夏凜ちゃん!」

 

「いきなり呼び捨て……距離感近いやつね」

 

「アレ? ダメだった? 夏凜ちゃん、って可愛い名前だと思って……」

 

「っ! まあ、呼び方なんてどうだっていいわよ。好きなように呼びなさい」

 

 友奈が人誑しを炸裂させて、夏凜の顔を赤く染めていたり……

 

 

 

「わ〜っ! か、夏凜さん……何回占っても死神しか出ない……」

 

「勝手に占って不吉なレッテル貼らないでよ!」

 

「あ、でも逆位置も出たし……死神って言っても、悪い意味だけじゃないんですよ?」

 

「え、そうなの? タロットなんて見たこともないから、ちょっと教えてくれない?」

 

 樹お得意の占いから、夏凜の素直な反応を引き出していたり……

 

 

 

「あーもう、なんなのよコイツら。緊張感がないったら……」

 

「あはは、これがこの部のスタイルだよ。か……三好さんもそのうち慣れるんじゃないかな?」

 

「私が1番分からないのはアンタよ、御咲陸人」

 

「……そう? 割と簡単な性格してると思うんだけど」

 

「……まあいいわ。私がやることに変わりはないし」

 

 陸人にしては珍しく、他の仲間たちより遠い距離感で夏凜と接していたり……

 

 

 

 会議の体を成していない時間が過ぎていき、気づけば小一時間が経過していた。勇者部の小ボケ(一部天然)に片っ端からツッコミを入れ続けた夏凜はひどく疲弊している。

 

「ゼェッ、ゼェッ……話が進みゃしない。なんでこんな苦労しなきゃいけないのよ」

 

「まあまあ落ち着いて。ほらぼた餅どうぞ」

 

「それはもういいっつーの……と、とにかく! 要点を整理するわよ」

 

 風もしっかりとは把握していなかった勇者システムの機能について。正式な勇者を名乗る夏凜からいくつかの新事実が明かされる。

 

「戦って、レベルを上げることで強い力が使えるようになる……これは『満開』と呼ばれているわ」

 

「……!」

 

 そのうちの1つに、陸人が小さな反応を示したが、誰も気づくことはなかった。

 

「今後はアンノウンの出現があったら、私達の端末に連絡が来るわ……もっとも、アギトの方が先に気づくかもしれないけど」

 

「……ああ、やっぱり大社にもアンノウンを察知する手段があったんだね。役立つと思うよ。俺も毎度間に合うわけじゃない」

 

「じゃあこれからはアンノウン退治も一緒にやりやすくなるんだね、りっくん」

 

「そうなるね……俺としては1人で行きたいんだけど……」

 

「まだそんなことを言うの? リクももっと私達を頼りなさい」

 

「そうは言うけど、俺と違ってみんなは顔が出てるだろ? もし見られたら……」

 

「その時は大社で対応するそうよ。完璧とはいかなくても、そこまで気にしなくていいと思うわ」

 

「……大社が、ね……」

 

 陸人が話すたびに、夏凜は彼が持つ大社への警戒心を嫌でも感じ取った。自身のことはそれほど意識していないようだが、彼は何に引っかかっているのか。大社から聞く分には、ほとんど接触はなかったはずだ。夏凜にもアギトは本人の自由にさせるようにと指示が出ている。

 

「アンタ、大社に何か思うところがあるの?」

 

「いや、そういうわけじゃないよ。まともに知らない人の指示で動くのが、ちょっと怖いってだけさ」

 

「ふーん、まあいいけど……私としてもアンタたちを認めたわけじゃないしね」

 

「言うわねぇ……でも昨日だって完成型勇者様は陸人の手を借りたじゃないの」

 

「援護があったのは事実よ。でも実際アギトがいなくても、私1人でどうとでもなったわ」

 

「そんな言い方は……」

 

「まあそうだろうなぁ」

 

「リク……?」

 

 陸人を軽んじるように聞こえる言葉に、美森の顔に不機嫌が浮かぶが、陸人自身もその言葉に賛同していた。

 

「俺が見た限り危なかったポイントは2つ。

俺が割り込んだ時の催眠光。だけどアレは一撃でも貰えばその衝撃で目が醒める程度のものだった。

多分アレで時間を稼いで、瘴気で相手の自由を奪うのがアイツの戦術なんだろうね。だけど生身の人間ならともかく、勇者システムなら瘴気が回るより早く回復できたはずだ」

 

「……へぇ」

 

 陸人の解説に、夏凜が関心したように頷く。強がりでも何でもなく、夏凜には勝利の確信があった。自分のシミュレーションと全く同じ説明を目の前の少年がしてみせたのは、彼女にとって純粋に驚きだった。

 

「もう1つ、バーテックスが進行してたこともそう。念のために風で足を止めたけど、三好さんの速さならあれがなくても倒せただろうね。霧だって無効化できてたから、御霊を壊すにも支障はない」

 

「分かってるじゃない。ただ力を持ってるってだけじゃなさそうね」

 

「訓練とか受けたわけじゃないんだけどね。なんとなく……戦い始めてそこそこ長いしね」

 

 本人さえもたまに疑問に思うが、陸人は戦い慣れすぎている。アンノウン戦の経験? それもあるだろうが、それだけでは到底説明がつかない勝負勘と胆力。とても中学生とは思えない。そんな彼のプロフィールの1番上にはご丁寧に"記憶喪失"ときた。怪しさ満点である。

 

(悪い奴には見えないけど……他の連中とは何かが違う。アギト、ね……)

 

 お気楽な勇者連中。不明点だらけのアギト。夏凜は転入早々頭が痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 一通り話が済み、解散となった勇者部。下校しようとする面々と別れ、陸人は夏凜を呼び止めた。

 

「何よ、他のやつらには聞かれたくない話ってわけ?」

 

「どうだろう……そうなるのかもしれないね」

 

「……はぁ?」

 

「満開について、知ってる限り詳しく教えてほしい。ある筋から、満開に注意しろって言われてるんだよ」

 

 謎の書き置きと世界を支える一大組織。普通に考えればどちらを信じるかは一目瞭然。

 しかし陸人は違う。黒い影が見える大社を信じることはできないが、あの睡蓮の香りになら命を懸けられる。

 

……そう思える理由すら、思い出せないというのに。

 

 

 

 

 

 

 

 




チョロイ属性が目立つ夏凜ちゃんですが、彼女は大社が選んだ精鋭ですから、不審人物には警戒もします。
というわけで、夏凜ちゃん編は仲良くなるまでにワンクッション挟みます。ちょっとみなさんの期待とは逸れたことやってるかもしれませんが、良ければお待ちください。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに


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