A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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夏凜ちゃん編その2。
ちょっと短い上に内容薄い……かも?






犬吠埼樹は気を配る

「攻撃したり、されたりでゲージを貯める。一定量貯まったら任意でそれを解放して、莫大な力を宿す……私が聞いたのはそれくらいよ」

 

「……その莫大な力、っていうのはノーリスクで扱えるような都合のいいものなのかな?」

 

「……何? アンタ私のこと疑ってんの?」

 

「いや、か……三好さんが嘘ついてるとは思わない。けど、三好さんが本当のことを教わってるとは限らないだろ?」

 

「……結局は大社が信用できないってことね」

 

「ん……まあ、そうなるね」

 

 気まずそうに眼をそらす陸人。夏凜も頭を掻いて面倒そうな顔をする。

 

「確かに大社は秘密主義の組織よ。私が知らないことなんていくらでもある。アンタに無理に信用しろとも言わないわ」

 

「……ごめん」

 

「謝らなくていいわよ。ただ、覚えておいて欲しいのは、私にとって大社……いえ、大社に与えられた勇者の資格。これが何より大切なの。勇者になるために訓練に明け暮れた……他の同年代の子が遊んでる時間を使って、私は今ここにいるの」

 

「……うん」

 

「だから私は大社に命じられた勇者の役目を全力で務める。アンタと大社なら……悪いけど大社を取るわ」

 

「それは当然だよ。俺も自分の意見を押し付けるつもりはないさ」

 

「そ、良かったわ。思ったより拗れずに済んで……じゃ、そういうことだから」

 

「うん……ゴメンね?」

 

「だから、謝んなくていいっての」

 

 片手をヒラヒラと振りながら夏凜が離れていく。彼女自身は信じられると確認できたが、肝心の満開についてはほとんど何も分からなかった。

 

(あの書き置き……"注意して"っていうのはどういう意味だ? "使わないで"って書かなかったのは何でだ?)

 

 改めて考えると、何とも微妙な書き方だ。受け手次第でどうとでも取れる。

 

(……いや、もしかしてそれが狙いか? 警戒するきっかけだけ与えて、選択を本人に委ねるための……)

 

 残した本人を知らない以上、どんな想像も今ひとつ足りない感覚がある。大切な仲間たちに関連することだと分かったからには、このまま放置というわけにはいかない。しかし夏凜の手前、あまりおおっぴらに大社を否定するようなことも言いにくい。

 

(ああくそ、なんであの時もっと早く起きれなかったんだ……もう一度、会いたいな……)

 

 聞きたいこともあるし、言いたいこともある。そして何より、顔を見てみたい。陸人がここまで特定の個人に執着するのは、例の彼女だけだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……なんで私がこんなことを……」

 

「まぁまぁ、やってみれば夏凜さんも楽しさが分かりますよ」

 

 勇者部に新人が加わって数日。この日は手が空いていた樹と夏凜が週末のこども会で行う演劇準備に取り組んでいた。当初は勇者の仕事ではないと突っぱねていた夏凜だったが、あくせく働く部員たちを横目に煮干しをかじるだけの時間が耐え難かったようで、文句を言いながらも協力してくれている。

 今は背景の仕上げ。細かい着色や破損個所のチェックをして、本番に備える段階だ。

 

「これ、よくできてるけど……あんたたちで作ったの?」

 

「そうですね。道具は廃材をもらったりして……この背景は陸人さんが作ってくれたんです。すごく器用なんですよ」

 

 御咲陸人。この学校に来てからしょっちゅう耳に入る名前だ。それだけ手広く活動しているということだが、その度に夏凜は先日の何かを言い淀んでいる彼の顔を思い出してしまう。

 

「ねぇ、樹から見て御咲陸人ってどんな人間?」

 

「え? 陸人さんですか?」

 

 彼をよく知る者の視点から見れば、違う一面が分かるかもしれない。夏凜の唐突な質問に、樹は疑問符を浮かべながら言葉を探す。

 

「陸人さんは、見ての通りのいい人で……自分よりも他人。困ってる人が笑ってくれたら嬉しい。そんな風に心から思って、行動している人だと思います」

 

「……まあ、そうよね」

 

 大多数の人間が彼のことをそう見ているのだろう。夏凜だって、大社の前情報さえ無ければ同じ意見だったはずだ。

 

「……でも、時々不安そうというか、何かを怖がってるようにも見えることがあります」

 

「……不安? アイツが怖がる?」

 

 付き合いの浅い夏凜には想像できなかった。人が思い描くヒーロー像を体現したような善人。自分が傷つくことを厭わないあの少年に、不安や恐怖という言葉はまるで結びつかなかった。

 

「何が怖いのかは分かりませんし、私の気のせいかもしれません。ただ、何か見たくないもの、知りたくないことがあって……それから目を逸らそうとしてる気がするんです」

 

「ふーん……そのこと、誰かに話した?」

 

「いえ、でも勇者部はみんな気にしてると思います。アギトのことだったのかな、とも考えたんですけど、それだけじゃないようにも……」

 

 御咲陸人は記憶喪失だ。その奥に何があるのか、それは本人も分かっていない。その辺りに、彼の人間らしい弱さの根っこがあるのかもしれない。

 

「……ありがとう、参考になったわ。意外と言ったら悪いけど、よく見てるのね、樹も」

 

「何度も助けてもらいましたから。いつか助けになれたらと思って……私にできて陸人さんにできないことなんて、想像もつかないですけど……」

 

「そんなことないわよ。確かに何でもこなすように見えるけど、それでも悩んだり間違えたりするんでしょ? アイツが困ってる時に何でもない顔で手を貸してやればいいのよ。せっかくすぐ近くにいるんじゃない」

 

 夏凜は自分の言葉に自分で驚いた。1人で努力を重ね、勇者になった。ゆるく馴れ合う勇者部のことも、否定的に見ていたはずなのに。

 樹も一瞬ポカンとしていたが、すぐに嬉しそうに顔を緩める。

 

「えへへ、ありがとうございます。夏凜さんはやっぱり優しい人ですね」

 

「そんなんじゃないわよ。余計なことに悩んで戦場で足引っ張られちゃたまんないから――」

 

「そんな夏凜さんなら、きっと陸人さんとも仲良くなれるはずですよ」

 

 樹は夏凜のことも気にかけていた。この数日で、プライドは高いながらも意識せずとも人に優しくできる夏凜の本質は全員が理解できた。第一印象よりもずっと早く、勇者部の面々と打ち解け始めている彼女だが、陸人とだけは今ひとつ壁があるように樹には思えた。

 お互い自然にしようとしていて、結果意識しすぎてぎこちなくなっている、そんな印象だ。

 樹には夏凜の立場も、陸人の事情もよく分からない。それでも一緒に頑張る仲間で、相性だって本当は悪くないはずなのだ。上手くいってほしいと願うのは当然のことだ。

 

「1回思いっきりぶつかってみるといいんじゃないでしょうか? 陸人さんは何を言っても受け止めてくれると思いますよ」

 

「……ま、憶えておくわ。早く終わらせちゃいましょ。残ってる仕事は?」

 

 小さく笑って作業に戻る2人。樹の助言は、遠回しを嫌う夏凜好みの分かりやすいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 週末、6人全員で児童館を訪問し、新しい演劇も大好評で幕を閉じた。夏凜が知る予定では、ここで挨拶をして引き上げるということだったが……

 

「よし、みんなありがとー! 続いて、サプライズパーティーを始めまーす!」

 

 そんな風の号令に首をかしげる夏凜。だが、そんな反応をしている者は他にいない。訳も分からず周囲を見渡しているうちに、どんどん状況が変化していく。

 

 電気が消え、カーテンが閉められ、いきなり部屋が真っ暗になる。混乱する夏凜の元に、ロウソクの火が近づいてくる。よく見るとその火は14本。ケーキの上に並んでいる。

 

『かりんおねえちゃん、おたんじょうび、おめでと〜!』

 

「……は?」

 

 園児たちの言葉と同時に、クラッカーの音が鳴り響く。夏凜の頭は一瞬思考を放棄し、全ての行動を停止した。

 

「いやー、その顔! サプライズ大成功ね!」

 

「事前に話を通して、みんなにも協力してもらったの」

 

「……なんで、私の誕生日を?」

 

「夏凜さんの入部届けに書いてあったのを、友奈さんが見つけたんです」

 

「もうすぐだーって思って。そしたらりっくんが『お楽しみ会の日だし、一緒にやっちゃおう』って提案して、企画まで立ててくれたの!」

 

「御咲陸人……」

 

「こうすれば三好さんも逃げられないでしょ? 勇者部はこういうイベント多いから、早いとこ慣れてもらわないとね」

 

 周到な準備のもと行われたサプライズは、見事に成功した。呆気にとられたままの夏凜の元に、昼間彼女が折り紙を教えてあげた子供――夏凜にはトロ子と呼ばれている――少女がバースデーカードを持ってきた。

 

「はい、これどうぞ、かりんおねえちゃん」

 

「……アンタ、トロ子……」

 

 彼女を含めた子供たちとは今日会ったばかり。短いどころか付き合いと言えるものすらまだない間柄だ。にもかかわらず、彼らは心から夏凜の誕生日を祝福してくれている。

 もちろん彼らの純真さもあるだろうが、夏凜自身がこの短時間で彼らの心に入り込めるくらいには、今日一日頑張っていたからだろう。

 

「おたんじょうびおめでとーございます! またきてくれますか?」

 

「……気が向いたらね!……ありがと……」

 

 1人にだけ聞こえるように呟いた本音を聞き、トロ子は嬉しそうに夏凜に飛びついた。

 ぼくもわたしもー、とじゃれついてくる子供の波に呑まれながら、真っ赤な顔で1人ずつ相手をしていく夏凜。その顔には戸惑いと羞恥、そして隠しきれない喜びが浮かんでいた。

 

「おーおー、すごい汗かいてる。こういうの、初めてだったんでしょうね」

 

「でも、夏凜さん楽しそう」

 

「ええ。子供の笑顔は無敵だもの」

 

「うまくいったね、りっくん!」

 

「うん、みんなのおかげだよ」

 

 喧騒から離れたところで見守っている勇者部。計画した友奈と陸人は小さくハイタッチを交わしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御咲陸人、ちょっと付き合ってくれる?」

 

「……ん? 分かった」

 

「えぇぇっ⁉︎」

 

 翌日、いつも通り集まった勇者部で、夏凜が急に口を開いた。何故か大きく反応した美森をよそに、当人たちは淡々と部室を出ていった。

 

「何? 何なの? いつの間にあの2人はそんな関係に……」

 

「お、落ち着いて東郷さん! 多分そういう意味じゃないよ!」

 

「わっかんないわよ〜。昨日随分楽しそうにしてたし、心境の変化があったとしても……」

 

「もう、お姉ちゃん! おかしな方向に煽っちゃダメ!」

 

 姦しい勇者部部室。最終的に、誤解を加速させた美森がハチマキを固く締めて特攻しようとするのを3人がかりで引き止めるハメになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな噂の渦中の2人はというと、誰もが予想もしない展開に突入していた。

 

「御咲陸人! アンタと手合わせがしたいの。受けてもらえるかしら?」

 

「……はい?」

 

「アンタがお人好しだってのは分かった。いろいろなことを考えて行動してるのも何となく理解できる……だから後は私の気持ちの問題なの。私らしいやり方で、アンタとぶつかりたいと思ってる」

 

 この場に樹がいたら、ツッコミを入れていたことだろう。

 

――違う、ぶつかるっていうのは物理(そう)じゃない、と。

 

「お互いに変身はナシ。得物や形式は問わない一本勝負……どう?」

 

 数秒首を傾げて考えこむ陸人だったが、やがて諦めたように顔を上げた。

 

「……よく分からないけど、三好さんに必要なら俺は受けるよ」

 

「そう来なくちゃ。話が早いやつは好きよ、私」

 

 物事はまっすぐ分かりやすく。大切なものこそシンプルに。

 

 それが彼女の心情で、『勇者 三好夏凜』の強さの本質だ。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、陸人くんVS夏凜ちゃん。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに


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